ポリゴンZ、テールナー、チャオブーと共に『双獄の嶽』の中を進んでいた私。その途中でパラドックス達に奪われた『リライブホール』を見つけたが、そこへ呼びかけて来る者がいた。
その存在は笑みを浮かべながら、私を獲物のように見据えている……。
「ギルド長……!?」
「元に戻れたんだぞ?」
『オータムビレッジ』の救助隊ギルドのトップであるテラキオン……。道具に変化した彼は以前パラドックスに誘拐されたとベロリンガ達は語っており、パラドックスの根城であるここにいるのはそこまでおかしくはない……が。
「おや、ギルド長ですか? もしも皆様がそれを望むのであれば検討してみてもいいかもしれません。ですが、ワタシには優先して行いたい事があるのです」
「……!」
以前と全く違う喋り方をするテラキオン……否、テラキオンの姿をした存在は私を見るとゆっくりと歩み寄ってくる。
「まさか……テツノイワオじゃ……!」
「おお、素晴らしい洞察力です! その聡明さで、ワタシの仲間達を瘴気から救う事がどれだけ魅力的な選択かを理解して貰えると、ワタシはとても喜びます」
私が言い放つと、テラキオンの姿をしたテツノイワオは誤魔化すことすらせずに淡々と返してくる。まさかハリテヤマだけではなく、テラキオンまで体を奪われてしまったなんて……!
(……けど、パラドックスが他のポケモンから体を奪うには、事前に体内の瘴気を極限まで減らす必要がある筈……)
「ポペッ!?」
私を利用せずに一体どうやって瘴気を減らしたのか……と思っていると『リライブホール』の様子を見ていたポリゴンZが慌てたように首を回転させ始める。一体どうしたのだろうと私は一瞬だけ視線をそちらに向け、思わず息を吞む。
『ウィンターキャッスル』で見た時のように、エネルギーラインを光らせる『リライブホール』。しかしあの時とは違い、ラインは妖しい紫色に発光していた……!
「おや、あれが気になるのですね。あの装置の中心の台座に乗れば、 "周りの台座に乗ったポケモン達に瘴気を流し込める" のです。管を使った方法では、瘴気を送る相手の許容量を超えて流す事は出来ませんが、この装置を使えばより多くの瘴気を流せるのです」
「……っ!」
そうか……このダンジョンは巨大化していないにも拘らず瘴気が固形化するほどに蝕まれたポケモンが多くいたのは、『リライブホール』を魔改造したパラドックス達が彼らの限界以上に瘴気を流し込んだから……。
目の前にいるテツノイワオが、テラキオンから体を奪える段階まで瘴気を減らせたのも『リライブホール』を悪用したからだったのだ!
「集めたポケモン達にあの装置を用いて瘴気を流し込んだのはいいものの、あれだけポケモン達を集めたのに残念ながらこうして元に戻れたのはワタシだけです。ワタシ達にはより多くの瘴気を流し込める存在が必要でしたが……こうしてアナタから来てくれた事に多大な感謝を述べましょう」
「や、やるつもり!?」
また一歩近付いてくるテツノイワオを前に、テールナーが戦闘態勢に入る。相手は今、テラキオンの体を奪って活動している……すなわち、伝説のポケモンの力を持っている状態といって差し支えないだろう。
そんな相手にこの数で挑むなんて危険すぎる……!
「……っ、『さしおさえ』!!」
「おや?」
テツノイワオは早速と言わんばかりに『しばりだま』を取り出すが、テールナーは同じミスをしてたまるかと道具封じの力場を作り出した。これで不意のふしぎだま発動は防げる筈だがテツノイワオは大して動じていない。
「『せいなるつるぎ』を使用します」
「まずい、ギルド長の得意技だぞ!」
そしてテツノイワオの額から伸びる、輝く巨剣。チャオブーが慌てる後ろで、私も以前あの技を食らって打ちのめされた記憶が蘇る。テールナーとチャオブーは私を守ろうと構えるが……。
「っ……!!」
「攻撃の命中を確認しました」
目にも止まらぬスピードで私達の後ろに駆け抜けたテツノイワオ。そしてすれ違いざまに切り裂かれた私は悲鳴すら上げられずに倒れ伏した。
「なっ……ルーア!」
「ううっ……!」
テールナーが必死に呼び掛けてくるが、私は激痛のあまりうめき声しか返せない。
「お、オイラ達を無視するなんて……!」
「ルーアさえ確保すればアナタ達を倒し捕獲する必要はありません。そもそも、ルーアがワタシ達に協力する事を望んでくれたのなら、各地からポケモンを攫う必要もありませんでした」
チャオブーが歯軋りしながら言うが、テツノイワオは淡々と冷酷に述べる。更に相手は先程使用を封じられた『しばりだま』を再度取り出す……『せいなるつるぎ』で大きく移動したのは私への攻撃だけではなく『さしおさえ』の力場から脱出する意図もあったのだ!
