※この作品はR-18です。

裸の少女とポケモンだけが住む世界   作:Momyaka

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Chapter3 ~ポケモンとニンゲン~

 

「ん…」

 私は身を捩り緩慢と目を開く。

 

 視界に映る窓の向こうでは明るい青色の空が広がっていた。朝の清涼な風が吹き込み、私の寝汗を優しく乾かす。

 

「……」

 いつもだったら窓は閉めて寝るので、いつもとは違う体験。周りにあるのは、いつもとは違う部屋。そして私自身もほぼ裸だったり、手錠を掛けていたり、いつもと違う格好。

 

 もしかしたらと、少し思っていた。

 でも、甘くなかった。

 

(昨日のことは悪夢なんかじゃなくて…現実なんだ。一度元の世界から逃げたいと願ったのに、新しい世界からも逃げたいなんて、虫が良すぎるって事なんだろうな……)

 

「……迷惑かけないように、また一日乗り切ろう…」

 後ろ盾なんて無いのだから…。

 

 怒らせないように、嫌われないように…。

 

 

 

「あれ……」

 一階に降りた私は、インテレオンの姿がないことに気付く。

 

 代わりに残されていた書置きに視線を落とすと、彼は既に救助隊としての活動へ向かったことが記されていた。また、私には自由に過ごすようにと書かれている。

(そんなこと言われてもやる事なんて…)

 そう思った所で私はある事を思い出した。

 

 ヒバニー達から今日、誰かの所へ行こうみたいなことを言われていたという話。

 

 誰だったかまでは思い出せず、私が了承したわけでもなく向こうから一方的に言ってきただけではあるが、だからと言って別に用事がある訳でもないし、何より彼らに悪印象を与えたくない。

 私は用意されていた朝食を手早くとると、外へと足を運ぶ。

(でもあの二匹、どこいるんだろ……?)

 中心部に行けば出会えるかもしれないと考え、私は巨大な桜の木を目印に移動を開始。

 

 

 

「……うう」

 昨日と同じく、『スプリングタウン』中心部の大通りでは多くのポケモンが行き来していた。そんな中に裸で踏み込むなど、やはり恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。最後に『ゆけゆけズ』と別れた医療所の近くで立っていたが、ヒバニーもチコリータも見つけられない。

 

(もしかするとインテレオンみたいに救助活動に行ったのかな?)

 一度戻って昼下がりに出直そうか、などと考えていると通りの先から元気な声が響いてきた。

「はーい!今日も開店しました、ドデカバシマラサダショップ!」

 視線を向けると、通りに面する一つの露天にて大きな嘴から張りの良い声を上げる鳥ポケモン、ドデカバシがいた。聞き慣れないマラサダという単語だが、商品として揚げパンのようなものが並んでおり、あれを指しているようだ。

 

「……おいしそう」

 この世界に来てからというもの、果物や木の実ばかりしか食べておらずドデカバシの前に並ぶパンが魅力的に見えてきてしまう。

 

 ……しかし。

 

「お母さん、カクレオンのお店で何買うの?」

「リンゴ。もしグミが入荷してれば一緒に買っておきたいね」

「今日もまあまあの量のオレンの実が採れたなぁ、出荷頼むよ」

「了解っス、師匠!」

 どうやらこの世界のポケモン達の食性は果実類が主で、マラサダなるものに馴染みがないのかドデカバシのお店には誰もやってこない。

 

「……と、とっても美味しいマラサダ如何ですか~!」

 彼の大きな声も虚勢に見えてきてしまい、見ているこちらまで辛くなってくる。

 

「あっ!こんな所にいた!」

 

 その時、私の耳に聞き覚えのある声が届いてきた。

「ミミッキュの宿に行っても、宿泊してないって話だったから探したのよ!もう…」

 『ゆけゆけズ』の二匹、ヒバニーとチコリータが怒っているような安心しているような様子で駆け寄って来る。

 

