※この作品はR-18です。

裸の少女とポケモンだけが住む世界   作:Momyaka

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Chapter64 ~幻影に招かれし黒刀剣~

 

 『にじのしずく』を入手し『ウィンターキャッスル』へと戻って来た私達。その足で『レジアイスのギルド』を訪れたが……。

 

 

 

「なんか雰囲気が違うね……?」

 慌ただしくギルドの施設内を行き交う職員たちを見て首を傾げるチルタリス。何かあったのだろうか……?

 

「あっ、皆!」

 そんな中、空中廊下の先からやって来て呼び掛けてきたのはチコリータ達『ゆけゆけズ』だった。

「『わかくさのベール』、採れた?」

「おう、バッチリ……ってそれは後だ!」

 質問するアノホラグサに対し、ヒバニーは額に汗を滲ませて声を上げる。

 

「大変だ、俺達と一緒にここまで来た『ちゃんこ』がいなくなった!」

「え!?」

 ハリテヤマを探すため『ウィンターキャッスル』まで足を運んだベロリンガとマリル。城に到着してからは別行動を取っていたが、彼女達が行方不明……!?

 

「詳しく教えて貰ってもいいかしら」

「うん、彼女達は『ミラクルズ』……イーブイとゴマゾウのチームと一緒にダンジョン『双獄の嶽』へ救助に行ったらしいんだ……だけど一向に帰ってこないって……」

 ドラミドロに問われてアシマリは視線を落として答える。

 

「考えたくないけど……まさかダンジョン巨大化かい?」

「まだ分からないみたい。『テクスチャズ』が『きんピカきんぞく』を持ち帰って早々、調査に駆り出されたって話よ」

「じゃあ続報待ちって事か……しかし救助に行ったって事は、ベロリンガ達は『凍てつく焔』っていうモノの手掛かりをまだ掴めてないのかな」

 インテレオンは暗くなりつつある雪原を窓から見下ろして呟く。

 

「ノー、『双獄の嶽』こそ『凍てつく焔』なる地だそうだ」

 その時やって来るのはイルカマン達『エキサイト』だ。

「聞いたところによるとあのダンジョンは吹雪が荒れる火山のダンジョンなんだって。外側は雪や氷に覆われた極寒の地だけど、山の中はマグマが煮え滾る灼熱の地……らしいよ」

「ネイティオちゃんが予言したのは、ダンジョンの特徴だったみたいっ。いち早く情報を集めたベロリンガちゃん達は『ミラクルズ』の救助を手伝う代わりにハリテヤマくんを探すため道案内を頼もうとしたんじゃないかなっ」

「極寒と灼熱……危険度の高そうなダンジョンね……」

 続けて語るランクルスとオオタチに顔を向けたチコリータは冷や汗を垂らす。

 

「イエス。だが、今は更に黒装モンスターたちもステイしていると考えている」

「ハリテヤマの身体を奪ったテツノカイナとその仲間だね。まさかベロリンガ達が帰ってこないのも黒装モンスターたちに捕まったからなのかな……」

「調査向かった、『テクスチャズ』、大丈夫?」

 イルカマンの推測を聞き、チルタリスとアノホラグサは心配げな表情を浮かべた。

 

 

「お話し中の所失礼するよ。あんた達、他の都市から来たゴールドランクの救助隊『エキサイト』と『ナイトスター』だって聞いたけど確かかい?」

 

 

「そうですけど、どなたでして?」

 続けて現れたのは宙を泳ぐように漂う青色のポケモン。魚のような顔が上下逆さになっており一見背泳ぎの体勢に見えるが、身体はしっかり腹部を下にしている不思議なポケモンだ。

「あたいは『レジアイスのギルド』のギルド長補佐をやってるウオチルドンさ。長があんた達に来てくれないかって要望してて掛け合いに来たんだよ」

「『双獄の嶽』の件?」

 ランクルスに先んじて確認されるとウオチルドンと名乗ったポケモンは頷いて肯定。

 

「話が早いね、その通りさ。恥ずかしい事にうちのギルドにはゴールドランク以上の救助隊がいなくてね……『ウィンターキャッスル』には働きに来た訳じゃないのは承知してるけれど、どうか力を貸して貰えないかい?」

 申し訳なさそうにギルド長補佐は頭を下げてマホイップ達に頼み込んだ。ゴールドランク以上の救助隊がいないということは、現在調査に向かっているシルバーランクの『テクスチャズ』がこのギルドの最高戦力らしい。

 

「……私はパワーを貸したい。いいか?」

「勿論」

 イルカマンが仲間達に問うと、ランクルスは即答しオオタチも笑顔で頷いた。

 

「あたくし達はどうするの、マホイップ」

「……」

 ドラミドロに問われたマホイップはしばし考えこむ様な仕草を取り……。

 

