吹き抜ける風、風に乗る熱砂。
太陽と空は舞い上がった砂に覆い隠され、まるで砂のドームを形成しているかのようだ。
「……この辺りには凶暴化ポケモンがおらんな」
「静か過ぎて凄い嫌な感じ……」
ガブリアスを元に戻すために『颶風の砂漠』へ再突入した私達は岩石砂漠地帯を抜け、中心部である無数の砂丘が連なる地帯へと足を踏み入れた。
その奥では巨大な砂嵐が巻き起こっており、黒い靄を一緒に巻き上げているために言わば黒い砂嵐となっていた。きっとあの中にメガガブリアスがいるのだろう。
「ダンジョンの端側にいたポケモン達も『ガブリアスや靄から逃げてきた』って言ってたし、この辺りには近付きたくないみたいね」
「気になるのは逃げ遅れたポケモン達だよな。ずっと靄に包まれてて大丈夫なのか……?」
私やオーマと同行している『ゆけゆけズ』およびジャラランガが警戒を解かずに話し合う。
後続部隊としてテールナーやチャオブー達も後からついて来ている筈であり、いざという時は彼女らが持っている『ねがいのかたまり』を使う手筈だ。
「だけどダンジョンにしては随分大きな広間ね。さっきまでの通路や広間が入り組んでた形状とは大違いだわ」
確かにチコリータの言う通り、この地帯は普通の砂漠にしか見えず、ダンジョンとはとても思えない。
「うんむ、これはダンジョンが生み出す地形の一つ……『大部屋』だ。あまりの大きさに勘違いしやすいが、非常に巨大な広間と考えると良いだろう」
カチリ。
「ぎゃん!」
ジャラランガが解説していた矢先、私は罠を踏んでしまい降り注いだ大量のイガグリに襲われる羽目になる。
「こういう風にワナもしっかりある、ということです」
「うんむ、油断せぬようにな」
「ごめん……」
イガグリの山から救出してくれたオーマ達に私は謝罪を返した。今回は凶暴化ポケモンなどが近くにいなかったため良かったが、戦闘中に罠を踏んだりしないように気を付けなくてはならない。
そんな時、『ゆけゆけズ』が黒い砂嵐の方向を見て動きを止めた。
「何か来るわ!」
警戒を促すチコリータの視線を追うと、彼女の言う通り何者達かが私達のいる方向へまっすぐと向かって来ている。それは黒と茶色の体表を持つポケモン達……。
「ワルビルか? それにしては黒の模様が多いな……まさか」
ジャラランガが言う間にポケモン達は慣れた様子で砂丘を越え、どんどん私達との距離を詰めてくる。
「……テールナーの時と同じ! 体の一部が黒装に包まれてるよ!」
数匹の群れでやって来たワルビル達はいずれも頭部や腹部などに黒装を纏っており、明らかに正気ではない様子で私達の元へ疾駆してきていた!
「グ……グゥゥゥ!」
時折苦し気に黒装に覆われた部位を掻き毟るワルビル達だが、それでも脚を止める様子は見せない。テールナーと同じく『苦しみを押し付けたい』という思いで私達の下へ向かって来ているのだろうか。
「『はっぱカッター』!」
先制攻撃とばかりにチコリータが鋭い葉の刃をワルビル達目掛けて発射する!
「グァァァ!?」
その刃は黒装に走るラインを切り裂き、一匹のワルビルの体から黒装を剥離させた。
「グゥゥゥ!」
しかし残りのワルビル達がついに私達の眼前にまでやって来て戦闘態勢に入る。先頭にいたワルビルが早速大口を開けて『かみつく』で迫って来た!
「破ァ!」
ジャラランガは素早く姿勢を落とし、そのワルビルの下顎へ強烈な『スカイアッパー』を放つ。
「『みずでっぽう』!」
「おらよ『にどげり』!」
アシマリ達も道場主に負けず、攻撃して来たワルビル達を技で弾き返していった。そして隙を見せた相手にチコリータが的確に『はっぱカッター』を放ち黒装を剥がしていく……この調子なら危なげなく戦闘が終了するだろうか……と思った矢先だった。
「……いけません、新手が!」
オーマが視線を向けている黒い砂嵐から、なんと次々とポケモン達がやって来ていた!