「ご、ゴメン。親切なポケモンに泊めて貰って……」

「まぁ、単独で町から出て行ったとかじゃなくて良かったわ」

「合流出来て良かったぜ。それでルーア、今から少し俺達に付き合ってくれないか?」

「確か昨日、誰かに会いに行くみたいなことを言ってたっけ」

「あっ、もしかしてそれでわざわざ中心部まで来てくれたの?ありがとう。この町で本屋を営んでるヤレユータンに会いに行くのよ」

「あのお婆ちゃん、すっごい物知りでな!もしかしたらルーアのことも何か知ってるかもって踏んでんだ!」

 そんな会話をしながらしばらく通りを歩いていると、大木を繰り抜いたかのようなツリーハウスの前でヒバニー達が立ち止まった。

 

「ここが『ヤレユータンの本屋』だぜ。開いてるかな?」

ヒバニーは扉を開き、中を覗き込む。

 

 

「おやいらっしゃい。また冒険譚でも読みに来たのかい?」

 

 

 温厚な笑顔を浮かべ出迎えるのは霊長類型のポケモン、ヤレユータンだ。

「今日は別件。ねえヤレユータン、質問したいことがあるのだけれど」

「それはそれは。どんなことが知りた…おや?」

 ヤレユータンは店内に入った私を見るとキョトンとした表情になる。

 

「ああ、こいつはルーア。昨日『清流森林』で救助したんだけど、俺達初めて見る奴で」

「……それでこの子自身は自分をニンゲンだって言うのよ。ねぇ、何か知らない?」

 二匹の話を聞いたヤレユータンは目を細めて私をまじまじと見つめる。

 

(そんなに見られると恥ずかしい…)

 

「おや、不躾に見てごめんよ。確かにこんな子を実際に見るのは私も始めてだねえ。ルーアと言ったかい、ニンゲンというのは冗談ではなく本気ということでいいのかい」

「え、えっと、うん。その、つもり」

 彼女は暫し思案すると、ゆっくり立ち上がると壁の本棚から何かを探し始める。

 

「よっこらせ…ニンゲンが出てくる本はどこだったかね……」

「私達も手伝うわヤレユータン」

「えーっと、これは違う……これも……この棚にはねえのかなぁ」

 ポケモン達が本棚を確認し始めるのを見て、私は自分だけ突っ立っているだけであることに焦りを感じる。私に関することを調べようとしているのに…。

 

「わ、私も…」

 そう呟いて、彼女らとは別の本棚へと歩み寄った。

 『約束のリンゴ』、『僕の世界はドダイトス』、『爆炎戦士ブーバーン』……。

 

 背表紙のタイトルだけでは判断がつき辛いものの、私の現状と繋がりがありそうな書物は見つからない。左から右へ視線を動かし、また上の段の左から右へ……。

 

 

 

 『月』。

 

 

 

「……?」

 そこまで異質ではないタイトルの本に、何故か視線を留めてしまう。

 

「これなんかどうかね…よいしょっと」

 しかしヤレユータンが目的の本を見つけたらしいので、私は先程の本のことを忘れ彼女の元へ戻ることとする。

「えっと、『ニンゲンの恵み』?」

「それじゃあ、読み聞かせでもしようかね」

 首を傾げるヒバニーに対して笑顔を向けながら、ヤレユータンはページを捲る。

 

****************************************************

 ある洞穴で、ポケモン達が身を寄せ合って暮らしていました。その日は息が白くなるほど寒く、水溜まりも凍るほど。

「寒いなあ、寒いなあ」

「火が欲しいな。でもほのおタイプの友達はいないよ」

「おしくらまんじゅうでもしようかな」

 ポケモン達は皆で身体を動かし、温まろうとします。しばらく楽しい声が洞穴の中だけでなく寒い外へも広がりました。

 

「僕、疲れちゃった」

「私も。もう動けない」

「困ったなあ、困ったなあ」

 だけどずっとは動けず、皆疲れ果ててしまいました。折角温まった体もまた冷えてきます。

 

