インテレオンの家に上がり込んだスールと百合エッチに耽ってから一時間が経過。
「う、ぐぐ……」
「むう……」
震える体へ必死に力を込める私達。
「うあっ!」
「あぎゅっ!」
しかし糸が切れた操り人形の如く、二人揃って倒れ込んだ。
(だ、だめぇ……起き上がれないよぉ……)
先程のエッチで大量の汗を掻いた私達は喉の渇きを覚えて水分補給をしようと思ったのだが、どんなに頑張っても身体を起こせないのだ。
そもそも、後ろ手に手錠を掛けられた状態では一人で起き上がるのさえ時間がかかるのに『あかいいと』でスールと密着したまま締め付けられていては立ち上がるのは相当困難である。
「この糸解いてよぉ! このままじゃ脱水症状で死んじゃうよぉ!」
「無理ぃ……!」
泣き喚くスールの声を至近距離で聞かされ不快な気分になりながら私は起き上がるため再び身体に力を込める。
「んっ♡」
だが身体を動かした途端に乳首同士が擦れて、力が抜けてしまう。
「この変態ぃ♡! そっちが気持ち良くなると、こっちにまで快感が来るんだけど♡!」
同じく発情したスールが我慢出来ずに腰を揺らし始め、私にさらなる刺激が訪れた。
(ま、まずい……スールと離れない為に『あかいいと』を使ったけど……大失敗…!)
このままでは彼女の言う通り、一切動くことが出来ず干からびてしまいかねない。
どうすれば、と考えながら私は視線を動かす。
視界に入るのは二階への階段、道具の入った木箱、他の部屋と繋がる扉、そして玄関と完全に閉じていない扉……。
「そ、そうだ……外に行けば……!」
「え、え?」
私は唯一自由な足で床に力を入れる。反動でズリズリと身体が少しだけ動くが、二人分の重さがありなかなか進まない。
「水が欲しいならそっちもやってよ……!」
「水って……ちょっと待って!? まさか池の水!?」
私の言葉にスールは愕然とした表情で尋ねてくる。そう、インテレオンの家の前に張られている池……そこなら起き上がる事すら出来ない私達でも水分補給が出来る筈である。
「……孤島で暮らしてた頃だって、そこらの水飲んでたんじゃないの……!? もう元の世界には帰れないんだから我慢してよ!」
「何でそれを知って……うううっ!」
私が睨みつけながら言うと、彼女は悩んだ末にようやく脚を動かし出した。二人掛かりで床を蹴り、少しずつ少しずつ這いずって移動していく。
「んっ……はあっ♡」
「ひうっ♡」
進むために身体を捩らせる度に乳首は擦れるし、クリトリスの根元に嵌まったリングも擦れ私達はいやらしい嬌声を上げて脚を動かした。その跡には膣液が塗りたくられており、まるで私達二人共が淫乱のド変態であることを証明するメッセージのよう。
歩けば数秒もかからない距離を何十分もかけ、ようやく私達は玄関に辿り着く。
「ああっ……あうっ♡」
「はひぃ、あひぃ……♡」
頭で押してドアを開くころには私達は完全にイキかけてしまっており、だらしなく口から垂れた舌同士が当たってしまいそうだ。僅かに残った理性で必死にベロキスを回避し続けるものの、激しい疲労でそろそろ限界も近い。
私達は狂ったように脚を動かして池へと近付いて行き……。
池の中に落ちた。
「ごぼぼぼっ!?」
「が、がばば、がばっ……」
思っていたよりも池が深く、顔全体が完全に池の中に入ってしまったのだ! 水を飲もうとしただけなのに溺れる寸前の私達はパニックになって暴れ始める。
「……っ!?」
唇に柔らかい感触。
「ちょっと、何やってますの!?」
「ぶはっ……!」
「ぜぇ、ぜぇ……!」
私達の頭が池の中から持ち上げられる。そこにはマホイップがおり、どうやら彼女が助け出してくれたようだ。
「やっぱり心配になって来てみたら……これはどういうことでして?」
