『白夜の塔』にて、ルナアーラとソルガレオを救った私達。正気に戻ったルナアーラ達は巨大な『ウルトラホール』を塞ぐため……そしてポケモンの世界の弱まっていた境界を修復するためライコと共に『世界の狭間』へ残ると言った。
そして私達は一つの宝石を持って、マホイップ達が待つ世界へ帰るのであった。
そして……あれから、どれだけの月日が流れただろうか。
暖かい春風に乗り、青空へ舞い上がる桜。
その眼下……『スプリングタウン』の大通りを沢山のポケモン達が行き交っている。
「はいはーい、オレンジャムマラサダ3つですね、どうぞ!」
「新種のきのみ、『マトマのみ』が遂に入荷したわよ! 癖になる辛さ、ぜひお試しあれ!」
「闘技場、本日の目玉は『アースアーム』と『パピルピ』のチームマッチ! 夕方開催なので、今のうちにチケットを買って行ってね!」
「『プラスル&マイナンのマッサージ店』、今日は二割引で受けられちゃいますよ〜♪」
「『ガルーラのカフェ』で一休みしよっか」
「急げ急げ、グミが売り切れちゃう!」
「おや、旅の方? もし宿を探してるなら『ミミッキュの宿』があっちに……」
賑やかな声があちこちから聞こえてくる中、私は『彼』を背にして足を進める。
「おやおや、おはようルーア」
「今日も頑張ってんな!」
「あ、おはよう」
声をかけてくるのは本屋の開店準備をしているヤレユータンとヤナップだった。二匹とも元気そうであり何よりだ。
「お出かけかい?」
「うん。ファイヤーに呼ばれてて」
「そっかー。もしヒバ兄ちゃん達に会ったらよろしく言っといてくれよ!」
手を振るヤレユータン達に頷いてから私はまた大通りを進み始める。『彼』と共に向かう先は町の中央にそびえる巨大な桜の木……『ファイヤーのギルド』だ。
スロープを上がり、『救助隊スペース』を訪れると早速一匹のポケモンが転がってくる。
「やっほルーア、こっちこっち」
朗らかに挨拶してきたアノホラグサは私を連れてテーブル席に向かう。
「おはよう! とってもいい天気だね!」
「これからの発表のこともあるし、良い日になりそうだわ」
席についていたチルタリスとドラミドロも私に笑顔を向けてくる。私も彼女らに同意しつつ木の椅子に腰掛けた。周りの席でも『スピアーズ』や『ヨアソビ』などの、『スプリングタウン』で活動する救助隊ポケモン達が今か今かとソワソワしている。
「お待たせお待たせっ! 事前に話はしたけど、これからお披露目会を始めちゃうよっ!」
そして、奥から現れたのはギルド長補佐のチェリム。ギルド職員が運んできた、布を被った物体の前で彼女は笑顔でクルクル回る。
「それじゃギルド長、お願い!」
「ええ」
チェリムに呼ばれ、今度はファイヤーが現れる。普段はいつも鋭い眼光をしているファイヤーだが、流石に今日という皆が待ち望んでいた日が訪れたのが嬉しいらしく柔らかい表情をしている。
「まずはお礼を言わせて下さい。このギルドで救助隊として頑張って来たあなた達やそれを支えるギルド職員達がいたからこそ、『スプリングタウン』が守られたまま、この日を迎えられたのだと思っています。本当にありがとうございます」
ファイヤーが仲間の救助隊ポケモン達を見渡しながら述べ、この場にいるポケモン達もゆっくり頷く。
「救助隊として活動する中で苦しいこと、辛かったこと……沢山あったと思います。けれどあなた達は仲間同士で助け合いそれらを乗り越えながら救助活動を続けてきたのです。ダンジョンに迷い込んだ沢山のポケモン達を救ってきたのです……これは誇りに思っていいことでしょう」
終わりの見えない『歪みの穴』現象、増えゆく一方のダンジョンと凶暴化ポケモン。それでも救助隊ポケモン達は良い未来を掴み取るために諦めず救助活動をやってきたのだ。
「そして今この時、私達の救助活動が一変するのです。より希望に満ち満ちた未来へと!」
ファイヤーが翼を上げると共に、布を被った物体の隣に一匹のポケモンが姿を見せる。
マホイップだ。
「では、お披露目ですわ!!」
