ダンジョン『颶風の砂漠』で再発した巨大化に対処するため奥を目指していた私達。しかし、その途中で聞こえて来たのは不気味な声である。
「!?」
休憩していた私達は咄嗟に立ち上がり、辺りの警戒に入った。しかし今いる広間と繋がるいずれの通路からも凶暴化ポケモンがやって来る気配は無い。
「上だ!」
ジャラランガが叫ぶと同時に私達の周囲の日光が何かに遮られた。
「危ないです!」
「わっ!?」
オーマは私に体当たりの如くぶつかり、その勢いで地面を転がる。
ズン!!
「うおっ!?」
その直後大きく地面が振動し砂煙が広がる。まるで煙幕の如く巻き上がる濃い砂煙の向こうでは身を丸めていた何かが身動ぎしていた。
「あ、あれは…!?」
そして砂煙が晴れると共に襲撃者の姿が露わになる。
日光を反射する黒装。ベルトのような艷やかな重甲に守られている丸みを帯びたボディ。牙のようにも見える一対の棘。そして身体のあちこちを走る紫色のライン。
パッと見ではドンファンにも見えるその存在は……!
「黒装モンスター!!」
「ウィィィン……」
まるで電子音のような感情を感じさせない声を上げる黒装モンスターは紫に光る目でまず声を上げたヒバニー達を見つめる。
「……」
しかしすぐに視線を外し、続いてジャラランガに視線を向けるがこれまた興味が無いかのように向きを変えた。
「ブォン……」
「あっ……」
そして私とオーマ……否、私を視界に捉えた途端、黒装モンスターはラインを激しく発光させる!
「『はっぱカッター』!」
チコリータが私を守る為に葉の刃を飛ばし、黒装モンスターの背中に走るラインへ命中させた。
「ビビ」
ラインが傷付けられたことで黒装が剥がれ落ち、赤色の発光部位を持つ本来の体表が露出する……が。
「そ、そんな!?」
即座に新しい黒装が露出した部位を覆い直し、紫色のラインも復活してしまった!
「どういう事だ!? ちゃんと剥がれ落ちたのに!」
ヒバニーの言う通り、剥がれ落ちた黒装の欠片は相手のそばにあり黒い靄を放出している。
「ブォン!」
黒装モンスターは攻撃して来たチコリータには目も向けず、四足を収納すると身体を丸めてサンドの如く球状になり始めた。
「いかん!」
攻撃態勢に入った事を察したジャラランガが止めようとするが、黒装の欠片から放たれる靄を前に足止めされる。
「ビビィィ!!」
「うああっ!?」
黒装モンスターは高速回転しながら『ヘビーボンバー』で私達目掛け突撃! その重量を活かした攻撃を浴びて私とオーマは宙を舞い地面に叩きつけられた。
(い、痛い……)
怪我一つ無い私だが、激痛が全身に走り全く動くことが出来ない。元の体勢に戻った黒装モンスターが一歩一歩近付いて来るのをぼやける視界で見ているだけだ……。
「うおおっ! ニトロチャ……がっ!?」
後ろから炎を纏って突撃しようとしたヒバニーだが、黒装モンスターはベルトのような重甲を動かし、拾い上げた黒装の欠片を彼にぶつけた!
「ヒバニーくん!」
欠片に圧し潰される形で地面に墜落したヒバニーを助けようとするアシマリであるが、黒い靄のせいで接近すら許されない。
「破ァ!!」
次はジャラランガが素早く黒装モンスターへ接近し、復活したラインを『スカイアッパー』で殴り付けた。しかし今度も黒装は剥離するが数秒も経たない内に纏い直される。
「……っ、喝!!」
剥がれ落ちた黒装より放たれる靄から逃れるため、ジャラランガは『ばくおんぱ』の反動で一気に後退。
「ビ」
邪魔者が自分から離れて行ったのを確認した黒装モンスターは私の眼前で立ち止まり、前脚から何かを伸ばしてくる。
あれは以前にも見たことがある。
テツノカイナが私へとエネルギーを注入する時に用いた管だ……!
まさかこの黒装モンスターも私に……。
「逃げてルーア!」
「こっち見なさい!」
水のバルーンと葉の刃が黒装モンスターに襲いかかるが、相手は素早く一回転して弾いてしまう。
「……」
だがそこでようやく相手はチコリータ達の存在を煩わしく感じたのか、彼女達へゆっくり顔を向けた。
今度はチコリータ達が危険なのではと私は顔を強張らせるが、彼女らは今のうちに逃げるように手振りで伝えてくる。
「……ギュイィィィィ!!」
突如、黒装モンスターが紫色のラインを輝かせながら機械の駆動音のような咆哮を放った!
