しかしその後、刻御門の調教計画は思わぬ形で頓挫することになる。
蛟乃神の父親である神皇が倒れ、更に皇國は日本国との間に戦争を起こした。
それにより、蛟乃神は神皇の負っていた役割を担う為に、皇宮から自邸に帰れなくなったのだ。
蛟乃神邸で待機する刻御門は焦っていた。
このままでは、首領Дの命令を果たせない。
(あの無能坊や、適当な理由を付けて帰って来なさいよ! 本当、何処までも意気地無しなんだから……!)
刻御門は、己の都合より国家を優先する態度を理解出来なかった。
彼女にとって男らしさとは、責任を負うことではない。
社会よりも自分の意志を優先することこそ、強さの証だった。
(折角貞操帯が届いて、これから射精管理調教してやるところだったのに……!)
刻御門は机に置かれた金属製の貞操帯を見ながら爪を噛んだ。
とその時、彼女の電話が鳴った。
「はい。あ、申し訳御座いません首領様。あれからまだ調教出来ていなくて……」
刻御門は首領から、日々蛟乃神を調教する様を動画で送るよう命令されていた。
この電話は、最近それが途絶えていたことに対する催促である。
「だ、だってあいつ、開戦してから全然帰って来ないんですよ。流石に皇宮で調教する訳には行かないじゃないですか。え? そ、そんな嫌です! 私、首領様の御褒美無しではもう生きていけないんです!」
刻御門は蛟乃神を調教するだけでなく、日々電話越しで首領Дからの命令通りに自分を慰める調教を受けていた。
そして時折、御褒美と称して直接の調教も受けている。
「はい……はい……私は首領様に絶対服従のマゾ雌奴隷です。首領様の為に必ず蛟乃神殿下を寝取られマゾに調教します……」
電話は刻御門の誓いだけを目当てにしていたかの様に突然一方的に切られた。
(このままじゃ……首領様に棄てられちゃう……! こうなったら皇宮に乗り込んで物陰で殿下を……! でも、どうやって? 皇宮に坐す皇族は蛟乃神殿下だけじゃないし、警備だって尋常じゃない……)
刻御門は一つ深呼吸すると、意を決して貞操帯を手に取った。
(四の五の言ってはいられない! やる! やるんだ! やるしかない!)
彼女は固い決意と共に、一人皇宮を目指した。
⦿⦿⦿
適当な理由を付けて、刻御門は皇宮宮殿御車止までやってきた。
どうにかして中へと入り、蛟乃神と会わなければ。
(会ってしまえばどうにでもなる。寂しかったとでも言えば、お優しい殿下は私を無下にはしない筈)
そんなことを考えながら、彼女は宮殿に足を踏み入れようと遠巻きに様子を窺っていた。
(ん?)
ふと、彼女は正門に見慣れた人影を見掛けた。
疲れた顔をしているが、間違い無い、自らの表向きの主君・蛟乃神賢智だ。
(いつもの甘いお顔が今日は三割引きってところかしら。しかし、一緒に居るのは……?)
どうやら蛟乃神は一人ではない。
何人かの女に囲まれて話をしている様だった。
表情から、唯でさえ疲れているのに困っている様に見える。
刻御門は物陰に隠れながら現場へ近付き、会話に聞き耳を立てる。
「三人とも、申し訳無いが僕は当分此処から離れられないんだよ」
「そんな……殿下、私がどれ程寂しい想いをしていたか、お解りにならないのですか?」
「いや、解るよ。僕だって寂しい。僕も君に会いたかった」
「あの、殿下、私はどうなんですか?」
「私だって!」
「勿論、会いたかったさ。寧ろ本音を言えば、会いに来てくれて嬉しいくらいなんだ。君達の顔を少しでも見られた御陰で、僅かな時間だけ幾分か寂しさが紛れる。君達の存在が、僕にとってどれだけ救いになっていることか……」
どうやら蛟乃神は自身に言い寄る三人の華族令嬢を宥めているらしい。
「さあ、名残惜しいけれどもうお帰り。この国難が過ぎ去ったら、君達に会う為に飛んで行くと誓うよ。その時こそ、会えなかった寂しさを沢山埋め合おう」
「殿下、約束ですよ?」
「私にも会ってくれますよね?」
「私だって!」
「勿論だよ」
刻御門はその光景を見ていられなかった。
酷く不愉快な逢瀬だ。
何度言っても、蛟乃神はどんな女にも良い顔をして、期待を持たせる。
そして女達もそれに言い包められ、関係を持とうと挙って言い寄るのだ。
(あいつ本当、なんなの? 全然私の言いなりにならないじゃない! あれだけ調教して、女性に弄ばれる快楽を教えてあげたのに……!)
