清涼な風が吹き抜ける自然豊かな森林、そして木々と調和するかのように慎ましく寄り添うのはポケモン達が住む家々。
『四大都市』の一つ、『オータムビレッジ』だ。
夕方となり暗くなりつつある村の中、ジャラランガを先頭にゾロゾロと集団で進む私達。
「ああーっ!? ジャラランガさん!?」
「『颶風の砂漠』へ向かわれたと聞いてからずっと音沙汰が無くて心配していたんですよ!」
「それにテールナーも…? もしかして凶暴化から戻れたのか!?」
村のポケモン達がジャラランガ達の帰還を喜ぶ様子を私は息を殺して見つめていた。
「おお、チャオブーも帰ってきたか。ワカシャモ達はどうした?」
「えーっと……後で説明するんだなぁ」
「まだあいつらは帰って来てないみたいね」
「あっちは黒い靄で『あなぬけのたま』を失って、こっちは『ロイヤルズ』が持ってきた『あなぬけのたま』を使ったからね。先回りは成功したみたい」
チャオブー達の後ろを歩くチコリータ達はヒソヒソ小声で話し合う。
「オーロットに会いたいのだが、奴はギルドか?」
「はい。とても心配してましたし顔を見せてあげて下さい」
ジャラランガは目的のポケモンの居場所を突き止めると後ろに続く私達についてくるよう頷く。
「あれって確か『サマーリゾート』から来た『ロイヤルズ』だったよね」
「帰ったと思ってたけど、もしかして『颶風の砂漠』に行ってたのかな」
「あの小さなポケモン達も少し前に村で見かけたわね」
「ジャラランガ達に救助して貰ったのかもしれないな」
ポケモン達は『ロイヤルズ』や『ゆけゆけズ』には言及するが、私やオーマには反応を示さない。
「……」
その理由は私達二人が今、『とうめいのたま』の効果で姿を消しているからだ。このふしぎだまを使っていることで、こうして気付かれずに『オータムビレッジ』に入る事が出来たのだ。
そうして何事も無く『テラキオンのギルド』に辿り着いた一行はオーロットがいるであろう『ギルド本館』に上がり込む。
「あっ、師匠!? それにテールナーちゃんとチャオブーも!」
そこへ駆け寄ってくるのは救助隊『きんにく』に所属するワンリキーだった。他にも救助隊ポケモン達は多くおり、各々安心した様子で集まって来る。
「心配かけてごめんなさい。だけどあたし達、急いでオーロットの所に行かないと」
「師匠に任せりゃいいだろ、疲れてるだろうし肩貸すよ。寝床で休まなきゃ」
先を急ごうとするテールナーに近付いて来るポケモン達。
「チャオブー、ワカシャモ達はどこなの?」
「あー……後で説明するぞぉ。オーロットの所へ行かせて欲しいんだなぁ」
「後でってなんだよ!? まさかあいつら、ニンゲンの手で道具にされたんじゃ……!」
チャオブーは誤魔化そうとするが、深く追及して来るポケモンもいる。
「それより後ろの奴ら誰だよ」
「ここは神聖な『テラキオンのギルド』の本館だぞ、依頼出すなら隣の相談所に行くんだな」
「いやいや、俺達も用事があるんだよ……おい押すなって!」
「あなた達は『ロイヤルズ』? 今度は何の用事?」
「オーロットはんにまた話が……」
「生憎先客の対応中だから帰って帰って」
ヒバニーやキングラーも必死に応対しているが、無理矢理帰らせようとポケモン達はどんどん集まって来た。
「むぎゅっ…!」
「る、ルーア我慢して!」
矢継ぎ早に喋りながら詰め寄って来るポケモン達によりどんどんギュウギュウ詰めになって来る……このままではバレてしまう……!
「喝!!!」
ジャラランガが『ばくおんぱ』を放ち周囲に集まって来ていたポケモン達を一斉に吹き飛ばした!