黒装モンスターの眼前に現れたのは激しく輝く発光体。まるでエネルギーを凝縮したかのような輝きにアシマリ達が咄嗟に身構える。
そして発光体が弾けると共に、波紋の如く大地に広がっていくのは紫の光。
「何事だ……?」
ジャラランガは訝しげに黒装モンスターを見つめる。見せ掛けだけで何の効果も持たない技だったのか……と考えたがそれは大きな間違いだった。
「なんで!? やめてよチコリータ……!」
「五月蝿い! 『テツノワダチ』様の邪魔はさせないわ!」
(……え)
そこには悪夢のような光景が広がっていた。
チコリータがアシマリへ攻撃を仕掛けていたのだ。
「何をしておる!?」
ジャラランガが仲間割れを止めようとするが、通路の向こうから転がって来た存在が立ち塞がった。
「させない、私が相手だ」
それは先程情報収集に向かった筈のサンドであった。リライブした筈であるのに彼女は敵意をジャラランガに向けている。
「守れー」
「守れー」
「『テツノワダチ』様をお守りするぞ!」
更にコジオ達を連れてジオヅムまでこの広間に戻って来るのが見えた。
リライブした筈のポケモンが再び敵対して来ている……まるでマナフィの影響を受けていた『海底の地割れ』のポケモン達のように。
(……こ、こんな事って……)
唯一正気を保っているアシマリとジャラランガも妨害され、それを尻目に黒装モンスター……テツノワダチが再び私へ管を伸ばして来た。
このままではまた大量のダンジョンエネルギーを流し込まれて……。
「『ねらいうち』!!」
「ビ……!」
刹那、テツノワダチの重甲を走るラインを高圧縮の水弾が撃ち抜く。
(……!)
視線を向けると、倒れたまま『おたすけだま』を掲げているオーマを背にインテレオンとスールが立っていたのだ。
「メーくん、無理はしないでよ……!」
「……そうしたいのは山々だけど。そうも言ってられない状況だ」
彼は素早く辺りを見渡し、状況の厳しさに苦々しい表情となる。
「ビビ……」
テツノワダチは新しい闖入者に一度だけ視線を向けるが、すぐに黒装を纏い直すと再び管を私に伸ばし始めた。
「させるか!」
インテレオンは『ねらいうち』を連射し、復活させたラインや管を的確に撃ち抜いて行き私へのエネルギー注入を徹底的に妨害する。
「ウィィィ!」
執拗な妨害を流石に無視できなくなった黒装モンスターは電子音の叫びを上げ、周りのポケモン達へ何かを指示し始めた。
「インテレオンを狙うのね……!」
「行くぞ!」
するとチコリータやサンド達が一斉にインテレオンに狙いを定め、彼を取り囲もうと移動を開始する。今度はインテレオンが危険だと理解し、私は激痛が走る身体に鞭を打ってようやく立ち上がる事に成功。
「……ごめん、『こごえるかぜ』!」
「うっ!?」
そしてチコリータからの狙いから外れ余裕が生まれたアシマリが冷気を乗せた風を放つ。くさタイプやじめんタイプには効果覿面でチコリータ達の動きを鈍らせた。
「渇くがいい、『しおづけ』!」
「『とんぼがえり』!」
いち早くインテレオンに接近したジオヅムが大量の塩を発射するも、彼はスールとオーマを両脇に抱えて華麗に飛び退いてみせる。
「敵に背を向けるとは甘い!」
「うわー!?」
「があっ!?」
そしてジャラランガもコジオ達をジオヅムにどんどん投げつけ反撃に入った。
「……ブォン!」
オーマがインテレオン達を呼んでくれたお陰で攻勢に転じたものの、テツノワダチは諦める様子はなく足を引き摺って逃げようとする私を紫に光る眼で捕捉する!
「オーマ、この枝を続けて振るってくれ……『ねらいうち』!」
「は、はい……!」
インテレオンは灰色のニンゲンに協力を頼むと、水弾を再び発射!