「やあ。楽しい声がしてたのは、この穴かな」

 ポケモン達に、知らない誰かが話しかけてきました。知らない誰かは洞穴の入口で細長い脚で立っています。

「うわあ、あなたは誰?」

「驚かせてごめんね。私はニンゲン。あんまり楽しそうなものだからつい誘われて来ちゃった。キミ達はダンスでも踊っていたのかな」

 沢山の荷物をその場に下ろしながら、ニンゲンは答えました。

 

「違うよ。おしくらまんじゅうで温まろうとしてたんだ」

「おや、今はやっていないということは疲れてしまったのかな」

 ポケモンが悲しい顔をすると、ニンゲンも悲しい顔をします。

 

「それじゃあ、楽しい声を聞かせてくれたお礼に、ここを温かくしよう」

 ニンゲンはそう言うと、細長い腕で乾いた木材を取り出し床に置きました。

「ちっとも暖かくないよ」

「焦らないで、これをこうすると。ほらっ」

 続けて取り出した小さな棒と小さな箱を擦らせるとあら不思議。暗くて寒い洞穴の中にユラユラ揺れる火が生まれました。ニンゲンはその火を木材に当てます。すると火は炎となり、洞穴の中を暖かくしました。

 

「わあすごい、暖かい。」

「あなたはほのおタイプのポケモンだったんだね」

「ポケモンじゃなくてニンゲンだよ」

 温まったポケモン達に笑顔が戻り、ニンゲンもまた笑顔になりました。

 

 

 次の日の朝。

 

 ニンゲンは役目を果たす旅に戻るといい、ポケモン達は困ってしまいます。また寒くなったら、ニンゲンに助けて貰えないのですから。

「凄いニンゲンさん。行かないで」

「私は凄くなんかないよ、道具を使っているだけなんだから」

 引き留めようとするポケモン達に、ニンゲンは小さな箱を渡します。箱の中にはたくさんの小さな棒が入っていました。

 

「さあ、棒を手に持って。箱に擦って御覧」

 ニンゲンに言われた通りにすると、なんと昨日と同じように火が点きました。

「だけど、火の点く棒はいつか無くなっちゃうよ」

「そうだね。それならもっと作れるようになればいい。それを扱えた君たちになら時間が掛かっても出来る筈。作れるようになるまではこれを使うといいよ」

 俯くポケモンの頭に、ニンゲンはキラキラ光る円盤を優しく乗せます。

 

 するとなんということでしょう。ポケモンは炎を吐けるようになっていたのです。

 

「キミ達は自力で技を使えて素晴らしい。だけどそういう道具も使いこなせるようになればもっと凄くなる」

 そう言ってニンゲンは今度こそポケモン達の傍から離れていきます。

 

「ありがとう、ニンゲンさん。また会える?」

「さようなら、ポケモンの皆」

 

 ポケモン達はニンゲンの言う通りに従い、長い時間を掛けて、道具を作れるようになりました。それだけではありません。町を作り畑を耕す術も得て、暮らす場所にも食べ物にも困らなくなりました。

 

 ニンゲンは二度とポケモン達の前に姿を現しませんでした。

 

 それでもポケモン達は、寂しくても泣きませんでした。

 

 ニンゲンのくれた恵みを元に、自分達だけで生きれるようになったのだから。

****************************************************

 

「ふーん、俺達が道具を使えるのはニンゲンに教わったからって話かー。そういう御伽噺もあったんだなぁ」

「教訓として伝えたいのは、誰かに助けられた後どう行動するかって事でしょ。ニンゲンが出てくるのはあくまでお話のエッセンスじゃないかしら」

「物語自体の信ぴょう性は置いておいて……この挿絵をみてごらん」

 首をひねる『ゆけゆけズ』に対し、ヤレユータンはとあるページにある絵を指さす。

 

 それは物語の登場人物であるニンゲンの自己紹介シーン。

 

「……あ、これ……身体の構造とかがなんとなくルーアに似てるような……」

「全体的に細身で長くって、耳とか口とかのパーツも近いぞ……」

 驚いた様子で挿絵と私を交互に見るヒバニー達。

 

