早朝であるが既に肌がじっとりする程の暑さを感じる中、私達は『サマーリゾート』の門にいた。
「うふふ、見送りに来て下さいましたのね」
私達と向かい合って笑顔を浮かべるのはマホイップだ。
「まあ俺達も少ししたら『スプリングタウン』に戻る予定だけどな」
「ちょっと寂しいけどすぐに会えるわよね」
「待ってる」
『ゆけゆけズ』達の言葉を受け、アノホラグサはぴょこんと飛び跳ねた。
「……」
『ナイトスター』に加入したチルタリスは黙って『サマーリゾート』の街並みを見つめる。
「チルタリスは暫くここで活動してたんだよね。やっぱり不安かい?」
「慣れ親しんだ町を離れるのは寂しいけど……不安はないかな。ボクの傍にはドラミドロ達がいるから」
「なるほどね」
インテレオンに問われ、彼女は笑顔で答えた。
「……ルーア、改めてありがとう。チルタリスとこうしてまた一緒にいられるのが夢のようだわ」
「うん。二匹とも嬉しそうで私も良かったよ」
ドラミドロから礼を言われた私は笑顔で頷き返す。
「それでは新生『ナイトスター』、出発ですわ!」
「れっつごー」
そしてマホイップ達は勇ましく『スプリングタウン』向けて進み出すのであった。
「……行っちまったな」
「それじゃ、あたし達も負けずに救助活動頑張りましょ!」
しみじみとした笑顔を向き合わせる『ゆけゆけズ』達。彼らは今日も元気一杯だ。
「あっ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そこで私は聞きたかった事を尋ねる事にする。
「二匹がもう少しこの町にいる理由って何かな?」
「あら、知りたい?」
「くっくっく……何だと思う?」
しかし二匹は妙な笑みを浮かべてやたらと勿体ぶる。
「ええ……もうすぐカッパーランクになれるとか?」
「あぁ、そうなりてえなぁ! でも外れ!」
「答えは~」
ダメ元で答えるが間違いだったらしい。
それなら一体……。
「アシマリが『ゆけゆけズ』に加入することになったんだ!」
「…………ええっ!?」
答えの内容を理解するため数秒沈黙していた私は目を丸くした。
「あいつ、言ってただろ? 救助隊兼アイドルとして頑張ってるけど仲間が中々見つからないって。だったらいっそのこと俺達と一緒に救助隊やればいいじゃんって! 俺達アイドルは出来ないけど、何かアドバイスとか協力出来る事もあるかもしれないしな」
「ヒバニーが休んでた間、あたしもアシマリと一緒に救助に行って少しずつ息も合って来たし……ここで別れるのも勿体ないと思ってたのよね。それで『ナイトスター』にチルタリスが加入した話を聞いて同じことをやれないかって思いついたの。ヒバニーやアシマリと相談した結果、『ゆけゆけズ』も新メンバーを迎える事になったのよ」
まさか私が『無獣島』にトワを連れて行っている間にそんなことになっていたなんて。
「ルーア。彼らの事見守って良かったでしょ?」
笑みを浮かべてくるインテレオンに私も笑顔を返す。
『サマーリゾート』に来る途中で喧嘩してしまい壁にぶつかった『ゆけゆけズ』だが、諦めず高みを目指す彼らはその壁を見事に乗り越えてみせたのだ。
「だからアシマリが回復するまでこの町で待つ……って、あれ?」
続けて説明するヒバニーは途中で何かに気付いたのか、耳をピクピク動かしながら辺りを見渡す。
「どうしたの?」
「何かが聞こえるんだ、楽しくなってくるような声や音が……」
彼はそう言うと音が聞こえて来るであろう方向に向かって歩き出した。チコリータが慌てて追いかけるのを見て、私もインテレオンと共にヒバニーを追ってみることにする。
町外れを歩いていると私の耳にも音が届き始める……それは軽やかな足音だったり、声だったり、ポンポン何かが弾ける音だったり。
「ラララ~、声はお腹から~♪」
「フォフォフォ、今日の玉もいいのう」
「いっちにー、さーんしっ!」
よく通る声で歌うラウドボーン、玉乗りしながらお手玉しているベラカス、軽快なステップを踏むコジョフー……そこでは様々なポケモン達が様々な芸を練習していた。
「…何やってるのかしら、ポケモンコンテストの特訓?」
チコリータの呟きと同じ予想が頭の中に浮かぶが、そんな時ポケモン達の中にいる一匹の姿が目に止まった。
「みんな! コンディションはバッチリみたいね!」
白と黒の身体、そして青色の瞳と緑の長髪のような部位を持つポケモンが練習に勤しむ仲間達へ声がけしていた。
「あっ」
既視感のあるその姿を見て私は声を漏らした。昨晩出会ったメロエッタ…。今ポケモン達の中心に立っているのは彼女と共通する特徴を持っていた。もしや姉妹だったりするのだろうか?