サンドパン、メグロコ、スナヘビ、ナックラー……おそらく『颶風の砂漠』に住んでいたポケモン達だろう。そのいずれもが体の一部を黒装に蝕まれており、苦しそうにこちらへ向かってくる。
「ま、マジか! あんな大勢で来られちゃ……」
目を丸くするヒバニーに心の中で同意していた私だが、更なる異変を目にして背筋が凍るような感覚に。
なんと砂嵐がどんどん広がっていたのだ!
「きゃあっ!」
「うわあ!?」
あっという間に砂嵐は私達のいる場所にまで拡がり、激しく吹き荒れる風と砂に身を晒されることとなった。
「ぬうっ、やはりダンジョンは天候まで予測不可能か!」
砂に紛れて襲って来たワルビルに噛みつかれながらも掌底で弾き返すジャラランガ。広がったのは砂嵐だけで黒い靄はここまで来ていないのは不幸中の幸いと言った所だが……。
「う、ううっ!」
激しい砂で視界すら不明瞭になり、どこから敵がやって来るのかも分からなくなってしまう。
「キュウゥゥゥ!」
「あうっ!」
そんな時、丸まったサンドパンから『ころがる』を受け棘が私に襲い掛かって来た。危惧していた通り、普段から砂漠に住んでいたポケモンと砂嵐の中で戦闘するなど非常に危険なのだ。
「『しおづけ』!!」
「!!」
しかしどこからか飛んできた塩がサンドパンに浴びせかけられる。
「大丈夫か!」
「援護しに来たー」
砂で姿は見えないが、この声はサンドとコジオ達だ。つい先ほど『しおづけ』を放ったのもジオヅムだろう……砂嵐に飲み込まれた私達を助けにやって来たのだ。
「はあ! 『みだれひっかき』!」
「グゥゥゥ!?」
黒装に蝕まれたポケモン達に対し、彼女達は怯むことなく戦いを挑んでいく。サンド達はテツノワダチの影響でこのダンジョンの凶暴化ポケモンから敵視されるようになったとはいえ、砂漠で暮らしてきた経験まで無くなるわけではないのだ。
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テールナーやチャオブーを連れて『静寂の丘』へ戻った日の晩。
岩壁に空けられた洞穴にて何やら話し合うサンドやジオヅム達の存在に気付き、私は少し気まずい面持ちになる。テツノワダチの放った術の影響で『颶風の砂漠』にいられなくなったことにショックを受けていた彼女らの顔を思い出すとどうしても心苦しくなってしまうのだ。
「帰りたいよー」
「今も凶暴化している同胞たちが皆元に戻れば、私達も砂漠に帰れる筈だ」
その時、悲しそうに言うコジオ達に対し優しくサンドが励ましているのが聞こえて来た。
「いつー?」
「俺達がルーア達を手助けすればするほど帰れる日も早くなる」
ジオヅムも妹達を撫でながら静かに答える。
「それにお前の友達も凶暴化してるだけで本当は苦しんでるんだ。俺達が頑張る事で、俺達が砂漠に帰れるだけじゃなくて友達も救う……救助できるって考えれば一石二鳥じゃないか」
「皆を救えるー……」
そんな会話を聞いていた私は何も言わず、洞穴の前から立ち去る事にした。
(……ありがとう)
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「ルーア、黒装の欠片を!」
「……うん!」
未来で待つ幸せを掴むため頑張っているサンド達に応えるため、私も駆け出した!
砂嵐で視界は悪いものの、黒い靄を目印に移動し地面に落ちている欠片を次々と霧散させる。
「ガシガシガシ!!」
「あっ!?」
だが突然足元の砂が滑り出し、私はバランスを崩して転倒。そのまま身体が流砂と共にどんどん滑り落ちていく。
「ガシシガシ!!」
いつの間にかすり鉢状の『ありじごく』が形成されており、その中心ではナックラーが大きな口を開閉させて待ち構えていた!
脱出しようにも両腕が使えない私では流れに抵抗することすら出来ない……そして私の身体にナックラーの牙が迫る。
「『ニトロチャージ』っ!」
「ガッ!?」
しかしそれより早く、炎を纏ったヒバニーの突撃がナックラーの頭に炸裂!
「ルーア、大丈夫か?」
「う、うん……でも動けない…!」
助けてもらったものの、ナックラーの『ありじごく』はまだ消えておらず砂から抜け出せない。
「ガシシ……!」
顔の右半分を黒装に覆われたナックラーは怒りと苦しみの叫びを上げ、更に『ありじごく』の流れを強めた!
