※この作品はR-18です。

裸の少女とポケモンだけが住む世界   作:Momyaka

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Special Episode ~ロイヤル・エンカウント~

 

 壁を叩く……違う。

 

 数歩進んでまた叩く……ここも違う。

 

 またまた数歩進んで叩く……近い!

 

「キングラー!」

「任しとき!」

 あたしの合図に応え、相棒が壁に向かって『トンネルのえだ』を振るう!

 呆気なく崩れゆく岩壁。あたし達は砕け散った石ころを取り除き、遂に埋もれていた物体を発見した。

「宝箱発見や!」

「おほほほ! やりましたね!」

 出土した豪華な装飾の箱を手にあたしとキングラーはハイタッチ。

 

「なんださっきの音は!」

 しかし喜びの時間を邪魔するように現れたのは凶暴化ポケモン、ゴーリキーだ。

 筋骨隆々な肉体を持つポケモンは怒りのままに攻撃態勢へ移るがあたしはキングラーと目を合わせレンケイを開始。

「『ワイドガード』や!」

「おほほ、『フラフラダンス』!」

 キングラーが身を守ると同時にあたしは不規則な舞を披露。

「お、お、おお?」

 舞を直視したゴーリキーはたちまち混乱し、あらぬ方向に『ローキック』を放っていた。

「そんでは、さいなら〜!」

「さようなら〜!」

 その隙にあたし達は逃走を始め、ダンジョンの外へ向かう。

 

 トレジャーハンターであるあたし……アマージョはキングラーと共に今回も宝の入手に成功し、意気揚々と『サマーリゾート』へ帰還するのであった。

 

 

 

 

 

 沢山のポケモン達が行き交う『サマーリゾート』の繁華街。その一角であたし達は目を細めて狙いを定めていた。

「……そこやっ!」

 キングラーが自信満々に放った『きのえだ』は見事、的に命中。

「はっ!」

 続けてあたしも『きのえだ』を投げるとこちらも的に的中した。

「あの二匹、凄いなぁ」

「あんなに動き回る的に当ててみせるなんて……」

 周りのポケモン達がどよめく中、あたしとキングラーはハイタッチ。

「お客さん、やるねぇ。約束の景品持っていきな!」

「おおきに!」

 『的あてゲーム』の店主ポケモンからバスケットいっぱいのきのみを受け取ったあたし達はニコニコ顔で通りに出る。

「おっほほ、楽しかったですね。次はどうします?」

「せやなぁ、昨日の稼ぎもまだまだあるし『おたからサルベージ』ってのに行ってええか? 最近オープンした妙な店……」

 

 

「そこの二匹、少し話をさせろ」

 

 後ろから呼び止められ、あたしとキングラーは頭に疑問符を浮かべながら振り返った。

 そこにいたのは濃紺の身体と王冠のような突起を持つ嘴が特徴的なポケモンであった。彼女は鋭い視線で私達をまっすぐ捉えている。

「んー、どちらさん?」

「私はエンペルト。『カプ・コケコのギルド』所属のギルド長補佐だ」

 なかなかピンと来ないあたし達に対し、相手は毅然とした態度で自己紹介をした。

 

「コケコッコギルガルドやと?」

「違います、ギルドですって。トレジャーハンターギルドでも出来たのでしょうか?」

「……」

 そう話し合うあたし達を見て、エンペルトは呆れた様子で溜め息をつく。

「救助隊ギルドだ。ダンジョンで遭難したポケモンを救う為に設立された救助隊連盟……その『サマーリゾート』支所であるのが『カプ・コケコのギルド』なのだ」

「救助隊かぁ、それなら聞いたことあるで」

「おほほほ、いつもお勤めご苦労さまです」

 説明する彼女に対しあたし達は呑気に応対。

 