彼女が勢い良く布を引っ張ると、布の下から複雑な形状をした装置が姿を現す。中心部にある大きな台座を取り囲むように一回り小さい台座が複数あるその装置はまるで舞台のよう。
「おおっ……」
「これが『リライブホール』なんだね……!」
「うん、ようやく完成した『リライブホール二号機』だよ!」
感嘆するドロンチやボチに笑顔で答えるチェリム。私も素材集めに携わった一号機は『レジアイスのギルド』で今も絶賛稼働中であり、今目の前にあるのは『ファイヤーのギルド』に設置するため新しく作られた機体なのだ。
「これを使えば私達でも凶暴化ポケモンのリライブが出来るんですね」
「ええ、ずっと研究していた『エキサイト』や『テクスチャズ』を始めとする救助隊連盟の努力が実を結んだのです」
スピアーが感動気味に言い、ファイヤーも喜びを噛み締めるが如く頷いた。以前は私やスールの力を借りなければ元に戻せなかった凶暴化ポケモンを、彼女達でも救える時が遂に訪れたのだ。
「そういえば一号機はだいぶ前に作られたんだろ? ノウハウがあるだろうにどうして二号機は完成に時間がかかったんだ?」
「この装置には貴重な道具『こはくのなみだ』が必要ですの。一号機の時は『ロイヤルズ』が保管していたのですぐに用意出来ましたが、新しい『こはくのなみだ』はなかなか見つかりませんでしたの」
「つまり、その新しい『こはくのなみだ』を見つけてくれた存在がいるってことですね」
「はい、『ゆけゆけズ』が」
サボネアとゴビットからの質問に答えるマホイップ。
「『ゆけゆけズ』が!?」
そして『スプリングタウン』の救助隊ポケモン達が一斉に驚きの声を上げた。
「あら、そんなに驚くことかしら。彼らはもうただの新米救助隊じゃなくて既にプラチナランクに達しているのよ」
「『L・G・P』みたいに各地を旅してる。もう私達より強い、何もおかしくない」
「そりゃそうだが……あいつらがそこまで凄くなってるとはな……」
ドラミドロ達の言葉にスコルピは感心と悔しさを滲ませたように呟く。
「『夢数えの樹海』ってダンジョンで見つけたらしいんだよ。中に入ると一時的に技や能力がガタ落ちしちゃう、危険度がとんでもない場所なんだって」
「そんなダンジョンあるんだ……」
チルタリスも周りのポケモン達に補足説明を加える。その危険度故に殆ど町のポケモンが寄り付かず、『こはくのなみだ』というお宝も長らく見つからなかったのだろう。
「肝心のヒバニー達はどこだよ? あいつら、最後に帰ってきたの一ヶ月前ぐらいじゃないか?」
「『夢数えの樹海』で『こはくのなみだ』を見つけたという手紙を受け取ってから一週間経っています。手紙自体は『オータムビレッジ』から出された物ですが今はもう別の場所に移動したのでは……」
「その通りだぜ!」
サボネアの問いに答えるファイヤー……しかし、それを遮るのは久しぶりに聞く声だった。
「あっ!」
「やっほー!」
「ルーア! 久し振りね!」
振り向くと、『救助隊スペース』の入り口に三匹のポケモンが立っていた。ヒバニーもチコリータもアシマリも、プラチナランクになったがこれまでと変わらない笑顔を向けて来る。
「まあ! お帰りになるなら手紙ぐらい下さいまし!」
「あ、もしかして帰るって書き忘れちまったか? わりぃわりぃ……それよりもう『リライブホール』出来たんだな!」
頬を膨らませるマホイップに軽く謝罪しながらヒバニーは室内に鎮座する装置を見て目を輝かせた。
「『夢数えの樹海』って『オータムビレッジ』管轄地域のダンジョンだよね。『リライブホール』をここに配備して貰って良かったのかな?」
「はい、テラキオンやジャラランガ達が"自分の所は後回しにして構わない"と言っていました。それに"うちの『メロエッタ劇団』も各地を旅しながらいつか必ず『こはくのなみだ』を見つけるだろう"……とも語っていましたよ」
私は近くにやって来た存在に小声で尋ねる。その問いに答えるのは灰色の肌と紫の瞳を持つ少女……オーマだ。瘴気から生まれた彼女ら灰色のニンゲンは、これからもこの世界で暮らすつもりのようだ。
