大陸南方に位置するキャンナベ国。
この地の人間ならば見慣れた砂漠地帯。そこを逃げるように駆け抜ける“キカイカン”と、それに並走する一台の装甲車があった。
装甲車には“キカイカン討伐戦闘部隊”のエンブレムが付いており、キャンナベ支部のどこかの部隊が“キカイカン”を追いかけている場面のように見えるが、少し違う。
彼女らは、正確にはキャンナベ支部の者たちではないからだ。
「よーっし! 獲物が見つかったよ!
気張りなテメーラ!」
鈴を転がしたような可愛らしい声とは裏腹に豪快な物言いは装甲車の天窓から、ぴょこっと飛び出した少女のものだろう。
その掛け声を中心に、装甲車内の仲間たちが各々に返事をする。
曰く「了解です!」と。
曰く「隊長のおパンツ丸見えです!」と。
曰く「残念、あたしの位置からは隊長のマンスジが見えました♪」と。
曰く「てめぇ、ぶっ殺す!」と。
そんな和気あいあいとした車内の掛け合いに、カカッと笑うは鈴の音のような声の主。
「かっかっかっ! この“キカイカン討伐遊撃部隊”の隊長・丸樹堂サド子様の部隊は今日も絶好調だぜぇー!」
高笑いする彼女こそ、“キカイカン討伐戦闘部隊”の所属でありながら、国に仕える公務員という在り方が気に入らずに世界の国々を自由勝手に行き来して勝手にキカイカンを退治しまくる遊撃部隊。
その隊長こそが、装甲車から頭だけ出してで高笑いしている少女、丸樹堂サド子である。
「にしても、あたいのマンスジなんて見慣れてんだろ、てめーら?
見たきゃ幾らでも見せてやっから、つまんねぇ事で、喧嘩すんじゃねえぞ!
それとも生で見っか?」
そう言って隊長らしさ溢れる堂々としたサド子隊長は自身のスカートをたくし上げて披露する。
ついでとばかりにパンツも脱ごうとするが、部下たちはそんな隊長にこう返すのみだ。
「「「偶然のパンツとスジが見たいんです!!」」」
と、じっくり見ながら返すのだった。
「でもよ、一人嬉しそうなやつがいるじゃねぇか♪」
部下たちが振り返ると一人だけ嬉しそうにパンモロを見ている。
「……モロも悪くない♪」
「「「バカチンがーッ!」」」
そんな漫才は彼女たちの日常である。
なんせ彼女らは、元は盗賊。それも世界中で指名手配を受けていた高額賞金首だったのだ。
それがなぜ、正義の味方のような行いをしているのかを語るには時間を遡らねばなるまい。
そう、あれは今から一年ほど前の出来事であった……。
◆ ◆ ◆
荒れ果てた砂漠地帯の多い大陸南方の国――キャンナベ国にて。
特に縄張りの無かったサド子親分率いる盗賊団“丸樹堂一味”は適当にやって来て、目についたガラの悪い連中を殴って金品を強奪して回っていた。
奪った装甲車を乗り回し、砂地も岩地もなんのその。
おまけに丸樹堂一味には機械に強い者がいたため、総重量109トンでありながら時速200キロで走り回るというトンデモ装甲車へと改造されているのだ。
ただ走らせるだけでも彼女たちを止められる人間はいないだろう。
「さっすが親分ですぜ!
今日だけで5000万円の稼ぎだなんて、過去最高じゃねぇですかい?」
適当にボコったチンピラはこの地の盗賊団だったらしく、アジトの金品は根こそぎ奪った帰りのことだ。
他の国で暴れていた時よりも稼ぎが増えたことを部下たちは喜んでいる。
さもありなん。何故なら彼女たちの敬愛する親分、丸樹堂サド子は当時から単純に腕っぷしが強い少女だったからだ。
そして百合である!
「か~っかっかっかっ♪ あたいにゃ、てめぇら全員に腹いっぱい食わして満たしてやる義務があんでい!
この国は殴るのにちょうどいい悪人が大勢いるみてぇだし、奪いまくろうじゃねぇか!」
彼女の戦術は殴るだけ。たまに蹴ったり、その辺の岩を投げ飛ばしたりするが、それだけで大の大人が何十メートルも吹き飛ばされてしまう。
この時はまだ彼女自身も気づいていなかったのだが、これは彼女の内に眠る“触手術”の才能の片鱗が表面化していたためであった。
神秘の秘術“触手術”は、触手を生やす技術こそ平手公爵家の秘伝技ではあるが、根源的に似たような技術を使える者は昔からいたのだ。
とはいえ、当時のサド子には“触手術”ほどに戦闘力がある訳でもなく、言ってしまえばただの怪力。
キャンナベ国に出現する“キカイカン”たちは純粋な物理防御力に秀でた個体が多いために、神秘性の低い攻撃は通りにくい。
だからだろう。人間相手には最強であった丸樹堂一味は、突如として現れた一匹の“キカイカン”によって崩壊してしまったのだ。
「ぬわーーっっ!!」
突如として地下から現れた“キカイカン”の襲撃により装甲車は横転。
素早く脱出したサド子たちであったが、目の前の“キカイカン”は、見ただけで分かる絶望感漂う強者であった。
「こ、こいつは勝てねぇ……」
諦めかけたサド子だったが、子分を逃がすために先頭に立って死を覚悟した次の瞬間!