「うおおっ!」
「わっ!?」
それと同時にヒバニーは自慢の脚力で私を掬い上げると、そのまま足を使って流砂の範囲外へ放り上げる。
「ひ、ヒバニー!」
彼のお陰で私は脱出出来たが今度はヒバニーが取り残されてしまった……!
「『でんこうせっか』!」
しかし彼もナックラーを蹴飛ばして高く跳躍し、見事『ありじごく』から抜け出してみせるのであった。
それにしてもこの砂嵐の中、あそこまで動けるなんて驚きだ。いつの間にか成長していたのか……と思ったが私はある物に気付く。
よく見ると、彼が頭に黄色と白をした布のようなものを巻いていたのだ。
「これか? 『ノーてんバンダナ』さ! 今の俺は砂嵐なんかヘッチャラな状態だ!」
ただのオシャレにも見えるその道具だが、ダンジョンで生成されたために不思議な力を持っているらしい。その証拠に彼はこの砂嵐の中、全くダメージを負っていない。
「じゃあチコリータ達も?」
「残念だけど一つしか持ってないのよ。だから……」
葉の刃が飛び、ナックラーの紫のラインに突き刺さる!
振り向くとそこにはチコリータとアシマリがいる……が。
「あ、遊んでる?」
彼女らは何故か水のバルーンの中に入っており、砂地をポヨンポヨンと跳ねていた。
「違うわよ! 『ノーてんバンダナ』が足りないからあたし達はこれで砂から身を守ってるの!」
そんなチコリータ達の後ろから忍び寄ったメグロコが飛び上がってバルーンに噛み付く。
「ググァ!?」
「あー、割れちゃった」
バルーンはメグロコを水飛沫で吹き飛ばしながら破裂し、アシマリ達は平気そうに着地する。二匹ともみずタイプに強い故に使える即席のバリア……みたいなものか。
以前『颶風の砂漠』に来た時は砂嵐への対処が出来ていなかった『ゆけゆけズ』が、今は彼らなりの方法で戦えるようになっているのだ。
「ギシャアアアアアアア!!!」
しかし、突如として響き渡った咆哮に、私達も黒装に蝕まれたポケモンも動きを止めた。
(今の咆哮は……!)
私は顔を青ざめさせながら見上げる。
砂嵐で不明瞭な視界。その奥で黒く巨大な存在が少しずつ近付いて来ていたのだ。
「来たか……メガガブリアス!!」
この『颶風の砂漠』で黒い繭に囚われ長い時間を闇の中で暮らし、最終的にはこうして体全体を黒装に包まれ正気まで失ってしまった、かつてこの砂漠を支配していたというポケモンだ。
「う……うあっ!」
「動けないー」
ついに決戦……と思っているとなんと周りの『ゆけゆけズ』を始めとした仲間達が次々と倒れていく……見るとメガガブリアスが動き出した影響か黒い靄がここまで拡がっていた!
「うぐあっ……!」
「グァァ!」
さっきまでの戦闘で黒装が全て剥がれ落ちていたワルビルやナックラーも同じように苦しみで動けなくなっているのに対し、まだ黒装が残っているメグロコやスナヘビは今なお活動している。
「ま、まずいです! どうすれば……!」
まさか戦闘中に黒い靄が拡がって来るとは思わず、一気に劣勢に立たされる私達。動けるのは私とオーマだけであり、大ピンチと言って差し支えないだろう。
「シャアアアッ!」
「痛い!?」
スナヘビの突撃を食らい、私は砂の上に叩き伏せられてしまう。立ち上がろうにも今度はメグロコが私を抑え付けて来るせいで身動きが取れない。
「る、ルーア……!」
チコリータが苦しそうに私を呼ぶ。その悲痛な顔は靄で動けない自分を恨んでいるかのようである。
「このっ、ルーアを離してください!」
「グッ!?」
その時オーマが『ふきとばしのえだ』を振るい、メグロコを遠くへ吹っ飛ばす。彼女は続けてスナヘビへもえだを振るい私を救出してくれた。
「あ、ありがとう……」
「はい、だけどどうすれば……!」
黒い靄は収まる様子を見せず、ジャラランガでさえ苦痛に耐えられず膝と手をついている状態だ。
「靄を生み出してる繭を消さないと……。きっとメガガブリアスが繭から出て来た時に破られた欠片がずっと放置されてるんじゃないかな……」
「ダンジョンの最深部を目指すということですか? でも新手もいますよ!」
オーマは砂に紛れてやって来るガバイトやフカマルの群れを指さして狼狽えていた。彼女の声は震えており、今すぐでも逃げ出したくて堪らないように見える。
(インテレオン……こういう時はどうすれば……!)