 

 

「お尋ねしますが、私達がこの都市にいる事を誰から聞きましたの?」

「ん? ゾロアークさ。うちのギルドで掃除とか料理とかやってくれてる頼もしい奴だよ」

 質問を受けたウオチルドンは快活に答え、逆にマホイップは目を細める。

 

「これは失礼、どうかお許しくださいマホイップ様。ですが私めはギルドのために仕えている身、ギルドのための情報展開を行う事をご理解いただけると幸いです」

「!?」

 後ろから声がし、驚いて振り返るとそこにはゾロアークが笑みを浮かべて立っていた。気配も無しに接近していたなんて、昨日ポリゴン2が言っていた通りかなりの実力者なのだろう。

「……」

 マホイップはゾロアークの言葉に何も言い返さないが、目を細めたまま彼を見つめている。

「……どうかした?」

「……」

 そのただならない雰囲気にスールが尋ねるが、マホイップはかぶりを振った。

 

「ウオチルドン、追加で聞かせて下さいまし。『ウィンターキャッスル』にロコンというポケモンは住んでいまして?」

「ああ、キュウコンも含めて十何匹か住んでいた筈さ」

「ではもう一つ。本日、ロコンが城から出て行ったという話などはありまして?」

「あたいは聞いてないけれど……どうかしたのかい? まあ、外の巡回してるフリージオ達とテレポート屋のネイティにも聞いてみるよ」

 続けての質問に答えるウオチルドンを前にマホイップは目を閉じる。

 

 

「ドラミドロ、リーダー代理としてアノホラグサとチルタリスを連れてここのギルド長……レジアイスさんに会って来てくれません事?」

「……ええ、構わないわ」

 そして彼女は仲間にギルド長室への出席を頼み、それを受けたドラミドロは詳しくは聞かずに承諾。

「マホイップはどうすんだ?」

「あなた達と一緒に宿へ戻りますわ」

 ヒバニーに問われるとマホイップは簡潔に答える。もしかして『雪煙の竹林』で受けた猛毒によるダメージで疲労が溜まっているのだろうか。

「それでは昨日と同じように私めが護衛を致しましょう」

 宿へ戻ると聞いたゾロアークは素早く提案を出す。

 

 

 

「結構ですわ。今回はインテレオンさんがいますもの」

 しかし、その申し出をマホイップは即座に断った。

 

 

 

 

 

 そして、笑顔だったゾロアークの口端が忌々し気に歪む。

 

(……え?)

 

 

 

「承知しました、ですがいつでもお呼び下さいませ」

 それは一瞬の出来事で、瞬きをする間に彼は笑顔に戻っており普段通りのうやうやしい態度で頭を下げていた。

 

「……? 護衛してくれるのなら断るメリットなんか……」

「いや、いいんだ」

 アシマリが困惑した様子で口出ししようとするが、インテレオンが小声で止める。

「じゃあ、行ってくるねっ」

「マホイップ、無理しないようにね」

 ウオチルドンの後を追って『エキサイト』とドラミドロ達が去って行くのを見送り、私達は一旦宿へ戻る事に。

 

「……」

 帰ろうとする私達を、何故かゾロアークが凝視しているように感じた。

 

 

 

 その後宿に戻り、夕食を終える頃には完全に夜となっていた。

「あ、そういえばルーア」

「どうしたの?」

 各々が自由に過ごしていた時、チコリータが話しかけてくる。

 

「あなた、今朝デリバードに道具を盗られちゃってたわよね。返して貰えた?」

「いや、まだだよ」

 『グランアイス』が彼に出会い次第注意して『あかいビードロ』を私に返すと言っていたが、アマルルガ達が来ないという事はまだデリバードと会えていないという事だろう。

「そういえば『グランアイス』も『双獄の嶽』に行ってるのかな」

「どうなのかしら。ドラミドロ達がギルドから戻ってきたら聞いてみましょ」

 

「あのダンジョンは外側が極寒の地、内側が灼熱の地。つまり……」

「外側にはこおりタイプポケモン、内側にはほのおタイプポケモンが多いってことだね。チコリータをサポートするためにヒバニーくんと私で頑張らなきゃね!」

 話し合う私達の後ろではヒバニーとアシマリが『双獄の嶽』へ向かう事を想定した作戦会議をしていた。

 

「うう……リンゴとかきのみばっかりで飽きて来た……」

「スール大丈夫? 『あずかりボックス』に『追放の遺跡』から持ってきた保存の効く食べ物とか入れてたりしないかい?」

 寝床ではスールがため息をついており、インテレオンはトレーナーを気遣っている。

 

「……」

 そしてマホイップは壁に寄りかかり、何かを考えこんでいる様子。

 

 