「くう……!」
私に集中していたテールナーは咄嗟に『さしおさえ』を張り直そうとするが、間に合わない……!
「パピパププァーーーー!!!」
「ッッッ!!」
その時、どこからか飛んできた極太のビームがテツノイワオを襲い、轟音と衝撃波を広げ大爆発を起こす。
「あ、あなた……」
「ポーピプ」
その大技……『はかいこうせん』を発射したのはポリゴンZであった。何を考えているか分からないポケモンではあるが、救助隊としての誇りは間違いなくその心に存在しているのだろう。
「ペパペピピ」
「え……?」
続けてポリゴンZは手のような部位で『リライブホール』の近くを指し示す。立ち上がりながら見てみると、薄暗くて気付かなかったがタイルのような物が存在しているのが分かった。一見、ダンジョンが生成するワナのようにも見えるが……。
「……あれは!」
「『ポケモンのワナ』だわ! こんな所にあったなんて……!」
タイルを見て驚きの声を上げるテールナー達。私も名前は聞いたことがある……『テラキオンのギルド』のポケモン達が、道具に変わったギルド長を元に戻すために準備を行い生み出した、道具をポケモンに変化させるワナだ。
そしてそのすぐ傍には見覚えのある黒一色の存在が、像の如く一切の動きなく佇んでいた。
あれはテツノイワオ……いや。
「テラキオンだ……テツノイワオに無理矢理体を交換されて動けないみたい……」
「聞いた話だと、メガシンカしたポケモンが黒装を剥がせば交換された体も戻るんだぞ! でも……」
私に続いてチャオブーは言うが、彼は暗い表情をしている。何故ならこの場にはルカリオはいないし、それに……。
「ワタシ達の活動を妨害する行為は断じて許されるものではないと警告します。そういった行為に対しては、厳正な対処を行います」
「プッ!?」
『はかいこうせん』のダメージから復帰したテツノイワオは、反動で動けないポリゴンZを『せいなるつるぎ』で吹っ飛ばすと私へと視線を向けてくる。抑揚のない口調だが、先程までと比べて不快そうな表情をしていた。
「こいつをどうにかして止めない限り、テラキオンを解放する余裕は無いわね……!」
テールナーは『さしおさえ』を再度展開して道具の使用を防ぐが、テラキオンの体を奪ったテツノイワオは単純な戦闘力も非常に高い。このままでは止めるどころか、力尽くで押し切られてしまうだろう。
「ピ、ピピポ……ッ」
「だ、大丈夫?」
普段の騒がしさが嘘のように弱々しく呻くポリゴンZに駆け寄り、私は急いでランドセルから『オレンのみ』を出そうとする。
しかし出てきたのは……。
「あっ……間違えた……っ」
きのみですらない瓶。焦っていた為に念じ方が雑になってしまった。
「……ピ!?」
しかしポリゴンZは驚いた様子でその瓶……『こはくのなみだ』を奪い取った。いきなり道具を取られた事に困惑する私だが、これはアマージョからよく分からない内に渡された道具……ポリゴンZは使い道を知っているのだろうか?
「ピプゥゥパピピップゥゥ!!!」
突如、ポリゴンZはレスキューバッグから取り出した『しゅんそくのタネ』を飲み込み、高速で飛び始める。向かう先は『リライブホール』の下……何をするつもりだろう。
「『ストーンエッジ』を使用します」
「ううっ!?」
「ルーア!」
しかしポリゴンZに意識を向けすぎたのか、私は接近していたテツノイワオに気付けないまま背後から尖った岩をぶつけられ悲鳴を上げた。
地面に倒れ込んで震える私に近付いてくるテツノイワオ。チャオブー達が私を助けようと走り出すが、『さしおさえ』の力場から脱したテツノイワオは素早くえだを振るい、光弾を彼らにぶつける!