私もこの状況を打破する方法が思いつかず、彼に心の中で助けを求める。『おたすけだま』を使おうにも、こんなに黒い靄が広がっている場所に呼び出す訳にはいかないのだ。
「……」
その時、絶望に打ちひしがれていた私達を見つめていたチコリータは何かを決心したかのように顔を上げた。
「オーマ!! あなたの能力であたしを取り込みなさい!!」
「え!?」
チコリータの発言に私とオーマは目を見開く。取り込むというのは……灰色のニンゲンの力である、腕にポケモンを吞み込んで操ることを指しているのだろう。
「こ、こんな時に何を言っているんですか……!」
「こんな時だからこそよ! この靄の中でもあなた達灰色のニンゲンは取り込んだポケモンを自在に操れるんでしょ!?」
彼女の言う通り、『つめとぎ山』や『蒼海晶洞穴』でイヴ達は黒い繭のすぐ前で自在にポケモンを操っていた。確かにチコリータを取り込めばこの絶望の状況を覆す事が出来るかもしれない。
「で、でも……ポケモンを取り込んで操ったせいで、ポケモン達を怒らせて……」
きっとオーマは『オータムビレッジ』で受けた仕打ちを思い出しているのだろう。
そんな自分を友達だと言ってくれた『ゆけゆけズ』にまで酷い事をして、『オータムビレッジ』のポケモン達みたいに敵視してくるのではと怯えているのだろう。
「俺からも頼む! オーマも俺達の友達だから、操られるぐらいへっちゃらだ!」
「!」
ヒバニーからもまっすぐ視線を向けられながら言われ、オーマは動きを止めた。
取り込まれたら一切抵抗出来ず、どんな目に遭うのかも本当に解放されるかも分からないのに、二匹はオーマの事を心から信頼しているのだ。
一緒に『颶風の砂漠』の異変を止める仲間として、種族を越えた友達として。
「……っ!」
オーマは倒れて動けない二匹の前に立つと右手でヒバニーを、左手でチコリータに触れた。
次の瞬間、紫の光に包まれたヒバニー達がオーマの腕へと取り込まれていく。
「パクパクゥl!」
「あ、オーマ!」
そんな彼女の背後へと、一匹のフカマルが飛び掛かった!
「!!」
紫のラインが一閃に裂かれ、フカマルの体から黒装が剥がれ落ちる。
灰色のニンゲンの両腕が触手のように揺れ、その先端では黒一色のポケモン達が立っていた。
「これが……オーマ達の力なのか?」
「聞いてた話と違うけど……でもこれなら靄の中でも動けるわ!」
「え……!?」
私は驚愕の表情を浮かべる。
これまで、灰色のニンゲンに取り込まれたポケモンはいずれも全身を黒に覆われ、完全に操られている形だった筈。
しかし今私の前にいるヒバニーとチコリータは自由に喋り、自分の意志で動いていた。よく見ると彼らは顔部分だけは半透明の膜で覆われており、宇宙服を彷彿とさせた。
(もしかして灰色のニンゲンの力は……本当はポケモンを操るものじゃなかったのかな。信頼したポケモンを靄から守る力なんじゃ……)
「よ、よく分かりませんが……行きましょうルーア!」
オーマは狼狽えながらも、黒い靄を払うため走り出す!
「ま、待って……砂で前が……わっ!」
砂嵐で方向感覚が掴めない私だったが、いきなりヒバニーに持ち上げられそのまま運ばれてしまう。
「任せとけ、どうやら俺の『ノーてんバンダナ』の効果がオーマにも届いてるみたいだ」
「はい。それに『オータムビレッジ』のポケモン達に捕まる前はここで暮らしていました。大部屋故に構造の変化も少ない筈です……!」
砂の影響を受けていないオーマは迷いなく進み始める。フカマルやガバイトの群れが邪魔してくるが、チコリータが黒色の『はっぱカッター』を乱射し次々と黒装を剥離させていく。
イヴやトワの時と同じで、灰色のニンゲンに取り込まれたポケモンが放つ技が強化されている……が、今回はチコリータ自身の意思で技を制御しているため精度や練度も衰えていないのだ!