強い嫉妬と、惨めさが刻御門を包んでいた。
怒りもある。
だが不思議と、彼女は絶望していなかった。
それ以上に強い衝動が彼女を支配していた。
(もう良い! あんな奴知らない!)
刻御門が向かったのは、皇宮からやや距離のある別の目的地だった。
⦿⦿⦿
とある高層集合住宅の一室、碌でもない連中が屯していた。
叛逆組織「武装戦隊・狼ノ牙」の最高幹部がこの場所を根城にしているのだ。
「組織の立て直しには後どれくらい必要かね?」
背の高い壮年の男が仲間の一人に尋ねた。
痩躯ではあるが鍛えられた筋肉が異様な威圧感を醸し出し、且つ何処か胡散臭い紳士性を帯びたこの男こそ、武装戦隊・狼ノ牙を束ねる「首領Д」と呼ばれる悪漢である。
そんな彼に、同年代の男が答える。
「全く足りませんよ。もう以前の様に銀行強盗の一回や二回で大金を手に入れられる時代じゃないんです」
「それもそうだね。しかし、財政的に危機的なこの状況下、少しでも足しにしたいのも確かだ。その為に貴族の令嬢を手籠めにしているのだからね」
神聖大日本皇國は武力侵攻も辞さない強権的な国家で、実際に日本国と戦争を起こしている。
武装戦隊・狼ノ牙はそんな皇國の政府に叛逆する組織であるが、その実態は決して善良とはいえないものである。
寧ろ、彼らを知る多くの者は、皇國と敵対する立場にあってすら彼らを「悪辣さは皇國より上」と評していた。
彼らは過激派である以上に凶悪な犯罪組織なのだ。
「刻御門嬢ですか……」
「うむ。しかし、彼女も最近は使えなくなってきたね。金払いも以前程は良くないし、命令も碌に熟せなくなっている。彼女に与えた指令は革命後に皇族の名誉を地に墜とす上でそれなりに重要なのだが……」
「他に何名か確保しておいた方が良いでしょうね」
「そうだね。また誰か修身院大學にでも通わせて適当な貴族令嬢を捕まえるとしよう」
良からぬ会話を交わす幹部達。
そんな彼らに囚われている少女が一人。
「助けて……御父様、兄様、姉様、助けて……」
薄汚れた姿で床に伏せっているギャルファッションの少女の名は狛乃神嵐花――蛟乃神の妹で、皇國第三皇女である。
本来の性格は非常に傲慢で我儘で、自身の享楽の為に叛逆者を弄ぶ強大な力を持つ非常に厄介な少女だが、今は力を使い果たしてすっかり弱っていた。
彼女は数日前、武装戦隊・狼ノ牙に捕まってしまったのだ。
恵まれた立場で大金を掛けて誂えた服装は無残にも破れ、節々にその肌を晒していた。
「扨て、ではそろそろ此方の調教の続きと行こうか……」
首領Дは狛乃神に眼を向けた。
ここ数日、彼女はこの男に何度も凌辱されている。
首領Дは革命家でありながら、同志以外の女を性欲の捌け口として見る悪質な性犯罪者であった。
取分け、皇國の上流階級の女を犯すのは彼の嗜虐心を大いに満たすのだ。
尤も、狼ノ牙に集まり最高幹部に上り詰めた男にはそういう類の者が少なくない。
狛乃神はそんな男達によって輪姦される毎日を送っているのだ。
「嫌……嫌……やめて……」
「おやおや、もう命令する気力も無いのかね? 最初のうちは『私様に指一本でも触れて唯で済むと思うな』などと、立場の解らないこと場をほざいていたものだがね」
首領Дの髭面が愉悦に歪む。
彼は狛乃神の髪を掴んで無理矢理立たせると、そのまま寝台の上に放り投げて転ばせた。
「では、いつものお楽しみと行こうではないかね」
首領Дが寝台に膝を乗せた、その時だった。
突然部屋の扉が開き、一人の女がずかずかと上がり込んできた。
和装をした、大きな鞄を持った女だ。
「……君がどうして此処に」
首領Дは彼女の姿を見て、怪訝そうに眉を顰めた。
女はそんな首領を横目に、黙って狛乃神の傍らに鞄を置いた。