「うっ……ぐううっ!」
「や、厄介な真似を……」
途端に動きが鈍る二匹。テツノイワオが使ったのは『どんそくのえだ』だ。まともに追走が出来なくなったテールナー達を尻目にテツノイワオは角を器用に使ってかつてのテラキオンのように私を背中に乗せる。
このままだと他のパラドックス達がいる場所へ連行されてしまう……しかし抵抗しようにも、痛みで意識が……。
「喝!!!」
「!?」
爆音の『スケイルノイズ』が鳴り響き、走り出そうとしたテツノイワオが横転する。宙に投げ出された私だが、何者かに掴まれて地面への激突は未然に防がれた……今の声はまさか。
「ジャラランガさん!」
「うんむ、合流が遅れてすまなかった」
嬉しそうな声を上げるのはテールナーだ。彼女に頷いた道場主ジャラランガは起き上がろうとするテツノイワオに向き直って構えを取る。
「無事かな?」
そして私をキャッチしたのは『テクスチャズ』のメンバー、ポリゴン2だった。よく見ると近くにポリゴンもおり、どうやらジャラランガと一緒にここへ辿り着いたらしい。
「ポパパープェプォープォ!」
再び聞こえてくるポリゴンZの声。紫色に光るラインが走る『リライブホール』に接近したポリゴンZは私から取り上げた『こはくのなみだ』の瓶を開けると装置に振り撒き始めた。
「っ!! アナタの行動は禁止行為だと、警告します……!」
「行かせん!」
自分達が改造を施したリライブホールに手を加えているポリゴンZを睨み、テツノイワオが走り出そうとするがその動きを見切ったジャラランガが顎に『スカイアッパー』をジャストヒットさせた!
そして。
「要求していた道具が集まった事を確認しました」
ポリゴンが見つめる先では、『リライブホール』が本来の姿……穏やかな緑色の光を放ち始めていた。中央の台座を『にじのしずく』、『わかばのブーケ』、『キンピカきんぞく』が彩っているのを見て私は思い出す。
『リライブホール』を完成させる為に必要な道具……その最後の一つが『こはくのなみだ』であった事を。
それは非常に貴重な道具で、トレジャーハンターのような存在でないと見つけられないだろうとインテレオン達が語っていたが、まさかアマージョ達が確保していたとは。彼女達が『こはくのなみだ』を持ってきていたのも、ガブリアスを通じて救助隊連盟が情報を取り合っていたお陰だろう。
「……ウィィィィン!!」
しかし、状況は再び傾く。テツノイワオの隣で光が弾けたかと思うとそこには一匹のパラドックスが立っていた。
漆黒一色のベルトのような重甲、丸みを帯びた体、紫に光るラインと双眸。
「アナタの救援にワタシはこれ以上無い幸せを感じています、テツノワダチ」
「ウィィィィン……!!」
『颶風の砂漠』で二度に渡り襲撃して来たテツノワダチが、三度私を狙ってやって来たのだ! 淡々と述べるテツノイワオとは対照的にテツノワダチは激しい駆動音を上げる。瘴気の苦痛から逃れようと必死なのか、テツノワダチはすぐさま球状に変形し『ヘビーボンバー』で突撃して来た!
「くうっ、やりおる……!」
私を庇うように立ち塞がったジャラランガが超重量の攻撃を見事受け止めてみせるが、その表情には一片の余裕も無い。
「ポプーペァーー!」
「!」
背後から聞こえるポリゴンZの声。相変わらず私には何を言っているのか分からないが、『テクスチャズ』のメンバーは即座に反応し技を繰り出す構えを取った。
「『こうそくいどう』!」
「お、おおっ! ありがとうなんだぞ!」
まず動いたポリゴン2が倍速化の補助技を発動。すると鈍足状態になっていたチャオブー達が元のスピードに戻った。
「鎮静信号照射します、再度照射します」
「……執拗な妨害行動は反撃の対象になると警告します」
倍速状態になったポリゴンは『でんきショック』を連続で浴びせ、テツノイワオの注意を引き始める。あまりダメージを与えられていないのだが、何が目的で連続攻撃を……?
「ここは『テクスチャズ』に任せて! リーダーが言ってるよ、この状況をひっくり返すにはテラキオンを黒装から解放するべきだって!」
「!」
ポリゴン2は『こうそくいどう』を連発しながら高速で飛び回りつつ、その答えを伝えて来る。見るとテツノワダチの周りを旋回し、意図的に相手の怒りを自分に向けさせていた!
相手が通常のポケモンであったなら兎も角、今回は伝説のポケモンの体を奪ったパラドックスと、瘴気の力で暴れ回るパラドックスの二体……!
