※この作品はR-18です。

裸の少女とポケモンだけが住む世界   作:Momyaka

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Chapter75 ~救いを求める者達~

 

 『双獄の嶽』の奥に広がっていた遺跡の中を進んでいた私達。しかしその前に現れたのは黒装に身体のあちこちを覆われた、私達にとってとても馴染み深いポケモンであった。

 

 

 

「マホイップ……!」

「クルルゥゥ!!」

 自分達のリーダーが瘴気による被害を受けていることに驚くドラミドロ達。そんな仲間達にマホイップは攻撃を仕掛けようとするが……。

 

「ク……ルルル……グッ」

 彼女は『マジカルシャイン』の発動を寸での所で止め、苦しそうに体を震わせた。まさか"瘴気を誰かに押し付けたい"という望みを必死に押さえ付け、瘴気の苦しみに耐えているのだろうか。アノホラグサの言っていたミントの香りも、彼女が薄れる意識の中で残した物なのでは……『ナイトスター』の仲間に自分を止めて欲しくて……。

 

 

 

「……っ、みんな、マホイップ、救助しよう……!」

「ええ。彼女が必死に抗っているのを見ているだけなんて出来ないわ」

「待ってて、マホイップ!」

 そんなリーダーをまっすぐ見据えて、『ナイトスター』のメンバー達は身構えた!

 

「我々も援護を……」

「待つでござる。新たな敵の気配が」

 共に戦おうとするルカリオを止め、ゲッコウガが背後へ振り向く。遺跡群の陰から現れるのは二つの影。

 

 

「あなた方がここまで侵入している事に、私はとても驚いています。ですがルーアとまた会えたことは不幸中の幸いだと喜んでいます」

「……!」

 一度取り逃した標的の私を見つめて言うのはハリテヤマ……の体を奪ったテツノカイナだ。私達のようにテツノカイナもこの奥地まで降りて来たのであろう。マリルは自分の仲間であるハリテヤマと似て非なる存在を見て表情を険しくする。

 

 更にその後ろにはもう一匹、黒いポケモンがいた。

 

「……ッ、ぐ、うぅ……!」

「ゾロアーク……!」

 肩で息をしているのは『ウィンターキャッスル』にて私を捕まえようと暗躍していた、『レジアイスのギルド』職員のポケモン。しかし彼は苦痛に満ちた表情で、立っているのさえ辛そうだ。

 

「さあ今こそルーアに協力を促すため、あなたの強力な力を発揮する時です。妨害行為に走るポケモン達を破り勝利を収めるのです。そうすれば必ずあなたの望みは叶うでしょう」

「……グアァァア!」

 テツノカイナに指示されたゾロアークは獣のような咆哮を上げ、『かげぶんしん』を発動! 『ウィンターキャッスル』の時と同様に大量の偽物が展開される。本物を攻撃しなければダメージは与えられないのだが、どれがそれなのかが分からず私は焦りながら幽鬼の如く近付いて来るゾロアーク達を見渡した。

 

 

「……『はどうだん』!」

「ガアッ!?」

 

 しかし平静を崩さないルカリオは片手で波動のエネルギー弾を一匹のゾロアーク目掛け迷いなく発射! 青色に輝く弾は高速回転しつつゾロアークへ炸裂すると、それ以外のゾロアークが煙と化して消滅。

 

「残念だが、私に小手先の策は通じないぞ」

「……ぐっ!」

 吹き飛ばされ地面に墜落するゾロアークを見下ろし、ルカリオが瞳を発光させる。そう言えば元の世界でルカリオという種族は波動の流れを読み自在に操る力を持つと聞いたことがある……それ故に本物と偽物の区別をつける事は朝飯前なのだろう。

 

 

「っ!」

「させぬでござるよ!」

 ルカリオ達に気を取られていた私だが、咄嗟に視線を向けるとそこではテツノカイナをゲッコウガが攻撃している光景が見えた。地面には『しばりだま』が転がっており、いち早くテツノカイナが道具でサポートしようとしているのに気付いて阻止に走ったのか。

 

