目の前に屹立する巨大な桜の木。それはこの『スプリングタウン』のシンボルでもあり、そして…。
「ここが救助隊連盟の施設の一つ、『ファイヤーのギルド』ですわ」
遠目では分からなかったが木の幹にくっつくようにツリーハウスが幾つか建てられており、あれらがギルドの建物らしい。螺旋を描くように取り付けられたスロープを上がりマホイップと共に上を目指す。
「……」
依頼品を納めるマホイップはともかく私まで同行している理由。それは当然、凶暴化ポケモンを元に戻す力に関係している。あの青い光が私によるものだと確定した以上救助隊連盟に報告しなければならない、というのがマホイップの弁。
しかし私は自分がこれからどうなるのか気が気でない。
まず別世界から来た人間という時点で異様であるのに、その上凶暴化ポケモンを元に戻せるなど不気味がられそうだ。
それにこの『ファイヤーのギルド』はこの町の中心ともいえるのでそこから話が広まって、この町に居辛くなって出て行かないといけなくなったりということも考えられる。
そんな嫌な未来を想像している内に辿り着いたのは『救助隊スペース』と看板に書かれたツリーハウスだ。マホイップに続いて緊張しながら入ると、そこは町の大通りとはまた違った賑わいを見せていた。
「良かった、新しい救助依頼は来てないね」
「明日からリンゴ集めの依頼に対応できそうだな」
「テレポート屋に『つめとぎ山』が登録されたって?」
町のポケモン達からの依頼が貼られた掲示板、ダンジョン冒険のための道具を売る販売所、情報交換の場ともなる食事処などが設営された建物内を小型の桜の木や花々が彩っている。
そんな空間で談笑する救助隊らしきポケモン達の中に見覚えのある二匹がいた。
「あらマホイップ、お帰りなさい。石材調達依頼を受けたと聞いたわ、お疲れ様」
「こちらも救助成功」
マホイップと同じ『ナイトスター』のメンバー、ドラミドロとアノホラグサだ。
「……そいつは?」
「ええ、ルーアですわ。『芽吹きの洞窟』へ同行させましたの」
当然ながら後ろに立っていた私に話題が移り、思わず半歩下がる。
「ふうん……見た事の無いポケモンね」
「かなりの訳アリなのですわ。だからこうしてギルドまで連れて来ましてよ」
緊張で心臓がバクバクする……それに……。
「あ、マホイップさんも来た」
「『ナイトスター』はいつも凄まじいオーラを…ん?傍に立ってるのは…」
「私今日の朝通りで見かけたよ。珍しいポケモンだよね」
「どうして『ナイトスター』と一緒に?」
注目の的のマホイップ達が近くにいるせいでこれまで以上に目立ってしまう……!
(自縛野外露出してる姿が見られてる! 乳首もお尻も股間も見られてる!)
「では、『かたいしのかけら』を納品するついでにファイヤーさんとお話しできないか掛け合いますわ」
「ええ、行ってらっしゃい。後で事情聴かせて頂戴ね」
周囲の視線で羞恥心に襲われる私を連れ、窓口へ向かうマホイップ。
しかしそこには先客がおり…。
「救助完了、お疲れ様です。こちらが依頼者から預かっていた謝礼となります」
「ありがとう……うん?」
報酬を受け取る先客はこちらの気配に気づいたのか振り向いてくる。
「あらインテレオンさん。奇遇ですわね」
「なっ、マホ……それにルーアまで!? どうしてここに!?」
思いがけない相手が現れたからか、大口を開けて驚くインテレオン。
「おや、お知り合いでして?」
「あーっと、ちょっとね……」
「インテレオン~……」
「えっ、ルーア……?」
ポケモン達からの視線に耐え切れず、私は助けを乞うように彼の胸元へ擦り寄る。
「…………」
それを見たマホイップはニッコリと笑顔になった。
しかしそれは微笑ましいものを見る、とは正反対の感情によるもの。
「なんだこの身体の冷えは……」
「燃えている……マホイップちゃんが燃えている……」
賑やかだった筈の『救助隊スペース』はいつの間にか、修羅場のような様相に。
「……っ」
命の危機を感じた私はそそくさと二匹から離れるが、凍てついた空気は戻らない。
「うふふふふ。インテレオンさん、ルーアとはどういうご関係で?」
「い、いや……昨日僕の家にやって来て、ポケが無いから泊めて欲しいって……」
「それで無償で泊めてあげたと。うふふふふ、優しいお方ですね?」
笑顔のまま薄っすら目を開いて尋ねるマホイップに対し、冷や汗をかきながら回答するインテレオン。
「あら。あのルーアって子、物凄い大胆ね」
「泥棒猫」
食事処にいた筈のドラミドロとアノホラグサもそんな事を言いながらやってくる。
(な、なんだかどんどん良くない方向に話が進んで……!)
