※この作品はR-18です。

裸の少女とポケモンだけが住む世界   作:Momyaka

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Special Episode ~彩りを知った少女~

 

 迫る。恐ろしい脅威が。

 

 崩れる。大切な場所が。

 

 燃える。かけがえのないモノが。

 

 流れる。苦痛の日々が。

 

 ……何をしている。私は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 私は叫び声を上げそうになりながら目を見開く。

 

 慌てて辺りを見渡すが、そこは朝日が差し込む見慣れた部屋だった。ルーアは確か『保健室』と呼んでいただろうか。

 ベッドの上で上体を起こした私は自分の額に汗が滲んでいるのに気付く。嫌な夢を見てしまったと嘆息し、自分の手のひらに視線を落とした。

 

 周りの景色やルーア達とは異なる、彩度が一切ない文字通り灰色の肌。

 

 

 

 ……さっきの夢なんて関係無い……。大丈夫……私はルーアに大事な名前を貰ったのだ。

 

 イヴ。私はそれ以上でもそれ以下でもない存在、大丈夫……。

 

 

 

 

 

「おはよう」

「……」

 私は『追放の遺跡』のある一室……ルーア曰く『校長室』を訪れて挨拶するが、彼女は返事を返してこない。まだ寝ているのかと私は部屋の奥にあるソファーを覗き込んだ。

 

「……んだよ、もう……」

 気怠げに文句を呟くのは私と同じ灰色の肌と黒髪、紫の瞳を持つ少女であった。

 彼女の名前はトワ。先日、ルーアが外から連れてきた灰色のニンゲンだ。

 

「朝ご飯だよ」

「……」

 持ってきたパンなどを見せると、トワは不服そうにしながらもソファーから身を起こす。

 無言で両手を差し出す彼女の手首は『あかいいと』で拘束されている……と言うより私が拘束したままとなっている。

 ルーアが語る所によると、トワはあいつら……ポケモン達とかなり激しく争ったらしく、今も彼らに強い敵意を抱いているようだ。また争いを起こすわけにはいかないため、彼女の気が変わるまでは行動を制限しておく必要があるのだ。

 

(……仲良く出来るかな)

 

 食べ物を黙って咀嚼するトワを眺めて私は心中で呟く。

 私と似た姿をした、同じ能力を持っている存在。私と同じでこの世界に来る前の事は覚えていないようだが、だからといって無関係だと思う事も出来ない。

 

 それに……やっぱりルーアを一人で待ち続けるのは寂しいから……。

 

「……」

「ぶっ!?」

 私は手を伸ばしてトワの胸を触ってみたが、彼女は唾液とパンの欠片が混ざった物体を口から吹き出してきた。

 

「ななな、なにしやがる!?」

「う、うええ……」

 咄嗟に背を向け怒るトワに対し、汚れた私は泣きそうになりながら呻いた。ルーアは胸を触られて喜んでいたが、トワは違うのだろうか。人付き合いというのは難しい。

 

 

 

 朝食を終えたしばらくの後、私はトワを連れて『追放の遺跡』の屋上にあるゲートを抜けて『無獣島』にやって来ていた。

 『追放の遺跡』と比べ気温は高いが、涼しい潮風が吹き抜けて心地良い。

 

「こっちこっち」

「引っ張んなって……」

 私が『あかいいと』を引っ張ると、両手首を前に突き出しながら歩くトワが不快そうに返してくる。

「ここで暮らす人数が増えた分、しっかり食料を探さなきゃ」

「……ったく、こんなコソコソ生きるよりもあの化け物達を倒さねえといけねえだろうがよ……」

 私は改めてトワに今回の目的を使えるが、向こうは拘束を解こうと手首を動かしながら溜息をついた。

 

「……あんまりあいつらを刺激したくない。下手に波風起こして今の平和を手放すなんてヤダ……」

「……ふん、ビビリがよ」

 前を歩きながら返答するものの、相手は呆れた様子で悪態をつくのであった。こんなに彼女と望みが違うのであれば、仲良くなるなんて……。

 

