※この作品はR-18です。

日本と皇國の幻争正統記・好色秘伝   作:坐久靈二

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庚

 一年後、武(たけ)田(だ)観(み)月(づき)は軍に留(とど)まっていた。

 命令無視の独断専行から被撃墜、最新鋭機の鹵(ろ)獲(かく)、更には部隊の全滅を招き、隊長を死なせた上に虜囚となった彼女は少尉に降格となった。

 それでも一応は機密を漏らさなかったということで、退役だけはどうにか免れたが、彼女に突き刺さる視線は羨(せん)望(ぼう)や嫉妬から侮蔑や嘲笑に変わってしまった。

 

 針の筵(むしろ)となった彼女だったが、かといって家を捨てて村を飛び出した彼女に帰る場所など無い。

 どんなに惨めでも、居たたまれなくても、軍にしがみ付くより他に無かったのだ。

 

 そんな観(み)月(づき)にとって、心の安まる時間が僅(わず)かにあった。

 軍には華族の子女を一定期間預かって訓練を行う制度があるのだが、それを利用した一人の男爵令嬢が観(み)月(づき)の預かりとなっていたのだ。

 令嬢の名は水(み)徒(と)端(はた)早(さ)辺(え)子(こ)――観(み)月(づき)が家を出る際、身元の引き受けを請け負った水(み)徒(と)端(はた)男爵家の次女である。

 

 観(み)月(づき)は早(さ)辺(え)子(こ)に為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦を訓練していた。

 これは貴族達にとって、非常に人気の技能だ。

 時には公爵家の当主自らがこれを身に付けたいと希望する程である。

 

「早(さ)辺(え)子(こ)は筋が良いな」

「ありがとう、観(み)月(づき)」

 

 或(あ)る夕刻、観(み)月(づき)と早(さ)辺(え)子(こ)はその日の訓練を終えて営内を歩いていた。

 彼女と居る一時だけは、観(み)月(づき)は己の現況を忘れることが出来る。

 教えを請う人間を導くのは、本来こうありたかった自分自身の姿と重なる。

 細(ささ)やかながら、早(さ)辺(え)子(こ)の存在は観(み)月(づき)の救いだった。

 

「しかし、突然為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦技能を身に付けたいとは、どういった心境なんだ?」

「私(わたくし)には……やらなければならないことがあるのです……」

 

 早(さ)辺(え)子(こ)の表情に暗い影が差した。

 実のところ、観(み)月(づき)は早(さ)辺(え)子(こ)の胸中を薄々察してはいた。

 というのも、早(さ)辺(え)子(こ)が現在為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の訓練を受けられているのは通常あり得ないことなのだ。

 

「やらなければならないこと……なんとなく解(わか)るが、その為(ため)に皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)に入るとはな」

「軍に顔が利かなければ、上級貴族の方々を差し置いて訓練を受けられませんから……」

 

 皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)とは、軍人や下級貴族の間で密(ひそ)かに党員を増やしている極右政治団体である。

 皇(こう)國(こく)に於(お)いて神(じん)皇(のう)や皇族は深い崇敬の念を集めているが、皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)は神(じん)皇(のう)の親政を求める過激な変革思想を持っている。

 

「早(そ)芙(う)子(こ)さんか……。国家に忠誠を誓う軍人の身で言うのも難だが、見付かると良いな」

「ありがとう」

 

 早(さ)辺(え)子(こ)の姉・水(み)徒(と)端(はた)早(そ)芙(う)子(こ)は水(み)徒(と)端(はた)家の令嬢でありながら武(ぶ)装(そう)戦(せん)隊(たい)・狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)に奔(はし)って叛(はん)逆(ぎやく)者に身を堕(お)としたと聞く。

 早(さ)辺(え)子(こ)はそんな姉を探し出して連れ戻すべく、狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)に潜入しようと考えているのだ。

 身分を偽って自分を売り込む為に、為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦技術を身に付けようという腹積もりなのである。

 

(水(み)徒(と)端(はた)家の令嬢……恵まれた境遇で育った女……ということは、所属は「地(ち)上(じよう)ノ(の)蠍(さそり)座(ざ)」の方なんだろうな……なら、今頃彼女は……)

 

 一年前の動乱では、結局狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)は敗退して勢力を著(いちじる)しく衰退させ、地(ち)上(じよう)ノ(の)蠍(さそり)座(ざ)は壊滅した。

 早(さ)辺(え)子(こ)の姉は十中八九、地(ち)上(じよう)ノ(の)蠍(さそり)座(ざ)と共に身を滅ぼしているだろう。

 しかし、観(み)月(づき)には言えなかった。

 早(さ)辺(え)子(こ)を止めてしまえば、自分が救われる時間が終わってしまう。

 

(うっ……!)