「ビビ」
紫のラインを攻撃され黒装が剥がれ落ちるが、テツノワダチは意に介した様子も無く私を攻撃するため丸まろうと身動ぎを始めた。
そんな黒装モンスター目掛けて飛来するのは枝から放たれた光弾。
「ウィィィン!?」
黒装が剥がれ本来の体表が露わになった部位に光弾が命中。すると同時にテツノワダチを光が包み込み、そのままどこかへ飛んで行ってしまう。
「……黒装モンスターには道具の効果が出ないって以前聞いたけど……黒装を剥がした部位には効くんじゃないかって予想が当たって良かったよ……」
インテレオンは黒装モンスターという目下の脅威を『ワープのえだ』で退けられたことに安心したように言うが、すぐさま膝を突いて苦しそうに荒く息をし始めた。
「メーくん!」
「ゼェ……スール、頼む……ゼェ、『おたすけだま』の効果が切れる前に皆のリライブを……」
駆け寄ろうとする自らのトレーナーに対し、彼は息が絶え絶えな状態で懇願する。まるで私にリライブをさせたくないかのように。
「……あ、あたしどうしてアシマリ達を攻撃して……」
「さ、さっきのは何だったんだ。まるでまた凶暴化したかのように……」
しかし、テツノワダチが飛び去ったと同時にチコリータ達も正気に戻っていた。やはりテツノワダチのせいで彼女らに悪影響が出てしまっていたらしい。
「よ、良かったよチコリータ! ……って、今はそれよりヒバニーくんを!」
「頼めるかい、スール……」
「……うん、分かった」
アシマリが喜んだり目を丸くしたりと忙しなくするのを見て、スールは仕方ないと言った様子で欠片に押し潰されたままのヒバニーの元へと向かっていく。
「……ヒバニー達から聞いている。ルーアの仲間であるインテレオンであるな」
「……僕もルーアから聞いているよ……『オータムビレッジ』の道場主ジャラランガ」
それを横目に見ながら相対するジャラランガとインテレオン。
「ま、待ってインテレオン……ジャラランガは、私達人間を嫌ってないって……」
「……そうか、時間もあまり無いし深く追及はしないよ」
エンペルトの時のように、ジャラランガが私を苦しめたことに対して彼が怒るのかと思い仲裁しようとするが、インテレオンは小さく頷いて素早く水に流してくれた。
「ここはきっと『颶風の砂漠』だよね、どんな状況なんだい?」
「二度目のダンジョン巨大化が発生し、新しく生まれたのではと考えられる『黒い繭』を破りに向かっていた所だ。しかしテツノワダチと呼ばれていた黒装モンスターに襲われ、苦戦してしまった。奴の面妖な術によりチコリータやリライブしたポケモン達が再び襲って来たのだ」
インテレオンの確認に対しジャラランガは情報共有を行う。
「メガガブリアスが暴れるだけじゃなく、ダンジョンも更に拡がったのか……そしてテツノカイナとは別の黒装モンスターも……」
「……」
座り込んだまま唸るインテレオンの前で、ジャラランガは『テツノカイナ』の名を聞くと不自然に黙り込んだ。
そしてインテレオンの体から光が放たれ始める。『おたすけだま』で救援に入れるのは一時的……彼はもう『スプリングタウン』へ帰らなければならないようだ。
「……」
彼は心配気な表情で私に何か言いたげにするが、首を振って口を閉じる。
「……オーマ、呼んでくれてありがとう。まだ『おたすけだま』はいくつか残ってる筈だし今回みたいな危険を感じたら迷わず使って欲しい」
「……大丈夫なんですか? 凄く苦しそうですけど……」
インテレオンはオーマに伝えるが、彼女は今にも倒れそうな彼を前に確認を取った。
しかしその返答が行われるより前に彼は『スプリングタウン』へ帰ってしまうのだった。
「か、帰っちゃった。でもギリギリで黒装消すの間に合ったね」
「スール……だっけ。今度会ったら礼しないとな」
黒装の欠片の対処をしていたスールも帰ったらしく、後にはアシマリ達が残されていた。
「はぁ……」