「あっ! ルーア! こんな所にいた!」
「情報収集してる最中にいなくなるから心配したのよ! もう……」
そこへ更に丁度ダンジョンから帰って来たらしい『ゆけゆけズ』の二匹、ヒバニーとチコリータがデジャヴを感じる発言をしながら駆け寄って来た。
「……って、ん!? どうして『ナイトスター』と一緒に!?」
「あなた達は確か……つい最近結成したチーム『ゆけゆけズ』だったかしら」
「ルーア、もしかして彼女達とダンジョンに行ってたの!?」
「行ってない。こいつはオスを誑かす悪者」
「曖昧な返事ばかりして……私のことを弄んでいたなんて……!」
「ち、違うって! 僕はそんなつもりじゃ……!」
私の周りにてポケモン達が騒ぎ出す。
「他の奴と冒険に行くなら俺達に言っておいてくれよ! 心配するだろ!」
「あら? インテレオンだけじゃなくてヒバニーも狙ってたのかしら」
「え!? 嘘でしょルーア! 嘘だと言って!」
「『タネマシンガン』発射5秒前……」
「本当なら私も今日お家に泊めて下さいまし!」
「えええっ!?」
もう無茶苦茶だ、としか思考できず私は意識が遠のいた。
このままでは私だけでなくギルドも破壊されるのでは、と危惧したその時だった。
「喧嘩はダメー!!」
桜吹雪が舞い、騒いでいた面々の中心に一匹のポケモンが降り立つ。
小柄ではあるが満ち溢れる存在感を放つ、桜のようなポケモン。
「あれはギルド長補佐のチェリムだ」
「騒ぎを聞きつけて来たんだね」
ニコニコと笑顔を絶やさないチェリムは『ナイトスター』やインテレオン、『ゆけゆけズ』の面々を順に見つめ、最後に私へと視線を合わせる。
「ん、あなたは? 救助隊に登録してない子だよね?」
「この子はルーア……ちょっと事情があってこの町に来てるんだ」
彼女の質問に回答するインテレオン。
「そっかー、『スプリングタウン』の仲間が増えるのはいいことだよね! ハッピーハッピー、ポジティブポジティブ!」
そう楽しそうに小躍りするチェリムの姿に、騒いでいたマホイップ達も気を削がれる。
「まぁいいですわ。それよりチェリムさんは私達を止める為だけにここへ?」
「そうだよ! ネガティブな喧嘩はダメだからね!」
「やれやれ……ですけどいい機会ですわ。少しよろしくて?」
「なーに?」
そう言ってチェリムに耳打ちするマホイップ。
「……すごーい! それはハッピーハッピー! ポジティブな情報! それなら早速、長の所へ行こう!」
すると更に嬉しそうになったチェリムがステップを踏みながら移動を始める。
「行きますわよルーア」
「うっ……」
間違いなく凶暴化ポケモンを元に戻す力に関する話だ……どうしよう。
「それってまさか……あたし達も行く!」
「だな、聞き逃す訳にはいかねえ!」
「どうするドラミドロ」
「なんだか面白い話みたいね。フフフ、勿論行きましょう」
事情を知っているチコリータ達と、興味を持ったアノホラグサ達もチェリムの後を追い始める。
「……っ」
マホイップに連れて行かれる中、私はチラリとインテレオンに視線を向けた。
「……!」
状況が読めておらず困惑していた彼だったが、私の顔を見ると列の最後尾へと加わるのであった。
更に螺旋状のスロープを上がり、ギルド宿舎へとたどり着いた一行。
「ここが私達の寝泊まりしてる所よ」
「今日の晩飯も楽しみだなー」
『ゆけゆけズ』が説明するこの空間には確かに、アパートやマンションのように幾つも扉が並んでおり、広間には食卓らしき大テーブルも鎮座している。
どうやら救助隊連盟は、救助隊への寝食提供も行っているようだ。
「おーいチェリム! 騒ぎは片付いたのか?」
「バッチリだよ」
