巨大化したダンジョン『颶風の砂漠』にて発生した、黒と紫の靄の大量噴出。その異常事態へ対処するため、私は『ゆけゆけズ』や灰色のニンゲンのオーマと共にダンジョンへ突入していた。
ダンジョン特有の入り組んだ地形により生まれた通路を進む私達。この辺りは砂よりも岩が大部分を占めており、所謂岩石砂漠のような地帯らしい。
「ネイティオ達の話じゃ巨大化前……最初のダンジョン化で『颶風の砂漠』に変化した地域は砂丘が多くて砂嵐もよく起きるって話だったよな」
「ええ。それに黒い靄も充満してるかもしれない……要警戒ね」
ヒバニーに答えながらチコリータはしきりに上空を確認している。ダンジョンの外では青空が見えていたが、そこまで進んでいないのに既に風で舞い上がった砂が空を濁った黄色へと変貌させていた。
そして彼女が気にしているのは、その中に黒い靄が混じっていないかどうかだ。
「ヒバニー、少しでも違和感があったらすぐに止まって頂戴」
「おう、任せとけ!」
先頭を歩くヒバニーとそのすぐ後ろに位置するチコリータが息の合ったやりとりを見せる。
「ねえルーア」
その時、最後尾を進むアシマリに話しかけられ私は振り返った。
「なんか汗が凄いけど……平気? 無理してない?」
「え、えっと。暑いからかな♡」
この砂漠はまるで『サマーリゾート』周辺のような熱気でジリジリしている。湿度は低いためにムシムシした空気ではないものの逆に焼き付けるような暑さだ。そんな中でずっと歩いているため汗が出るのは当然ともいえるが……それ以上にクリトリスを締め付けるリングの快感が強すぎるのだ。
「おひっ……♡」
そしてそれを自覚してしまった以上、私の意識はずっと溢れていた性欲に呑み込まれることに。
「ルーアっ!?」
驚いて声を上げるアシマリの前で私は身を丸め身体を震わせる。
「ど、どうした!?」
「大変!」
ヒバニーとチコリータも目を丸くして近寄って来た。
(ほ、欲しい……気持いいの、欲しい……!)
性欲に抗えない私は必死に手錠で拘束された手を伸ばそうとするが、股間に指が届かない。
「……ちょっとルーア、こんな所でも発情するんですか……!?」
オーマも焦った様子で私の顔を覗き込んでくる。確かにここはダンジョンの真っ只中で、そこで欲情してしまうなんてまともではないだろう。
それでも……。
「お願いオーマ……クチュクチュしてぇ……♡ 壊れそう……♡」
腰を地面に落とし、M字開脚した私は変態な要求を口にしてしまった。
「……あ、ルーアのこの表情、思い出した! ルーア、回復したいんじゃねえか?」
「すっかり忘れてたわ! きっと、ずっと回復できないままだったんだわ、待ってて!」
しかしそれに反応したのはヒバニー達だった。思い返してみると『スプリングタウン』から『サマーリゾート』へ向かう時にオナニー姿を見られ、彼らを誤魔化すために手伝いさせたのだった……!
「あ、あううっ♡!?」
焦る私に飛び掛かった二匹は乳首を責めてくる!
「え、何!? 何!?」
「ルーアは自力じゃ回復出来ねぇ身体なんだよ……」
「自分自身じゃ触れないここを刺激しないといけないみたい」
事情を知らないアシマリが困惑する前で二匹が私の乳首を様々な方法で刺激して来た。
小さな乳首を摘んだり、引っ張ったり、逆に押し込んだり。
「んうううっ♡!!」
それにより乳首が勃起して膨らんでしまう。こんなに小さく純粋なポケモン達に痴態を見られて恥ずかしい……。
「私も手伝うよっ、どうすればいいの?」
「えっと……確かあの時は脚の付け根にピンク色の何かがあったわね」
「ランドセル? が無いからその道具も無いんだな。アシマリはそこに刺激を与えてやってくれないか?」
「ふひいっ♡!?」
更にアシマリまで参戦してくる事態に私は悲鳴を上げる。
「アシマリちゃんにお任せ……こうかな?」
「ひゃふっ♡!?」
彼女はそう言うと股間……ではなく私の腿をスリスリ触って来た!