「我輩達は急いでおるのだ。それにこの方々は皆、我輩の客だ」
ポカンと目を白黒させる救助隊ポケモン達に対して彼はそう言うと奥へ手招きして来る。また囲まれても困るので急いで後を追うことにした。
「ふ〜、危なかったぁ……」
『ギルド長室』へ繋がる通路に逃げ込みアシマリが安堵の溜め息をつく。
「あいつら、集まって何やってたんだろうな? 晩飯食ってた感じじゃなかったけど……」
「ニンゲン捕獲作戦だ」
「っ!?」
ヒバニーの疑問にエンペルトが簡潔に答え、一同は驚愕の顔を彼女に向ける。
「あのポケモン達、ルーア達を捕まえるのに躍起であちこちを探し回っているようなんです」
「ワテらも『蒼海晶洞穴』から逃げてった灰色のニンゲンを手配書まで出して探しとったし、あんま責められへんけどなぁ」
アマージョ達もやれやれといった様子で説明を付け足す。『静寂の丘』で身を隠していたため感覚が麻痺していたが、彼らは私達を捕まえる気満々なのだ。
「……だからこそ、ギルド長代理となっているオーロットに直接真実を伝えねばならん。このままではニンゲンと『オータムビレッジ』の溝に留まらず、『オータムビレッジ』が他の都市といがみ合う事態に発展しかねん」
『スプリングタウン』は全面的に私の味方をすると言ってくれたし、『サマーリゾート』もニンゲン悪者理論に懐疑的だ。『歪みの穴』現象に立ち向かうため四大都市で手を取り合わないとならないのに、逆に喧嘩し合うのはあまりに悲しいだろう。
そして本来はテラキオンが使っている『ギルド長室』の前に辿り着いたその時である。
「いい加減にして下さいまし!!」
部屋の中から怒鳴り声が響いて来る。その声は私や『ゆけゆけズ』がよく知っているポケモンのものだ。
急いで中に入るとそこには部屋の主であるテラキオンの性格をよく表した空間が佇んでいた。華美なものなど存在せず、家具も最低限のものしか置かれていない。
「それはこちらの台詞ですな。邪悪なるニンゲンに騙されていることを何故頑なに理解しようとせぬのか……む?」
客に対し呆れたように答えていたオーロットはジャラランガに気付くと赤い一つ目を見開いた。
「ジャラランガ!? いつまでも帰ってこないから心配していたんですぞ!」
「『颶風の砂漠』の問題を『仲間』と共に解決して来た。黒装モンスターと化していたガブリアスは元に戻り、これ以上あのダンジョンが拡がる事は無かろう」
安堵と怒りを入り混じらせた声音で叫ぶオーロットに対し、ジャラランガはゆっくり歩み寄りながら答える。
「あら『ゆけゆけズ』……それに『ロイヤルズ』まで?」
振り向いて怪訝な表情を浮かべる小柄なポケモンは……『ナイトスター』のリーダー、マホイップである。『スプリングタウン』から出発した彼女らは遂に『オータムビレッジ』に辿り着いていたのだ。オーロットと言い争いをしていたのか、とても不機嫌そうである。
「あなた達、ルーアから話は聞いてるわ。『颶風の砂漠』の問題を解決しようと動いていたって」
「でもルーアは『スプリングタウン』にいる筈だよね、ガブリアスを元に戻したって黒装を剥がしただけって事?」
ドラミドロとチルタリスは少しくたびれた様子で『ゆけゆけズ』に話しかける。『スプリングタウン』からここまで旅をし続け、到着してすぐに口論する事になったのなら疲れるのも已む無しといった所か。
「ん、どういう事だ、ルーアならすぐそこに……むぐぐ」
「しっ! オーロットの前よ……!」
答えようとしたヒバニーの口をチコリータが咄嗟に塞ぐ。私とオーマは隠れている状態で、もしオーロットと和解してない状態で口を滑らせれば仲間を呼ばれてしまうかもしれない。
「いいや、凶暴化もリライブで解けておる。ルーア達の尽力のお陰だ」
「えっ! こっちに来てますの……!? 『スプリングタウン』に残るようあれだけ言ったのに!」
ジャラランガの言葉にまず反応するのはマホイップだ。約束を破られたためか彼女は怒りで小さな手をプルプル震わせる。
「……はぁ」
しかしオーロットはそれを聞いても溜め息をつくだけで、ニンゲンに対する敵意は揺らいでいないように見える。
「危惧こそしておりましたが、道場主ともあろう貴方がこうして簡単に騙されるとは嘆かわしい限りですぞ……」
「勝手な事言わないでくれる!? 私を救ってくれた恩ポケ……じゃなくて恩ニンゲンを馬鹿にするなら怒るわよ!」
