ウィンターキャッスルに訪れた私達は、そこで出会った救助隊『グランアイス』のアマルルガとマンムーの案内の申し出を受けようとしていた。しかしそれを妨害する者が突如現れたのだ。
「ピーポペポパポピー!!」
「ぶっ!?」
「マホイップー!?」
マホイップが話し出そうとした瞬間、『グランアイス』とは別の新たなポケモンが奇声を上げながら突撃して来て彼女は吹っ飛んでいってしまう。予想だにしない展開に私達は口を開いて目を丸くした。
「リーダーがまた暴れてるよ!」
「鎮静信号照射します」
「プ! ……プー……」
続けて現れたポケモン達が『でんきショック』を浴びせると、奇声を上げていたポケモンは唐突に動きを止めて項垂れる。見てみると首が胴体から離れて浮いており、目付きも何だか感情が読み取り辛い。
「リーダーが迷惑かけちゃったね」
「ピンクと青のボディ……あなた達、もしかしてポリゴンっていう種族?」
謝罪する丸みを帯びたポケモンを眺めて不思議そうに尋ねるのはランクルスだ。
「ポピポピポーペパー!」
「その通りです」
「こっちの騒いでるのがリーダーのポリゴンZ、角ばってるのがポリゴン、そして自分がポリゴン2。『レジアイスのギルド』に所属するシルバーランク救助隊『テクスチャズ』なんだ」
再び奇声を上げ始めるポリゴンZ、端的に答えるポリゴンに続いて丁寧に自己紹介するポリゴン2。
「そうか……しかし、お前達のリーダーはなぜ突然アタックを?」
「ププピピポー!」
イルカマンに問われ、ポリゴンZは腕のようにも見える部位で指し示す。
「……え?」
スールを。
「な、どういうつもりだい!?」
「ピーピーパーパー!」
すぐに警戒に入ったインテレオンが彼女を守るように立ち塞がったが、ポリゴンZは興奮したように首を高速回転させるばかりでまともに回答しない。
「ふんふん……なるほど」
しかしポリゴン2達には言っていることが伝わっているようで、粗方リーダーから話を聞くとこちらに改めて向き直って来た。
「ギルド同士の文通で話があった、凶暴化を解く『リライブ』を使えるニンゲンの研究がしたいみたい。リライブの仕組みが分かればポケモン達にも同じ技術が使えるようになるかもって」
「あー……それは……」
ポリゴン2が通訳するが、それを聞いたランクルスが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「自己紹介するね、私達は『サマーリゾート』から来た救助隊『エキサイト』。こっちでもリライブ研究はしてるんだけど、その様子だと色々伝えておいた方がいいことがあるかもしれない」
「それでは、インプットして下さい」
ランクルスの言葉にポリゴンは淡々と続きの話を要求した。ポリゴンZ程ではないが、ポリゴンもやや近寄りがたい雰囲気の話し方をしている。
「ちょっとここだと話し辛いかも……」
「そっか、じゃあ研究所に来て貰っていいかな? 『歪みの穴』とかを研究してるポケモン同士、有意義な情報交換がしたいな」
「そうしたいのは山々だけど……ねえ、行って来ていい?」
「……」
ランクルスが申し訳なさそうに振り返って来るが、額を押さえながら戻って来たマホイップは微妙そうな表情を返した。
「仕方あるまい、では我々『エキサイト』は一旦『ウィンターキャッスル』に残ることにしよう。こちらの都合でお前達を振り回す訳にもいかない」
「そうは言うけどね……」
イルカマンが提案するものの、インテレオンは未だに警戒した様子でポリゴンZを見つめる。相手はインテレオンを意に介していないのか、スールを指し示したまま首を高速回転させていた。
「ポリゴンZはそこの子にかなり興味を持っているみたいだねえ」
「この様子じゃと、『ウィンターキャッスル』から帰ろうとしても追い続けそうじゃな……」