(わ、私の太腿、触られてる! プニプニの脚サワサワされてるぅ!)
「薄橙の部分と黒い部分で手触りが違うね。どっちが回復するんだろ?」
(やめてぇ……そんな事言われると全裸に靴下だけ履いてる事、強く自覚しちゃうぅ!)
更に素肌の脚を触られたり、サイハイソックス越しに触られたりして私はビクビク身体を震わせる。
「うーん、アシマリが触ってる所合ってたかしら?」
「どうだったっけ? ルーア、どうだ?」
「あひっ、いひっ……♡」
チコリータ達に確認されるが、いやらしい気分から逃れられず喘ぎ声ばかりが出てしまう。
「大丈夫ですよ」
そんな私の代わりに回答するのはオーマだった。
彼女はアシマリの横から華奢な腕を伸ばすと私の股間を弄り始める!
「ひゃうぅぅん♡♡!」
それにより元々愛液で濡れていた股間から更に液体が零れだした。
「あっ、もしかしてオーマもルーアの回復したことがあるの?」
「回復……まあ、そうですね」
チコリータの問いにオーマは一度私に視線を向けた後、話を合わせる。
「よし、んじゃあオーマもいれば四倍回復するって事だな!」
「頑張っちゃうよ!」
(仲良くないポケモン達に触られたら不快で仕方なかったのに……『ゆけゆけズ』に触られたらビクビクしちゃうぅ……! 罪悪感で興奮してる? それとも……私が大切だと思ってる相手に気持ちよくしてもらえて……喜んでる?)
「イクぅぅぅぅぅ♡♡♡!!!」
フワフワする頭で思考しながら私は絶頂を迎えるのだった。
(あ、あれ……? サンドをリライブしてから感じてた違和感が……少しだけ落ち着いた……?)
恥ずかしい姿を見せてしまった後、私は仲間達と共に再び『颶風の砂漠』を進んでいた。
「ルーア、また回復したくなったら言ってね」
「う、うん。ありが……わっ?」
アシマリに対して私は狼狽えつつ応えるが、前を歩いていたオーマにぶつかりそうになる。羞恥のあまり早歩きしてしまったかと思ったが、よく見ると彼女やヒバニー達が立ち止まっていた。
何があるのかと先を見てみるが……。
何も見えなかった。
激しい砂嵐に阻まれ、通路の先が黄色の闇に包み込まれていたのだ。
「マジか……全然見えないぞ」
「だけど自然発生したとは思えないわね。まるで風の動きが操作されてるみたい」
困り果てるヒバニーだが、逆にチコリータは冷静にその砂嵐を観察する。
「おそらくだけど……凶暴化ポケモンが技『すなあらし』を使ったんじゃないかしら。もしくは特性『すなおこし』という線もあるわ」
「それは……この砂嵐の中に凶暴化したポケモンがいるということですか?」
チコリータの予測を聞いたオーマが怯えた様子で確認。
「そういうこと……突入するときは覚悟を決めてからよ」
「うーん……」
真面目な表情で言うチコリータの隣まで進むのはアシマリだ。
「こういうことしたら駄目なのかな」
彼女はそう言うと『みずでっぽう』で水のバルーンを膨らませ、砂嵐の中へ飛ばした!
「ぎょえっ!?」
ヒバニーとチコリータがポカンとする中、砂嵐の中から悲鳴が届いてくる。
「あ、当たった。ラッキー!」
「いやいやいや! ちょっと!?」
喜ぶアシマリに対しチコリータが目を丸くして声を上げた。
「こらっ! いきなり何をする!」
そう怒鳴りながら砂嵐から飛び出して通路にやって来たのはびしょ濡れの蛇ポケモン、スナヘビであった。
「ほ、ほら! 怒らせちゃったじゃない! 『はっぱカッター』!」
慌てながらもチコリータはすぐさま葉の刃をスナヘビに命中させる!
