※この作品はR-18です。

裸の少女とポケモンだけが住む世界   作:Momyaka

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Chapter49 ~燻る遺恨は親睦の炎へ~

 『颶風の砂漠』で相対した凶暴化チャオブー。そんな彼に苦戦を強いられていたヒバニーとチコリータであったが、アシマリの手助けもあり無事に勝利を収める事が出来た。

 

 

 

「……師匠」

 青い光に包まれながらゆっくり目を開くチャオブーはまず、ジャラランガと目を合わせる。

「平気か」

「オイラは……凶暴化してたのか」

 身を起こし辺りを見渡す彼は『ゆけゆけズ』、そして私やオーマを視認すると嘆息して項垂れた。

「……まさか、ニンゲンの力でオイラは元に?」

「その通り」

「これで分かったでしょ、ルーアは悪者なんかじゃないって!」

 力無く座り込んだままのチャオブーを睨んでチコリータが声を上げる。

 

「……そ、そんな筈はないぞぉ! リライブなんて怪しい術でオイラ達ポケモンを騙そうとしてるだけなんだなぁ!」

「何だと!?」

 しかしチャオブーは怒りの炎を燃え盛らせて怒鳴り、ヒバニーもつられて声を荒げた。

「お前達は知らないと思うけど、そいつはオイラ達のギルド長を道具に変えて……!」

「ルーア自身から教えて貰ったよ。それで怒りのままにそんな手段を取ったことを凄く後悔してるって事も」

 彼は私を指差して非難するが、アシマリが諭そうと静かに回答する。

「ルーアはテラキオンを元に戻す手段も探していたのだ。奴が元に戻ればまた敵対されるにも拘らず、な」

「うるさい! それもポケモンをいいように扱う為の演技だなぁ!」

 続けてジャラランガが言うものの、チャオブーは一切聞き入れようとしない。しかし彼の必死さを見ていると意地を張っているようにも見えた。

「このっ……!」

 オーマは苛立った様子で一歩踏み出すが、慌てて私は彼女を止める。ここで攻撃したら余計に拗れそうだ。

 

 

「……ならば話を変えようか。チャオブーよ、ワカシャモとモウカザルはどうした。逸れてしまったのか?」

 このまま口論していても事態の改善は見込めないと考えたのか、ジャラランガが弟子に質問をかける。

「……あ、あいつらは…」

 すると先程までの怒りの炎が鎮火したかのように、チャオブーは弱々しく話し始める。

 

「真っ黒のデカい奴にやられて……そのまま呑み込まれたんだぞ……」

 

「呑み込まれた…!? それは確かか…!?」

 驚くジャラランガに対しチャオブーは力無く頷いた。

「あいつの鎌から伸びてきた触手みたいなのにワカシャモ達が捕まって吸収されたんだぞ……オイラ、それ見て怖くなって逃げ出して……それからどうなったのかは分かんないんだぞ……」

 鎌を持つ大きな黒い存在。間違いなく黒装のメガガブリアスであろうが、ワカシャモ達が呑み込まれたという話に私も驚きを隠せない。

「その時点ではお主は凶暴化していなかったという事だな?」

「……うん。一度あのデカい奴から逃げ出した後……おめおめと村に帰る訳にもいかなくて、ダンジョンに近いこの辺りでどうにか仲間達を助けようと方法を模索してたんだぞ。だけど少し前にここもダンジョン化してオイラも……」

 チャオブーが凶暴化したのはジオヅム達と同じ時、ということらしい。彼も彼なりに仲間を助けようと必死だったのだろう。

 

「ここがダンジョン化する前に何か異変は感じたか?」

「異変……そうだ」

 ジャラランガが更に聞くと、彼は視線を動かす。その先は私達が向かおうとしていた方向だ。

「今も砂嵐で見えないけど……オイラ、ワカシャモ達を助けるためにどうしようかってダンジョンの中心をずっと見てたんだぞ。そしたら真っ黒のボールみたいなのが砂嵐の中から飛んで来て、着弾すると同時にこの辺りが大きく揺れてみるみるうちに形状がダンジョンになったんだなぁ」

 

 真っ黒のボール……。

 