「どうかしたかルーア」
「えっと、あの中心にいるポケモンと昨日会ったメロエッタってポケモンが似てて……」
「…思い出した、『メロエッタ劇団』だ」
ヒバニーに答えているとインテレオンが呟いた。
「えっ、あれがそうなの?」
「……?」
チコリータが驚くのに対し、私はその劇団を知らず首を傾げるだけ。
「様々な場所で劇や芸、歌や踊りを披露する流浪の一座『メロエッタ劇団』。都市と都市を行き来するポケモンが少ないっていう話は確かしたかな。だけど彼女達は旅をする劇団で定期的に大移動して公演場所を転々としているんだ。かなり前に『スプリングタウン』で見たけどまさかここで出会うとはね」
「噂には聞いてたけれど、初めて見るわね……」
そう話しながら見つめていると、向こうも私達に気付いたようだ。
「おや~、公演を待ちきれずに~、来てくれたのかな~♪」
力強くも優しい歌声を響かせながらやって来るのはラウドボーンだ。
「練習の邪魔をしてごめんよ。賑やかな音がしたからつられてきてしまったんだ」
「お褒めの言葉~、感謝しよう~♪」
高い声で綺麗なハミングを口ずさんでいたチルタリスとは異なり、彼の歌声はこちらの心臓にまで響きそうな低音。だが方向性こそ違えど甲乙つけがたい美しさである。
「あら、来てくれたのね!」
続けてやって来るのはメロエッタによく似た青い瞳のポケモン。
「えっ?」
しかし彼女に話しかけられた私は困惑する。私が昨日出会ったのはメロエッタであり、目の前にいるポケモンは初対面の筈である。
「……あっ、なるほどね!」
数秒黙っていた青い瞳のポケモンは合点がいったとばかりに手を叩く。
そして何やら小声で呟くとクルリと一回転。
「……ん、あれ!?」
ヒバニーが唖然として声を上げる。
それも当然……緑色の長髪のような部位と青い瞳を持っていたポケモンの姿が変化し、赤色の髪のような部位と赤い瞳を持つポケモン……昨日出会ったメロエッタになっていたのだ。
「この通り、ボクは二つの姿を持つのさ。『ボイスフォルム』と『ステップフォルム』とでも呼んで貰おうか」
メロエッタは笑顔で説明し、再び何かを唱えながら宙返りすると緑の髪……『ボイスフォルム』の姿に変化した。
「うふふっ嬉しいわ。例え偶然であっても本当に来てくれるなんて」
彼女は優雅にお辞儀をしながら喜びの意を示す。
「でもまだ公演の時間じゃないのよね? いつから?」
「お昼と夕方に一度ずつよ。夜はポケモンコンテストがあるから勉強のために皆で見に行くのよ」
「ふーん。んじゃ夕方の公演なら見に行けるかもな……救助が長引かなけりゃ」
「救助!」
『メロエッタ劇団』の公演予定を聞いたヒバニーが呟くと、突然ラウドボーンが声を上げる。
「おお~、若き救助隊~♪ 君達の無事を祈ろう~♪」
「あなた達救助隊だったのね。今日もお仕事頑張ってね」
ヒバニー達を激励するとメロエッタは再び私に視線を向けた。
「それであなたはどうするの? 練習を見ててくれたりするのかしら?」
「いや、私もダンジョンに行く予定で……」
「あらそうなの? 気を付けてね。公演に来てくれるの待ってるわよ」
「……」
私は笑みを浮かべるメロエッタとそんな会話をし、インテレオンは何故か黙って様子を見ていた。
「そろそろ戻ろうか。いつまでも練習の邪魔をしていてはいけないしね」
「あっ、そうだね」
そしてインテレオンの言葉に従い、私達は『メロエッタ劇団』の練習場所を去る事にする。
「……」
その道すがら、彼は警戒を強めたまま視線を何度も背後に向けていたのだった。