「……本題に入るぞ、私はお前達を救助隊へスカウトするために来た。度々ダンジョンに突入しては悠々と宝を持ち帰る腕利きのトレジャーハンター、キングラーとアマージョ」

「はっはっはっ、照れるやんか」

「あたし達を知っているという事はもしやファンですか? 女王のあたしをそこまで慕うなんて見る目がありますね!」

「……」

 エンペルトはあたし達を腕利きだと褒めた割にはこちらの対応に苛立っているような表情を浮かべた。

 

「もう一度言う、スカウトだ。トレジャーハンターではなく救助隊としてその腕を振るわないか」

 続けられる言葉にあたしはキングラーと目を合わせる。

「救助隊になれ? あんま気乗りせんなぁ」

「ですね、あたし達はお宝探しの方があっています」

「……」

 そして正直に回答を返すと相手は再び呆れた様子で嘆息した。

 

 

「……お前達は自分が良ければそれで良いのか」

 

 

「なっ、なんやいきなり」

 ギルド長補佐を名乗る相手の言葉に流石のキングラーも少し顔を顰める。あたしも少し不快感が心の底に生まれるのを感じた。

「お言葉ですけど、もっと別のポケモンをスカウトしたら如何ですか? こっちは救助隊に興味は無いと言っていますでしょう」

「救助隊を志願するポケモンもいるが、どれも実力不足の不甲斐ない者達ばかりで危険度の高いダンジョンへ赴けるチームがいないという現状がある。かなりの強者であったチーム『エレガドラ』が先週、解散届けを出してきたのもあってすぐにでも実力者が欲しいのだ」

「力があれば誰でもええんかい!」

 淡々と述べるエンペルトにキングラーがツッコミを入れる。

 

 

「力を自分達だけのために使っていたらいざという時取り返しのつかない事になるぞ。あの時己の力を誰かのために使っていれば……と後悔する前に行動へ移すべきだと考えないのか?」

「むっ!」

 勝手な事ばかり言うエンペルトに対しあたし達は遂に堪忍袋の緒が切れた。

 

「なぁにが取り返しのつかない事やねん! アホか!」

「ふん! 後悔と言うなら、あなたの話を真面目に聞こうとした事自体がそれですね!」

 こんな奴とはもう話してられないと、あたしとキングラーは悪態を残してさっさと立ち去るのであった。

 

 

 

「……かーっ、腹立つわ! なんやねんアイツ!」

「ホントですよ。あんな偉そうなポケモンがギルド長補佐なんて、連盟とかいうのはどうなってるのでしょうか!」

 あの後、町の広場に赴いたあたし達は苛立ちのままにきのみを食べながら愚痴り合っていた。

「あないに上から目線でもの言うからエレドラ……? とか言う連中も解散したんちゃうか?」

「それで正解ですよ、いちいちストレスを与えて来るような相手と一緒にいては大変なことに……」

 

「お姉ちゃん」

 

 その時後ろから声をかけられあたしは振り返る。

「……おや、どうしました?」

 それはあたしの妹であるアママイコであった。この町で最も人気があると言って過言ではない『ポケモンコンテスト』。その司会進行という華々しい仕事についている自慢の妹だ。

「ちょっと用事が……それよりなんか怒ってたみたいだけど……」

「あー、気にせんといてや。それよりアママイコちゃん、アマージョに用事なんか?」

 心配げな顔を向けてくるアママイコに対してキングラーは愛想よく応対する。先程のエンペルトがあまりにも失礼だったために怒りを露わにしただけで、彼は基本温厚でひょうきんな性格なのだ。

 

「お姉ちゃんというよりは二匹にかな。実はコンテスト会場の装飾を新調するために職員で手分けして材料を集めることになったんだ。だけど私が担当してる材料の『わかばのブーケ』がお店じゃ売ってなくて。それで今からダンジョン『梅雨空台地』に行きたいんだけどもし手が空いてたら手伝って貰えないかなって」