 

 カチリ。

 

 

「……あ」

 私は足元から聞こえて来た嫌な音に冷や汗を垂らすがもう遅い。

 ワナを踏んでしまったことで、煙と共に目の前に現れた物体。

 

 煙が晴れると共に明らかになるその姿は、一見樹木のように見えなくもない不気味な形状をした植物だ。

 

「うわわわ!?」

 伸びてきたツルが私の両手両足に絡みつき、動きを封じようとしてくる。抵抗もままならず、私は大の字に手足を引っ張られ無防備な状態にされてしまう。おまけに驚きのあまり糸まで手放してしまった。

「なんだこりゃあ!?」

「わ、あわわ……」

 突然現れたモノを見てトワが目を白黒させている前で、当の植物はひとつのツルを私の股間に近付けてきている。逃れたくても動くことが出来ず、幾つものコブを持つツルが遂に私の秘部へ……。

 

「ぎゃんっ♡!?」

 

 ツルが割れ目に沿って前後を始め、私は堪らず悲鳴を上げる。食い込んだツルが動く度に性感帯を刺激され、快感が私の全身を駆け巡った。

「くっ……」

「そ、そんなぁ……♡」

 喘ぎ始める私を見たトワはどこかへ走り去ってしまう。ピンチなのに見捨てられ、私は涙目になりながら身体をビクビク震わせた。

 

「ひゃああっ!?」

 新たなツルが今度は私の胴体に絡みつき、宙吊りにして来る。これではまともに動けない……と思った矢先に再びツルが私の股間をなぞってきた。

「う、うぎぎぎ……っ♡」

 歯を食いしばって必死に耐えようとするが、興奮は強まるばかりで口から涎まで垂れてしまう。

 

 ワナで現れた植物は追い打ちの如くツルの動きを早めて割れ目をいじめてくる!

「はにゃっ、ふにゅっ、んきゅっ♡♡」

 堪らず反応してしまう私は快感に嬲られながらただただ身を捩るだけ。愛液がボタボタと地面へ落ちていくのをぼやける視界で見ながら、もう諦めて絶頂させられてしまおうか……とぼんやり考えたその時。

 

 

 

「おらぁぁっ!!」

 植物にぶつけられる物体。それは金属的な光沢を持つ、黒色の鉄の玉だった。

「むぎゅっ」

 するとツルが力を失ったのか、解放された私は地面に落ちる羽目になる。

 直後植物も煙に包まれ姿を消し、後に残されたのは荒く息をする私と、先程黒色の鉄球を投げつけたトワだけだ。

 

「……あ、ありがとう……っ」

 少し股間がムズムズするのを我慢しながらお礼を言う。トワは逃げたのではなく、ワナが生んだ植物を止める為の手段を探しに行ったのだ。

「ふん、無事ならいいんだよ」

 そっぽを向きながら返してくるトワ。しかし、ワナに慄きながらも私を助けてくれたという事は……。

 

 

 

「……トワの事、少し分かった気がするよ。あいつらは苦手でも、私の事は仲間だと思おうとしてくれてるんだね」

「……っ、は、はぁ!?」

 彼女の頬に触れながら確認すると、トワは慌てたように声を上げた。

 しかし、きっと図星だと私は思っている。記憶が無くて、突然あいつらに襲われて……自分の正体も、何故こんな事になっているかも分からない現状では仲間を欲しがるのは仕方ない。

 私だってルーアが手を差し伸べてくれるまでは不安に押し潰されそうだったから……今度は私が手を差し伸べる番ではないだろうか。

 

「仲良くしようね」

 私はトワに密着すると優しくハグをする。彼女の体温や肌の感触を強く感じ、私自身も穏やかな気持ちになってきた。

「やめろ、気持ち悪い!」

「うぐっ」

 更に狼狽した様子でトワは私を引き剥がそうと暴れ出す。しかし彼女の手首はまだ糸で拘束しているのでそう簡単には……。

 