「そんな大人数で何事ですか?」
「ちょっと長の所へ!」
ここで生活しているらしい救助隊ポケモン、サボネアとゴビットへ応対しながらチェリムは歩き続ける。
ギルド宿舎の中を通過し、再び外へ出るとすぐ先にまた一つ建築物が巨大な桜の幹に建てられているのが見えた。
先程の二つの木造建築とは異なり、こちらはまるで炎を思わせる赤色の石造建築だ。スロープと繋がった出入口とは別に、鳥小屋の如く大きな丸い穴が開けられているのが印象的である。
「長、チェリムだよ! お話があるけど今入ってもいい? お客もいるよ」
「ええ、お入りなさい」
チェリムの言葉に対し、高貴さを感じさせる声が返って来た。
(この先にいるのがギルド長、ファイヤー…!)
緊張で私はゴクリと固唾を飲む。
扉を開き中へと入って行くチェリムや『ゆけゆけズ』、『ナイトスター』。自分も進まなければ、と思うも足が竦んでしまう。
異世界から来た人間が受け入れられるのか?
いや、そもそも妙な力を持っている、人間ですらない存在なんて……。
「大丈夫さ」
私の隣まで歩み寄るインテレオンが笑顔で言い切った。
「ファイヤーはキミを悪いようにするポケモンじゃない。それに僕だっているから」
目を合わせると彼は頷く。
「……」
緊張が消え去った訳じゃないし、怖い思いもある。
だけど……今は彼を信用したい。
所々に焦げ跡が残った石造りの部屋を照らす火炎。この部屋に燭台や蝋燭、暖炉といった火を灯すための設備は無いが、その火炎は幻ではなく確かにそこにある。
翼。鶏冠。尾羽。
それらの部位に真紅の炎を宿すのは目の前に立つ鳥ポケモン、ファイヤーだ。
「……っ」
そんな相手に真正面から鋭い目を向けられ、すくみ上がってしまう私。
それに私の両脇にはインテレオン達他のポケモンも。こんな中でただ一人、手錠と首輪を掛けたまま裸サイハイソックスとロングブーツ姿なんて……!!
「あなたは見た事の無いポケモンですね。名前は?」
「……」
静かに問いかけられ、私は咄嗟に視線を左右に動かす。しかしヒバニー達もインテレオンも応援するような視線を向けて来るだけで、代わりに答えてくれる気配はない。
「る……っ、ルー……アッ……」
「ルルーアですか」
「ルーア! ルーアだよ!」
まともに呂律が回らないせいで誤解されてしまったが、すぐさまインテレオンがフォローに回る。
「取って食うつもりなどありません。もう少しリラックスなさい」
「あ……う、はい……っ」
「不躾であることを承知で尋ねますが……ルーア、あなたは何者でしょうか。どこからこの町へ?」
「……っ」
答えないと。
身体全体が震えるけれど…怖いけれど…。
「……っ、人間……! こことは、違う世界から……来たの……っ!」
震える声で必死に絞り出す。
「……ニンゲン、違う世界。にわかには信じがたいですが……」
「それについて俺達、今日ヤレユータンの所で話を聞いたんだ!」
「そうよ、御伽噺の挿絵にあるニンゲンがルーアに近かったの!」
疑いの目になるファイヤーに対して答えるヒバニーとチコリータ。
「ふむ、なるほど。それでは何が目的でこの世界にやって来たのですか?」
「もく……てき……っ?」
(それって……元の世界から逃げたいって願ったから? だけど……そんな答えしたら……っ)
「わから、ない……この世界に、迷い込んだだけで……!」
「自発的ではなく偶発的、と。この世界に更なる異変が……?」
咄嗟に嘘をつくと、ファイヤーは視線を落として呟いた。
「それについて私からお話させて頂いてもよろしくて?」
そこで口を挟むのはマホイップだ。ファイヤーは頷いて彼女に許可を与える。