同じギルドの同胞であるポケモンを見つめてアマルルガとマンムーも懸念しているように呟く。
「ピププピプパポペー!」
「ああもう! だったらインテレオンさん、私達が物資補給するまで研究所とやらでスールを守って下さいまし!」
「え、ええっ!?」
更に奇声を上げられ根負けしたのかマホイップがそう叫び、インテレオンとスールが目を丸くした。
「このままだと、ポリゴンZ、満足しない」
「イルカマン達も一緒だし変な事されそうになっても守ってくれるよ、うん」
「そう言う訳だから。あたくし達が買い出しを終えるまではスールを見てもいいけれど、終わったら潔く諦めて頂戴、いいわね?」
「プー……」
アノホラグサとチルタリスも疲れたような表情で言い、ドラミドロはポリゴンZに期限を守る事を約束させる。
「め、メーくん……あたし……」
「……大丈夫、僕が守るから」
奇妙な動きをするポリゴンZを見上げながら身体を震わせるスールを抱き寄せ、インテレオンが優しく告げた。続けて彼は私の方へ視線を向け申し訳なさそうな表情をする。
「ごめんよルーア。マホイップ達の買い出しについて行ってくれるかい」
「……分かった」
一瞬インテレオンについて行こうかとも思ったが、私まで謎の研究に付き合わされる可能性を考えて彼の要求に応える事にした。
「はぁ、やれやれですわ」
『テクスチャズ』、『エキサイト』、そしてインテレオンとスールがギルドがあるらしい方向へ向かって行ったのを見届けてマホイップがため息をつく。
「『エキサイト』とはここで別れるんだね、短い間だったけど寂しいな」
「リライブ研究ねぇ……スールが持つダンジョンエネルギーを浄化する力をマネできれば万々歳だけど上手くいくのかしら?」
「……んー?」
チルタリスとドラミドロがそんな事を言っている横でアノホラグサがキョロキョロと辺りを見渡していた。
「……どうしたの?」
気になって尋ねると彼女はこちらに困惑したような表情を向けてくる。
「……ルーア、『ゆけゆけズ』と『ちゃんこ』、知らない?」
「……え!?」
アノホラグサに問われて私も慌てて辺りを見渡す。言われてみると確かに彼らの姿がいなくなっていた。
「おや、確かに最初より随分数が減っているわねぇ」
「ワシらも気付かんかったわい」
『グランアイス』の二匹も高い視点から見渡すが見つからないようだ。
「『ちゃんこ』とは元々ここで別れる約束だったから最悪いいけれど……『ゆけゆけズ』までいないのは困ったわね」
「あの子達、ここに来た時興奮してたからなあ。長話に飽きて色々見に行っちゃったのかも」
「もー! 次から次へと!」
困ったような表情を浮かべるドラミドロ達の後ろではマホイップがカンカンに怒っている。
「仕方ないわ、あたくし達の方で物資補給を開始しましょう。途中でヒバニー達に会えるかもしれないし」
「うん、それが良さそう。それじゃポケを用意しないとね。教えて欲しいんだけど『あずかりボックス』って何処にあるかな?」
「それならこっちだよ、おいでなさい」
チルタリスの質問にアマルルガ達は快く道案内を引き受けてくれる。私もはぐれないように注意しながら彼女らの後を追う……が。
「ん……はぁん♡」
歩き出そうと脚を動かした拍子にクリトリスリングが擦れて快感が脳を突き抜けた。本能が勝手に腿を動かして股間を擦ろうとしてしまい、どんどんマホイップ達の背中が遠ざかって行く。
(はぐれるのマズイ……! 『あかいビードロ』使わなきゃ…!)
「ぷ、ぽぽ〜、ひゅぴぃ〜」
ランドセルから出したビードロを吹いてどうにか淫乱な気分を抑え込む私。
しかし。
「なんだろう今の音?」
「楽器?」
「見て、あのポケモンみたい!」
「ぷっ!?」
この城の住民達にとって耳慣れない音を鳴らしてしまったせいで、アルクジラやデリバード、ミノムッチ等のポケモン達が珍しいもの見たさに私の周りへ集まってきた!