「うぎゅっ♡!?」

 しかし暴れるトワの脚が私の股間を擦り、突然の刺激に堪らず嬌声が口から出てしまう。つい先程までツルに擦られていたのもあり、再び発情してしまった私はトワをギュッと強く抱き締める。

 

「うわっ!」

 バランスを崩したトワ諸共縺れるように倒れ込む私。トワはすぐさま起き上がろうと藻掻き出すが、それにより彼女の脚が更に激しく私の股間を擦り気持ちよさが増していく。

「はぁ、はぁ……♡」

「おい、顔近付けんなー!」

 腰を動かし快感を得ようとする私からトワは目を逸らしながら悲鳴を上げる。より増々彼女は強く暴れるが、それで更に私の股間への刺激が大きく……!

 

 

 

「あうぅぅぅっっ♡♡♡!!」

 

 私は一際大きく身体を跳ねさせて絶頂を迎える。快楽が脳天まで突き上がり、至福の表情を浮かべた私は汗だくになりながらぐったり身を落とし……。

「いい加減にしろぉ!」

「あわっ!?」

 トワは被さっていた私を無理矢理押しのけて起き上がる。

 

「ったく……」

「待って待って……!」

 こちらの愛液で濡れた腿を嫌そうに拭きつつ勝手に歩き出そうとするトワを、私は慌てて追いかけた。

 

 

 

 てっきり嫌われたかとも思ったが、トワは私を追い払うこともなく一緒に食料集めを続けてくれるのであった。

 

 

 

 

 

 その後はワナにかかる事もなく、無事に食料集めを終え『追放の遺跡』へ戻った私達。その日の夜、私は屋上で空を見上げていた。

 

 黒い天、白い星々、灰色の雲。美しくもあり、彩度がなく寂しくも感じる景色だ。

 

(……この景色みたいに……彩りを持たない私は何者?)

 

 気がついた時にはあの山……『つめとぎ山』にいたがそれまでの事が全く思い出せない。ルーアはダンジョンの巨大化や歪みの穴などといった単語を口にしていたが、いまいちピンとも来ないのだ。

 

(ルーアが仲間とも思ったけど、彼女は凶暴化したポケモンを戻す力があるのに対して……私やトワはポケモンを取り込んで操る力を持ってる)

 

 まるでルーアがポケモンの味方であるのとは逆で、私達灰色のニンゲンは敵みたいだ。

 生まれながらの。

 

「……っ」

 咄嗟に首をプルプル振って思考を払おうとした。

 

 私はあれ以上争ったりしたくない。平穏さえ守られるのなら、あいつらと戦いたくない。

 

 怖いのだ。痛い思いをするのが、存在を否定されるのが。

 

 

 

 

 再び絶望の終末を迎えたくない。

 

 

 

 

「……っ!?」

 頭の中に浮かんだ言葉に私は目を見開く。

 

 再び、とは何だ?

 

 

 

 眼前に迫る鋭い牙。

 

 或いは身を焼く火炎。

 

 或いは魂を握り潰さんと伸びる影。

 

 

 

「う……ぷっ!?」

 数多もの最期が脳裏にフラッシュバックし、私は気持ち悪さのあまり前のめりになった。

 

(なに、今の……っ)

 

 今にも吐きそうになりながら私は混乱。記憶が無い筈なのに、何故あのような光景が脳内に浮かび上がったのか。まさか私の過去なのだろうか。もしそうならどうして最期の瞬間を何度も味わったのか……今ここにいる私は一体何なのか……。

 

 

 

「……平気かよ」

「……っ」

 その時、声を掛けて来る者が。

 振り向くとそこにはトワがおり、全身から汗を噴き出し過呼吸気味の状態となっている私を心配そうに見下ろしていた。

 

「ほら、落ち着け。吐きたいなら吐いちまえ」

「……う、ぐ……」

 優しく背中を擦ってくるトワに頷き、私はゆっくりと深呼吸を繰り返す。彼女に寄り添ってもらいながら何分も掛けて呼吸を整え、私はようやく平静を取り戻すことが出来た。

 

 