「まず結論から申し上げますと、ルーアは凶暴化ポケモンを元に戻す力を持っていますわ」
「……!!」
「えっ!?」
「凶暴化を……!?」
「驚き」
マホイップが単刀直入に言うと、それまで表情を崩さなかったファイヤーが目を見開いた。この件を知らなかったインテレオン達も大層驚いた様子だ。
「『ゆけゆけズ』でしたかしら。凶暴化ポケモンが元に戻る所を『清流森林』にてルーアと同行していたあなた達が見たとヤレユータンさんから聞いていますけれども、間違いなくて?」
「ええ、保証するわ」
「ご回答感謝いたしますわ。そして今日私も『芽吹きの洞窟』にルーアと共に向かい、そこでも凶暴化ポケモンが元に戻る所を確認しましたの。この事から、ルーアが凶暴化解除の力を持っていることは確定しましたの」
「数年間ずっと調べてたけど凶暴化からポケモンを解放する術は見つからなかったんだ!それをどうして違う世界から来たルーアが……!?」
マホイップの説明に対し、困惑した様子のインテレオンが問いかける。
「インテレオンさんの言う通りですわ。ずっと困ってた凶暴化に対抗できる力がいきなり現れるなんて、偶然とは言えない……」
そう言いながらマホイップは私へと視線を向けた。
「ルーアはこの世界へ迷い込んだと言っていましたけれども……実際は何か……神のような存在がこの世界を窮地から救うため、意図的にルーアを呼び寄せたのではと考えていますわ」
私が……この世界に呼び寄せられた?
「マホイップ。ポケモンでは凶暴化に対処出来なくても、ニンゲンであればそれも可能で、だから誰かが違う世界からニンゲンを呼び寄せたということでいいのかしら?」
「そういうことですわ」
「神……何者」
「御伽噺で見たことあるぜ! 『アルセウス』っていう世界を生み出したポケモン!」
「それは御伽噺で……だけどニンゲンも実際に目の前にいるわよね……」
「うわーうわー! 世界の救世主さんが来たってことー!? ハッピーハッピー!」
「……」
話し合いを始める『ナイトスター』とそれに加わる『ゆけゆけズ』。チェリムは嬉しそうに小躍りし、インテレオンは俯いたまま黙っている。
「確かにそう考えれば繋がるでしょう。ですが根拠はありませんし何よりルーア自身の想いが重要でしょう。彼女が一刻も早く元の世界に帰りたいのであれば、私達の都合で利用する訳にはいきません」
そんな彼女らに対しファイヤーが制止をかけた。
「ルーア。あなたはどうしたいのですか? 今すぐ帰りたいのか、凶暴化ポケモン達を救いたいのか」
再び部屋が静かになり、ポケモン達の視線が私に集まる。
自分達に協力してくれると一切疑わず、期待の視線を向けてくる者達。
お願い裏切らないで、と言いたげに見つめてくる者達。
こちらを試しているかのようにも見える者達。
怖いよ……。
こんなの……凶暴化ポケモン達を救う一択しか選べないよ……。
「それを決めるのは時期尚早じゃないかな!」
涙を浮かべる私の肩に置かれる大きな手。
「インテレオン……それはどういう?」
私の隣に立った彼を鋭い目で見つめ、ファイヤーが静かに問いかけた。
「まず第一にルーアが元の世界に帰る手段なんて見つかってない。それに彼女はこの世界に来てから一日しか経ってなくて判断力も鈍ってる筈……彼女にはもう暫く考える時間が必要だと僕は思うよ」
「そう言われてみれば、いきなり違う世界って……」
「確かに辛いのかもな……知り合いがいねえわけだし……」
チコリータとヒバニーは顔を見合わせながら呟く。
「ですけどルーアがいて下さらないと……!」
彼の前に飛び出したマホイップが必死に声を上げた。