「……」
マホイップが問い詰めて来るが、私は彼女から目を逸らすだけで何も答えられない。
それどころではないのだ。
「よ、よくも……!」
激昂した様子で睨みつけてくるスール。眉はつり上がり、目からは涙がボロボロ零れていた。
「……か、返してよ……!」
だけど、怒っているのは私も同じだ。何故なら……。
「大切なファーストキスを!!」
私達はお互いに頭突きを見舞う。
「……」
そして呆れた顔をしたマホイップの前で再び池の中に落ちるのであった。
「……なるほど、暴走、すぐ解除のため、スールと一緒、必要」
「ファイヤーからルーアへの話はそういう事だったのね」
インテレオンの家とは別の家屋……『ナイトスター拠点』にて、アノホラグサ達が話す。
あの後、マホイップにいい加減にしろとこっぴどく叱られ、無理矢理ここへ連れてこられてしまったのだ。
「暴走なんて知らないもん! なんであたしがこんな奴と密着しないといけないの!?」
スールはそう言って暴れ出そうとするが、今もまだ『あかいいと』で私と一緒に拘束されておりまともに動けていない。逆に暴れたせいでまた転倒してしまう……私を巻き添えにして。
「大丈夫?」
チルタリスが再び私達を起こして座らせてくれるが、この拠点に来てから何回目だろうか。何度も手を煩わせて彼女に申し訳ない。
「スール、凄く、怒ってる」
「仕方ないわよね……けれど、どうすればあたくし達を信用してくれるのかしら」
困ったようにドラミドロ達が語り始める。
「彼女、インテレオンの事は知ってるんだよね」
「ええ、どういう間なのかは分からないけれど。今のスールが唯一心を開いているのは彼だけとみていいわね」
「だけど、インテレオン、まだ倒れてる」
『ママンボウ医療所』がある方向を見つめてポケモン達はため息をついた。
「……ねえ、もうこの世界で生きるしかないんだから。いつまでも不貞腐れないでよ」
「知らない……!」
私は小声で言うが、彼女も小声で返してきた。おまけに自らの首輪を私の頬に擦り付けて痛みを与えてくる。
「このっ……!」
「いたたっ……」
仕返しとばかりに私はスールの足首を踏んでやった。
「あーっ! また、喧嘩!」
「困ったわね……ニンゲン同士って仲が悪いのかしら」
「ボク達ポケモンの中にも同種族でいがみ合うのもいるからね……ニンゲンもそんな感じなのかな」
しかしそれを見て心配してくるドラミドロ達。スールの事は嫌でしょうがないが、そのせいで彼女らに心労を与えるのは心苦しく私は板挟みになって心の中で呻いた。
「……ニンゲンってどうすれば喜んでくれるかな? オレンのみを食べさせてあげればいい? それとも歌でも歌ってみる?」
チルタリスは悩ましい顔つきで言葉を紡ぐが、それを聞いたドラミドロとアノホラグサはハッと目を見開いた。
「そうだわ、ニンゲンを喜ばせる方法があるじゃないの!」
「早速、やろう!」
そう言って二匹は近づいてくると、無理矢理私達を寝かせてくる。
「えっ、ちょっと!?」
「重い! 重い!」
目を丸くして困惑する私の下敷きとなったスールがそんな悲鳴を上げた。あまりにも失礼な言葉に私は憤慨。
「重くな、いぃぃぃ♡!?」
しかし突然股間に走った刺激に私はビクンと体を跳ねらせる。
「ん? 何やってるのドラミドロ達」
「ああ、チルタリスは知らなかったわね」
「脚の付け根、弄る、ニンゲン、回復」
視線を向けると、なんとドラミドロとアノホラグサが股間を触って来ていた。
「ちょ、な、何!? 何ぃぃ♡!?」
股間を弄られているのは私だけではなく、スールも同じであるようだ。私達はまともに動けないまま性感帯を弄られて悲鳴を上げる。
「うーん、脚の付け根……?」