「……」

 その場から動かずにテツノカイナを睨みつけるのはマリルだ。あの体は本来ハリテヤマの物……どうにかして仲間の体を取り返したいと思っているのだろうか。

 

 

「外の雪山でドータクンが言ってた。メガシンカの力を使えばパラドックスに体を奪われたポケモンを黒装から解放して体も元通りになるって」

「!」

 そこでイヴから希望を伝えられ、マリルはハッとなった様子で辺りに視線を動かし始める。もしかしたらどこかにテツノカイナの体を押し付けられ苦しんでいるハリテヤマがいるのかもしれない……そんな期待を籠めながら。

 

「ここは任せて。確かルカリオが『かくせいのタネ』を持ってた筈だから、ハリテヤマを見つけて運んで来れば元に戻せるかも」

「……!」

 イヴに言われたマリルは戦闘が巻き起こっている場から離れても良いのか一瞬迷っていたが、それでも自分達がここへ来た当初の目的を果たすため遺跡の先へと駆けて行った。

 

 

「ううーっ!」

「え!?」

 その時、私達のすぐ傍に燃え上がる丸い物が呻きながら転がって来る。その丸い物は『こうそくスピン』で炎を消し飛ばし姿を露わにする。

 

「アノホラグサ……!」

「マホイップ、やっぱり瘴気の影響で、強くなってる……!」

 『マジカルフレイム』を食らったのであろう彼女は苦し気にマホイップを見つめる。そこではドラミドロが『ヘドロばくだん』を『ひかりのかべ』で防がれている姿が。ドラミドロと同様にとくしゅ技を主体で戦うチルタリスも攻めあぐねている様子だ。マホイップは特性『スイートベール』を持つため『うたう』での妨害も出来ないのだろう。

 それでもアノホラグサは自分の仲間を救う為には諦めないとばかりに『ゴーストダイブ』で影の中に消える。

 

「……っ」

 そして私は体内の苦痛に苛まされながらも、マホイップをしっかり視線に収める。

 

 

 

 『スプリングタウン』で出会った彼女とは、当初はギクシャクした関係が続いていたが長らく共に様々な経験を経て信頼関係を築いて来たのだ。そんなマホイップに救われた事は一度や二度ではない……彼女は私にとって本当に頼りになる存在だ。

 そんなマホイップが瘴気で苦しんでいるのなら……どうにかして救いたい!

 

 

 

「う……うああっ!」

 苦痛に耐えながら私はランドセルに念じて『しばりのえだ』を振るう。光弾はマホイップ目掛けて飛んでいくが、彼女は澱んだ目を素早く向けると姿勢を低くし回避してしまった。

 

「えいっ……あう!?」

 その隙に影から飛び出たアノホラグサが黒装のラインを狙って突撃するが、マホイップは姿勢を低くしたまま黒色の『マジカルシャイン』を自分の周囲に弾けさせて返り討ちにする。

 

 しかし。

 

「諦めないわよ!」

 ドラミドロは『たつまき』を繰り出してマホイップを激しい風で包み込む。フェアリータイプのマホイップには通用していないが、彼女はすぐさま視線を上げた。

 

「っ!」

 特性『かぜのり』で浮き上がっていたアノホラグサはマホイップに見つかったのを察すると、咄嗟に『こうそくスピン』で竜巻の中から離脱し直後に彼女がいた場所を『マジカルフレイム』が飛んでいく。

 ドラミドロとアノホラグサが得意とするレンケイはマホイップにとっては見慣れた行動なのだ。しかしそんなマホイップの背後から迫るのは……。

 

「『みわくのボイス』ッ!」

「クルッ!?」

 『ひかりのかべ』が展開されていないマホイップの背中側から襲い掛かる音波攻撃。そうだ、今の『ナイトスター』にはチルタリスもいるのだ。仲間が気を引きつけてくれたお陰で彼女が命中に成功した『みわくのボイス』はしっかりと紫に発光するラインを捉えており、マホイップの下半身を覆っていた黒装が剥がれ落ちる。

 

「うう、う……みなさん……クルルゥッ!」

「マホイップ……っ」

 それによりマホイップは一瞬自我を取り戻しかけるが、すぐにまた瞳が濁り歪んだ鳴き声を上げた。

 

 

 

 そして続けざまにマホイップを包み込むように宝石の柱が出現し、宝石柱が砕け散ると共に現れるのはテラスタルしたマホイップ!