そんな彼女に対し、姿勢を下ろして目を合わせるインテレオン。
「マホイップ。僕たちは救助隊だろう? もっとキミ自身……そして僕たち救助隊の力を信じてみてもいい筈だ」
「……救助、隊」
「ルーアが決心するまでの間でも、僕達には苦しむポケモン達を救う事が出来る。たとえルーアが帰ってしまったとしても力を合わせれば……きっといつか凶暴化解除の方法も見つかる筈さ」
「そ、そうですわね……私と貴方で……!」
「リーダーがそう言うならあたくしも同調するわ」
「仕方ない」
目を輝かせるマホイップの後ろでドラミドロとアノホラグサは表情を緩める。
「長、どうする?」
「……この場で私から言う事は特に」
チェリムの問いに対し、ファイヤーは目を閉じてそう答えた。
「ルーアもそれでいいかな? 暫く力のことは頭の片隅に置いて、ゆっくりとこの町……この世界のことを色々知っていけば色々整理しやすくなると思うんだ」
微笑みながら確認を取って来るインテレオン。
「……っ」
泣き出してしまいそうになりながら、私は彼に頷く。
……ありがとう。
「それじゃあルーアは当面この町に滞在するって事でいいかなー? 帰る方法も見当つかないんだし」
「それがいいと思うな。いきなり違う世界に来たってだけで相当心の負担だろうし、あんまり彼女の心に刺激を加えたくはないよ」
「この町にいるのなら、寝泊まりする場所はどうするの?」
「……」
チコリータに問われ、私はチラリと隣……インテレオンの姿を見つめる。
「僕の家かい? ルーアが望むなら僕は構わ……な……」
彼はそう答える途中で冷や汗を垂らし、マホイップへと視線を向けた。
「別によろしいですわよ」
しかし意外にもマホイップは笑顔で言い、反対する様子は見せなかった。
「ではインテレオン、ルーアに関してはあなたに任せます。混乱を生まないよう一同、本件に関しては他言無用を徹底するように」
「了解」
「あっ、ヤレユータンはもう知ってるからそこはよろしくなー」
場は解散となり、ポケモン達が次々とギルド長の部屋から退出していく。インテレオンのお陰でどうにかこの場を切り抜けられたことに安堵しながら私も続こうと足を進めた。
「ルーア、あなたに伝えたいことがあります」
「えっ……!?」
ファイヤーに呼び止められ、私の心臓が飛び跳ねる。
「それじゃあ僕も……」
「いえ、すぐに話は終わります。ですが内密な件なので……チェリム、彼と共に救助隊スペースまで」
「了解だよー」
「……」
インテレオンはこちらを心配するような顔のまま、先に外へと出て行った。
そうしてファイヤーの前に残されたのは私一人。
「彼にも伝えた通り、私からの話はすぐに終わります」
身体の震えが止まらない私に対して、ファイヤーは話を始める。
「用件は二つ。まず一つ……『追放の遺跡』についてあなたにお伝えします」
「えっと……それは?」
私が尋ねるとファイヤーは語りだす。
この『スプリングタウン』から東に位置する、『追放の遺跡』。
数年前、『歪みの穴』現象により出現したかの遺跡は、ポケモンが近づこうとしても謎の力で押し戻されてしまうのだという。なぜポケモンを拒むのかは分かっていないが、もしかしたらニンゲンであるルーアであれば入ることが出来るのではとファイヤーは続けた。
「元の世界に帰ることを望むのであれば、その遺跡に賭けてみても良いでしょう」
「……!」
元の世界に、帰る?
「ですがダンジョンと同様の危険がないとも言い切れませんので、行くかどうかの判断は慎重に。焦らずとも遺跡はなくならないでしょうから」
「……分かった」
どうしよう。
そもそも私は元の世界に帰りたいのかな?