「それって黒い繭……?」

「可能性は高いな」

 私の呟きにジャラランガが硬い表情で頷く。

「仮に繭を放った者がメガガブリアスだとすれば……奴を止めぬ限り延々と黒い繭が周辺に撃ち込まれ、ダンジョンも拡がってしまうやもしれぬ」

「そんな……!」

 『颶風の砂漠』の中心で吹き荒れる砂嵐を見上げて『ゆけゆけズ』達も冷や汗を垂らす。

 

「とにかく今はこの先にある繭を破壊せねば。こうしておる内に繭に囚われたポケモンが大きくなり続け、メガガブリアスのように暴れ出すということも考えられる」

「そうだね、今やれることをやるために急ごう!」

 ジャラランガの言葉に一同は再び移動し出した。

 

「チャオブーよ、一度『オータムビレッジ』に戻るのだ。ワカシャモ達が心配であるのは分かるが、無理をしても何にもならぬ」

「……」

 そして道場主は弟子に対し言い残すが、それを聞いた相手は座り込んだまま握り拳を震わせているだけであった。

 

 

 

 日の光に照らされた岩石だらけの地に漂う黒。

 遂に私達は黒き靄が発生する地点に到達したのだ。

「あ! あれ見て!」

 声を上げるチコリータの視線の先。黒と紫の靄で見え辛いが、広間の中心にある物体が確かに鎮座していた。

「まさかあれが『黒い繭』か!?」

「……うん」

 目を丸くするヒバニーに対し、私は一歩踏み出して答える。私は何度か見た『黒い繭』だが、彼らが実際に見るのは初めてなのだ。二回目のダンジョン巨大化からあまり時間が経っていない故に、靄の発生範囲も狭く視認可能な距離まで近づけているである。

「ルーア、頼む!」

「……分かった」

 ジャラランガの言葉を受けて私は小走りで黒い繭の下へ向かい、眼前まで近寄る。『蒼海晶洞穴』でチルタリスが囚われていた時よりも更に小さく、高さだけなら私と大差ないであろう。

 

「……」

 

 一度深呼吸してから私は脚を伸ばし、ブーツの先で繭に触れる。

 

 青い光のヒビ。

 消滅しながら黒い繭は崩れ落ちていき、周囲を漂っていた靄も薄まっていく。

 私の奥底にまた少し、違和感が溜まっていく。

 

 そして、中にいたモノが目覚めた。

 

 

 

「コォォ……!」

 

 黄色と白の毛並みに大きな尻尾と耳を持つポケモン。

 

 しかし顔の右半分と尻尾が黒装に包まれており、紫のラインも僅かながら妖しい光を放っている。

「……まさか、テールナーか!?」

「私達も見たよ、前回『颶風の砂漠』から撤退する直前にポケモン達を避難誘導してた!」

 そのポケモンの姿に驚愕した様子で駆け寄ってくるジャラランガの後ろから『ゆけゆけズ』やオーマもやって来ていた。

「コォォン!」

 テールナーと呼ばれたポケモンは紫色の右目と淀んだ左目でこちらを睨みつけると、黒い尻尾から木の枝を引き抜くと同時に着火させる。

「クォォォォ!!」

「いかん!」

 いち早く相手の攻撃を察知したジャラランガが私の前に躍り出て、テールナーの枝から放たれた『かえんほうしゃ』をその身で受け止めた!

 

「だ、大丈夫!?」

「うんむ。しかしガブリアスの時とは様子が違うな」

 ドラゴンタイプ故にあまり炎のダメージは受けなかったジャラランガだが、その表情は依然として険しい。それもその筈、全身が黒装に包まれていたガブリアスに対し目の前にいるテールナーは一部しか黒装を纏っていないのだ。

「ク、コォォ……」

 更に彼女は時折苦しそうに黒装が纏わりついた顔を掻き毟り、どうにか剥がそうとしているような素振りを見せていた。

「今回は繭を破るのが早かったから、まだ完全に黒装モンスターになってないのね……」

「テールナー自身も抗ってるみたいだな、解放してやらないと!」

「よーし……」

 『ゆけゆけズ』達はテールナーを救う為、戦闘態勢に入る。

 

「コァァァ!」

「!?」

 しかし当のテールナーは杖先から『サイケこうせん』を発射し、アシマリを吹き飛ばした!

