※この作品はR-18です。

学校で一番エッチなヤツのおねショタ歴程   作:ピーマン

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悪魔がでたぞ

「何よ……何よ、何よ何よッ」

 

 夕太と美夜子が去っていった部屋。

 彼の精液の残り香が漂うその部屋で、つばさは一人、全裸のまま当たり散らす。

 

 棚から物を引っ張り出しては、乱暴に放り投げていく。口からブツブツと呪言のように文句を吐き捨てながら。

 ローター、ディルド、バイブ、振動マッサージ機など。様々なアダルトグッズが音を立てて床に転がる。ディルドやバイブは最近買い足したショタサイズのモノで、処女を失ってから手慰みに使う予定だったため、未使用のままだ。

 

「私が先だったのに……」

 

 エッチなことしてあげたのも、イかせてあげたのも、好きと言ってあげたのも。

 

 それなのに、トップアイドルである自分を選ばずに、姉を選んだ。

 なんて見る目がないのか! どうしようもないシスコンのエロガキめ!

 

 つばさはその文句が嫉妬の色に染まっていることを自覚していた。だからこそ、余計に苛立ちが湧き上がって抑え切れない。

 

「あっ!」

 

 棚が空っぽになって後ろに下がろうとした時、放り投げた物の一つを踏んづけて転げてしまう。

 

「いったぁ……」

 

 尻もちを突き、痛みにお尻をさするつばさ。

 何を踏んだのかと見てみれば、オナホールだ。夕太に使ってあげようと買った品である。

 

 自分のおまんこと比較させて、『つばさちゃんの方が気持ちいい!』と言わせたかったのだ。

 結局、出番は一切与えず仕舞いに終わってしまったが。

 

「……夕太くんの、バカッ!」

 

 オナホールを掴み上げ、罵声と共に投げ捨てる。柔らかいそれは壁にぶつかって跳ね落ちた。

 

「…………」

 

 使おうと思えば、使えたのだ。

 でも、使えなかった。作り物であっても、他のおまんこで彼が気持ち良くなると思うと、どうしようもなく嫌な気持ちになったのである。 

 

 それは、つまり──

 

 

「~~~~~ッ!!」

 

 ブンブンブンッと首を横に振り回して、辿り着いた考えを頭から掻き消す。

 

 誰があんなエロガキなんか! アイドルの相手が務まるわけないじゃない!

 そう否定しにかかるも、夕太ともう交わることができないことへの喪失感が、それが誤りでないということを訴えかけてくる。

 

 でも、だからと言って、もう彼との関係は終わってしまったのだ。

 そもそも、あの『ムードスタンド』がなければ、今回だって事に及ぶことができなかったのかもしれないのだから。

 

 壊れて床に転がっているそれにぼーっと目をやる。続いて何とはなしに視線を巡らせると、ベッドに散らばって既に渇いた精液の跡が視界に入った。

 瞬間、ガバッと立ち上がってベッドへ駆け寄り、その形の良い鼻を擦りつけてスーハーッ、スーハーッと深呼吸。その香しい匂いで再び脳をピンクに染め上げさせる。

 

「ハッ……ハッ……!」

 

 シーツにこびりついたその跡に舌を這わせ、唾液で水分を与えて舐め取り、味わう。精子の一匹一匹をすくって身に入れるべく。

 何度も舌を這わせた後、遅れて正気に戻る。

 

 

「……ぁは……あははッ♡」

 

 

 無意識のうちに一連の行動を取ってしまったことに気づき、喉の底から渇いた笑い声が漏れ出た。

 

 何を嘆いていたのだろうか。ほんの少し前の自分の情けなさを嘲笑い、これからのことを考えて興奮に高笑う。

 夕太が美夜子を選んだから? それがどうした。浮気セックスまでした時点で、そんなことは関係ないじゃないか。

 

 これからはより正々堂々と彼に迫り、さらに過激に攻めるのだ。ムードスタンドのような道具に頼らずに。

 魅了術などといったズルをせず自力だけでトップアイドルに昇り詰めたつばさにとって、今の現状の方がよっぽどやりがいを感じられるルートである。

 