「おや、そうだったんですね。でも今からですか……」

「昨日ダンジョン行ったばっかやし、今日はお休みしたいねん。せやけど明日なら……」

 アママイコから頼まれるが、あたし達は都合が悪い事を伝えた。

「そっかぁ、じゃあ大丈夫。ゆっくり休んでねー」

「ほーい」

「気を付けるんですよー」

 そして去って行く妹をキングラーと共に何気なく見送る。

 

 

 そう、この時はいつもの事だと呑気に構えていたのだ。

 

 

 

 

 

「……んんー」

 翌日、あたしは気怠い気分と共に目を覚ます。見ると窓の先では雨が降っており気怠さの理由はそれだったようだ。

(雨は苦手なんですけどね……今日は屋内のダンジョンに行かないか提案してみましょう)

 そんな事を考えながら朝食の準備をしていると、突然扉が外からノックされる。こんな雨の日に来客だろうか?

 

「おや、確かポケモンコンテストの……」

「イエッサンと申します」

 扉を開けた先には黒と白の体毛に覆われた真面目で固い表情をしたポケモンが事務的な態度で名乗った。そこまで頻繁にコンテストを観に行っていないので朧げだが、彼は審査員を務めていたような気がする。

「早朝にお伺いし申し訳ありません。アママイコさんのお姉様でよろしいでしょうか」

「そうですけど……どうして家の場所を知っているんです?」

 丁寧に続けるイエッサンに対し、あたしは不思議に感じながら首を傾げる。

「お姉様のお宅がアママイコさんの緊急連絡先に登録されていましたので、訪問させて頂きました次第です」

「なるほど……え、緊急連絡?」

 彼が口にした言葉の中にある嫌な響きのワードを耳にし、あたしは肝が冷やされるような感覚となった。

 

 

「昨日、アママイコさんがダンジョン『梅雨空台地』へ向かわれてから帰って来ていないのです」

 

 

 

 

 

 しとしと、鈍色の空から降り注ぐは終わりなき雨。

 しとしと、雨の恵みを存分に受けるは青、紫、赤に咲き誇る紫陽花たち。

 雨を至福とする者達が歓喜の歌を奏でる地、『梅雨空大地』。

 

 

「アマージョ、あんま焦らんときや。アママイコちゃんは立派やし」

「……はい」

 キングラーに言われ、あたしはゆっくり頷く。妹を助ける為、あたしは相棒と共にダンジョンへ突入していたがなかなか彼女の姿が見つからない。

「こんな事になるなら昨日、あの子に協力しておけば……」

「過ぎた事悔やんでもしゃあないやろ。昨日の時点ではこないな事になるなんて分からんかったし」

 落ち込んだまま通路を進んでいると紫陽花が咲き誇る広間に出る。ここにもアママイコの気配はしない……が。

 

「やあん?」

「悪者が来ただ?」

「怠いけど倒すべ~」

 紫陽花の花畑の中から姿を現したのはヤドンの群れであった。

「な、なして一つの部屋にポケモンがこんなぎょうさんおんねん?」

「仕方ありません、『レンケイ』やりますよ」

 敵の数に圧倒されてしまうが、あたしはキングラーに声をかけてピンチを切り開こうとする。

 

「せやな、『ワイドガード』や!」

「さあ見なさい、『フラフラダンス』!」

 キングラーが防御技を使うと同時にあたしは敵味方全員を混乱させる技を繰り出す! あたし達はいつもこの『レンケイ』で凶暴化ポケモンを混乱させて戦いを回避して来た。凶暴化ポケモンを倒したとしても凶暴化が解ける訳ではないため、こうして戦闘事態を拒否するのが一番の対策……なのだが。

 

「やあん?」

「効かないだよ」

「『みずでっぽう』だべ~」

「きゃっ!?」

 しかし何故かヤドン達は一切混乱せず、落ち着いた様子で攻撃を仕掛けてくる。みずタイプ技には強いという自信があるのだが、雨のせいで威力が向上しており思っていたより体力が削られてしまう。

「ど、どないなっとんねん!? えーと、『シェルブレード』や!」

「やあん!」

 キングラーも訳が分からないと言った様子で攻撃を行いヤドンを一匹吹っ飛ばすが、続けてカチリという音が彼の足元から鳴った。

 

「ぐへっ!?」

「キングラー!」

 

 彼の足元に黒いタイルのような物が姿を現し、大量の泥を噴き出す!