ライコの話によると、灰色のニンゲンは『世界の狭間』で漂っていた大量の瘴気が凝縮して生まれた存在らしい。少女の姿であるのも、ほぼ全裸だったりするのも『瘴気の狭間』で漂っていた私やスールと触れ合い続けた影響とのことだ。そしてポケモンを取り込んで守る能力も、ポケモンを保護するポケモントレーナーの意志が影響したのかもしれないとライコは予想していた。
瘴気自体はとある世界でポケモンに滅ぼされた人間達の恨みや絶望から発生したモノだが、それはオーマ達自身には関係がない事……彼女たち自身が望むように人生を送るのが一番だろう。
現にオーマは今、『ゆけゆけズ』のメンバーとしてヒバニー達と共にこの大陸のあちこちを回っているのだ。
「『サマーリゾート』にいるトワはどうだった?」
「元気そうにしていましたよ。物資を集めにダンジョンへ向かうポケモン達の護衛をしているようです」
「あっ、『サマーリゾート』といえばアシマリがようやく『ポケモンコンテスト』で予選突破したのよ!」
「テールナーがチャオブーとの救助の合間を縫って、色々教えてくれたお陰かも。オオタチちゃんに負けて本戦は二位だったけど嬉しかったのは事実だし、これからも救助の合間で少しずつ魅力も上げていくよ!」
続けてオーマに質問しているとチコリータとアシマリがワイワイと話に参加してくる。救助活動だけでなく、アシマリのアイドルになりたいという夢も変わらず追っているようだ。
「『カプ・コケコのギルド』にもまだ『リライブホール』は配備されてないんだよな?」
「そうですわ。どうもランクルスが小型化した『リライブホール』を作れないか『テクスチャズ』と協力しながら研究を続けているようですの。イルカマン達だけでなく『ロイヤルズ』やマナフィ達も研究の素材集めに時折付き合っているとか」
「今の『リライブホール』は凶暴化ポケモンを町まで連れて帰ってリライブするのが仕様だからねー。『ウィンターキャッスル』では体が大きい『グランアイス』が引っ張りだこなんだって」
「ゾロアークやテツノツツミ達も迷惑を掛けた贖罪としてレジアイスの下で頑張っているみたいよ。凶暴化ポケモンが少しずつ減っているお陰で『ウィンターキャッスル』のポケモンがダンジョンで襲われる件数は下がっているらしいわ」
ヒバニーや『ナイトスター』も世間話に花を咲かせている。ルナアーラ達のお陰で新しい『歪みの穴』が発生しなくなり、こうしてポケモンたちの手でリライブが出来る環境も整いつつあるが故に良い話題は尽きない様子だ。
(……聞こえてる? あなたが守りたかった世界の皆は、とっても幸せそうにしてるよ)
そして、私はランドセルの中の『彼』に心中で語りかけた。
「んじゃ、そろそろお披露目会はお開き! 今日もハッピーハッピーな一日になりますように!」
チェリムが桜の花びらを散らしながら言い、集まっていた救助隊ポケモン達が次々と『救助隊スペース』から出て行く。『リライブホール』が配備された事でいずれも嬉しそうに談笑していた。
「……さて」
『ナイトスター』や『ゆけゆけズ』、そして私以外が退出したのを見計らったようにファイヤーが切り出す。
「ルーア、『モンスターボール』は持ってきていますか?」
「……!」
ファイヤーの問いに私はドキンとしながらも、ゆっくりと頷いた。
「……」
「……インテレオン、戻せるか試す?」
「はい」
何も言わないマホイップの代わりにアノホラグサが確認するとファイヤーは肯定。
「『世界の狭間』から帰った後、既に一度『リライブホール一号機』でインテレオンを戻せないか試した事は聞いています。ですが私は諦めたくありません」
「ええ、あたしも同じよ! ルーア、お願いしてもいいかしら」
「……うん、分かった」
チコリータに応じた私はランドセルを振るいながら念じる。
そして飛び出た『彼』……黒色の宝石が『リライブホール』の中心の台座に置かれた。
半透明の宝石の中には目を閉じて動かない、小さなインテレオンの姿がある。安らかに眠っているように見えるが、大量の瘴気と共に宝石……『モンスターボール』の中に封じ込められているのだ。
「……インテレオンさん」