「ほら見てチルタリス、ここの割れ目を開くとピンク色の部位が出て来るでしょ」
「ここの突起とか、穴とかを弄る、ルーア達、回復して大喜び」
「んぐうっ♡ そんな見ちゃダメぇ♡ あっあっあっ♡!」
まじまじと大切な部分を見られ、私は快感と恥ずかしさで顔を真っ赤に染めた。
「あああっ♡! ポケモンにおマンコ弄られてるぅぅぅ♡!!」
そしてスールも絶叫を上げ、膣液を噴き出し始めている。
「これが回復している時の反応よ」
「へえ、ニンゲンって不思議だね~」
「フシギダネ。私達には、想像つかない、珍しい生態」
アノホラグサの細くて硬い枝が膣内に侵入してくる感覚。膣壁をあちこち擦られ、私は自ら腰を振り出した。更にドラミドロがスールのクリトリスを撫でる度に私にまで同じ快感が共有される。
「気持ちいい……気持いいよぉ……♡ もっと、もっと欲しいよぉぉぉ♡♡!」
「うわああんっ! メーくんごめんねぇぇ♡ あたし、あたし……知らないポケモンに弄ばれて喜んじゃってるぅぅ♡♡」
私達は重なって身体を密着させたまま、ドラミドロ達による責めをただ大喜びして受け入れる。
「ルーア達、確かに嬉しそうだね。ボクも何かしたいけど脚側は満員……」
チルタリスはそんな事を言いながら、嬌声を上げる私達の周りをウロウロと動き回った。
「ずっとフリフリしてるこことかどうだろう?」
「はわっ♡!?」
彼女は私の横に立つと、なんとお尻を揉んでくる! フワフワモコモコした羽毛が臀部の曲面を這い回る感覚に私は喘ぎ声を上げた。
(も、モミモミされてお尻がプルプルしちゃってるぅ!)
チルタリスの翼が動く度に、スールに比べて少しだけ大きな私のお尻のお肉がだらしなく震える。
「これ、どこまで入れても、大丈夫?」
「あ、はひゅうっ……♡!」
しかしお尻にばかり意識を向けるのを妨害するかの如く、アノホラグサが枝をどんどん膣の奥へと突っ込んでくる。そして膣壁を蹂躙しながら入り込んで来る枝が子宮口を突き始めた。
「しょ、それ以上らめぇ……♡」
ディルドとは異なり器用に蠢く枝に奥底を掻き回されて私は恍惚の表情を浮かべる。
「? なんかブルブル震えてるのがある」
アノホラグサは不思議そうにいい、何気なしに『それ』を引っ張った。
私の膣内で震えている『それ』は……バイブだ。
「ふぎゃああああ♡♡♡!!!???」
その途端異常なまでの快感が私に襲いかかり、堪らず絶頂してしまった。
「お……あひ……♡♡♡」
快感を共有しているスールもイッたらしくみっともないアヘ顔を晒している。
「んー、取れない」
「もう、体内にある器官を取って言い訳ないでしょ」
手錠の鍵穴に針金を突っ込まれた時には激痛が襲って来たのに、バイブを引き抜こうとすると強烈な快楽が襲って来るなんて……と薄れゆく意識の中で考える私はグッタリとスールに体重を乗せるのであった。
そんな手荒な交流……もとい洗礼を受けた翌朝。
「いち、に……」
「さん、し……」
『スプリングタウン』の大通りを進む私達は、不本意ながらも声を掛け合いながら脚を動かしていた。
「……あれ、ルーア!?」
「久し振りですね」
そこへ声を掛けてくるのはこの町で活動する救助隊『リュウマ』のハクリューとシママだ。彼女らは再会を喜ぶような顔をしていたが、すぐに怪訝な表情に変わる。
「……もう一人のニンゲン?」
「どうしてそんなにくっついているんですか?」
今の私達は『あかいいと』で緊縛されたまま、転ばないように必死に歩いている最中なのだ。端から見たら何をやっているのかさっぱりだろう。
「い、いやぁ……♡」
「ちょっと、転ぶから恥ずかしがらないで!」
ほぼ全裸の姿を晒すことに慣れていないスールを慌てて叱る。ドラミドロ達に立たせて貰ったと言うのに、またバランスを崩して転んだら台無しだ。