「透き通ってて綺麗〜」
「見せて見せて〜」
「ぴゅ……うあっ♡」
「わーい」
「ありがと〜」
無邪気なポケモン達が私のつま先に触れ、これ以上進めなくなってしまう。更に咥えていた『あかいビードロ』を落としてしまい、ポケモンがキラキラした目をしながら拾い上げた。
「こらこら、邪魔しちゃダメだぞ」
「演奏家さんかな?」
「初めて見る種類のポケモンですねぇ、別の大陸からわざわざ来てくれたんでしょうか」
「ひゃ、ひゃうぅ♡」
集中の的になってしまった私は羞恥心で更に発情する。自縛野外露出姿が大勢に注視されている事実に理性が耐えられない……!
「どなた〜?」
「ルーアぁ……♡」
私は顔を赤くしたまま踵を上下させて身体を振動をさせる事で股間に刺激を与えようとする。こんなに見られているのに膣液は太腿まで垂れ始めており、私が痴態を見られて喜ぶ変態だと自己紹介してしまっていた。
「ルーアってポケモンなのかい? 初めて聞いたよ」
「あ、あう、ふぁぁ♡」
膣内で震えるバイブからも意識を逸らせないまま、私は涎を垂らし喘ぎ声を上げる。
(ポケモン達の視線が私の脚に、股間に、おヘソに、胸に注がれてるぅ……!)
局部を隠すことが出来ないばかりか、むしろ乳首もクリトリスももっと見られたいと言わんばかりにギンギンに勃起していた。
「そうだ、この綺麗なの返すね。ありがとう」
「う、あう……あ♡」
そんな時、満足したらしい子供ポケモン達を代表してアルクジラが『あかいビードロ』を差し出して来るが、とっくに欲情仕切っている私はそれを吹いて冷静さを取り戻すという選択肢を選ぶ事が出来ない。
そして私はランドセルに念じると自らの膣内にディルドを突っ込んだ!
「んきゅうううぅぅ♡♡!!」
激しい快楽に私は悲鳴を上げてガニ股になる。広げられた陰部は雄の性器を模した玩具に挿抜され、ニチャニチャ、ジュボジュボと恥ずかしい音を立てていた。
「さっきのとは別の楽器?」
「楽器の音とは思えないですけど、私達とは文化も違うのかもですね」
(玩具で押し広げられたおマンコ見られてるぅ……! おマンコから鳴るエッチな音聞かれてるぅ……!)
淫乱な気持ちに支配された私はどんどんエスカレートし、ディルドの挿抜速度を更に上げる。気持ち良すぎて全身が熱くなり、城の外は銀世界だというのに私の肌はじっとりと汗ばんでいた。
(イク……イク……! ポケモン達に囲まれて注目されたままイッちゃう……!!)
「み、見てぇ♡ 全部晒したまま気持ち良くなっちゃうルーアを見てぇ♡」
私はだらしない笑みを浮かべながらそんな事を口走り、羞恥心が限界まで高まった状態でディルドを強く突き込んだ!
