※この作品はR-18です。

学校で一番エッチなヤツのおねショタ歴程   作:ピーマン

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魔界大決戦

 時は遡って、数時間前。

 美夜子達はルカの案内を経て、月の裏側に開けられた時空痕から魔界へと足を踏み入れていた。

 

「ぶふっ!?」

「ま、魔美! 大丈夫!?」

 

 魔界に降り立つや否や、魔美は顔を上げた先で顔面に何かをぶつけて変な声を上げた。

 体勢を崩して倒れそうになる彼女を支えてあげる美夜子。

 

「これって……栗まんじゅう?」

 

 その横で、自分達の周囲にふよふよと浮かんでいる物体を一つ手に取ったリームがそう呟く。焦げ茶色の焼き色がついた丸いそれは、どこからどう見ても栗まんじゅうだった。

 両手で裂いてみれば、中には白餡に茹でて潰した栗が混ぜられており、ふっくら香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 

「な、何で魔界に栗まんじゅうが浮かんでるの? それも、こんなにたくさん」

「気をつけて。魔王の罠かもしれないわ」

「あ、いや、これはデマオンじゃなくて……」

「え?」

 

 何やら事情を知っていそうなルカだったが、非常に言い難そうというか気まずそうな顔をして口を濁してしまった。

 

「と、とにかく、ボクはルナを探しに行くから! 三人共気をつけてね!」

「わ、分かったわ。ここまでありがとう。あなたも気をつけて!」

 

 美夜子の言葉にルカは頷いて返し、青い光を纏って宙へと飛び立った。

 頭のウサミミがアンテナの役割を担っており、それを使って周囲の魔素を魔力に変換しているらしい。自前の魔力を必要としないので、単独で空中浮遊が容易となっているのだろう。

 

「岩を削って造られた城が向こうに見えるわ……あれって、もしかしなくても魔王の城よね?」

「ええ! いきなりラストダンジョンってことォ!?」

「魔界歴程に書いてあった悪魔達の町や帰らずの原をスキップできたのは嬉しいけど……」

 

 それが幸か不幸になるかは、今の彼女達には分からない。

 

「……こうしてても仕方がないわ。ひとまず、あの城を目指しましょう。夕くんが捕まってるかもしれないし」

 

 三人は頷き合い、城へと向かい始めた。月へ赴いた際と同じく、美夜子と魔美は絨毯に乗って、リームはタイムブルームで並走する形だ。

 あまり目立たないようにできるだけ高くは飛ばず、尖った岩でできた針の山を陰にして突き進む。その間、栗まんじゅうが身体にいくつも当たるのは言うまでもない。痛みはないが、うっとおしくてしょうがなかった。

 

「……どうにかならないのかしら? この栗まんじゅう」

「へも、ほいひいわよ?」

「ま、魔美! あなたまさか食べちゃったの!?」

 

 リームが文句を零す中、何やらもごもごとした声で返す魔美を見た美夜子は思わず声を上げてしまう。彼女は栗まんじゅうを手に頬を膨らませていたのだ。

 

「んぐっ、ちょっと小腹が空いちゃって」

「毒でも入ってたらどうするの!? ペッしなさい! ペッ!」

「大丈夫よ、何かあったら部分テレポートでお腹から出せばいいんだから。それに、普通に美味しいわよ。この栗まんじゅう」

「ほ、本当に? 腐ってたりするんじゃ……」

「……ここは時間の流れから外れた空間だもの。食べ物も腐らずにそのままってことなんだと思うわ」

 

 確かに、周りに浮かんでいる栗まんじゅうはどれも出来立てほやほやのような良い香りと質感をしている。カビなんて生えているモノは全く見当たらなかった。

 そればかりか、なんだか見ているうちにどんどん増えていっているような気がしなくもない。

 

「……あら?」

 

 そうして栗まんじゅうに溢れた光景を前に魔界のイメージが崩れていく中、美夜子は視界の端にきらめく何かを発見。

 手でリームに合図して進行方向を変え、その何かに近づく。絨毯から降り、地面に落ちているそれを拾い上げた。

 

「……銀製の、ダーツ?」

 

 銀でできていること以外、何の変哲もないダーツ。しかし、美夜子はそれが気になってしょうがなかった。

 なぜなら、そのダーツから慣れ親しんだ魔力を感じたからだ。身体の中に注がれたこともある、彼女にとって触れていて最も心地良い感触。

 

「美夜ちゃん。もしかしてそれ──」

「ッ! 美夜子、魔美!」

 

 魔美もその魔力を感じて口を開けた矢先、リームが声を上げて前方の岩陰を指差した。

 悪魔が現れたのかと、即座に顔を上げて警戒する美夜子。そして、怯える魔美。

 

 

「…………ッ!」

 

 

 岩の陰から現れたのは、確かに悪魔だった。

 だが、それは美夜子達が見知った姿をしていた。頭から二頭の蛇が生えた白い長髪をした美女。

 

「……み、美夜子?」

 

 見間違えるはずもない。現れた悪魔は、メジューサだった。そしてその正体は、他の誰でもない美夜子の母、沙夜子。夕太を誘拐した張本人。

 しかも、どういうわけか全裸で、その赤黒い肌は傷だらけであった。

 

「どうして、あなたがここに──」

 

 その姿を認めた瞬間、美夜子は銀のダーツを傍にいた魔美に押しつけ、満月邸から持ち出した甲冑の剣を収納ペンダントから取り出す。

 両手で持った得物を大上段に振り被りながら、地を蹴って駆け出した。

 

 

 

「 夕くんを返しなさああぁーーいッッ!! 」

 

 

 

「きゃああぁぁーーっ!??」

 

 脳天目掛けて振り下ろされた剣を、メジューサ──沙夜子は悲鳴を上げながら間一髪防ぐ。

 両の手の平で挟んだ、見事な白刃取りである。

 

「み、み、美夜子! 何するの!? ママはあなたをそんな乱暴な子に育てた覚えはないわよぉ!」

「うるさい! ママの演技なんかしたって、もう騙されないんだから! 夕くんはどこなの!?」

「待って! 待って! 誤解よ! デマオンを油断させるには、どうしても夕ちゃんを連れて行く必要があって……」

「言い訳なんか聞きたくないわ! 早く私の夕くんを返しなさ──」

 