「よし、これなら絶対に靄を止められるわ……!」
「オーマ、ありがとな! 俺達ポケモンの為に力を貸してくれて」
「……っ、そういうのは事が終わってからでいいです」
そんなやり取りをしながらオーマは砂漠が広がる大部屋を駆け抜けて行く。どんどん砂嵐が激しくなり、目を開けることすら不可能になるぐらいだ。
「げ、げほっ……あと、どれぐらい……おえっ!」
「もう少しです!」
尋ねようと口を開いた途端に口内へ砂が入って来て私は涙目で吐き出す。
―――ダメ……苦しくて我慢出来ない!
どれだけの時間、砂嵐に晒されていただろうか。
「あっ! あれじゃない!?」
「間違いねぇ!」
目を閉じていて状況が分からない中、チコリータ達が嬉しそうに言う。もしかしてようやく『颶風の砂漠』の中心部に辿り着いたのだろうか。
「物凄い量ね……あれだけ大きなメガガブリアスを包んでいたのだから当然ではあるのだけど」
「黒い靄があんだけ広範囲に広がるのも頷けるぜ」
「それじゃあこれをルーアに消して貰うんですね」
(どれぐらい、あるの……?)
砂嵐で目も口も開けられない私は心の中で尋ねるが、声に出していないため当然オーマ達には伝わらない。
「砂嵐のせいでルーアが苦しそうだわ……早く繭の欠片を消してしまいましょう」
「分かりました、ではルーアを欠片に触れさせますのでしっかり持っていて下さい」
「おう!」
ヒバニーの手で宙ぶらりんにされながら移動する感覚……そして足先が砂ではない何かに当たった。
―――な、流れ込んでくる……私の中に……!
「よし、どんどん行くぜ!」
「急ぎましょ、ガバイト達が追い付いて来そうだわ」
「はい!」
―――苦しい……もう、呑み込みたくない……!
「靄もだいぶ薄れたな」
「オーマ、あれが最後よ」
「分かりました」
―――…………っ。
溜まっていく。身体の奥底に違和感が溢れんばかりに注がれていく。
「やったぜ! 繭の欠片、消滅だ!」
「お疲れ様、ルーアにオーマ」
「はい。これでアシマリ達も復活したと思いますが、メガガブリアスや他の凶暴化ポケモンは未だ健在です。援護に戻らないと……」
―――吐き出したい、吐き出したいよぉ……!
(……だ、ダメ。我慢しなきゃダメ……。ここで暴走したら、希望を絶望に変えちゃう……)
「ガヴァァ!」
「くっ、遂に追い付いて来たのね。『はっぱカッター』!」
「ルーア、しっかりしろ……! ……ダメだ、反応が薄い……砂嵐のダメージでピンチなんだ! 早く戻ろうぜ!」
「ですね、黒装に蝕まれたポケモン達から落ちた黒装の欠片を消すのは後回しにしましょう」
意識が朦朧とする中、私は砂嵐とガバイト達の叫び声の中に紛れる仲間達の会話を聞きながらただ我慢し続けるのであった。
「はあ、はあっ……」
「オーマ、息切れしてねえか?」
ダンジョンの中心部から離れた事で砂嵐の影響が比較的落ち着いて来たが、ダンジョンの中を往復していたオーマは明らかに疲労が溜まっていた。
「もしかしてあたし達を運んでるせいで重いんじゃ……?」
「い、いえ……あっ!」
カチリ。
その時オーマが砂で隠れていた罠を踏んでしまい、足元からガスのようなものが噴出される!
