sideエノルミータ
「…まさか、本気で見逃す気じゃないよね?折角折れてくれてるんだ、飼ってあげないと損でしょ」
「魔法少女が悪に屈する?冗談はよしてください」
仮面の幹部、ヴァーステキン。それに相対するは同じく幹部のマジアベーゼ。そして、間に挟むはトレスマジアが一人マジアアズール。彼女は数々のベーゼの攻めにより屈服した…のだが、ここでエノルミータ側の2人がアズールの扱いで対立していた。
片や屈服したアズールをエノルミータで飼おうとしているヴァーステキン。片や魔法少女は屈服してはならないと考えているベーゼ。
「屈してるんだよなぁ……あ、君寝といて」
「えっ」
逃げられる前に、と棘をアズールまで伸ばし意識を落とさせるヴァーステキン。しかしその光景を、べーゼは止めることはなくただ眺めているだけであった。
「貴方の力なら、今の段階で記憶を隠せていたでしょう?」
「やるわけないじゃん、それに隠したところでまた同じことが起こるだけ…蓋をしても、その上から同じことをしたら…同じことを繰り返すだけ」
「だから、私は見たいんですよ…どれだけ苦しめられても成長出来る魔法少女の姿を…!決して屈することは無い、それが魔法少女…!」
「あー……やっぱ狂ってるよ、ベーゼちゃんさ」
鼻で笑うかのような声質。だが、目の前のベーゼにはその声は届かない。恍惚とした、邪悪な笑みが彼女の心から現れていた。それに対して、ただただ…ヴァーステキンは恐ろしさを覚えていた。
「改めて…『こんなの』を連れてきたヴェナリータに感動するね」
「おや…ヴェナさんの名前をストレートに言うだなんて、珍しいですね?」
「呆れてんだよ……マジアベーゼ、あんたさぁ…矜恃を持てと言うのならば、お前自身が持つべきだろうに」
「へぇ…?」
「魔法少女の敵なのは間違いがない、けれど単にやられ役としてでは無い…蹂躙者としての自覚を」
マジアベーゼは、圧を感じていた。恐怖では無い、今まで感じたことの無い圧をヴァーステキンから感じていたのだ。だが、それに対して恐怖も驚きも何も感じない。
「……ん゙ん゙!もっかいバトルやろーぜ!悪の女幹部バトルな!」
「良いですよ?私が勝ったら、また私の指示に従ってください…ね!!」
ベーゼは鞭を近くにあった、幾つかの遊具にぶつけていく。ブランコはチェーンと板の盾を持った魔物に、滑り台は象に。いつもの通りにぶつけていたなら、そうやって魔物化していき襲わせていただろう。しかし、この時のヴァーステキンは違っていた。
「私だってねぇ…経験値稼いでるんだわ…!ほほいのほいっと!」
棘をすぐさま伸ばし、魔物化仕切る前に魔法の効果を『隠す』。つまりは魔法の不活性化を図るのだ。それにより、魔物化仕切る前に元の遊具へと戻っていく。
「…なるほど、千日手というところですか」
「理解が早くてとても助かる。けど、私の力がその程度だって知らない訳でもないでしょ━━━」
そうして喋っている間にヴァーステキンは姿を消していく。すっと消えたヴァーステキンに、マジアベーゼは警戒を強める。見えないというのは、それだけで警戒するに値するのだ。
「ほーら、見えないことが怖いでしょ〜?」
「そうですねぇ……では、雑に攻撃するとしましょうか」
ベーゼは鞭を振り回してそこらかしこの地面に当てていく。当然そんなヤケクソ気味の攻撃では当たることはなく、全て手応えなんて無いものとなっていた。
「あははは!どこ狙ってるのさ!全然当たらんねぇ〜!」
「当たれば儲け、と言うだけですからね」
振り回され続ける鞭。1度も当たらない攻撃に、ヴァーステキンは調子に乗り始める……だが、同時にベーゼが何かを行っているということだけは理解出来た。
「…!」
故に鞭の間を掻い潜り、ベーゼに一撃を与えようと画策するヴァーステキン。しかし、掻い潜っている間に段々と視界に砂埃が立ち上り始める。
「……あ?何これ」
「おや、風が強いんでしょうか?
