文也と早芙子は寝台に坐り、唇を重ねる。
指と指、身体と身体、舌と舌を絡ませ合うその行為は、互いの愛を感じ合い確かめ合い味わい合う行為に似ていた。
取分け文也は、貪る様に舌を動かす。
(早芙子さん、早芙子さん……!)
早芙子もまた、それに応える様に舌を這わせる。
『ん……!』
二人の甘い声が漏れ、部屋に充満していく。
『ふぅ……。文也、がっつき過ぎだ。そんなにしたいのか?』
『ご、ごめん早芙子さん。嫌だった?』
『まさか。あまりに求めてくるので戸惑ったけれど、嬉しいよ』
早芙子の視線が文也の股間に向かう。
『その……文也、入れる前にして欲しいこととか……無いのか?』
『え……?』
早芙子は恥じらいながらも何かを文也から引き出そうとしていた。
文也もまた、積極的な早芙子に戸惑いを覚える。
『いや、な。今日に備えて……その……読んだんだ。そういう……小説とかを……。そうしたら、なんだか前戯というものが色々……あるらしいじゃないか……』
『前戯……』
文也はなんとなく腑に落ちた気がした。
シャワーの際、早芙子が一緒に入りたいと言い出したり身体を洗ってくれたり、妙に積極的だったのは、官能小説で得た知識だったらしい。
『早芙子さん……してくれるのかい……?』
『勿論、文也が嫌じゃなければ……だが……。あ、それとも文也がしたいのか?』
『……まあ、両方かな……』
文也は正直に応えた。
折角の初体験だ、したいこともして欲しいこともあるに決まっている。
だが、却々自分からは言い辛い。
(寧ろ、僕の方が気にしていたくらいだ。嫌がられるのが怖い。でも、してくれるのなら、させてくれるのなら……)
文也は意を決して伝える。
『尺八を……お願い出来るかな?』
『尺八……しゃぶれば良いのか? 文也のを……』
『ああ、あの、それと……』
『なんだ、まだあるのか?』
『僕も早芙子さんを……舐めたい……』
『では二つ巴だな』
二つ巴とは、所謂シックスナインのことである。
文也は早芙子の知識に驚きを隠せなかった。
『随分……詳しくなったんだね』
『ちょっといやらしいかな?』
『いや、そんな早芙子さんも素敵だよ』
『そうか。悪い気分じゃないが、恥ずかしいな……。さ、寝台の上に仰向けになってくれ……』
文也は早芙子に促されるまま、仰向けに寝そべった。
その顔の上を、早芙子の長く美しい足が跨ぐ。
『何だか申し訳無い気分だな。頭に尻を向けるとは……。それに、やっぱり恥ずかしい……』
『でも……綺麗だよ、早芙子さん』
『……そうか。では私も、文也のを失礼しようか……』
早芙子は文也の股間でそそり立つ陰茎に顔を近付ける。
自分の小さなそれをまじまじと見詰められ、文也は猛烈な羞恥を覚えた。
『早芙子さん……そんなに見ないで……』
『大丈夫だよ、文也。さっきも言っただろう。私はこれ、好きだって。文也の……可愛い陰茎……』
『うう……!』
決して褒め言葉ではない。
しかし、早芙子の声色は慈しむように優しかった。
劣等感は拭えないが、癒される気がする――文也の陰茎は硬さを増した。
『ふふ、では頂こうかな……』
『はぅっ……!』
早芙子の舌が亀頭を撫でた。
それだけで、文也の脳にしびれる様な甘い快感が込み上げる。
なんという優しい舌遣いだろう。
初めて故に高度な技術は無いが、心からの愛情を感じる。
『はぁ……はぁ……』
『気持ち良いのか、文也? さ、文也も舐めて良いんだぞ。私のことも気持ち良くしてくれ……』
陰茎を生暖かい感触が包み込む。
どうやら早芙子が咥え込んでくれたらしい。
既に腰が抜けてしまっている文也だったが、負けじと早芙子の秘部に舌を這わせる。
『あっ……! 文也の舌が……!』
『早芙子……さん……!』
文也は快感に抗いながら。懸命に早芙子の秘部を舐める。
『文也……その……もう少しその……陰核の方を……そう、そこっ……!』
『早芙子さん、早芙子さん……!』
『文也、舌の力を抜いて……速く動かして……』
『はぁ……はぁ……』
二人の甘い吐息が、舌の水音が愛の調べを奏で合う。
互いの快楽が互いを包み込んでいた。
早芙子の舌遣いは思いの外気持ち良い。
文也は懸命に射精を堪えていたが、限界は近かった。
『早芙子さん……早芙子さん、もう出そう……!』
『え? もうイクのか、文也?』
『ああごめん、我慢出来ないっ……!』
限界を迎えた文也の陰茎は為す術無く射精を迎えた。
早芙子の口内に精液が吐き出される。
『んっ……!』
『ごめん早芙子さん、ごめん……!』
文也は情けない気持ちで一杯だった。
一度ならず二度までも、恋人の前で早漏を晒してしまったのだ。
屹度、まだ早芙子のことを気持ち良く出来ていなかっただろう。
もしかしたら、幻滅されてしまうだろうか。
『んくっ……ふふ……』
早芙子は文也の方へ顔を向けた。
妖艶な表情は、文也を慰めて包み込む様だ。
『文也の陰茎は私が大好きなんだな』
『ごめん……』
『謝ることはないぞ。だってまだこんなに……元気じゃないか』
早芙子の言うとおり文也の陰茎は二回出して尚硬いままだった。
『じゃあ前戯は終わりにしようか』
早芙子は身体の向きを変え、文也を迎え入れようと仰向けで両腕を拡げる。
その絶景に、文也は激しく興奮した。
(ああ、早芙子さん……! なんて気高くも美しく、そして優しい姿……!)