 その時だった。ポタリ……と、二人の喧騒の間に静かな水音が響いたのだ。

 反射的に音が聞こえた地面に視線を向ける美夜子。

 

 そこには、黄ばみの混じった白い水滴が落ちていた。

 見ているうちにまた一滴、二滴、同じ液体が滴り落ちる。粘度が高いのか、どろりとした動きで。鼻をくすぐるのは、嗅ぎ慣れた愛しい匂いとアンモニアの香り。 

 

 その軌跡を辿るようにして、視線を上へと動かす。

 ポタポタと落ちる黄ばんだ白濁液は、沙夜子の股間──女陰から滲み出ていた。その下腹部では、紋様がその存在を主張するように桃色の光を輝かせている。

 

「あ、えと……その、美夜子。落ち着いて、ね?」

「……たの?」

「え?」

「夕くんと、したの?」

「………………」

 

 数秒の重たい沈黙。

 誤魔化し切れないと悟ったのか、沙夜子は気まずそうな顔で視線を反らしながら「…………はい」と呟いて返した。

 

 

 

 

「 この変態悪魔ああぁぁーーーッ!! 」

 

 

 

 

 怒声を上げた美夜子が再び剣を振り被り、今度は沙夜子の手をすり抜けてその頭を殴りつける。もちろん、所詮はアンティーク。刃は潰されているのでただ痛いだけである。

 

「痛っ! 痛いわっ! 美夜子やめて! これには深い訳があるのよ! デマオンを倒すには、赤い月を破壊しないと、それには夕ちゃんの魔力が必要で──」

「えっ!? ちょ、ちょっと美夜子! 重要な話みたいだから今は堪えてちょうだい!」

「そうよ美夜ちゃん、気持ちは分かるけど抑えて!」

 

 様子からして、沙夜子の人格はメジューサの演技というわけでもなさそうだった。それを察したリームと魔美によって羽交い絞めにされ、離される美夜子。

 今度は悲しみの方が上回ったのか、二人に支えられながらその場に泣き崩れる。普段はしっかり者なのに、夕太が絡むと情緒不安定になりがちである。

 

「ううぅ……みんなに私の気持ちなんて分からないわよ」

 

 彼の浮気を許すといったが、さすがに自分の母親と関係を持つことには抵抗があったようだ。いや、あって当たり前なのだが。

 魔美は自分の母親である菜穂子が夕太と関係を持ったらと考えてみたが、イマイチ想像ができなかった。美術に関わることならまだしも、こういうことに関しては持ち前の想像力を働かせられないらしい。

 

 

 

『──ワハハハッ!』

 

 

 

 その時、上空から野太い笑い声が轟いた。

 魔界星の大気を震わすほどの魔力が乗った声。空を見上げた美夜子達の視線の先には、いかにもな風体をした影のような黒い巨人の姿があった。

 

「ま、まさか、大魔王──」

「デマオン……!?」

 

 その魔力の強大さに圧倒されながらも、リームと魔美がその正体を悟って声を漏らす。

 

『いかにも。ワシこそが大魔王デマオンなり。フフフ、メジューサ以外にもナルニアデスの匂いを撒き散らす鼠が三人も我が領域に入り込んでいるとは……やはり、地球の女はふしだら──』

「うるさあぁいッ!!」

『ひえっ』

 

 口上を述べていたところに突然怒鳴りつけられ、思わず肩をビクつかせるデマオン。

 怒鳴り声を上げたのはもちろん、美夜子だ。

 

「今大事な話してるのよ! 引っ込んでてちょうだい!!」

『ぶ、無礼な。ワシは大魔王──』

「何が大魔王よ! 夕くんに負けたくせに! 1000年もしつこく恨んでるなんて女々しいにもほどがあるわ!」

『う、ううぅ……』

 

 人間の女の勢いに負けてしまい、デマオンはその巨体を縮こませている。

 沙夜子は愛娘の力強さにドン引きしながらも、隙を見てリームと魔美に近づく。

 

「……リームちゃん、魔美ちゃん。さっきも言ったけど、デマオンの弱点はあの空に浮かんでる赤い月よ。あれが彼の心臓なの。あれを破壊しない限り、彼は倒せないわ」

「あ、あの月が、心臓なんですか!?」

「ええ。でも、夕ちゃんの魔力がこもった銀のダーツでしか心臓を破壊できないの。それを落としてしまって……」

「銀のダーツ? それって、これのことですか?」

 

 話を聞いて、魔美が美夜子から押しつけられたダーツを沙夜子に見せる。

 

「ッ! そう、それよ! 良かっ──」

「あなたが潔く地球を諦めてれば、ママも夕くんも……! 許さないッ!! 立て! 火柱ァ!!」

 

 そこへ、話を聞いていない美夜子が一人デマオンに攻撃を始めてしまった。

 沙夜子達が呆気に取られる中、火柱が大魔王へと迫っていく。

 

『むっ、たかが人間の魔法など……え? あちっ! あちちっ!!』

 

 他愛もないとばかりに身構えもせずにいたデマオンだったが、身体を覆う魔力障壁をいとも簡単に打ち消されてしまった。炎がマントに燃え移り、慌ててはたき消している。

 予想外の結果に魔美達は驚くが、確かに美夜子の火柱は普段よりも火力が増しているように見えた。

 

『お、おのれェ……そうか、貴様もナルニアデスの魔力を宿しているのだったな! むう゛ぅ、もはや勘弁ならんッ!!』

 

 焼け切れてみすぼらしくなったマントを見て、デマオンは怒りに露わにした。

 

「ッ! させないわ! タイムロック!」

 

 彼が攻撃してくるのを察知したリームはすかさず『タイムコントローラー』を取り出し、スイッチを押す。

 

 

 ──カチッ

 

 

「……え?」

 

 しかし、時間が停止しなかった。目の前のデマオンは止まることなく、その魔力が瞬く間に膨れ上がっていく。

 リームは悟った。ここは時空の狭間。時の流れから外れたこの特殊な空間では、時間操作の魔法道具はその効果を発揮できないのだ。

 