「待て、お主らは平気なのか!?」
「ピッポポーパポー!」
「むしろ、あんまり陽動は得意じゃないから急いでくれって! リライブホールでテラキオンを元に戻すには、彼と面識がない『テクスチャズ』よりもジャラランガさん達の方が適任なんだ!」
強大すぎる相手への囮役を買って出た『テクスチャズ』の身を案じるジャラランガに対し、ポリゴンZ達は戦闘を継続しながら答える。しかしテツノイワオもスピードの上がったポリゴンの動きを見切り『せいなるつるぎ』を命中させていた。
「確かにギルド長の力がないと負けるんだなぁ……けど」
チャオブーは『リライブホール』の近くで固まったままのテラキオンを見つめた後、私の方を向いてくる。
「……」
同様に腕を組んで悩ましい表情をして黙るテールナー。私がこの場にいるのに、テラキオンを黒装から解放して大丈夫なのか……そんな懸念が見て取れた。
それは……テラキオンがニンゲンという存在を激しく憎んでいるからだろう。その上、以前『オータムビレッジ』にて私は暴走した勢いで彼を道具に変えてしまったのだ。『ポケモンのワナ』の効果で道具変化からは戻ったようだが、私に対する危険視は強まっていてもおかしくない……!
「……今こそ、吾輩は信じよう」
「え?」
ジャラランガの呟きを耳にして、私達は揃って振り向く。
「ニンゲンへの不信はそう簡単に晴らせぬかもしれぬ。しかしテラキオンもギルド長の座につく者……今の緊迫した状況を見て、何をすべきか判らぬ程愚かではないと吾輩は考える」
「……万が一、私を襲って来たら……?」
ジャラランガの意見も最もだが、かつてテラキオンに完全に敵視されていた経験を持つ私は声を震わせて聞いた。
「吾輩達が説得しようぞ。かつてオーロットが理解したように、長も理解する可能性はある!」
ジャラランガが力強く言うと、テールナーとチャオブーもハッとした表情で一瞬固まり、すぐさま瞳に光を灯して頷いた。
(……そうだった。あの時とは違って、隣に立ってくれる味方がいるんだ……!)
私もまた頷くのを確認すると、ジャラランガは私達を担いで跳躍し『リライブホール』のすぐ傍に着地。装置が放つ緑色の光に照らされるのは黒装に覆われたテツノイワオのボディ。しかしそこに籠る魂はテラキオンであり、今も瘴気に苦しんでいるのだろう。
「それでルーア、あなたこれの使い方知ってるの?」
「……うん」
『レジアイスのギルド』にてランクルスから教えられたものの色々あったことで頭から抜けている情報もあった。しかし、さきほどの『こはくのなみだ』の件で思い出すことが出来たのだ。リライブをする訳にはいかない私でも、情報を伝える事でジャラランガ達によるリライブを手助けする事が出来る……!
私は内心怯えながらも、ジャラランガ達に『リライブホール』の使い方を伝える。
確かにテラキオンを元に戻したらまた攻撃されるのでは、という恐怖は完全には拭えない。けれど、怖いからといっていつまでも距離を置き続けていたら関係の改善は見込めないだろう。
「よし……」
持ち前の腕力でテラキオンを中央の台座に乗せたジャラランガは、周囲の台座にテールナー達が乗ったのを確認して自らも台座を跳び移る。
「……お願い、目覚めて」
「ギルド長、オイラ達の声……聞こえるか」
「…………」
そしてジャラランガ達が目を閉じ意識を集中させると、彼らの体が淡い緑色に光りだし、台座同士を繋ぐ基部のラインも輝きを増し始めた。
それに呼応してテラキオンの体から緑と黒の光が放たれ始める!
「……ッ!」
同時に、ポリゴンZ達を振り切り私達の元へ迫っていたテツノイワオの動きが鈍りだした。テラキオンが少しずつ黒装から解放されるにつれ、テツノイワオの速度も落ちていく。
入れ替わっているテラキオンとテツノイワオの魂が、それぞれ本来の体へ戻りかけているのだ!
「ギルド長! この『ギフト』を受け取るんだなぁ! オイラ達だけじゃなくて、オーロットや『オータムビレッジ』の皆が力を合わせて集めたんだぞぉ!」
チャオブーは駄目押しと言わんばかりに、レスキューバッグから取り出したプレゼントボックスを放り投げる!
彼らの気持ちが届いたのか、テラキオンの輝きは更に増していく……!
それでもテツノイワオは私を使って仲間のパラドックス達を救うという目的を叶えるために、『せいなるつるぎ』で輝く剣を伸ばし躊躇なく振り下ろした!