「ルーアの仲間なの? 私はハクリュー、よろしくね!」
「僕はシママです」
「うううぅ♡」
しかしハクリュー達は更に距離を詰めてきて、それによりスールは更に羞恥心で身を揺らし始める。
「見られてる……っ♡」
「ちょ、ちょっと!」
突然私を盾にするように隠れようとスールが動き、危うく転倒しかける羽目に。踏ん張るのが遅かったらこんな通りの真ん中で起き上がれもせずに醜態を晒す所だった。
「ルーア、どうしたの?」
「な、なんでもないよ! ちょっと今、色々あって……!」
突然背中を向けたことで少し悲しげな顔をしたハクリューに私は慌てて弁明する。早く彼女に顔を向けたいがスールが執拗に私を陰にしようと抵抗してくるため全く向きを変えられない。確かに私もこの世界に来たばかりの頃は恥ずかしくて目立たないように必死だったが、もう少し自分達の状態を考えて欲しい。
「何をやってますの? インテレオンさんに会いたいのでしょう?」
四苦八苦する私達に対しため息をつきながら振り返ってくるのマホイップ。
そう。昨日から『ママンボウ医療所』にいた彼女からインテレオンが目を覚ましたと情報を与えられ、今まさに向かおうとしている所なのだ。
(……インテレオンに謝らなきゃ)
暴走していたとはいえ、彼に性交を強要して以前のように疲労で倒れさせてしまったのだ。
(……怒ってるかな。スールと再会出来たから私なんてもういらないのかな……)
『散々キミを守るだの、一緒にいるだの言っていたのに……僕はスールのことを諦めきれていなかったんだ。キミからしてみればとてつもなく酷い奴だろう』
思い起こすのは『崩れ谷』での彼の言葉。
『キミが怒って僕を憎むのは当然だ。だから滅多打ちにするなり、ゴミみたいになるまで蹂躙するなり好きにしてくれ。僕はそれぐらいの事をされなければいけないんだ』
彼は本当に申し訳なさそうに、そう言っていた。
私が怒って憎む……そう覚悟しているという事は。
彼はスールと共に生きるつもりだという事なのだろうか?
「……っ」
嫌な汗が身体を伝う感触の中、私は必死に脚を動かす。『ママンボウ医療所』が見えてくると心臓の動機も早まって来た。
そして……激しい緊張で胸が押し潰されそうになりながら私はスールと共に医療所の入口をくぐる。
「……!」
早朝だからか患者ポケモンがいつもより少ない医療所の奥……病床の一つで横になっていたインテレオンと目が合った。
「め、メーくん……うわっ!」
自分の状態すら忘れ走り出そうとするスール。しかし当然の如くバランスを崩し私と共に床に倒れ込んだ。
「スール、ルーア……ぐっ!」
その姿を見てインテレオンは起き上がろうとするが、苦しそうに胸を押さえてしまう。
「こら、無理をするんじゃありません。まだ回復していないのですから」
「ママンボウさん、手伝って下さいまし。私ではルーア達を起こせませんわ」
やって来たママンボウの助力で私達はどうにかインテレオンの隣へ到達した。
「……メーくん、苦しいの?」
「この程度キミたちの辛さに比べたら大した物じゃないさ……」
スールの問いにインテレオンは答えるが、表情や声音から強がりであることは容易に読み取れた。
「ごめん……私が、インテレオンを酷い目に遭わせたから……」
「違う! キミが怒るのは当然だ……ゲホッ!」
私は先の行為を謝罪するが彼は声を荒げ、それにより咳き込んだ。やはり黒い靄を浴びたまま性行させられた事で相当体力を消耗しているのだ。
「インテレオンさん。目を覚まされて早々で申し訳ありませんが、お尋ねしたい事がありますわ」
「……あぁ、分かった」
「では私は席を外します。あまり負担を掛けないように」