「そうだねぇ。この本を作った古代のポケモンが想像で描いていたと思っていたけれど、こうしてニンゲンと名乗るルーアと出会うと偶然とはとても思えないのさ」

 頷いてヤレユータンは本を閉じた。

「それじゃあルーアは……」

「本当に、ニンゲン……」

 そしてヒバニーとチコリータはそう零しながら私を見上げてくる。

 

 ようやく信じてくれたのかと安心しかけたその時。

 

「す、すっげえええ! 創作だと思ってたニンゲンがこの世界に本当にいたのかぁ!」

「これって凄い大発見よ! ルーア、あなたどこから来たの!? そこにニンゲンが住んでるって事でしょ!」

 

「えっえっ!? そもそも私……こことは別の世界から来た……」

 目を輝かせる二匹の勢いに押されながら私は答えた。

「別の……」

「世界……」

 その途端、彼らはピタリと動きを止める。私はまた疑われるのかと、冷や汗を垂らしながら身構える事に。

 

「その……私のいた世界では人間とポケモンは言葉での意思疎通は出来なくて……」

「そんな馬鹿な……と言いたい、けど。ニンゲンって話も嘘じゃなかったし……」

「もうここまで来たら信じるしか……無いわよねぇ」

 彼らは顔を見合わせた後、疲れたような表情を浮かべながら呟いた。

 

「ニンゲンに加え別の世界から……不思議なこともあるもんだねぇ。まあ少なくとも悪い子ではなさそうだし少し休んでこれからを……」

「……あ!もう一つ聞きたいことがあるの」

 本を棚に戻そうとするヤレユータンに対し、チコリータが呼びかける。

 

「ダンジョン化に巻き込まれたポケモンが凶暴化することなんだけど、それを元に戻す手段が……」

「悪いねえ、知っていたらとっくに救助隊連盟に……」

 

 

「そうじゃなくてルーアのこと! もしかしたら彼女、凶暴化ポケモンを元に戻す力を持ってるのかもしれないの!!」

 

 

 え?

 

 

「ちょ、ちょっと! チコリータ……何言ってるの! マンキーやエネコロロを元に戻したのはあの不思議な青い光で……」

 突然意味の分からないことを言われ私は狼狽する。

 

「それのことだよ! 俺達今まであんな青い光……ましてや凶暴化の解除なんて見た事なくて。だけどルーアと出会って、一緒にいた時だけあれが起きたんだ!」

(そんなこと言われても、私は何もやってなくて……)

「ヤレユータン、ニンゲンがそんな力を持ってるみたいな話……物語とかでもいいの。知らない?」

「……いや、初耳だよ……それより本当、かい? 本当に凶暴化ポケモンを戻せるのかい……!?」

 

 今までずっと落ち着いていたヤレユータンが顔を強張らせ、私に近寄って来る。

 

「わ、わた……本当に……知らない……!」

 私は必死に首を振る。

(私はただの人間だよ……皆と……皆と変わらない……!!)

 

 そう信じたいのに……身体が傷つかなくなってたり、手錠と神経がリンクしてたり……。

 

 その上、そんな力まで持ってるなんてなったら……。

 

(私はもう人間とは全く違う存在って事に……!!)

 

 

 

「誰かぁぁ!」

 大通りから聞こえてくる叫び。

 悲痛なその声は只事ではないことを嫌でも一同に理解させる。

 

「な、何!?」

「行ってみよう!」

「……どれどれ」

 救助隊『ゆけゆけズ』は真っ先に本屋から飛び出しヤレユータンも思いつめた顔で一度私を見るものの、同じように外へと向かって行った。

(……私も、行かないと……)

 

「……っ」

 

 

 

「誰か私の息子を見ませんでしたかぁ!?」

「どうしたんだよ、何かあったのか!? 俺達は救助隊だ!」

 本屋前の通りにて騒いでいるポケモンの下へヒバニー達が駆け付ける。

 

「もしかして知っているのですか! 私の息子がどこへ行ったのか!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて頂戴!」

