ふたなりが来るぞ!!ダメな人は逃げろ!!
――――その日、ましろはどうにも体調が優れなかった。
朝からなんだか熱っぽくて、頭がぼうっとしがち。
壁にぶつかりかけたり、何もないところで転びそうになったり。
体温計を使ってみれば、微熱と来た。
『今日はお休みでよかった』と思いながら、自室のベッドに倒れ込む。
体調不良に気付いたのが、家人が出払ってしまった後なのは。
果たして吉と出るか凶と出るか。
ソラはアルバイト。
あげはとツバサは、エルを連れて植物園へ。
ベリィベリーは学校のクラスメイト達とショッピング。
ヨヨは生け花同好会の友人達と日帰り旅行で、帰りは夜だ。
(熱はそんなに高くないし、お薬も飲んだ・・・・ゆっくり寝てよう・・・・)
何にせよ、おとなしくしておいた方がよさそうだと。
念のため、リビングのテーブルに、具合が悪いことを書置きして。
常備薬の解熱剤を口にして、ましろは床についたのだった。
◆ ◆ ◆
――――言い訳をするのなら。
厄日としか言いようがなかったんだ。
(まさか、メインの溶鉱炉とベルトコンベアが同時に故障するなんてな)
ほぼほぼとんぼ返りと言う他ない帰路を、私は足早に歩いていた。
いつも通り出勤して、朝の清掃と朝礼を終わらせて。
『さあ、一日頑張るぞい』と、なった矢先の出来事だった。
今日は業務にならないということで。
社長と女将さん、それから幹部クラスの正社員を数名残して。
後は解散と言うことになってしまった。
・・・・まあ、気がかりがあったので、渡りに船ではあるのだけども。
(ましろさん、具合が悪そうだったんだよな)
今朝の時点では違和感にとどまっていたけれど。
後から段々心当りが出て来るわ出て来るわ、体調不良の兆候。
(人には散々『無茶するな』って言っておきながら・・・・)
内心ぷりぷりする一方で、私も普段からあんな調子なのだろうなと一人反省会。
「――――ただいま戻りました」
何はともあれ、途中のドラッグストアであれこれ要り様になりそうなものを調達して。
虹ヶ丘家の敷居を、くぐった時だった。
――――鼻が。
覚えのある『匂い』を、捉えて。
「――――ッ」
嫌な、胸騒ぎを覚えた。
・・・・いや、まさか。
そんなはずは。
だって、違うはずだ。
ヨヨさん、ツバサくん、ベリィベリーさん。
訳知りの人達にはみんな確認した。
この世界にはないって、有り得ないって。
なのに。
なんで。
(――――有り得ない)
私の意志とは関係なしに、歩みが止まらない。
自分の体なのに、自分の体じゃないみたいだ。
一歩、一歩。
踏みしめる度に強くなる、『匂い』。
一階を通り過ぎる。
階段を上がる。
二階に踏み入って、自室の扉を開ける。
「――――ぁぁ」
『匂い』が、一段と濃くなった。
胸騒ぎが、嫌な予感が。
決定的になったことに、絶望を覚える。
進み入れば、ベッドが不自然に膨らんでいて。
「・・・・そら、さん?」
――――いつの間にか。
ましろさんに覆いかぶさって、見下ろす形になっている。
(あ、ダメだ)
離れなければ。
距離を取らなければ。
私は。
今の、私は。
彼女にとって、一番危険な存在だ・・・・!
「は、は、は、は、は」
落ち着こうと呼吸して。
その度に『匂い』を取り込んで。
頭のくらつきと、眩暈が。
激しくなる。
(ああ、クソ。南無三!!)
――――口の中で、鈍い音。
その後、いっぱいに血の味が広がる。
イッテェ・・・・でも、なんとか持ち直した。
(このまま・・・・このまま、離れるんだ・・・・!)