「ぐ……ぶふん!」
「うおっ!?」
ダメージを受けて仰け反るスナヘビだが、それと同時に鼻の穴から大量の砂を吐き出した! その砂はたちまち砂嵐となって私達を包み込む!
「しまった、特性『すなはき』よ! 攻撃を受ける度に砂を撒き散らすの……!」
「い、痛いです! 砂が当たる!」
「ううっ……」
砂により視界が不明瞭になり、更に身体に大量の砂がぶつかり痛みが走る。
「ちくしょう、どうにかしねえと……」
ヒバニーが苦悶の声を漏らすがダメージを受け続け周囲の確認も満足に行えない状況ではスナヘビへの対処も難しいだろう。
(ど、どこから襲って来るの?)
目を開けるのすら辛い状況で、私はどうにか状況を探ろうとするもどうしようもない。これでは一方的に蹂躙されてやられてしまう……!
「……ぐ、うっ!?」
そんな時、黄色ばかりの視界に僅かに青が入り込むと同時に身体へ違和感が走る。
先程の絶頂で少し落ち着いた筈の……身体の奥底に重苦しい物が入って来るような違和感が。
「……ん、んん?」
その時聞こえてくるのはスナヘビの声。私は本格的に危機を覚える。
「お前達、俺に何をやったんだ? 妙に身体が軽く感じるが……」
「あ、凶暴化解けた!? でも砂嵐でそれどころじゃないよーっ!」
『すなはき』をした張本ポケはのんびり尋ねて来ているが、アシマリの言う通り私達は砂が痛くてまともに応対できない。
「暫く待ってくれ、じきに止むだろう」
そうスナヘビが言ってから必死に耐えているとようやく砂嵐が止む……が。
「いっててて……」
「だいぶダメージ受けちゃったわね……」
かなりの間砂に晒され続けたヒバニー達の身体は汚れてしまっており、息もかなり荒い。
「砂嵐ってこんなに危険なんだな……チコリータの『はっぱカッター』でスナヘビを倒せたから何とかなったけど、もしそうじゃなかったら……」
ヒバニーはオレンのみを齧りながら表情を固くする。確かに彼の懸念は尤もだ。私だって痛みでまともに動けず状況も分からずだったのだから。
「一旦退却した方が良いのかしら……中心部はポケモンの技や特性関係なしに砂嵐が起きるって話だし危険すぎるわ……」
チコリータも再び空を見上げ、舞い上がる大量の砂を見つめる。
「お前達、何をしに来たんだ? 悪い事は言わない、奥へは行かない方が良いぞ」
「え、それって黒い靄があるから?」
「知っているのか。以前から砂漠の中心部で心身が苦しくなる靄が漂っていたんだが、どんどん靄の範囲が広がっているんだ。昨晩も一気に靄が拡大して……俺は靄から逃げて来ている途中なんだ」
「……っ!」
深刻そうに語るスナヘビ。やはり中心部にあるであろう『黒い繭』の対処が出来ていないために、靄の影響がどんどん大きくなっているのだ。
「その靄を発生させてる『黒い繭』をどうにかするために来たんだよ。上手くいけば靄が無くなる筈」
「なに、本当か? それならば突然拡がった靄の中へ残してきてしまった仲間も……」
アシマリの言葉にスナヘビは希望を抱いたように目を見開いた。しかしそれはつまり、彼の仲間は昨晩からずっと靄を浴び続けているということである……大丈夫なのだろうか。
「じゃあさっき俺を叩き伏せて奥へ進んでいった大きなポケモンも靄を止めるために……?」
「それって灰色で鱗を鳴らしてるポケモンか?」
「ああ、その通りだ」
先に行ったポケモンというのはジャラランガの事だろう。私達が攻撃する前からスナヘビの周りに砂嵐が吹き荒れていたのも、彼がスナヘビを攻撃し『すなはき』が発動したためか。
「ジャラランガはあの砂嵐を突き進んだって事よね……もし砂に紛れてルーアを捕まえに来たら危険すぎるわ……」
確かにこちらは砂で周りが見えない状況で迫って来られたら……。
「……誰か追って来ています」
その時、しきりに周囲を警戒していたオーマが注意を促してくる。
「え?」
まさか凶暴化ポケモンだろうかと来た道へ視線を向けると、確かに通路を数匹のポケモンが進んで来ているのが見えた。
「……あっ」
何者だろうかと目を凝らす私だが、その正体に気付き額に汗が滲む。
それは三匹のポケモン……ワカシャモとモウカザル、チャオブーからなる救助隊『ヒートソウル』だ!