 今度こそ、夕太くんを美夜子さんから奪う。

 そのためなら、今の地位を失っても惜しくはなかった。

 

「……待っててね、夕太くん♡」

 

 だって、私は────

 

 

 

 

 

 ── ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ッ……

 

 

 

 

 

「きゃっ!」

 

 突然、床が、家全体が揺れ出した。地震だ。

 

 揺れに加えて一陣の風が割れた窓から入り込み、カーテンが翻る。

 ボブカットの黒髪が乱れ、つばさは慌てて髪を抑えながらその場に屈み、顔を伏せた。

 

 風が吹き止むと同時に、揺れも止む。

 すると、背後に気配を感じた。素肌の背中に対して、ゾワリと震えるほどの、石のように冷えた視線を感じ取ったのだ。

 

 そのまま正面にある扉に向かってひた走り、逃げたかった。

 だが、その時には既に、首が後ろへ振り向こうとしていたのである。反射的に動き出した体の反応に対して、人間はその意思で止めることはできない。

 

 そして、振り向いた。

 

 

 

「────ッ!!?」

 

 

 

 つばさの背後には、見たこともない人物が立っていた。

 いや、果たして人物と言えるのだろうか?

 

 細く切れ込んだ真緑に輝く目に、血のように赤黒い肌。女性らしい身体つきはしているが、明らかに人間の風貌ではない。

 何より、毛量が凄まじい白い長髪の中に混じった水色の二房。その毛先が、鎌首をもたげてつばさの方を向いていたのだ。長く細い、先が二股に別れた舌がペロリと顔を出す。どう見ても、それは蛇の頭をしていた。

 

「ひっ……!」

 

 屈んだ状態から尻もちを突き、後退るつばさ。

 そんな彼女に対して、蛇の髪を生やした化け物はふわりと宙に浮いたままにじり寄り、その切れ長の口を開く。

 

『ヤツは、どこだ……?』

「な、何? あなた誰なの!?」

『匂いだ……この部屋とお前から、ヤツの魔力香がプンプン臭うぞ』

「訳分かんないこと言って……で、出てってよ!」

 

 つばさは手元に転がっていた子供ちんぽを模したディルドを掴み、投げつけた。

 

『ッ!』

 

 それが空を切って化け物に向かう途中、相手の指先から青い光が放たれる。

 光が当たったディルドは見る間に灰色へと変わり、化け物の手に収まった。握ったディルドを二度見した彼女は、興味深そうに作り物のそれを指で弄り出す。

 

『……クンクン、ペロペロ』

 

 匂いを嗅いだり、舌で舐めたりもしている。

 だが、本物のそれでないと分かったのか、すぐに興味を失くして放り出した。

 

「あ……あ……」

 

 元は柔らかいはずなのに、ゴロゴロと音を立てて転がるディルド。その様子を見て、つばさはそれが石に変えられたことを悟る。

 今度は自分が……その考えが浮かんだ瞬間、ドアに向けて這いずるように駆け出す。

 

「えっ、なんで、なんでッ!?」

 

 が、ドアが開かない。ガチャガチャとノブを回すも、徒労に終わる。

 彼女は焦っていて気づいていないが、ドアには鍵がかかっていた。無論、閉めたのはつばさ自身。夕太と事に及ぶ上で、万が一コピーのつばさが早く帰ってきても邪魔されないようにするためにそうしたのだ。

 

 焦りに地団駄を踏むと、足に何かが当たる。視線を向けると、部屋に入ってすぐに放った通学鞄があった。

 そうだ、とつばさは急いでその鞄の外ポケットに仕舞ったモノを取り出す。

 

 

「助けて! 助けてぇ、夕太くんッ!!」 

 

 

 取り出したそれは、『カードテレビ電話』だった。

 カードを手に取り、通信を開始して唯一の相手である彼に助けを求める。

 

『話すつもりがないなら……もうお前に用はない』

 