諦念を含ませて続ける彼に対しテールナーが怒り心頭で詰め寄った。
「馬鹿にするなど、まさか。むしろあれだけ狡猾で恐ろしい者を見縊ろうものなら命取りでしょうぞ」
オーロットの言葉に目を細めるジャラランガ。
「狡猾……? それはもしや、『歪みの穴』現象はルーアが引き起こしているという推測か」
「その通り、しかし今となっては推測どころか確定と取れますがな。テラキオン様が道具に変えられた以上、彼奴が諸悪の根源であるのは明白。長を元に戻すためにも、この世界の平和を守る為にも……我々はあのニンゲンの行方を追っていますぞ」
オーロットは大事に持っている『もうげきのタネ』を見つめ、改めて私が悪者であると強調する。
「ジャラランガ、心変わりしたのならニンゲン達の居場所を教えて欲しいのですな。我としてはお主を失脚させるような話に運びたくはありませぬ。ここで教えてくれれば、お主はスパイ活動をしていた……という方向で処理出来ますぞ。勿論テールナーやチャオブー、他の都市から来た者達も」
(……っ)
私は弁解したい思いに駆られながらもどうにか押し黙る。
私が出来ることは……私を信じてくれたポケモン達を……信じる事だけ……!
「ルーアが『歪みの穴』を起こし、自分でそれを解決して名声を得ようとしている……その説は間違いだと断定しよう」
エンペルトは一切の言い淀みをせず、毅然として答えた。
「私は以前、彼女を『サマーリゾート』へ誘致し凶暴化した町のポケモンを全てリライブせよと命じたが……答えは『全ては難しい』だった。お前たちの言う説が合っているのなら名声のため迷いなく『任せろ』と答えそうなものだが、どう考える?」
「……」
彼女は過去の出来事から、私が遊びではなく必死にこの世界で生きていることを伝える。オーロットはエンペルトの問いに答えず、不快そうに目を細めた。
「では私からも。ルーアはこの世界に来たばかり……『スプリングタウン』で自分がリライブ出来る事を隠そうとしていましたわ。自分自身の妙な力に怯え、その力を休み無く振るわなくてはならないのかと怖がり……。そんなルーアが望んでリライブの力を得たとは私達は判断しませんわ」
続けてマホイップも私のこれまでをオーロットへ告げる。
『カプ・コケコのギルド』のギルド長補佐が属する『ロイヤルズ』と『ファイヤーのギルド』の顔役とも言える『ナイトスター』。二つのギルドはニンゲンの味方をすると暗に言われた形となり、『テラキオンのギルド』のギルド長代理を務めるオーロットは額に汗を滲ませていた。
「オーロット、吾輩も意見を変えるつもりは無い。道場主を辞めろと言うのなら従おう、代理とは言え今はお主がギルド長の権限を持っておるのだからな」
「えっ、そこまで!?」
「ルーアやオーマといった、吾輩達に手を差し伸べてくれるニンゲンを傷付けてまで今の立場にしがみつくような愚行は出来ぬ。愚かにも既に彼女らを無理矢理修行させようとしていた身であるから猶更だ」
流石に道場主まで辞めるのはどうなのだとチャオブーが目を丸くするが、ジャラランガは既に覚悟を決めているようであくまで人間を味方だという考えを崩さない。
「……っ、貴方達はニンゲンに魂を売ったのですかな……? 仮に奴が善意で『スプリングタウン』や『サマーリゾート』に手を貸していたとて、テラキオン様を道具に変えたという恐ろしい所業は変わりませんぞ! あのような危険な者達を野に解き放ったままにしておく訳にはいきませんな、この世界を救う救助隊連盟の一員として!」
しかしオーロットも自身の正義を簡単に曲げることはなく、元々はテラキオンであった『もうげきのタネ』を見せつけながら一同を睨みつけ叫んだ。
しかしその目には怒りよりも恐怖の方が強く見え隠れしている。
「……そうさせたのは吾輩達だ。ルーアを捕らえ、苦痛を与え、心を踏み躙った。それがルーアを暴走に導いてしまったのだ」
「ぼ、暴走? ならばいつ暴れ出してもおかしくないような者、急いで始末すべきではないですかな」
「『スプリングタウン』や『サマーリゾート』にいた頃までは暴走の兆候すら無かったと聞いておる。ならば『オータムビレッジ』が行った仕打ちが影響しているのは間違いないであろう。それともお主はルーアをまた暴走させ、村のポケモンが道具に変わるのを望むか?」
「縁起でもないことを言うな!!」
ジャラランガと口論を交わしていたオーロットは突如声を荒げる!