彼らはジャラランガとは異なり明確に私達ニンゲンに敵意を抱いている……!
「おい、誰かいるぞ」
「なっ……あいつらは!」
ワカシャモ達も私とオーマの存在に気付いたようで、戦慄した様子で足を止めた。
「おーい! そこのポケモン達、危ないぞぉ! 取り込まれたり道具に変えられたりする前に逃げるんだぞぉ!」
そしてチャオブーがヒバニー達やスナヘビに呼びかけるかのように大声を上げる。
「急げ! 俺達で時間を稼ぐんだ!」
「やるしかねえか、気を付けろよ!」
ワカシャモとモウカザルは救助隊としてポケモン達を守る為、『敵』である私やオーマを睨みつけ疾駆!
「『リフレクター』!」
「がっ!?」
しかしチコリータが防御の壁を生成し、ワカシャモ達は勢いよく正面衝突した。
「な、何をしているんだよ! ニンゲン達はオイラ達救助隊に任せて早く逃げるんだ!」
ドタドタと壁の前までへ走りながらチャオブーが必死に呼びかけるが、チコリータは私を守るように『ヒートソウル』を睨みつける。
「俺達は救助隊『ゆけゆけズ』だ! そしてルーアもオーマも友達なんだよ!」
「救助隊同士で争いたくないから戦うのやめて! ルーア達は悪者じゃないよ!」
そしてヒバニー達もワカシャモ達へ説得を図る。
だが。
「……凶暴化か!? 人間共に操られてるのか!」
「ふざけやがって! どこまでもポケモンを自分の道具だって考えてんのか!」
『ヒートソウル』は説得を聞き入れないどころか私達への怒りを更に増幅させる。
「こうなったらこの道具で……」
そう言いながらチャオブーは紐が巻かれたようなふしぎだまをレスキューバッグから取り出した。
「いけない、『しばりだま』だわ!」
「やべえっ、どうすんだ!?」
このままでは硬直状態にされて身動きが取れなくなることを察した『ゆけゆけズ』が狼狽え始める。私も対処方法が思いつかず絶望に顔を強張らせた。
『ヒートソウル』に捕まって、『ゆけゆけズ』と引き離されて、また牢屋に閉じ込められて、酷い事沢山言われながら苦しみ続けて……!
「……ごめんなさい」
そう言ってオーマが突然、足を振り下ろす!
「ぐ……ぶふん!?」
その相手はスナヘビ……!
ポケモンの技ではない為それほどのダメージは無いようだが、砂袋を踏みつけられた彼は鼻から勢いよく砂を噴き出した!
「こっちです!」
「……そ、そっか!」
『すなはき』により辺りがたちまち砂に包まれ始める中、オーマが通路の先に向かって走り出す。
「待つんだぞ、『しばりだま』!」
「っ!!」
慌てた様子のチャオブーがふしぎだまを発動!