ポケモンしかいないこの世界に人間が私一人だけなのは寂しいし、この世界にいる限り多分手錠も首輪も外せないしこの変態な格好も……。
でもあの時、元の世界から逃げたいって願ったのは間違いなくて……。
元の世界に帰ってもきっとまた孤独な毎日で……。
「では残りの一つですが……」
思案する私に対し、ファイヤーは口を開く。
少し悲しげな顔で。
「どうか、あまり周囲に流され過ぎないように。違う世界から来たニンゲンであるあなたは、私達とは文化も価値観も異なるでしょう。だからこそ自らの気持ち、考えを手放してはいけません、ルーアがルーアらしくいるために」
「……っ」
「話は以上です、呼び止めてしまい失礼しました」
「……うん」
ファイヤーに言われ、私は踵を返し歩き出す。
……。
そうだ、周りの流れに身を任せてばかりで……。
与えられた好意に甘えるばかりで……。
だけど……自分の意見を出すのは……怖い。
また失敗するのは、怖い。
気付くと夕日が町を照らす時間となっていた。
「ルーア、晩御飯は何がいい? リンゴ、グミ、木の実…」
「……っ」
隣を歩くインテレオンに聞かれるが、私は何も答えられない。正直に言うと、果物や木の実ばかりの食生活はもう限界だ。だからといってこの世界に人間向けの料理があるとは思えないし、我儘を言っても彼を困らせてしまうだけだろう。
どうしたものか、と思いながら歩いていると聞き覚えのある声が耳に届いてくる。
「マラサダ、売ってますよ~! いかがですか~!」
ドデカバシが通りを行くポケモン達に声を掛けていた。
彼の隣には息子らしきツツケラが立っている辺り、『ゆけゆけズ』は問題なく救助達成したようだ。なのだが、朝と変わらず客足は見られず張りのいい声が虚しく響く。
「ん、あれは……少し前から開店してるお店か」
インテレオンはドデカバシ達を見つめる私に気付き、足を止めた。
「……よし、あれにしてみるか」
数秒の沈黙の後、彼は頷いてマラサダの出店へと向かう。
「お、おおっ! もしかしてお客様!?」
「うん、興味を引かれてね」
遂に訪れた客に、ドデカバシは嬉しそうに目を輝かせる。
陳列されているマラサダという名の揚げパンを見てみると、プレーンやリンゴ入り、オレン風味など意外に多くの種類が用意されていた。
「ルーアはどれがいい?」
「えっと……プレーンがいいかな」
「分かった。それじゃあプレーンとオレン風味を五個ずつ」
「お買い上げ、ありがとうございます!!」
意外と豪快な数を購入するインテレオン。思い返してみれば昨日の晩御飯の時も結構な量を食べていたし、細身な身体に対し大食いなのだろう。
「あら、あそこで歩いてるのインテレオンさんじゃない?」
「何買ったのかな?」
「ドデカバシが売ってるマ……サラダ? あんなに買ってるって事はもしかして美味しいのだろうか」
「得体が知れなくて敬遠してたけど、私達も試しに買ってみようかな」
帰路につく私達の背後で、町のポケモン達はそんな話をするのであった。
歯を立てるとサクリと小気味いい音が鳴り、甘みが口に広がった。サクサクした外側に対し、中はふんわりと柔らかくパンの風味が舌を優しく包み込む。
「……もぐっ、もぐっ」
元の世界を感じる食事に私は夢中で口を動かした。
「……」
目の前でマラサダを口に運ぶインテレオンは、黙っているものの幸せそうな表情だ。
沢山あったマラサダはあっという間に無くなり、私は頬を緩めながら息をつく。まさかこちらの世界でパンを食べられるとは思ってなかった。
「ねぇインテレオン、この世界って揚げパ……マラサダみたいな食べ物って他にもあるの?」
「いや、木の実や果物……それらを絞ったドリンクや、さらに加工したグミぐらいかな」
「……」
そこで私はある疑問を感じ、口を噤む。
「こんばんは~」
「おや、誰だろう」
その時、玄関から聞こえてくる何者かの声。
家主のインテレオンが小走りで向かうのを見送るが、間もなく彼の上擦った声が聞こえてくる。