マホイップは彼の名を呼びながらも、我先にと小さな台座の上に上がった。私やこの世界のため、犠牲になる選択をしたインテレオンを救いたい気持ちが強いことの証左かもしれない。
「ボク達もやろう!」
「ええ。インテレオンがいなくて辛いのはマホイップ達だけではないって事を伝えないと」
「……早く起きて」
そしてマホイップに続いて『ナイトスター』のメンバー達も宝石が乗った台座を囲むように、小さな台座の上に乗る。
緑色の淡い光が『ナイトスター』……更に宝石から放たれ始める。『リライブホール』の台座同士を繋ぐラインも同様に光り始め、瘴気を浄化するエネルギーが増幅された事を物語っていた。
しかし。
「うぐぐっ」
「ごめん……休憩っ……」
小一時間経過しても瘴気があまりにも多すぎ、あっと言う間に疲労困憊になったアノホラグサ達が脱落していく。精神集中して浄化したい相手に心の中で呼び掛け続ける必要があるのだが、それだけにポケモン達への負担も軽いものではないのだ。
「…………」
「マホイップ……無理だけはしないで頂戴」
続いて台座から降りざるを得なくなったドラミドロが心配げに、今もリライブを続けるマホイップを見上げる。
「じゃあ、次はアシマリちゃん達の番!」
「おーいインテレオン! 聞こえるかー!」
「心の中で呼ぶのよ!?」
そんなマホイップをサポートするように、次は『ゆけゆけズ』が台座の上に登ってリライブを開始。薄くなっていた緑色の光が再び強まり、宝石の中に封じられた瘴気は確実に減っていく……!
だが、それでも……。
「あううっ」
「大丈夫ですか!?」
暫く頑張っていた『ゆけゆけズ』だが、プラチナランクとなった彼らでも耐え切るのは難しかったようだ。オーマの手で彼らも『リライブホール』から降ろされていった。
「……はあっ、はあっ……!」
「わわっ、降ろさなきゃ!」
遂にマホイップも倒れ伏し、チルタリスが慌てて彼女を引きずり降ろした。やせ我慢していたのか、マホイップの顔には汗が滲んでいる……。
「……ドータクンも『レジアイスのギルド』に幾度も足を運び『リライブホール』でディンルーを戻そうと、今も四苦八苦しているのとレジアイスから聞いています。残念ですが一朝一夕で戻せる訳ではないようですね」
ファイヤーが俯いて言うと、この場にいるポケモン達も暫し暗い顔になる……が。
「いつか必ず、インテレオンは解放できる筈だよ。さっき皆が頑張ってくれた分、瘴気は減ったし……それにインテレオンだって戻る事を望んでるもん」
「!」
私は顔を上げるマホイップと目を合わせてから、自分もまた台座の上に登る。しかし緑色の光は放たれない……。
「……っ」
それはそうだ。私の体内にあった瘴気をインテレオンに吸い取られて以降、私はリライブの力を失っているのだから。
きっと、あの力はルナアーラに影響を受けて得たもので不安定だったが故に、一気に瘴気が抜けていった勢いで霧散してしまったのだろう。
……故に、私自身ではもう何も出来なくなったのだ。
だけど。
「……だからお願い。本当は私もインテレオンをリライブしたいけど出来ないから……インテレオンを元に戻すためにこれからも皆の力を貸して欲しいの。少しずつでいいから……」
私は一人ではない。
「なんだよ、水臭いぞ!」
「そうよ! あたし達だってインテレオンを戻したいんだから!」
「友達なんだからもっと気楽に頼ってよっ!」
「むしろこちらから手を出させて欲しいぐらいです」
頼もしい仲間がいる。
「……ルーアの想い、きっとインテレオンに伝わってる」
「ええ。あたくし達とルーアで一緒に頑張りましょう?」
「うんうん、それでインテレオンが元に戻ったら笑顔で迎えよう!」
励ましてくれる仲間がいる。
「ありがとうございますルーア。あなたが希望を見失わない限り……私達もその一片の希望を信じられますわ」
笑顔を向けてくれる仲間がいるんだ。
元の世界で孤独なまま何も出来ずに泣いていた私とは、もう違うんだ。
そして日が暮れ、私はインテレオンの家に戻る。