私達はその効果で動けなくなってしまう……が。
「いてっ!」
「ごめんスナヘビ! これあげるわ!」
砂嵐による砂がぶつかることで即座に硬直状態は解除され、リンゴをスナヘビに放り投げてから『ゆけゆけズ』と私は再び先導するオーマの後を追う。
「み、見えねえ!」
「待ちやがれ!」
吹き荒れる砂で足が止まった『ヒートソウル』を残し私達はその場を後にするのであった。
どうにかワカシャモ達を撒き、私達は岩だらけの広間で身を隠していた。
「良かった、あいつら俺達に気付かず行ったぞ」
「オーマのお陰ね、ありがとう」
「……」
チコリータにお礼を言われたオーマは一瞬口を緩めかけるが、すぐにプイと顔を逸らす。
「えーっと、あの三匹は『オータムビレッジ』で活動してる救助隊『ヒートソウル』なんだよね。それでニンゲンに対してあんまり好感を抱いてないんだ……」
「……うん」
私からの視点ではあるが、『ヒートソウル』はかなり横暴な態度で私を見下しているかのように振舞って来ていた。口ではジャラランガに従って一緒に鍛錬するなど言っていたが、どうしても私をただ虐めたかったようにしか見えない。
(……けど、私達ニンゲンと一緒にいるヒバニー達を見た時に急いで逃がそうとしてた。きっとポケモン達に対しては強い仲間意識があるのかな……)
「ジャラランガが本当に敵意を持っていないのか心配って時に、明らかに敵意を持った『ヒートソウル』までこのダンジョンにやって来るなんて……」
「……マジで今回の探索、切り上げた方がいいかもな。これ以上ルーア達を危険に晒したくねえよ」
チコリータとヒバニーはそう言って俯く。普段諦めるという選択を取ろうとしない彼女らだが、本心から帰りたそうにしていた……私のせいで。
「……あはは、こんな事もあるよね! 失敗は成功の基、あんまり落ち込まずに早いところ帰ろうか!」
そしてアシマリも『あなぬけのたま』を取り出しながら言う。どうにかポジティブに振舞おうとしているが空元気のようにも見えた。
「……」
オーマも黙って私を見つめてくる……もう限界だと言いたそうに。
私は舞い上がった砂で黄色に染まった空を見上げる。その中に混じる黒と紫の靄も今までよりずっとよく視認出来た。『颶風の砂漠』の中心部には着実に近づいていること、そして今もなおダンジョンに靄が蔓延っていることの証左である。
この先ではきっとポケモン達が靄で動けないまま苦しみ続けている。私が『黒い繭』をどうにかしない限りこれからもずっと。
それでも……ヒバニー達の言う通りだろう。
私を狙う『オータムビレッジ』のポケモン達がいる上に、私達ではこれからも頻繁に襲い掛かって来るであろう砂嵐への対応もまともに出来ない。仮に黒い繭を消す事が出来ても、その中に囚われていたポケモンが黒装モンスターとして襲い掛かって来た時に立ち向かうことが出来るとは到底思えなかった。
「……私も、これ以上皆に迷惑かけたくない」
だから……『諦める』……私もその選択を取る。
ここで無理に進もうとしてヒバニーがまた傷付いて倒れたり、チコリータ達がいなくなってしまったり……そんな風になってしまうのは嫌だった。
「そうね、そうしましょう」
チコリータは穏やかな笑みを浮かべ、私の『逃げる』という選択を肯定してくれる。
「うん、それじゃあ……あ?」
アシマリも頷いて『あなぬけのたま』を使おうとしたが、空を見上げて固まった。
何だろうと思って私も彼女に続いて空を見るが、同じように固まってしまう。
舞い上がる砂の向こうに見える、巨大な影。
巨大と言ってもテラキオンやファイヤーどころではない。それどころか『海底の地割れ』軍団の一匹、ホエルオーすら上回っている大きさだ。
地響きを起こし、ダンジョンの壁を破壊しながら進む巨大な影が遂に砂の向こうから姿を現す。
黒。
黒い体表のあちこちには紫のラインが走り、目も妖しく紫に輝いている。
そして凶暴そうな顔つき、鋭く生え揃った牙、鎌のような形状をした両手……。
「……『黒装モンスター』!? まだルーアが黒い繭を消してないのに……!」
「なんだよあのデカさ!? メガスピアーだってあそこまで……!」
私の脳裏である光景が流れる。
『蒼海晶洞穴』のメガチルタリス……あの時はダンジョン巨大化が発生した翌日に黒い繭の元へ辿り着いたため、チルタリスはそこまで巨大化していなかった。
『つめとぎ山』のメガスピアー……あの時はダンジョン巨大化から数日経ってから黒い繭の元へ辿り着いたため、スピアーはかなり巨大化していた。
今回……私達の視線の先にいる黒装モンスターは相当な日数黒い繭の中に囚われていて……その分だけ超巨大化したのではないだろうか。
そして充分に成長したために自力で黒い繭を破って……こうして自由に動き回っているのでは?