「ああ! 一体どこへ!」

 涙を流し騒いでいるドデカバシだが、パニック状態故に話の要領を得ない。彼が道の中央で羽ばたきまわることで周りのポケモン達も困っている様子だ。

 

「失礼するよ」

 そこへ臆せず近づいていくのはヤレユータン。

「え、何するつもり?」

「よいしょ」

 彼女はドデカバシの身体に手を触れると目を閉じる。

 

「ふむ、なるほど……ほお、それは大変だね」

 一体何をやっているのかと私が疑問に思う間に、ヤレユータンはヒバニー達に視線を向ける。

 

「『テレパシー』で少し彼の言いたいことを読み取ったよ。どうやら彼が店におる間に、息子のツツケラが姿を消してしまったらしいね。慌ててスプリングタウン中を探し回ったが見つけられていないようだ」

「すげえ、そんなことが……って、それ迷子って事か!」

「行方を知ってるポケモンがいても、ドデカバシのパニックぶりに尻込みして情報を伝えられてないって可能性は充分ありそうね。こういう時のための救助隊、聞き込み調査するわよ!」

「おう!」

 ヤレユータンから事情を聞いた『ゆけゆけズ』はツツケラを探すため通りを走って行った。

 

「ツツケラぁ! どうしていなくなってしまったんだぁ!」

「安心なさい、きっとあの子達が見つけてくれるさ」

「……」

 そんな様子を離れた場所から見ていた私は重い足取りで移動を始める。

 

 

 あの二匹は聞き込みを始めたみたいだけど、私は正直手を引きたい……。

 こんな変態な姿で町の中を走り回るなんて嫌だし……。

 ……自分から知らない相手に話しかけるなんて無理だ。

 

(だけどこのまま何もやらなかったら嫌な思いさせるかな……)

 

 ……自惚れるな、こんな私に期待なんかしてる訳ない。

 何かやっても何もやらなくても、何も変わらない。

 

 ……孤独なまま、理解されないまま、何も変わらない。

 

 

「すみませーん、そこの方!」

「……え」

 通りのすみっこを歩いていた私の前に立ち塞がるポケモン達。

 

「えーと、頭が銀色、顔と身体が薄橙、脚が黒。『ゆけゆけズ』さんの言ってた通り!」

「あなたが『ゆけゆけズ』さんと一緒にマイナンの救助をして下さったルーアさんですよね!」

 片方は『清流森林』にて救助されたマイナン、隣にいるのはプラスル。

 

 ……おそらく『ゆけゆけズ』へマイナン救助の依頼を出したのがプラスル、といったところか。

「そうだけど……何か用事?」

「はい! 実は私達、あなたにもぜひお礼がしたくて!」

「『ゆけゆけズ』さんが言ってました。あなたがいなければ救助失敗していたと! 本当にありがとうございます!」

 私を見上げて、そう感謝の言葉を述べるマイナンとプラスル。

 

「……別にそんなんじゃ……何も出来なくて、時間稼ぎ程度しか……」

「ネガティブな考えは心に悪いですよ!」

「それじゃあポジティブになれるよう得意の応援しますね!」

 おうえんポケモン達はそう言うと、いきなり私の周囲を跳ねまわりだす。

 

「えっ……何、何!?」

「凄いぞ凄いぞルーア♪」

「最高最高ルーア♪」

 更に火花のボンボンを出し華やかな応援を続ける。

 

 当然それは通りの端であっても大いに目立ち、行き来するほかのポケモン達の視線も集まった。

(は……恥ずかしい恥ずかしいぃ!!)

 私は顔を真っ赤にし、身体を捩る。

「ナイスファイト♪ ルーア♪」

「グッドレスキュー♪ ルーア♪」

「も、もういいもういい! もう充分!」

 どんどんエスカレートする二匹の応援に耐え切れず、私は脇道へ逃げ出した。

 

 

 

(ま、まさかあんないきなり目立つ羽目になるなんて…!)