ギルドから出た後、イヴが『スプリングタウン』で営んでいるカレーライス屋を手伝って来たためこんな時間になってしまった。リライブが出来なくなった以上、以前のように救助依頼をこなすことが不可能となり稼ぎも無くなっていたのだが、イヴが呼び込みや材料運搬の仕事を回してくれているのだ……彼女には感謝しかない。
「ただいま」
暗い家の中に向け帰宅を告げるが返事は帰ってこない。一緒に帰って来た『彼』は今も眠っているのだから……。
手早く夕食を終えた私は自分の部屋に戻り、ベッドの上にインテレオンが入った宝石を出す。マホイップ達に少しリライブして貰ったから、多少なりとも変化が無いか期待したが見た目では分からなかった。
「……」
静寂の時が只々流れ、私の心の奥にある感情が滲む。
(切ない……)
マホイップ達の協力があれば、いつかインテレオンを元に戻せる事は疑ってはいない。
……だけど。
「……早く会いたいよ」
私は目元に涙を浮かべ、弱々しく呟いた。
せっかくこの世界が平和に近付いているというのに、それを彼と一緒に喜び合えないなんて。
インテレオンに色々お話したいし、褒めて欲しいし……。
「んんっ……♡」
慰めて欲しい。
月明かりだけが差し込む暗い部屋の中で、私は一人寂しく身を捩り始める。僅かに響くバイブの振動音を喘ぎ声で掻き消しながら、私はモゾモゾと腰を揺らした。
最後に彼に気持ち良くして貰ったのは、丁度彼がモンスターボールに封じられる前だ。つまりそれから暫くの月日、行為に及べていないという事。
「……っ♡」
瘴気が体内に満ちていた頃よりは相当マシとはいえ、欲求不満な私の身体は膣内の振動でピクピク反応してしまう。インテレオンと何度も性交したことで、元の世界にいた頃より淫乱度合いが強まったのだろうか。
(……ほんのちょっと期待してた。もしも今日インテレオンが元に戻ったらいっぱい甘えられるかもって……)
けれど大好きなインテレオンは今も戻らず私の子宮は疼くばかりだし、寂しさも切なさも癒してもらえない。『ナイトスター』達ポケモンやイヴ達はいるのだから孤独に耐えられない訳ではないが……それでも当たり前に傍にいてくれた彼が何ヶ月もいないのは苦しいのだ。
(インテレオンも、スールと逸れてこの世界に来た時は同じだったんだよね。諦めずに頑張ってたんだよね……)
彼の気持ちに思いを馳せながら、私は宝石を後ろ手で掴んで立ち上がる。代わりにランドセルをベッドの上に落とすと私はゴツンゴツンとブーツの足音を鳴らしながら自室を出て階段を降り、玄関へ向かう。
「……ふう、ふうっ♡」
『世界の狭間』でクリトリスリングが外れたために歩くだけで気持ち良くなる事は起きないが、それでもこれからやる事を考えると心臓が高鳴る。
(インテレオンが元に戻るまで、自分の切なさは自分で解消しなきゃ。瘴気から解放されて早々にエッチしてなんて言われたらインテレオンも困るもん。私だって淫乱な気分じゃなくてもっと爽やかな気分で再会したい)
私は扉を開くと、夜の『スプリングタウン』へ足を踏み出した。
「……♡」
冷えた夜風が肌に直接当たり私は小さく肩を跳ねさせる。顔や胸、お腹に背中、お尻に滲んでいた汗が余計に体温を奪い、身体が丈夫に変質していなければすぐに風邪を引いていたかもしれない。
「えへ、脚だけあったかい……♡」
同時に両脚がサイハイソックスとロングブーツにより冷気から守られている事を感じ、私は全裸よりもエッチな格好をしていることに興奮し始める。月明かりに照らされた白い肌と黒いソックスの対比がとてもいやらしい。
(私……この世界に来てから結局、ずっとこの変態な格好をして過ごしてるんだ。それに手錠も首輪も外せないままだし、バイブもずっと微振動続けてる……慣れたと思ってたけど意識しちゃうと……っ)
私は身体をピクピク震わせながら庭に張られた池の飛び石を渡って道へと出る。
思い出すのは、この世界に来る直前に自縛野外露出をした夜。
しかしあの時とは違い、私の手にはしっかりとインテレオンが入った宝石が握られている。
「んんっ……っ♡」