「ギシャアアアアアアア!!!」
まるで衝撃波のような凄まじい咆哮を上げた黒装モンスターは鎌状の手を振り上げる! 抉られた岩石に紛れて何かが宙を舞っていた……あれは。
(ジャラランガ!?)
「喝!!!」
彼は空中で体勢を立て直すと、『ばくおんぱ』を繰り出す!
「……」
その攻撃は巨大黒装モンスターに対してあまり効果を発揮しなかったものの、激しい音波の反動を利用してジャラランガは相手から距離を取った。
一体どういう状況なのかと私は整理しようとするが、更なる騒ぎが発生。
「逃げろーっ! ガブリアス様のお怒りだ!!」
「侵入者たちへの怒りが頂点に達したんだ!」
「ひいいっ!!」
黒装モンスターが暴れている方向から逃げて来たのは沢山の凶暴化ポケモン達。逃げるのに必死なのか、彼らは私達には目もくれず岩だらけの広間を駆け抜けていく。しかしパニック状態のポケモン達はお互いにぶつかり合ってしまい、転んでしまう者も見受けられる。
「落ち着いて移動するのよ! こっち!」
その時、慌てる凶暴化ポケモン達を誘導する声が響き渡った。
そこにいたのは黄色と白の毛並みに大きな尻尾と耳を持つポケモン、テールナーだ。
「ほら、立って」
「あ、ありがとう」
彼女は転んだポケモンに手を伸ばして立たせると、再び避難誘導を行う。
「おい、やべえ! あいつ、こっち向いてるぞ!」
ヒバニーの声につられて再び上を見ると、彼の言う通り巨大な黒装モンスターが紫の双眸でこちら……沢山のポケモンがいる方向を見ていた。
「急いでアシマリ!」
「うわわっ!」
チコリータに言われ、アシマリは持っていた『あなぬけのたま』を掲げる!
白くなりゆく視界。
「テールナーちゃん! 逃げよう!」
「はあ!? 侵入者の癖に指図すんじゃないわよ!」
その中で微かに見えたのはテールナーに呼びかける『ヒートソウル』達の姿。
そして、両手の鎌を振り下ろしながら大ジャンプで飛び掛かってくる黒装モンスター。
(……ここ、は)
私はゆっくりと目を開く。
「……よく無事だった」
視界一杯に映る、ネイティオの顔。
「!?」
至近距離に彼女の感情が読めない目があり、私は目を白黒させて起き上がる。
「も、戻れたのか?」
「そうみたいね……」
見ると『ゆけゆけズ』も共にこの『静寂の丘』に戻って来れているようで私はホッとした。
しかし、それでも心臓の鼓動は収まらない。あと少しでも遅れていたら黒装モンスターの鎌の餌食となっていただろう。
「ど、どうしよう」
「……っ」
アシマリ達が見つめている『颶風の砂漠』の方向……そこにはこの距離からでも分かるほどに巨大な黒き存在が佇んでいた。
あの黒装モンスターは『颶風の砂漠』の範囲からは出ようとはしないものの、時折地面に鎌を叩きつけている……まるで逃げるポケモン達を攻撃するかのように。
「奴は暴走しているのか?」
「分からないわ……黒装モンスターは何も喋らないもの……」
ネイティに尋ねられるがチコリータは首を振った。
「……ガブリアス。『颶風の砂漠』と化す前の地、支配していたポケモン」
ネイティオもまた黒装モンスターを双眸で見つめて言う。
「奴は現在、メガシンカ……メガガブリアスと化している」
どうやら、砂漠に住むポケモン達を統べていたガブリアスが黒い繭に囚われ、今こうして暴れ回っているらしい。
「逃げれたのは良かったけど……どうしたらいいんだろ?」
狼狽えるアシマリが尋ねて来るが、私もヒバニー達も沈黙しか返せない。
今までとはあまりにも規模が違い過ぎる上に、こちらの戦力も全くないのだ。