「見てぇぇぇ♡♡!! エッチな私、全部見てぇぇぇ♡♡♡!!!」
恥ずかしいまま私は絶頂を迎え、身体をビクンビクン痙攣させる。
「おや、突然動きを止めてしまいましたが大丈夫でしょうか……」
「見てって言ってたけど、どこか具合でも悪いのかな。『ブリムオン医療所』にでも……」
「はーい、ちょっとごめんね〜」
白くモコモコしたものが私の身体を覆い、そこままどこかへ連れて行かれる感覚。
「え? 『スプリングタウン』から来た救助隊『ナイトスター』だよ!」
フワフワする意識の中、聞き取れたのはチルタリスの声であった。どうやら私がいなくなったのに気付いて連れ戻しに来たようだ……。
「全く! 驚かせないで下さいまし!」
「ご、ごめん……」
『ナイトスター』達と合流した後、私は再び歩き始めながらマホイップに叱られる。こちらにも事情があったとは言え、立て続けに仲間とはぐれて焦る気持ちはよく分かる。
「着いたぞ、『カクレオン商店』じゃ」
先頭をのんびり歩いていたマンムーが立ち止まる先には他の都市でも見た商店があった。
「おやおや、『グランアイス』さん! いらっしゃいませ〜♪ それで後ろの方々は初めてのお客様ですかね?」
「この支店の利用は初めてね。でも『スプリングタウン』の支店はよく利用させて貰ってるわ」
「防寒テント、ウールー布団、薪……色々買いたい」
元気よく接客を始めるカクレオンに対し、『あずかりボックス』から引き出したポケを持ちながらドラミドロ達が応対する。
「あちゃー、申し訳ございませんお客様……。薪はご用意出来ますがテントと布団は在庫が無いんですよ」
「ええっ!?」
しかしカクレオンから思いがけない返答を渡され、チルタリスが目を丸くする。
「実は毛をこの城に出荷してくれていたウールーさん達の住んでいる原っぱがダンジョン化してしまいまして。ウールーさん達が皆凶暴化して、城に備蓄していた毛も数日前底をついたんです……」
「……」
事情を話すカクレオンの前で黙り込むマホイップ。こんな所にもダンジョン化の影響が出ていることを嘆いているように見える。
「困った。チルタリス、羽毛、代わりに使えない?」
「ぎゃー! ボクの毛は駄目ー!」
「城の備蓄が無いってことは他のお店でも品切れ状態だろうねぇ……」
アノホラグサ達を尻目にアマルルガが申し訳なさそうに溜息をつく。確かにこれでは寒さに弱いドラミドロ達と一緒に『スプリングタウン』へ戻るのは難しそうだ。
「凶暴化したのならそのウールー達をリライブすれば毛を貰うことは出来そうね。問題は肝心のスールが『テクスチャズ』に連れて行かれた事だけど……」
「……」
ドラミドロが困ったように呟く後ろで私は視線を落とす。これまでであれば私がリライブしに同行すれば良かったのだが、体内にエネルギーが溜まっているせいで何も出来ないのが歯痒い。
「倒して、無理矢理、刈り取る?」
「それは遺恨生むかなぁ……ボクの『うたう』でこう……上手く……えーと」
「……はぁ」
寒さを我慢して『スプリングタウン』に向かう、という選択肢を考えていない自分のメンバー達を見てマホイップはかぶりを振った。
「はいはい、では明日スールとインテレオンさんに協力を仰いでウールー達をリライブしに行きましょう。そしてすぐに毛を使って防寒具を作って貰い『スプリングタウン』目掛けて出発……それでいいんですわよね!?」
想定より長く足止めされてしまうのを許容せざるを得ず、かなり苛立った様子でマホイップが言うのであった。
「うん、ありがと……じゃ、じゃあ宿を探さなきゃね!」
「ば、晩御飯、買ってくる」
それに気圧されたのかチルタリスとアノホラグサは足早に去って行く。
「待つんじゃ、この城は慣れておらんと迷うぞい」
「マンムーはチルタリスちゃんを追ってくれるかい。あたしはアノホラグサちゃんを追うよ」
続けて『グランアイス』も慌てて彼女らの後を追い、後にはマホイップとドラミドロ、そして私が取り残された。この城に入る時はかなりの団体だったと思うのだが、まさかここまで減ってしまうとは。
「……全く、もう」
呆れた様子でマホイップは通行ポケモンの邪魔にならない位置の壁によりかかる。ポリゴンZに吹き飛ばされたのを皮切りに様々な事が立て続けに起きて精神をすり減らしたようだ。
「ねえマホイップ。丁度いいから少し話させて頂戴」
「なんですの?」
そんな彼女に話しかけるのはドラミドロ。マホイップは気だるげに片目だけ開けて応対した。
「あなた、ライコの話を聞いた辺りから様子が変よ」
「……っ」