「なっ! なんでここに!?」
「ぜひお泊り会をやりたくて」
嫌な予感を覚え、私も玄関へ向かうと案の定そこには……。
「ま、マホイップ…」
星形のアメざいくと黄色い瞳で夜の中でも目立つ彼女は笑顔で玄関先に佇んでいた。もしかしてギルドにて私がインテレオンの家に滞在すると聞いても反対しなかったのは……。
「待ったマホイップ! 君には『ナイトスター』基地が……」
「ルーアは良くて私は駄目と仰いますの……?」
「いや! そういう訳じゃないけど……!」
「安心致しましたわ。チームは異なれど救助隊同士、こうやって親睦を深めるべきですものね」
「そ、そう……だね」
半ば無理矢理インテレオンを言い包めたマホイップは家へと上がって来る。
「ええと、ドラミドロとアノホラグサは放っていてもいいのかい……?」
「いきなり三匹で押し掛けるのもご迷惑かと思いまして。彼女達は『ナイトスター』基地でゆっくりくつろいでいましてよ。こちら、つまらないものですがどうぞ」
そんなことを言いながら彼女はポーチからある赤と青の物体を取り出す。
「あ、ありがとう。ぜひ頂くよ」
インテレオンは強張った笑顔を見せながら、その青白いミントクリームで綺麗にデコレーションされたリンゴを受け取った。おそらくあのクリームはマホイップ自身が生み出したものであろう。
「マホイップ冥利に尽きますわ。仲間以外にはクリームをなかなか食べ物と認識して貰えないものですから、いつも受け取って下さるあなたには感謝いたしますわ」
「……ねぇマホイップ。マラサダって知ってる?」
「……。ああ! 最近ドデカバシがそんな名前の物を売っているのを見かけましたわ。もしかしてお召し上がりになって?」
私はマホイップに対し尋ねるが、彼女は数秒思案した後思い出したかのようにそんな回答をする。
「うん、サクサクふんわりの食感とモモンとはまた違う甘味で美味しかったよ。もしかしたらキミのクリームと合うかもしれないな」
「あら、それでしたら今度そのマラサダなるものをデコレーションして、アノホラグサ達に振舞ってみようかしら」
この反応を見るとマホイップは自分が生み出せるクリームには詳しいものの、マラサダ…ないしは揚げパンは知らない様子。
クリームを生み出せるのはマホイップというポケモンの能力であるから疑問は無い。
……ではドデカバシはどのようにマラサダを用意しているのだろうか? インテレオンの話からは小麦自体ポケモン達に認識されていないようにも取れるし、油で揚げるという行為も必要だ。
料理という概念すら無さそうなこの世界のポケモンが一体どうやって私の世界の技術を……。
……もしかして、ドデカバシと私の世界に何かつながりが?
星々が煌めく深夜。
ベッドで横になる私は音をたてないように身動ぎする。
「……はあっ♡」
腿を動かして股間を擦る度に熱い吐息が漏れてしまう。今日は三回も絶頂してしまったのに、身体がまだ快感を欲しがっているのだ。
(私、こんなにエッチな女の子だったっけ……?)
ずっと膣内でバイブが微振動しているからかもしれない。
ずっと手錠と首輪をかけて拘束プレイしているからかもしれない。
ずっと全裸にサイハイソックスとロングブーツだけ履いた変態な格好をしているからかもしれない。
「……んあっ♡」
今日のことを色々思い出す。
朝から町の中を裸で動き回っていたこと。
マイナンとプラスルに電流を流されてイってしまったこと。
ナゾノクサに股間を吸われたこと。
枝を膣内に挿入して抜けなくなってしまったこと。
アイアントの群れに襲われながら絶頂したこと。
変態な格好のまま、ギルド長室で問答することになったこと。
「あうぅ……♡」
エッチな記憶が蘇る度にいやらしい気持ちと愛液が溢れてしまう。脚の動きも止められず、逆にどんどんペースが上がって行く。
スリスリ。スリスリ。
「……ううっ!」
(足りないよ、刺激がもっと欲しいよ……っ!)