「二度とポケモンが道具に変わるなんて悍ましい事、あってはならないんですな!! だからこそ、一刻も早く奴を見つけて排除し、凶事の芽を摘むんですぞ!!」
「あなたね、ジャラランガさんの話聞いてた? 私は詳しく知らないけど、『オータムビレッジ』がルーアを捕らえるような真似しなければ暴走もギルド長の道具化も起きなかったんじゃないかって事よ」
彼の叫びに対し、テールナーは苛立った様子でため息をついた。
「何故! ニンゲンなぞに媚びを売らねばならないんですかな!? そもそも最初は『颶風の砂漠』を巨大化させた灰色のニンゲンが……」
「それを持ち出すという事は、ルーアを捕らえた件は間違いだったと認めるという事か?」
「オーマ……灰色のニンゲンはダンジョン巨大化と同時にこの世界に来ただけで、原因とかは何も知らないんだよ。ポケモンを操ったのも、凶暴化ポケモンに襲われたせいで必死に身を守っていただけだしね」
激昂した様子で捲し立てるオーロットへ冷静に確認を取るエンペルト。続いてアシマリもオーマの行いにフォローを入れる。
「……っ」
そして『テラキオンのギルド』のギルド長補佐は遂に反論の手札を失ったのか、手で自らの目元を覆うと深い深いため息をつくのであった。
「オーロットよ。どうしてもニンゲンが嫌いで仕方ないのなら、その考えを否定するつもりは無い。村の多くのポケモンもお主と同じであろうからな」
「では、一体何が目的なんですかな……?」
傍に歩み寄って静かに伝えるジャラランガに対し、オーロットは疲弊した様子で尋ねる。
「……」
「……!?」
そして彼は驚愕で赤い一つ目を大きく見開いた。
それはそうだろう。
ずっと透明状態で姿を消していた私とオーマが姿を現したのだから。
「え、ルーア!?」
「……」
突然の事に混乱しているマホイップ達『ナイトスター』に私は無言で軽く頭を下げた。約束を破ったことを後でこっぴどく叱られそうだが、甘んじて受け入れるしかないだろう。
「なっ、何故ここに……!」
オーロットは私達を困惑と恐怖を滲ませた目で見つめ、後退りを始める。
灰色のニンゲンに取り込まれるのか、それともリライブ使いのニンゲンの手で道具に変えられるのか。そんな絶望の思考に支配されているのか彼は震える手で『もうげきのタネ』をお守りのように自らの体に抱き寄せる。
そんな彼の前まで歩いていくオーマ。
「……すみませんでした。自分を守る為だったとはいえ、あなた達ポケモンを操って、道具みたいに扱って……」
「……!?」
そして彼女はオーロットに対し、頭を下げて謝罪する。
「私も、ごめんなさい。暴走したからってたくさん酷いことして、たくさん怖がらせて……」
続けて私も頭を下げた。
どんな事情があったとはいえ、私がどう考えていたとはいえ、オーロット達からすれば私は間違いなく『テラキオンを道具に変えた恐ろしい悪者』なのだ。救助隊連盟に属する彼らからしたら、守るべきポケモンが次々と被害に遭っているかもしれないと思い、気が気でなかっただろう。ギルド長であるテラキオンを守れなかった自分達が無力なのではと悩み続けていただろう。
そして、次は自分が道具にされるのではと……怖くて仕方なかっただろう。
「信じて貰えるか分からないけど……テラキオンを道具に変えちゃった事、凄い後悔してるの。もし元に戻せるのなら戻したいんだ」
「……っ」
オーロットは何も答えないが、手元の『もうげきのタネ』を見つめて辛そうな表情を浮かべる。
私がジャラランガ達についてきた理由……それはこれ以上追われる前に、溝が深まる前にオーロットへちゃんと謝りたいと願ったからだ。そんな私を信じて、ジャラランガ達は身の危険を承知でオーロットと言葉を交わし謝罪の場を作ってくれた。
「『もうげきのタネ』を百個集めて。もしかしたらそれでテラキオンを元に戻せるかもしれないんだ」
だからこそ、彼らの信頼に応えるためにテラキオンを元に戻す手掛かりを伝える。
もしテラキオンが私を敵視しても大丈夫だと、皆を信じたいから。
「ほ、本当ですかな? 信じて、いいんですかな?」
そしてオーロットは顔を上げ、縋るような表情を向けて来た。
自分が補佐するべき存在であるテラキオンを救助できるのなら他は何もいらない、と言いたそうに。
「うわあああああっ!!!」
その時、外から大勢の悲鳴が響いて来た!