単刀直入に指摘を受け、マホイップは怠そうだった表情を歪ませる。
「あたくしの予想だと、あなたがやけに焦っている理由はルーアを狙ってテツノカイナ達がこの城に攻め込んでくるかもしれないから……というのも勿論あるでしょうけど、別にもあるんじゃないの?」
「そ、それは……」
ドラミドロの言葉が図星なのか、マホイップは視線を逸らして口籠った。
「今あたくし達がいる『ウィンターキャッスル』はこの大陸北部に位置する都市。そしてライコは"瘴気に満たされた地が『北』にある"とも言っていたわね?」
確認するようにドラミドロが情報を連ねることで、私もようやく気付く。
「……瘴気に満たされた地を解放したら『世界の狭間』に繋がるゲートが出来て……ソルガレオとルナアーラを凶暴化から解放すれば世界が平和になるんだよね。それでインテレオンが元の世界に……」
「……!」
私が続きを言うとマホイップは辛そうな表情で目を見開いた。
「あなた、インテレオンを元の世界に帰さないために急いでこの地を去ろうとしていたんじゃないの? この『ウィンターキャッスル』に長居すれば、何かの拍子でルーアやスールが瘴気に満たされた地って場所に向かって、『世界の狭間』に行けるようになって……そしてインテレオンとの別れが一気に現実的になるんじゃないかって」
「わ……わたし、は……っ」
ドラミドロから静かに問われ、ワナワナ体を震わせるマホイップ。
「あたくしとしては、本当はソルガレオとルナアーラをリライブする事には賛成だわ。そうすれば『世界の狭間』から瘴気が流れ込んでくる現象、『歪みの穴』……いいえ、『ウルトラホール』が発生しなくなる。新しくダンジョンが生まれたりダンジョン巨大化が起きたり、ということが無くなるんだもの」
「でも、そうしたらインテレオンさんが!」
正論とも言える仲間の言葉に『ナイトスター』リーダーは悲痛な表情で声を荒げた。
「ならインテレオンに直接言えばいいのよ。平和になったこの世界に残ってくれって」
「えっ……」
そんな彼女にドラミドロは真面目な表情で言う。
「勿論彼がどう答えるかは分からない。元の世界で親交があったらしいスールが帰るのなら、一緒に帰るのかもしれない。けれどあなたのその想いを胸の内に秘めたままでは、チャンスすら訪れないのではなくて?」
「……チャンス」
マホイップは再び俯き、自らの手をジッと見つめた。
「……あの、ルーアはどうするつもりですの?」
「えっ……私?」
俯いたままのマホイップに問われ、不意を突かれた私は虚空に視線を彷徨わせる。
(……私は、どうしたいんだろう。ルナアーラ達を救って、インテレオンと一緒に元の世界に帰るのか……それともこの世界に残りたいのか……)
―――私が元の世界から消えて七年も経ってる筈。今更帰って居場所なんかあるの?
―――あの頃から全く成長してないことも、変態としか言えない格好をしていることも、不気味がられるだけじゃ?
(……っ、じゃあこの世界に残る方が……)
―――リライブが使えた頃ならまだしも、今の私は体内に瘴気が詰まった状態だよ?
―――みんなは私の事救おうとしてくれてるけど、いつ暴走してもおかしくない厄介者がそれに甘えてこの世界に残る事は本当に正しいの?
(……なら、私は……どうすれば?)
「う、えっと……考え中!」
「すぐに決められることではないでしょうし、それもそうね。焦らず考えるといいわ」
笑顔を作って答えた私は二匹に気付かれないように小さくため息をつくのであった。
その後、宿と晩御飯を確保したアノホラグサ達と合流した私達はインテレオン達の様子を見るため、『テクスチャズ』が言っていた『研究所』を目指すことに。アマルルガ達の案内で『研究所』があるという『レジアイスのギルド』を訪れた。
「……ブルブル……ここ?」
「そうじゃ」
『ウィンターキャッスル』の中庭とも言える空間にて再び寒気に晒され震える私達。それどころか既に夕方になっているのもあり、更に寒さがキツくなっている。そんな私達の目の前には外からも見えた巨大なモミの木があり、私達の身長を優に越える太さの根が雪にも負けずに地面へと張っていた。
「ほら見えるかい? あの装飾にも見えるのがギルドの建物だよ」
見上げると確かに、巨大モミの木に飾られたオーナメントのような色とりどりの物体には出入り口や窓が設けられているのが見えた。
しかし『ファイヤーのギルド』は建物に入る為のスロープが巨大桜に取り付けられていたが、こちらにはそのような物が見当たらない。あんな高所にどうやって行くのだろう?