 ディルドを懐に仕舞い、そう吐き捨てる化け物。

 その言葉を聞いたつばさはカードを持ったまま振り向き、化け物の指先が自身に向いているのを見て、声にならない悲鳴を上げた。

 後退り、背中をドアに打ちつけ、「いや……いやぁ……」と首を横に振る。

 

 そして、次の瞬間。青い光がつばさの視界を奪う。

 反射的に両腕で自身の身体を庇おうとする。その手から、カードがヒラヒラと舞い落ちた。

 

 

 

 

 

 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 

 

 

 

 

 

「つばさちゃん! つばさちゃんったら!!」

 

 夕太が抱きついていくら声をかけても、彼女はうんともすんとも言わない。

 物言わぬ石像となって、灰色の裸身を晒している。

 

 乳首や股間の陰毛ははっきりとその形が浮き上がっており、美術品として見れば最高の出来栄えと言っていいだろう。

 しかし、そんな邪な考えを浮かばせる余裕はなかった。トップアイドルが誇るその可愛らしい顔は、恐怖に歪んでいたのだから。

 

「これは、一体……」

 

 つばさに縋りつく夕太の後ろで、美夜子もまた目の前の異様な光景に愕然と眉をひそめている。

 

 人間が石に変えられる。そんな魔法、現代では聞いたことがなかった。

 夕太の気を引こうとして用意した作り物、というわけではないだろう。先ほどの彼女の助けを求める声は、本当に鬼気迫るものだったのだから。

 

 このような邪悪な魔法を扱う存在。恐らく、それは──

 

 

(……悪魔)

 

 

 代表的なのは、かつて地球侵略を企てたと言われる大魔王デマオン。彼の拠点である魔界星に生息する悪魔達だ。

 しかし、デマオンは1000年前にナルニアデスがその命を犠牲にして打ち倒された。それによって、彼の配下である悪魔達も皆いなくなったはず。実話であればの話だが。

 

 一方で、この地球にも悪魔は存在していた。人々を唆したりなど悪さを繰り返していたらしい。

 そんな彼らも300年以上もの間、存在を確認できていない。人間社会の発展によって、絶滅してしまったと言われている。

 

 以上のことから、普通に考えて悪魔の仕業とはならないだろう。それでも、美夜子はどうにもそんな予感がしてならなかった。

 だって、小さい頃に病に犯された自分が助かったのは、母親のおかげであり、彼女が契約したとされる悪魔の力によるものなのだから。

 

「ただいま~……あ~、だるぅ」

 

 そこへ、少々疲れ気味というか気怠げな声が。

 その声は、驚いたことに今目の前で石化している伊藤つばさの声そのものだった。

 

「? なんか、つっかえてる?」

 

 彼女はドアを開けようとしたが、つばさの石像に阻まれて中途半端にしか開けられないでいる。

 夕太は声の主に心当たりがあるのか、「も、もしかして、コピーちゃん!?」と声をかけた。

 

「あれ、夕太くん? はは~ん、さては私に仕事押しつけて二人でエッチなことしてたんでしょ? ずる~い! 私も混ぜてちょうだい!」

「それどころじゃないんだよ! 早く中に──」

「ゆ、夕くん、とりあえずつばささんを移動させましょう」

 

 美夜子に言われ、夕太は二人でつばさの石像を部屋の真ん中まで運ぶ。彼女に自分がプレゼントしたもう一人のつばさについて説明しながら。

 本当は美夜子が浮遊術を使えば簡単に済むのだが、夕太がつばさと離れようとしないので仕方なく一緒に持ち上げる形に。

 

 ドアのつかえがなくなって入ってきたつばさと瓜二つの少女──コピーロボットは、持ち主である彼女の姿を見て、驚きの表情と共に右手の平で口を覆った。いちいち仕草が可愛らしいのは変身元のせいだろう。

 

「え……これ、どういうこと?」

「分かんないよぉ。どうにかして元に戻してあげないと……」

 