憔悴した様子で溜め息をつくのはチコリータだ。テツノワダチの能力のせいとはいえ、私達やアシマリに敵対してしまった事によるショックを隠せていない。
「気にしないでチコリータ! 黒装モンスターについては分かってない事ばっかりだから仕方無いよ!」
「気持ちはありがたいけど……もし万一の事が起きてたらって思うと……」
「……ならば、奴が光の波紋を広げた時にどのような変化を感じた? 仕組みを暴けば対策手段も見つかるやも知れぬ」
励まされても落ち込んでいる彼女へ問いかけるジャラランガ。確かに対抗策が手に入れば、また同じ事をしてしまうかも……といった懸念は払拭出来る筈だ。
「……『つめとぎ山』で凶暴化してた時とそっくりだったわ。この地……いいえ、今回はあの黒装モンスターを守らなきゃ、テツノワダチの望みを叶えさせなきゃ……って意思が勝手に浮かんで来て……」
「俺も同じだ! 黒装の欠片で結局動けなかったけど、あいつを助けなきゃ……って思っちまってた」
俯いたまま答えるチコリータに続けてヒバニーも地団駄を踏みながら同様の意見を伝えてくる。
「……私のリライブ……本当は皆を元に戻せてなかったのかな。皆をぬか喜びさせただけで、問題の解決なんてしてなかったのかな」
「そ、そんな事……は……!」
私が弱々しく自分の無力さを嘆いていると、チコリータ達が声を荒げて否定しようとして来る。しかしテツノワダチの術中に嵌まってしまった手前、言葉が続かない様子だ。
「うわっ、なんだ!?」
「やめてー!」
「侵入者を追い出せぇ!」
「出ていけぇ!」
余裕が無い状態であるのに、さらなる騒ぎが巻き起こる。サンドやジオヅム達が目を白黒させて逃げ回っているのが視界の端に見えた。彼女らを追い回しているのはこの地の凶暴化ポケモンと思わしきマラカッチの群れだ。
「……サンド達が外部のポケモン扱いされてる?」
アシマリが訝しげに首を傾げる。彼女の疑問通り、『颶風の砂漠』で凶暴化した筈のサンド達が同様にこの砂漠で凶暴化しているポケモンから敵視されるのは妙である。
「むう……『ばくおんぱ』!」
「のわあっ!?」
見かねた様子のジャラランガが爆音でマラカッチ達を撃破しサンド達を救出したが、彼女らは顔を蒼白にさせていた。
「ど、どうしてだ? あの黒装モンスターが妙な術を使うまで、このマラカッチ達は私を受け入れて情報もくれたのに……」
「ちくしょう! なんで俺達が侵入者扱いされるんだ!?」
意味が分からないと言いたそうにサンドやジオヅムがワナワナ身を震わせるが、その答えはマラカッチ達自身に聞いてみるしかないのだろう。
(……リライブして、本当に物事が良い方向に進むのかな……?)
私は慌ててプルプル首を振り余計な思考を散らす。今まで通りリライブするしか私には出来ないのだから、こんな事考えていたってしょうがない。
黙ってマラカッチ達に近寄ると彼女らの体から青い光が放たれ……私の中に再び違和感が溜まってゆく。
「ごめんねジオヅムくん達。あたし達、どうしてかこの土地から寝返った存在だって認識しちゃって……」
「過ぎた事はしょうがないとはいえ、ここがダンジョン化したばかりの時は味方だと認識してくれたじゃないか。一体どういう事なんだ?」
事情を知ったマラカッチは申し訳なさそうにし、ジオヅムもそれを許しながらも突然の手のひら返しが起きた理由を尋ねる。
「分かんないよ、凶暴化したのだって今日なんだし……」
「それもそうか。俺達だって同じだしな」
しかし彼女らも理解が追いついていないようで残念ながら有益な情報は得られなさそうだ。
「そう言えばお主達は黒装モンスター……テツノワダチの影響は受けておらんのだな? 地面に紫色の波紋が広がったのを見ておらんか?」
「ああ、それなら見たよ……そういえばあの波紋が来る前はサンドちゃんを味方と判断してたけど、サンドちゃんがあの波紋に触れた途端になんだか敵意が芽生えたような……」
