※この作品はR-18です。

日本と皇國の幻争正統記・好色秘伝   作:坐久靈二

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乙

 武(たけ)田(だ)観(み)月(づき)が皇(こう)國(こく)軍の士官学校に入って数年が経(た)った。

 中央から離れた村で全ての可能性を鎖(とざ)されて一生を終える筈(はず)だった少女は、自らの足で運命の箱庭から飛び出した先で、美しく咲き誇ろうとしていた。

 数少ない女子の身ながら同期の中でも三傑と称され、二人の男と首席を争っていたのだ。

 選良(エリート)として将来を嘱望される立場になった彼女は、確信を深めていた。

 

(私(わたし)は間違っていなかった)

 

 中尉待遇で軍に配属された彼女は、格納庫の中で自身に割り当てられた巨大なロボット兵器「為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)」を見上げていた。

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の中でも最大規模の「超(ちよう)級(きゆう)」は、彼女が早くも一人前の兵士として認められた証(あかし)であり、初任務を前にした彼女の胸は誇らしさで満ち満ちていた。

 この格納庫には彼女の機体の他にも六機の為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)が配備されている。

 しかし、彼女の機体は他の仲間達からの注目を集めていた。

 

「我々を差し置いて、新兵の分際で最新鋭機を与えられるとはな」

「まあ、女を初(うい)陣(じん)で死なせるのは寝覚めが悪いという上の配慮だろう」

 

 観(み)月(づき)は背後で男が話すやっかみの囁(ささや)き声を聞いて、逆に気分を良くしていた。

 村でもそうだった。

 勉学で、運動で、武道で、喧(けん)嘩(か)で、自分に敵(かな)わなかった男どもは決まって最後に負け惜しみとして女を揶(や)揄(ゆ)するのだ。

 

(悔しいだろうな。此(こ)方(ちら)としてはお前達が嫉妬すればする程に優越感が込み上げて来るよ)

 

 観(み)月(づき)は考える。

 これから自分は軍で多くの戦果を挙げ、前線を退いた後は持ち前の頭脳で軍の中枢を担うのだろう。

 自分にはその素養があった。

 あの日、家の方針に逆らい女として村に埋もれない道を選んだ御(お)陰(かげ)で、一人の優秀な人材が国家に功を立てることが出来るのだ。

 

(私(わたし)の決意が皇(こう)國(こく)に大きな益を齎(もたら)す。逆に、村や武(たけ)田(だ)家の旧(ふる)い考えがどれだけの損失を生んだことか。正しかったのは私(わたし)だ。孰(いず)れは私(わたし)が社会を正しい道へと導こう)

 

 観(み)月(づき)の前方には夢ばかりが広がっているように思えた。

 これから任務として戦場に出るのに、既に彼女は将来のことを考えて浮かれ気分だった。

 

「武(たけ)田(だ)中尉、愈(いよ)々(いよ)初出撃だな」

「隊長」

 

 そんな彼女に、隊長の大(おお)石(いし)大尉が声を掛けた。

 今回、新型の機体が割り当てられたのは観(み)月(づき)と隊長の二人だけだ。

 

「だが油断するなよ。今回、叛(はん)乱(らん)を起こした『武(ぶ)装(そう)戦(せん)隊(たい)・狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)』は皇(こう)國(こく)最大の叛(はん)逆(ぎやく)組織だ。奴(やつ)らは旧式とはいえ為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)を持ち、中には腕利きの操縦士も居ると聞く」

「隊長、私(わたし)は今まで唯(ただ)の一度も油断したことなどありませんよ。士官学校の訓練から既に、油断も隙もない相手ばかりでした」

 

 同期で首席を争った彼女達は、皇(こう)國(こく)始まって以来の逸材達と評されていた。

 曰(いわ)く黄金世代、曰く不世出の三傑。

 彼女が競い合った環境は刹那の油断も許されないものだった。

 

「そうか、ならばその心を更に研ぎ澄まして挑め。何処(どこ)まで行っても訓練は訓練、実戦とは違うのだからな」

「肝に銘じておきます」

 

 口ではこう言っているし、頭でも理解はしている。

 しかし、彼女は心の奥底で間違い無く慢心していた。

 それが彼女に取り返しの付かない事態を招いてしまうのだ。

 

「総員、出撃準備! 各(おの)々(おの)の為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)に搭乗せよ!」

 

 隊長の号令で、観(み)月(づき)達はそれぞれの機体に乗り込んだ。

 観(み)月(づき)は訓練の時と外観が違う真新しい操縦席に胸を弾ませていた。

 

「これが最新鋭超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ミロクサーヌ……! 十年越しに実用化された皇太子殿下の発案機……!」

 

 皇(こう)國(こく)皇太子・獅(し)乃(の)神(かみ)叡(えい)智(ち)は不世出の天才であるという。

 その彼が考案した超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ミロクサーヌは従来の機体を遙(はる)かに上回る性能が期待されていたが、技術的な問題で長らく実用化されていなかった。

 今回、漸く国家の技術力が天才に追い付き、その緒戦の操縦士として観(み)月(づき)が選ばれたのだ。

 

(此(これ)程(ほど)の栄誉があるだろうか。私(わたし)は、武(たけ)田(だ)観(み)月(づき)は選ばれた存在なんだ!)

