※この作品はR-18です。

日本と皇國の幻争正統記・好色秘伝   作:坐久靈二

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選良(エリート)意識に染まった若手女将校が捕まって凌辱されて尊厳破壊されて堕ちていく話です。


外伝『選良魂殺』
甲


 神(しん)聖(せい)大(だい)日(につ)本(ぽん)皇(こう)國(こく)は強固な貴族制が布(し)かれているものの、平民に立身出世が不可能という訳ではない。

 例えば政界の三大勢力のうち貴族閥の政治家は殆(ほとん)どが貴族院議員であり、また衆議院の勢力は軍閥と学閥が取り合っている状態であり、その大部分は平民出の政治家である。

 抑(そもそ)も、皇(こう)國(こく)は人口十二億、面積約三八〇万平方粁(キロメートル)という日本国の十倍を誇る大国にして、経済規模等の国力はそれを優に上回っているのだが、対して皇族貴族家の数は二百に満たない。

 大きな格差が存在することは事実だが、その上層の全てを僅(わず)かな貴族が牛耳っていては、此(これ)程(ほど)の発展を遂げることは不可能であっただろう。

 

 ということで、平民の中にも成功した富裕層というものは存在し、中には下手な下級貴族よりも豊かな者さえ見られた。

 嶼(しま)根(ね)州東端のとある村、武(たけ)田(だ)観(み)月(づき)もまたそのような裕福な家に生まれた。

 武(たけ)田(だ)家は祖父の代から医療を生業とする一家で、男は文武両道で将来は家を継ぐべし、女はそれらなど要らぬから良家の嫁となって家の発展に寄与すべしという、時代後れな男女観を持っていた。

 

 しかしそんな家の方針にも拘(かかわ)らず観(み)月(づき)は男勝りな御(お)転(てん)婆(ば)娘(むすめ)で、且つ学業に於(お)いても優秀な才女だった。

 武(たけ)田(だ)家は「軟弱で出来の悪い弟と男女逆だったら」と大いに嘆いたものだった。

 

 とはいえ、彼らに女の観(み)月(づき)を跡継ぎに据えるつもりなど更々無かった。

 そして観(み)月(づき)自身、それに気付かぬではない。

 彼女は義務教育の終わりを意味する中(ちゆう)學(がく)卒業の一年前にして、一つの決意を固めていた。

 

 ある夏の午後、武(たけ)田(だ)観(み)月(づき)は座敷で正座させられ、父親と向き合っていた。

 背筋の伸びた、凜(りん)とした佇(たたず)まいと、物(もの)怖(お)じせず真(まつ)直(す)ぐに父親を視(み)る眼(め)には、彼女の揺るぎ無い覚悟が宿っている。

 

「お父さん、私(わたし)はこの家を出ます」

「何を莫(ば)迦(か)なことを言っているんだ!」

 

 父親は声を荒(あら)らげる。

 彼にとって、娘の言葉は到底容認出来ないものだった。

 武(たけ)田(だ)家の目(もく)論(ろ)見(み)では、観(み)月(づき)は村の地主に嫁がせて後(うし)ろ楯(だて)を得ることで、家の立場を盤石にする役割を担わせることになっていた。

 その為(ため)にも、中(ちゆう)學(がく)卒業の後はこれまでの男勝りな態度は改めさせるべく、本格的な花嫁修業を始めさせるつもりだった。

 

「お前は器量が良い。態度さえしおらしくなれば引く手数(あま)多(た)だ。お前に相(ふ)応(さわ)しい嫁ぎ先をこれから見繕ってやろうというのに……」

「必要ありません。私(わたし)の進む道は私(わたし)が決めます」

「親の臑(すね)齧(かじ)りが一丁前の口を利くな!」

 

 観(み)月(づき)の頬(ほほ)に父親の平手が飛んだ。

 彼女は声も上げずにただそれを受け、向き直って懐に手を入れた。

 どうやら何か、文(ふみ)を見せようとしているらしい。

 

「これは写しです。村を出た後、身元の引受人となって頂けるそうです」

 

 父親は受け取った文(ふみ)を開いて瞠(どう)目(もく)した。

 それは、観(み)月(づき)の担任教師からとある人物に向けた紹介状の写しであった。

 

「余計なことを……! お前を学校に行かせたのは最低限の常識を修めさせる為だ! 一介の教職員が出しゃばりおって! 武(たけ)田(だ)家に刃向かって唯(ただ)で済むとでも思っているのか!」

「お父さん、御(お)言(こと)葉(ば)ですがお父さんの方こそ、先方に刃向かっては武(たけ)田(だ)家がどうなるか、お解りになりませんか?」

 

 父親は癇(かん)癪(しやく)を起こして紹介状の写しを破り捨てた。

 

「女だてらに小(こ)賢(ざか)しい知恵を捏(こ)ねくり回(まわ)しおって……!」

「先方には既に御了承頂いております。今からこの話を無かったことにするとなると、先方の顔に泥を塗ることになるでしょう。如(い)何(か)に武(たけ)田(だ)家がこの村きっての富豪で、隣村の大地主とも繋(つな)がりを持っているとはいえ、相手が貴族・水(み)徒(と)端(はた)男爵家ともなれば、手向かうのは賢明ではない……」

 

 父親は勢い良く立ち上がると、観(み)月(づき)を激しく蹴り飛ばした。

 

「もう良い! この親不孝者が! お前などもう娘ではない! とっとと出て行け!」

 

 憤慨する父親はそのまま座敷を出て行った。

 観(み)月(づき)は溜息を吐いて立ち上がる。

 そんな様子を、襖(ふすま)の影から彼女の弟が恐る恐る覗(のぞ)き見(み)ていた。

 

「盗み聞きか、廣(ひろ)志(し)」

「姉さん……」

 

 弟は徐(おもむろ)に座敷へと入ってきた。

 

「本気……だったんだな」

「ああ、お前ともこれでお別れだ」

「考え直す気は無いのか?」

「あるなら男爵家への口利きを頼んだりしないさ」

 

 観(み)月(づき)は弟と入れ替わり座敷から出るその間際、一旦立ち止まって振り向いた。

 

「お父さんもああ言っていることだ、これから荷物を纏(まと)めて家を出る」

「家を出て、どうするつもりだ?」

 

 弟の問いに、観(み)月(づき)は不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「軍の士官学校に入る」

「軍!?」

 

 弟は思わず大声を上げた。

 武(たけ)田(だ)家の人間にとって、家の方針に逆らって出て行くだけでもとんでもないことなのに、女の身で軍に入ろうなどとは破天荒を通り越して狂気の沙汰としか思えない。

 開いた口が塞(ふさ)がらない弟へ向けて、観(み)月(づき)は続ける。

 

「今の軍には女性の将校も数多く居ると聞く。杜若(かきつばた)中将などはその代表だ。だったら私(わたし)にだって出来る。今まで私(わたし)は、勉学でも武道でも決して男に負けなかったんだからな。そんな私(わたし)が自分の正しさを証明する舞台として、これ以上相応しい場所は無い」

「姉さん……。やはり貴女(あなた)は武(たけ)田(だ)家に生まれてくるべきじゃなかった……」

「廣(ひろ)志(し)、お前も医者になるばかりが人生じゃないぞ。自分の生き方は自分で決めるものだ」

 

 こうして、武(たけ)田(だ)観(み)月(づき)は故郷を出て上京し、軍の士官学校へ入ることとなった。

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