「……あれ、『ワープのワナ』? ダンジョンでもないのに」
チルタリスが視線を向ける先には独特の模様が描かれたパネルがある。私も『芽吹きの洞窟』で見覚えがあるので間違い無いと思う。
「似ておるが別物じゃ、これは『ワープゾーン』じゃよ。見ておれ」
マンムーは言うと何の躊躇いもなしにパネルを踏み、光に包まれ消えてしまった。
「……『ワープゾーン』ってライコもあの祭壇を指して呼んでたわよね」
「昔、ライコ達がこの地のポケモン達に技術を伝えたのかもしれないね」
「ルーアの世界、こういうの、あった?」
「え、使ったことはないけどあったような……」
元の世界でテレビを見た時に、シルフカンパニーという名前の会社が社内にそういう設備を置いている……みたいな事を知った覚えがある。
もしかするとライコ達はこの世界の発展に、相当貢献していたのかも。
その後私達は『ワープゾーン』を利用して『レジアイスのギルド』へと足を踏み入れた。窓から外を見ると先程までいた城が遥か下にあるのが分かり、思わず脚が竦んでしまう。
「お帰りなさいませ『グランアイス』様。成果は如何でしたか?」
そして早々にアマルルガ達を出迎えてくるのは黒い毛並みを持つ獣のような二足歩行のポケモンだ。
「しっかり『テカテカごうきん』を依頼された数集めて来たよ」
「お見事、流石としか言いようがありません。そして……そちらの方々はお知り合いでしょうか?」
笑みを浮かべているがどこか底がしれない雰囲気の黒い毛並みのポケモンは『ナイトスター』や私に視線を向ける。
「『テクスチャズ』が研究所に見慣れぬ者たちを連れ込まなかったか? 彼女らはその者たちを迎えに来たのじゃ」
「ええ、確かに存じております。『グランアイス』様はご報告がおありでしょうし、私めが案内いたしましょう」
そう言うポケモンはマホイップ達の前に出ると上品な仕草で深々と頭を下げる。
「私めはゾロアーク。『レジアイスのギルド』に所属されている救助隊の皆様が暮らすこの施設にて、掃除や料理などの雑務を行っている者です」
「ではあなたに任せようかね。マホイップちゃん達、安心して頂戴な。ゾロアークは少し怪しいけどしっかり仕事はやる奴だからさ」
「そうですの……では案内お願いしますわ」
マホイップは少々目の前のポケモンを疑いの目で見ていたが、アマルルガの言葉を信じる事にしたのか返答する。
「では先導いたします」
にこやかな笑みを見せた彼はギルドのエントランスにあたる建物から別の建物に繋がる空中廊下を進み始める。外から見たらクリスマスツリーのモール飾りのように見えたが、中はこうして通路になっていたようだ。
「失礼ながら、あなた方は『スプリングタウン』からいらっしゃった『ナイトスター』様、そしてニンゲンのルーア様でしょうか?」
「そうだけど……随分詳しいのね」
「私めも救助隊連盟の端くれですので。失礼がないように連盟に所属されている救助隊の皆様の事、加えてギルド同士でやり取りされる最新の情報を常に調べているのです」
ゾロアークは笑みを絶やさないまま語る。
「この『ウィンターキャッスル』へはどういったご用件で? 勿論他言し辛い事情でしたら無理に聞き出したりは致しません」
「事故みたいなものですわ。出来れば早めに『スプリングタウン』に……っ」
続けられる問いにマホイップは答えようとするが途中で言葉を詰まらせた。先程のドラミドロとの会話から、思う所があるのかもしれない。
「なるほど、それは残念。けれどお帰りになるまでの間、この機会に『ウィンターキャッスル』で良い思い出を作って頂けると幸いです、『歪みの穴』の発生頻度が上がってからは都市間を行き来する機械もめっきり減りましたから」