海の森林、それは海藻が海流に揺れ舞う世界。
海の花畑、それは珊瑚が海を華やかに彩る世界。
海の恵みが数多のポケモンを誘う地、『巨大珊瑚礁』。
赤や青、黄色といった色とりどりの珊瑚が周囲を埋め尽くし、その光景に私は圧倒されていた。
「どうどう? ルーアちゃんっ」
「いやもう、凄いとしか言えないよ…」
オオタチに尋ねられ、私は沢山の珊瑚を見つめたまま答える。
「同行ありがとう『エキサイト』。僕達としては非常に助かるけど大丈夫かい? 『海底の地割れ』の事とかで忙しいんじゃ?」
ここ『巨大珊瑚礁』は危険度が高いダンジョンであり、救助活動へ行くにはゴールドランク以上の実力を用意する必要がある。ダンジョン化に巻き込まれた町のポケモンをリライブし連れ帰ろうと考えたが、アイアンランクのインテレオンだけでは許可が降りず困っていたのだ。
「気にしないで、今日は救助活動をやる予定でさ。ルーア達も同じダンジョンに行こうとしてたから丁度いいやって誘ったんだ」
今日もまた大荷物を背負ったランクルスは笑顔で語る。
「丁度いい?」
「うん。実は…私達でもリライブを行うための道具の試作品が出来上がったんだよね」
「え!?」
「もう出来たのかい!?」
彼女の言葉を聞いて私とインテレオンは目を見開いた。
「ルーアがパワーを貸してくれたお陰だ。膠着していた研究の取っ掛かりが出来てランクルスも俄然やる気がアップしていた」
イルカマンはそう言い感謝の意を述べてくる。
「あくまで試作品だから念のためルーアにも来て貰いたかったんだ。何かあっても安心だからね」
もしも私がマホイップ達と一緒に『スプリングタウン』へ帰っていたら試作品のテストも行えなかったということらしい。ここで道具が上手く機能すれば本当にポケモン達もリライブが使えるようになるため、帰るタイミングを遅らせたのは正解だったようだ。
「ちなみにどういう道具なんだい?」
「うん、凶暴化ポケモンに先端を当てて体内にある悪いダンジョンエネルギーを吸収する道具なんだ。理論上は上手くいくはず……」
そう言ってランクルスはまるで採血器のようにも見える道具を披露する。
「そして実際に上手くいくかを……試そうかっ!」
そしてオオタチが素早く視線を動かした先に一匹のポケモンが姿を現した!
「またあなた達……!」
敵意を向けてくるのはピンク色をした珊瑚のようなポケモン、サニーゴである。
「またって……?」
「ここのダンジョンはゴールドランク以上じゃないと救助に来れないからねー。彼女らから見たらどうしても私達が頻繁に侵入して来る不届きものになっちゃうんだー」
困惑する私に説明しながらランクルスはリライブする道具を持って早速前に出た。
「『パワージェム』!」
宝石のように美しいサニーゴの枝から光が放たれ、近づこうとしたランクルスを攻撃!
「む、実験台になるのは嫌なのかな」
「物騒な言い方はやめようか……」
顔を顰めるランクルスに小言を言いながらインテレオンは『ねらいうち』を発射しサニーゴを撃ち抜いた。
「あうっ……!」
「インテレオンくんも凄いね、ソロでアイアンランクなんだからチーム組めばもっと上を目指せるんじゃないの?」
彼の技が相手に通用しているのを見てオオタチが『とぐろをまく』を使いながら首を傾げる。
「そうかもしれないけどね。僕は今のスタイルが気に入っているのさ」
「それもまた良いだろう! ハァァ、『インファイト』!!」
インテレオンに対し答えつつ、イルカマンが怯んだサニーゴに急接近して連撃を放った!
