或る夜、麒乃神聖花の寝室。
娼也は床に正座して、麒乃神の性交を見せられていた。
彼女は二人の夜伽役から気分次第で犯す相手を選ぶのだが、今は頤望愛が寝台の上で後から突かれている。
「おおおおおおっっ!! んおおおおおおおっっ!! 御姉様あっ! ほあああああっっ!!」
望愛は平らな貞操帯から精液をとぷとぷと漏らしながら善がり狂っていた。
両腕を掴まれて反り返っているせいで、娼也からは彼がどのような身体になっているかが能く見える。
「うぅっ……!」
娼也は望愛の痴態に釘付けになっていた。
僅かに膨らんだ胸の先でぷっくりと膨らんだ両乳首、淫らに括れた腰、圧し潰されてただ体液を排泄する器官に成り下がった陰茎、縦に割れて麒乃神の巨根を容易く受け容れる肛門――その全てが、麒乃神から与えられる快楽に特化している。
おそらく彼はもう雌としての自分を晒すのに何の躊躇いも無いのだろう。
「あああああっっ! またイクッ! イキます!! 雑魚穴絶頂来ますぅっ!! おおおおおおおおっっ!!」
望愛の股間から塊の様な白濁が噴き出した。
今、娼也は彼が堪らなく羨ましい。
そそり立つ娼也の短小陰茎には、まだ貞操帯が嵌められていない。
しかし彼には物欲しそうに汁を溢れさせる陰茎に触れることなど許されておらず、ただ両の乳首を指で慰めて望愛の相手が終わるのを待ち侘びるしか無かった。
「さあ、出しますよ望愛! 全部受け止めなさい!」
「はいいいっっ! 来て! 僕の雌尻穴孕ませてくださいいい!!」
麒乃神の腰が望愛の尻に力強く打ち付けられた。
望愛は激しく痙攣しながら両脚を生まれたばかりの子鹿のように震わせ、精液の塊を飛ばしている。
「んほおおおおおおおっっ!!」
望愛の絶頂と共に、娼也も乳首で軽くイッてしまった。
なんだかんだ自分もじわじわと開発されているような気がする。
望愛の尻穴から麒乃神の逸物が引き抜かれ、望愛がその場に倒れ込んだのを見て、期待感が高まっているのが解る。
愈々自分も、この身体の疼きを愛撫してもらえるのだ。
「扨て、と……」
しかし、普段とは違い麒乃神は妙に落ち着いていた。
いつもならこのまま娼也の方を寝台に連れ上げ、望愛と同じ様に激しく犯すのだが、その気配が無い。
「あの、御姉様……」
「娼也、期待させているところですが、御前の相手をするのは私ではありませんよ」
「え?」
麒乃神の意外な言葉に娼也は戸惑いを覚えた。
どういうことだろうか。
そんな娼也を意に介さず、麒乃神は寝台から降りた。
「御前のことは今から別室に連れて行きます。御前に会わせたい者がそこで待っているのでね」
困惑する娼也を横目に、麒乃神は衣服を直して逸物を仕舞った。
⦿⦿⦿
娼也は麒乃神に連れられ、地下へと向かう階段を降りた。
豪奢な邸宅には全く似合わない、酷く簡素で無機質な階段、そして廊下である。
「今日の為に急拵えで用意した地下室です。無骨な出来は許しなさい」
「は、はぁ……」
二人は暗い廊下を歩いて行く。
「私の邸宅は二人の弟の邸宅と隣合せになっていることは知っていますね?」
「はい。紅阪御用地ですね」
「この地下室は、その弟の邸宅と一時的に繋げる為に拵えたものです。今日の為にね」
「つまり……態々僕の為に……?」
「そういうことです。正確には御前と、この先に待つ者の為ですがね」
「誰なんです? 僕に会わせたい人って……」
二人は扉の前までやって来た。
まるで牢獄の様な、金属製の頑強な扉だった。
「答えはこの先で待っていますよ。折角ですから一人で行ってきなさい」
麒乃神はそう告げると、扉の鍵を開けた。
娼也は恐る恐る重い扉を押し開ける。
非力な彼にとってはそれなりに大変な作業だった。
嫌な金属音と共に、地下室が娼也を招き入れる。
(なんだ……? 暗くて中が見えない……)
娼也は恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
背後で、麒乃神が容赦無く扉を閉めて鍵を掛ける。
閉じ込められた形だ。
おそらくこの先に待つ誰かと二人で。
「だ、誰か居ますか……?」
娼也はゆっくりと部屋の奥へと歩いて行く。
すると、突然部屋の明かりがぼんやりと点いた。
おそらく、動きに反応する形式の電灯だったのだ。
「はっ……!」
瞬間、娼也は息を呑んだ。
目の前に備え付けられた簡素な寝台、そこに一人の背の高い女が坐っていたのだ。
下着姿のその女を娼也は能く知っている。
「そ、早芙子さん……!」
「待ち侘びたぞ、文也。久し振りだな……」
水徒端早芙子――娼也が黄柳野文也だった頃の恋人であり、内縁の妻である。
二人は嘗て心を通わせ、幾度も身体を重ね合った。
「早芙子さんなのか……? また会えるなんて……!」
「私もまた会うことになるとは思わなかったよ」
俄かには信じられない娼也は、駆け寄って近くで彼女を確かめようとする。
しかしそんな彼を、早芙子は冷たい視線で睨み付けていた。
「それ以上寄るな」
「え?」
射竦められた娼也は足を止めた。
早芙子からこの様な厳い言葉を投げ掛けられるのは初めてのことだ。