 つばさの全裸像に抱きついたまま離さない夕太。

 コピーロボットはそれを見て、持ち主の心配はそこそこに、今ならこの子を独り占めできるかなと邪なことを考えた。 

 さすがつばさのコピーというべきか、彼女も早く夕太とエッチなことをしたくてしょうがないのだ。が、傍に美夜子がいることに気づき、心の中で舌打ちする。

 

 そこで、ふと思い出す。自分に備わっている機能を。

 

「夕太くん。ちょっと退いてくれる?」

「え? わ、分かった」

 

 夕太と入れ替わる形でつばさの前に立つコピー。そのまま頭を傾け、互いのおでこ同士をくっつける。

 

「こうするとね、お互いの記憶を共有することができるの」

「あ、そっか! さすがコピーちゃん! 美夜ちゃん、これで何が起こったか分かるよ!」

「え、ええ。何か元に戻す手掛かりが掴めればいいのだけど……」

 

 二人のやり取りを尻目に、コピーは瞼を閉じて記憶共有に集中。

 しばしそうしていると、彼女は急に「きゃあッ!?」と悲鳴を上げ、おでこを離して飛び退いた。

 

「な、何、あの化け物!?」

「化け物? コピーさん、それもっと詳しく──」

 

 

 

「──つばさ? どうしたの?」

 

 

 

 その時、一階の方から声が届いた。コピーの仕事に同伴していたつばさの母親だ。

 先ほどの悲鳴が聞こえたのだろう。階段を登る音が聞こえてくる。

 

「まずいよ、つばさちゃんのママが来ちゃう!」

「夕くん、『どこでもドア』出して! とりあえず、つばささんはウチに運びましょう!」

「う、うん! コピーちゃん、後でそこに落ちてる『カードテレビ電話』を使って、何が起こったのか教えてくれる!?」

「わ、分かったわ」

 

 慌てて段取りを決める三人。

 夕太はどこでもドアを出し、美夜子に浮遊術でつばさを運んでもらって満月邸に帰宅するのだった。

 

 

 

 

 

 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 

 

 

 

 

 

「そんな、ことが……」

 

 小一時間後。

 夕食を済ませた夕太と美夜子は、カードテレビ電話でコピーからつばさの記憶について詳細を聞いた。

 

 蛇の髪を生やした化け物。間違いなく悪魔だ。

 腕を組みながら内容を吟味した美夜子は、完全に確信を持ってそう判断する。

 

「そいつがつばさちゃんを石に……絶対許さない!」

「夕くん……」

 

 つばさをひどい目に遭わせた化け物に対し、憤りを見せる夕太。

 イジメられても痛い目にあっても飄々としている彼が、こうして怒ることは滅多にない。

 

 やっぱり、夕くんはつばささんのこと諦めてないのね。

 美夜子は少し寂しいような、モヤモヤとした気持ちを胸のうちで燻らせる。

 

 他にも、大好きな女の子がたくさんいるはずだ。

 きっと、その中から一人を選ぶというのは、とても辛くて難しいことだったのであろう。幼いなりに葛藤を経て、彼は私を選んでくれたのだ。

 

(そうよ。選んでもらえた私が、こんな感情に振り回されてちゃいけないわ。今はもっと、重大な局面に差し迫っているんだから)

 

 美夜子はざわつく心を鎮めるため、ゆっくりと深呼吸した。

 

『あ、それとね、化け物はつばさちゃんを石にした後、すぐにどこかへ飛んで行ったみたい』

「じゃあ、まだこの街のどこかにいるかもしれないってことだよね」

 

 夕太が今までにないくらい真剣な顔つきでそう呟く。

 そんな彼を見て、美夜子は慌てて座っていた椅子から腰を上げた。

 

「ゆ、夕くん、まさか探しに行こうって考えてる?」

「だって、そいつを捕まえてつばさちゃんを元に戻させないと!」

「ダメよ! 危険すぎるわ! 夕くんまで石にされちゃったら、私……」

「み、美夜ちゃん……」

 