「くぅっ……『バブルこうせん』!」
しかしサニーゴも負けじと、『インファイト』で防御面が疎かになったイルカマンへ反撃を放つ。
「『このゆびとまれ』っ!」
「『まもる』!」
だが防御はオオタチとランクルスの得意分野だ。オオタチが『バブルこうせん』を引き寄せるとランクルスが完全に防いでみせた。
「もう一度行くぞ、『インファイト』ォォ!」
「ぎゃふんっ!」
その隙に再度イルカマンが連撃を見舞い、サニーゴは目を回して転がって行った。
これでリライブする道具のテストが行える……そう安心した瞬間。
「『ねらいうち』!」
「えっ!?」
何故か私目掛けて高圧縮の水弾を放つインテレオン。
あまりにも突然の事に反応できず動けない私へ水弾が迫り……。
私のすぐ横を通り過ぎ、岩礁へ命中。
「誰だ?」
インテレオンは黒い瞬膜に覆われた目を私の背後に向ける。
「……そう怖い顔すんなよ。後をつけた事は謝るけどな」
すると岩礁の向こう側から声が帰って来た。
私が慌ててインテレオンの隣に移動する間に、岩礁の陰から一匹のポケモンが姿を現す。
黄色の毛を持つ四本足の虫のようなポケモン……デンチュラだ。
「……何者かな? どうして私達の後を?」
いつでも戦闘を開始できるように構え、ランクルスが尋ねた。
「俺はデンチュラ、『メロエッタ劇団』の一員さ」
「!?」
彼の言葉に私は目を丸くする。どうしてメロエッタ達の仲間がこんな所にいるのだろう。
「昼から公演なんじゃ……」
「全員が全員、全ての公演に出る訳じゃないんだよ。俺は団長から依頼されてここに来てる訳さ」
思わず尋ねるとデンチュラは笑みを浮かべて説明する。
(団長……もしかしてメロエッタの指示?)
「それで……リライブする道具とか言ったか? ジャマはしないから俺にも見せてくれよ」
「……」
デンチュラがそう言って来るがインテレオンは沈黙。
「キミ達の目的はなんだ? 朝にキミ達の団長と会った時、妙にルーアに近付いていたのが気になった。それに昨晩もメロエッタがルーアに接触したと聞いてるよ」
警戒した様子でインテレオンが私を庇うように立って問う。『メロエッタ劇団』の練習場所を訪れた時、途中からインテレオンが妙に無言になったのはそれが理由だったのか。
「……はぁ、団長も軽率だねぇ」
それを聞くとデンチュラはやれやれと言った様子でため息をついた。
「だが俺から理由を話すのは野暮って話だ。直接団長を問い詰めてくれよ」
「うーん…はぐらかすなぁ……」
彼の言葉にオオタチが困ったような表情になる。確かに現状ではいまいちデンチュラを信用しづらい。
「ではこうしようか」
するとイルカマンが前に出た。
「今、お前がこの水中に居てセーフティなのはわざマシン『ダイビング』を持っているからだろう?」
「へぇ、詳しいじゃねえか」
確かにみずタイプを持たないデンチュラがどうしてこの『巨大珊瑚礁』にやって来れるのか気になっていたが、直接技を使わなくてもわざマシン自体を持ち込むことでも水中に潜れるようだ。
「一旦私がそれを預かろう。本当にクライシスなアクションをしなければ返す……で、どうだ?」
「ああ、いいぜ」
高価であろうわざマシンをデンチュラはいとも簡単に手放しイルカマンに預ける。本当に邪魔をしに来たわけではないということだろうか。
「相手はでんきタイプ……オオタチ、頼めるか」
「了解だよっ」
タイプ相性を考慮し、イルカマンはデンチュラの隣にオオタチを向かわせる。
「大丈夫なのかい?」
「まだクライシスなアクションを起こした訳ではない。真意は掴めないが不用意に事を荒立てるのはプロブレムだろう。とはいえインテレオンはルーアから離れぬようにな」
デンチュラへの警戒を解かないインテレオンに対してイルカマンは腕組みをして様子を見る事を提案。
「さーて、ちょっと話が脱線しちゃったけど。それではリライブをやってみるよ!」
その間にサニーゴへ器具を取り付けたランクルスが伝えてくる。
(これが成功すれば……『歪みの穴』現象で苦しむポケモン達を全て救うことに大きく近づく……!)
私は固唾を飲んでその光景を見守った。
リライブの道具試作型の先端をサニーゴに当てるランクルス。
そして……!