(な、何この甘ったるい匂い……)
ガスなど砂嵐で吹き飛びそうなものだがダンジョンの罠は不思議な性質を持っているらしく、甘い香りは風の影響を受けずに私達の周囲を滞留し続けていた。
「グァァ!」
「シャァァァア!」
聞こえて来たのはメグロコとスナヘビの叫び声。先程『ふきとばしのえだ』で吹っ飛ばされた筈の彼らはどういう訳か私達の方向が分かっているかのように、どんどん足音を大きくさせる。
「まずいわ、さっき撒かれたのは『あまいかおり』……『よびよせのワナ』だわ!」
「ポケモンを呼び寄せるワナか……」
『ゆけゆけズ』が戦闘態勢に入る中、メグロコ達だけではなくフカマル達の声も聞こえてくる。どうやら囲まれてしまっているようで包囲網を抜け出すのは容易ではなさそうだ。
「う、ぐぅ……」
砂の上に降ろされた私は胸中の圧迫感で吐きそうになりながら震える脚で立ち上がる。
ブブブブブ……。
―――欲しい、よぉ。気持ちよくなって、苦しいの解消したいよぉ。
(そんな事、言ってる場合じゃ……!)
苦しみに耐えられず、私は股間のバイブに意識を向けてしまう。細目のまま視線を落とすと膣液がポタポタと滴り落ちており、今の私は戦闘中に発情する変態少女だ。
「パクパク!」
「っ、『リフレクター』!」
砂嵐の先から突然飛び掛かって来たフカマルの攻撃をチコリータが咄嗟に黒色の防御壁を生み出して弾き返す。オーマの加護を受けているために壁は巨大かつ分厚くなっており、ちょっとやそっとでは壊れそうにない。
「どいて貰うぞ、『ニトロチャージ』!」
「シャアアッ!?」
相棒に負けじとヒバニーも黒い炎を纏ってスナヘビに突撃した。炎の規模も速度も普段より段違いに向上していてスナヘビは空高く吹っ飛んでいく。
「パ……クゥゥ!」
物理技では『リフレクター』を破れないと見たか、フカマルは『りゅうのいぶき』をチコリータに吹き掛けた!
「あっ……平気ですかチコリータ!?」
オーマは青紫色のドラゴンエネルギーに包まれるチコリータへ咄嗟に呼びかける。
「凄い、効いてないわ!」
しかしチコリータはすぐに『はっぱカッター』を放ちフカマルの黒装に走るラインを切り裂いた。視線を向けると彼女自身の言う通り、黒に包まれた体は傷一つついていない。どうやら灰色のニンゲンが持つ丈夫さの恩恵をチコリータ達も受けているらしい。
「すげえ、オーマのお陰で俺達まさか無敵か!?」
ヒバニーも本来苦手な筈のじめんタイプやいわタイプの技を受けても平然としており、『にどげり』で仕返しをしていた。
「う、うぅ……♡」
例え優勢であってもランドセルを使って道具で援護しなければならないのに、私は苦しみを抑えるために必死に腰を振り腿で股間を擦ろうとしていた。
―――玩具、玩具使いたい!
「あぎゅっ♡」
本能が勝手に命令し、ランドセルから飛び出したローターが割れ目に食い込んでしまう。ヒバニー達が戦ってる横で玩具オナニーするなんてもう滅茶苦茶だ。
「ちょっとルーア、何やって……」
オーマが目を白黒させて私の方を向いたその時だった。
「ガガガガガ!!」
「……っ!?」
足元の砂の中から飛び出したポケモンの突撃がオーマの腹部に直撃。一見虫ポケモンのようにも見えるが、それはビブラーバであった。頭部を黒装に覆われた彼女もまた『よびよせのワナ』で引き寄せられ、邪魔者に地中から『あなをほる』で襲い掛かったのだろう。
「……おっ、おげえっ……いた、いたい……っ、いたいぃ……!」
その一撃を食らった途端、オーマが苦しそうに膝を突いて泣き始めてしまう。怪我は一切していないとはいえ、痛みには非常に弱いらしく耐えられなかったのだ。
「うおっ!?」
「も、戻っちゃった!?」
そして蹲ったオーマはヒバニー達を解放すると、自分の両手で痛む腹部を押さえて必死にさすり始める。
「ガガガ!」
「『はっぱカッター』……あっ!」
ビブラーバに飛び掛かられたチコリータは得意技で迎え撃とうとするが、つい先ほどまで強力な攻撃を行えていたのが突然元に戻った影響および再び砂嵐に襲われ始めたことで目測を見誤り明後日の方向に飛ばしてしまった。
「ガガァ!」
「きゃっ!?」
「このっ、よくも!」
『だましうち』で叩き伏せられたチコリータを助けようと今度は『ノーてんバンダナ』を身に着けたヒバニーが飛び出す。彼は『でんこうせっか』で黒装に覆われたビブラーバの頭部を狙うが残念ながら紫のラインには命中せず、相手は地中へと潜って行ってしまう。
「はっ♡ はっ♡」
(ま、まずい……手助けしなきゃ……でも、気持ち良くなりたいぃ……)
膣内の奥にあるバイブと割れ目に嵌まったローターの二つの振動に私はだらしない笑みを浮かべて身を捩らせていた。こんな状態では道具を使って援護するなんて不可能だ。
「ガッガァ!」
「くはっ……!」
ビブラーバは『あなをほる』で勢いよく飛び出しながら突撃し、ヒバニーは先程とは逆で今度は自分自身が空高く吹っ飛んでしまう。
「ガガ……!」
オーマ、チコリータ、ヒバニーを瞬く間に蹴散らしたビブラーバは最後に残った私へと紫に光る瞳を向けて来る。
(や、やめて……今攻撃されたら……もう耐えられなくなる……!)