 

『 受けてみよ! 我が力をッ!! 』

 

 

 デマオンが両手両足を広げて大の字になり、魔力を解き放つ。

 強力な衝撃波が美夜子達を襲った。

 

 

 

「「「 きゃあああぁぁーーっ!! 」」」 ブンッ

 

 

 

 悪魔の身体を持った沙夜子でさえも大ダメージを受けた攻撃だ。

 脆い人間である美夜子達はいとも簡単に吹き飛ばされ、岩壁に身体を打ちつける。沙夜子も度重なるダメージを受けて、ついに意識を手放してしまった。

 

『ワハハハッ! いかにナルニアデスの魔力があろうと、このワシには誰も敵わんのだ! ワハハハハッ!!』

 

 気絶したメジューサと少女達を見て、大魔王は呆気ない勝利に高笑う。

 見れば、少女達は見目麗しい容姿をしている。やろうと思えば、彼女らを好き放題することもできるだろう。デマオンは女に囲まれた自分を想像して、興奮に鼻を膨らました。

 

『……ッ! いかんいかん! ワシが愛するのは月の姫ただ一人のみ! ぼ、煩悩を消化しなければ! はむっ、むぐむぐ……』

 

 慌ててふためくデマオン。

 気を紛らわせるため、近くを漂っていた栗まんじゅうを片っ端から貪り始める。

 

 彼は気づかない。

 ただ一人だけ。自身の攻撃から逃れた者がいたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ピヨヨンッ

 

「きゃあっ!」

 

 宙から落下し、少女──魔美は尻もちを突いて短い悲鳴を上げた。

 

「いたた……そっか。あたし、テレポートしちゃったんだわ」

 

 お尻を擦り、スカートについた土埃を払いながら立ち上がる。

 どうやら、魔美がいる場所は魔王城の中にある通路の一つのようだ。周りを見渡してみるが、栗まんじゅうが無数に浮かんでいる以外は誰も見当たらない。

 

 敵地に一人ぼっちという状況。

 極度の怖がりである魔美はその心細さと身体を震わす。点々と配置された松明の頼りない灯りしかないのもあって、暗がりがより彼女の心に恐怖を蝕ませる。

 

「いやぁ……こんなトコで一人ぼっちなんて」

 

 へなへなと力なく座り込む魔美。

 今頃、美夜子達は魔王にひどい目に遭わされているかもしれない。早く助けに向かわなければならないのに、臆病な彼女の身体は言うことを聞いてくれなかった。

 

「ゆーくん……!」

 

 地面に両手を突きながら、この場にいない最愛の少年の名を縋るように呟く。

 聞こえるはずもないのに。それでも、自分を保つために口にせずにはいられなかったのだ。

 

 その場から動くことができず、ただただ時間が過ぎていく。

 しかし、それからしばらくの時間が経過した頃、魔美の耳に聞き慣れない音が聞こえてきた。カラカラカラと、何かが回っているかのような乾いた音だ。

 

 普通の人間なら、魔王の配下が近づいてきているのかもしれないと思うだろう。

 だが、魔美は違った。その目に期待の色を輝かせ、確信を持ってその音が聞こえる方に視線を向ける。

 

 そして、暗闇の向こうから現れたのは──

 

 

「──魔美ねえ!」

「ゆーくんッ!!」

 

 

 会いたくて堪らなかった恋人、夕太だった。

 魔美は弾かれるように立ち上がり、地面に降りた彼の小さな身体に飛びついた。

 

「ゆーくん! 良かった、無事だったのね!」

「うん。魔美ねえの声が聞こえたから、急いで飛んできたんだ」

「え? あたしの声?」

「多分、テレパシーが届いたんだと思うよ。ぼく、土牢の中にいたから」

 

 夕太はそう言うが、魔美は首を傾げる。

 彼女のテレパシーは経験上、直接触れ合っていたり、金属や水などを通じてでないと効果を発揮しないことが分かっている。地面を通じて交信できた経験は今まで一度としてなかったはずなのだ。

 

「それより、美夜ちゃんやリームさんは? ママもぼくを残して一人で行っちゃって……」

「ッ! そうだわ! あたし達、デマオンに襲われて……あたしだけがテレポートでここまで飛んできちゃったの! どうしよう、ゆーくん!」

「落ち着いて! 魔美ねえなら、美夜ちゃん達の声が聞こえるはずだよ!」

 

 不可抗力とは言え、一人だけ逃げてしまったことに動揺する魔美を諭す夕太。

 

「で、でも……」

「大丈夫! ぼくの大好きな魔美ねえなら、絶対できるよ!」

 

 魔美は小さな恋人の自信たっぷりの励ましに元気づけられ、こくりと頷き返す。

 そして、深呼吸して意識を集中させた。

 

 

 

『──こ、来ないで! 来ないでったら!』

『──いやぁ~! ゆうならともかく、こんなキノコに孕まされたくない~!!』

 

 

 

 聞こえてきた! 美夜子とリームの声だ!

 リームは何かよく分からないことを叫んでいるが、間違いない。

 

「分かった! ゆーくん、掴まって!」

「うん!」

 

 

 ──ブンッ

 

 

 彼女らの発する非常ベルを頼りに、魔美は夕太と共にテレポートするのだった。

 

 

 

 

 

 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

 混濁する意識の中、美夜子は身体の痛みで目を覚ました。

 ぼやけた視界で辺りを見回す。どうやら、自分は仰向けに倒れているようだ。

 

 そう理解した彼女は、身を起こそうと痛みを我慢しながら力を入れる。

 

「んっ……え?」

 

 しかし、動かない。正確には身体は少し動いたのだが、腕が何かに引っかかったかのようにそれ以上の動きを阻んだのだ。

 その際にジャリッという金属音が鳴り響いたことが気になり、美夜子は首を曲げて自身の腕を確認する。

 

「……な、何よ、これ!?」

 

 なんと、美夜子の両腕には手錠がかけられていた。見れば、両足にも。

 手錠に繋げられた鎖が彼女が寝かせられている台に固定されており、大の字になる形で拘束されていたのである。

 