「ん……?」
しばらく見守っていると、サニーゴが目を開く。
彼女はランクルスやインテレオン達、私を見て来るが先程のように攻撃を仕掛けてこない。
「凶暴化が解けた……リライブが成功したのか!」
インテレオンが握り拳を作り嬉しそうに叫んだ。
「私……凶暴化してたの……?」
サニーゴは倒れたまま近くのランクルスに問いかける。
この様子なら本当にリライブが出来たらしいと、私は思わず笑顔を浮かべた。
「凶暴化……?」
「む?」
仲間の呟きに怪訝な表情を浮かべるイルカマン。
「いやいや……そんな訳はないよ」
ランクルスはそう言いながらゆっくりと私達の方へ向いてきた。
「この海に侵入して来た奴らを追い払うのは正当な行為だからねっ!!」
迫ってくる緑の液体状の腕。
「ぎゃっ!?」
「ぐわっ!?」
私はインテレオンと共に『サイコショック』で薙ぎ払われてしまう。
「ランクルス!? いきなりどうしたの!?」
驚くオオタチはデンチュラにも注意を配りながら一歩前に出た。
「どうしたのはこっちの台詞だよオオタチ。このサンゴ礁を荒らすような悪事を働くなんて幻滅したよ……」
しかしランクルスはそんな事を言い放ちながら『めいそう』を発動。
(これって、まさか……!?)
インテレオンに支えられ立ち上がりながら、私は嫌な予感を覚える。
「……失敗か! サニーゴを凶暴化から解除した代わりにランクルスが凶暴化してしまったか!」
イルカマンは苦悶の表情になり、『ジェットパンチ』を放った!
「『まもる』!」
しかしランクルスは水泡のグローブをシャットアウト。
「な、なんでそんな事に!?」
「分からない……だけど今はランクルスを止めよう」
困惑する私を落ち着かせ、インテレオンも戦闘態勢に入る。
確かに理由や原因は分からないが彼の言う通り、今やるべき事はランクルスを撃破し私がリライブすることだろう。
「おいおい、仲間割れかよ」
「……念のために聞くけどキミは何もやってないよね」
「当たり前だろ。ポケモンを凶暴化させるなんて悪趣味な真似、命令されてもやりたくないね」
「……そうかい!」
相変わらずデンチュラの底は見えないが、インテレオンは彼を疑う時間すら惜しいとばかりに『ねらいうち』をランクルス目掛けて発射!
「……」
だが『めいそう』でランクルスが強化されており、水弾は緑色の液体に阻まれてしまった。
「『ダイビング』!」
イルカマンは上方へ泳ぎランクルスの頭上へ移動。
「見え見えだよ……『サイコショック』!」
しかし次の行動を読んでいたランクルスは急降下してくるイルカマンを待ち構える態勢に入る。
「ほらこっちこっち! 『このゆびとまれ』っ!」
そこで動くのはオオタチだ。相手の注意を引きつけて体勢を解こうとした。
「……残念、効かない……よっ!!」
「むっ!?」
勢いよく突撃してきたイルカマンを液体の腕で真正面から掴むランクルス。散々隣で『このゆびとまれ』を見て来た彼女には引きつけが効かなかったのだ!
「えいやあっ!」
「ぬあああっ!?」
「ふぎゃっ!」
そして『めいそう』で強化されたランクルスはイルカマンを投げ飛ばしオオタチにぶつける。
「このっ! 『とんぼがえり』!」
特殊わざが通らないと判断したインテレオンはランクルスに素早く近づいて蹴りを放った。それにより緑色の液体が一部吹き飛ぶものの相手は意に介していない。
「やるね、『じこさいせい』」
「くっ……」
そう、ランクルスは回復技を持っているのだ。宙返りで戻って来たインテレオンは折角与えたダメージを帳消しにされ呻き声を漏らす。
私も見てるばかりではいけないと、ランドセルを揺すって道具を取り出した。
「いけっ!」
一つのタネをランクルス目掛けて飛ばす!
