或る夜の鷹番公爵邸、当主の鷹番夜朗は平然と妻以外の女を寝室へ入れていた。
「抱いた相手の数は男の強さを、多様さは男の深さを示す最も確かな指標だ、というのが我が父の教えでな……」
鷹番は四十近い年齢とは思えぬ若々しい肉体を女に見せつける。
女は震えながら鷹番を見上げていた。
傍らではもう一人、猿轡と貞操具を着けられた男が両手を後手に縛られ、正座をさせられていた。
「ふふふ、雑魚雄の恋人がいる強い女を堕とす味を覚えたのはつい最近だが、一度に二度美味しいとはまさにこのことだな。どういう意味か? 後で教えてやるから見ているが良い。さあ女、先ずはお前だ」
鷹番の節榑立った手が女の髪を掴み、その体を寝台に押し付けた。
男は何かを叫ぼうと藻掻いている。
そして、そんな様子を覗き見る視線があった。
鷹番の妻となった栞は、もう何度も夫の情事を扉の隙間から盗み見ていた。
「あああっ! ああああアッ!!」
鷹番の、太く長く力強くそそり立った怒張が女の膣に挿入される。
初めこそ女は泣き叫んでいたが、その声には次第に悦びの色が混じっていく。
「あっ、ああっ、あああああーッ!!」
彼女の本来の恋人と思しき男もまた、寝台の上の二人から目を離せない。
雌の恋人は雄に犯される雌を凝視し、雄の妻は雌を犯す雄を窃視している。
その双方に見せつけるように、鷹番は力強く腰を振り、女の臀部に自らの下半身をぶつけていた。
パンッ、パンッ、と、肉と肉のぶつかり合う音が寝室に響き渡る。
「ははははは、どうだ、今の気分は! 言って見せろ、そこの見ているだけの雑魚雄にッ!!」
「こんなっ……こんなのっ……!!」
女は必死に首を振る。
その仕草は一見、犯されている今の現実を拒んでいる様に見える。
だが鷹番はそんな女に対し、嬲る様に指摘する。
「既にお前の腰使いは私を求めているようだぞ!」
「そ、そんな事っ!!」
「私が何人相手にしてきたと思っている! 誤魔化しなど通用せんわ!」
確かに、女の上げている声は今や嬌声にしか聞こえない。
鷹番は女の両腕を掴み、乱れた姿を男に見せつけるように体を持ち上げた。
そして女の乳房を掴むと、耳元に顔を寄せて囁く。
「正直に言ってみろ。もうすぐイキそうなんだろう?」
「そんなっ……違っ……!!」
「違わんさ。そうだ、正直にイッた事を報告できたなら、お前のことを私の情婦として飼ってやっても良いぞ」
鷹番は明らかに扉の隙間を一瞥して言い放った。
栞に見られていることは完全に織り込み済みなのだろう。
「私の情婦になれば鷹番家の権力の恩恵、その一端に与ることが出来る。それこそ、そんなどこの馬の骨とも知らん雑魚雄と居るより、何千倍も恵まれた境遇が得られるのだ。お前にとって、良いこと尽くめではないか? ええ!?」
「うううううっ……!!」
「強がっても無駄だ! 雌というものは強い雄に決して勝てぬ生き物なのだ! 強い雄に屈服し、隷属することこそ雌の悦びと知れ!」
鷹番の腰使いが一層激しくなった。
傍らの男は藻掻き、何かを訴えようとしている。
「そらイケ! 強雄男根に負けて雌になれ! 雌の本能に隷従しろ!」
「うっ、くっ……! いっ……いっ……イッくううううぅぅぅぅッッ!!」
女はあっさりと陥落してしまった。
その瞬間、鷹番は愉悦の表情を浮かべ女の乳房を過剰に揺らす。
絶望の表情を浮かべる男に、女の淫らな姿を見せつける様に。
彼女は最早自分のふしだらな雌だと思い知らせる様に。
「ふはははは、確かに言ったな? これでお前は私の物だということだ。ならば早速、続きといこうじゃないか! 私はまだ全然満足していないのだから!」
「そ、そんな!? 私、もうイッて……! ああああああっっ!!」
「雌はイッている最中でも快楽と絶頂を繰り返せるのだろう? だったらとことん満足させてやろう! 今までの男、そこで情けなく歯を食い縛って見ているだけの雑魚雄では絶対に叶わないくらいにな!」
鷹番は女に対して腰振りを続行する。
まず間違いなく、自身の射精まで継続するつもりなのだろう。
栞はそんな夫を制止することも出来ず、ただ扉の向こうから盗み見ていた。
鷹番が当然の如く女の中に射精すると、自然と涙が零れ出た。
