時は流れ、戦争事態は一応の収束を見た。
革命動乱が鎮圧され、停戦に向けての交渉に入った皇國は、蛟乃神賢智を漸くその国務から解放した。
彼は一月振りに自邸に戻る。
だが其処には、もう刻御門竜胆は居なかった。
「刻御門……」
久々に寝室へと入った蛟乃神は、寝台に寝そべって天井を見上げる。
脳裡には、嘗ての侍女・刻御門竜胆と過ごした日々を思い浮かべていた。
「刻御門、君はどうしてあの男の許へ奔ったんだ? そんなに僕が不満だったのか?」
刻御門竜胆が彼の侍女となったのは、彼が丁度十五歳の頃だった。
当時の彼女は和装の似合う年上の美少女で、彼にとって憧れの存在でもあった。
蛟乃神にとって、刻御門竜胆は初めて肌を重ねた女性だった。
「君と遊ぶのは楽しかったんだがな……。君の望むままの僕を演じてあげるのも、あれはあれで嫌いじゃなかった。ああいう君も面白いかなって思い始めていたんだよ。余り似合ってはいなかったけれどね……」
蛟乃神が貴族の令嬢に手が早くなったのは、刻御門を口説き落とせた成功体験を切掛としていた。
もっと色々な女性と仲良くなりたい――その感情自体は純粋なものだったものの、いつも気が付けば肉体関係を持ってしまっている。
女性に求められれば求められるだけ甘い言葉を、期待通りの言動をとってしまうし、またそれをやめるつもりも無かった。
お互いに楽しければ、良い夢を見られればそれで良いだろうと思っていた。
「だが、君は……君は居なくなってしまった……」
蛟乃神は溜息を吐いた。
美しかった彼女が、嘗て憧れた彼女の虚像が淡色になって消えていく。
思い出として温めるには、余りにも凄惨な結果となってしまった。
「もう……やめよう。流石に懲りたよ……。君には悪いことをしてしまったね、刻御門……。期待を持たせ続けるべきではなかったのかも知れない。いつか姉様に言われたとおりだよ……」
時は流れ、彼は操を立てるべき女性を見つけ出す。
それまでに彼が女遊びをやめられたのかどうかは……想像にお任せする。
⦿⦿⦿
一方、首領Дは潜伏先の隠れ処で一人の女を捕え、弄んでいた。
「アオオオオオオオオッッ!」
暗がりの中、女の悲鳴が谺する。
四つん這いになった白人女性が首領Дに犯されていた。
「ははははは! やはり白人の特別感は堪らないね! 穢らわしい日本人の雌豚どもでは此程の愉悦は味わえん!」
首領Дは尻に腰を打ち付けながら、嘗て同志から尋ねられた疑問を思い返す。
『首領、刻御門竜胆は同志に加えられないのですか?』
『そのつもりは無いよ』
武装戦隊・狼ノ牙には女の隊員も存在し、最高幹部にも名を連ねていた。
しかし、彼は刻御門をそこに加えようとはしなかった。
『では、彼女は孕み袋ですか……』
『いや……』
かと言って、本格的に性奴隷とするつもりも無かった。
現に彼はあまり頻繁に刻御門を近付けようとはしなかったし、蜂起の際には最終的に捨て駒としてしまった。
結果、彼女は逃亡に着いてくることが出来ず、皇國内で死亡してしまったのだ。
首領は同志の質問を今尚一笑に付す。
(莫迦なことを言うものではないよ。あんな勘違い女、金を搾り取って使い捨てる以外に用途なんて無いだろうに。何の連絡も無く我輩の隠れ処に出向いてくるような、考え無しの糞莫迦女だよ? 自分の身の程を勘違いして、約束された将来を自ら棄てるような、どうしようも無い雌狗以下の雌狗……。連れ回すなんて御免だよ。命が幾つ有っても足りん)
首領Дは凡そ無茶苦茶な男だが、刻御門竜胆という女に対する評価は妥当だろう。
結局彼女はどこまでも道化に過ぎなかった。
極めて滑稽な人生だったが、それを選んだのは彼女自身である。
首領Дは刻御門と初めて会った時のことを思い出す。
『この皇國に神皇陛下の権威をものともしない御方がいらっしゃったなんて! なんという気骨溢れる御方でしょう! それに、教養も深い! 私、今まで叛逆者は野蛮な猿だと思っていましたわ! でも、違った! 貴方に比べたら、寧ろ普通の臣民の方が意気地無しばかり! 狗の民族、言い得て妙ですわね!』
『ほ、ほう、そうかね……。因みに君の主・蛟乃神賢智はどうなのかね?』
『糞雑魚蛞蝓ですわ! 優柔不断で流されてばかり! 肝心なところで私から逃げるんですの!』
『そ、そうなのかね。君は……蛟乃神賢智と普通の主従関係ではないようだね……』
首領Дは思わず失笑した。
(いや、面食らったよ。あんな簡単にオルグに転んだ莫迦娘は初めてだった。自分から興味津々で我輩に会いに来た変わり者で、面白いと思っていたが、四方やあれ程中身の無い脳味噌空っぽの御嬢様だとはね。主君となった蛟乃神賢智も気の毒だよ)
そんなことを思いながら、首領Дは目の前の女の尻を平手で打った。
「ンオオッッ!」
「ほらもっと締め給え! 我輩にきちんとご奉仕するのだよ! 君もあの糞莫迦女と同じに思われたくないだろう?」
彼にとって、女はただの雌であり、肉奴隷であり、孕み袋である。
そんな彼は最終的に、一人の女の手によって破滅の道を辿ることになる。
しかしそれまで、愚かな革命の夢を延命し続けるだろう。
夢は逆夢、永久に続くように思えても、いつか踊り疲れて現実に目を覚ますのだ。