圧倒的強者だと思っていた“キカイカン”が何者かの攻撃によって真横に吹っ飛んでいったのだ。
「やっふぅぅぅー♪」
サド子よりもさらに幼い声が聞こえる。その声の主が、まさにサド子たちの乗っていた装甲車と同じ運命を辿ったのだ。
何事かと思い、振り向くと、そこにはたった二人でありながら何十万という軍勢を目にしたかのような強者がいた。
「あ、まだ生きてる人がいるねー。
キカイカン相手に“触手術”も使わずに立ち向かう生存者だなんて、ボク初めて見たよ♪」
「こら、スン。あなたのおかげで救助は間に合いましたが、触手部隊の一員として美少女の危機に軽口はいけませんよ」
「は~い、ナモ隊長♪」
一人は異形のような触手で出来た四肢を持つ幼女。もう一人は今まで見たことも無いほどに綺麗な妙齢の美女。(サド子曰く)
自分たちが苦戦していた“キカイカン”を一撃のもとに倒したのがこの二人なのは見ただけで分かる。サド子とて、人間相手なら百戦錬磨の盗人なのだから。
しかし、そのアリエナイ現状を脳が理解するのには時間を要した。
「な、何なんだアンタらは……?」
幼女の方は、サド子たちのことをまるで気にせず“キカイカン”の解体作業を始めていく。
呆然としていたサド子たちであったが、そんな彼女らに声を掛けて来たのはもう一人の方であった。
「部下が失礼しました。
ワタシは“キカイカン討伐戦闘部隊”本部所属の第二部隊長ナモと言います。
彼女は部下のスン。
この国には出張で来ていたのですが、助けが間に合ったようで幸いです」
ナモと名乗る隊長を改めてみると、その漂う色気は眩暈を覚えるほどだった。
決して露出過多でも煽情的な衣服でもない。砂漠の奇行を考えて薄手ながら丈夫で布面積の多い制服を着用している。
これにはサド子だけでなく、彼女の子分たちも同様に生唾を飲んでいた。
「ふふっ♪ あの子――スンが幼くて可愛くて強いのが気になるのでしょう?」
「え? いや、まぁ、そうです……はい」
あまりにも美人なナモの問いに狼狽えてしまうが、確かにスンもまあ極上の美幼女。
四肢と両目を失っているという特殊な身体ではあるが、極小のマイクロビキニで“キカイカン”の返り血に染まる姿も確かに魅力的ではあった。
「そうですよね。確かにあの子は才能の塊。
もうすぐ“隊長”として出世するついでに、このキャンナベ国へと配属になるので皆さんを助けたのもその準備です。
少しばかりスンには前科があって、この国の王との交渉を有利に運ぶためにも必要でして」
「えっと、そういう話って、あたいらが聞いていいのかい?」
「ええ、ワタシも人を見る目はありますから。
スンのために協力してくれそうな人には恩を売りたいですからね」
そう言ってナモは名刺を差し出して去っていった。
去り際に「百合の扉はいつでも開かれている」と、意味深なことを言ったのは、サド子たちの素性を知った上で助けたことを伝える意味だろう。
この時のサド子は深く考えていなかったが、この経験から自分の弱さと、触手部隊に入れば前科も消えることに気づいた。
だからこそ、横転した装甲車の上に駆け上り、無駄に派手なポーズで宣言をしたのだ。
「よっし! テメーラ、今日で丸樹堂一味は解散だ!
明日っからは“キカイカン討伐戦闘部隊”に入って、真っ当に強さと百合道を極めようと思う!」
勢いで生きているサド子であったが、それは彼女の子分たちも同じこと。
「何言ってるんすか親分!
そんなん言われたらついていくに決まってるじゃないっすか!?」
「我ら、生まれた日は違えども乱交する時に年功序列なんてローカルルールは持ち出さない程の仲」
「あたしら、親分に救われて盗賊やっていただけだもんね~♪」
「親分、その位置だとパンツ丸見えっす♪」
こうして固い絆で結ばれた丸樹堂一味は解散。そして再結成。
翌日には国境を勝手に超えてニッポダイン帝国入りし、見た目の可愛さと百合であることを示した結果あっさりと入隊決定。
キフ長官もサド子たちが可愛かったので、二つ返事で彼女たちの過去の罪にも恩赦を与えるよう各国へと手配を回した。
それが一年前の出来事である。