(……良い思い出)
私は心の中でゾロアークの言葉を繰り返す。
「そろそろ日が暮れますが、夜になった後に城の屋上から見る巨木は思い出作りにピッタリと言えるでしょう。このギルドの灯りが巨木を彩り、まさにうっとりしてしまう光景なのです」
「へえ~、見てみたい……けど寒いだろうなぁ」
「尚更、ウールーの毛、欲しい」
そんな会話をしている内にゾロアークの足が止まり、彼の目の前にはピンクと青のペンキで塗りたくられた扉が待ち構えていた。そのカラーリングから確実に『テクスチャズ』がいる研究所なのだろう。
「失礼します、お客様がいらっしゃいましたのでご対応頂けますでしょうか?」
ゾロアークが扉をノックして呼びかけると間もなく扉が開け放たれる。
「あっ、来たんだねみんなっ!」
そして現れたのは『テクスチャズ』の面々……ではなくオオタチだ。そう言えばインテレオン達だけではなく『エキサイト』もこの研究所に来ていたのだった。
「どう? インテレオンとスール、解放される?」
「うーん……ちょっと中に入れるかなっ?」
アノホラグサに問われたオオタチは少し答え辛そうにし、手招きしてくる。少し躊躇いながらも私達はオオタチの後を追い、ゾロアークも続いて同行。
研究所の中はよく分からない道具があちこちに山積みにされており、気を付けないと脚を引っ掛けて転んでしまいそうだ。
「プペプパーパッパポ!」
「『けんこうだま』で浄化は出来ないか、ってさ」
「それが出来たら苦労しないよ。瘴気は負の感情から生まれたんだからもっと違うアプローチで……」
そして奥から聞こえてくるのはポリゴンZとランクルスの論争だ。まさか私達と別れた後、ずっとこの調子で話し合っていたのだろうか?
「……ぐう」
「!」
視線を動かすと目を閉じて寝息を立てているインテレオンを発見。その隣にはナミイルカのようなポケモンがいたが私と目が合うとすぐに部屋から出て行ってしまう。否、あれはナミイルカではなく……。
「……、ウェルカーム! インテレオン達に会いに来たのだな!?」
「はっ!? や、やあルーア! もう朝かい!?」
すぐさま部屋に飛び込んで来たイルカマンがポーズを取って声を上げるとインテレオンが跳ねるように目を覚まし、慌てて取り繕い始める。
「いいえ、そろそろ夜の段階ですわ。それでスールはどこでして?」
「あそこだよっ」
オオタチが指さした先は研究所の奥、ランクルスと『テクスチャズ』が討論しているテーブルだ。よく見るとテーブルの上に何かが乗って……。
「ふー、ふー♡」
「!?」
なんとスールが横たわっている。彼女はどういう訳か幸せそうな表情を浮かべており、激しい運動でもしたのか汗びっしょりだ。そして股間の割れ目からは白濁色のドロリとしたものが溢れて……。
「……あれ、ルーア達。もう買い出し終わったの?」
「えっと、違うけど……」
まさか私が見ていない所でインテレオンから搾り取ったのか、と問い詰めたい気持ちを抑えながらランクルスに応対し事情を伝える。
「なるほど、ウールーの毛が不足か」
「だからインテレオンとスールを返して欲しいんだ」
「ピッピポッポピッピー!」
申し訳なさそうにチルタリスが要求するが、ポリゴンZは首を高速回転させながら騒ぎ始めた。
「今いい所だからそれは困る、だって」
「こっちも困る」
ポリゴン2の通訳に対し枝をワシワシ動かしながらアノホラグサが言う。このままウールーの毛が取れなければ寒い中『スプリングタウン』へ行かなくてはならなくなるため必死そうだ。