 ポケモンの気配がない場所で立ち止まった私は荒く呼吸をする。

「……そ、そんな。濡れちゃってるぅ……♡」

 視線を落とすと股間から愛液が垂れてしまっていた。一度意識してしまうとどんどん性欲が溢れてくる。

(どうしよう、止められない。誰も見てないしここでオナニーしちゃおうかな…)

 辺りを見渡すが、昨日のオナニーで使った木箱のような丁度良さそうなものが無い。

 

「ああっ……気持ちいいの……♡ 欲しいぃ♡」

「分かりました!」

「私達の電気、流しますね!」

 快楽に身を任せ口走る私に答えるマイナンとプラスル。

 

 追って来ていたのかと凍り付く私の二の腕へと、両サイドから彼女らが飛び付いてくる。

「マイナス電流!」「プラス電流!」

「ふぁ……ふああああああああっ♡♡♡!!??」

 両側から電流を流され、私は悲鳴を上げて尻もちをつく。

 

 痛いわけではなく、むしろマッサージでコリをほぐされているような感覚。

「あひぃっ♡ こ、これすごいぃぃ♡」

 しかし私の意識は股間に集中する。マイナンたちの電流により、どういう訳か私の膣内にあるバイブの振動が強まっているのだ。原理など今の私には考えられず、ただただ激しく動くバイブに蹂躙されるだけ。

 

「あーっ♡! 気持ちいい気持ちいいぃぃぃ♡♡♡!!!」

「うわー、ルーアさん凄い喜んでくれてる」

「よーし、もっと頑張ろうマイナン!」

 嬌声を上げる私に対し二匹は更に電流を強め、それに呼応しバイブもどんどん強まる。

「んはぁっ♡ ああんっ♡」

 目にハートを浮かべ、私はだらしなく腰をガクガク動かす。脳だけでなく膣も大喜びしているのか、愛液がドロドロ垂れていた。自分のペースで刺激を調節できた角オナと違って、こちらの意思に関係なく無理矢理刺激を与えられる。

 

 逃げる事も止める事も強める事も出来ない! ただひたすら快感に嬲られるしか出来ない!

 

「あああぁぁぁ♡ 幸せぇ♡ わたひぃ、ひあわせぇ♡」

「そんなに喜んでくれて私達も嬉しいなあ」

「もっとサービスしちゃうね!」

 イキかけの私の傍で、マイナン達から火花が飛び散りだす。

 

「私達の電流っ♪」「いっけぇぇぇ♪」

 

「イクゥゥゥゥゥ♡♡♡!!!」

 

 バイブに膣内を滅茶苦茶にかき回され、遂に限界が訪れた私は盛大に潮噴きした。

「いい笑顔だねルーアさん」

「どうだった私達の電流?」

 私の前に立ち、笑顔で尋ねてくるマイナンとプラスル。

 

 それは、当然……。

 

「……最高だったぁ♡」

 蕩け切った顔で答えた。

「えっへへぇ。良かった、ルーアさん喜んでくれて」

「貧乏なりに恩返しできたね、それじゃあね!」

 マイナン達が去っていくのを見届けた後、充足感に浸りながら私はその場で倒れる。

 

「あぁ……バイブ……元の微振動に戻っちゃったぁ……♡ きっとまたすぐに欲情しちゃうぅ♡」

 バイブの振動を味わいながら、他に誰もいなくなった路地で私はいやらしく身を捩り続けるのであった。

 

 

 

「おや、どこにいたんだいルーア」

「少し用事で……」

 あの後しばらくしてから通りに戻って来た私を呼び止めてくるヤレユータン。

「『ゆけゆけズ』の二匹が探していたよ。もう行ってしまったけれどね……」

「……」

 おそらくツツケラの行方が分かったので救助に向かったのだろう。私を探していたということはダンジョンに連れて行こうとした可能性が高い。あの二匹は、私が不思議な青い光を出した張本人だと思っているのだから…。

 

「……そうだルーア。あの二匹が言っていたこと……凶暴化ポケモンを元に戻せるという話は……」

「……知らない、私何もやってない……」

 縋るような目で尋ねてくるヤレユータンに、首を振って返す。

(私は本当にただの人間で……)

