※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

104 / 169
新生徳島ダンジョン1 襲撃

 突入戦以来、初めて本格的にダンジョンへ潜る事になる。これまではリハビリや検査で軽く流しただけだ。それというのも俺のフリル探索服が焼けてしまい、オーダーメイドの仕上がりを今日まで待たねばならなかった。マイスターの折辺さんも、今回は初めから男性用で仕立ててくれた。ド派手だったフリルは、フィギュアスケートの男子選手並みにまで抑えられた。彼女いわく、改良を加えて、地味でも性能は前作以上だという。魔石やアイテムの販売代金、特にダイアの原石の買取で、結構な貯金があったはずだが全部消えた。

 

 さて、ここ徳島支部のエントランスは迷惑な程、ごった返している。理由は二つ、一つ目は先の騒乱で徳島市が世界的に注目された事、そしてダンジョン自体もリニューアルが進み、深層を中心に未踏破区域も出現している。旧港湾ダンジョンのエネルギを吸収したのか、アイテムやスキルオーブの出現率もアップしして、実入りのいいダンジョンとなった。

 先の騒乱で国内外から人が殺到したが、探索者の何割かはそのままここへ居ついてしまった。極めつけは偽女神のシーナ顕現だ。彼女は徳島ダンジョンに棲んでいるという説が有力で、官民の捜索隊も組織されている。要は大人気ダンジョンになってしまった。ちなみに師匠は徳島市郊外の、納屋のダンジョンに住んでいる。ちょっと惜しい。

 

 受付の特定の窓口も大混雑している。これが理由の二つ目、先の魔導書オークションで、小梢ちゃんと尋さんは魔法のパフォーマンスを繰り広げた。一般人でもグリモワールがあれば魔法が使えるというのは、衝撃的であったらしい。二人は一躍脚光を浴びた。更に可愛いだけのドジっ子の見た目で、実は仕事が出来る、これがギャップ萌えして、厄介なファンも沢山出来きてしまった。土曜の朝からオタク探索者や近隣の中高生男子の選抜者が、蟻のように群がっている。わざわざ二人の窓口に並んで無駄話をするので、中々刷けない。他の受付にも影響が出ていた。

 

 当然ながら二人を無視して、他の窓口で専用の予定表を受け取ろうとした。だけどちょっと遅かった。二人から甘ったるい声で呼び止められる。にこやかな笑顔が怖い。

 

「こっち、こっち。あなたの予定は決めてあるの、向こうの個室でお話ししましょ」

「お姉さんからお願いよ。恐竜サイの魔石が欲しいの。おっきいのがいいの」

 

 小梢ちゃんも尋さんも、突然窓口をクローズして、駆け寄って来た。塩対応の彼らと比べて、余りにも依怙贔屓が過ぎる。両手に花を見せつけられて、男どもの恨みの視線が集中した。これ後で絶対に因縁をつけられるやつだ。体のいい虫除けにされてしまった。更に二人は俺の手を取ると、奥の小部屋へ引っ張っていく。商談やミーティングに使う部屋で四畳半位しかない。窓もなく消音室となっている。最後に入った小梢ちゃんが外に向けていい顔で嗤う。扉を閉めて鍵をかけてしまった。これで密室となった。彼らはきっと、音の漏れないこの部屋で、俺が美人受付嬢とエロい事をしていると妄想しているはずだ。

 ちなみにこの部屋が狭いのは、『盗聴』や『透視』といったスキルにも対抗するため、高価な建材がふんだんに使われているためだという。俺も入るのは初めてだった。

 

「僕、あの人達に襲われそうなんですけど」

「あら、御上君なら軽くあしらえるんじゃない。旧港湾ダンジョンでの突破力、語り草になっているわよ」

「問題にならない程度に返り討ちにして」

 

 小梢ちゃんと尋さんがせせら笑う。選抜者の全員が専業の探索者になるわけではない。性格やスキルのせいでダンジョン探索に向いていない人も多い。とは言えダンジョンに潜らないと、スキルも経験値も増えない。彼らは義務的にダンジョンに入るわけだが、その人たちの一部に、自分を特別視する連中がいる。他者より優れた能力に恵まれながら、命のやり取りをしない。にもかかわらず周囲が持ち上げてくれるからだ。因みにダンジョンで飯を食っている専業は現役選抜者の半分位と言われる。

 どうやら協会も連中に手を焼いているみたいだ。悪質な奴らを出禁にすれば、問題はある程度解決する。俺はそれを押しつけられたらしい。年下の少年が騎士になって戦ってくれる、二人の受付嬢はお姫様になった気分で俺を見ている。そんなに瞳をキラキラさせれたら断りづらいのだが。

 

「彼らって、殆ど初級免許ですよね。数人なら何とかなると思います。でも数が多いと死人が出ますよ」

 

 手や足が欠損しても、俺達は魔法が撃てる、また槍や短剣を投擲できる。そんなスキルもある。それを避けるには一撃で戦闘不能にする必要があった。全員が『身体強化』のスキルを持つ選抜者にはこれも難しい。しかも俺の戦闘力はモンスター戦、特に大物狙いに特化している。