「な、何!?」
チルタリスが声を上げると同時にギルド長室へ一匹のワンリキーが駆け込んでくる!
「オーロット! 凶暴化ポケモン達が村に攻め込んで来た!!」
「なんですと!? 今向かいますぞ!」
ワンリキーは焦っているのか私やオーマに気付かないまま部屋を出て行き、報告を受けたオーロットもすぐさま部屋の外へと向かおうとする。
「行くぞキングラー、アマージョ」
「任しとき」
「『ロイヤルズ』、出動ですね」
「私達も行きますわよ!」
「ええ、まずは宿で休んでるアノホラグサと合流しないといけないわね」
「『ナイトスター』出撃だー!」
「……」
先に出て行ってしまった『ロイヤルズ』と『ナイトスター』を見てオーロットが沈黙。
「言っとくぜ、俺達はルーア達を悪者扱いして捕まえたりしないのならそれで充分なんだよ!」
「例えニンゲンが嫌いでも、この世界で起こる問題への対処の邪魔さえしなかったらそれでいいのよ」
「理解し合えなくても、困ってる時はお互い助け合い! それが救助隊連盟だからねっ」
「償いという訳ではありませんが……私にやれることをやります」
そんな彼の横を通り過ぎて『ゆけゆけズ』とオーマも部屋から走って出て行った。
「凶暴化ポケモンか。ルーアよ、お主の力を貸してくれぬか」
「……うん!」
ジャラランガに頼まれた私は頷く。何が起こっているかは分からないが、放っていたら『オータムビレッジ』のポケモン達が苦しみ悲しむことへと繋がるだろう。
「助かるわ、もし村のポケモン達があなたを狙って来ても私が守るわよ」
「お、オイラも! ワカシャモ達が攻撃して来ても止めるぞぉ!」
テールナーとチャオブーも共に来てくれるようで、私は彼女らの助力を頼もしく感じる。
「ニンゲン……いや、ルーア。何故、貴女を手酷く扱った我ら『オータムビレッジ』を守ろうとするんですかな……? 名声を得たいのでなければ、何が目的なのですかな……?」
「……私を助けてくれたジャラランガ達に、私が出来る恩返しがしたいんだ」
尋ねて来たオーロットに対し少しぎこちない笑みを返してから私はジャラランガ達の後を追った。
軽蔑の目や罵倒の言葉をぶつけて来た『オータムビレッジ』のポケモン達に自分の姿を見せるのは怖い……すごく怖い。本当は村から逃げ出してインテレオンの所へ向かいたいぐらいだ。
それでもこの村のポケモン達は今、凶暴化ポケモンに襲撃されて間違いなく困っている。凶暴化ポケモンだって本当は村を襲うなんてこと、やりたくない筈。
そんなポケモン達を『ロイヤルズ』も、『ナイトスター』も、『ゆけゆけズ』とオーマも、ジャラランガ達も救いに行った。
私を手助けしてくれた彼らが『オータムビレッジ』を危機から救い出すため手を貸して欲しいと私を頼った……。
それなら私も、私を信じて助けてくれた彼らに精一杯の恩返しがしたい!