「ねえルーア。マホイップ、どうしたの?」

「うーん……」

 チコリータが彼女の姿をチラリと見て尋ねて来るが私も首を傾げる。

 インテレオンがこの世界に残るかどうか、という話は『雪煙の竹林』で聞いた通りマホイップが出来る事はやった……という事で一旦解決となった筈だ。

 しかし彼女はあの後も何かを思案し続けている。

 

「……インテレオン」

「なんだいルーア」

 私も気になり、インテレオンに近付いて声をかけた。

 

「宿に戻ってから、マホイップずっと黙ってるけど……どうしたのか知ってる?」

「……そうだね」

 単刀直入に尋ねるが、インテレオンもまた硬い表情でチラリとマホイップの方を見る。

 

「……あまり言いたくないんじゃないかな。自分の懸念が絶対に当たっている、という確証も得られてない状態で和を乱すような発言はしたくないみたいだし」

「……???」

 インテレオンの言葉にスールもチコリータも私も大量の疑問符を頭に浮かべた。

「メーくん、マホイップが何を考えてるか知ってるの?」

「いや、彼女の態度を見ての予想さ。僕としても懸念は懸念で終わって欲しいし、ただの予想で誰かを悪し様に言うのは避けたい」

「誰かを悪し様にって……余計に気になるわよ」

 チコリータが頭の葉っぱを振りながら言うと、インテレオンは肩を竦めつつも硬い表情のまま口を開く。

 

「……僕とマホイップが注意を払うつもりだけど、キミ達も『ウィンターキャッスル』にいる間も出来るだけ警戒は怠らないで欲しい」

 

 それはどういうつもりか……そう尋ねようとした私だったが、口に出せなかった。

 

 

 

 

 

 激しい破壊音が城のどこかから轟いて来たから。

 

 

 

 

 

「んなあっ!?」

 耳が良いヒバニーが驚きのあまりひっくり返る中、マホイップとインテレオンが即座に身構える。

「な、なになに!?」

 アシマリも目を白黒させて窓に駆け寄るが、夜が生む黒に覆われているだけで何も見えなさそうだ。

「うわっ!」

 更に城が地震の如く揺れ、スールが顔を強張らせて悲鳴を上げる。

 

「大変だよ、みんなっ!」

 続けて宿の部屋に駆け込んできたのはオオタチだ。

「オオタチ、イルカマン達はどうしたんだい」

「城の皆を守りに行ってる所! それより手を貸して!」

「何があったのよ!?」

 アタフタするオオタチの様子から只事ではない事態が起きているに違いない。それに先程の破壊音と城のポケモンを守らないといけない状況……それはもしや。

 

 

 

「黒装モンスターたちが『ウィンターキャッスル』に攻め込んで来たんだよ!!」

 

「なっ、マジかよ!」

「まさかテツノカイナ達がルーアを捕まえに……!?」

「させないよー!」

 それを聞いた『ゆけゆけズ』達は戦闘態勢に入る。

 

(わ、私のせいで『ウィンターキャッスル』が襲われてる……?)

 

「何でこの城にいる事がバレたの……!?」

「……まさかこんな早く行動に移してくるなんて……ッ」

 狼狽するスールの隣でインテレオンは苦々しい表情を浮かべていた。

 

「私、あいつらに狙われてるルーアを逃がすようにドラミドロ達から頼まれたんだよっ。だからインテレオン達は暴れてる黒装モンスターを止めて来て!」

「えっ!?」

 オオタチの言葉に私は顔を青ざめさせる。

 

(私が黒装モンスター達を呼び寄せたようなものなのに、その私が問題を放って逃げる……!?)

 

「ルーア……」

 インテレオンは私の表情を見て察したのか、私の肩に手を乗せた。

「僕としてはキミに逃げて欲しい……黒装モンスターの群れがいるなんてあまりにも危険すぎる。だけど、キミ自身はどうしたい?」

「私は……」

 

 黒装モンスターの群れは確かに怖い……私を狙っているのなら尚更だ。

 

 だけど、ここで『ウィンターキャッスル』のポケモン達や、必死に戦っているだろうドラミドロ達を見捨てるようなことをしたら、絶対に後悔する。

 

 私は、この世界が好きなのだから。

 

 

 

「……リライブはスールに任せるしかないけど……『ウィンターキャッスル』のポケモンを救助する手助けがしたい!」

「……分かったよ、それなら僕がキミを守ろう」

 私の答えを聞いたインテレオンは微笑みを浮かべて頷く。

 

「オオタチ、往復させることになって悪いけれど黒装モンスターがいる場所へ案内してくれ!」

 インテレオンが凛々しい表情でオオタチに言い、彼女は……。

 

 

「駄目だよそんなの! ルーアが捕まってもいいの!? 私に任せてって!」

 私とインテレオンに反対の意を示した。

 