 苦手なみずタイプを真っ先に狙う辺り、相手は相当なやり手なのだろうか。

「奴……テールナーは『テラキオンのギルド』に所属するソロの救助隊だったのだ。一匹で『ヒートソウル』を軽く捻る程の強さを持っていたが『颶風の砂漠』の巨大化に巻き込まれてしまった……まさかこうして黒装に蝕まれてしまうとは」

 ジャラランガは説明しながら『ソウルビート』で自らを強化する。いくらテールナーが強いポケモンとはいえ道場主である彼なら勝利を収められそうであるが、相手が黒装および凶暴化で強化されている以上本気を出さざるを得ないようだ。

 

「どわあっ!?」

 その時、突如ヒバニーの悲鳴が聞こえてくる。何事かと思い見てみると何故か彼がずぶ濡れで地面に倒れ伏していた。

「ちょっとアシマリ!?」

「あれ~、あれれ~?」

 チコリータが目を白黒させる前ではアシマリが頭をクラクラと動かしながらあらぬ方向に水のバルーンを発射していた。運の悪い事に、先程の『サイケこうせん』を受けた事で彼女は混乱してしまったのだ!

「え、ええっと……」

 私は急いでランドセルを揺すり始める。確か混乱状態は『キーのみ』で治す事が出来た筈。

 

 

「クォン!」

 

 

 だがそれを妨害するかの如く、テールナーは杖を高く掲げ私達の周囲に謎の力場を生み出した。何をするつもりかと警戒しながらも、私はアシマリの混乱を解くためランドセルを何度も振るう……。

「……あれっ!?」

 しかしいくら身体を動かしても全く道具を取り出す事が出来ない。エネルギー切れなのかと思ったが、水色のランドセルはまだ色褪せておらずまだ使える状態のように見える。

「こっちも使えないです!」

 見るとオーマもポシェットを開こうと四苦八苦しているが、同じように道具を取り出す事が出来ないらしい。

「『さしおさえ』だ! この力場にいる間は道具の使用を封じられてしまうのだ!」

 ジャラランガの言葉を受け、私は慌てて『さしおさえ』の効果範囲から飛び出す。再びランドセルを揺らすと確かに『キーのみ』を取り出す事が出来たが……。

 

「アシマリちゃんだよ~、水芸だよ~」

「やめなさい! こら!」

 肝心のアシマリは力場の中で暴れ回っており、これでは彼女に『キーのみ』を使う事が出来ない。

「コァァァ!」

「むうっ!」

 その間にもテールナーは『サイケこうせん』を乱射し、ジャラランガは苦手なエスパータイプ攻撃を受けないよう回避に専念していた。しかし以前のメガガブリアスとの戦闘のダメージが残っている上に『ソウルビート』で更に体力を削ってしまっている以上、あのままでは回避に失敗するのも時間の問題。

 

「えいっ!」

 私は『しばりのえだ』を振り、テールナー目掛けて光弾を発射。黒装モンスターには搦め手は基本通用しないが、彼女の体はあまり黒装に覆われていない……!

「!」

 テールナーの胴体に光弾が命中すると私の思惑通り硬直状態にすることに成功する。

「ク……コォォォン……!」

「感謝するぞルーア! この発光部を攻撃すれば黒装から解放できるのだな?」

 ジャラランガは動けなくなった彼女に接近すると紫のラインの位置を確認。

「うん、だけど気を付けて。テツノワダチの時と同じように、剥がれ落ちた黒装からも靄が出て来ちゃう」

「ふうむ……」

 私が注意を促すと彼は悩ましい顔で目を細めた。ジャラランガが持つ遠距離攻撃は『ばくおんぱ』と『スケイルノイズ』であるが、音の技で定点に攻撃するのは困難を極めるだろう。

 

(この場にいる味方の中で、遠距離から定点に攻撃するのに一番適してるのはやっぱり『はっぱカッター』を使えるチコリータ……)

 そう思考しながら視線を向けるが、私はすぐに目を見開く。

 

 

「ふにゃああっ♡ らめですぅぅぅ♡」

「水水水~」

「こんな時に遊んでる場合じゃないでしょお……!」

 いつの間にか混乱したアシマリがオーマを捕まえており、少女の股間に小型の水のバルーンをどんどん入れていたのだ。チコリータはアシマリをオーマから引き剥がそうと必死だが鰭脚でビシビシとぶたれている。

