じゅぽじゅぽと、卑猥な水音が響いている。
いや、響かせていると言った方が正しいか。
「んっ♡(じゅぽっ♡)……んっ♡(じゅぽっ♡)……」
口内を消毒した俺は、お客様の期待する「肉棒様が大好きな淫売」を精一杯演じる。
美味そうに、有難そうに、そればかりかしゃぶっているだけで全身にじわじわと快感が溜まっていくような、男受けする媚びっ媚びのフェラチオが部屋を卑猥な音で一杯にする。
俺はこんなこと、心では望んでいない。
あくまで男に戻してもらう束の間の為にこんな倒錯に興じている、その筈だ。
だが俺はこの肉棒様をしゃぶる直前、確かに唾液が口内に充満するのを感じた。
ベタな言い方だが、心とは裏腹に体は求めてしまっているのだ。
俺は怖くなってくる。
男の肉棒様に抵抗が無くなるのは、今の状況に適応する為に悪いことではない。
体が疼いてしまうのも、鎮める術を覚えてきた。
だが、その変化だ。
その肉棒様に抵抗が無くなる適応変化、体の疼きを鎮める習慣化が、心すらも創り変えてしまうようで恐ろしいのだ。
俺が俺でなくなっていく。
決して望んでいない性的指向を無理矢理刷り込まれ、変えられていくことへの抵抗が薄れていく。
そしてその恐怖を忘れる為、俺は目の前の倒錯にのめり込む。
俺は自分に言い聞かせる。
(美味しい♡ 美味しい♡ 肉棒様、大好き♡)
只管に、只管にそう念じながら、わざとらしい淫靡さを演出し続けるのだ。
口の中に唾液とは別の粘液が広がる。
鈴口から汁が溢れてくるのが分かる。
舌の上から喉へ、そして鼻腔へと雄の臭いが充満していく。
しかし、この時まで俺は気付いていなかった。
お客様の吐息から、先程までのような興奮を抑えられないといった異常な昂りが消えている。
(醒めてきている……?)
俺は一抹の不安を覚えた。
と、その時だった。
「むごぉッ!?」
突如、お客様は俺の頭を掴み、強引に喉奥まで肉棒様を突っ込んできた。
「おゴッ! ングぇッ!?」
「駄目だよそれじゃあ。オジサン、一回出しちゃってるんだからもっと必死でご奉仕しなきゃあ」
息が、息が出来ない……!
俺はつい、呼吸を確保すべく歯を立てそうになってしまう。
喉奥に異物を当てられると反射的に口を閉じそうになる。
だが幸か不幸か、俺は鷹番様から散々とその反応を堪える訓練を積まされているので、この突然の凶行に何とか耐えることが出来てしまう。
「ホラッ! ホラッ! ホラぁッ!」
「ーッッ!?」
どんどん口雌穴へのピストンは激しさを増していく。
この男、乱暴にするのが好きなタイプか。
男が相手なら女よりも頑丈だからと遠慮が無くなるタイプか。
こんなことを続けられては、下手をすれば死んでしまう。
俺は無我夢中で、全身全霊を込めて男の手を引き剥がし、地獄のイラマチオから抜け出した。
瞬間、後悔と恐怖が全身を包み込む。
男の冷たい視線が上から背中に突き刺さる。
そして髪を掴まれて顔を上げさせられた俺の眼に映ったのは予想通り、男の無慈悲な表情だった。
バチン、と無言で頬を打たれる。
強い打撃――今の俺には失われてしまった男の腕力を嫌でも感じさせられる。
バチン!――ただその打音が響く。
冷酷に俺の粗相を責める。
俺は怯えながら、再び男の肉棒様を咥え込んだ。
空かさず、俺の意思と安全を完全無視した激しいイラマチオが再開される。
或いは風俗なら、こんなことをされれば終わりに出来るかも知れない。
嬢の安全を脅かすプレイを店のスタッフが止めてくれるかも知れない。
だが、俺は鷹番様にとって何の価値も無い人間である。
壊されても特に問題の無い、寝取られ元妻への未練に支配された奴隷に過ぎない。
男はそれが分かっていて、風俗嬢相手に出来ない乱暴を行使する為に俺を買ったのだ。
嗚呼、俺の雌化したひ弱な体ではどうすることも出来ない。
先程のように死力を尽くして逃れても、また力尽くで同じようにさせられる。
弱者は強者のされるがままになるしかない。
負け犬の生殺与奪権は勝者が握るのだ。
前の世界でアルファだった俺が、この世界ではベータですらない。
俺は意識を失った。
⦿⦿⦿
俺を現実に引き戻したのは、前立腺を激しく擦る刺激だった。
気絶している間に俺は寝バック状態で尻穴に肉棒様を挿入され、突かれていたのだ。
「ひぃっ!?」
「起きた? じゃあ早く尻穴締めなきゃ。ガッバガバで全然気持ち良くないよ、君」
身勝手で乱暴な男の声には既に苛立ちが混じっていた。
俺は必死に括約筋に力を込めるも、本物の男という奴にわからされ続けた俺の貧弱な力ではまるでピストンに抗えない。
「ねえ、やる気ある? もっと気合い入れなよ!」
「すみませんすみません! ヒィっッ! ひいぃぃン!」
ユルユルな分、前立腺への刺激は却って勢いが凄まじい。
それが却って、俺の体に強い快感を焼き付ける。
俺は泣き声を抑えられなかった。
だがそんな俺とは逆に、男は不満だらけの様子だ。
バチン!――尻が乱雑に打たれる。
「ああッ! 許して! 許してぇッ!」
「許さねえよ何の為の穴だ締めろ! オラ締めろォッ!」
バチン!
バチン!
段々と打撃が強くなる。
「ヒイィィッ! あひいいいいぃぃッ! 痛い! 激しい!」
「そうかいそうかい! こっちは全然だよオラッ!」
「あああああ! ああああアッ!」
自分の体が雌として開発され切ってしまったということ、そして雌としてすら役に立たないということを乱暴に突き付けられる屈辱。
それは俺を惨めな絶頂へと押し上げていく。
「駄目へぇっ! イッちゃうぅッ! んオッ、ああああアァッッ!!」
「はあ!?」
無様、無様。
役立たずの自分勝手なオルガスム。
それは負け犬の証、白旗代わりのトコロテン。
貞操帯の中で縮こまった極小陰茎からの、情けなく絞り出すような敗北射精。
そしてぞわぞわと、全身に蟲が這いずり回る様な怖気を伴う弱者の絶頂が俺を包み込んでいた。
「オイオイもう終わり? ふざけんじゃねえぞ! 自分だけイキやがって……」
「申し訳……御座いません……。ちゃんとイクまでご奉仕しますので、どうかお許しを……」
「はあ……、もう良いよ。全然駄目じゃないか君。最初はクッソ艶漏かったから期待したのに、こんなもんかよ……」
男はそう不満を垂れると、ぐったりと力無く項垂れている俺の頭上に一枚、紙幣を落とした。
「この為体じゃ万札一枚で充分だろ。それ持って帰れ」
俺は恥辱に心を埋め尽くされ、何も言えなかった。
「おい、挨拶は無いのか?」
男はキレ気味に舌打ちし、俺を頭上から詰った。
「本日は……ありがとうございました……」
こんな扱いを受けて尚、俺は男へ必死に媚びた作り笑いを向けた。
部屋には惨めな雌男と、たった一枚の一万円札が残されていた。
紙幣に印刷された若き皇太子の凜々しい顔が俺を嘲笑っているかの様だった。