私の願いは届かず、ビブラーバは黒装な覆われた頭部を掻きむしりながら詰め寄り……。
「『スケイルノイズ』!!」
鱗同士が擦れ巻き起こる騒音に吹き飛ばされた!
「無事か!?」
「わわっ、ヒバニーくん達倒れてる!」
振り向いた先にいたのはジャラランガとアシマリであった。黒い靄がなくなったことで動けるようになり、私達と合流しに来たのだろう。
「うぐっ、う……♡」
「ルーアも限界のようだな……一度砂嵐の外へ撤退するのが最善か」
ジャラランガは素早く状況を確認すると私達二人と二匹を軽々持ち上げて移動を開始しようとする。
「シャアァァァァ!!!」
しかし、すぐ近くから響き渡る咆哮。
なんと、黒い巨体を持つメガガブリアスがかなり近くまで接近しているではないか!
『よびよせのワナ』で彼女も同様に誘われており、ジャラランガ達が私達の下へ辿り着けたのもメガガブリアスの移動先へ先回りしたからか。
「いかん……アシマリよ、我輩の体に掴まるのだ」
「分かったけど……どうするの?」
アシマリが尻尾にしがみつくのを確認するとジャラランガは自らの筋力を活かして高く跳躍!
「破ァ!!」
そしてメガガブリアスに『ばくおんぱ』を放ち、攻撃と同時に反動で大きく移動する!
「わぁ〜!?」
急に移動したことでかかる慣性で身体が圧迫され、私はさらなる吐き気に襲われる。続けて着地の振動でクリトリスリングが陰核の根本を擦り……。
「んきゅっ♡!」
私は軽く達してしまい膣液を数回噴き出した……もっと気持ちよくなりたくて仕方ないけれどほんの少しだけ苦しいのが収まっただろうか。
「ううん……あれ、砂嵐が止んでる?」
「うおっ、ジャラランガ!? いつの間に!?」
その衝撃でヒバニー達も目を覚ましたらしく、ジャラランガの脇に抱えられている状態に目を丸くしている。
「黒い靄を消してくれてありがとね! お陰で私達もサンド達も無事だよ!」
「こっちも助けてくれてありがとう。オーマの力で強くなってたのはいいけど、調子に乗ったのは反省点ね……」
「ひい……ひい……っ」
チコリータは未だに苦しそうに呼吸しているオーマを見つめて応える。灰色のニンゲンに取り込まれれば技の威力が向上したり相手からの攻撃や黒い靄が効かなくなったりと非常に強くなれるが、その反面灰色のニンゲン自身が攻撃を受けると強化が解けてしまうようだ。
「今のうちに『オレンのみ』を食べておくのだ。ガブリアスがこちらに来るぞ」
ジャラランガが注意を促す通り、黄色い砂嵐の中にいる黒く巨大な存在が大きな足音を立てながら私達のいる方向へと近付いて来ている。
ズン!
「……へ」
メガガブリアスのいる方向とは逆側から地響きが鳴り、私はゆっくり振り向いた。
そこにあるのは黒い球体。私が状況を整理するより早く球体は形を変えていく。
ベルトのような重甲、丸みを帯びた身体と小さな四肢、牙のようにも見える一対の棘。
そして……紫に光る目と、身体のあちこちを走る紫色のライン。
黒き脅威が再来した。