 

 彼女の頭上には氷の結晶のような形状をした巨大な宝石が輝いており、まるで凍てつく冷気が迸ってくるようだ。

 

「クククルルゥゥゥゥ!!!」

 マホイップは叫びながら『マジカルシャイン』を周囲に炸裂させる。チルタリス達は既に攻撃範囲外に逃れて激しい光を回避する……が。

 

「うわあっ!?」

 なんと『マジカルシャイン』の光から解き放たれるが如く無数の氷塊が飛び散り『ナイトスター』に襲い掛かった。苦手な冷気攻撃に悲鳴を上げる彼女らだが、すぐに体勢を立て直してテラスタルで強化されたマホイップを凝視。

 

「『ヘドロばくだん』っ!」

「クルルゥ!!」

 激しい暴走を見せるマホイップを止めるためにドラミドロが毒の塊を発射するが、マホイップは氷か宝石かのように煌めく黒い『ひかりのかべ』でそれを防御。同時に『ひかりのかべ』の一部が砕けたかと思うと鋭い氷刃と化してドラミドロの下へ一直線に飛来した!

 

「危ないっ!」

「……!」

 しかしそれを『こうそくスピン』で弾き飛ばすのはアノホラグサだ。その活躍でドラミドロはダメージを受けずに済むが……。

 

「ううっ……」

「アノホラグサ……なんて無茶を!」

 流石に鋭い氷刃を回転力だけで無効化するのは難しかったのか、アノホラグサの枝のあちこちに切り傷がつけられてしまっていた。

 

「これで治療する……!」

 そこへ駆けつけるのは『すごいキズぐすり』を持ったイヴ。『未踏摩天楼』で見つけたであろうスプレーでアノホラグサを回復しようとするが、マホイップは彼女らの方を向いておりいつでも妨害できる状態だ。

 

 なんとかしなくてはと私は歯軋りするが、道具を使った妨害は先程と同様に避けられてしまうだろう。ならばこちら側を強化する道具が無いかと思うが、生憎『しゅんそくだま』などの道具はランドセルに残っていない。使えそうなものといえば……。

 

(あっ……)

 そこで私はある一つの道具の存在を思い出してランドセルからそれを取り出す。

 

 それは小型の箱。チャオブー達と別れる時に受け取ったこの箱の中にはポケモンのダイマックスを促す『ねがいのかたまり』が入っているという話だ。

 

 目の前にいるテラスタルしたマホイップに対抗するにはこの道具を使うべき。

 

「……っ」

 しかし一抹の不安が脳裏をよぎる。この道具を使って仲間のポケモンをダイマックスさせたとしても、その後に待っているのは……。

 

「ルルルゥ……」

 だが悩んでいてもマホイップは待ってはくれない。『マジカルシャイン』でイヴ達を吹き飛ばそうと手のひらを向けている……迷っていられない!

 

 

 

「……ドラミドロっ!!」

「えっ!?」

 私は呼びかけると同時に箱から取り出した『ねがいのかたまり』をランドセルの力で飛ばした!

 

 

 

 赤紫色の光に包まれたドラミドロは『ねがいのかたまり』のエネルギーで一気に巨大化……ダイマックスを果たす!

 

 

 

「これは『銀杏山脈』でマホイップ達が見せたダイマックス……!?」

 ドラミドロは自分が巨大化したことに一瞬戸惑うが、すぐに冷静さを取り戻すと眼下で宝石や氷の如く煌めくマホイップを見下ろした。

 

「クルルクルゥ!!」

「……あたくしに任せる、という事ね。分かったわルーア!」

 マホイップは良く目立つドラミドロ目掛けて炎と氷を纏った黒色の『マジカルフレイム』を発射するが、同時にドラミドロは『ねっとう』……否、『ダイストリーム』を巨大な口から発射!