「あ、あわわっ」

 目を離した隙に大変なことになってしまったと、私は改めて『キーのみ』をランドセルの力で飛ばす。しかし彼女らは未だに『さしおさえ』の力場内におり途中できのみは墜落してしまった。

 

「え、えっとチコリータ! 今はテールナーの黒装を剥がすのを優先して欲しくて……」

「待って下さいルーアぁ♡! このままじゃ私おかしくなっちゃいましゅ……ふぎゅうっ♡!?」

 私は声を上げて要求するが返答してくるのは発情した様子のオーマだ。膣内に無理矢理入れられた水のバルーンが破裂する度に激しい刺激に襲われているらしく、何度も何度も身体を跳ねらせていた。

「ク……クン……!」

「む! もう硬直状態が解けそうだ……黒装の力故か……!?」

 そんな間にもテールナーの腕が少しずつ上がり始めており、モタモタしていたら『かえんほうしゃ』が繰り出されてしまう。

(アシマリに道具を届けなくても混乱を解く手段は……?)

 私は焦りながら必死に方法を考える……。

 

 

 混乱を解除する道具。

 

 元の世界で聞いたことがある。あれは……母親からの頼みで買い物に行った時に見かけた物産展だ。

 ホウエン地方で生産されたガラス細工……その中にビードロという商品があり、吹くとポケモンの状態異常を解除できるという謳い文句でなかなか強気な値段で宣伝されていた。

 

(思い出した!)

 

 私はランドセルを揺すり、透き通った黄色の美しいガラス細工……『きいろビードロ』を取り出した!

 

「……ぴひょー!!」

「!!」

 大きく息を吸い込んでビードロを吹き、その音色をアシマリにも届かせる。

 

「あ、あれ? 私、一体……」

 それによりようやくアシマリは正気に戻り、息が絶え絶えなオーマから離れる。

「チコリータ、お願い!」

「助かったわルーア……『はっぱカッター』!」

 仲間が元に戻ったことでチコリータも余裕が生まれ、すぐさま葉の刃を二発放つ!

 

「クコォ……!」

 しかし木の枝には既に激しい炎が収束している……!

 

 

 

「『つっぱり』!!」

「コ!?」

 テールナーの背中に張り手が叩き込まれ、『かえんほうしゃ』はコントロールを失い誰もいない岩壁に焦げ跡を残るに終わった。

「お願いだぁ……テールナーちゃんを元に戻してくれぇ!!」

 怒りを溢れさせたテールナーから今にも『サイケこうせん』を食らいそうになっているチャオブーが叫ぶ。

 

 

「コォォォォォン!!??」

 頭部、尻尾。

 

 

 『はっぱカッター』はしっかりと二ヶ所のラインを切り裂き、テールナーを黒装から解放した。

 

「喝!!」

 そして最後はジャラランガが『スケイルノイズ』を放ち、凶暴化状態のテールナーを撃破するのであった。

 

 

 

 

 

「テールナーちゃん! テールナーちゃん、しっかりしてくれぇ!」

 青い光で凶暴化から解き放たれるテールナーを抱き抱え、チャオブーは泣きながら何度も呼び掛ける。

「……何よ、うるさい……わね」

 しかし目を開けた彼女は耳元で声を上げられ鬱陶しそうである。

「よ、良かったぁ! テールナーちゃんが元に戻ったぞぉ!!」

「だから喧しいって……あ」

 テールナーは感極まって更に泣くチャオブーの手からスルリと抜け出ると私達の存在に気付いて目を丸くした。

 

「ジャラランガさん、それにあなた達……私を元に戻してくれたのよね? 感謝するわ!」

 笑顔を浮かべ、彼女は感謝の言葉を述べる。

「黒装……あの黒い物体が顔や尻尾に張り付いてた時の事も覚えてるの?」

「朧げだけどね。酷い違和感で気持ちも悪くて剥がしたくて堪らなかったわ」

 チコリータの質問に答えながら、テールナーは安心した様子で自らの右頬を撫でた。黒装がまだ体全体を覆っていなかったために、先程までの状態も意識はあったようだ。

「黒い繭に取り込まれていたが、何があったのだ? 」

「ええ……」

 そしてテールナーは神妙な面持ちで語りだす。

 

