早芙子の呼吸を封じていた巨根が彼女の喉から引き抜かれた。
「ごほっ!! ゴボぁッ!!」
早芙子は必死で咳き込んだ。
また神為は外れた顎を繋ぎ合わせていないが、意に介している余裕も無かった。
やっと、やっと呼吸ができる。
生まれてこれまで、今ほど空気が有難いものだと感じたことは無かった。
「獅乃神様っ!! 獅乃神殿下っ!! 堪忍、堪忍しでぐだざいっ!! 息が出来まぜん!! 死ぬがと思いまじだああっっ!!」
早芙子は我を忘れて必死に訴えた。
汚く濁った声で叫び散らした弱音、泣き言だった。
嘗ての凜々しい姿とは余りにもかけ離れた姿に、獅乃神はほんの少し眉を顰めた。
「思いの外、耐えられぬものだな。綾花や貴龍院はこれぐらいで悦んだのだが……」
「ぜえーっ!! ぜえーっ!!」
冗談ではない、と早芙子は獅乃神の考え違いを聞き必死に首を振った。
こんなに苦しいのなら、もう前戯は終わりにして貰いたい。
しかし、獅乃神は斜め上の納得から彼女に最悪の宣告を突き付けた。
「二人よりも遙かに強い汝が耐えられないのは何か別の理由がある筈……。屹度、汝は自信を失って弱っているのだ。自らの人生の選択が誤りであったわけだから、無理からぬこと。ならば、その自信を取り戻さねば汝は救われまい。ここは一つ、俺を射精に導いてみよ。それを為してこそ、汝は再び己に誇りを取り戻すことが出来るというもの」
早芙子はすっかり怯えに支配されながら、聳え立つ獅乃神の巨根を見上げていた。
(今のを、絶頂させるまで、繰り返す? 出来っこいない!)
早芙子は余りの難題に眩暈を覚えた。
しかし、獅乃神はそんな早芙子に構わず、容赦無く己の逸物を彼女の口から喉へと捻じ込んだ。
「ぬぼおおぉっ!」
再び、地獄の様な苦痛の時間が始まった。
「無理はしなくて良いぞ。駄目だと思ったら迷わず合図を送れ」
無理はしなくても良いとは云っても、そもそもこのイラマチオそのものが人間には無理だ――そんなことは言える筈もなかった。
早く絶頂を、早く終わりを、そう願いながら限界まで耐えるしかない。
だが、この強靭な逸物を絶頂させるのは並大抵な事ではない。
案の定、彼女は獅乃神の手を叩いて限界の合図を送った。
獅乃神は彼女を解放した。
「げぶぁっ!」
「おいおい大丈夫か? 今にも死にそうな顔をしているぞ。少し休め」
早芙子を労わる素振りを見せる獅乃神だが、本人としては期待外れだったことがその表情から読み取れる。
この様なことを、失敗を、何度も何度も繰り返しては彼の不興を買ってしまう。
早芙子はすっかり「どうにか獅乃神の機嫌を損ねないように」という水準で考えを巡らせるようになってしまっていた。
「落ち着いたな? 頑張れるな?」
「頑張りまず、頑張りまずがらぁっ……」
「良し!」
再び繰り返される意図せぬ凌辱。
永遠にも思える数秒の窒息。
焦点が合わず裏返らんばかりの上目。
乙女にあるまじき垂れ流される涙鼻水唾液。
遅々として進まない射精までの道筋。
藻掻く姿はまるで豚。
出来の悪い吾妻形。
何度も何度も何度も何度も刻まれる無能の烙印。
「もう少し、もう少しだ! 頑張れ頑張れ頑張れ!」
ほら期待に応えましょう。
まだまだまだまだ我慢です。
(無理無理無理無理死んじゃうがらぁっ!)
死ぬ気でやれよ、死なないから。
「げぶぁっ!」
吐き出されて元の木阿弥。
背中に降りかかる失望の眼差し。
肉便器にもなれない使えぬ魯鈍。
何のために生まれてきたのか。
嗚咽しか能の無い虚無の女肉。
「あと少しだったのに……」
「ずみまぜんずみまぜん……。私は塵でずぅ……」
「そんなことはない、お前はこの世で最も優れた民族の女だ、出来る出来る。最後まで付き合ってやるからほら、もう一度だ」
「んぶっ!」
死ぬ、死んでしまう。
いっそ死ねばいい。
死体の方が役に立つ。
無能、塵屑、雑魚、虚無。
口先だけの盆暗牝型木偶人形。
生きる価値無し。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死んで虫螻蛄にでも生まれ変われ。
そして踏み潰されてまた死ね。
次は黴菌にでもなるか。
汚い汚い汚い汚い。
否死ね。
死んだまま戻ってくるな。
また生まれて来ようなど虫が良過ぎる消えてしまえ。
そもそも何故、何故生まれてなど来た。
誰が許可して存在した。
ほら死ねさっさと死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
「良し! 出すぞ! 残さず受け止めろ!」
長い長い、永遠とも思える長い凌辱の果てに漸く訪れた射精の瞬間だった。
「ごッ? ゴポポッポポポポポオォッ!」
人間とは思えないほど大量の射精だった。
自分を根底から作り変えてしまう様な、暴虐の固形流動物が容赦無く胃に注がれていく。
自分を根本から否定される様な余りにも残虐な性拷問の終わりは、それまでの経過が生温いとすら思える様な、悍ましい程の硬く濁った濃厚精子だった。
胃を溢れさせる程の量に、すぐさま嘔吐感が込み上げてくる。
「うぷっ……」
「耐えているな! 偉いぞ!」
吐き出さず堪えるのは、不興を買わない為だ。
その為に、巨根が引き抜かれた後も早芙子は口を押さえて耐え忍んだ。
しかし、我慢し切れなかった。
「おぼぼぼぼぼぼぼぼおぉっ! おげええええ! ぐえええええっ!」
全てを吐き終えてぜえぜえと草臥れ切った呼吸をする嘔吐塗れの乙女。
早芙子はすぐさま、背中に突き刺さる視線に恐怖した。
やってしまった、吐いてしまった。
それが獅乃神叡智の機嫌を損ねたのではないかと、怯える彼女は項垂れたまま小刻みに震えていた。
そんな早芙子の頭に獅乃神の手が添えられる。
瞬間、彼女はびくりと痙攣した。
だが彼女の懸念とは異なり、獅乃神の声と手つきは穏やかだった。
「大丈夫か? 少々頑張り過ぎたようだな」
「申し訳……御座いません……」
「謝ることはない。最後は堪え切れなかったとはいえ、よくぞこの俺を射精へと導いた。誇って良いぞ」
早芙子の目から大粒の涙が零れ落ちた。
一体何の涙なのだろう。
己が境遇の惨めさへの憐憫か。
男の仕打ちの苛烈さへの屈辱か。
それとも遣り果せた事への安堵か。
将又、思わぬ優しさに感嘆したのか。
だが、早芙子は忘れていた。
これはあくまで前戯に過ぎないということを。
「さあでは愈々、本番といこうではないか。寝台に身体を預けるが良い。体位は選ばせてやるぞ」
獅乃神の言葉に、早芙子は涙目のまま彼を見上げた。
彼の巨根は全く萎えていない。
一度射精させれば勢いも衰えるなど、甘い考えだった。
「どうした? 俺が決めてやろうか?」
「いいえ……」
早芙子はふらふらと、全てを諦めた様に寝台へ向かった。
空虚な心で歩く姿はまるで腐屍徊の様であった。