 

 

「凶暴化ポケモンを元に?」

 

 

「え」

 ヤレユータンとは異なる声に私は驚き振り向いた。

 

「今のは聞き捨てなりませんわね、ヤレユータンさん」

「あんたは『ナイトスター』のマホイップじゃないか……どうしてこんな所に」

 可愛らしい顔をしながらこちらへ歩み寄って来るマホイップ。しかしその表情は真剣そのもので、私は思わず立ち竦んでしまう。

 

「今日の救助はドラミドロとアノホラグサに任せて、私は町で困っているポケモンを探してましたの。それよりも先程の……」

「おおっ、マホイップちゃんだ。相変わらずキュートだなぁ」

「それに本屋のヤレユータンも。珍しい組み合わせだね」

「あそこにいるのは……何のポケモンだろう」

 

「……ここで話すのはリスクがありますわね。二匹とも、カフェに行きませんこと?」

 こちらに視線を向けてくるポケモン達から離れる為か、明るい声で提案して来るマホイップ。

「……あたしは構わないよ」

「そ、その……用事……が」

「……カフェに行きませんこと?」

 逃げようとした私に、彼女は笑顔を向けてくる。

 

 

 

「あらいらっしゃい、三名様ね。テーブル席へどうぞ!」

 『ガルーラのカフェ』にほぼ強制的に連れて来られた私は、なし崩しのまま席に着くことに。

「モモンドリンクをお願いしますわ」

「チーゴとオレンのブレンドを頼むよ」

「……水」

「私のお勧めはとっても甘いモモンドリンクですわ」

「…………」

「モモンドリンクもう一つお願いしますわ」

(怖い怖い怖い……!!)

 マホイップは私を壁際の席に追いやり、逃げ道を塞ぐかの如く隣に座って笑顔を向けてくる。

 

「私、お金ないんだけど……」

「んぐんぐ……ご心配なく。全員分、私持ちで結構でしてよ」

 テーブルに置かれたドリンクを前に呟くが、彼女は早速飲み始めながら答える。

 

「あんた、随分と無理矢理するんだね。インテレオンを何度もチームに誘ってるって噂だけど、その時はあまり手荒な手段は取っていないとも聞いているよ」

「彼に嫌われてはいけませんもの、救助はチームワークが大事なのですから」

 それはつまり私には嫌われても構わないという意味だろうか……。

 

「あら怖い顔。甘いものでも飲んで落ち着きましょう」

「んぐぐぐっ!?」

 無理矢理モモンドリンクを流し込まれ、私は息が詰まりそうになる。

 

「それでヤレユータンさん、凶暴化ポケモンを元に戻す……という話ですけども。もう少し深く伺ってもよろしくて?」

「生憎あたしも『ゆけゆけズ』から聞いただけでね。その子達が言うにはこのルーアが『清流森林』で凶暴化ポケモンを元に戻したらしいんだよ」

 私が咽ている間に、マホイップは先程の会話を始める。

 

「信じがたい話ではあるけれど、あの子達が嘘をつくとも思えないのさ…」

「……本当ならとんでもないことですわ。何年かけても糸口すら掴めなかった凶暴化への対処法が見つかったという事ですから」

「しかしルーア自身は知らないと否定しているし……まだ若いあの子達が興奮して勘違いしている可能性だってゼロでは……。しかし、『あの子』が元に戻る可能性を捨てたくは……」

 

 指を組んで苦い顔をするヤレユータン。

 

「……っ」

 彼女の顔を見て私は心苦しくなってくる。この様子からすると、もしかして彼女に近しかったポケモンが……。

 

 

「では確かめに行ってきますわ」

「え……?」

 そう言って席を立つマホイップ。

 

 

「丁度『芽吹きの洞窟』にて石材を採って来て欲しいという依頼を受けていた所ですの。そこでルーアについて来て貰い、凶暴化ポケモンが元に戻るか確認しましょう」

「な、何言って……何回も言ってるけど、私にはそんな力……」

 勝手に話を進める彼女に、私はたまらず拒絶の意思を示す。

 

「自分ではないと言うのでしたら、尚更来て頂くべきだと思いますわ。ルーアの言う通り凶暴化ポケモンが戻らないのであれば、『清流森林』を積極的に調査するという方向に舵を切れますし」

 そう言われ、私は反論できなくなってしまう。

 

(逆に凶暴化ポケモンが元に戻ったら私は……どうなるの……?)