「『くうふくのタネ』か、いらない」
「あっ!」
しかしゴールドランクかつ研究を常日頃から行っているランクルスにはそのタネがどのような物かすぐに分かったようで液状の腕で弾かれてしまった。
「……なあ、何のためにタネを飛ばした?」
「へ?」
その時、突然デンチュラから尋ねられて私は思わず振り返る。
「危ないルーア!」
「わわっ!?」
だが直後にインテレオンに抱き抱えられ、そのまま彼はジャンプ。その下をランクルスの液状の腕が振り払った……彼に助けられなければまた攻撃を受けてしまっていただろう。
「おい! いきなりルーアの気を散らせる行為をするんじゃない!」
「悪い悪い、そんなつもりは無かったんだ」
着地したインテレオンが怒鳴るが、同様に攻撃を回避していたデンチュラは軽々しい様子で答える。
「で、どうだよ?」
「そ、それどころじゃ……」
再び尋ねられるものの、私はランクルスからの連続攻撃を避けるインテレオンに抱き抱えられたままで目が回りそうだ。
「ランクルスを止めてリライブ……元に戻すために決まってるだろ!」
苛立った様子でインテレオンが叫ぶ。
「……ニンゲンがポケモンのためにか?」
「そんな事関係あるか! ルーアはルーアがやれること、やりたいことを必死にやっているんだ!」
依然として質問してくるデンチュラ。インテレオンは振るわれた液状の腕に『とんぼがえり』で蹴りを入れて私と共にランクルスから距離を取った。
「……そうかよ」
そう言い、前へ出るデンチュラ。
「なら俺も一肌脱ぐか、『エレキネット』!」
「!?」
彼の放った糸がランクルスに絡みつくと同時に電撃が走った!
「チャンスだ!」
デンチュラが叫ぶとイルカマンとオオタチが一斉にランクルスへの下へ向かう!
「『サイコショック』……っ!」
それを迎え撃とうとするランクルスだが、糸で液状の腕の動きが鈍り間に合わない。
「『みだれひっかき』!!」
「『ジェットパンチ』!!」
『エキサイト』の仲間からの攻撃を受け、ランクルスの身体を覆う緑色の液が弾け飛んだ。
そして目を回して気を失った本体はイルカマンがキャッチ。
「……レスキューを頼めないか、ルーア」
「任せて」
私はイルカマン達の元へ向かうと、ランクルスを見つめる。
彼女の身体から青い光が放たれた。
「……あ」
ランクルスは目を覚ますと自らを抱えるイルカマンやオオタチに視線を向ける。
「二匹とも……ごめん。私……」
「ドンマイドンマイ! 今回は失敗しちゃったね!」
「ミスはサクセスのもとだ。何度でもチャレンジしよう」
仲間を襲ってしまった事実に視線を落とすランクルスだが、オオタチとイルカマンは笑顔で言う。イルカマンを見つめて意味ありげな笑みを浮かべた彼女は私達にも視線を向けてくる。
「ルーアとインテレオンもごめん、試作品だから念のため……ってつもりだったのに結局こうして迷惑かけちゃって」
「ううん、元に戻ってくれて良かったよ」
「ルーアの言う通りだ。だけどサニーゴの凶暴化を解いたら逆にキミが凶暴化してしまうなんて……何があったんだい?」
私も彼女が元に戻ったことを喜ぶが、インテレオンは難しそうな表情で尋ねた。
「……サニーゴの体内にある悪いダンジョンエネルギーは取り出せたけど……そのまま私に流れ込んで来たんだよ」
ダンジョンエネルギーがランクルスの中に?