夫は自分の事など全く気遣っておらず、誠実さの欠片も無い。
屹度相手の女との間に子が出来たら、傍らの男に育てさせれば良いと安易に考えているのだろう。
夫はそういう類の、下劣な人間なのだ。
そんな惨めな想いに囚われている妻を余所に鷹番は、俯せで震える女を見下ろし溜息を吐いた。
「もう終わりか、つまらん……。いや……」
鷹番は下卑た笑みを浮かべ、今度は男の方へと目を遣った。
尚も萎えることを知らない鷹番の怒張が女の膣から引き抜かれ、亀頭が上腹部にパチンと当たって跳ね返った。
それを見せ付けながら迫り来る鷹番を、男はギョッとした目で見上げている。
「抱く相手は多様であれ、という父の教えは話したな?」
鷹番の言葉に男は青褪める。
それは考えるだけで恐ろしい宣告だった。
猿轡が外され、縄が無理矢理引き千切られる。
男はその隙に逃げようとするも、鷹番に足首を掴まれてしまった。
「ひっ……!」
男は困惑している。
迫り来る受難から逃れようと藻掻く男の力は、傍目から判る程に酷く弱々しかった。
まるで何者かに筋力を吸い取られているかの様に……。
「皇國の高貴なる身分にある者は、その証として特殊な力を与えられている。今お前の筋力を奪っているのは私の能力『術識神為』に因るものだ。私は十八の時、この力を父から受け継いだ。強者には強者の、弱者には弱者の快楽があるという教えと共にな」
鷹番は世にも恐ろしい、いや悍ましい歪んだ笑みを浮かべている。
その表情にはある種の憎悪が浮き出ているようでもあった。
「尤もその父も、五年後には亡き者となったがな。すぐに母も後を追い、私は鷹番家当主の座に就いたのだ」
鷹番は男の臀部を掴み、引き寄せる。
「やっ……! お許しください! 鷹番様、お許しくださいぃぃっっ!!」
「私の能力で力は必然的に抜けている。受け容れてしまえば楽になるぞ。二人纏めて情婦として飼ってやる。鷹番公爵家の財力と私の懐の深さに感謝し、雌の快楽に身を委ねるのだ!」
妻・栞は扉越しに信じ難いものを見ていた。
「がああああっっ!! 嫌だ!! やめてっ!! ああああああっっ!!」
その目合いの様を見て、栞の中に一つの衝動が沸き起こってきた。
余りにも受け入れ難い光景に、彼女は何処か気が狂れてしまったのだろうか。
栞は自身の股間を弄り始めた。
「アッ……アッ……あン……っ!」
ちらり、と鷹番が扉の方を一瞥した。
そして歪みきった愉悦の表情を浮かべると、そのまま激しく男を犯し始めた。
「ああああああっっ‼」
「あんっ……あぁっ……!」
「ほぅら、段々と正直になって来たではないか! ははははは!!」
「ああアアアッッ!! いいイイイイッッッ……グウウゥゥゥッッッッ!!」
「どうした? イクのか? この私の手で、雌となってイクのか!?」
「んっ……んっ……ああっ……!」
淫らで歪な三重奏が、寝室の内外で音を紡いでいた。
「そぉら認めろ!! 貴様は雌だ!! 私という強い雄に女を寝取られた雑魚雄! いや、雄失格の雌なのだ!!」
「それはっ……!!」
「認めなければ認めるまで犯し続けるまでよ! 雑魚雄には雑魚雄に相応しい悦びというものがある! ほら負けろ負けろ負けろ! 雌になれ雌になれ雌になれ!!」
「ああああ認めますっ!! 私は雄失格の雌です!! どうか彼女と二人そろって鷹番様の情婦にしてくださいっっ!!」
「良かろうイケっ!! 雄失格の寝取られ雌男!! 情婦希望の淫売尻穴奴隷が!!」
「ああああああイクうううウウウッッ!!」
男と同時に、栞も扉の陰で絶頂を迎えていた。
おそらく今最も惨めなのは、犯された雌でも寝取られた男でもなく、盗み見て果てた栞であろう。
夫とは初夜以来、ずっとお預けであった。
鷹番の関心が栞に向く夜は無く、酷い時には十人以上の女や男を寝室に連れ込んではこのような行為に及んでいた。
結婚から一年後、栞は夫の浮気三昧に嫌気が差して鷹番公爵邸から逃げ出した。
そしてその僅か三日後に、不自然な自殺によってその短い生涯を終わらせてしまう。
以後、鷹番は新華族からも縁を敬遠されるようになり、長続きしない妻を平民から手当たり次第に貪ることになる。
そんな鷹番が因果応報の結末を迎えるのは、もう何年も後の話である。