 

 観(み)月(づき)は胸から溢(あふ)れ出(で)た誇らしさを呑(の)み込(こ)む様に深く息を吸った。

 そして、それを声として吐き出す。

 

「武(たけ)田(だ)中尉、ミロクサーヌ、出ます!」

 

 旧型を駆る仲間達に混じり、観(み)月(づき)のミロクサーヌが格納庫から大空へと飛び出した。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 観(み)月(づき)達の任務は、東北地方で暴動を主導した武(ぶ)装(そう)戦(せん)隊(たい)・狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)の本拠地を叩(たた)くことだった。

 軍は既に敵が暴動に乗じて為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)を動かし、自治体を占拠しようとしているという情報を掴(つか)んでいた。

 その為(ため)、鎮圧に彼女達が向かわされたのだった。

 

 観(み)月(づき)達の超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)は超音速で北上する。

 そんな中、観(み)月(づき)は不満を抱いていた。

 

(遅い……)

 

 新型機を与えられた彼女の機動力は部隊で頭一つ抜けている。

 隊長機も新型機だが、そちらは火力重視のガルバケーヌと呼ばれる機体だ。

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦士は感覚が機体と接続される為、速度を周囲に合わせている状況に、彼女は身体的な苛(いら)立(だ)ちを覚えていた。

 

 観(み)月(づき)が敵影を見付けたのはそんなときだった。

 超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)は波(は)動(どう)相(そう)殺(さい)機(き)能(のう)が備わっており、レーダーをほぼ完全に無効化する。

 それで、操縦士自らの感覚で索敵しなくてはならないのだ。

 彼女のその能力は隊で最も優れていた。

 

「隊長、敵機を視認しました。超(ちよう)級(きゆう)三機です」

『よーし、よくやった武(たけ)田(だ)中尉! 総員、戦闘準備』

 

 隊長から戦闘に備えるよう命令が入った。

 しかし、最(も)早(はや)観(み)月(づき)は我慢の限界だった。

 自分とこの機体なら、高々三機の敵ごとき難なく撃破出来る――その確信があったからだ。

 

「隊長、此処は私(わたし)にお任せください。敵三機は全てロクサーヌの旧式です。二世代前の機体に負けやしません」

『なっ!? 待て中尉! 早まるんじゃない!』

 

 隊長の制止を振り切り、観(み)月(づき)のミロクサーヌは一気に加速した。

 ミロクサーヌは新式ロクサーヌに代わる新型として期待されている。

 その最新鋭機を駆りながら、今更旧式ロクサーヌに後れを取るとは思えない。

 

「私(わたし)は皇(こう)國(こく)の未来を背負う選良(エリート)だ! 叛逆者の落ち零(こぼ)れ共に負けるものかよ!」

 

 観(み)月(づき)は自機の拳を向け、腕に備わった光線砲ユニットの砲口の狙いを定めた。

 そして、射撃。

 ミロクサーヌは機動力重視の機体とは言え、火力でも従来の機体とは一線を画する。

 彼女に狙われた敵機ロクサーヌは一撃で胴部を貫かれ、爆発四散した。

 

「他(た)愛(あい)も無い! このまま一気に全滅してやる!」

 

 だがその瞬間、敵の一機が凄(すさ)まじい速度で観(み)月(づき)の機体に接近してきた。

 

「えっ!?」

 

 観(み)月(づき)は虚を突かれた。

 それもその筈、その加速は彼女が旧式ロクサーヌに想定していた挙動を大きく逸脱して凄まじかった。

 ミロクサーヌの周囲を飛び回る敵機に、観(み)月(づき)はすっかり翻弄されていた。

 

『隊長の命令を無視して独断専行……典型的な青二才だな。機体性能は怪物級だが、操縦士が追い付いていない。ならばこの金(こん)剛(ごう)悟(さとる)のロクサーヌ改で充分墜(お)とせる!』

「舐(な)めるな!」

 

 観(み)月(づき)は機体の右手に日本刀状の切断ユニットを持ち、動き回る敵に振るった。

 しかし彼女の攻撃は難なく躱(かわ)され、反対にロクサーヌ改の切断ユニットがミロクサーヌの背中に打ち付けられた。

 敵は此方の浮力と水力の要である飛行具と呼ばれるブースターを破壊するつもりだ。

 

「うぐっ!」

『切断ユニットの刃が一撃で通らんとは、信じられん頑強さだ。だが、何度か斬れば問題無いな』

「ふざけるな!」

 

 こんな筈は無い、こんな――良い様にやられている観(み)月(づき)は焦り始めていた。

 そんな彼女が闇雲に振るう刃が敵を捕えられる筈も無い。

 敵ロクサーヌ改は回避行動と共にミサイルを発射し、ミロクサーヌの飛行具を爆砕した。

 

「ぐああああっ!!」

 

 落下する、撃墜された――平衡感覚を失う中、観(み)月(づき)は咄(とつ)嗟(さ)に脱出機能を作動させた。

 直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)と呼ばれる球状の操縦室が機体から射出され、落下傘を拡(ひろ)げる。

 

『武(たけ)田(だ)中尉!』

 

 隊長の呼び掛けに、観(み)月(づき)は答える言葉が無かった。

 なんという失態か。

 しかし、事態は更に悪化する。

 

『残る敵は俺(おれ)が掃討する。お前は敵の直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)を回収し、隠(かくれ)処(が)に戻れ』

『承知しました、同志金(こん)剛(ごう)』

 

 その後、敵のロクサーヌ改は観(み)月(づき)の隊を全滅させた。

 二機の敵はそれぞれ新型機ミロクサーヌとガルバケーヌの操縦室を回収し、自分達の隠処へと戻って行く。

 観(み)月(づき)の身柄は武(ぶ)装(そう)戦(せん)隊(たい)・狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)の手に落ちた。

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