「っ!!」
ヴァーステキンは咄嗟に空へと上がる。嫌な予感がしたのだ。だが、飛び上がったのがまずかった。立ち込めていた砂埃には、ヴァーステキンの魔法が作用しづらい。消しされるとしても触れた砂の1粒1粒である。そして、それらを一気に消した瞬間自らの位置がバレてしまう。それを懸念し、一気に飛び上がるが……その勢いで、砂埃の空間に
「━━━━そこですね」
「しまっ…!」
ギラついた目が、ヴァーステキンを捉える。そして、砂埃は意思があるかのようにヴァーステキン目掛けて飛んでいく。その光景を見て、驚きよりも納得してしまうヴァーステキン。
「やっぱり…
「気づいてももう遅いですよ…!」
砂粒が纏まり、大きな拳のような形になる。そして、凄まじい速度でヴァーステキンに迫り……強烈な一撃を与える。
「ぐはっ…!」
「やはり…私には勝てませんか?私も貴方も援護に適した能力…しかし、私はこういう所で攻撃力を補えるのですよね」
「ッ…クソが…!!あんまり舐め腐ってると…!」
「どうなると言うんです?」
「こうなるんだ━━━━!!」
怒りのままに声を荒らげながら、棘を地面に突き刺す。最初ベーゼは何をしているのかと考えたが、どちらにせよ止めねばならないと判断を下した。だが、先程のヴァーステキンと同じように…少し悩んでしまったことがタイミングを遅らせた。
「よッッッッッッッ!!!!」
「くっ!?」
棘はベーゼの思っていた以上に深く突き刺さっていたのか、公園の地面をくり抜いてそのままベーゼに投げつけられていた。ベーゼは咄嗟に鞭でくり抜かれた地面を砕くが、それにより土埃が蔓延。先程と違い自分が操作していない砂埃な以上、今度はベーゼの視界が封じられることとなってしまう。
「しまった…!」
「視界が見えない以上…!私の独壇場だ…!姿も、音も、匂いも、気配も…全てが消え、全て私の━━━」
声が消える。万が一にでも触れられてしまった場合、その瞬間べーゼは終わってしまう。能力も、記憶も、意識も全て隠されてしまう。いずれは解放されるかもしれない。しかし、それは隠された後で『殺されなければ』の話である。殺されてしまえばそれまで……そう、殺されてしまった場合何も出来ないままで終わるのだ。
これからの、魔法少女の活躍も見ることが出来ずに…再起するであろうマジアアズールの活躍も見れずに━━━━
「━━━そんなことは」
「…あ?」
「そんな事は、断じて認められませんねぇ…!」
「なっ…!?」
マジアベーゼから一気に魔力が立ちのぼる。その顔には多数の星が点在しており、その異常性はヴァーステキンにも理解出来た。あまりにも凄まじい状態であることから考えて、一気にトドメをさすべきだという思考と危険だから逃げろという本能がせめぎ合っていた。
「━━━━そこまでだよ、2人とも」
突如として、ヴェナリータが二人の間に割り込む。その瞬間2人は冷静となり争いを止める。少しだけヴァーステキンが目線をベーゼに移すと、先程までの大量の星は消え去り…元のベーゼへと戻っていた。
「2人の言うことはわかるけど…今回は、ヴァーステキンが手を引いて貰えないかな」
「……ちっ」
「……今回は、という事は次同じようなことがあれば?」
「あぁ、君ばかり贔屓していると思われてはダメだからね。マジアベーゼ…申し訳ないが、次にこういうことが起これば、ヴァーステキンに譲ってくれ」
「……はぁ、わかりました」
お互い嫌そうな顔をしての決着。仲違い結構、しかし同士討ちというのは許容していないのがヴェナリータである。それを2人は理解したのか、萎えたような顔をしつつ警戒を解除する。
「しかし…ほとんど本能的だと思っていた君が手を引くとはね?」
「……そうですね、アズールに関しても『そっち』の方面よりも意外と理性的に動いていました」
「そんな獣みたいなイメージされてたんだ私?うん、というか冷静になったので改めて言わせて欲しいんだけど」
「何ですか?」
「アズールに散々な目に合わせておいてどの口が言うんだ」
「…………」
「それは同意見だね」
「……………」
2人のツッコミに目を逸らすベーゼ。しかし、二人の何とも言えない視線がベーゼに突き刺さる。だが、大きなため息をひとつついて、ヴァーステキンは両袖をあげて踵を返す。
「ヴェー、ゲート開けてー。もう私帰るわ、萎えた。」
「あぁ、ベーゼもそのまま帰るといい。アズールはこのまましばらくしたら目を覚ますだろうさ」
「えぇ、そうさせてもらいます」
そうして、一同は解散する流れとなった。完全にやる気を無くしたヴァーステキンは、戻ってからはそのまま眠りについて次の出撃までふて寝することにした……のであった。
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sideトレスマジア
5分もしない内に、アズールは目を覚ましていた。何があったのかとよく思い出して……ベーゼの言葉を思い出す。
「『魔法少女としての矜恃を持ちなさい』……か」
アズールは負けた。負けて、屈服してしまった。やられた事を思い出しても、未だに体が高揚してしまう。しかし、その高揚はベーゼが望まないものである。それを考えて、複雑な思いを抱いてしまう。
「……それに、皆にも報告しておかないと」
自らが負けたことを報告しなければならないと考えて、アズールは肩を震わせる。勝つようなことを言っておいて、このザマなのだ。ユズリハから何を言われたのかと考えてしまっていた。
「……強くならなくちゃ、絶対に」
強くなるため。心も、体も…二度と屈さないために何が必要か?それを少し考えた後に、アズールは…小夜は心を入れ替えて傷ついた体を引き摺って帰路へと戻るのであった。