ママンボウが離れていくのを確認するとマホイップはスールに一瞬視線を向けた後、真面目な表情でインテレオンを見つめる。
「スールとはどういう関係でして? 何故、違う世界から来たニンゲンである彼女をご存知ですの?」
問われたインテレオンは視線を落とし、まるで観念したかのように瞼を下ろす。
「……スールはかつての僕のトレーナー……この世界で言うチームの仲間みたいなものだったんだ。僕はスールやルーアと同じ世界の出身で彼女達のようにこの世界に迷い込んだんだよ」
「……」
正直に語るインテレオン。マホイップはある程度予想していたのか驚きこそしないものの、悲しそうに嘆息する。
「ど……どうして話してくれませんでしたの!? それはつまり私達が初めてお会いした時よりも前から、ずっと知らない世界で孤独だったという事ではありませんか!」
「……人間が存在する世界から来たなんて言っても信じて貰えないだろう……って諦めてたんだ。不気味な存在だと思われて傷つくぐらいなら、一匹で元の世界に帰る方法を調べようってね。結局は七年経っても見つからなかった訳だけど」
悲痛な顔で声を荒げるマホイップと、淡々と語るインテレオン。
「……七年?」
スールが目を見開いて呟くが、聞こえていないらしいインテレオン達は対話を継続する。
「『スプリングタウン』で再会した後も……寂しい思いをずっと隠してましたの?」
「……寂しくなかったって言ったら嘘になる。救助隊として活動しながら、世界を越える手掛かりを探し続けていたからね」
「私では、駄目でしたの……? インテレオンさんの相談相手には、なれなかったんですの……?」
「……ごめん。『歪みの穴』現象で大変な時にそんな話をするのは……いや、違うな。ただ僕が、拒絶されるのを怖がったんだ」
消え入りそうな涙声と共に俯くマホイップに彼もまた申し訳なさそうに首を振った。
「……だけどキミがいてくれたお陰でこの世界のポケモン達と親交を深める選択を取れて、寂寥を軽く出来たのは事実だよ」
「インテレオンさん……」
それでも彼は、例え相談は出来なくともマホイップの存在が助けになっていたのだとはっきりと伝える。マホイップは一瞬救われたような表情になるが涙を拭ってすぐに笑みを消した。
「……今でもお帰りになりたいんですの?」
「それは……」
尋ねられたインテレオンはチラリとこちら……私とスールの方を見てくる。元の世界で一緒にいたスールとこうして再会した以上、帰りたいという思いが揺らいでいるのだろうか。
(じゃあ、私はインテレオンにとってそれほど重要な存在じゃ……)
「メーくん、帰らないの……?」
私が切なさを感じているとスールは困惑気に問いかける。この世界に来たばかりである彼女はどうやら帰りたくて仕方無いらしい。
「……」
答えをすぐには出せない様子のインテレオン。マホイップとスールに見つめられ板挟みの状態だ。
「……あ、後にしよう! 今は他にも話すことあるし……!」
彼のフォローの為に声を上げる私に視線が集う。
「…そうでしたわね。失礼しましたインテレオンさん」
「……」
気持ちを一旦切り替えるマホイップと不服そうな表情をして黙り込むスール。
「……感謝するよ、ルーア」
口ではそう言うインテレオンだが、その顔からはどちらかと言うと謝罪の気持ちが強く見えた。
「では、ルーアやスールがリライブを使える理由についてもご存知ですの?」
「いや、元の世界では人間にそういった力は無い筈……って、ちょっと待って…スールも?」
途中まで静かに答えていた彼は目を見開いて自分のトレーナーへと視線を向けた。
「あたし知らない……」
当のスールは首を振って関与を否定。それを見ていると私も最初の頃は彼女と同様に、凶暴化の解除とは無関係のスタンスを取っていたのを思い出す。