「大体スールに何をやっているのよ……」
「ポポパパポーパポ!」
「瘴気を消すメカニズムの解明だよ。少し前まで凄く嫌がってて中々協力してくれなかったけど、インテレオンが何かやったら大人しくなってくれて今が絶好のチャンスなんだ」
ポリゴン2が指し示す先ではずっと黙っているポリゴンがスールに取り付けられた器具を見つめている。
「……ねぇインテレオン、まさかスールとやったから疲れて寝てたんじゃ……」
「うっ……は、早くポリゴンZから解放して貰うために……」
「別にいいけど……後で私ともやってよ」
「……うぐ」
私はジト目で彼に擦り寄り小声で一方的に約束を取り付けた。
「徹夜でスール達に付き合わせるとかされたら困るよ、明日ウールーたちがいる原っぱに行きたいんだから休んで貰わなきゃ」
「確かにそうだね、今日は一旦……」
「タスクの優先度は研究が上です」
チルタリスは困ったように言いランクルスも応じようとするが、ポリゴンは譲歩の様子すら見せない。確かに凶暴化の原因である瘴気を消す手段が見つかればこの世界のポケモン達にとって本当の希望になり得るが……。
「……では分かりましたわ。『テクスチャズ』の要望を飲みます」
「えっ!?」
しかしそこでマホイップが諦めた様子で返し、インテレオンが目を丸くする。
「無理矢理スールを連れ帰っても追ってくるかもしれないのであれば、まともに休めませんわ。一度満足させるのが良いでしょう」
「い、いいの? スールは?」
「……追われるのは困るかな。それにメーくんがいるなら……」
ランクルスがおずおずと問いかけると、スールは薄目でチラリと『テクスチャズ』を見てから答える。
「けれどテツノカイナ達がルーアを狙っているのは事実。インテレオンさん達を研究所に残す代わりに『レジアイスのギルド』から護衛に長けた手練れの救助隊員を宿に派遣して下さいませんこと?」
インテレオンの懸念を理解している彼女は続けて条件を提示する。いくら『ウィンターキャッスル』のセキュリティが高いと言っても、念には念を入れたいのだろう。
「その役目、私めが引き受けましょう」
それに返したのはゾロアークだった。
「ゾロアーク、世話係、違う?」
「実は彼、結構な実力者でね。たまに他の救助隊に同行して手伝いする事もあるんだよ」
怪訝な表情をするアノホラグサにポリゴン2が解説する。シルバーランクのポケモンのお墨付きなら実力は保証されているのかもしれない。
「……っ」
しかし、私はそんな彼に少々不安を感じる。ゾロアークは態度こそ紳士的で温和に見えるがなんだか底が知れない雰囲気を纏っているのだ。
「ま、待った! 僕が宿に同行すれば……」
そんな私の気持ちを表情から読み取ったのか、インテレオンが声を上げる。
「……え、メーくん……行っちゃうの? ならあたしも……」
「プッペポッペペペペ」
しかし目ざとく気付いたスールが起き上がりテーブルから降りようとしたが、即座にポリゴンZが彼女を止めようと奇声を発した。
「……っ」
「インテレオン、心配ならあたくし達もルーアを守るわ。あなた一匹でルーアもスールもどうにかしようなんて、無理はするべきではないでしょ」
「……そうだね、ルーアの事どうか頼むよ」
ドラミドロに諭され、どうするべきか悩んでいたインテレオンは肩を落としながらも頷く。
「……」
「それでは参りましょうか」
瘴気に悩まされるこの世界のポケモン達を救う為には、スールがポリゴンZ達に協力しインテレオンが彼女の傍にいてあげるのは必要な事なのだろう。
私はそんな事を必死に自分に言い聞かせながらインテレオンがいる研究所を後にするのであった。