「……?」

 アシマリは自分が尊敬するアイドルポケモンのその姿を見て、怪訝な表情を浮かべた。

 

「ルーアが僕達と一緒に皆を守りたいって言っているんだ。それにさっきも言った通り、僕が……」

「インテレオンなんかじゃ無理だよ、黒装モンスターは強くて数も多いんだからっ! 本当に大事なら、やるべき事を間違ったら駄目!」

 インテレオンが言うが、オオタチは妙に攻撃的な口調で言い放つ。非常事態とは言え、あまりにも普段と違い過ぎるのではと、私も思わず眉を顰める。

 

 

 

 そして。

 

「はあっ!」

 ずっと彼女の後ろで黙っていたマホイップが唐突に『マジカルシャイン』を放った!!

 

 

「ッ!?」

 オオタチは不意打ちを受けて吹き飛び……。

 

「えっ!?」

 目を丸くするヒバニーやスール。それもその筈だろう。

 

 

 

「……っ」

 オオタチが煙に包まれたかと思えば、そこに立っていたのは黒い毛並みを持つポケモン……ゾロアークだったのだから。

 

「なっ、えっ……どういう……えっ!?」

 混乱のあまりまともに喋れていない私を横目に、マホイップとゾロアークが睨み合う。

 

「特性『イリュージョン』。幻影を生み出す力を用い、自在に姿を変える能力……ですわよね?」

「……お見事でございます」

 マホイップに図星を突かれたにも拘らず、ゾロアークは笑みを浮かべる。しかしそれはこれまで見て来た穏やかなモノとは程遠い、獰猛な笑みだ。

 

「黒装モンスターが城に攻め込んで来てるってのに、化けて遊んでる場合じゃねえだろ!」

「違うわヒバニー! もしかしたらアイツ……!」

 ツッコミを入れるヒバニーへ注意するチコリータ。彼女も険しい表情でゾロアークを睨みつけている。

 

 

 

「単刀直入に聞かせて頂きますわ。あなた、テツノカイナ達と繋がっていますわね?」

「察しが良いですね、マホイップ様。憎たらしい程に!」

 ゾロアークは目を見開くと突如『かげぶんしん』を繰り出して自分そっくりの幻影を幾つも生成した!

 

 『レジアイスのギルド』の職員である筈の彼は、私達と戦うつもりなのだ!

 

「っ!」

 アシマリは『チャームボイス』をゾロアークに当てるが、それは分身だったようで煙となって消えてしまう。

「『あやしいひかり』!」

「わあっ!?」

 その隙にゾロアークは幻影の光を発射し、アシマリを惑わし始めた。

 

「え、本物はこっち!?」

「違う、俺だ俺!」

 混乱してしまったアシマリは訳も分からず『みずでっぽう』で水のバルーンを発射するがその方向にいるのはヒバニーだ。彼は慌ててバルーンを蹴り飛ばしゾロアークにぶつけるが、こちらも偽物であり煙と化した。

 

「ぷひゅーっ!」

「はっ! ありがとうルーア!」

 私は『きいろビードロ』を勢いよく吹き、アシマリを混乱から解除。

 

 

「おや、まだ道具を持っていたとは。あの赤い道具さえ奪えば弱体化出来ると思ったのですが」

「赤いのって……まさかあの時のデリバードってあなたが化けてたの!?」

 偽物に紛れながら言うゾロアークに対し、チコリータは驚いたように声を上げる。

「あの時もそうですし、少し前から『グランアイス』様の相手をしていましたよ。本物がいなくなった事が知られれば少々面倒なことになりますからね」

「本物がいなくなった……!? おい待て、本物のデリバードはどこだよ! それにまさか、古本屋やってるメラルバの母ちゃんもお前らの仕業じゃ!?」

「さあ、どうなのでしょう? フフフ……」

「くそっ……!」

 ゾロアークははぐらかすように言いながら『あやしいひかり』を放ち、ヒバニーは慌てて顔を伏せて身を守った。

 

 

「『ねらいうち』!!」

「ッッ!!」

 

 

 刹那、瞬膜で目を覆ったインテレオンが超高圧縮の水弾を撃ち込む。攻撃を受けたゾロアークは煙となって消えることなく大きく仰け反り、代わりに周囲の分身たちが一斉に消滅。そうだ、いくらゾロアークの幻影が本物と瓜二つであっても、瞬膜で相手の生体反応を調べられるインテレオンには関係が無いのだ!