「トワ、ありがとう……」

「何があったんだ、もしかして化け物達に何かされたのか?」

「……変な光景が頭の中に浮かんで……」

 依然として心配そうにするトワに私は先程のことを説明する。同じ灰色のニンゲンである彼女であれば、もしかしたら何か思い当たる事があるかもしれない。

 

「それって、化け物達か?」

「……」

 トワに問われ、私は先程現れた過去を思い返してみる。

 

 牙や炎、影で私を滅さんと襲い掛かってきていたのはニンゲンとは思えない多種多様な生物。

 ルーアには申し訳無いが、あれはどう考えても……。

 

 

「くそっ、あの化け物共……! 平然と被害者面してやがったがやっぱり……!」

 私の言葉を聞くとトワは握り拳を震わせ夜の草原を睨みつける。その怒り様は今にも飛び出してもおかしくないぐらいだ。

「やめて、待って……!」

「んなこと言ったってあたしは許せねえよ! イヴをこんなにした連中を!」

 

「昔の事はいいから……今さえ平和にいられたら、それでいいから……! 変に刺激してまた同じ様な事が起きるなんてヤダよ……!」

 

「……っ」

 私が涙目で言うとトワはハッとなって動きを止める。ポケモン達に復讐を仕掛けたら、激昂した相手が何らかの手段で『追放の遺跡』に乗り込んで来る可能性もゼロではない。

 また怖い目に遭うぐらいなら、この小さな土地で我慢していた方がよっぽど良いのだ。

 

「……イヴがそうしたいなら分かったよ。けど何かあったら言えよ……あたしは味方だから」

 トワは私を立たせると部屋までの道を先行してくれたのであった。

 

 

「……ぐすっ」

 ポケモン達への復讐はやめて欲しかったけれど。

 

 それでもトワが私の為に怒ってくれた事に、涙が零れた。

 

 

 

 

 

 翌日。

「おはようトワ。そろそろその糸、解くね」

「あ? どういう心変わりだよ」

 校長室に入って早々告げる私にトワは訝しげな目を向けてきた。

「私が望むなら復讐しないって言ってくれたでしょ? それならもうトワを信じても大丈夫かなって」

「……」

 判断に至った理由を伝えると、トワは目を逸らして黙り込む。

 

「よいしょ……うん、ほどけた」

 手首に巻かれていた『あかいいと』から解放されたトワは突然暴れ出すということもなく、自らの手首を擦り始めた。

 

 

「信じても大丈夫、か……あんたは化け物達とつるんでるルーアって奴も信じてんのか?」

 すると彼女は唐突にそんな事を聞いてくる。そういえばトワはポケモン達だけではなく、彼らの味方をするルーアも敵と認識していた。

 

「うん。記憶が無い上に孤独で苦しんでた私にイヴって名前をくれて……それに私の味方だよって言ってくれたから」

「……化け物共の仲間でもか」

「私達灰色のニンゲンとあいつら……ポケモンが敵対してるのはお互いにすれ違いがあるから、みたいな事をルーアが言ってたんだ。きっとルーアはそのすれ違いを緩和する為に頑張ってくれてるんだと思う」

 私はトワに言いながら窓の向こうにある草原を見る。この遺跡の外でルーアは今も……。

 

 

 

「……へ?」

 その時、"あるモノ"に気付いて私は目を丸くした。

 

 『追放の遺跡』の前に、何かがいる。

 

 ルーアではない……ではまさか。

 

 

 

 脳裏にある光景がフラッシュバックする。

 必死に身を潜めていた隠れ家へ、敵意を隠すことなくまっすぐやって来るあいつら……。

 

 ポケモン。

 

 

 

「……う、ううっ……!」

 再び吐き気と寒気に襲われ、私は屈み込んだ。

 

 何故ここに?

 また、安寧を奪われるのか?