痛みで理性を保ちながら、起き上がろうとする。
・・・・そうやって。
取り返しのつかないことにならずに済みそうだと。
油断していたのがいけなかった。
「そらさん」
「まし――――」
手が差し出されてから、あっという間だった。
「ん、む・・・・!」
「ふ・・・・っあ・・・・!」
唇が重ねられて。
入り込んだ舌に、傷口を労わる様に舐められる。
拒むことが出来なくて、何度も何度も啄まれて。
「ぷはっ・・・・!」
「っは・・・・!」
離れた唇と、唇の間に。
赤い糸が紡がれて、儚く途切れ落ちていく。
「――――ましろさん」
――――嗚呼、いや。
そんなことは、もう、どうでもよくなるくらいに。
私は、もう。
どうしようもない存在に、堕ち果てていた。
「拒んでください、叩いてください」
出来ないって、分かり切っているのに。
それでも『逃げてくれ』と願いながら。
「殴ったり、蹴り飛ばしても構いません」
私のこの手は、願いとは裏腹に。
彼女を逃さぬように、絡めとっていく。
「私が、貴女に施すのは・・・・それ以上の、暴力です」
嗚呼、嫌になる。
自分を御しきれない自分も。
こんなおべっかで許されると思っている自分も。
何もかもすべてが、嫌になる。
「――――暴力じゃ、ないです」
――――そして。
「――――ソラさんがしてくれるなら、暴力じゃないです」
欲しい言葉を受け取って、喜んでしまう。
浅はかな自分も。
殺してやりたいほどに、大嫌いだ。
◆ ◆ ◆
「ぁ、んぐ・・・・!」
「んむぅ・・・・!」
なし崩し的な行為は。
噛み付くようなキスから、始まった。
「ふ、んっ・・・・ちゅっ・・・・」
相手へのいたわりなんてこれっぽっちもない。
まるで捕食するような応酬に、ましろは呼吸を確保するだけで精いっぱいだった。
そもそもの話。
体はずっと火照りっぱなし、頭もふわふわしたままで。
今何をされているかも、これから何をされるのかも。
正しく理解出来ているとは言えない。
――――だけど。
ソラが、大好きな人が。
口から血を流しながら、泣きそうな顔をしていたから。
好きにさせることで、少しでも慰められるのならと。
何度も何度も、自分の唇を差し出す。
「はぁ、む・・・・ふ、っう・・・・!」
対するソラもまた、与えられるものを片っ端から貪り続ける。
ましろの息継ぎなんて考えずに、何度も何度もキスをする。
『もっと、もっと』とばかりにましろの頭を抱え込むと、果物を丸かじりする様に口をかっぴらいて。
再びましろの唇に食らいつく。
(やだ、なにか、なにかくる)
口の中を蹂躙されているましろは、内側から湧き上がってくるものに気が付いた。
何か大きな衝動、あるいは感情。
どうして、こんなに大きくなるまで気付かなかったのか。
逃げたくても逃げられない。
そのことに気付いたましろは、体をよじらせて抵抗しようとするが。
ソラを余計に煽るだけに終わった。
「ん、ちゅ、ふ、ぅ・・・・!」
「は、く、んんっ・・・・!」
恐怖をどうにも出来ないまま、なおもキスを続けさせられたましろは。
「んっ、んっ、んっ・・・・んんんんんんっ!!」
とうとう、くぐもった悲鳴を上げて。
体を大きくのけ反らせたのだった。
「ぷはっ、は、はっ、はあっ・・・・!」
「はぁっ、はあ、は、は・・・・!」
唇が離れる。
口の周りが、涎で同じように汚れている。
ソラは、うっすら血の臭いがするましろの口回りを、労わる様に舐めて綺麗にしていった。
(・・・・『暴力』って、このことなのかな)
好きにさせながら、ぼんやりと考えていると。
ソラがごそごそ動き出したことに気付く。
ベルトに手をかけているらしい『かちゃかちゃ』という音。
続けて、枕もとに置いてあった小物入れに、手を伸ばしている。
そして、何かの箱を取り出すと。
箱を投げる様に、中の包装は食い破るようにして開け放った。
疲労に微睡んでいたましろの耳に、『ぱきっ』っという音がやけに響く。
重い目蓋を気怠く開けると、スカートの中に手を入れられているところで。
(――――ぁ)
まさしくあっという間にパンツを脱がされた。
更に両手で足を押し広げられて、『秘所』を暴かれて。
――――まずい、と思った時には。
もう、遅く。
「~~~~ッ!!」
どぢゅん、と、鈍痛。
続けて快感が電流の様に背筋を駆けのぼって、視界がモノクロに明滅する。
何が起こっている、何をされている。
ましろの理解が及ぶ前に、ソラは遮二無二腰を振り始めた。
「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ・・・・!」