「スールは『歪みの穴』とか凶暴化とか知ってるのかい?」
「昨日ドラミドロ達から教わってた筈だよ」
「……」
インテレオンの問いに私は代わりに答えるが、目の前にあるスールの顔が不快そうな感情を表し出した。
「……スール、聞いてもいいかな」
「えっ、どうしたの?」
「七年もの間……何処にいたんだい? それにどうしてあの時から姿が変わってないの…?」
「……?」
インテレオンの問いに対しスールが返したのは困惑したような表情。
「メーくん、何言ってるの……? 『あの光』に包まれてからすぐにあの『崩れ谷』って場所で再会したんじゃないの……? そもそも、いつの間にインテレオンに進化したの?」
「……?」
スールに逆に問いかけられ、インテレオンもまた怪訝そうな表情を浮かべた。
「インテレオンさんは七年この世界で過ごされているのにスールは一瞬……世界を越える時に時間がズレたのでしょうか?」
その姿を見たマホイップはそんな考察を口にするが、私は嫌な汗が額に滲むのを感じる。
スールが世界を越える際……気を失っている間に”何か”が起きたのではないだろうか? そのせいで身体や身に付けていた物に変化が生じたのでは。リライブの力を得たのもそれが要因なのでは。
そして……それは私にも当て嵌まるのではないだろうか?
私もスールと同じで光に包まれた後、次に目を覚ました時には『清流森林』にいたが実際は何年も眠っていたのでは……?
見た目こそ未成熟な身体のままだが異様に丈夫な体質になっている事からも、まともな人間ではなくなっている可能性も充分にある。
「マホイップの言う通りかもしれないけれど……僕は危惧してるんだ。 スールやルーアがこの世界へやって来る際に何かが起きたんじゃないのかと。そのせいでリライブみたいな、本来の人間が持ち得ない力を持たされたんじゃないかって」
インテレオンも私と同じ想像をしていたようで、どこか遠くを見るような目をしながら言葉を紡ぐ。
「持たされた……と言うのは神かそれに準ずるような存在がルーア達をこの世界に呼び寄せたんですの?」
「それは分からない。だけど……スールもルーアも気を失っている間に、自分の意志と無関係に力を得たのは事実だ」
そこまで話して彼は私を辛そうな目で見つめた。
「ルーアが暴走してしまったのだって、その力に依るモノじゃないかって考えてる。だからルーア……キミが気に病む必要は無いんだ。キミが望んで得た力じゃ無いんだろう」
(私が望んだ力じゃ、ない)
「……?」
スールが眉をひそめ怪訝な表情を浮かべる。
「ルーア……?」
マホイップが驚いたような顔を向けてくる。
それはそうだろう。
私が突然涙を流し始めたのだから。
『自分で『歪みの穴』やダンジョン化、凶暴化を引き起こして……それであたかも救世主のようにリライブして……俺達ポケモンを騙して食い物にしようとしたんじゃねェか』
脳裏に浮かぶのは、テラキオンに言われた言葉。その時暴走していた私は我慢の限界を迎えて彼を『ものがえだま』で道具に変えてしまった。
なるべく考えないようにしていたが、ずっと私の心に突き刺さっていた疑念。でも、もしインテレオンの言う通り……『リライブ』が私の望んだ力ではないのなら。
「『歪みの穴』は、私のせいじゃない……?」
私の小さな呟きを聞いてインテレオン達は困惑の表情になる。
(ヒバニー達だけじゃなくて……インテレオン達にも伝えよう……)
そして……私は『銀杏山脈』や『オータムビレッジ』での出来事を涙ながらに伝えた。思い出すのも苦しいけれど、隠していたってずっと辛いままだから……。