「……ギシギシうるさいですわよ、ルーア……」
不機嫌そうな声が聞こえ、私は動きを止める。
あまりに身動ぎを強めたせいでベッドが音を立て、同じ部屋にいるマホイップを起こしてしまったのだ。
「こんな夜中に何をやってまして?」
「んう……ふぅぅ♡」
彼女がベッドに上がりながら尋ねてくるが、発情状態の私は答えられない。
「その様子のおかしさ……『芽吹きの洞窟』でも何度か見ましたわね。確か股間がどうとか……」
「あううっ……!」
そう言って私のマンコをまじまじ観察して来るマホイップ。
「口でもない、物を掴む器官でもない、体液が垂れている……ニンゲンとは不思議な生き物ですわね」
「んひゃあっ!? 触らないでえっ♡」
彼女に割れ目をなぞられ、私は快感で全身を跳ね上がらせる。
「あら、またピンク色の何かが膨れて……」
「そこは駄目だってばぁ!」
再び勃起してしまうクリトリス。私は慌てて寝返りしてマホイップに背中を向けた。
「くうっ……♡ うううっ♡」
しかし性欲は収まらず、股オナは止められない。充血したクリトリスが早く弄ってと言わんばかりにぴくぴく痙攣するが両腕の使えない私では触れる事も出来ない。
「嬉しそうではあるけれどそれと同時に苦しそうですわね……そして必死に股間を擦ろうとしている……やっと分かりましたわ!」
「ふあっ……♡!?」
すると突然マホイップは飛び跳ねて私の下腹部に着地。
「人間のここは刺激を受けると自身を回復させる器官なのですわね!」
あながち間違いとも言えない解釈をした彼女は私のクリトリスをツンツン突き始めた。
「ひぎぃぃぃっ♡♡!!??」
歓喜の絶叫を上げて私は腰を浮かせる。ベッドの上でブリッジの態勢になり、下腹部に乗ったマホイップを持ち上げている状態……! 彼女はかなり軽い部類のポケモンだが、それでも身体がヒクついてしまう……!
「ナゾノクサに引っ張られて喜んでいましたから……これを引っ張ればルーアは回復できるのかしら」
「ふわあっ♡♡!?」
小さな手で陰核を握られ引っ張り上げられ、私はガクガクと腰を揺らした。
(気持ちいい!!クリトリス弄られるの気持ちいいぃ!!)
「あーっ♡! いいっ♡! これいいぃ♡!」
「予想通り喜んでいますわね。それにしても自身を癒す器官を自力では使えないなんてニンゲンって難儀な生き物ですのね……大変ですわ」
クリトリスを手コキされ、愛液がおしっこのように噴き出てしまいベッドを汚していく。それだけでなく、大事な部分をポケモンに触られているという羞恥心で更に興奮が高まっていた。
「おおっ♡ あんっ♡ もっと欲しいぃ♡」
「ええお任せください。『芽吹きの洞窟』では守り切れず危険に晒してしまいましたので、お詫びも兼ねてどうかこれで存分に回復して下さいませ」
性感帯の集まった陰核に刺激が走る度、私の脳内を快楽物質が駆け巡る。
「ルーア、凄い顔ですわよ? 舌まで出してしまって……」
まさかそんなにみっともないイキ顔を晒してしまっているのだろうか。言葉にして言われると余計に興奮が高まり、気持ち良くなってくる。
「うああああっ♡♡!! もうイクぅぅ!! お願い、全力で弄ってぇぇぇ♡♡!!」
「乱暴にして大丈夫なのかしら? では行きますわ……」
涙と涎で顔をグシャグシャにして私は懇願。
そして強められるクリトリスの手コキ…!!
「イク、イク…イックぅぅ♡♡♡!!」
快感の津波が訪れ、私は遂に絶頂を迎えた。
力を失いブリッジの体勢を崩す直前にマホイップは私の身体から降り自分の寝床へダイビング。
「よっと……全回復したようですわね」
幸福感たっぷりの私のアヘ顔を見たマホイップはうんうんと頷く。
絶頂の余韻に浸りながら、私は瞼を閉じるのであった。
幸福…。
私、幸福なのかな?
嫌な事を無理矢理忘れてるだけじゃないのかな……?