「こんな時インテレオンとか『ナイトスター』がいれば解決策を出せたのかな……」
私は弱気になってしまい、ついそんな事を口に出してしまう。
「それだ!」
「わっ!?」
いきなり大声を出したヒバニーに驚いて私は肩を跳ねらせた。
「な、何よ急に!」
「助けを求めるんだよ! 俺達だけで出来る事は限りがあっても、『スプリングタウン』や『サマーリゾート』の救助隊たちと力を合わせりゃこの事態だってどうにか出来る!」
ヒバニーは希望に満ちた笑顔を浮かべて力説する。
「……そうね、そのための救助隊連盟だもの。だけどどうやって伝えようかしら……?」
「え、ええっと……」
チコリータは同意するが、併せて疑問を口にするとヒバニーも額を押さえてしまう。
「ねえ、テレポートで『サマーリゾート』とかに移動できたりしないっ?」
「不可能だ。テレポート屋に派遣した仲間達と同様、あまりの距離をテレポートで飛ばす事は出来ない」
「ならペリッパー便で知らせるしかねえか?」
「速達でも日数はかかるでしょうけどそれが一番かもしれないわね。気は進まないけれど手紙を出すために『オータムビレッジ』に向かう必要があるかしら……」
『ゆけゆけズ』の話を聞いて私とオーマは黙り込む。
彼らが『オータムビレッジ』に向かうのであれば、そこに入れない私達はどうすれば良いのだろうか。
すぐに『スプリングタウン』や『サマーリゾート』に向かう手段……それは……。
「では村までテレポートで送ろう」
「助かるぜ」
「それじゃあルーアとオーマはここで……」
「……ちょっと待って!」
私は早速村まで飛ぼうとする『ゆけゆけズ』を呼び止める。
「もしかしたらもっと早い方法があるかもしれない……」
それを伝えると私はネイティオに視線を向けた。
「ねえ、この辺りにポケモンが入ろうとしても押し出されるようなダンジョンってあったりしない?」
「ある……それでどうする?」
「『追放の遺跡』と『無獣島』には双方を自由に行き来できるゲートがあってさ。だからそのダンジョンとも繋がってたりするかもしれないんだ。もしそうならすぐに『スプリングタウン』とかに向かえる筈……」
私が言うと『ゆけゆけズ』が驚いた顔をし、ネイティオは表情を変えずこちらをじっと見てくる。
「……西に聳える『未踏摩天楼』。ポケモン拒む地」
ネイティオはそう言うと、翼を大きく広げた。
「座標未登録。向かうなら助力」
「ネイティオ様、くれぐれもご無理はなさらぬよう」
どうやらネイティのテレポートでは行けないようだが、ネイティオが『未踏摩天楼』という場所まで飛ばしてくれるらしい。
「……大丈夫なのね、ルーア?」
「……うん」
「ダンジョンの危険度は分からないし……それにルーアは本調子じゃないんだから無理はしたら駄目だよ?」
「ありがとね」
心配してくるチコリータ達に私は頷いて答える。
「私もルーアに付いて行きます」
「オーマ……よろしく」
そんな私に灰色のニンゲンであるオーマが言ってきた。確かにポケモンではない彼女であれば私と共に『未踏摩天楼』に近付ける筈だ。一人だと確かに心細いが二人ならきっと乗り越えられるだろう。
「……それじゃ頼んだぜルーア、オーマ。俺達も『オータムビレッジ』に行ってペリッパー便でインテレオン達に伝えるよ」
『ゆけゆけズ』は『オータムビレッジ』へ、私達は『未踏摩天楼』へ分かれて行動することに。
全ては『颶風の砂漠』で起きた事態へ対処するため。
「気を付けなさいよ、ルーア、オーマ!」