「美夜子、起きたのね」

「リーム! 大丈夫!?」

「ええ、何とか……」

 

 声のした方に視線を向けると、隣に並んだ台にはリームが同じように拘束されて寝かされていた。その向こうには、気を失ったまま拘束されている沙夜子の姿も。消耗しているせいか、彼女の身体は人間のそれに戻っていた。

 

 三人共、ボロボロだ。服は所々が破け、汚れた肌を晒している。

 自分達は負けてしまったのだ。それが分かり、美夜子は悔しさに唇を噛む。何とか拘束から逃れようとしてみるが、鎖に魔法封じがかけられているのか、魔力を練ることができない。

 

 そこで、はたと気づく。もう一人、いるはずの魔美が見当たらないのだ。

 美夜子は慌てて反対方向を確認してみたが、彼女の姿はなかった。

 

『フフフ……気分はどうだ? 人間のメス共よ』

「デマオン……ッ!」 

 

 声に反応して仰向けの状態から首を持ち上げると、足の向こう、相変わらず栗まんじゅうがそこかしこに漂う中、大魔王デマオンが玉座に鎮座しているのが見えた。

 彼はなぜかその強面顔を横に向け、美夜子達から視線を反らしている。

 

『喜べ。貴様らは式典に出すご馳走として振る舞うつもりだ。ワシら悪魔族は古くから人間を珍味として食べていたようだが、ワシは好かんので禁止していた。だが、さすがに栗まんじゅうだけでは申し訳ないからな』

「式典? え?」

『分からんか? ワシと、姫の、結婚式だ!』

 

 結婚式? 美夜子もリームも首を傾げた。

 どうして地球侵略を企んでいる魔王が、結婚式などと似合わないことを言っているのか? それに、姫というのも誰のことを指しているのか分からない。

 

「姫って、一体誰のこと?」

『月の姫だ。彼女こそ、我が妃に相応しい。1000年前に催すはずだった彼女との結婚式を、今再びやり直す時が来たのだ!』

 

 1000年前。デマオンがナルニアデスによってこの時空の狭間に魔界星ごと放逐された頃だ。

 彼は当時のことを思い出しているのか、忌々しげに唸り、怒りに息を荒げている。

 

「ひそひそ(美夜子、何とか話を引き出させて時間を稼ぎましょう。そうすれば、チャンスが巡ってきて赤い月を破壊できるかも)」

「ひそひそ(え、月? 何で月を破壊するの?)」

「ひそひそ(ああ……あなたは聞いてなかったのよね。あの月がデマオンの心臓なのよ。それにあなたが拾ったダーツ、ゆうの魔力が込められたアレなら、月を破壊できるわ)」

「ひそひそ(ええっ!? そ、そういうことだったの……)」

 

 銀のダーツは、今は魔美が持っているはず。

 ひそひそ話をし終えた二人は頷き合い、手筈通り時間を稼ぐため美夜子が口を開く。

 

「……え~っと、つまり、1000年前は失敗してしまったわけね? それはどうして?」

『決まっているだろう! ナルニアデス! ヤツのせいだ! ヤツは姫をかどわかし、ワシと引き離した! あげくにこんな空間で1000年も……ええい、思い出しただけでも腹立たしいッ!!』

 

 話を聞いて、質問した美夜子はショックを受ける。

 ナルニアデス──つまり夕太は、伝説の魔法使いだった頃の1000年前でも女の子に夢中だったようだ。

 

 きっと初めての相手も自分ではなく、他の女の子だったに違いない。

 それが、ねじれゾーンの影響で精通前に戻ってしまった。自分が初体験で頂いたのは二度目の精通精子だったのかと思うと、何だか複雑な気持ちになってしまう。

 

「それは……気の毒だったわね。心中お察しするわ」

『おおっ! 分かってくれるか! 貴様、人間にしては分別があ──ゲフンゲフンッ』

 

 リームが形だけ同情してみせると、デマオンは上機嫌になって彼女の方に顔を向けた。

 が、すぐにまた顔を反らし、咳払いをする。

 

 彼の挙動不審さに疑問を浮かべた美夜子は、リームの方に再度視線を向ける。

 

 

「────ッ!?」

 

 

 そして、気づいた。大の字の形で拘束されているので、自分達がお股をおっぴろげた状態になっていることに。

 美夜子が着ている服はお気に入りの蓮の花を模した服。リームはいつものT・P隊員の制服。どちらもミニスカートなので、デマオンからはパンツが丸見えなのだ。リームなんて丈が股下ギリギリなのもあって、完全に捲れてもはやワカメちゃん状態である。

 

『むうぅッ! なぜ、なぜ人間のメスはそのようなふしだらな服を着ているのだ! おかげでろくに直視もできん!』

「あ、あなたがこんなイヤらしい拘束の仕方するからでしょう!?」

『何だと!? これは我々悪魔族に伝わる由緒正しき拘束法だ! そのような思考に至る貴様の頭こそ、イヤらしいのではないか!?』

「なんですってェ!?」

 

 口論を始めてしまう美夜子とデマオン。

 リームは溜息を吐きながらも、何かを確認するように辺りへ視線を配らせる。

 

「ええいっ! 下品なメスとの会話などもはや不要! 調理を開始する!」

 

 業を煮やしたのか、合図するようにバッと手を上げるデマオン。

 すると、岩壁の陰からワラワラと何かが姿を現し始める。リームは目を瞬かせた。

 

「……キ、キノコ?」

 

 それは、どこからどう見てもキノコだった。赤らんだ傘の部分の先端には亀裂が入っていて何か別の卑猥なモノを思わせる風体をしているが、紛れもなくキノコである。

 何匹もいるキノコ達はぴょんぴょんと跳ねながら、台に寝かされている美夜子達を興奮した様子で眺めている。

 

「こ、これ、ハラマセダケだわッ!」

 

 キノコを見てその正体に気づき、慌て始める美夜子。

 忘れるはずもない。5年前、夕太と出かけた森の中で見つけたキノコだ。

 