 彼女は暫く前に救助のため向かっていた『颶風の砂漠』の巨大化に巻き込まれ、凶暴化した。それからはそのダンジョンを守るという意思に従うまま、かつての同士を含む外部のポケモンを追い払っていた。

 しかし突然暴れ出したメガガブリアスに襲われ、暗い闇の中に取り込まれたという。そのまま光も音もない空間で苦しんでいたが、先程発生した青い光と共に闇から脱出出来たようだ。

 

「その青い光……リライブを行って黒い繭から解放したのがルーアだよ」

「あら、そうなのね! うふふ、ありがとう!」

「う、うん」

 アシマリの紹介を聞きテールナーは心底嬉しそうに微笑みを向けてきた。こうして真っすぐ感謝を伝えられると照れてしまう。

 

「だけど私はジャラランガさん達を襲ってしまったわ……『この苦しみを押し付けたい』って気持ちに逆らえないまま」

「えっ、『このダンジョンを守らなきゃ』……じゃないのか」

「その気持ちもあったかもしれないけれど、黒装っていう物のせいでそれどころじゃなかったわ」

 

(苦しみを押し付けたい……)

 

 それはまるで……暴走していた時の私のようだ。身体に溜まった苦しさをとにかく吐き出したくて堪らなかったが、テールナーも同じだったとは。

 

「ふむ、黒装は纏っているポケモンにもそのような悪影響があるのだな。確かに黒装の欠片からポケモンを苦しめる黒い靄が出るのであるし話は繋がる」

「それならメガガブリアスやテツノワダチも苦しさに耐えられなくて、周りのポケモンやあたし達に苦しみを与えようとしていたのかしら……」

「もしかして、『銀杏山脈』に出た黒装モンスターがメロエッタに悪いダンジョンエネルギーを注ぎ込んでたのも苦しかったからなのかな?」

 

 次第に明らかになって来る黒装モンスターの目的。あのポケモン達は無闇矢鱈に争いを起こそうとしていたのではなく、黒装による苦痛から逃れたくてどうにか体内のエネルギーを出そうとしていたのだ。

 

「メガガブリアスに取り込まれたテールナーがここに飛ばされたのも……彼女に悪いダンジョンエネルギーを押し付け、そのまま黒い繭に包んで吐き出したからと考えられるな」

「その行動でダンジョンが拡がるのですから、やはりそのガブリアスをどうにかしないと『颶風の砂漠』の巨大化は止められないじゃないですか……」

 ジャラランガ達は今も砂嵐で覆われた『颶風の砂漠』中心部を見つめる。あの先ではメガガブリアスが今も苦しみに苛まされながらポケモン達を取り込み、新しい黒い繭を生み出そうとしているのだろうか。

 

 

「じゃあ救助隊として、私も一肌脱がないとね!」

 そんな時、快活な様子でテールナーは私達に顔を向けてくる。

「ジャラランガさん達、この後も『颶風の砂漠』を平和にするために頑張るつもりなんでしょ? 私にも手伝わせて頂戴」

「本当!? とっても嬉し……」

 そんな申し出を受けてアシマリが笑顔で応えようとしたその時である。

 

 

「駄目だぞ! テールナーちゃんは村に帰るんだぞ!」

 

 振り返ると、そこではチャオブーが体を震わせていた。

「なんであなたに命令されなくちゃいけないのよ。私が行きたいって言ってるの、口を挟まないで」

「嫌だ! 折角元に戻った矢先にまた危険地帯に行くなんてオイラがさせないぞ!」

 テールナーは睨みつけて突き放すが、彼もまた引き下がろうとしない。

「あの二匹、知り合いなんですか……?」

「うんむ。テールナーが『オータムビレッジ』で活動する優秀なソロの救助隊という話はしたな。そんな奴に『ヒートソウル』の面々は心惹かれておってな。テールナーが『颶風の砂漠』の巨大化に巻き込まれ凶暴化したと情報が入った時には彼らが最も悲しんでおったのだ」

 オーマの問いに対しジャラランガが解説を入れてくれる。思い出してみれば前回『颶風の砂漠』に訪れた時、『ヒートソウル』達がテールナーへ必死に呼びかけていた。好意を持っている相手が危険な目に遭うことを見過ごす事は出来ないのだろう。

 