「『マジカルシャイン』!」

「くっ……!」

 インテレオンの攻撃で生まれた隙を逃さず、マホイップが激しい光で追撃を行う。ゾロアークはすぐさま体勢を立て直すが流石にダメージが重なり過ぎたのか呻き声を漏らしていた。

 

「狙いはルーアですわね? そして今日『雪煙の竹林』に現れたロコンの正体もあなたでしょう。無邪気な子供を演じてわざと状況を悪くして行き、落とし穴を幻影で隠したりして最終的にはルーアを孤立させて攫おうとした、といった所でして?」

「……」

 次の攻撃の態勢を取りながらマホイップに言われ、ゾロアークは無言で肯定。

 

「……っ」

 最初に会った時からゾロアークは底が知れないと思っていたが、まさか笑顔の下でずっと私を狙っていたなんて。護衛を申し出たのも、ウオチルドンに『ナイトスター』達の情報を与えたのも、全て私を捕まえるチャンスを得るためだった。インテレオンやマホイップが守ってくれていなければ今頃……。

 

 

「あなた方が邪魔しなければ、あの者達も痺れを切らす事は無かったのですがね。こうして城まで直接来る事も……」

 既にボロボロで追い詰められている筈のゾロアークだが、何故か勝ち誇った顔で天井を見上げる。

 

 

 

「テツノイワオ様、ルーアは此処でございます」

 

 

 

 直後、まるで紙の如く切り裂かれるレンガの壁。

 

「!?」

 『ゆけゆけズ』が表情を強張らせる先……ゾロアークの後ろで瓦礫と化した壁を踏みつけながら現れるのは黒一色に覆われた四足歩行の屈強な体を持つ存在。堅牢な双角を携えたそのシルエットはまるで……テラキオンそっくりであった。

「グリュルルルルゥゥゥ……!」

 紫色のラインと双眸を輝かせる黒装モンスター、テツノイワオは私を視認すると頭部にエネルギーを収束させ始める。

「アレを出す気か!」

「『はっぱカッター』!」

 すぐに相手の目的に気付いた『ゆけゆけズ』達が攻撃を仕掛ける……が。

 

「『みがわり』」

 

 ゾロアークは自らの体力を削って身代わり人形を生み出し、テツノイワオを狙った攻撃を防がせた。

「『マジカルシャイン』!」

 続けてマホイップが攻撃した事で身代わり人形は耐え切れず消える……が、ゾロアークの時間稼ぎは充分だった。

 

 

「ギュルィィィィィ!!!」

 激しい駆動音を鳴らしながら紫色の波紋が広がる!

 

「がっ……!」

「うぐっ……!」

 私達やインテレオン達には一切の影響を与えないが、ヒバニーとチコリータは一瞬苦しそうに動きを止め……。

 

「……っ、テツノイワオ様を守るんだ!」

「じゃ……邪魔するんじゃないわ!」

「二匹とも、やめてぇ!」

 一度凶暴化した経験により、体内に残っていた瘴気の残滓を増幅されてしまったヒバニー達が暴れ出し、アシマリは彼らの対処に必死だ。

 

「酷い真似を……!」

 インテレオンは怒りの表情で『ねらいうち』をテツノイワオの足に走るラインへ命中させる。それにより黒装は剥がれ落ちるものの、テツノワダチの時と同様にすぐさま新しい黒装が足を覆い直してしまった。

 

 しかしインテレオンの狙いは……。

 

「……くっ!」

 黒装の欠片から放たれ始める黒い靄。その靄がテツノイワオのすぐ傍に立っていたゾロアークを襲い出したのだ。

 

「こんな、ものぉ!」

「なんだって!?」

 だが瘴気の苦痛に襲われている筈のゾロアークはあろうことか黒装の欠片を持ち、勢いよくマホイップに投げつける!

「きゃっ!?」

「わっ、待ってて!」

 今度はマホイップが瘴気に襲われてしまい、それを見てスールが黒装の欠片を消すために救援へ向かった。

 

 

「ぐ、あぁ……!」

 しかしマホイップ以上に苦しんでいるのはゾロアークだ。目を大きく見開いて胸元を掻き毟っている。

「おい、大丈夫なのか!? 黒装モンスター達に手を貸したから日頃から瘴気を浴びてたりするんじゃないだろうね!」

「ふーっ……くぅぅ……!」

 インテレオンは彼に呼びかけるが、ゾロアークは完全に余裕を失った表情で荒く息をしていた。

 

「グリュリュゥゥゥ……!!」

 明らかに様子がおかしい協力者のゾロアークを全く気にかけず、テツノイワオは双角を機械の如く変形させると円形の黒い刀剣を生成。テラキオンが使った『せいなるつるぎ』にも似ているが、そんな事を言っている状態ではない。

「まさかさっきの壁を切り裂いた技……!」

 インテレオンは咄嗟に私を抱き上げると『とんぼがえり』でその場から飛び退く。

 

 

 

「ギュルゥゥゥアァァァァァ!!!」

 

 テツノイワオが黒い刀剣を振り払ったと同時に、つい先ほど私達がいた場所の床が大きく抉れて『リングマ冬眠宿』の下の階へレンガの瓦礫が崩れ落ちていった。

「インテレオン……!」

「ぐうっ……なんて威力だ……!」

 直撃は避けたものの、飛び散った瓦礫の破片に襲われたインテレオンが苦しそうに言う。

 

「ルーア……このまま戦ったら負ける。テツノワダチの時みたいに追い払うために協力してくれ」

 インテレオンの言葉に私も頷いた。通常、黒装モンスターに道具を使っても黒装に阻まれて効果を発揮しないが、黒装を剥がして本来の体表が露出した部位になら通用するのだ。『ワープのえだ』を使えば、テツノイワオを遠くに飛ばしこの場を切り抜けることが出来る……!