 

「ルルゥ!?」

 炎を消火しながら迫る強烈な水流に巻き込まれるマホイップ。その勢いは周囲にも伝搬し、火山内であるというのに激しい雨が降り始める。やはりダイマックスの力は非常に強力なのだ。

 

「ルルゥ!」

「くっ!」

 しかし水流に揉まれながらもマホイップは『マジカルシャイン』を発動し、フェアリーとこおりの力が混じった光でドラミドロを攻撃。ダイマックスがいくら強力といえど、だからといってテラスタルがそれに劣るという訳ではないという証左だろう。その上今のマホイップは瘴気で苦しみながらも同時に強化もされているのだ。

 

「る……くる……ルゥゥ!」

 水流が収まった後、遺跡の建物に手を突きながら身を起こすマホイップの表情はとても苦しそうな物だった。瘴気の影響でずっと暴れ続けているが、本来なら彼女の限界はとうに迎えているのだろう。それなのに黒装による無理矢理な強化のせいで倒れる事も出来ず……。

 

 

 

「……マホイップ、絶対に止める」

「え?」

 イヴの治療を受けていた筈のアノホラグサはそれを途中でやめさせて、自分達のリーダーの下へ近づいて行く。

 

「うぐぐ……何する、つもり?」

「『世界の狭間』、ついていけなくなるけど……応援してる」

 私は苦痛に耐えながら必死に問いかけるが、彼女は穏やかな微笑みをこちらに向けてそんな事を言う。

 

(ついて来れなくなるって……どういうこと!?)

 私は彼女の言葉に嫌な予感を覚えるが、呼び止める前にアノホラグサはマホイップの前に立っていた。

 

 

 

「……マホイップ。使う事止められてた技、今ここでやるよ。マホイップやドラミドロ達と一緒にいるために」

 

「まさか! それはダメよアノホラグサ!」

「全部終わったら。またグミやマホイップのクリームでパーティしよう?」

 ドラミドロが形相を変えて止めようと叫ぶが、逆にアノホラグサは笑顔を彼女に向けて無邪気に言う。そして今にも『マジカルフレイム』を放とうとしていたマホイップを凝視して、体からおどろおどろしいゴーストエネルギーを噴出し始める。

 

 

 

 

 

「『のろい』」

 

 

 

 体の限界を越えてゴーストエネルギーを放出したアノホラグサは生気を失ったように……まるでただの枯れた植物のように動かなくなった。

 

 そして。

 

「……グ、グ、ウゥゥ!?」

 突然苦しみ出すのはマホイップ。彼女は元々青白い顔面を更に蒼白にし頭を押さえて震え始める。

 

 アノホラグサが自分の生命力を犠牲に放った技……『のろい』を受けて一気に体力を削られ始めたのだ。その勢いは毒や猛毒の比ではなく、先程まで暴走していたのが嘘のようにマホイップは技すら使えなくなっていた。

 

「……っ、アノホラグサの勇気、無駄にはしないよ!!」

 涙目になりながらもチルタリスは絶好のチャンスを逃さず『みわくのボイス』を放つ。その音の波動はマホイップの頭上に浮かぶ宝石を打ち砕き、彼女のテラスタルを解除させた!

 

「ル、ル……ッ!」

 それでもマホイップは倒れることなく、ドラミドロ目掛けて得意の技を繰り出した!

 

 

 

 『デコレーション』を。

 

 

 

「……っ、マホイップ……!」

 驚愕で目を見開くドラミドロがアメざいくやクリームなどで彩られ、一気に強化される。

 

「……お願い、しますわ。私を……クルルゥ……止め……!」

 ポケモン達は凶暴化の時でさえ正気を保つのは難しいというのに、彼女はなんと瘴気による暴走を抑え付けて仲間であるドラミドロに『デコレーション』を使ったのだ。きっとチルタリスの力でテラスタルが解け、アノホラグサの覚悟を正面から受け止めた事で、一時的にでも苦痛を乗り越えたのだ。

 

「……」

 激しい雨が降る中、ドラミドロはマホイップの願いを聞くと静かに目を閉じ、頷いた。

 

 

 