「『たいあたり』だーよ」

「うげえっ!?」

 隙を見せた所にヤドンから突撃を食らい、硬い甲羅を持つ筈のキングラーが地面を転がった。先程の泥のせいか防御力がガタ落ちしているらしい。

「どうなっているんですか……あっ」

 次々に妙な事が起きており困惑するあたしだったが、床に『オレンのみ』が落ちているのに気付き素早く拾い上げる。町では食料として扱われる道具だが、このきのみには回復効果もある……先程の『みずでっぽう』で受けたダメージをこれで回復できる筈だ。

「待っててくださいキングラー、もぐり……」

 

 しかし。

 

「ぶっ!?」

 『オレンのみ』とはとても思えない不味さにあたしは顔を青ざめさせて吐き出した。

「『ねんりき』やあ~ん」

「げほっ!」

 更にヤドンから追撃を貰いあたしまで地面を転がされる羽目に。

 

「チャンスだど」

「いくべ~」

「やあん」

 そしてヤドン達が一斉にあたしとキングラー目掛けて走り出す!

 

 

 

「『ふぶき』!」

 

 それと同時に強烈な寒波が巻き起こり、ヤドン達が一斉に吹き飛ばされた。

「!?」

 突然の事にあたし達が驚いている間に広間に入って来たポケモンは『アクアブレイク』でヤドン達を次々と撃破していく。瞬く間に全てのヤドン達が目を回して倒れる中、彼女は振り向いてくる。

 

「な、なしてアンタがおんねん?」

「当然の責務だ。救助隊連盟の一員として、力を持つ者として」

 それはなんと昨日私達をスカウトして来たエンペルトであった。

 

「……お前達は宝探しか?」

「……違います、あたしの妹が遭難したから探しに来たんですよ」

 表情を変えずに問いかけてくる彼女に対して、あたしは立ち上がりながら答える。

 

「そうか。しかし『モンスターハウス』へ警戒もせず足を踏み入れるとは軽率にも程があるぞ」

「『モンスターハウス』? なんやねんそれ」

「まさか知らないのか。それに特性『マイペース』にワナの一種『どろのワナ』、そっくりどうぐの『オレソのみ』まで把握していないようだな」

 こちらが無知であるかのように語るエンペルトにあたしは苛立ちを募らせる。

 

「これぐらいも知らないとは呆れたな。アママイコの救助は私に任せ、足手纏いは町へ帰ったらどうだ」

「足手纏いやと!?」

「聞き捨てなりません!」

 更に暴言を繰り返す相手にあたし達は激昂してキッと睨みつけた。

 

 

「アマージョ! ワテ、このアホいっぺんいてこまさんと気が済まんわ!」

「ええ、同意見です! こういう手合いは力の差を思い知らせないといつまでも調子に乗りますから!」

 もう我慢の限界だ。あたしはキングラーと共に戦闘態勢に入る。

「……」

 相手は謝罪する素振りすら見せず、来るなら来いと言いたそうに目を細めるだけだ。

 

「『レンケイ』行くで、『ワイドガー……」

「っ!?」

 突然エンペルトのエッジから放たれた『ラスターカノン』が『フラフラダンス』を繰り出そうとしたあたしを吹き飛ばす。驚いて動きを止めたキングラーに肉薄したエンペルトは彼を『アクアブレイク』で殴りつけると宙にいたあたしに衝突させた!