(…………)
私を幾度も襲った『せいなるつるぎ』は私に当たる事はなく、代わりに私の眼前にて止まっていた。
「……道具に変わってた間のこと、全部見聞きしてた」
テツノイワオ……否、今私の目の前にいるポケモンは言葉を紡ぐ。
「すまねぇ……いくら謝罪しても足りねぇのは分かってるが、それでも謝らせてくれ。俺はお前達のことを理解しようともしてなかったんだ」
目の前にいる伝説のポケモン……テラキオンは己の過ちを激しく悔いている辛そうな表情で言う。
「……こ、これは!」
そして『リライブホール』の中央の台座にいたテラキオン……ではなくパラドックスのテツノイワオが自らの機械的な体……本来の体に戻ったのを見て困惑している。
「やったわ! テラキオンとテツノイワオの魂が本来の体に戻ったのよ!」
「オイラ達でもリライブ出来た……!」
テールナーとチャオブーは嬉しそうに顔を見合わせる。ランクルスやポリゴンZ達……救助隊連盟の努力が遂に実を結んだのだ。
「あ……えっと、私もあなたを道具に変えたりしてゴメン……!」
「気にすんな。先に危害を加えたのは俺だし、むしろあのお陰で頭を冷やせたさ」
私は目の前の存在に対し緊張しながらも謝罪を述べると、テラキオンは僅かに笑みを浮かべるのであった。
「見たか! この装置があればルーアを狙う必要も、ポケモン達に瘴気を注入する必要もあるまい! お主達パラドックスは吾輩達と敵対せずとも救われることが出来るのだ!!」
「……っ」
ジャラランガに言われ、テツノイワオは何も言い返せない様子でたじろぐ。自分自身の体から黒装ならびに瘴気がなくなったのを嫌でも実感している身の上では彼の言葉を否定できないのだ。
「ビビビィィィ……!!」
しかし、戦闘の終わりはまだ訪れない。黒装を纏ったテツノワダチは今もなお暴れており、『テクスチャズ』は押されながらも必死に応戦している。
「『リライブホール』を使えばあいつの瘴気も無くせる筈だぞ、行こう!」
「問題は抵抗して来る事と、テラキオンの時とは違って私達の呼び掛けになかなか応じないかもしれないって事ね。同じギルドの仲間だったからこそ、テラキオンはすぐに応じてくれたんでしょうし」
「うんむ、激しい戦闘が予想出来る。心してかからねば」
残る相手を見つめてチャオブー達が頷き合ったその時……。
「……誰だ!?」
テラキオンが何かの気配を察知して振り向く。彼は素早く前に出ると私を守るかのように立ち塞がった。
まさかパラドックスの増援かと警戒しながら、私は暗い通路を見つめる。そして通路の奥から彩度の無い体色と紫色の瞳を持つ存在が姿を見せた……!
「ルーア!」
それはなんと、灰色のニンゲンの一人であるイヴであった。彼女は驚いた様子で私へ駆け寄ろうとするが、テラキオンの存在に気付くと足を止める。
「……味方か」
しかしテラキオンは安心したように呟くとイヴから視線を外して再びテツノワダチの方を向く。
「もしかして、テラキオン、和解?」
続けてイヴとは違う声が通路から聞こえてくる。イヴの後ろから現れたのはアノホラグサであり、彼女達は一緒に行動していたようだ。
「そうよ。でもあまり説明している余裕は無いわ」
テールナーはそれに答えながらも『テクスチャズ』の援護に入るため木の枝を構えた。
「……ルーアよ、ここは吾輩達に任せアノホラグサ達と共に『双獄の嶽』の奥を目指してくれぬか。『世界の狭間』を目指すのならば、こんな所で足止めされている場合ではなかろう」
「!」
ジャラランガの言葉に私は一瞬顔を強張らせるが、自分の役目を今一度思い出す。私はスール達と協力してルナアーラ達を瘴気から救うためにわざわざこのダンジョンまで同行してきたのだ。
ただ単に、皆の足を引っ張りに来たのではない!
「これ、持って行って欲しいんだなぁ!」
私の表情を見て安心したように力強い笑みを浮かべたチャオブーは、レスキューバッグから取り出した小型の箱をアノホラグサに放り投げた!
「これは?」
「『ねがいのかたまり』が入った箱よ。ダンジョンから出土した特別な箱だから、近くにルーアがいても箱を開けない限り勝手にダイマックスは起きない筈!」
箱をキャッチしたアノホラグサからの問いに口早に答えたテールナーはチャオブーと共に、テツノワダチを食い止める為駆けていく。
「……頼んだぜ、ルーア」
そしてテラキオンもそれだけ言い、テールナー達の後を追って走っていった。私の事を『歪みの穴』現象を引き起こした元凶だと言っていた彼が、私を信じてこの世界の事を託してくれたのだ。
「行こうルーア」
「うん!」
イヴに促され、私は力強く頷いて戦いの音を背に駆け出す。
(ありがとう皆……!)