「はああああああっっ!!!」

 ドラミドロが叫ぶと同時に、マホイップの足元から毒々しい液体が毒沼の如く湧き始める。

 

 そして『ダイアシッド』の力で毒液が間欠泉のように噴き上がり、残りの黒装を剥がされたマホイップは安らかな表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 気を失った状態で落下して来るマホイップを空中で受け止めるチルタリス。ダンジョンの影響下で高所を飛ぶのはかなり辛い筈だが、彼女は仲間達の覚悟に応えたいかのように旋回しながらゆっくりと着陸する。

 

「っ……!?」

 それと同時に遺跡の壁へ激突するのはテツノカイナだ。本来の自分より幾分弱いハリテヤマの体を奪ったことが仇となり、ゲッコウガによる連続攻撃に対応が出来なかったのだろう。

 

「……ウっ」

「その不退の意志は賞賛したいものだ。何故そこまでしてパラドックス達の味方をするんだ?」

 ゾロアークもルカリオに追い詰められ、荒く息をしている。しかし普段から瘴気を浴び続けていた影響で、質問に答える余裕は残っていないようだ。

 

「!」

「……」

 『L・G・P』の様子を見下ろしていたドラミドロだが、ダイマックスの効果時間が終わり光に包まれながら元のサイズに戻った。そして彼女の周りに漂っていた赤色の粒子は今度は私の下へ集って来る……。

 

 

 

 私は、マホイップのように耐えられるだろうか?

 

 

 

 そして視界が強い光に包まれたかと思うと、次の瞬間には周囲の光景が大きく様変わりする。遺跡群は小さくなり、ダンジョンの天井も随分近くなっていた。

 今までと同じように、ポケモンをダイマックスさせた後のパワーが私へ戻って来た事で私が巨大化したのだ。

 

 私が大きくなったという事は当然、リライブの効果範囲も広がってしまうという事。

 

「!」

 チルタリスの傍で倒れていたマホイップ、そしてルカリオの前で追い詰められていたゾロアークの体が青い光で包まれる。それだけではなく、マホイップから剥離した黒装も青い光に包まれ消えていく。

 

 抜けて行ったそれらの瘴気が向かう先は……私だ。

 

 

 

「う……うぷぅ!?」

―――ダメ、もう無理!

 

 襲い来る吐き気……しかし吐き出せない。

 胸が違和感で詰まって苦しくて、頭も痛みに支配されて思考力が奪われて……!

 

 

 

(私は瘴気に屈する事しか出来ない……?)

 

 かつて、とある世界で人間とポケモンが争った果てに生まれた瘴気に心を侵され、瘴気による苦しみのまま新たな争いを生む災厄となってしまうのか。

 

 悲しみや怒り、絶望や憎悪に私は勝てないのか。

 

 

 

 脳裏に浮かぶのは『忘れられた都』で見た両親たちの幻覚。

 

(……いや)

 

 瘴気は本当に、敵なのか?

 

 瘴気が、どこへぶつける事も出来なかった数多の負の心が生んだものであるなら。

 

 

 

 瘴気の想いを知ることが出来れば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数の悲鳴が上がる。

 周囲の建物からは火の手が上がり、空は黒煙で見えなくなっていた。

 

 怒りに狂うポケモン達が町を破壊し、必死に逃げ惑うニンゲン達。

 

 ……私やスールのような人間とは異なり、逃げている人々は彩度の無い文字通り灰色の肌をしていた。

 

 呆然と立っている私には目もくれず、ポケモン達は逃げる人々を追い攻撃する。瓦礫の破片が飛び散って来るが、私の身体をすり抜けて飛んで行ってしまう。今見ているのは現実ではなく、夢か幻なのだろうか。

 

「お母さん!」

「ごめんね……あなただけでも逃げて頂戴……」

 泣きながら子供が母を呼ぶが、脚に大怪我を負って動けなくなった女性はそう返す。彼女の後ろからは数匹のポケモンが迫り鋭い爪を向けた。

 

「お母さぁぁぁん!!」

 灰色のニンゲンである子供は悲しみと絶望に塗れた絶叫を上げる。

 

 

 

 

 