「ハ、ハラマセダケ? 美夜子、知ってるの?」

「孕ませるだけ孕ませて、責任取らない悪いヤツよ!」

「孕ま……えええっ!?」

『ほう、よく知っているな。そうか、思い出してみれば、時空痕の初期実験でギョロリンの他にこのキノコも放り込んでいたか』

 

 つまり、あのキノコは元々魔界産だったのだ。

 夕太が知っていたのも納得である。1000年前の記憶が朧げに残っていたのだろう。

 

『フフフ……ハラマセダケの子は成長が早くて数時間で出産を迎えると聞く。貴様らだけでは料理が足りんのでな。まずは数を増やさせてもらうぞ』

 

 デマオンはほくそ笑み、高らかに叫ぶ。

 

『さあ、ハラマセダケよ! ナルニアデスのメス達を思う存分孕ませるがいい!』

 

 その声を切っ掛けに、一斉にハラマセダケ達が美夜子達に群がり始めた。

 

「こ、来ないで! 来ないでったら!」

「いやぁ~! ゆうならともかく、こんなキノコに孕まされたくない~!! ──もがッ」

「ちょっとリーム! 今のどういうこと!? ひゃっ、いやあぁッ!!」

 

 叫び声を上げていたリームの口目掛けてハラマセダケの一匹が飛び込み、自らの身体で塞ぐ。そのまま、身体全体を揺らすようにしてピストンをし始めた。

 気を失っている沙夜子は一人だけ放置されている。反応がないのがつまらないのか、若い方が良いのか、どうやら彼らは存外趣味が悪いらしい。

 そして、美夜子。彼女は股ぐらにハラマセダケが潜り込んでパンツを破り始めたため、貞操を奪われる恐怖に悲鳴を上げた。

 

『お、おお? そ、そんなことまで……ま、まさか、こんなにもエッチな行為だったとは……!』

 

 命令した張本人であるデマオンが驚きながらも興奮した様子でチラ見している。どうやら、彼は子供を孕ませる方法がどんなものか知らなかったようだ。

 もしかすると料理を増やすというのは建前で、彼の言う姫との子作りのために前もって知っておこうとハラマセダケを寄越したのかもしれない。

 

「助けて! 助けてェ! 夕くーん!!」

 

 美夜子は瞼を閉じて涙を散らしながら、小さな恋人の名を呼んだ。

 

 

 

 

「 ──こらああぁぁーーーッ!!! 」

 

 

 

 

 美夜子は目を見開く。

 聞こえたのだ。聞きたくて聞きたくてしょうがなかった、大好きな彼の声が。

 

『むっ! ナ、ナルニアデス!!』

 

 デマオンの反応で確信する。来てくれた! あの子が来てくれたんだ! 

 ピンチに駆けつけてくれた彼に胸をときめかせ、キュゥゥンッと子宮を熱くさせる。

 

「美夜ちゃんも! リームさんも! ママも! みんなぼくのなんだぞ! 離れろォー!!」

 

 颯爽と現れた夕太は、『ひらりマント』を手にハラマセダケの群れに飛び込む。

 バッサバッサと続け様に弾いてあっという間に美夜子達のもとへ辿り着き、彼女らに纏わりつく不埒者を吹っ飛ばす。

 

「夕くん!」

「美夜ちゃん! ごめんね、遅れちゃって!」

「ううん、いいの! 本当に、無事で良かった……!」

 

 うっとりとした表情で夕太を見上げ、涙を零す美夜子。

 夕太はそんな彼女を安心させるように笑いかけると、デマオンの方を振り返って再び睨みつける。

 

「デマオン! よくも美夜ちゃん達をひどい目に合わせたな! 今度はぼくが相手だ!」

『フ、フフフ……今さら貴様が出てきたとて、無駄なことだ』

 

 デマオンは少し驚いた様子ながらもすぐに余裕の態度を取り戻し、夕太を嘲り笑った。

 

『ナルニアデス、貴様は弱体化して魔法を使えなくなったのだろう? そんな人間以下と化した貴様など、このデマオンの敵ではないわ!』

「ぼくはナルニアデスじゃなくて、夕太だ! ママから聞いたぞ! デマオンはドーテイだって!」

「「ぶっ!」」

 

 予想外過ぎる夕太の返しに、美夜子とリームが思わず噴き出す。

 悪魔を束ねる大魔王が童貞だなんて、こんなおかしなことがあるだろうか。

 

『な、何だ? そのドーテイというのは?』

「セックスしたことない人のことだよ! あ、分かんないか。え~っと、簡単に言えば、女の子とエッチなことした経験がない人ってこと!」

『な、なななな……エ、エ、エッチだとぉ!?』

 

 デマオンはあからさまに動揺し始めた。顔を真っ赤にして、羞恥心で頭から煙を出している。

 

「ぼくはもう美夜ちゃんと魔美ねえ、つばさちゃんにママともセックスしたもんね! だから、ぼくの勝ち!」

『ふ、ふざけるな! そんなふしだらな勝敗の決め方があってたまるかァ!!』

「あ、後、ルナともセックスしたんだった」

『いい加減に──何?』 

 

 後付けするように零した夕太の言葉。

 それを聞いたデマオンは動揺による震えをピタリと止め、一転して無表情になった。

 

『今、何と言った?』

「え? だから、ルナともセックスしたって……」

「ゆ、夕くん。ルナって、まさか……」

 

 ルナ。それは魔界星まで案内してくれた、エスパルであるルカの姉の名前。

 確か、彼女は夕太を助けるために一人で魔界へ向かったという話だった。しかし、いくら彼に恩があるとは言え、そんな危険なことをするだろうか?