 

「あんたの実力なら『芽吹きの洞窟』でやられはしないだろうけど……くれぐれも護衛失敗なんてならないようにね」

「お任せ下さいませ」

「……」

 まさかこんな事になるなんて。

 

 

 

 ヤレユータンと別れた後、私を連れて通りを進むマホイップ。このままダンジョンまで行くのかと思っていると、彼女は交差点の角に置かれた赤紫色の箱に近寄る。

「ええと。『あなぬけのたま』、『オレンのみ』、『リンゴ』、『いしのつぶて』……念のため『しばりだま』、『ラムのみ』、『プチふっかつのタネ』……こんな所かしら」

 

 すると驚くことに、突然箱を漁り勝手に様々な道具を自らのポーチへと入れていってしまう。

「え、ちょっと……勝手に漁っていいの……!?」

「……? あ、もしかしてご存じなくて? こちらは『預かりボックス』。道具やポケを預かってくれる箱で、今取り出した道具は全て『ナイトスター』のものですわ」

 私の制止にマホイップは一瞬怪訝な顔をするも、すぐに合点が言った様子で回答して来る。

 

「……? つまりこの箱は『ナイトスター』が管理してるってこと?」

「いいえ、この箱には全ての救助隊がお世話になっている筈ですわよ。ですけど……例えばインテレオンさんがこの箱に入れた道具は私には取り出せませんし、逆もまた然り。セキュリティは万全ですの」

 赤紫色の箱をペチペチ触りながら説明してくるものの、私は訳が分からなくなってしまう。

 

「ど、どういうこと? だってどう見ても普通の箱で……」

「私も原理までは。ダンジョンで出土した不思議な箱ですもの」

 私は箱の中身を覗き見ようとするが、真っ暗で何も見えない。彼女の話が本当であるならば、私の世界にあるポケモンボックスや銀行に似た顧客管理機能をこの箱が持っているらしい。しかし元の世界のそれらは機械で実現しているのであり、目の前にある箱はどう見ても陶器のような質感で……。

 

「皮肉なものですわね。ダンジョンに苦しめられている一方で、そこで見つかったものをこうやって生活に組み込んでいるのですから」

 再び歩き始めながら小声で呟くマホイップ。

 こちらに背を向けていて彼女の表情を窺うことは出来なかった。

 

 

 

 続いて立ち寄ったのは緑色をした半球状の建物。看板を見ると『ネイティオテレポート屋 スプリングタウン支店』とある。

「失礼しますわ。二匹『芽吹きの洞窟』まで」

「承った」

 緑色をした一頭身の鳥ポケモン、ネイティにポケを支払うマホイップ。

 

(テレポート屋……『芽吹きの洞窟』まで……それはつまり……)

「ではご武運を。『テレポート』!!」

 ネイティが放った光に包まれ、覚えのある浮遊感がやって来る。慣れない感覚を必死に耐えつつ、私は早くこの浮遊感が終わる事を願うのだった。

 

 

 

 暫く経過すると、ようやく足に地面の感触が戻ってくる。光が収まると私達の周囲は林に変わっていた。救助隊はこうやってテレポートでダンジョンに飛ばして貰い、救助を行うのだろう。

「あそこが今回の目的地ですわ」

 マホイップが指さす先……地形が不自然に盛り上がった場所に穴……『芽吹きの洞窟』の入口が存在している。

 

「さあ、私が先頭に立ちますのではぐれないようについて来て下さいな」

「……うん」

 ここまで来てしまった以上逆らう訳にはいかない。

 

 

 

 私は不安を胸に宿したまま、この世界に来てから二つ目のダンジョンに突入するのであった。

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