襲い来る凶暴化ポケモン。逃げ惑う村のポケモン。
「さぁ行け! 我らに仇なす者達を排除するのだ!」
「うわーっ!」
「助けてくれぇ!」
「痛い、やめてっ!」
家々は破壊され、立て籠もっていたポケモンが引きずり出され容赦無い攻撃を浴びせられる。
「何なんだお前達!」
「かかれ!」
「ぎゃあ!」
『オータムビレッジ』の救助隊ポケモンが暴徒と化した凶暴化ポケモンを止めようとするが、物量差で圧倒されてしまう。
「これはどういう事ですかな……!?」
私達と共にギルド本館から出て来たオーロットは戦場と化した村の光景に声を震わせた。
「凶暴化ポケモンが都市まで来るなんて……まるで『海底の地割れ』の時みたい」
「……!」
チコリータの呟きに私はハッとなる。
「まさか、あのポケモン達は『銀杏山脈』から来たんじゃ……。幻のポケモンのメロエッタが黒装モンスターの手で凶暴化したから……!」
メロエッタが凶暴化した際、彼女の呼び掛けに『銀杏山脈』のポケモン達が集い応じていた。『海底の地割れ』のマナフィと同じように、悪いダンジョンエネルギーを大量に注がれたメロエッタの影響を受けている可能性が高い。
「えっと、それじゃあメロエッタ自身をどうにかしないと、あいつらをリライブしても意味が無いのか!?」
「……多分」
「やめろ、来るな……!」
「追え追え! 叩きのめせ!」
話す私達の視線の先では凶暴化したシルシュルー達が、村のポケモンであるブーバーやブビィを一方的に追い回している。
「すぅぅぅ……喝!!」
ジャラランガは『ばくおんぱ』を放ち、凶暴化ポケモン達を一斉に吹き飛ばす!
「無事か?」
「あ、ありがとうございますジャラランガさん……」
「こ、こいつ〜!」
「よくも邪魔しましたね!」
立ち塞がる彼へと威嚇を始めるシルシュルーの群れ。
「あっちにも襲われてる奴がいるぞ!」
「分かったわ、ここはジャラランガに任せましょ」
ヒバニー達もホシガリスの群れに囲まれているポケモンを救助しに走り去っていく。
「うわあ、あっちもこっちもピンチなポケモンだらけだぞぉ! オイラ達はどうしたらいいんだなぁ!?」
「落ち着きなさい、とにかくメロエッタの居場所を突き止めれば……」
パニックになるチャオブーを落ち着かせようとテールナーが呼び掛ける後ろでオーロットは赤い瞳を左右に動かし……。
「そこですな!!」
「!」
影を纏わせた『シャドークロー』を振り上げ、物陰に潜みながら迫って来ていた存在に攻撃する。
「歌姫様の言ってた通り……ギルド長補佐ってのは一筋縄じゃいかねぇか」
攻撃を受けた筈のそのポケモンは全く動じていない様子でニヤリと笑みを浮かべる。
小柄な身体に対し大きな目と耳を持つポケモン……タギングルだ。
「歌姫……まさかメロエッタですかな?」
「その通り。あの御方から『描く者』の称号を得た俺様が直々に、この村の首魁テラキオンを潰しに来たのさ」
オーロットに睨み付けられても平然としてタギングルは大きな目をギョロリと動かす。
「……」
タギングルの狙いはテラキオン……おそらく彼が道具と化している事を知らないのだろう。しかし、もしそれを知られて『もうげきのタネ』となったテラキオンを奪われたら大変な事になってしまう。
「帰りなさい、『サイケこうせん』!」
「おっと」
ギルド長を守る為テールナーが持っている枝を杖の如く振るい不思議な光線を発射するが、相手は見た目に違わぬ軽快な動きで回避してしまった。
「いやぁ、凄いねぇ! 今の攻撃、もっと見せてくれよ」
「はぁ?」
そのままタギングルは反撃する……かと思いきや、何故かテールナーを称賛し始める。
「俺様、芸術には口煩いけどアンタの今の光線の模様、いい感じだぜぇ?」
「ふざけないで頂戴! 何が芸術よ!」
馬鹿にされたと判断したのか、テールナーは苛立った様子で再び『サイケこうせん』を撃ち込んだ。
「フゥー、イイねイイねぇその色合い! ほらもっともっと!」
二発目も難なく避けたタギングルは手を叩きながら更に呼びかける。
「……っ、いけませんぞテールナー! 奴の狙いは……!」
オーロットがタギングルの目的に気付いて声を上げるが、遅かった。
「このっ、『サイケこうせん』!!」
「ほいっ♪」
「ぐわあっ!?」
テールナーの攻撃は再びタギングルに回避され……その先にいたチャオブーに命中してしまう。
タギングルが仕掛けていたのは『おだてる』だ。テールナーは彼の誘いに乗ってしまい、怒りのままに全力で撃ち込んだ『サイケこうせん』を仲間に当てるという最悪の結果を招いてしまった。
「なっ……!?」
当然彼女は大いに動揺し動きを止め、タギングルは獰猛な笑みを浮かべて疾駆!