チコリータ達がネイティの『テレポート』で姿を消したのを見届けると、私達もネイティオの傍へ移動。
「クアアアアアアッッッ!! 『テレポート』!」
ネイティオが高らかに叫ぶと視界が白く輝き始める。
そして次の瞬間には光が止み、周囲の光景も変化していた。
サバンナのような光景をした空気が乾いた平原、遠くには連なる岩山。
そして前方にはこの世界には似つかわしくない高層ビルが建っている。その周囲は草一本生えておらず、『追放の遺跡』と似たような不気味な様相を醸し出していた。
「あれこそ『未踏摩天楼』」
少し疲れた様子で目を細めるネイティオ。彼女はこうして座標が登録されていない離れた地点まで安全にテレポートすることが可能なようだが、それだけ身体への負担が大きいらしい。
「うん、ありがとう」
「……健闘を祈る」
私が感謝するとネイティオは小さく頷きながら激励してくれた。
(……きっとここでも、『追放の遺跡』や『無獣島』みたいに黒い闇が襲い掛かってくる)
ある時は私を闇の中に引きずり込み、ある時は私の体内に入り込み、闇は私に数多の幻覚を見せて来た。不安が無いと言ったら嘘になるが、今も暴れているメガガブリアスを止めるにはインテレオン達に力を貸して貰わないといけないのだ。
それに今回はオーマがいる。きっと、なんとかなるだろう。
高層ビルが近付くにつれ、だんだんその詳細も……。
その時、私の身体全体に圧力がかかった!
「あっ!?」
「ルーア!?」
オーマをその場に残し、勝手に私の身体が浮き上がり勢いよく『未踏摩天楼』目掛けて引っ張られる。
みるみる内に離れ小さくなっていくオーマとネイティオの姿。そして程なくして黒と紫の靄が『未踏摩天楼』の周囲を囲むように現れ、彼女らの姿も隠れてしまった。
「あうっ……」
地面に叩きつけられ、何度も不毛の大地を転がる私。
痛みに苦しみながら視線を動かすと、『追放の遺跡』などと同じように周囲の光景が靄に覆われているのが分かった。そして『未踏摩天楼』と呼ばれている高層ビルが廃ビルの如く朽ち果てているのも。
(……今回も引っ張られるかもとは思ってたけど……私だけ……?)
ポケモンを拒み、人間を引き込むダンジョンだと思っていたのに。
(引きずり込むのは……人間じゃなくて、私個人……)
どうして、と思考しかけるが私は咄嗟に首を振った。
今はそれどころではないし、何よりあまり深く考えると苦しくなってくる。
急いで立ち上がり足を進めようとする私。
「あっ……♡」
しかしまたリングがクリトリスを締め付け、快楽が全身を駆け巡った。
(淫乱な気分になってる場合じゃ、ないのにぃ……!)
性欲を抑え付けようにもリングやバイブに股間を蹂躙され抵抗出来ないし、一旦絶頂しようにも仲間が誰もいない状況ではオナニーすら出来ない。
(……幻覚の中でまた気持ちよくして貰えるのかなぁ)
思わず涎を垂らしながら私は一歩、また一歩と『未踏摩天楼』へと近付いていく。
入り口には黒い闇が充満しており、中の様子を窺うことは出来ない。
「はぁ……♡ あぁ……♡」
ピクピク身体を震わせ、ようやく入り口へ辿り着いた私は発情した喘ぎ声を漏らしてしまう。
(あ、あれ……?)
心臓を高鳴らせながら暫く立ち止まっていた私は濃密な闇へ向けてゆっくりと片足を前に出す。
(私……何のために、この『未踏摩天楼』に来たんだっけ?)
ブーツの先が闇に触れた途端、大きく波紋が広がる。
そして無数の黒い手が伸びて来て私の身体を掴み、闇の中へと引きずり込むのであった。