「んがっ!」

「ぎゃふっ!」

「まだやるか?」

 紫陽花の花畑に墜落したあたし達を見下ろし、次の『ラスターカノン』発射準備を終えたエンペルトが冷徹に尋ねてくる。まさかこんなに実力差があったのかとあたしは悔しさに手を震わせた。

 

「げほっ、げほっ……!」

 しかし、諦めかけていたあたしとは逆にキングラーは咳き込みながらも起き上がり相手を睨みつける。

「……へっ、何が救助隊や。ダンジョン化の影響で凶暴化したポケモンよりも、実力ばかり重視して心が無いあんさんみたいな奴の方がよっぽど恐ろしいわ」

「……」

 キングラーの挑発にエンペルトは僅かに顔を顰めた。挑発に乗るまま『ラスターカノン』を発射する……と思いきや彼女は収束させていた金属の光を解放し攻撃を中止した。

「時間の無駄だ」

 そう言い残すとエンペルトはタネを二つ放り投げると背を向けてダンジョンの奥へ歩き出す。

 

「『ふっかつのタネ』だ。それで回復して帰るんだな」

 彼女はそのまま振り返らずに通路を進んで行ってしまった。しかしその背は落胆しているかのように僅かに丸くなっていた。

 

 

「……はぁ」

 キングラーは溜め息をつきながら胴体を地に落とす。エンペルトに諦めず食い下がろうとしていた姿は虚勢であり、本当は限界を迎えていたのだ。

「あんな奴に負かされるなんてなぁ……」

「キングラー……」

 とても悔しそうに語る彼を見つめながらあたしは身体の節々の痛みで目を細めながら状態を起こす。しかし悔しいのはあたしも同様だ。自分達の実力にはそれなりに自信があったつもりなのだが、二対一で挑んで一方的に叩きのめされてプライドがボロボロだ。

「……」

 どうにか立ち上がったあたしはエンペルトが残した『ふっかつのタネ』を拾い上げると彼女が去って行った通路の先を見つめる。

 

「あのポケモン……あたし達に襲い掛かられたにも拘わらず回復の道具を残していくなんて……」

「……腹立つわホンマ。ワテらなんて取るに足らんっちゅう意味か?」

 確かにキングラーの言う通り、彼女にとってあたし達は脅威にもならない存在なのかもしれない。しかしエンペルトは再三『帰れ』と言っていた……あたし達を危険から遠ざけようとするかのように。

 

『当然の責務だ。救助隊連盟の一員として、力を持つ者として』

 

 エンペルトが語った言葉を再度脳裏で復唱する。

「力を持つ者の責務……」

 暫く前に意気投合してトレジャーハンターとなり、その稼ぎで自由気ままに町で遊んで暮らすあたし達には無縁の言葉だ。しかしエンペルトにとっては救助活動を続ける自らの根底を支える言葉なのかもしれない。

「被害を大きくしないために実力不足のあたし達を帰らせ、力のある自分一匹でアママイコを救うつもりでしょうか?」

「……」

 あたしがそんな憶測を口にするとキングラーは俯いて黙り込む。冷徹で感情が無いように見えるエンペルトも実は苦しむポケモンを少しでも減らそうと必死なのかもしれない。

「それは……アレか。昨日ワテらをスカウトしに来た時も、偉そうな態度やったけど本当は救助隊の手が足らんくてどうにか即戦力が得られんか焦っとったちゅうんか」

 そう言えば彼女はギルド長補佐と自己紹介していた。自分の救助活動だけではなく、ギルド運営にも気を配らなければならない立ち位置なのだろう。

 そこまで他のポケモンの手助けをしようとするなんて……。

 

「……見上げた根性ですよ」

「せやな」

 

 

 

 『梅雨空台地』の一角、雨が降りしきる地にて戦いの音が鳴り響く。

「イエイ! 『エナジーボール』!」

「っ!」

 凶暴化したルンパッパの攻撃を『ラスターカノン』で貫くエンペルト。しかし相手は特性『すいすい』で光線を高速回避し、そのまま接近して『れいとうパンチ』でぶん殴った!