 

 しかし、もし彼女が、デマオンの言う"月の姫"だったとしたら──

 

 

 

 

 

『 き、き、き、貴様あああぁぁぁーーーーーッッ!!! 』

 

 

 

 

 

 激高したデマオンはその漆黒の巨体を怒りで赤く染め上げ、地響きと共に夕太へ向けて突撃してきた。

 

「うわああぁっ!?」

 

 そのあまりの剣幕に夕太は怯えながらも、美夜子達を巻き込まないようにすべくその場から逃げ出す。

 そんな彼を大魔王が猛追。あっという間に追いつくが、ひらりマントで巴投げされるように避けられてしまう。

 

『ぐうぅっ! き、貴様、魔法が使えなくなったのではないのか!? いや、そうか。1000年前といい、そのどこからともなく出す道具こそが貴様の魔法というわけだな! だが、そんなことは関係ない! 貴様だけは……貴様だけは、直接殴らなければ気が済まぬぅ!!』

「あわわ……ッ!」

 

 ひらりマント片手に逃げ惑う夕太。それを追うデマオン。

 美夜子は助けに行くべく必死で身じろぎするが、当然鎖を外すことはできない。

 

「夕くん! 夕くん!!」

「……美夜ちゃんっ」

「え?」

 

 恋人の危機に叫ぶ中、耳元に届く囁き声。

 首を動かして視線を向けると、そこには台の陰に隠れるようにして潜む魔美の姿があった。リームもそれに気づき、グリーンの瞳を輝かせる。

 

「「魔美!」」

「美夜ちゃんもリームも、大丈夫? 今助けてあげるから」

 

 そう言って、まず美夜子を解放するためにペンダントから圧縮空気を放つ。テレポートで手錠と鎖だけをその場に残して彼女をすぐ傍へ瞬間移動させた。

 

 最初は回避に特化した魔美が囮になって、その間に夕太が美夜子達を助ける手筈だったのだ。だが、夕太がそれに反対した。好きな女の子を危険に晒すことなんてできないと。

 実際、魔美ではあれほどデマオンの注意を引けなかっただろうし、結果的にはこれで正解だったのである。

 

「ありがとう、魔美! 無事で良かったわ!」

 

 美夜子はすぐさま起き上がり、夕太を助けるべく駆け出していった。収納ペンダントから予備の剣を取り出しながら。

 

「さ、次はリームよ。じっとしててね」

「ありがとう。それより魔美、ちょっとお願いがあるんだけど……」

「え? お願い?」

 

 拘束から逃れること以上に優先すべきことがあるのだろうか? 

 首を傾げる魔美に、リームは頷いて返した。

 

「……魔美。沙夜子さんが落とした銀のダーツ、まだ持ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワシは! ワシは信じんぞ!! 貴様が姫を襲ったのだろう!? 絶対に、許さァァんッ!! 死ねええェェ!!」

「わああっ!」

 

 振り下ろされた巨大な拳を前に、夕太はひらりマントを翻す。その結果、何度目かの受け流しに成功した。が──

 

 

 ビリィィッ!!

 

 

「ああっ!?」

 

 攻撃を受け流し続けて、ついにひらりマントが破れてしまったのだ。デマオンの強力な魔力の余波を受け流し切れず、そのダメージが積み重なった影響だろう。

 

『ワハハハッ! これで貴様はもう終わり──「穿て! 突風!」むっ!?』

 

 夕太にトドメを刺そうとしたところで、デマオンは横合いから猛烈な風を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「夕くん!」

「美夜ちゃん!」

 

 駆けつけた美夜子の胸に夕太が飛び込み、二人は抱き合う。

 その様子を、体勢を立て直したデマオンは忌々しげに彼女と、それを逃がしたであろう魔美を睨みつけている。

 

『ぬう゛ぅ、もう一匹メスがいたことを忘れていた……! おのれ、ナルニアデスの魔力さえなければ貴様の攻撃など……!』

「夕くんの魔力……? ッ、そうか! そういうことね!」

 

 ここに来て、美夜子はようやく気づいた。自身の魔力が強化されていることに。

 恐らくそれは、夕太の濃厚な魔力を宿した精液を子宮でもって受け止めたから。女性の子宮は銀に並んで魔力吸収率が高いのだ。

 

 昨夜、膣内射精してもらった分が未だに効果を発揮しているのだろう。

 思い返せば、夕太と初めてセックスした時も自身の魔力が活性化している感覚があった。

 

「大魔王デマオン!」

 

 美夜子は高揚感と自信を胸に大魔王へ剣を向ける。

 外からも内からも、彼が守ってくれていることが分かったから。

 

「もうあなたなんか怖くないわ! 覚悟しなさい!」

『さ、最初から喧嘩腰だったヤツが何を……これでも喰らえェェ!!』

 

 叫びと共に、デマオンの両手から先の衝撃波が夕太と美夜子に向けて再び放たれる。

 

「美夜ちゃん!」

「大丈夫よ! やあっ!」

 

 迫るデマオンの攻撃に、美夜子が夕太を抱きながら魔力を乗せた剣を振るう。

 すると、衝撃波は真っ二つに裂かれ、美夜子達を避けるように通り過ぎていった。

 

『ば……馬鹿なッ!?』

 

 信じられないとばかりに目を剥くデマオン。

 元々魔力の質も量も平均以上の美夜子。それが相性バッチリの夕太の魔力でブーストされ、大魔王もビックリの威力を発揮していた。

 初対面の際の火柱も、あのまま続け様に受けていれば火達磨にされていただろう。

 

「美夜ちゃん!」

「美夜子、お待たせ!」

 

 そこへ、遅れて魔美とリームも駆けつけてきた。

 詳細の分からない魔法道具を隠し持つナルニアデスと、彼の魔力を宿した女が三人。いかにデマオンと言えど、多勢に無勢である。

 

「えーい!」

「それ、行きなさい!」

『うおおッ!?』

 

 魔美のテレキネシスが、デマオンの身体を拘束。

 続けてさらに、リームが『生体コントローラー』を使って、逃げ惑っていたハラマセダケ達をデマオンに差し向けた。この魔法道具は、動物を意のままに操ることができるのだ。

 

『や、やめっ! アーーッ!!』

 

 尻に群がってヘコヘコと震え出すハラマセダケ達を振り払おうとするが、魔美のテレキネシスのせいで思うように腕が動かない。

 そうこうしているうちに一匹がデマオンの下衣を破き、尻穴に突入しようと迫る。

 

 

『 ぬううぅぅ……お゛おおおォォォーーッッ!!! 』

 

 