ジャラランガの問いにマラカッチは不思議そうに説明をする。
「あの波紋に触れ、私はかの黒装モンスターを守らねばと思考してしまい、急ぎお前達のいる広間へ転がり戻って来たという訳だ。どうやら私がマラカッチ達を呼び寄せてしまっていたようだな」
「……!」
そんなサンド達の言葉を聞いていたオーマは何かに思い至ったかのように表情を険しくした。
「……それはつまり、黒装モンスターが放ったあの波紋は凶暴化したことが無いポケモンおよびまだ凶暴化しているポケモンには何ら影響を与えないけれど……"一度凶暴化しリライブされたポケモンの性質を変化させる"力を持つということですか?」
「ど、どういうこと!?」
オーマの言葉にチコリータは自分の体をあちこち確認しながら尋ねる。
「サンドを例に挙げると、黒装モンスターが現れるまでは彼女は『颶風の砂漠』の所属だったと考えられます。リライブされたとはいえその情報はサンドの体に残っており、凶暴化状態のマラカッチ達からも味方と判断されていたのでしょう」
「私の体に情報が?」
サンドもまた、自分の体に変な物があるのかと身体を捻り確認し始めた。
「ですが、かの黒装モンスターの波紋は……もしかしたらその所属を上書きする行為なのではないでしょうか? だからサンドは元々『颶風の砂漠』の所属だったのが『テツノワダチ』の所属に変わり、テツノワダチを守る思考になってしまった上に『颶風の砂漠』所属のマラカッチ達から敵だと認識された……と」
「ふむ……それなら確かに合点がいく」
「ま、待ってくれよ、情報ってなんだ!? 俺達の体に何が起こってんだ!?」
ゆっくりと頷くジャラランガとは対照的にヒバニーは大いに困惑しながら追究する。
「……リライブで出しきれなかった、悪いダンジョンエネルギーの残滓」
私が呟くように答えると、ポケモン達が驚いた様子で視線を向けてきた。
おそらくチコリータやサンドがテツノワダチの味方をし出したのは、体内に残ったエネルギーの残滓に対し何らかの手段で働きかけられ……いわば『悪いダンジョンエネルギーの増幅』みたいな行為をされたからだろう。
もしそうであれば、『海底の地割れ』でジーランス達がリライブされた後も攻撃的だったのも、大量の悪いダンジョンエネルギーを持ったマナフィの影響を受け、体内のエネルギー残滓が増幅されたから……と説明出来る。
そして『椰子の木ビーチ』のキャタピーも凶暴化していないだけで、実は悪いダンジョンエネルギーの残滓を持っており、『椰子の木ビーチ』所属という情報もそこに含まれていたのかもしれない。だからこそ凶暴化していた親からも攻撃されずに済んでいた……と考えられる。
「……それが本当ならちょっと気持ち悪いわね……。あたし達の体内にまだ悪いダンジョンエネルギーが残ってるってことでしょ?」
「うぅ、『つめとぎ山』のダンジョン巨大化に巻き込まれた失敗がこんな所で牙を剥いてくるなんてよ……」
「チコリータ、ヒバニーくん……」
話を聞いた『ゆけゆけズ』はかなりショックを受けてしまったようで、力無く溜め息を漏らし始めた。
「それでは私やジオヅム達も……体内のエネルギー残滓に含まれる所属情報が『テツノワダチ』所属に変わってしまったせいで、これからは『颶風の砂漠』で凶暴化しているポケモン達から襲われてしまう……と言う訳か?」
「そ、そんな話あって良いものか! 戦いを避けるためには俺達がこの地を出て行かなきゃならないのか!?」
「やだよー」
「ここにいたいよー」
サンドやジオヅムも絶望を隠し切れない表情をしており、コジオ達は泣き出してしまう。
(私が……リライブしなければ良かった……?)
不用意にリライブをしたせいでサンド達はテツノワダチの能力の影響を受けてしまい、この地の凶暴化ポケモンから襲われるようになった。リライブしなければ迫害されることなく暮らせていた筈なのに……!