「いいぞ親父!」

「やっちゃえ!」

 それを観戦しているのはハスブレロやハスボーの群れだ。彼らの中心ではアママイコが捕まっており、エンペルトは彼女を救出しようにも強敵であるルンパッパをなかなか倒せず四苦八苦している。

 

 ならばとエンペルトはポーチから紐で巻かれた水晶玉のようなものを取り出すが、ルンパッパは素早く近づいて『はたきおとす』で道具の使用を妨害。

 

 しかし、それは敵を接近させるための布石。

「『じならし』!」

「オウ!」

 地面を揺らされたことでルンパッパは転倒するがすぐに起き上がり次の行動に移った。

「イヤー、『バブルこうせん』!」

 泡の光線を勢いよく噴出する凶暴化ポケモン。しかしその先にエンペルトの姿はない。

 

「『ふぶき』!」

「!?」

 『じならし』の効果で『すいすい』のスピードアップを潰されてしまったルンパッパは背後から激しい冷気を浴びて氷漬けになった。

「親父!?」

「それならこれだ!」

 しかしハスブレロの一匹が凍結を解除する効果を持つ『ナナシのみ』を持ってルンパッパの下へ向かう。当然エンペルトは妨害しようとするが……。

 

「ほれ!」

「あいよ!」

「む……!」

 ハスブレロ達はキャッチボールの如く『ナナシのみ』をパスし合いエンペルトのガードを通り抜けてしまった。そしてルンパッパの口にきのみが突っ込まれ……。

 

 

 

「『ハサミギロチン』」

「!?」

 

 氷漬けから解放されたルンパッパの首元へ襲い掛かる赤色の巨大な鋏。

「一撃必殺、や」

「オーノー……!」

 キングラーの切り札で首をちょん切られる……なんて事はなく、ルンパッパは恐怖により泡を吹いて倒れた。

「おい親父……んげっ!?」

「おほほほ、おいたが過ぎましたね。『おしおき』!」

 そしてあたしも鋭い蹴りでハスブレロ達を次々と撃破していき大事な妹の下へ近づいていく。

 

「悪者め!」

「あっち行け!」

「……!」

 しかし『みずでっぽう』で抵抗してくるのはハスボー達だ。彼女らも『すいすい』で行動速度が上がっておりまるで水の弾幕である。

 

 

 

「……、『しばりだま』!」

「ぎゃあっ!?」

 エンペルトは先程落とした道具を掲げハスボー達を硬直させた。

「!!」

 あたしはその隙を見逃さず、華麗にハスボー達の頭上を飛び越えるとアママイコを持ち上げて輪の中から脱出!

 

「キングラー、こっちへ来い!」

「なんや今度は」

 エンペルトはキングラーを呼びながらあたし達の下へやって来ると、先程の『しばりだま』とはまた別の玉を取り出した。

 

「『あなぬけのたま』!」

 そして彼女が道具を使用するとあたし達の周囲が強い光に包まれるのであった。

 

 

 

 

 

 『サマーリゾート』へ無事に帰還し、アママイコを『キュワワー医療所』に預けて外に出た直後の事だった。

「お前達」

 あたし達を待ち構えていたのかエンペルトが呼び止めてくる。

「なんやねん今度は?」

 また暴言を吐いて来るのかとキングラーとあたしは身構えるが……。

 

「……協力感謝する、お陰で救助を成功させられた。私一匹ではあの数を対処することは出来なかっただろう」

 なんとエンペルトは謝礼を述べた。

「……。まあ、こちらも感謝します。あたしの妹の救助に尽力してくれたんですもの」

 少し虚を突かれながらも、あたしも感謝の言葉を返す事にする。

 