 見つめ合う二人。コピーはカードテレビ電話のミニチュア映像越しにそれを眺めながら、心底どうでも良さそうに頬杖を突く。

 実は彼女、もう一つ重要な情報を教えていない。その理由は、ひとえに黙っていた方が面白そうだと考えているからだ。

 

 

 ──コンッ、コンッ

 

 

「あれ、お客さん?」

『美夜ちゃーん! ゆうくーん!』

 

 玄関からのノック音に遅れて聞こえてきた、良く通る少女の声。魔美だ。

 彼女は森の入り口付近に住んでいるので、ホウキを使えば1分もかからずに満月邸を訪れることができる。

 

「魔美ねえだ!」

「もう、あの子ったら悪魔がうろついてるかもしれないのに……魔美! いいから上がって!」

 

 声を返して席を立つ美夜子。

 それからすぐに戻ってきた彼女に連れられて、魔美が食堂に顔を出した。その顔はお昼のこともあってか、少し気まずそうである。

 

「こんばんは。ごめんなさい、こんな遅くに──って、そのカードなあに? またゆーくんの出した道具?」

「そ、それより、大丈夫だった? 何か変なの見かけたりしなかった?」

「? 別に何も見かけてないけど……ところで、おじ様はいらっしゃらないの?」

「お父様なら、学会発表で海外に行ってるけど……」

「え? じゃあ、二階で寂しがってるのはだあれ?」

 

 魔美の質問に、美夜子は思わず怪訝な顔をしてしまう。一体、彼女は何を言っているのかと。

 

 今この満月邸にいるのは、美夜子と夕太、そして来たばかりの魔美だけ。

 確かに二階の夕太の部屋には石像と化したつばさがベッドに寝かされているが、彼女はそれを知らないはずなのだ。

 

「……ッ! もしかして!」

 

 魔美の言動に何か心当たりがあるのか、急に椅子を引いて立ち上がる夕太。

 机の上のカードテレビ電話を引っ掴み、立体映像のコピーをその腕に抱く。そして、美夜子達の横を通り過ぎて食堂を走り出た。

 

「ちょ、夕くん!?」

 

 慌てて追いかける美夜子。状況をよく分かっていない魔美も、目をパチクリとさせながらその後を追う。

 ドタドタと慌ただしく階段を登って、彼が向かった先は──自分の部屋。

 

「つばさちゃん!」

 

 ベッドに寝かされている灰色に染まったつばさ。その硬くなった裸体に向かって、夕太は飛び込むようにして抱きついた。

 

「ごめんね、一人で部屋に置いてかれて寂しかったよね。大丈夫、ぼくが傍にいたげるから!」

 

 そう言って、つばさの頭を慰めるように優しく撫でてあげる。

 ザラザラとした感触が返ってきたが、不思議と彼女の恐怖に歪んだままの表情が和らいだように見えたのは気のせいだろうか。

 

 いや、気のせいではない。見た目は変わっていないが、確かにそう見えたのだ。

 夕太は確信した。彼女の意識は、石像と化しても未だ残っているのだと。

 

『む~、もうバレちゃったか』

 

 夕太の手に握られたカードから投影されている立体映像のコピーはつまらなさそうに頬を膨らませている。

 つばさと記憶を共有したコピーは、当然ながら彼女の意識が残っている事実に気づいていた。そうでなければ、『化け物がすぐに去っていった』という石化した後の情報を得ることなどできないのだから。

 

 もっと面白い展開を期待してたのに、と溜息を吐く。

 具体的には、石化したつばさの目の前で自分と夕太がキスするところを見せつけるとか。セックスして、仲睦まじく愛し合っているのを見せつけるとか。中出ししてもらって、彼の精液で溢れたおまんこを見せつけるとか。

 

 自分でも鬼畜の所業だと思っているが、果たしてこの考えは伊藤つばさの性質をトレースしたゆえに生まれたモノなのだろうか? それとも、自分自身の欲求から生まれたモノなのか?