「ルーア、しっかりするのだ」
呼びかけてくるのはジャラランガだった。
「黒装モンスターがあのような術を使えたなど、誰にも予想出来なかった事だ。今は立ち止まるよりも黒い繭をどうにかせねばならぬ……そうであろう」
「……うん」
私は彼の言葉に力無く頷く。今やるべき事は分かっている……それでも目の前の『ゆけゆけズ』やサンド達が落胆する姿を見ていると私の力が不幸を呼んだようにしか思えない。
「……!」
暗い表情をする私に気付いたのか、ヒバニー達は突然立ち上がる。
「えっと……ジャラランガの言う通りだな! 今は黒い繭をどうにかしようぜ!」
「そうね……! あたし達が出来ることをやりましょう!」
「……っ」
そして彼らは空元気の如く明るく言いサンドの下へ向かって行った。辛そうな表情を浮かべるアシマリも仲間に掛ける言葉が思い付かない様子のまま後ろをついて行く。
(また黒装モンスターが現れたら利用されるかもしれないって不安がある筈なのに、気を遣わせてる……)
ジオヅム達を連れて一旦『静寂の丘』に向かうと言うサンドと別れ、私達は彼女が集めてくれた情報を元に黒い靄が漂う地点へと向かっていた。
「本当に新しく繭が出来たのであれば……メガガブリアスとは別のポケモンが中に取り込まれているんですよね?」
「そう予想しておるが、複数回ダンジョンが拡がるのは初の事例。思いがけない事が起こってもおかしくはない」
テツノワダチが再度襲来して来ないか警戒しながら、ゆっくりと進みつつオーマとジャラランガが会話をする。だが私含め他の面々は沈黙したままだ。
「……」
私は黙ったまま脚を動かし……。
ブブブブ……。
「っ……♡」
バイブの振動により快感に襲われピクンと身を跳ねらせた。
気分が重かったせいで『あかいビードロ』を吹く精神的余裕が無く、いつの間にか性欲が強まってしまっていたらしい。こんな状況なのに発情なんかしてられないと、無視して脚を動かすが今度はクリトリスリングが擦れてしまう。
「!」
そんな私の異変にいち早く気付いたのはオーマだった。
「……やった方がいいですか?」
「……う、うう♡」
周りに聞こえないように小声で尋ねてくる彼女に対し、私は喘ぎ声しか返せない。
「少しだけ失礼します!」
通路を抜けて広間に到着すると、オーマは私を連れてジャラランガ達の視界に入らない巨岩の陰へ移動した。
「手洗いか?」
「そ、そんな所です!」
「仕方あるまい、待っていよう」
彼女はジャラランガとそんな応対をしながらビクビク震える私の身体を支える。
「あまり遅いと怪しまれますから、早くイッて下さいよ」
「んっ♡!!」
オーマの指が割れ目に入り込み、私は強い快楽に声を漏らした。さっきまで立つのがやっとだったのに、気持ち良さで勝手に体がピンと伸びて直立姿勢になる。おまけに更なる快感を求めて足が勝手につま先立ちになったり踵を下ろしたりを繰り返し、自ら股間をオーマの指に擦り付けようとしていた。
「気持ちいい、気持ちいいよぉ……♡」
空気が乾燥した砂漠とは反対に、私の秘部は愛液でずぶ濡れになっている。
「……刺激が強いのはここ、と」
「ひゅん♡!!」
さっさと終わらせたいオーマは私のクリトリスを摘んでしごき、鮮烈な刺激を与えてきた。激しい快楽により私は身体を仰け反らせ天を仰ぎながら嬌声を上げる。
「も、もっとぉ♡ もっと欲しいよぉ♡」
水を渇望するかの如く、私は踵を上下させて少しでも多く刺激を得ようとする。
(私が黒装モンスターに狙われてるせいで迷惑かけたり、リライブした事が不幸を生んだり……色んな事で渇いた気持ちを快感で潤わせたいぃ……)
興奮により砂漠の暑さにも負けないぐらいに身体が火照っているのを感じながらクネクネ身を捩る私。その前に立つオーマは暗い表情で指を動かしていたが、暫くして意を決したように口を開いた。
「ルーア……」
「あ、あひぃ…♡?」
「本当に大丈夫なんですか……? 『夢想の湖』にいた頃程ではないですけど、また調子悪くなってません……?」
「……っ」
その真摯な問いに私は動きを止める。
「お、おおぉ♡」
そして何も答えず、再び腰を動かし始めた。
今は難しい事なんて考えたくない、ただ気持ちよくなって苦しいのを解消したい。
「……」
オーマは辛そうな顔をしながらも、私の陰核を更に強く摘んだ!