「だめっ!」
「っ!」
それを阻止するため私はランドセルを揺すって『こんらんのえだ』を振るい光弾を飛ばす。相手は寸での所で光弾を回避してしまうが、どうにかテールナーに振るわれかけた『きりさく』を妨害することには成功した。
「『おにび』!」
「ちっ」
続けてオーロットが妖しく揺れる炎をタギングルに命中させ、火傷を発症させる。これで継続的なダメージと弱体化を狙える……そう思った矢先、相手は再び大きな目をギョロギョロと動かし始めた。
「おい、そこのホシガリス! 『チーゴのみ』だ!」
「はいどうぞっ」
木の陰から現れたホシガリスが尻尾から『チーゴのみ』を投げ、タギングルはそれを口でキャッチし素早く咀嚼。
「さーてと、つまんねえ事してくれたよなぁ!?」
「痛いっ!?」
火傷を治してしまった彼は妨害を入れた私に一気に駆け寄ると『きりさく』で肩から腹部まで爪で攻撃する。私はあまりの痛みに耐えられず仰向けに倒れてしまった。
「テールナー、任せますぞ……『もりののろい』……!」
「あァ?」
しかしその隙にオーロットが次の技を発動し、蔓や枝、葉などを生やしてタギングルを蝕み始める。
「……ありがとうオーロット。『かえんほうしゃ』!!」
「があっ!?」
先程の失態を引き摺らず、テールナーは激しい炎をタギングルに浴びせた!
『もりののろい』によりタギングルにくさタイプが追加され、ほのおタイプが弱点になったのだ……えげつない攻撃ではあるがこれでかなりの打撃を与えられた筈。
「くそっ! おいホシガリス!」
「はいどうぞっ!」
しかしタギングルは再びホシガリスに呼びかけ、投げつけられた『オレンのみ』を食べて今度は体力を回復させてしまう。
「これではキリがありませんな……先にあのホシガリスをどうにかせねば……」
「おう、行ってもいいぜ? 俺様はその隙にテラキオンを探すまでだ」
「……」
依然としてタギングルはテラキオンの現状を知らない様子であるが、だからといってホシガリスを攻撃しに行けば流石に怪しまれるだろう。
「『さしおさえ』!」
「っ!?」
そこで動いたのはテールナー。タギングルの周囲に道具使用を禁止する力場を生み出し、きのみによる回復を出来なくさせる。
「ふんっ!」
「ぎゃっ!」
同時に聞こえてくるのはジャラランガの掛け声とシルシュルー達の悲鳴。視線を向けるとシルシュルーの群れをようやく倒したジャラランガが悠然と立っていた。
「……ククク」
しかし、劣勢に立たされている筈のタギングルが不気味に笑い出した。
「『アクロバット』!!」
「かはあっ!?」
「ぐぬうっ!?」
軽やかに宙を舞う一匹のポケモンが一撃でオーロットを地に叩き伏せ、その勢いで飛び上がったまま続けてジャラランガを蹴り飛ばす。
「えっ!?」
私は突然現れたそのポケモンを見て驚愕。白と黒の身体、そして赤色の瞳と同じく赤の髪のような部位を持つ……メロエッタであった。
「大丈夫かい『描く者』。 ボク達を置いてテラキオンの下にまっすぐ向かうから心配したんだよ?」
「はっ、迷惑だったか『歌姫様』?」
「まさか、お陰で奇襲は大成功さ」
彼女は仲間だった筈のオーロットやジャラランガを見下ろし笑みを浮かべる。テツノカイナにエネルギーを注入されたせいで、本当にメロエッタが『銀杏山脈』を統べる存在になってしまっていたのだ。
「……っ、『かえんほうしゃ』……!」
「らら~」
メロエッタさえリライブすれば、他の『銀杏山脈』のポケモン達もリライブ出来るようになるためテールナーが咄嗟に攻撃を仕掛けるものの相手は宙返りして炎を回避しながら『ボイスフォルム』へ変化した。
「らら~、らららら~♪」
「うっ……くうっ!」
メロエッタが奏でる、美しい筈なのに胸に重く圧し掛かって来るような歌を浴び私とテールナーは動きを鈍らせてしまう。
「『きりさく』だ!」
「あうっ!」
タギングルが今度こそテールナーを爪で切り裂き、『さしおさえ』の力場も力を失って四散。残るは私一人……!