私は性欲に身を任せたまま、月明かりを頼りにほぼ全裸の姿で歩き出す。この世界に来てから、ずっとこの格好をポケモン達に晒し続けているので見つかったからどうなるという訳ではないのだが、それでも人間としてあまりにも淫乱な行為をしている事で背徳感が強まり心臓の鼓動が早くなっていた。
元の世界とはまるで建築様式が違う建物が並ぶ道を進みながら熱い吐息を漏らす私。興奮と緊張で汗が止まらず、手が使えず涎や涙を拭う事も出来ない。乳首やクリトリスが刺激を求めて勃起してしまっており、その状態で町中を歩いている少女の姿は間違いなく変態そのものだ。
(……リライブ出来なくなって、『追放の遺跡』みたいなポケモンがいないダンジョンにしか行かなくなったからマホイップ達に回復……性感帯を弄って貰う事がなくなっちゃって、凄い性欲が溜まっちゃってる……)
『スプリングタウン』に戻ってからは性的な行為は一人でオナニーをするばかりとなっており、乳首やおマンコに刺激を与えているのは温かみの無い玩具や家具の角ぐらい。元の世界では自分で指を使ってオナニーに耽る事が多かったが、インテレオンとの性交の味を知った後でこの状態は正直かなり苦しい。
「……見てるインテレオン? ド変態のルーア、発情したまま大通りに出ちゃうよ……♡」
そして淫乱な気分のまま、私は遂に脇道から『スプリングタウン』の大通りへと出る。
星空に浮かぶ月、舞い降りる桜の花びら、閉店時間がとっくに過ぎた数多くの店舗、日中は多くのポケモンが行き交っていたが今は誰もいない道。
「ん……ひゅんっ♡」
そんな中を喘ぎ声を上げ、いやらしく身を捩りながら進む私。膣から溢れ出る愛液が股を伝ってサイハイソックスを濡らしたり、あるいは道に滴り落ちたりする様に否応にも私は顔を紅潮させてしまう。マラサダやカレーのお店、本屋や医療所などの前を通る度に私はどんどん気持ち良くなり、遂には道の真ん中でへたり込んでしまう。
そして私は思い出す……ここは私が初めて『スプリングタウン』に来た時にポケだかりが出来ていた場所だ。その中心には『ナイトスター』と……そしてインテレオンがいた。
インテレオンと初めて顔を合わせた場所なのだ。
「……ん、んんっ♡」
私は無意識に腰を上下させて、少しでも膣内に刺激を与えようとする。丸々したお尻に小さな礫が当たって少し痛いが、快感欲しさに腰の動きは止まらない。たちまち愛液が小さな水溜まりを作るものの、ランドセルどころか玩具も持ってきておらず、角にも頼れない状態では全く絶頂に辿り着けない。
「自分で……気持ち良くなるのぉ……♡ インテレオンが戻って来るまで、自分の力で気持ち良くなれるって証明するのぉ……♡!!」
私は地面に落ちた宝石……その中で眠るインテレオンを涙目で見つめたまま、必死に身体を捩り続ける。微弱でぼんやりした刺激しか来ず、鮮烈な刺激が恋しくなった私はうつ伏せになって乳首とおマンコを地面に押し付け始めた。
「んんっ、あうっ、あっ♡ 見てインテレオン……っ♡! 一人でも頑張ってエッチできる私のこと見て……♡!」
まるでポケモンの技『はねる』のように、私は地面の上で何度も胴体を跳ねさせる。大通りの真ん中で手錠と首輪を嵌めたままほぼ全裸の姿で床オナを始める少女の姿は明らかに異常そのもの。涎を地面に垂らしながら、汗が滲んだ身体に土や砂がくっついて汚れていく様は自分の性欲を全く制御できていない雌の獣だ。
だけど……これも私の幸せの一つ。とんでもない変態であることは自覚しているが、こうやって自分を慰める事でインテレオンが戻って来るまでの切なさを中和できるのだ。
そして。
「んぐううっ……心配、しないでインテレオン……っ♡♡! ああっ♡……私、寂しくても待つからぁぁ♡♡!! 待てるからあああっっっ♡♡♡!!!」
数時間に及ぶ床オナを続け、私は遂に絶頂を迎えるのだった。
「……はぁ、はぁ……♡」
ずっと身体を上下させていた疲労感に苛まされながらも、私は絶頂の気持ち良さの余韻を味わいながらインテレオンが入った宝石を後ろ手で掴んで立ち上がる。
そして、そろそろ帰ろうかと星空を見上げたその時。
(ん……?)