 しかし、寸でのところで魔力を解き放ち、群がったハラマセダケを消し飛ばした。

 デマオンは息も絶え絶えながらも、夕太達を射殺さんばかりに睨みつける。

 

『はあ……はあ……い、いかにワシを追い詰めようと、結果は変わらん。ワシは不死身なのだからな!!』

「知ってるわ、そんなことは。アタシ達ばかりに目を向けていたのが失敗だったわね」

『……何? ま、まさかッ!?』

 

 リームの言葉を受けて、咄嗟に頭上を仰ぎ見るデマオン。

 天に浮かぶ、自身の心臓である赤い月。それに向けて進む、大掛かりな見た目をした白いホウキの姿が目に入った。

 

 その正体は、リームのタイムブルーム。

 先端には銀のダーツがいつでも射出できるように備えつけられている。リームに頼まれた魔美が近辺に潜んでいたそれに仕掛けたのだ。

 

 タイムブルームは主がいなくても自身で思考して行動する、いわば彼女の使い魔のような存在。命令を受けて、デマオンが夕太達に注目している間に赤い月へと向かっていた。

 

 

 

「「「これで終わりよ! デマオン!!」」」

『や、やめろおおおォォーーーーッ!!』

 

 

 

 美夜子達の掛け声と共に、タイムブルームから銀のダーツが射出される。

 もはや間に合わない。苦し紛れに手を伸ばすデマオンだったが、夕太の魔力が込められたダーツは吸い込まれるように赤い月へと撃ち込まれた。

 

 

 

 

 

『 ゲエエエェェーーーーッッ!!! 』

 

 

 

 

 

 カッ!! と赤い光が瞬く。

 デマオンの断末魔と共に、月が砕けて崩れ落ち始めた。

 

「やったぁ!」

「これで、地球は救われるのね……!」

 

 敗北濃厚だったにも関わらず成し遂げたことに、夕太達は歓喜の声を上げる。

 

 これも、みんな夕くんのおかげだわ。

 美夜子はそう思いながら腕の中で喜んでいる彼を愛しそうに見つめ、ギュッと抱きしめた。

 

 

 

 

『ぐうぅ……ぐふッ、フフフフフ……』

 

 

 

 

「……え?」

 

 だが、デマオンの苦悶の声が笑い声に変わっていることに気づき、ハッと顔を上げる。

 

『フフフ……ワハハハハハッ!!』

 

 赤い月──心臓を破壊されたにも関わらず、大魔王は一切のダメージを受けていないかのようにケロッとした様子で高笑いを響かせた。

 

「ど、どうして……」

『ワハハッ! 馬鹿め! メジューサから月が弱点だと教わったのだろうが、それは古い情報だ。ワシは前もって、心臓を別のモノにすり替えておいたのだ!』

 

 歓喜と達成感に満ち溢れていた夕太達の顔が、一気に絶望へと冷め堕ちていく。

 こうなっては何が彼の弱点か分からない。万事休すである。

 

『フフ……だが、人間の分際でここまで頑張ったのだ。特別に教えてやろう。ワシの心臓の真の在処を』

 

 ところが、何を考えているのか、デマオンはそんなことを言い出した。

 形勢逆転できたというのに、わざわざ自分の弱点を隠した場所を教えるなんて。不可解極まりないが、夕太達は固唾を飲んでそれを聞くしかない。

 

 

 

『……それは、この無限に存在する栗まんじゅうのどれかだぁ!!』

 

 

 

「そ、そんなァ……」

 

 魔美が嘆くような声を漏らし、地面に崩れ落ちる。

 それは美夜子も、リームも同じだった。今にも魔美に続いて倒れそうなほど、彼女らは打ちひしがれた。

 

 この時空の狭間にいたるところに漂っている無数の栗まんじゅう。そのうちのどれか一つが、彼の心臓だと言うのだ。

 それを見つけて破壊するなんて、絶対に不可能。それ以前に、銀のダーツを作れる沙夜子も気絶したままなのだから。

 

 弱点が分かっても、できることがない。

 それを知っているから、デマオンはわざわざネタ晴らししたのだ。

 

「ま、まだ、何か方法があるはずだよ! そ、そうだ。『銀河はかいばくだん』を使えば……」

 

 しかし、そんな中でも夕太は懸命に抗おうとポケットを漁り始める。

 

『無駄だ。この1000年間、栗まんじゅうは増殖し続けていたからな。今では銀河をはるかに超えて宇宙規模と化している。フフフ……感謝するぞ、ナルニアデス』

「え、な、何でぼく……?」

『何をとぼけているのだ。この増殖栗まんじゅうを放ったのは、他でもない貴様だろう? フフフ、ナルニアデスのメス達よ。こんなだらしのない放蕩者に惚れたのが間違いだったな』

 

 自分のせいで負けてしまった。

 その事実を突きつけられて、さすがの夕太も力を失くし、自身を抱く美夜子に身体を預けてしまう。

 

「ゆ、夕くん!」

「ごめん……美夜ちゃん。ぼくのせいで」

「ううん、そんなことないわ……私の方こそ、ごめんね」

 

 美夜子は夕太を抱きしめ、その場に座り込む。

 

 もはやこれまで。懸命に頑張ったが、後一歩届かなかった。

 いや、最初から勝つ道筋を潰されてしまっていたのだ。そうとも知らず抗う人間達を見て、さぞ愉快だっだだろう。

 

『前に出ろ、ナルニアデス。せめてもの慈悲だ。貴様が大人しくその命を差し出すのであれば、メス達だけは助けてやろう』

「ッ!? そんな……そんなこと、絶対許さないわ!」

「そ、そうよ!」

「ゆう、聞いちゃダメよ!」

 

 美夜子が声を上げ、夕太を隠すように庇い抱く。魔美とリームも夕太の前に立ち塞がる。

 

「み、美夜ちゃん、魔美ねえ、リームさん……ぼく、みんなのためなら──」

「夕くん、それ以上はダメ! ……ね? 私達、最後までずっと一緒よ」

「美夜ちゃん……」

 

 ひしと抱きしめ合う二人。魔美とリームも、二人に寄り添った。

 その子供ながらに心を通わせている姿を見て、デマオンはわなわなとその巨体を震わす。

 