 燃え上がる森、切り倒される木々。

 多くの生命を湛えていたであろう森林の姿はもはや影も形もない。

 

 復讐に駆られる灰色のニンゲン達が森を蹂躙し、悲鳴を上げながら逃げる無数のポケモン。

 

 私が呼び止めても、武器を手にポケモン達を追い回すニンゲン達は止まらない。これはあくまで過去に起こった事であり、私では何の影響も与えられないのか。

 

「グルルルル……!!」

 住処や仲間を奪われたであろう一匹のポケモンが現れ、迫り来るニンゲン達を食い止めようと立ち塞がる。しかしその瞳には仲間を守るという意思よりも、もっと強い感情が燃え上がっていた。

 

「ギシャァァァアアアア!!!」

 決して鎮まる事はない怒りと憎悪を滾らせてポケモンはニンゲン目掛けて疾駆する。

 

 

 

 

 

 草木が見当たらず、あまりにも寂しい荒野の中心。

 そこで倒れているニンゲン。それを見下ろすポケモン。

 

「……」

 長きにわたる戦いに勝ったポケモンは争いの芽を摘まんと技を放とうとする。その顔に喜びなどは無く、虚しさが見え隠れしていた。

「……」

 抵抗する力も残っていないニンゲンは光の無い瞳でポケモンを見上げる。悲しみや涙はもう枯れたのか、その顔からは諦めの感情が漂っていた。

 

 その場から動けないまま、光景をただ眺めていた私。

 

 

 

 

 

 そして争いは終わり。

 

 あまりにも世界に蓄積しすぎた負の心が遂に災厄……瘴気へと変貌し、ポケモン達へと襲い掛かるのであった。

 

 まるで恨みを晴らすかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(悲しい、な)

 

 瘴気と化した負の心は、恨みを晴らしたことで癒されたのだろうか。

 

 ……その答えはいまだに瘴気が『世界の狭間』に溢れているという事実から、明白だろう。

 

 

 

 ならば瘴気は……幸せを得たいだけなのでは。

 

 悲しみや怒りを、嬉しい気持ちで中和して欲しいだけなのでは。

 

 

 

(……この世界のポケモン達は頑張ってる。『歪みの穴』現象であちこちがダンジョン化して、仲間が凶暴化しても希望を捨てずに。そして遂に『リライブホール』を作り上げたんだ、あなた達の辛い気持ちを浄化出来るように)

 

 私は胸の内に溜まった違和感に呼びかける。"私を苦しめてくる嫌なもの"として抑え付けるのではなく、"悲しさや怒りに喘いでいるだけの存在"に返事して貰えるように。

 

 

 

(……だから、希望を捨てないで! 時間はかかるかもしれないけど、あなた達もいつか必ず救って貰えるから!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 私の視界が再び光に包まれる。そして身体が締め付けられるような感覚が生まれては消えていき、光が止むと私のダイマックスは解除されていた。

 私の足元に転がっているのは『ねがいのかたまり』……しかしまるで黒装に覆われているかのように真っ黒であり、赤色の粒子も出ていない。ダイマックスの力を完全に抑え込んでいるようで私の手錠も特に反応していなかった。

 

「ルーア、大丈夫なの?」

「……ありがとイヴ」

 恐る恐る歩み寄って来るイヴに軽く頷いた私はランドセルを背負い直すと、落ちていた黒き力に覆われた『ねがいのかたまり』に念じてしまいこむ。

 

 この黒い力は瘴気によるもの。

 

 かつて私が『スプリングタウン』で暴走していた時に発動した、悪いダンジョンエネルギーを使って道具を強化する術だ。

 

 私は……ただ自分に苦痛を与えてくるばかりだった瘴気を……遂に自分の意志で制御できるようになったのだ。

 

 

 

「……パパ!」

 一つ深呼吸をすると同時に、どこかから幼い声が聞こえてくる。視線を向けると、そこには黒装に覆われたテツノカイナ……ではなくハリテヤマを持ち上げたマリルが。そしてその後ろには黒い毛並みを持つ、どこかゾロアークと似た雰囲気を持つポケモンがいた。

 

「……ゾロア?」

 体内の瘴気をリライブされたゾロアークは呆然とした様子で彼女に顔を向ける。まさかあのゾロアはゾロアークの娘なのだろうか。

 

「それは推奨されない行為です……」

 テツノカイナはマリルを睨みつけると、ハリテヤマやゾロアを奪い取ろうと『つっぱり』で突撃!