月とも星とも違う灯り。それは空ではなくもっと下……巨大な桜の木の幹にくっついたツリーハウスから漏れている。
あれは……『ファイヤーのギルド』の『救助隊スペース』?
スロープを上がりおそるおそる『救助隊スペース』の中を覗き込む私。まさかとは思うが、まだ和解出来ていないパラドックスが『リライブホール』を強奪しに来たという可能性もゼロではない。
そして私の視界に映るのは、『リライブホール』の前に立つ複数の者達。
「誰だ!」
「わっ!?」
気配で気付かれたのか、向こうから鋭く声が上がり私は驚きのあまり悲鳴を上げる。まさか本当にパラドックスでランドセルすら持ってきていない私はこのまま捕まってしまうのでは……。
「待って下さいソルガレオ。今の声は……」
しかし、直後に宥めるような声が聞こえてくる。向こうは私の声に聞き覚えがあるようだが、それは私も同じだ……この声は間違いない。
「ルナアーラ……?」
「はい。久方ぶりですね」
私が入り口から顔を覗かせて尋ねると、藍色の体と大きな翼を持つ赤い瞳のポケモン、ルナアーラが嬉しそうに頷いた。
「そうだったか、驚かせて悪かった」
「こっちこそ警戒させてごめんね……それよりこの世界にいるって事は、世界の境界の修復は終わったの?」
「……あと少しで終わる」
白い体と強靭な四肢を持つ青い瞳のポケモン、ソルガレオが謝罪して来るのに応じつつ尋ねると、それに対して答えるのは彼らのトレーナーであるライコであった。
「ソルガレオ達、あたしのお願いに応えてくれたんだ」
そしてライコ達だけではなくもう一人、『リライブホール』の前に立っていた。
「……スール!?」
数週間前に置手紙だけ残して旅に出てしまったスールがなんとライコ達と共にいた。一体どういう事なのか訳が分からず、私は目を白黒させる。
「あたし、ライコ達が拠点に使ってた遺跡に繋がる祭壇に行ったんだ。それで『世界の狭間』にいる彼女達に話しかけてお願いしたの。"一度元の世界に帰らせて欲しい"って」
「えっ!?」
スールは説明を続けるが、私は増々訳が分からなくなり混乱する。こうしてこの世界に戻って来ているのだからインテレオンを残して帰ったという訳ではないのは分かるが、一体何をしに?