 

 

「嗅ぎ付けて襲いに来やがったか!! イヴは隠れてろ!」

 同じくポケモンに気付いたらしいトワが窓を開いて外へ飛び出していった。

 

「……ぐ、おえっ……」

 何度も吐きかけながら、私はヨロヨロと立ち上がる。

 

 

 

 怖い。脅威に再び襲われるのが。

 

 

 

 だけど、もっと怖い。トワがいなくなりまた孤独になるのが、ルーアが頑張っているのにそれを無駄にしてしまうのが。

 

 何をしている? 私は……。

 

 怯えているだけで、全てルーアやトワに任せきりにしていて本当に良いのか?

 ポケモンを恐れるだけの辛い日々に甘んじて良いのか?

 

 

 

「……っ、良くない……!」

 

 震える脚を何度も叩いて必死に歩く。心の底から滲む冷たい恐怖を、胸を擦って必死に落ち着かせる。

 

 怖いけれど、乗り越えなければ。

 

 記憶の奥底に封じられた過去の記憶に翻弄されている場合ではない……!

 

 今の私が、過去の記憶に負けてどうするのだ……!

 

 

 

 

 

 収まらない恐怖を我慢しながら『追放の遺跡』から草原へ出た私。そこでは案の定、トワがある者を睨み付けていた。

 

「もう一度言うぜ、帰れっつってんだろ」

「こちらももう一度言わせてくれ。そういう訳にはいかないんだ……と」

 トワの命令に対し臆せずかぶりを振るのは青と黒の体を持つ、二足歩行の獣のような生物……ポケモンであった。

 

「……」

「……イヴ!? なんで来てんだよ!?」

 ポケモンが私に赤い瞳を向けたので気付いたのか、トワが驚いた様子で声を上げる。

 

「……だ、誰? 目的は……?」

 荒く呼吸しながら私は質問する。『つめとぎ山』では見かけなかったポケモンではあるが、だからといって安心は出来ない。ルーアが言っていた『救助隊』とやらが、ポケモンを操った私を悪人だと考え、追っ手を差し向けたかもしれないのだ。

 

 

 

「私はルカリオ。救助隊『L・G・P』のリーダーだ」

「!」

 嫌な予想通り出てきた『救助隊』という単語に私は表情を歪める。

 

(ダメ、落ち着かないと……!)

 

 私は再び胸を擦って、悪い想像を押し留める。

 

 まだルカリオというポケモンは目的を語っていないのだ。勝手な認知で悪者扱いして襲おうものなら、余計に溝が深まるだけだ。

 

 ルーアは溝を埋めようと頑張っているんだら、邪魔するわけには行かない……!

 

 

 

「お前達はこの遺跡に入れるんだな? どうだ、中に何か珍しい物があったら私の持ち物と交換してくれないか?」

 

 

 

(……交換?)

 朗らかに取引を持ち掛けてくる相手に私は顔を上げる。

 

「私達はそこを『追放の遺跡』と呼んでるのだが、その名の通り私達が近付こうとしても追い出されてしまう。しかし昨晩、遺跡で灯りが点いているのに気付いて中に何者かがいると思ったんだ。そしてこの目立つ場所でわざと立っていた所、予想通りお前達が姿を見せてくれた……という訳だ」

 ルカリオは頷きながら事情を伝えて来る。『つめとぎ山』の時とは異なり、得体の知れないものを見るかのような感情や、自分と異なるものを排除しようとする敵意は感じなかった。

 

 ……ポケモンなのに、まるでルーアと一緒だ。

 

 もしかすると、目の前のルカリオだけではなく他のポケモン達とも同じように分かり合える可能性も……。

 

 

「そんな事言って、油断させるつもりじゃねーのか……?」

 しかしトワはルカリオを簡単には信用せず、いつでも黒光りする鉄球を投げ付けられる態勢をとる。

 

 ……私を守る為に。

 

 トワはきっと、自分の仲間を守る為ならどんな事だって恐れずにやる強さを持っているのだろう。

 

 

 

 彼女の強さに甘え、私は見ているだけという選択を取ればどんなに楽だろうか。

 

 だけど、その選択を取る訳にはいかない。

 

 ……否。『その選択を取りたくない』!