 

「させまセーン!!」

 しかし、舌を使った『パワーウィップ』でテツノカイナを殴り倒すのはベロリンガであった。遺跡の入口に止むを得ず放置していた彼女であるが、先程私がダイマックスしたときにリライブされたようだ。

 

「ゴマゾウ! 平気か!?」

「っ、イーブイ……!」

 ベロリンガに続いてイーブイが現れパートナーの下へ駆け寄っていく。ドンファンに進化させられているゴマゾウは、迷わずまっすぐ自分の所へ来た相棒に言葉を詰まらせた。

 

「ルカリオ! メガシンカでござる!」

「分かった!」

 ゲッコウガに頷いたルカリオは『かくせいのタネ』を食べてメガルカリオに変化すると、マリルが降ろしたハリテヤマ目掛けて『コメットパンチ』を繰り出す!

 その強烈な一撃でハリテヤマを覆っていた黒装にヒビが入り、そして一気に剥離した。

 

「!!」

 そしてハリテヤマの体を持つ存在が起き上がり、困惑した様子で周囲の光景やすぐ傍にいるベロリンガを見つめる。同時に黒装から解放されたテツノカイナの体を持つ存在が自らの手や体を見下ろして困惑しながらも、すぐにマリルを見て敵意を向けた。

 

 テラキオン達の時と同様に、ハリテヤマとテツノカイナの魂が元の体へ戻ったのだ!

 

「アナタ方が行ったことは、とても看過が出来ない物であり相応の対処を……ッ!?」

「やらせるかっ!」

 テツノカイナは胴体から分離した手に電撃を纏わせてマリルに対し『かみなりパンチ』を撃とうとするが、メガシンカしたままのルカリオからゼロ距離『はどうだん』を受けて吹っ飛んでいく。

 

「パパーッ!」

「……っ」

 その間にゾロアが父親の胸の内に飛び込むが、当のゾロアークはゾロアを抱きしめようとしてピタリとその動きを止める。その表情はまるで自らの罪過を悔いているかのようである。

 

 

 

「……やっと分かったよ。キミがパラドックスに手を貸していた理由が」

 ベロリンガ達が来た方向から声が聞こえて振り返ると、そこにはなんと……!

 

「インテレオン……!?」

 ずっと探していた彼がゾロアークを見つめて立っていた。更にインテレオンの近くには『ゆけゆけズ』やスールにオーマ、ドータクンもいる。彼も仲間と合流しながら『双獄の嶽』奥地のこの遺跡群に辿り着いたのだ。

 

「そのゾロアをパラドックス達にポケ質にされて、従わざるを得なかった……という訳だね?」

「……!」

 インテレオンに図星を突かれたゾロアークは観念したように目を閉じ項垂れる。

 

「待って、パパは私を救う為に……。悪いのは捕まった私で……」

「いや、これは全て私の罪だ」

 父親を擁護しようとするゾロアだが、ゾロアークは彼女を優しく撫でると周りの救助隊ポケモン達を見渡す。

 

 

「ええ、その通りです。私は自分の娘一匹のために、パラドックス達に助力し罪の無い皆様方を危害に晒したのです」

 ゾロアークはそう言って、実際に自分が誘拐したデリバードやウルガモスを見つめた。

 

 

「謝って許されることではありませんが、大変申し訳ございませんでした。どのような裁きでも受け入れるつもりです」

 そして彼は頭を下げて誠実に謝罪をするのであった。本当は身内のためにポケモン達を売るような行為など、したくなかったのだろう。それでも大切な娘のために、ゾロアークはその選択を取ってしまったのだ。

 

 

 

「どんな罰が下るかはレジアイスの判断次第でちゅ。それより今は……」

 インテレオン達と共に来たのであろうピカチュウがゲッコウガの隣に着地し、ある方向へ視線を向ける。

 

 

 

「ワタシは警告します。瘴気で苦しむ仲間達を救う為の活動を妨害する行為は、断じて許される事ではないと」

 激昂した様子で告げるのはテツノカイナだ。突如胴体と分離している手を飛ばして建物の壁を貫いたかと思うと道具が入った袋を引っ張り出してくる……あらかじめ道具を備えていたのかと驚く間にテツノカイナは一つのふしぎだまを掲げた!