「あ"っ、あっ、ぅあ、はぁっ、ひ・・・・!」
すっかりぬかるんでいた純潔が、呆気なく蹂躙されていく。
ピストンの重い音、腰がぶつかる手拍子の様な音。
ベルトの金具が、チリチリ揺れる音。
ましろの視界はホワイトアウトに、聴覚は濁流の様な音に。
それぞれ支配され切っている。
「っあ、あ、あっ・・・・!」
キスなんかじゃ目じゃないほどに、迫りくる『何か』。
それが快感だと知らぬましろは、無知の恐怖に慄いて。
なんとか逃げようと身をよじる。
しかし、普段からヒーローとなるべく鍛え上げているソラの両手は、しっかりとましろを捕まえていて。
どれだけ抵抗しようにも、全てが無意味に終わってしまった。
「――――ゃだ」
それはそれとして。
ましろがこの恐怖に耐えられるかどうかで言うなら、否だ。
「ゃだ、やだ、やだ・・・・」
耐えずやってくる鈍痛と、快楽に。
人格と言う人格が、塗りつぶされそうになる。
「ぁ、す・・・・!」
恐ろしさのあまりに、はらはら涙を流して。
「たす、けて・・・・!」
「――――ッ」
その、言葉を。
ヒーローを求める言葉を、発して。
「――――っぐ」
――――二度目の、ガリっという音。
ましろの頬に、新たな赤い雫が落ちる。
「ぁ、しろ、さ」
痛みと、衝動に耐えながら。
理性を必死につなぎとめて、こちらを伺うソラの目は。
溢れんばかりの欲望と、仕出かしの罪悪感で。
ギラギラと輝いていた。
「ふ、ふ、ふ・・・・ぅう・・・・!」
その両目も、次の瞬間には涙で潤んでいたが。
獣の様に荒く呼吸しながら、ましろの肩口に顔を埋めるソラ。
耳を澄ませると、蚊の鳴くような声で『ごめんなさい』を繰り返しているのが聞こえた。
・・・・どうしてこんなことになっているのか。
何故ソラに男性器が付いているのか。
何故自分が貪られているのか。
ましろにとって、分からないことだらけだ。
ただ一つだけ、理解出来ているのは。
ソラもまた、自分の体を御しきれずに。
怯えているということだった。
「は・・・・は・・・・は・・・・」
呼吸が落ち着いてきた頃。
ましろはそっと手を伸ばして、ソラを抱きしめた。
「・・・・ましろさん?」
ぽんぽんと、あやされるように頭を叩かれて。
すっかり加害者側だと思い込んでいたソラは、困惑に名前を呼ぶ。
少なくとも、こんなに優しくされる覚えがなかったので。
頭の中を、はてなでいっぱいにしていた。
「・・・・ふふ」
一度離れてソラの顔を見たましろは、そのきょとんとした表情に笑みを零すと。
啄む様なキスをした。
「んっ・・・・」
乾きかけていた血を丁寧に舐め取って、先ほどのお返しとばかりに何度も食む。
対するソラは、一度は距離を取ろうとしたものの。
好き勝手に貪った負い目から、早々に好きにさせ始めた。
「ふっ、ちゅ・・・・っむ・・・・」
「は、んっ、ふっ・・・・」
ひたすら捕食していたソラと違い。
唇を啄み、舌を絡ませ、傷を労わる。
しばらくの間、静かなリップ音が続いたが。
「む・・・・ふぅっ・・・・」
「は、あ・・・・」
やがて、再び赤い糸を伴って。
唇を離したのだった。
「・・・・ましろさん」
「ソラ、さん」
糸が落ち切る前に、もう二回口づけ。
互いの口の中が、血の味で塗れた。
「んっ・・・・」
「・・・・っ」
ここで。
身じろぎしたましろは、挿入されたままであることに気が付いた。
思わずうごめいた膣内に、ソラも一度肩を跳ねる。
――――両者、顔を真っ赤にしたまま。
長い様にも、短い様にも思える沈黙を保って。
「――――続けて」
二度、口を開閉してから。
ソラが口火を切る。
「続けて、いいですか?」
問いかけに。
もう三・四呼吸ほど黙し続けたましろは。
耳までゆでだこの様になった顔で、頷いた。
「んっ・・・・」
「んむっ」
ありがとうの代わりに、キスを落として。
ゆるゆる腰を動かし始めた。
「ぅ、あっ・・・・あ・・・・!」
先ほどまでとは違い。
労わる様な動きだ。
片手でましろの手を、もう片手で腰を掴んで。
まるで詫びる様に突いていく。
「あっ、ぁあ、んっ、あ・・・・!」
打って変わって、快感を大きく与えて来る動き。
前後のみならず、左右にも動かして。
ましろの体をじっくり堪能していた。
「ふうぅっ、うっ、ぁ、っああ・・・・!」
引くたびに、突き込むたびに。
何度もキスを交わした唇から、可愛らしい嬌声が漏れてくる。
「ふ、ふ、ふぅっ、ぅ、あっ・・・・!」
ともすれば、小鳥のさえずりの様なそれが。
ソラの耳に入れば入るほど。
段々とピストンが激しくなった。
「あっ、あ、ぁんっ、ゃ、はっ・・・・!」
「は、は、はっ・・・・ふうぅっ・・・・!」