『な、なぜだ……なぜそんなどうしようもない男ばかり愛されて、ワシは……くそおおおォォォッ!!』

 

 両手を頭上に運び、魔力を溜める。

 それはボール状となり、怒りのエネルギーも合わさって見る間に膨れ上がっていく。尋常でない魔力が集まっているのだ。

 

 あんなものを受ければ、夕太達はおろか、この魔界星も一溜まりもないだろう。

 夕太と美夜子達は大魔王の魔力光に照らされながら、最後の時が迫っているのを感じて瞼を閉じる。

 

『消えて失くなれええェェーーーッッ!!!』

 

 そして、魔力の塊が大魔王の手から放たれようとする。

  

 

 

 

 

「────デマオンッ!!」

 

 

 

 

 

 刹那、その場に凛とした声が響き渡った。

 夕太達は後方から聞こえてきたその声に反応して、振り返る。呼ばれた本人もまた、標的である彼らから視線を移した。

 

『お、おお……ひ、姫っ!!』

 

 そこにいたのは、夕太の妻を名乗った少女──ルナ。 

 星々が輝く夜空のように綺麗な青の髪とウサミミ、白いロングケープをたなびかせながら、夕太達の方へ歩み寄る。そのすぐ後ろには、弟であるルカが控えていた。

 

「ル、ルナ……?」

 

 彼女は美夜子に抱かれている夕太の隣に並び、キッと親の仇を見るようにデマオンを無言で睨みつけた。

 

「…………」

『姫……そうか、夫であるワシを迎えに来てくれたのだな。すまない、長い時間待たせてしまって』

 

 デマオンはせっかく溜めた魔力の塊を自ら打ち消し、腕を広げる。

 1000年ぶりに再会した、妻を迎えるべく。

 

『さあっ! 式を挙げよう! 月の光を封印し、新たな魔界星となる地球で幸せな夫婦生活を始めようじゃないか!』

「お断りします」

 

 

 し……ん、と気まずい沈黙が訪れる。

 

 

『……え? さ、さあっ! 式を挙げ──』

「お断りします」

 

 聞き間違いかと思って仕切り直したデマオンだったが、無情にも再び突っぱねられてしまう。

 

『な……なぜだ! 1000年前、そなたはワシのプロポーズを受け入れてくれたではないか! そ、そうか。この匂い、ナルニアデスに襲われて魅了術をかけられたのだな!?』

「いいえ、違います。そもそも1000年前のことだって、あなたが勝手に勘違いしただけなのですから。それに──」

 

 必死に追い縋るように言葉を並べるデマオンに対し、ルナは冷淡な態度で返しながらゆっくりと歩み寄る。その両手で、ロングケープ越しにお腹を抱えるようにしながら。

 心配になった夕太が「ルナ!」と声をかける。彼女は振り向いてニコリと微笑み返すと、デマオンに向き直った。

 

「私にはもう、この子がいますから!」

 

 そして、バッ! と自らケープを剥ぎ取った。

 その下の何も着ていない美しい裸身を、大魔王の前に晒す。

 

『おおぉっ……!! ──お?』

 

 愛する少女が目の前で裸になったことに興奮し、マントの下──股間の辺りで何か巨大なモノを盛り上げるデマオン。

 だが、彼は気づいた。彼女の腹部が不自然に膨れ上がっていることに。そこから、にっくきナルニアデスの魔力香が漂っていることに。

 

『ひ、姫よ。そのお腹は、まさか……』

「もう、お分かりなのでしょう?」

 

 ルナは静かに瞼を閉じ、ポッと赤らんだ頬に両手を添えて答えた。

 

「──私と、ユウタさんの子です♡」

 

 

 

 

 

「「「 え゛えええぇぇーーーーーッ!!!?? 」」」

 

 

 

 

 

 美夜子達の驚愕の声が狭間の世界に響き渡る。

 当の夕太は「え? え? ぼくと、ルナの子供……?」と驚きよりも困惑が上回っているようだ。

 

 最後に、自分こそがルナの夫だと思い込んでいたデマオン。

 彼は時が止まったかのように動きを止め、その大きな口からうわ言のように声を漏らしている。

 

『そ、そんな……そん、な……────』

 

 緑に輝く彼の瞳が、白目を剥く。

 そして、これまでの全てを吐き出すように、天に向けて叫ぶ。

 

 

 

 

『 ナ、ナルニアデスに……呪いあれェェーーーッッ!!! 』

 

 

 

 

 狭間全体に響き渡るような、怨念に満ちた断末魔。ピシャッ!! と稲光が辺りを照らす。

 そのままグラリとその巨体が大きく傾き、仰向けに倒れて魔界の大地を揺らした。

 

「……え?」

 

 そう、倒れたのだ。

 リームが代表して恐る恐る近づき、状態を確認する。結果、彼は完全に事切れていた。

 

 

 

 

 大魔王デマオン。

 長きに渡って魔界星の王として君臨した彼の死因、それは──

 

 寝取られによる脳破壊であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なお、寝取られと言ってもデマオン視点での話で、実際はただの横恋慕である。
次回は1000年前の話を挟む予定です。

話は変わりますが、来年のドラえもん映画の情報が出ましたね。
ホウキで飛んだり悪魔がいたりするみたいですけど、魔界大冒険とは繋がりは多分ない。
後、ロリとショタはいいとして、あのコウモリ。毎回マスコットキャラを出さないといけないノルマでもあるのだろうか?

〇デマオン
書いてて可哀想になってきた大魔王。
最初は栗まんじゅうを食べたら自分の心臓を引き当てて自爆するというオチの予定だったが、ルナの出番がなくなるので現在の形になった。
どうでもいいけど、栗まんじゅうって響きがエロい。

〇ルナ
1000年ボテ腹の女。
出産してないのは胎児の状態で成長が止まっているため。何かしらの切っ掛けで出産できるかもだが、それまではずっとボテ腹のまま。
ちなみに、月面探査記のマスコットキャラである亀のモゾは登場させても活躍の場を与えられないので存在を割愛している。



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