「力ある者の責務だ。それより何故お前達は帰らなかった?」

「んなもん当たり前やん、アママイコちゃんを救う為にワテらは『梅雨空大地』に行ったんやぞ。あんさんに帰れ言われて帰る訳無いわ」

「……身内のため、か」

 エンペルトはキングラーの回答を聞くと何かを思い返すかのように視線を落とした。

 

「逆にあなたは何のために救助隊連盟に属しているのですか? 自分や身内のためじゃなくて、どうしてポケモン全てを助けようとするんです?」

 あたしはそんな彼女に対して疑問を投げかける。あたしもキングラーも自分や大事なポケモンを一番に考えるのに、彼女はどうして関係ない相手も助けようとするのだろう。わざわざギルド長補佐という立場に就いているのだから猶更だ。

 

「……私の責務だからだ」

「……」

 しかし、彼女は何かを隠していながらも頑なに語ろうとしない。言いたくないのであれば無理に掘り返す訳にはいかないが……。

「これを受け取れ、助力への感謝とでも……」

 そしてエンペルトは話を逸らすかのようにそれなりの金額のポケを差し出してくるが、あたしはキングラーと顔を合わせてかぶりを振る。

「いらんいらん」

「あたしの妹ですよ。むしろこちらがお礼をしたい所です」

「……そうか。では失礼する」

 受け取りを拒まれた彼女は踵を返すと足早に去って行く。おそらくギルド長補佐としての仕事が残っているのだろう。

 

「……忙しそうですね」

「せやなぁ。ポケ手も足りんらしいし、ありゃいつか体壊すで」

 彼女の後ろ姿を眺めながらあたし達は話し合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 『サマーリゾート』のシンボルである巨大ヤシの木の周囲に位置する『カプ・コケコのギルド』の敷地。そこであたしとキングラーは本を眺めていた。

「ほーん、これが『落とし穴』。踏んだら地下に落とされる……か。おっそろしいなあ」

「『わざへりのワナ』、踏むと一つの技のパワーが全部無くなる……酷いですね」

 救助隊スペースの本棚から借りた『ダンジョンワナ図鑑』を見てあたし達は話し合う。

 

「……お前達、何故ここに?」

 話しかけられ顔を上げるとそこにはエンペルトが怪訝な表情を浮かべて立っていた。

「救助隊やなくても敷地入るんは自由やないんか?」

「それはそうだが。救助隊に興味は無いのではなかったのか」

「ええ。でもキングラーと相談して決めたんです」

 あたしは本を閉じると立ち上がって彼女と面を向かい合わせる。

 

 

 

「詳しい事情は分かりませんが。『サマーリゾート』のポケモンを救おうとするあなたの信念、気に入りました。あなたのスカウトに応じて差し上げても良くってよ」

「……どういう風の吹き回しだ」

 女王としての威厳を振り撒きながら言うが、相手は気にした様子も無く聞いてくる。

「細かい事はええねん、アママイコちゃんを助けてくれた礼とでも思っとき。せやけどスカウトに応じる条件も幾つか付けさせて貰うわ」

「なんだ、言ってみろ」

 キングラーもキングサイズの鋏を鳴らしながら言うがやはりエンペルトは怯まない。

 

「まず一つ。ワテらはトレジャーハンターやし救助でダンジョンに向かった時、宝探しをするかもしれんけど口出し無用や」

「……救助はそんな甘いものでは……」

「ほーう、実力者が足らんって困っとるんと違うんか?」

「……まあいい。ダンジョンで積極的に道具を拾ってくる救助隊も多い事だしな」

 一つ目の条件を提示するとエンペルトは渋りながらも承諾。これで今までのトレジャーハンター業も兼任しながら救助活動で更なる稼ぎが期待できる、一石二鳥だ。

 