「それにこいつ等はニンゲンなんだ! いつ道具に変えられたり取り込まれたりするか分からないんだぞ!」

「ニンゲン? 何でいきなり御伽噺の話をするのよ」

 チャオブーは更に声を上げるが、テールナーは首を傾げるだけだ。

「だから何度言ったら分かるんだよ! ルーアもオーマも悪者じゃねえっての!」

「ていうかあなたさっき、"お願いだからテールナーを戻して"って言ったじゃないの! 手のひら返しするつもり!?」

「……」

 ヒバニーとチコリータが怒りの声を上げる中、彼女は私達に視線を向けてまじまじと眺めてくる。

 

「え、見た事ない珍しいポケモンだと思ってたけど……本当にニンゲンなの!?」

「……う、うん」

「凄い! いい経験しちゃった!」

 タジタジと頷くとテールナーは嬉しそうに私の裸体を隅から隅まで観察し始めた。胸や秘部にまで視線を注がれ、堪らず私は発情……『あかいビードロ』を吹かなければ。

「こっちの薄橙がリライブしてくれたルーアよね。灰色のこっちは……」

「オーマだよ、彼女も私達の友達なんだー」

「宜しくです」

 

 

「テールナーちゃん、どうして……」

 自らの話を聞いて貰えず、意気消沈したようにチャオブーが俯く。

「やはり認められぬか、ニンゲンがポケモン達の味方などとは」

 一匹で佇んでいた彼に歩み寄り問いかけるのはジャラランガだ。

「どうして師匠もニンゲンの味方するんだ……アイツのせいでギルド長が道具に変えられたのに」

「……あの者達にも事情があった故に。逆にお主は何故ニンゲンを嫌う? ルーア達が反撃に移る前からであっただろう」

 オーマ達が話しているのを横目に、私はジャラランガ達へと視線を向ける。

 

「だって、ニンゲンは悪者だぞ。灰色のニンゲンがこのダンジョンを巨大化させて、もう片方は黒装モンスターをけしかけて『メロエッタ劇団』を滅茶苦茶に……」

「……お主やテールナーを元に戻すため尽力した彼女等を見て尚、それが真実と言うつもりか?」

「それは……」

 ジャラランガに問われ、チャオブーは言葉に詰まっていた。テールナーを元に戻すよう彼自身が私に懇願していたし、おそらく頭では分かっているのだろう。

 

「あれがルーア達の本質なのだ。あの日の出来事は凶暴化ポケモンに襲われ、我輩達から理不尽な扱いを受け……彼女らが我慢仕切れず怒りが爆発したことによるものだ。『オータムビレッジ』の行った仕打ちがテラキオンに跳ね返って来たと言えよう」

 

 

「全部何もかも、オイラ達のせいって言うのか!?」

 そこで唐突にチャオブーが声を荒げ、オーマやテールナー達も驚いた様子で視線を向ける。

 

 

「オイラ達だって辛かったんだぞ!? テールナーちゃんが凶暴化して、戻す手立てが無いって絶望してた時に灰色のニンゲンがポケモンを道具のように扱って! どうしてそんな苦しい時に、自分勝手やったニンゲンを許さなきゃいけないんだ!? 凶暴化した仲間を救って貰う為には、オイラ達だけが心を捨てて辛いのを我慢し続けないとダメだって言うのか!?」

 彼は目に涙を浮かべ、苦しそうに叫んだ。自分達の行いが間接的にテラキオンが道具に変化するという災いを招いたなんて、認めたくないと言いたそうに。

「何……? あなたもしかして、自分が辛いからってルーア達に八つ当たりしてたって訳?」

「う、ううっ……! 八つ当たりなんかじゃ……八つ当たりなんかじゃないんだぁ……!」

 テールナーに睨まれながら、チャオブーは自分には否が無いと何度も口にする。

 

 

 とても悲しそうに。自分の心を守るのに必死なように。

 

 

「……私達に八つ当たりしないと、テールナーがいなくなった悲しみに耐えられなかったの? 辛くて苦しくてどうしようもなかったの?」

 私が静かに問いかけるとチャオブーはビクリと身を跳ねらせる。

 

「ちょっとルーア……」

 オーマは理解を示す必要なんて無いと言いたそうにするが、私は首を横に振った。

 私だって悲しい時や苦しい時、自分の事を考えるのがやっとでインテレオンに対して八つ当たりを行ったのだ。

 彼も崩れてしまいそうな心の平静を保つために、作り上げた悪者に行き場の無い気持ちをぶつけるしかなかったのではないだろうか。

 