 

「ガアアアッッッ!!」

「ググググッ……!!」

 すると白い光が周囲で弾け、その中からポケモン達が現れる。ミガルーサやクイタラン、エンニュートを始めとしたポケモン達はいずれも体のあちこちを黒装で蝕まれており、今すぐにでも暴れ出しそうだ。怒りながらも現状を冷静に分析したテツノカイナが、多勢に無勢を切り返すため『ハウスのたま』を使って呼び寄せたのか。

 

「バナァァァァァ!!!」

 更にその中にいたフシギバナが突如激しい光に包まれ、メガフシギバナへとメガシンカを果たす。『かくせいのタネ』ではなく瘴気の力による変化らしく、彼はとても苦しそうに呼吸していた。他にもメガヘルガーやメガヤミラミもおり、この場が今まで以上に激しい戦場と化すことは容易に想像できる。

 

 そしてテツノカイナ自身も『もうげきのタネ』や『しゅんそくのタネ』、更には『しあわせのタネ』を使用すると、急激なパワーアップを遂げて一歩一歩近づいて来る。自分の本来の体が黒装から解き放たれて尚、まだ苦しんでいるパラドックスの仲間達のために信念を曲げるつもりは無いようだ。

 

 

「……インテレオンさん、皆さん。奥へ行って下さいまし」

 黒装及び凶暴化から戻ったマホイップは今も起き上がれないまま、ここは任せろと言って来る。『ウィンターキャッスル』にてテツノイワオから逃すためと似た光景に私は一瞬躊躇うが、今回はドラミドロ達がいる。

 

「マホイップ……ありがとう。行ってくる」

「はい、インテレオンさん」

 『世界の狭間』で苦しむルナアーラ達を救出する役目を果たすため、インテレオンはマホイップを信じて歩き始める。それを愛おしそうに見送ってマホイップは目を閉じた。

 

「オーマ。ルーア達の事、任せていい?」

「分かりました」

 イヴがこの場に残って『ナイトスター』や『L・G・P』の援護を行う事を察したオーマはスールと共にインテレオンの後を追う。

 

「『ゆけゆけズ』殿。お主達が『歪みの穴』現象を解決するのを待っているでござるよ」

「ああ……ってうお!?」

 ゲッコウガの激励に応じていたヒバニーの下へ投げつけられるのは一つの旗だ。

 

「これは……『まどわずフラッグ』!?」

「ああ、ここより瘴気が深い場所へ向かうお前達に託そう」

「こっちは心配せず行って来いでちゅよー! そして元気で帰って来るでちゅ!」

「ありがとう、頼んだわよ!」

 『L・G・P』からの期待を胸に、『ゆけゆけズ』もまたドータクンを連れて遺跡の奥を目指して行った。

 

 

「……ルーア、本当は『世界の狭間』まで同行したかったけどここまでみたいだわ」

 そう伝えてくるのはドラミドロだ。無茶をし過ぎたアノホラグサとマホイップ、それに一般のポケモンであるデリバード達を守るために、ここから動くわけにはいかないのだろう。

 

「マホイップを元に戻すために協力してくれて本当にありがとね! ボク達、ルーアの事応援してるよ!」

「……うん、ありがとう!」

 そしてチルタリスの応援に私は笑顔で頷いて、テツノカイナおよび黒装に蝕まれたポケモン達との戦闘が起こる場を背に駆けていくのであった。

 

 

 

 ルナアーラ達がいる『世界の狭間』まで、あと少しだ。

 




 来週で完結となります。
 投稿スケジュールは以下の予定です。

 10/10(金):Chapter Final
 10/11(土):Epilogue
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