「ではもう一つは……エンペルト。あなたにはあたし達とチームを組んで貰います」

「……なんだと?」

 続けて条件を突きつけると彼女は一つ目の時よりも大きく反応する。

「おほほほ、言ったでしょう。あたし達はあなたの信念が気に入ったと」

「あんさん、ごっつう性格と口は悪いし今でも嫌な奴って印象はあるけどな。困っとるポケモンを救ったるっちゅー必死さは伝わってくるんや、言ってしまえば不器用な奴か?」

「……」

「そう言えば『梅雨空台地』であたし達と戦った後、なんだか肩を落としてましたね」

「スカウトした相手に嫌われた思てショックやったんかな!」

「おっほっほ!」

「はっはっは!」

「……」

 二匹で笑い合っているとエンペルトは露骨に苛立っている様子で顔を顰める。表情がいつも固いせいで感情が無いように思えたが、こうして見ると少し親近感を感じる。

 

 

「それにご心配なさらず。チームを組むことはエンペルト側にもしっかりメリットがありますよ」

「ない」

「強情やなぁ、まあええわ。ワテら『梅雨空台地』でルンパッパ達と戦った時、結構息合っとったやん? いくらエンペルトが強くてもソロじゃ困る事もあるやろ」

「あたし達二匹であなた一匹に劣るのは認めますが、それでも仲間がいると違うのでは? あたしはこれまでもキングラーが隣にいたからトレジャーハンターとしてやって来れましたよ」

「……」

 キングラーと共に伝えるとエンペルトは視線を逸らし沈黙。その反応から見るに一匹だけで救助活動していたことに思う所はあるのだろう。

 

「そうと決まったらチーム名やな!」

「ですね。エンペルトとキングラーとあたしで共通点は……」

「待て、まだ了承しては……」

 

 

「へ~。エンペルト仲間出来たんだ?」

 

 その時上空から声が聞こえてくる。見上げるとそこには黒と橙の身体、黄色の殻を持つ伝説のポケモン……カプ・コケコが笑顔で浮かんでいた。

「長……これは……!」

「いいじゃんいいじゃん! エンペルトはぶっきらぼうでギルドでも孤立気味だったんだよねぇ。君達、是非とも彼女と仲良くしてあげてよ!」

 狼狽えるエンペルトを尻目にカプ・コケコは嬉しそうな顔であたし達に言ってくる。

「おほほほ、お任せくださいな」

「はっはっは、コミュニケーションも教えてやらんとな」

「ぐ……お前ら!」

 カンカンになって怒るエンペルトだが、それでもあたし達を追い払うような真似はせず最終的にはチーム『ロイヤルズ』を組むことに了承するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから暫くの時間が経ち。

 

「とうとうインテレオンはん達まで行ってしもたな」

「寂しくなりますね」

「……ああ」

 『スプリングタウン』から来てくれた協力者が全て『サマーリゾート』から去って行き、あたし達もまた『カプ・コケコのギルド』の宿舎へ戻るため通りを歩いていた。

 

「……それにしてもエンペルトが笑う所、初めて見た気がしますね」

「せやな、なんか性格丸くなったとちゃう?」

「……」

 あたし達はリーダーの顔を覗き込むが既に笑みは消えており、普段の硬い表情しか見えない。

「『スプリングタウン』の皆さんとの交流のお陰でしょうか?」

「……かもしれないな」

「はあ、ええ事やけど悔しいわぁ。ワテらじゃエンペルトの不器用は変えられへんかったのに」

 

 

「……いいや、そうでもない」

 エンペルトは立ち止まりあたし達に顔を向ける。

 

「キングラー、アマージョ。お前達というきっかけが無ければ私はおそらくルーア達と和解する事は出来なかっただろう。だから……」

 彼女はそこまで言うと視線を落とし数秒沈黙。

 

 

「……チームを組んでくれて……あ、ありがとう」

 そして、絞り出すように感謝の言葉を言い放った。

 

 

 

 それに対し、あたしとキングラーも満面の笑みを返すのであった。

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