 酷い目に遭わされたことを根に持ってないと言えば嘘になるが、だからと言ってチャオブーの心をへし折るのが正しい選択とも思えない。遺恨を晴らすために新たな遺恨を生ませる行為なんて虚しいだけだろう。

 

 

 

「……オイラ、お前達をいじめたってテールナーちゃんが戻ってくる訳じゃないってことは分かってた。だけど誰かに責任を押し付けないとおかしくなりそうだったんだ……! ギルド長や周りのポケモンが敵意を向けてるニンゲンがそれをぶつける丁度いい相手だったんだ……!」

 そして遂にチャオブーが真の思いを吐露し始めた。

 

「……テールナーちゃんだけじゃなくてワカシャモやモウカザルまでいなくなって……オイラ、もう滅茶苦茶だったんだ。情けなく一匹で逃げ帰るのが怖いのに、オイラだけじゃどうしようも出来なくて。凶暴化から解放された以上、師匠達の言い分が正しいって事は頭の中では分かってたけど、村でオイラのやったことが物事を悪い方向に進めたのが認められなくて……!」

 彼は何度も詰まりながら隠していた気持ちを述べる。

 

「どうしたらいいのか分からないまま後をつけたり、テールナーちゃんをリライブするよう頼んだりしたけど……テールナーちゃんがオイラじゃなくてお前達ニンゲンと一緒に行くって聞いて……ニンゲンのせいにしないとグチャグチャした気持ちに押し潰されそうだったんだぁ……!!」

 想っていた相手がいなくなり、更に仲間まで失い、ようやく再会できたと思った相手が自分を選ばなかった。そんな絶望がチャオブーの気持ちをここまで複雑に拗らせてしまったのだろう。

 

 

 

「……ありがとなぁ、オイラやテールナーちゃんを元に戻してくれて。そして本当にゴメンなぁ、オイラの自分勝手で散々酷い目に遭わせたり、酷いこと言ったりして……。悪者はお前達じゃなくて、オイラだったんだ……」

 

 

 

「このバカ!」

「いでえっ!?」

 頭を下げていたチャオブーの頭にテールナーが拳骨を食らわせる!

「あなた身勝手にも程があるのよ! 周りに多大な迷惑かけた理由にあたしまで使うなんて最悪!」

「うぅ、ゴメン、ゴメンなぁ……」

「ゴメンで済むような事じゃ無いでしょうが……全く、しょうがない奴ね」

 目を丸くする私たちの前で彼女は憤慨していたが、謝り続けるチャオブーを見下ろし溜め息をついた。

 

「こいつが迷惑かけた事、私からも謝らせて…ごめんなさい。私から後で厳しく言っとくから、この場は一旦矛を収めて貰っていいかしら」

「うん……」

「は、はい」

「良かった、ありがとう」

 少しチャオブーを可哀想に思いながら私達は頷く。

 

「……ほら、そろそろ顔上げなさいよ」

「……」

「ああ、もう……あのね、暴れてた私を止めてくれた事には感謝してるの。あなたも挽回出来るって私は信じてるんだから」

 テールナーは呆れた表情をしながらもチャオブーの手を取り立ち上がらせた。彼女は厳しい一面もあるが、性根は優しいポケモンなのだろう。

 

「皆、一度『静寂の丘』へ戻ろうではないか。今回はかなり疲れたであろう」

「そうね……ジオヅム達にテツノワダチ、チャオブーやテールナーと厳しいバトルが続いたもの」

 ジャラランガの提案にチコリータ達も賛成する。正直私もくたびれており、一度落ち着いて休みたい気分だ。

「私もその『静寂の丘』って場所に同行した方がいいのかしら」

「『オータムビレッジ』のポケモン達は今もニンゲンを嫌ってるんだなぁ…。ルーア達と一緒に行動するならその方がいいと思うぞ」

 テールナーとチャオブーの意向も確認すると、ジャラランガは天高く『あなぬけのたま』を掲げるのであった。

 

 

 

 少しずつだけど……『オータムビレッジ』のポケモン達との溝が狭まり始めてる。この調子ならいつかテラキオンを元に戻す事に躊躇しなくても済む日が来るかもしれない。

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