 

 

「行くよ、『ねらいうち』!」

「うんっ!」

 インテレオンが指先から水弾を発射すると同時に私もランドセルに念じて『ワープのえだ』を振るった。まず水弾がテツノイワオの足を走るラインに直撃し、黒装を剥がす……が。

 

「リュリュゥゥゥ!」

 テツノイワオは素早く角を振るうと念波の刃……『サイコカッター』を射出して『ワープのえだ』の光弾を四散させてしまった。

「なっ、読まれた!?」

 インテレオンが目を見開く先で、テツノイワオの足に再び黒装が纏われていく。

「は、は……。テツノワダチ様が受けた戦法は……既に共有済み、ですよ」

 ゾロアークは震える体を起こしながら余裕が無さそうに嗤う。また剥がれ落ちた黒装の欠片が放つ瘴気に襲われているのを耐えているのだ。

 

「……っ、なぜキミは黒装モンスター達に協力するんだ!? 何が目的なんだ!」

「……」

 怒りの籠った表情でインテレオンが尋ねるが、ゾロアークは顔を顰めたまま答えない。

「黒装モンスターも瘴気で苦しんでいるんじゃないかって話は聞いてる。だけど、そこから救われたいからってルーアを道具のように扱う手段は乱暴すぎるだろう! 『ウィンターキャッスル』まで襲って、何も思わないのかい!?」

「……! そんな事は百も承知ですよ……!」

 相手は一瞬躊躇うような表情を見せつつも、それでも自らの選択を変えるつもりは更々ないようだ。

 

「……グリュゥゥ」

 その時、テツノイワオがゾロアークに対して何かを伝える。それを聞いた彼は表情を強張らせるが、すぐにかぶりを振って私に視線を向けてきた。

 

 

 

 

 

「……ルーア。あなたがおとなしく、我々と共に来ると言えば……城の襲撃を中止しましょう。我が身可愛さでポケモン達を見捨てるか、尊い犠牲になるか……選ぶのはあなたです」

 

 

 

―――私が黒装モンスター達に従えば……?

 

 

 

「ふ、ざ、けるなぁぁぁ!!」

「ッッッ!!!」

 激昂したインテレオンが『ねらいうち』を容赦なくゾロアークの眉間に命中させる。既に限界を迎えていたゾロアークはその一撃で目を回して仰向けに倒れて行った。

 

(……っ)

 しかし、冷静さを失っているインテレオンは見誤っている。

 

 今の選択を迫ったのはゾロアークの意思ではない。

 

 テツノイワオが冷酷に思いつき、彼に指示を出したのだ。

 

 

 

「ギュルゥゥ!」

「ああっ!?」

「げほっ!」

 インテレオンが攻撃を放った隙にテツノイワオは、ようやく黒装の欠片を消したスールの下へ走り寄りマホイップごと重く硬い足で踏みつけた。更に刀剣状に変形させた角の先端をマホイップの後頭部に向ける。

 

「やめ……っ」

「ルルル」

 インテレオンが指先を向けようとするがテツノイワオは更にマホイップに刃を近づけた。

 

 私を引き渡すつもりが無いなら容赦しない、と言うように。

 

「う、うう……逃げて下さいまし……インテレオンさん、ルーア……!」

「だけどマホイップ……!」

 命の危機だというのにマホイップはそんな事を言い、私は顔面を蒼白にさせる。

 

(私がテツノイワオ達についていかないとマホイップ達が大変なことに……! それに城のあちこちでも黒装モンスター達が暴れてて、このまま要求を拒んでたら被害がどんどん拡がっちゃう……!)

 

 

 

 まともにリライブすら出来ず、ほとんど役に立てない私がこの身を投げうてばポケモン達を救えるのだろうか。瘴気で苦しむ黒装モンスター達も楽になるのだろうか。

 

 

 

―――それで、私一人だけ瘴気を身体に溜め込んで、苦しめって?

 

 

 

「う、ううっ……!」

 身体が震える。恐怖で嫌な汗が止まらない。

 

 

(行かなきゃ)

―――行きたくない!

 

(役に立たなきゃ)

―――苦しみたくない!