 

 

 

「……イヴ」

 トワが困惑したような顔をする。持ち上げた鉄球を下ろすように私が手を乗せたから。

 

「ルカリオ、だったよね。集めた物……持ってくるから待ってて」

 僅かに震える声で私は言った。

 トワの言う通り、裏切り襲い掛かって来るかもという恐れは捨てられない。けど、頭ごなしに否定して……逆の未来を手放すのも嫌だ。

 

 これ以上怯えずに過ごせる未来がもしあるのなら……諦めたくない、期待したい!

 

 

 

「そうか! ありがとう、待っているぞ」

「……うん」

 そして、笑顔で応じるルカリオを見て私はすぐに『追放の遺跡』へ向け踵を返した。

 

 涙を見られるのは少し恥ずかしかったから。

 

 

 

 

 

 これまで『追放の遺跡』などで回収したガラクタをルカリオに見せると、彼女は黒色のカギを始めとする様々な物に興味を示した。私が持っていても使い道は無かったのでそれらを譲った所、ルカリオは代わりにきのみやグミ、不思議なポシェットなどを惜しみなく差し出し足早に去っていくのであった。

 "このカギがあればあのダンジョンのカギ部屋を開けるかもしれない"……などと言っており、ルカリオ側からしても良い収穫だったのかもしれない。

 

 ……喜んでくれたのだろうか。怒りや悲しみではなく、喜びを与えられたのだろうか。

 

 

 

 

 

「ったく、今朝はビビったぜ。まさか化け物……ポケモンに手を貸すなんてよ」

 沈みゆく夕陽を背後に、トワはやれやれと言いたそうに肩を竦める。

「……あんまりいい気分じゃなかった?」

「そりゃルーアって奴みたいに、あいつらと積極的につるもうとは思えねーからな」

 無理に私に合わさせてしまっただろうかと心配になって尋ねると、彼女は呆れ気味の笑みを浮かべた。

 

「だけど……正解だったかもな。あいつ、見た感じから強そうだったし戦ってたらイヴを守れなかったかもしれねえ」

「そうだったんだ」

 私では全く気付けなかったが、トワはルカリオというポケモンがかなりの実力を持つ事を見抜いていたようだ。

 

 

 

「あたしは目覚めてからずっと……戦い続けねえと全て奪われるって思ってた。理由は分からねえけど、自分達と違う奴は排さないと居場所も大切なモノも無くなるって思ってたんだ」

 トワは屋上の手すりに近寄り、夕陽を眺める。

 

 もしかして彼女も私のように、自分の記憶かも分からない光景が脳裏に浮かぶことかあったのだろうか。

 ……ポケモンを敵と断じて、自らを顧みずに戦い続けようとしていたのは、奪われる事や失う事を防ぎたかったからなのだろうか。

 

 

「けどよ、今日イヴとルカリオって奴が普通に話してたのを見て……それはあたしの思い込みかもしれないとも感じたよ。仲間を守る為の手段は戦いだけじゃないかも……ってな」

 そう言って振り返るトワの顔は、憑き物が落ちたかのような柔らかい笑顔であった。

 

 

「ありがとよ、イヴ。戦いしか無かったあたしに新しい道を教えてくれて」

 

「……うんっ!」

 私はトワに駆け寄ると思い切りハグ。

「うわっ、なんだよ、離せ!」

「離さない。こっちこそありがとね、一生懸命私を守ろうとしてくれて!」

 振りほどこうとするトワに強くしがみつき、私はお礼を伝える。トワがいてくれたから、私は勇気を振り絞りルカリオと話すという第一歩を踏み出せたのだ。

 

 

 

 ルーアみたいにポケモン達と暮らすのは、まだ難しいかもしれないけれど……いつかはこの遺跡に閉じ籠もる必要もなくなるかもしれない。

 過去にあったかもしれない光景がまだ心の底で疼くけれど、彩りに満ちた世界を見て新しい思い出を沢山作れば癒されるかもしれない。

 

 

 

 ポケモンに対して怯えを抱かず暮らせる未来へ……自分から手を伸ばせるかもしれない。

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