「あああんっ♡♡!!」
意識が飛びそうな程の快楽に包まれながら絶頂を迎えた私はガクガク震える脚に意識を向け座り込みそうになるのを我慢する。
「……」
(い、いつまでも待たせたらいけない……早く戻らなきゃ……)
黙って見つめてくるオーマへお礼を言う余裕もないまま、私はヒバニー達の所へ戻るのであった。
しかし。
「うおおッ! 『つっぱり』だあッ!」
そこには『ゆけゆけズ』とジャラランガだけではなく、更にもう一匹のポケモンがいた。どっしりと安定した体を持つポケモン、チャオブーだ。
その相手を見て私は顔を青ざめさせ息を呑む。あのチャオブーは救助隊『ヒートソウル』のメンバーの一匹で私達人間に敵意を持っているポケモンである。
「くっ……!」
張り手を連発しながら迫ってくる凶暴化チャオブーから必死に距離を取るヒバニーだが、先のテツノワダチ戦で酷な事実を突きつけられた影響がまだ残っているようで動きが悪く、なかなか反撃に移れていない。
「例え倒してリライブしたって、このチャオブーもあたし達みたいに残滓が体内に……」
いつでも攻撃するチャンスはあるにも拘らず、チコリータも足踏みするばかり。
「二匹とも……ええい、みずでっぽ……」
「待つのだ」
そこへアシマリが援護に入ろうとするが、何故かそれを止めるジャラランガ。チャオブーはほのおタイプであり、『みずでっぽう』は効果覿面である筈なのになぜ止めるのかと私は眉をひそめた。
「アシマリの代わりにお主が行くのだ、ルーア」
「えっ!?」
更に何故か彼からそんな事を言われ私は増々困惑する。
「どういうことですか、さっさとどうにかした方が……」
オーマもジャラランガの意図が汲み取れないようで不平を述べた。
「万一の事があれば吾輩がチャオブーを撃破する。さあ、二匹と力を合わせてみよ!」
「うわっ!」
そして無理矢理私は前に押し出され、凶暴化したチャオブーの前に姿を現す事になってしまった。
「……あ、お前はニンゲン! さてはこの砂漠を滅茶苦茶にするつもりで師匠まで操ったんだなぁ!? オイラ、絶対に許さないぞ!」
凶暴化の影響によるものか以前にも増して私へと憎悪を向けてくる彼は全身に炎を纏い、鈍重そうな見た目に反し猛スピードで突撃してくる!
「熱いっ!?」
「ルーア!」
『ニトロチャージ』を浴び悲鳴を上げる私へ駆け寄ってくるチコリータ。しかしチャオブーは更にスピードを上げて今度はチコリータに迫った!
「おらあっ!」
そんなチャオブーに正面からぶつかるのはヒバニーだ。『ニトロチャージ』同士が衝突し合い、乾燥した砂漠の空気をさらに焼き尽くさんばかりに熱気が周囲に迸る。
「ぐあっ……」
「ぶつかり稽古を沢山して来たオイラにお前みたいなチビが勝てると思ったのかぁ?」
しかし重量の差もあり押し負けてしまったのはヒバニーの方だった。
(稽古……)
チャオブーだって苦しむポケモンを助けるために救助隊として、血の滲む様な努力を積み重ねて来たのであろう。しかしこうして凶暴化してしまった以上、たとえリライブしようとも今後黒装モンスターの術を浴びてしまったら支配下に置かれてしまうのだ。
リライブで彼を救助隊に復帰させても、ヒバニー達のように悩み苦しむ羽目に陥らせるだけではないだろうか。ずっと目指してきた救助隊として、いつ操られてもおかしくない自分は失格だと自己嫌悪させるだけではないだろうか。
「俺達は……高みを目指すんだ……!」
「そうよ、こんな所で立ち止まってられない……!」
ヒバニーとチコリータは自分に言い聞かせるように叫ぶが、その表情は悲痛なもの。悪いダンジョンエネルギーの残滓という二度と消せないかもしれないハンデを背負ったままで、本当に最高の救助隊になんて辿り着けるのか分からなくなっているのだ。
「ごちゃごちゃうるさいぞぉ! 『つっぱり』!」
「『リフレクター』……!」
チャオブーの連続攻撃をチコリータが壁で受け止めるが、彼女の精神状態が良くない事もあり数発で『リフレクター』にヒビが入り始めた。このままでは破られてしまう……!