 

 瞬間、観(み)月(づき)は体の奥底に込み上げるものを感じた。

 

「どうしたのですか、観(み)月(づき)?」

「いや、何でもない」

 

 平気な顔を早(さ)辺(え)子(こ)に向ける観(み)月(づき)だが、彼女の中ではぐつぐつとある衝動が煮(に)え滾(たぎ)っていた。

 それはふとした切(きっ)掛(かけ)で蘇(よみがえ)る心的外傷(トラウマ)にも似ている。

 

「じゃあ観(み)月(づき)、私(わたくし)は此(こ)処(こ)で」

「ああ、気を付けて帰れよ」

 

 門での別れ際、早(さ)辺(え)子(こ)は観(み)月(づき)に深々と頭を下げた。

 やはり、叛逆者に関わろうとする早(さ)辺(え)子(こ)のことは止めるべきだろう。

 しかし、観(み)月(づき)にはどうしても出来なかった。

 彼女は最(も)早(はや)、狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)や地(ち)上(じよう)ノ(の)蠍(さそり)座(ざ)のことは平常心で考えられないのだ。

 

(駄目だ……早く戻らないと……)

 

 彼女は急いで、営内の宿舎へと向かった。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 近年、自衛隊では勤務環境の改善が行われ、自衛官に個室を与えられるようになってきているらしい。

 皇(こう)國(こく)の軍でもまた、同様の改革が行われていた。

 とはいえ、個室が与えられるのは将校以上に限られる。

 観(み)月(づき)の降格が少尉に留まったのは非常に幸いであった。

 

「うぅ……はぁ、はぁ……」

 

 何(な)故(ぜ)なら彼女は時折、どうしても自分を慰めずにはいられなくなってしまうからだ。

 引き金となるのは、一年前に地(じ)頭(とう)恭(きょう)輔(すけ)から受けた凌(りよう)辱(じよく)を思い出してしまうこと。

 また、それに起因した今の惨めな境遇に思いを馳(は)せてしまっても、同じ様な衝動に駆られる。

 

「おぉぉぅっ、んおぉぉっ……」

 

 今日も観(み)月(づき)は布団の上で自分の秘部を指で掻(か)き回(まわ)し、当時の記憶を思い起こしながら自慰行為に耽(ふけ)っていた。

 ただそれは、彼女にとって決して甘美な一時ではない。

 

(やめろ……やめろ……!)

 

 観(み)月(づき)が反(はん)芻(すう)するのは苦痛と恐怖、屈辱と屈服の記憶である。

 腹への執(しつ)拗(よう)な拳打で痛め付けられ無(む)理(り)矢(や)理(り)犯されて感じた苦痛、その仕打ちに因(よ)って植え付けられてしまった恐怖、心が折れて敵に許しを乞いながら床に失禁し小便を舐(な)めさせられた屈辱、首を絞められながら犯されて中に出されて絶頂した屈服。

 それら全てが暗い悦楽として彼女を苛(さいな)み、どうしようも無く体を熱くさせるのだ。

 

「ああアッ、糞(くそ)! 糞(くそ)!」

 

 だが勿(もち)論(ろん)、このような行為は観(み)月(づき)が本来望むところではない。

 本来は選良(エリート)として人の上に立つ筈(はず)だったのに、その道も絶たれて斯(か)様(よう)な有様を演じている。

 その落差から来る惨めさが、更に観(み)月(づき)を昂(たか)ぶらせてしまう。

 

「イっグッッ! イグイグイグゥゥッ!!」

 

 そして遂(つい)には、秘部を激しく掻き回しながら、みっともない声を上げて絶頂してしまうのだ。

 これでもかと体を仰(の)け反(ぞ)らせ、足を伸ばして痙(けい)攣(れん)し、暗い快楽の波に揺られる。

 そして一(ひと)頻(しき)り快楽を貪(むさぼ)った後、観(み)月(づき)は濡(ぬ)れた布団に力無く寝そべる。

 

(私(わたし)は……私(わたし)は最低だ……。いつまでこんなことを……。もう死にたい……)

 

 自(じ)己(こ)嫌(けん)悪(お)の毛布が彼女を包む。

 だがこの日はこれで終わりではなかった。

 彼女の電話端末が鳴り、或る人物からの連絡を告げていた。

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