文也は今にも吸い込まれそうな気がした。
早く、早く彼女の中へ入りたい。
彼女に溺れ、藻掻く様に泳ぎたい。
『文也……来て……』
『早芙子さんっ……!』
たがが外れた。
文也は餌を前にした犬の様に早芙子へと吸い付いた。
陰茎を膣内に、顔を胸へと押し込んだ。
抱き締めたい、いや、抱き締められたい――そんな想いが文也を只管に突き動かす。
『ああっ、文也っ! もっと、もっと突いてくれ……!』
『早芙子さん……!』
『文也、遠慮するな。私に……文也を感じさせてっ……!』
『はぁっ、はぁぁっっ……! 早芙子さん、早芙子さんっ……!』
『ああ、良い。良いぞ文也。丁度良い感じっ……! これが……性交……っ! 文也の可愛い陰茎がっ……私を求めて甘えてくるっ……! 私を一生懸命……気持ち良くしようとっ……! 良いっ、これ良いっ……!』
『んんっ! 早芙子さんっ、うぅぅぅっっ!』
『文也、もっと突いて大丈夫だぞ! 私、文也なら怖くないからっ! 文也の……優しい陰茎でイかせてっ……!』
初めての二人は思い思いに互いを求め合った。
両者の気持ちが絡み合い、昂ぶって昇っていくのが解る。
二人は今、一つになっていた。
『文也ぁっ! もっと、もっとして!』
『早芙子さん、早芙子さぁぁんっ!』
『文也、私も動くからっ! 二人でっ……気持ち良くなろうっ……!』
文也は懸命に動いた。
必ず、必ず早芙子をイかせるのだ。
陰茎は三回目にも拘わらず絶頂の時を迎えようとしている。
なんとか耐えなければ。
『文也っ』
『早芙子さんっ』
早芙子の動きも加わり、陰茎は益々強い快感に包まれる。
耐えろ、耐えろ、耐えろ。
我慢、我慢、我慢。
『ああ文也っ、もう少し……もう少しでイけそうだ!』
『早芙子さんっ、僕ももうっ……!』
『良いぞ文也、一緒に……一緒にイこう!』
二人は最後の瞬間、絶頂に向かって一層激しく求め合う。
限界まで膨れ上がった愛が、二人の仲で弾けようとしていた。
其処を超えたら雲の上。
二人は今、新たな世界へと飛び出そうとしていた。
『早芙子さん、もうっ……!』
『ああ、来てくれ文也! 来て……!』
『ふぅぅぅぅっっ! うぐぅぅぅぅっっ!』
『イク! イックゥゥゥゥ!』
白い花火が視界を包む。
二人の絶頂が重なり、強い閃光になったかの様だった。
『んんんんっっ!』
精液が吐出されると共に、早芙子は身体を震わせた。
絶頂してくれたのか――文也は底無しの安堵に包まれていた。
(ああ……柔らかい……。早芙子さんが……僕を包み込んで……)
文也は早芙子の胸に身体を預ける。
精も根も尽き果て、微睡みと共に早芙子へと沈んでいく。
『文也、気持ち良かったぞ。また……しような……』
何処までも柔らかく包み込む様な早芙子の声は、文也にとって子守歌に聞こえた。
彼はそのままけだるさに身体を預け、愛する女性の胸の中へと意識を沈めていった。
⦿⦿⦿
⦿⦿
⦿
麒乃神邸寝室。
麒乃神聖花は夢の中を彷徨う宍妻娼也――嘗ての黄柳野文也の寝顔を見下ろしていた。
彼女はこの日も、二人の愛玩人形を散々犯し、何度も絶頂させていた。
その果てに、娼也は気を失ってしまったのだ。
「早芙子さん……早芙子さん……」
夢見る娼也は、嘗ての恋人の名前を何度も呼んでいた。
麒乃神はその様子を冷徹に見下ろしている。
「気の毒に、まだ前の女が忘れられないのですね。私というものがありながら……」
娼也の隣で、もう一人の愛玩人形である頤望愛はびくりと震えた。
麒乃神聖花の不興を買う、それは二人にとって、何よりも恐ろしいことなのだ。
一体娼也にはどのような罰が待っているのだろう。
「では憐れな愛玩人形の為に、この私が一肌脱いでやりましょう。弟と相談しなくてはなりませんね……」
夢の中で思い出に溺れる娼也は、今の主が進める計略など知る由も無かった。