 

(助けなきゃ)

―――助けて!

 

 

 

 

 

「……大丈夫だよ、ルーア。僕はキミを守る」

 彼は私を安心させるように抱き寄せると、テツノイワオをまっすぐ睨みつける。

 

「……」

「駄目ぇぇぇ!!」

 交渉決裂と判断したかテツノイワオは勢いよくマホイップの首元に刃を突き込もうとし、スールが泣き叫び悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

「……『ハイドロカノン』」

 インテレオンは両腕をまっすぐ前に伸ばし、指を全てテツノイワオへ向ける。

 

 

 

 放たれたのは想像を絶する量の水。まるで大瀑布のような水の勢いにテツノイワオはたまらず押し流され、レンガの壁を破壊しながら宿の外へ吹き飛んでいく。

 

「……っ」

 私は唖然としてそれを見ていた。まさかインテレオンがこんな大技を持っていたなんて。

 

 しかし。

 

「ぐ……ぐうっ!」

 なんとインテレオンが生気を失った顔でその場に倒れ込み、呼吸すら辛そうにしていた。

「メーくん、どうしたの!?」

「……っ、『ハイドロカノン』の反動ですわ! 威力が絶大な代わりに使用したポケモン自身への負担が凄まじいんですの!」

 スール達は起き上がり駆け寄って来るが、マホイップがインテレオンの様子を見るなり苦悩が前面に出た顔になる。

「うう……」

「あたし達、また……」

「気にしないで! 戻れてよかったよ!」

 テツノイワオから距離を離されたことで瘴気の増幅が無くなり、ヒバニー達も我に戻ったらしい。

 

「リュギュギュウゥゥゥ!!」

 しかし、遠くから聞こえてくる怒りに満ちたテツノイワオの声。おそらくすぐさまここまで戻って来るであろう。

 

 

「……」

 そして一匹のポケモンが、自分の身を顧みず救ってくれたインテレオンを見て覚悟を決めた表情となる。

 

 

「……この城に残っていては危険ですわ。皆さんは逃げて下さいまし」

「え!?」

 マホイップの言葉に一同は驚愕。

 

「何言ってんだよ! 逃げるにしてもマホイップも一緒に……」

「いえ、ドラミドロ達は今もきっと黒装モンスター達と戦っている筈。『ナイトスター』のリーダーとして、彼女達を放って自分だけ逃げる訳にはいきませんわ」

 問答している間にも金属質な足音はどんどん近づいて来る。

 

「……マホイップ、止めても行くつもりかい」

「はい。救ってくれたインテレオンさんの為にも、この世界の為にも……少しでもテツノイワオを食い止めるのが私の役目ですわ」

 とても苦しそうに半身を起こして問いかけるインテレオンにマホイップは笑顔で答える。

 

 

 

「皆さん、お願いですわ。北へ行って下さいまし。そしてポケモンを拒む地を満たすという瘴気を晴らして欲しいのですわ」

 

 それは……『世界の狭間』へのゲートを解放し、苦しむソルガレオとルナアーラを救うことに繋がる行為だ。

 

「『歪みの穴』の発生を止めてくれると言ったライコ達なら、黒装モンスター達をどうにかする事だって可能な筈ですわ。だから……あなた達にお願いしたいんですの」

 世界を救った後、もしかしたらインテレオンが元の世界に帰る選択を取るかもしれないのに彼女自身が頼んで来た。

 

 

 

 本当にマホイップは覚悟を決めたのだ……たとえこれがインテレオンとの今生の別れになろうとも自分の役目を果たすと。世界を救助する為に、彼にとって一番の幸せを掴んでもらう為に。

 

 

 

「皆さんどうか……インテレオンさんを、この世界をよろしくお願いしますわ!」

「……っ!」

 マホイップは『ゆけゆけズ』と私、そして最後にスールと目を合わせて頷くと『ハイドロカノン』で開いた穴へと飛び込んでいった。

 

「……行こう、みんな」

「でも……!」

 真っ先にスールが言うが、アシマリは戦闘音が響き始めた穴の向こうを見て辛そうな表情をする。

「テツノイワオ達が狙ってるのはコイツ。それなら、あたし達が城から離れればあいつらも追走に夢中になって襲撃をやめる可能性が高いんじゃないかな」

「……っ」

 スールの言葉に一同は黙り込む。マホイップ達を残して逃げるなんて本当ならやりたくないが、確かにそれしか残された道は無い。私が願った方法とは異なるが、遠回しであっても災厄を呼び寄せる私がいなくなれば『ウィンターキャッスル』を襲う脅威は少しでも減るのだろう。

 

(……私がいなくなれば)

 

「マホイップの気持ちを無下にしたらこの世界の罪もないポケモン達が蹂躙されるか、コイツがまた瘴気を流し込まれて暴走するか……どっちにしても良くない未来になっちゃうよ」