体をよじらせて、息を荒げて。
果たして相手を堪能しているのは、どちらか。
「は、は、は、は、はっ・・・・ん、ぐ、ああっ・・・・!」
辛抱溜まらんとばかりに、ピストンを激しくさせたソラ。
「あ、あっ、アッ、アァッ・・・・!」
まるで音階を上げる様に、喘ぎ声を高めて行って。
「ああっ・・・・!」
一際、強く。
打ち付けたのだった。
「はあああぁぁ~~~っ・・・・!!」
がくがくと、体を痙攣させて。
吐精の快感に身をゆだねるソラ。
「あっ・・・・ああっ・・・・!」
一方のましろも。
避妊具越しと言えど、暑いものが最奥で解き放たれた感覚で。
充足感と、喪失感に。
ふるふると震えたのだった。
「はあ・・・・ぅ・・・・ぅう・・・・!」
心地よい疲労に、二人してベッドに沈み込む。
ましろに覆いかぶさる形で、呼吸を整えたソラは。
のっそり起き上がると。
同じく息を荒げていたましろに、唇を落としたのだった。
◆ ◆ ◆
「あ"あ"~・・・・」
もろもろ片付けた後の、お風呂。
ひとしきり汚れを落とした私は、浴槽に体を沈めると。
おっさんみたいな声を出してしまった。
・・・・洗濯機がごうごうと唸る音を、遠くに聞きながら。
結露に濡れた天井を、しばらく見つめて。
「・・・・死にてぇ」
「もう、またそんなこと言って」
思わずそんなことを零したら。
私に背中を預けていたましろさんが、振り返ってたしなめて来た。
「だってぇ・・・・」
私よりもずっとか細い体を後ろから抱きしめて、うなじに顔を埋める。
・・・・いや、本当に。
『
しかもよりにもよって未成年に手を出しちゃうし・・・・。
凹む他ないやん・・・・。
「・・・・でも、びっくりしました。スカイランドには、性別が六つあるなんて」
『もう』と困った笑みを浮かべたましろさんは、頭を撫でてくれながら。
先ほどの私の説明を、感慨深そうに反芻していた。
――――彼女の言う通り、スカイランドには性別が六つある。
正確には、男女の他にもう一つ。
『α、β、Ω』の三つの要素が加わるというべきか。
『β』は普通の男女で。
場合によってはツバサくんみたいなプニバードや、吸血人も該当する。
「人間だけなんですね」
「ええ、研究者にもよく分かっていない不思議です」
特徴的なのは、やはり『α』と『Ω』だろう。
ざっくり言うと。
『α』は、男女共に相手を妊娠させられる性別。
『Ω』は逆に、男女共に妊娠できる性別だ。
そして、厄介な特徴がもう一つ。
「発情・・・・ヒートって言うんでしたっけ」
Ωは三か月に一回、発情する。
一週間もの間、抑えようにもにも抑えられないむらむらで。
高熱に苛まれるがごとく魘されるのだ。
さらに厄介なのが、この時発するフェロモンが、αを無差別に誘惑してしまうこと。
・・・・だから私は、ましろさんを犯してしまったわけだけども。
今となっては言い訳にしかならない。
「・・・・やっぱり、おばあちゃんがスカイランド人だからでしょうか」
「だと思います」
水面を見下ろして、ぽつりと呟くましろさん。
その顔を、私の側から伺い知ることは出来ない。
「もっというと先祖返りでしょうね、私もそうですし」
「そうなんですか?」
「はい、スカイランドではよくあることです」
うちは両親も弟もβだし、ましろさんのご両親やヨヨさんも言わずもがな。
ちなみにツバサくんとベリィベリーさんもβだ。
だから、誘惑されるようなことはないだろうと思っていたんだけど・・・・。
また一人反省会をしていると、腕の中でましろさんが震えたのに気付いた。
「・・・・発情しなくて済む方法って、ないんでしょうか」
口から零れた、至極当然の疑問に。
私は言葉を選んでから、
「・・・・『発情自体を失くす方法』は、ないです」
まずは、そう伝える。
「ですが、フェロモンを抑える抑制剤はあります。副作用は少し強いですが・・・・今回の様な事態は、避けられます」
『後でヨヨさんに相談しましょう』と、付け加えると。
ましろさんはしばし黙してから、『はい』と答えた。
明らかに気を重くしている声だ。
分かる、分かる・・・・。
確実に怒られるよね・・・・。
「・・・・大丈夫です」
「わっ・・・・ソラさん?」
改めてましろさんを抱きしめる。
「絶対に放り出したりしません・・・・これからどうすればいいか、一緒に考えましょう」
「・・・・はい」
・・・・自分の体のこと、これからのことで。
不安になっているはずだから。
少しでも安心出来るといいなと祈りながら。
うなじに口づけした。
(番はまだ早いよなぁ・・・・)
この後ヨヨさんに滅茶苦茶怒られた。