『ゆけゆけズ』の夢が、破られてしまう。
「ごめん、『チャームボイス』!」
「っ!?」
その時、一匹のポケモンが動き出す。
彼女は立ち塞がっていたジャラランガを無理矢理押し退けると、ヒバニー達の前に躍り出た。
「『みずでっぽう』!」
「ごふっ!?」
続けてチャオブーが『リフレクター』を破壊した瞬間を狙い、水のバルーンを『リフレクター』の破片にぶつけ凶暴化ポケモンごと水で吹き飛ばした。
「アシマリ……!」
「ヒバニーくん、チコリータ」
そのポケモンは笑顔で振り返ると、ヒバニー達と目を合わせる。
「高みを目指すなら私が支えてあげる。黒装モンスターにまた意地悪されても、私がなんとかするよ。だって二匹は私のアイドルになりたいって夢を支えてくれるって言ってくれたから!」
力強く言い放つ仲間を前にヒバニーとチコリータは目を見開き……そしてゆっくり頷いた。
「……サンキュな、アシマリ」
「そうね。あなたの夢もあたし達の夢も……支え合えば叶えられるわ!」
二匹の言葉を聞くとアシマリは満足そうに頷き返してジャラランガの後ろへと戻っていく。
「ヒバニーくん達が自力で壁を乗り越えられるか試してたんでしょ? でもゴメンね、見てるだけなんて嫌だったから」
「いや、構わん。それが主らの答えなら尊重しよう」
「んがあっ! 生意気なチビ共なんだなぁ!」
ずぶ濡れの姿で起き上がって怒りのままに叫ぶチャオブーであるが、相対するヒバニー達は気圧されることなくまっすぐ相手を見据えていた。
「……っ」
「ルーア、躊躇う事はないぞ!」
チャオブーをリライブするのが果たして正しい事なのか分からず狼狽えていた私に対し、ヒバニーが元気よく声をかけてくる。
「いつかルーアに頼らずともリライブ出来る日は来る! そうすれば全ての凶暴化ポケモンが元に戻るのもすぐだ! だから今はダンジョンの巨大化を止めるために行動すればいいんだ!」
……そうだ。
サンドやジオヅム達がこの地にいられなくなったのは確かに悲しいけれど。
それは永遠じゃない、この砂漠のポケモンが全て正気に戻れば帰って来れるのだ。
「ふんっ! 『ニトロチャージ』行くぞぉ!」
チャオブーは再び炎を纏い、体を濡らす水を一気に蒸発させると私目掛けて高速で突撃してくる!
「っ!」
私は急ぎランドセルを揺すり、えだを取り出すと光弾を相手に命中させた。
その瞬間、私とチャオブーの体が白い光で包まれ……。
「!?」
両者の位置が入れ替わった。
「ぎゃっ!?」
チャオブーは『ニトロチャージ』で上がったスピードを制御し切れず、ダンジョンを構成する岩壁に勢いよく正面衝突!
えだを振るった者と光弾を受けた者の位置を入れ替える『ばしょがえのえだ』の効果だ。既に勢いづいていたチャオブーに『こんらんのえだ』や『しばりのえだ』を使って動きを止めても、慣性力で突撃を食らってしまうと考えた故の選択である。
「行くわよヒバニー!」
相手が壁にめり込むという絶好のチャンスを見逃さず、チコリータが『はっぱカッター』を放ちながら合図する。
「任せとけ!」
そしてヒバニーはその葉に飛び乗り、巧みに重心を動かしサーフボードの如くチャオブーへ向かって行った!
「まさか『レンケイ』か? オイラはくさタイプにもほのおタイプにも強いんだぞぉ!」
しかし即座に壁から抜け出たチャオブーは逃げも隠れもせず、真っ向からヒバニーを迎え撃とうと『つっぱり』の構えを取る。
(まずい、攻撃を合わせられたら叩き落とされる!?)
ヒバニーは『ひのこ』を使えなくなっている関係上、『ニトロチャージ』を代わりに使うとしたらあのまま突撃しか選択肢はない筈だ。
「……『にどげり』!」
「む!?」
しかしヒバニーは葉に着火させることなく蹴飛ばしてチャオブーの『つっぱり』にかち合わせると自分自身は後ろに飛び退いた。
「次、行ったわよ……!」
そして、宙を舞う彼の下へ向かうのは更なる葉の刃。チコリータが既に二発目の『はっぱカッター』を放っていたのだ。
「っし!」
彼はそれにも飛び乗ると、高所から『にどげり』の二段目を放ちチャオブーの頭へ『はっぱカッター』を撃ち込んだ。
「ぶぐっ……!」
いくら効果がいまひとつであっても頭上から攻撃を受けるのは堪えたらしく、凶暴化ポケモンは体をふらつかせる。
「うおおおおおっ!!」
「ぶおおおっ!?」
そしてそこへ急降下するのは当然、ヒバニーだ。チコリータの二段『はっぱカッター』で高度を稼いだ彼は、落下エネルギーを上乗せした『ニトロチャージ』を炸裂させた!
アシマリの助力で壁を乗り越え、手放しかけていた夢を再び掴んだヒバニーとチコリータによる新しい『レンケイ』を浴び、チャオブーは仰向けに倒れるのであった。