「ルーアちゃんにリライブ見せてもらった時は空気中にエネルギーが出て行ってるって話だったよね?」
「うん、だからこの道具にも吸い出したエネルギーを外に放出する機能を付けてたんだよ」
緑の液を纏い直しランクルスは視線を下に移す。その先には彼女が凶暴化時に潰してしまった道具が落ちていた。
「けど放出の操作はやってない筈…」
「それは…道具の中に収めた悪いダンジョンエネルギーが勝手にランクルスに入り込んで来たって事か」
インテレオンも膝を突いて道具を観察する。
「ルーアのリライブの場合は取り出したダンジョンエネルギーが霧散している可能性もあるな。とにかくリライブ自体は出来たのは大きな一歩……チャレンジアゲインしよう」
「…うん、そうだね!」
イルカマンの激励にランクルスは固くなっていた表情を緩めて頷いた。
(……大丈夫なのかな。本当に道具でのリライブは上手くいくのかな)
もしもどうしても不可能という結果になったら。
私が…一人で凶暴化したポケモンを救わないと…。
「んじゃ俺は失礼するぜ」
その時、デンチュラが『あなぬけのたま』を取り出して言う。
「…協力してくれた事、感謝するよ。だけど尚更…キミの目的は何なんだい?」
敵意こそ無くしているものの、インテレオンは怪訝そうに問いかけた。
「それについては団長に聞いてくれ。お前らが問いただしに来るって、俺から事前に伝えとくぜ」
「待て、これを返そう!」
『あなぬけのたま』を発動して光に包まれるデンチュラへとわざマシンを投げ渡すイルカマン。
「どうも!」
そうデンチュラの声が小さく聞こえた直後、光が薄れると共に彼も姿を消していた。
「……」
「まぁまぁ。帰ったら聞きに行けばいいだけだよっ!」
「……だね。救出対象はまだ見つかってないし今はそちらに注力しないと」
彼がいた場所を黙って見つめていたインテレオンだったが、オオタチの言葉を聞くとダンジョンの先に向き直って頷くのであった。
「……お、おぉ」
夕日に照らされる『カプ・コケコのギルド』前で一匹のポケモンが声を震わせる。
「パパ!」
そんな彼……ネオラントに抱きつくのはケイコウオだ。
「……う、ううっ、グスン…」
「パパ、どうして泣くの? アタシとママが帰ってきたの嫌だった?」
「ううん、パパは嬉し過ぎて泣いてるんだよ」
あの後私達は『巨大珊瑚礁』にて、ダンジョン化に巻き込まれて凶暴化してしまった母ネオラントと娘のケイコウオを探していた。その捜索の結果は今の光景が答えだ。
「グスン…ルーアさん……妻と娘を救ってくれて本当にありがとうございます……! この御恩、絶対に忘れません!」
「うん……幸せを取り戻せたみたいで良かった」
涙塗れのまま感謝してくる父ネオラントに私は頷き返した。
彼らの苦しみを解消できたのは良かった。
けれどまだまだ多くのポケモン達が同じように苦しみ続けているのも事実。それだけではなく、ダンジョンが発生した場所に住んでいたポケモンは、生まれてきた子供達に歪んだ価値観を教えてしまっているのだろう…凶暴化の影響で。
(凶暴化とリライブの研究がまた停滞しちゃったら……苦しむポケモンがなかなか減らないどころか悲しい争いがどんどん増えて……)
「ん?」
隣にいたインテレオンが振り返る。
そこにはメロエッタが立っており、ネオラント達の様子を愛おしそうに眺めていた。
「素晴らしいわね、劇では再現できない感動の再会だわ」
「何故ここに?」
笑顔で言うメロエッタに対してインテレオンが私を守るように立ち塞がり尋ねる。
「デンチュラから話を聞いて会いに来たのよ。だけどそろそろ夕の公演が始まるから是非見て行ってくれないかしら? 話はその後にしましょう」
「……ルーアはどうしたい?」
「え、うーん……」
確かにデンチュラに尾行を指示していたり、昨晩の私への接触が意図的なものだったりなどメロエッタ達に怪しい点があるのは事実である。だがメロエッタ達自身がその理由を話すつもりなら……。
「行ってみようかな……」
もしかしたら彼女達に何か悩みがあるのかもしれない。それこそ凶暴化に関するものでどうにか力を貸して欲しかった、という内容の可能性もある。
「そうかい、それなら行こうか」
「ありがとう。それじゃあ町の東広場で待ってるわね」
メロエッタはそう言って足早に立ち去っていく。公演の準備中で忙しいのにわざわざ私達の元まで来たのだろう。
「じゃあ僕達も……」
「カプ・コケコ様、そろそろ行きましょう」
「『メロエッタ劇団』か、楽しみだねー」
立っていた私達の隣を通り過ぎ、ギルド長のカプ・コケコと『黄護島』からやって来たキレイハナがギルドの門を抜け去って行った。
(……カプ・コケコも楽しそう。一匹だけでも故郷のポケモンが凶暴化から解放されて、こうして会いに来てくれたのが嬉しいのかな)
微笑ましく思っている私の隣ではインテレオンが顎に手を当てて何かを思案していた。
「……デンチュラはルーアをニンゲンだと把握してた……もしかしてその情報を与えたのは……」
「インテレオン?」
「あ、いや。行こうか」
私が声をかけると彼は笑みを浮かべ、公演場所に向けて歩き出すのであった。