娼也は動揺を禁じ得なかった。
「早芙子さん……?」
「酷い格好だな。麒乃神殿下に随分と可愛がっていただいたようだ。今の貴様に馴れ馴れしく呼ばれると虫酸が走る」
娼也は胸を締め付けられ、自ら女装していることを忘れていたと気が付いた。
確かに、嘗て愛した女性の前で曝す姿でないだろう。
早芙子の眼には本気の嫌悪感が隠す素振りすら無く浮き出ている。
娼也はこの様な彼女の表情など知らない。
彼に向けられる眼はいつも優しかったし、敵に相対しても厳しい中にも凜とした清々しさがあった。
だが今、娼也に見せている表情には心底からの敵意と侮蔑に満ちていた。
「文也……いや、今は宍妻娼也だったか。貴様も私同様に新しい名を賜ったのだったな。『娼也』、『遊女也』か。お似合いだよ、今の貴様には」
「うぅ……」
嘗ての恋人に、あの優しく美しかった早芙子に詰られると、娼也は自身の情けなさを否が応にも思い知らされる。
目頭が熱を帯びているのがわかる。
そんな娼也の様子を見て、早芙子は冷笑を浮かべた。
「なんだ、そんなに泣きそうな顔をして。昔の様に慰められたいか? 麒乃神殿下はそんな貴様のことでも優しく包み込んでくれるのか? 嘗て私が貴様にそうした様に……」
「早芙子さん……」
「気安く呼ぶなと言っているだろう。今の私は水徒端早芙子ではない。尤も、貴様にあの御方から賜った名を教えてやりたくもない」
「待ってくれ、僕は……」
「何か私に誤解があるとでも云うのか? 股間に付いた小さなそれ、こんな状況で勃たせておいて……」
「こ、これは……!」
娼也は早芙子に指摘され、自分の陰茎が勃起していることに気が付いた。
早芙子はそんな彼を鼻で笑う。
「相変わらず粗末な陰茎だな。前よりも余計に小さくなっていないか? それとも、あの御方の逞しい逸物様と比較してしまうから、そう感じてしまうだけなのか?」
「あの御方……?」
「ああ、貴様と同じ様に私もまた尊き御方の御慈悲を賜り、仕えることを許された。今の私の主は第一皇子・獅乃神叡智殿下だ」
早芙子の口から語られた名前と境遇に、娼也の心が激しくざわつく。
「僕と……同じ様に……? つまり……抱かれているのか……? 獅乃神殿下に……」
「何か問題でも? まさか自分は麒乃神殿下の情婦になっておいて、私は貴様に操を立てておいてほしかったと、そう云っているのか?」
「それは……」
「まあ良いさ。貴様が最低の男だというのは既に思い知らされた。あの御方の御命令でなければ二度と会うこともなかっただろう。あの御方は人が好過ぎるのだ、全く……」
「命令……? 獅乃神殿下に言われて此処に居るのか、君は」
「そうだ。貴様と同じく連れて来られた。そして今から一週間、この部屋で貴様と過ごすのだそうだ。反吐が出るが、あの御方の御命令では仕方あるまい」
「どういうことだ……?」
事態を飲み込めない娼也、そんな彼を早芙子は鼻で笑う。
「貴様、未だに寝言で私の昔の名を呟いているそうじゃないか。そんな貴様の未練を察した麒乃神殿下は獅乃神殿下と御相談なさり、此度の場を設けられた」
娼也は益々胸を締め付けられる思いだった。
確かに、ここ最近は何度も早芙子との目合いを夢に見ている。
夢で嘗ての早芙子に何度も会っていなければ、或いは今の早芙子に蔑まれてもそれほど傷付かなかったかも知れない。
(そうか……僕は今でも……麒乃神殿下の物になった今でも早芙子さんのことが……。でも、今更どうすれば……)
娼也は躊躇いから思わず後退る。
この状況で悲しく勃起した陰茎が小さく揺れた。
それが一層、未練を感じさせて情けない。
そんな娼也の様子を見てか、早芙子は小さく笑って立ち上がった。
相変わらずの美しい、見事な長身の肉体。
娼也は劣等感からたじろぐ。
そんな彼を、早芙子は小莫迦にするように見下ろしている。
「喜べ、両殿下は貴様に機会を与え賜うたのだ。これより一週間、貴様と私はこの部屋で過ごす。その中で私の情が貴様に戻ることがあれば、二人は両殿下の元から離れても良いそうだ。監視付きだから最早革命に復帰することは叶わないが、一つ屋根の下で伴侶として余生を送れる。どうだ、またとない機会だろう?」
「え……?」
娼也は驚きを隠せなかった。
戻れるのか、一人の男に。
早芙子と愛し合ったあの日々に。
今度は革命の打算からではなく、本物の夫婦として生涯添い遂げることが出来るのか。
「そしてもう一つ、条件を託けられている。起きている時間はなるべく愛し合い、一日に一回は必ず交わるべしとのことだ。私としては今更貴様と目合いたくなどないが、あの御方の御命令だからな、逆らうことは出来ん」
「早芙子さんと……もう一度……」
「その気になったか、気持ちが悪い。だが、精々頑張れ。私としても貴様にいつまでも未練に思われると想像するだけで身の毛が弥立つ。悔いの残らない一週間を過ごそうじゃないか」
娼也は固唾を呑んだ。
早芙子をもう一度抱くことが出来る。
願ってもない展開だった。
しかし同時に、彼は決定的な挫折を早くも予感していた。