「そうか……本当にゴメン。僕がキミを守れなかったせいでそんなに辛い思いをさせてしまったなんて……」
インテレオンは自らの無力さを恨むかのように拳を震わせる。私の不注意で逸れたせいなのに自分を責めないで…と伝えたかったが、苦しかった事を話した影響で気力が尽きかけており、かぶりを振るのがやっとだ。
「……ルーア、キミはそんな中でも本当に頑張ったよ。限界なんてとっくに超えてただろうに、必死にさ……」
「……っ」
私の頭を優しく撫でる彼の大きな手。思わず擦り寄りたくなるがスールと密着したままであるしインテレオンはまだ療養中の身だ。
「テラキオンや『メロエッタ劇団』、『颶風の砂漠』の件も承知しましたわ。ファイヤーさんへの報告はお任せを」
「マホイップ、ありがとう」
『オータムビレッジ』管轄エリアで複数の緊急事態が発生しているため、マホイップは急ぎ『ママンボウ医療所』から出ていった。
「……本当は…もっと早く…伝えなきゃ」
何の為に『未踏摩天楼』を通り『スプリングタウン』へ戻って来たのか忘れ、ただ暴走していた自分を責める私。ヒバニー達やネイティオ達だって大変な筈なのに……。
「そんな精神状態じゃなかったんだ。今こうして、頑張って伝えてくれただけでも有り難いよ」
だが、彼はそう言って笑みを私に見せるのであった。
やっぱり……インテレオンは本当に優しい……。
「……メーくん」
「スール……?」
その時割り込んできたのはスールだ。少女は裸の身体を身動ぎさせ、揺れる瞳でインテレオンを見つめる。
「あたしがいない間に……こいつと仲良くなったんだよね。あたし……もういらないの?」
スールは今にも泣き出しそうになりながら問いかけた。
私はこの世界に迷い込んでからそれなりの時をインテレオンと共に過ごしてきたが、スールからして見れば数日しか経っていないのに自分だけが取り残されたような気分なのだろう。
「……いいや、キミは僕のたった一人のトレーナーだ。見捨てたくなんか……」
縋るような目を向けられたインテレオンは答えようとするが、私とも目が合って途中で言い淀む。
やはり彼にとっては私はあくまで気を紛らわせるための代わりで、本命は元の世界から共にいたスールなのだろうか?
「インテレオン……私は……」
「待ってくれ。ルーアだって独りにしないでって、言ったじゃないか。スールと再会出来たからって、キミを捨てるなんて……!」
沈黙する私に対し、インテレオンはそう言うが今度はスールと目が合って言葉を止める。二人と一匹の間で流れる微妙な空気。
「……メーくんは優しいんだね」
「え」
その空気を破って口を開いたのはスールだった。彼女は呆然とする私の頬で勝手に涙を拭うと、笑顔をインテレオンに向ける。
「こんな、変態露出狂を、助けて世話してあげるなんてメーくんはやっぱり素敵だよ」
「なっ!?」
「分かってるよ、"一番の"あたしがいても助けずにはいられなかったんだよね」
「なっ、なっ、なっ!?」
彼女の勝手な発言に私は憤慨して声を上げる。
「勝手なこと言わないでよ! 私だって……!」
「私だって?」
「……っ」
反論しようとする私だが、スールに睨みつけられながら問われ答えに詰まってしまった。
「……、うるさい! だけどあなたが一番だなんて認めないもん!」
「なんで! あたしはメーくんのトレーナーだよ!」
「ちょ、ちょっと二人共……くっ」
怒鳴り声を上げて喧嘩を始める私達の姿にインテレオンは止めようとするが、起き上がろうとして胸を押さえる。
「……」
そしてそんな私達の元へ怖い顔で近づいてくるのはママンボウ。
またも医療所で騒いだ私達はあえなく摘まみ出されてしまう羽目に。
けれど、インテレオンのお陰で心のしこりが軽減されているのを確かに感じるのであった。