 考えれば考えるほど、コピーの頭に暗いモヤが燻り出す。その鬱憤をぶつけるべく、彼女は夕太の腕をはたいた。

 

『ちょっと、夕太くん! 私だって一人で頑張ってるんだからね!』

「あ、そ、そうだよね。ありがとう、コピーちゃん」

『えへへ~♡』

 

 文句を投げかけたコピーの頭を人差し指で撫でてあげる夕太。立体映像越しに撫でてもらえた彼女は、嬉しそうに頬を緩ませる。

 どうだ羨ましいかと、横目でつばさに視線を送るコピー。しかし、当のつばさは気にもしていないのか、変わらずピンク光線を夕太に放っていた。石になっているのに器用なものだ。

 

「あ、あの石像がベルの発信源? でも……み、美夜ちゃん、一体全体どういうことなのぉ?」

「……え~っと」

 

 その一方で、部屋の入り口で見ていた美夜子と魔美。

 美夜子がつばさのことを想う夕太に複雑そうな表情を見せる中、人気アイドルそっくりの石像を前に魔美は混乱状態だ。

 

 ここで誤魔化そうと思えば誤魔化せるだろう。だが、外に悪魔がうろついていることを考えると、そのまま帰すわけにもいかない。

 美夜子は諦めて、彼女に事の次第と今の状況を説明することにした。

 

「…………じゃ、じゃあ、あの石像は本物の伊藤つばさちゃんで、今も悪魔が街をうろついているってこと!?」

 

 一通りの話を聞き終えた魔美が、その顔を見る間に蒼褪めさせる。

 彼女、何を隠そう自他共に認める怖がりである。ホラー映画はもちろん、子供騙しの怪談話でも怯えて耳を塞ぐほどだ。

 

「これは私の推測なんだけど、もしかしたら大魔王デマオンが復活したのかも……」

「えぇっ!? 嘘ぉ!」

「もちろん、最悪を考えたらの話だけどね? でも、最近地震が増えてるし、悪いことが起こる前兆なんじゃないかって思わずにはいられないのよ……あっ」

 

 

 

 ── ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……

 

 

 

 噂をすればというのか、地鳴りと共に地震が起き、美夜子達の足元を建物ごと揺らした。

 

「ひぃぃッ!」

 

 魔美は情けない声を上げ、夕太の埃を被った勉強机の下に頭を突っ込む形で隠れてしまう。

 頭隠して尻隠さず。スカートが捲れ上がって、可愛らしいピンクの水玉パンツが丸見えだ。美夜子より大きなお尻がぷりんっと主張している。

 

 しばらくして地震が止むと、彼女はおっかなびっくりといった様子で机から顔を出した。

 

「み、美夜ちゃん。今日、泊まっていい?」

「……まあ、そう言うとは思ってたけど。私からもお願いするわ。少なくとも朝にならないと、外になんか出せないもの」

 

 親友の了承を得られて、ほっと息を吐く魔美。

 そして、未だつばさの石像の傍を離れない夕太の方を見やる。

 

「可哀想に……石にされても意識が残ったままだなんて。でも、何で裸なの?」

「気にしないであげて。それよりなんだけど、あなたどうして二階に彼女がいることが分かったの?」

「え? だって、あの子からベルが──あっ」

 

 美夜子の質問に返す途中、慌てて自分の口を塞ぐ。

 エスパーだということは、彼女にも話していない秘密だ。知っているのは、自身を除けば夕太だけである。

 

「つばさちゃんのベルが届いたんだよね? 魔美ねえ」

「ゆ、ゆーくん!」

 

 その夕太が、引き継ぐ形で続きを話し出した。

 声を上げるも、彼はそんな魔美に諭すような目を向ける。

 

「魔美ねえ、美夜ちゃんには話しておこうよ。ね?」

「う、うん……」

 

 夕太に促され、魔美は渋々美夜子に自身の能力について説明し始める。

 

 本当のことを言うと、親友の彼女には元々話すつもりだった。でも、その前に夕太に知られてしまった。彼との、二人だけの秘密となったのだ。

 それからである。美夜子に話そうという気が薄れてしまったのは。説明しながら、魔美は改めて自分の醜さが嫌になった。

 

 

 

 

 

 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 

 

 

 

 

 

「つばさちゃん、待っててね。晩ご飯食べてくるから」

(夕太くん! 行かないで! 夕太くぅん!)