「う、ううっ!」
一人では勝てるわけがないと、私は助けを呼ぶため走り出す。『ロイヤルズ』や『ナイトスター』の居場所は分からないが、『ゆけゆけズ』の向かった方向は知って……。
「『サイコキネシス』!」
「あっ!」
しかしメロエッタの念術で身体を持ち上げられてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
「ルーア、あなたに好き勝手されると困るのよね。リライブなんてされたら『銀杏山脈』による支配が出来なくなるでしょう?」
「し、支配……?」
私は念術を継続したまま言うメロエッタにオウム返しで尋ねる。
「ええ、『銀杏山脈』に無断で立ち入る不届き者達『オータムビレッジ』への反撃。そして力で持って屈服させ、この村のポケモン達を全て『銀杏山脈』に従わせる。それが今回の襲撃の目的よ」
凶暴化したメロエッタはさも当然であるかのように語り、オーロットへ視線を向ける。
「そのために首魁のテラキオンを服従させないといけないのだけれど……こんなに暴れてるのに姿を見せないのはおかしいわね。まさか動けない状況なのかしら?」
「……く、くう……」
勘が鋭いメロエッタに尋ねられるがオーロットはテラキオンを守る為に黙ったまま答えない。
(い、いつまで隠し通せるの……?)
テラキオンが変化した『もうげきのタネ』は今もオーロットの手にあるが、メロエッタ達にバレないという保証なんて無いのだ。現にメロエッタはかなり答えに近い状態まで来ている……もはや時間の問題である。
「歌姫様! 大変です!」
そんな時、メロエッタの下へ更なる新手であるレドームシが慌ただしく転がってくる。
「どうしたのかしら?」
「『学ぶ者』イオルブさんの観測によると『颶風の砂漠』がある方角から大量のポケモン達がこの村へ向かって来ているようです!」
メロエッタに尋ねられたレドームシは口早に報告した。
(な、なんで『颶風の砂漠』から……?)
「どうするよ、歌姫様?」
「……目的は分からないけど、ここは一旦引いた方が良さそうね。テラキオンの居場所を知ってそうなオーロットを連れて撤退を……」
「ふぎゅっ」
タギングルに問われ、メロエッタは『サイコキネシス』で捕らえていた私をゴミのように放り投げるとギルド長補佐へ手を伸ばす。
「さ、せ、な、い……よぉ!!」
音速で突っ込んで来たポケモンがメロエッタやタギングルをすれ違いざまに切り裂いた!
「……!」
メロエッタが咄嗟に視線を向けた先では一匹のポケモンが急ブレーキをかけて素早く態勢を立て直している。
(ガブリアス……!?)
「ちゃんとお礼言えてなかったよね、ニンゲンさん! ありがとう、助けに来たよ!」
『颶風の砂漠』で黒装モンスターと化して大暴れしていた彼女は無邪気な笑顔を私に向け、追撃の態勢に入る。黒装から解放しリライブしてからそれほど時間が経っていない筈なのにこんなに暴れて大丈夫なのかと心配になるが、助けに来てくれたこと自体は感謝しかない。
「はあ、しょうがないわね」
不機嫌そうな表情となったメロエッタはオーロットの捕獲を諦め、『せいなるタネ』を取り出すとそれを口に放り込んで姿を消してしまった。
まさか仲間を見捨てて逃げたのか、と思ったがそれは誤り。
「ククク、次はこんな生易しくねえからな?」
移動先でメロエッタが『あつまれだま』を使ったらしく、タギングルやレドームシといった『銀杏山脈』から来たポケモン達も次々にワープして消えていく。
「……」
助かった。
しかし。
「う、うぅ……!」
「どうして私達が、こんな目に……!」
「痛いよぉ、お母さん……」
突然襲撃を受け、容赦なく蹂躙された『オータムビレッジ』のポケモン達は心も体もボロボロで、自然と調和した村も荒らされ尽くしていた……。