「ルーア、メーくん連れて来てる?」
「うん……けど、どうしたの?」
私は苦労しながらも腕を動かして、『彼』をスール達に見せる。スールが一度元の世界に帰った事と何の関係があるのだろう。
「メーくんが入った宝石……『モンスターボール』を『リライブホール』の台座に置いて欲しいんだ」
「?」
更に要求され私は訝しく思うが、同時にスールが何かを持っているのに気付く。赤と白にカラーリングされた球体……あれは元の世界では沢山流通している道具。
本来の『モンスターボール』だ。
「……これは『メーくんが入ってた本来のモンスターボール』。これを持ってくるために、一旦元の世界に帰ったんだ」
「……!」
今インテレオンが入っている宝石は、瘴気で変質こそしているものの元は『モンスターボール』だ。しかしトレーナーのスールのポケモンである彼には本来、自分自身のボールがある筈なのだ。ポケモンにとってのボールはトレーナーとの絆を示す証明でもあり、自分が帰る家でもある。
そんなインテレオンとの結びつきが強い『モンスターボール』が今、スールの手元にある。
……まさか。
「思い出すのが間に合って良かったよ。ライコ達が言うには完全にこの世界の境界を修復したら、他の世界との行き来が二度と出来なくなるみたいだから」
スールは微笑みを浮かべて私が持つ『彼』を見つめる。
「これが終われば我々は境界修復の最後の仕上げに取り掛かる。念のため聞くが、本当にこの世界に残るのだな?」
「うん、お母さんにも謝れたしもう悔いはないよ」
ソルガレオに尋ねられ、彼女は迷いの無い顔で答えた。
「私達はライコと共に別の世界へ旅立ちます。ルーア、あなたはこれからずっとこの世界で生きるのですね?」
「……」
同様に確認して来るルナアーラ。慈愛に満ちた彼女は、私が後悔しない道を選んで欲しいと願っているのだ。
ここでの回答が、私の将来を大きく左右するのだろう。
でも、答えはとうに決まっている。
「分かりました。あなたのこれからの人生に幸多からんことを祈っています。そして改めてになりますが、私達やこの世界を救ってくれて本当にありがとうございます。修復が済めばもう会えませんが、ルーアの事を絶対に忘れません」
「……うん、私も。ずっと見守っててくれてありがとうルナアーラ」
言葉を交わしたルナアーラと私は笑顔を向け合った。
「大変な事もあると思うけど、この世界のポケモン達や瘴気から生まれた子達と協力して壁を乗り越えたあなた達ならきっと大丈夫。私達はこの世界みたいに瘴気に苦しんでる世界を救う……自分達の役割を続ける。自分が幸せだと思う未来のために、お互い頑張ろう」
そしてライコはある道具を懐から取り出しながら笑顔で激励してくる。それは、かつて彼女らが拠点として使っていた遺跡に残されていた、瘴気を探知しその地点へ飛ぶ力を得た『ポケモン図鑑』だ。自分の世界が生み出した瘴気……すなわち同郷の人間やポケモン達の苦痛や絶望のカタマリを救い浄化したいと望むライコに、私とスールは揃って頷いた。
ルナアーラ達が見守る中、私は今も眠る『彼』を優しく『リライブホール』の台座に置く。そして準備は完了したとスールに目配せする……が。
「ルーア、一緒にやろう。あたしはメーくんのパートナーだけど、同時にあなただってメーくんと親しい間柄の筈」
「……っ」
彼女からの思いがけない言葉に私は一瞬息が詰まり、そして胸の中に温かい気持ちが生まれるのを感じる。
「あたしだけでやるより、メーくんも喜ぶと思うんだ。お願いできないかな」
「……ありがとう、じゃあ一緒にやろう」
私はスールにお礼を述べ『モンスターボール』を後ろ手で持つ彼女に寄り添った。
そして二人で『モンスターボール』を支えながら『リライブホール』の小さな台座に立ち、『彼』をしっかりと見つめる。
『リライブホール』から迸る緑色の光。
それに応じて『彼』も緑色に淡く発光。
そして、私とスールが持つ『モンスターボール』から緑色の光が一直線に『彼』へと伸びた。
ポーン、と小気味の良い音が『救助隊スペース』内に響く。
『モンスターボール』から放たれた光の中から現れた存在が床に着地。
「……!!」
そして、今まで表情を崩さなかったスールが大粒の涙を零しながら彼へと駆け寄る。
「……ありがとう、スール」
優しく彼女を抱き止めた彼は、台座の上に立つ私を見つめた。その大きな目には涙が浮かんでいる。
「キミにまた会えてすごく嬉しいよ。ありがとうルーア」
「……えへへ……っ。うん! 私も会いたかった!!」
心の底から幸せいっぱいな気持ちで、私は涙を流しながら笑った。