 

 瘴気の充満だけではなく、黒装モンスター達もこの世界を危機に陥れかねない災厄。いよいよ、それらと向き合わなければならない時なのだろうか。

 

 

 

「……そうだな」

 そう言ってヒバニーが取り出すのは縞模様のスカーフと『あつまれだま』だ。

「それは?」

「『ワープスカーフ』よ。これを付けたポケモンはあちこちにワープしちゃう道具なの」

 チコリータが説明する隣でヒバニーはスカーフを巻き、光に包まれるとすぐさまどこかへ消え去ってしまった。何度かワープを繰り返して黒装モンスター達から離れ、安全が確保でき次第『あつまれだま』で呼ぶ算段だろう。

 

「……みんな、待っててね!」

 泣きそうな顔になりながらマホイップ達に向けてアシマリは叫ぶ。聞こえていないのは彼女自身も分かっているのだろうが、それでも誓いとして言いたかったのかもしれない。

 

 そして私達の周囲が『あつまれだま』の光で白くなっていく……。

 

 

 

 

 

 到着したのは闇夜に包まれた雪原。

「よし、気付かれる前に行こうぜ」

 『ワープスカーフ』を外したヒバニーは、少し後悔しているような目で『ウィンターキャッスル』を見る。

 

「……っ」

 城壁のあちこちに穴が空き、火の手が上がっている場所もある。中心に聳え立つ巨大モミの木の飾り……『レジアイスのギルド』の建物も黒装モンスター達の攻撃により幾つか崩落してしまっていた。ギルド内にいたポケモン達は逃げられたのだろうかと心配になる。

 

(私がこの城に来たせいで……『ウィンターキャッスル』のポケモン達が……)

 

「自分を責める必要なんてないんだよ、ルーア」

 私の気持ちを察したのか、インテレオンが背中を擦ってくる。しかし彼の顔色が悪いのは夜だから、ではないだろう。

(本当ならあんな大技を使った後は安静にしないといけないだろうなのに……私、インテレオンに無理させてる……)

 

「インテレオンの言う通りよ、マホイップは自分の意思であたし達を逃がしてくれたんだから。その想いを無駄にしないようにしなきゃ」

「今度は俺達がルーアを守らないとな……」

 チコリータに賛同しつつ、ヒバニーは持っていた縞模様のスカーフをレスキューバッグにしまおうとして……手を止める。

 そして何やらチコリータやアシマリと頷き合うと、真面目な表情で私を見上げた。

 

「……ルーア、この『ワープスカーフ』を託すぜ」

「え……!?」

 突然そんな事を言いながら道具を差し出してくる彼に私は驚愕。何故いきなりそんな真似を?

 

「さっき説明したわよね、この道具を装備するとあちこちにワープしちゃうって。でも逃走するのには非常に有効な道具だわ」

「黒装モンスター達に狙われてるのはルーアだもん。いざとなった時、あいつらから逃げれる手段を持っててくれるなら私達も安心だよ」

「いざとなった時って……! 皆を見捨てて逃げろって事……!?」

 続けてチコリータとアシマリまでそんな事を言い、私は顔を青ざめさせて首を振る。現時点でさえマホイップを見捨てて逃げる形になっているのに更に『ゆけゆけズ』まで見捨てろなんて……!

 

 

 

「……ありがとう、キミ達」

 そして私の意思を無視してインテレオンは『ワープスカーフ』を受け取ると、私のランドセルの隙間へ勝手に突っ込んでしまう。

「ちょ、ちょっと……っ」

 

「……ルーア。彼らが『ワープスカーフ』をキミに渡したのは、"自分達の世界の平和"と"友達の身柄"を天秤にかけるつもりは無いという意思の表れだ」

 さっさと歩き出してしまうヒバニー達の背中を見つめてインテレオンは続けた。

 

 

 

「彼らは言ってるんだよ。"自分が犠牲になれば良い"なんて考えて、諦めるなって。彼らも僕も……限界までルーアとこの世界を守り抜くつもりさ」

「……っ!」

 

 それだけ言い残してヒバニー達の後を追う彼の背中を見て、私は口をキュッと締める。

 

 

 

 堅牢な守りを誇っていた筈の『ウィンターキャッスル』が陥落していく姿を背後に、私も北に向けて歩き出す。

 

 『ナイトスター』達を置き去りにしてしまう事への申し訳なさと、それでもこの世界を救うため諦めない不屈の想いを胸に。

 

 インテレオンもヒバニー達もマホイップ達も、自分の身を投げうってでも大事な相手やこの世界を救おうとしている。スールだってポケモンの横に立つトレーナーとして自分の役目をこなそうとしている。

 

 

 

 ……私は、守られてるだけでいいの?

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