 

 時は戻って、石像にされたつばさが満月邸に運ばれてすぐの頃。

 

 満月邸に運ばれたつばさの視界から、会いたくてしょうがなかった夕太の姿が遠のいていく。

 つばさは必死で足掻いた。声を出そうと。動かない腕を伸ばそうと。だが、どれだけ力を入れても身体はビクとも動かなかった。

 

 石にされて間もなく、夕太が駆けつけてくれた時はそれは嬉しかったものだ。

 ああ、この子はまだ私のことを好いてくれてるんだと。あんなひどいことを言ったにも関わらず。

 

 すぐにでも抱きしめてあげたかったのに、それが叶わないことに胸を痛めた。肌の感触を味わうこともできないなんて、これ以上の拷問があるだろうか。

 そして、夕太は再び自分のもとを離れていってしまった。それが一時的なものだと分かっていても、彼の人肌恋しさが一層溢れ返る。

 

(いやぁ……置いてかないでぇ……)

 

 目も石化しているのに目の前の光景が見えるというのは何とも不思議だ。魔法とはそういうものなのだろう。

 こんな思いをするなら、意識を失ってしまった方がよっぽどマシというもの。涙を流したくても流せないのだから。

 

 それからしばらく時間が経っても、夕太は戻ってこなかった。

 多分、晩ご飯を食べ終えて、そのままコピーから事の次第を聞いているのだろう。

 

 早く戻ってきて欲しい。戻ってきて、また触れて欲しい。撫でて欲しい。

 石となったつばさの冷たい身体には、彼の手はとても暖かった。胸がポカポカとして、子宮がキュンと熱くなって。もしこの手が動いていれば、股間を弄って弄り倒しているだろう。

 

(寂しい……寂しいよ、夕太くん)

 

 その時、ドタドタと階段を昇る音が聞こえてきた。もしかして、と期待に胸を高鳴らせる。

 

「──つばさちゃん!」

 

 彼女の期待通り、夕太が部屋に走り戻ってきた。

 彼はベッドに寝かされたつばさの灰色に染まった裸身に飛び込むようにして抱きつく。

 

「ごめんね、一人で部屋に置いてかれて寂しかったよね。大丈夫、ぼくが傍にいたげるから!」

(ああっ♡ 夕太くんッ♡ 夕太くんッ♡♡)

 

 戻ってきてくれた! 私の寂しいって気持ち、伝わったんだ!

 離れていても自分のことを分かってくれたという事実に、つばさの心は歓喜に震えた。石になっていなければ、今すぐにでも彼を押し倒し、愛液で溢れ返った女陰でもって想いをぶつけていたほどに。

 

 本当は気持ちが伝わったわけではないのだが、それは言わぬが花というものだろう。

 そう、つばさは自身が夕太のことを好きだと自覚していた。もちろん恋愛的な意味で。あれだけ否定していたにも関わらず。

 もはや道具を抜きにしても、彼なしではいられないほどに心奪われていた。

 

 今まではアイドルとしてのプライドが邪魔していたのだろう。

 だが、美夜子に横から掠め取られてしまったことで、諦め切れないという気持ちが止めどなく湧き上がった。そして、その想いこそが恋心だということを悟ったのである。

 

(好きっ♡ 好きッ♡ 好きィィ♡♡)

 

 私はもう、夕太くんのモノだから!

 傍にいてくれるなら、石のままだって構わない!

 

 ひたすらに夕太への想いを吐露する。

 彼を自分の虜にするはずが、既に自分が彼の虜となっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




つばさちゃんはしばらく石のままとなります。
本当はミズエちゃんやパラダピア先生も石にして話に絡めたかったんですけど、話が長くなってしまうので断念しました。それに、彼女らはコピーロボットのような身代わりがいないので難しいんですよね。

え? タイムふろしきで元に戻せばいいって? ごもっとも。



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