『石槍』で腹を穿たれれば、初級の人なら多分死ぬ。『鎌鼬』なら手足が千切れ、あるいは出血多量で助からない。俺の『戦斧術』は重さに速さを乗せるタイプだ。軽く打ち込むのが難しかった。『衝撃波』とか神瞑流モドキの「叢雲」は、モンスターを肉片にしたり、内側から切り刻んだりする。とても人に使える技ではない。

 

「困ったわね、特に危なそうな人が十数人いるのよ」

 

 尋さんが思案顔だ。ギルドはヤバそうな人たちの情報を把握しているみたいだ。

 

「それなら逃げるというか、振り切る方向で。目的地まで、モンスターが多くても構いません。ただ迷いやすく袋小路の多いコースはなし。なるべく戦闘は避けたいですから」

「任せなさい、あなたを想って夜も寝ずに考えたんだから」

 

 小梢ちゃんがタブレットを俺の方に向けた。そして隣に座ると、密着して説明を始める。小柄な二人が肩を寄せ合うとか、傍から見れば微笑ましいだろう。

 

「尋ちゃん、わたしたち恋人同士に見えないかな」

「もう小梢、御上君で遊ばないの」

 

 真面目な尋さんが呆れている。でも一瞬だけ、タイトスカートから内腿の奥まで零れたのを、俺は見逃さなかった。

 確かに二人は優秀だ。新生徳島ダンジョンは、深層だけでなく、上層も中層もかなり様変わりしている。小梢ちゃんは幾つかのコースを的確に示してくれた。今回のようなケースも想定していたのだろう、所要時間から留意事項まで説明に淀みがない。夜も寝ずに考えたのも嘘ではなかった。尋さんも新たに出現した、深層の異空間について的確な情報をくれた。彼女も俺のスキルを把握している。説明もそれに沿って、実に分かり易いものだった。

 

「僕の初めてのサポーターが小梢ちゃんと尋さんで良かったよ。二人とも僕の為に心を尽くしてくれたのが分かる。安心して命を任せられるよ」

 

 上級探索者の場合、協会依頼の任務には、職員がサポートに着く事がある。上級になったばかりの俺に、今回始めてサポーターがついた。職員にとっても優秀な探索者のサポーターになるのは、キャリアアップに繋がる。二人とも、魔導書オークションの件で、協会のイメージアップに寄与したのが評価されたのだろう。

 

「わたし、御上君にしてあげるのが初めてなんだ。サービスするからわたしのために頑張って」

 あざとい小梢ちゃんは、俺の手を握りながらお願いしてくる。相変わらず、男性探索者をやる気にさせるのが上手い。

 

「僕だって初体験だよ。私生活もサポートしてくれると、もっと嬉しい」

 

 サポートする職員と探索者が恋愛関係になって、結婚まで行くのはよくある。

 

「もう御上君、大人を揶揄わないで。それに小梢、あなたがそんな態度だから勘違い野郎が沢山出るんです」

 

 真っ赤になって憤慨する尋さんが可愛かった。

 

 

 

 息抜きの雑談を交しながら本題に入った。尋さんが俺の探索予定を決めてあげると言ったのは、半分本当だ。これからギルドの調査依頼を兼ねて、泊りがけの探索をする。行き先は当然リニューアルした深層だ。実はここ徳島ダンジョンは、深層の大半が異空間化した。その中の一角、サイの魔物、通称恐竜サイの生息エリアでの調査及び魔石の確保を依頼された。こいつらは6m越えの大物であり、金属質の皮膚を持つ。更に属性魔法も使えたりする。仕留めるには大人数でのタコ殴りか、一撃の威力の重い必殺技を持つ、探索者の参加が必須となる。更に異空間での野営は難易度が高い。恐竜サイの落とす魔石やアイテムは結構な値段で引き取られているが、ここへの遠征組は少なかった。要は対費用効果が悪いのだ。

 

「御上君なら、大丈夫よね。給水にアイテムボックスを使えるから身軽だし、一撃必殺の衝撃波もある。結界があるから、睡眠中の見張りも必要なし。でも情報が少ないから気をつけて」

 

 ただ、戦える斥侯である俺なら話は別だ。大人数のパーティでは割の合わない依頼でも、大技を持つ俺がソロでこなすには美味しい。協会のほうで何らかの配慮をしてくれたのかもしれない。

 

「奧には未踏破エリアが存在する可能性もあるの。余裕があったら調査して。でも絶対に無理しないでね」

 

 そうは言われても、俺の成果が二人の評価に繋がるのだ。俺はすっかり乗せられてダンジョンに潜った。

 

 

 久しぶりの泊りがけの遠征だ。上層は確かに人が多い。狩りの邪魔にならないよう、足早に駆け抜けていく。案の定ついてくる集団があった。それもかなりの数。俺と小梢ちゃん達の関係を問い詰める気だろう。常連の探索者なら俺に難癖はつけないから、彼らは普段はダンジョンとはあまり関わらない人達だ。俺は見た目が女々しいので組み易すいとでも思ったか。それに探索より追っかけを優先しでいるようでは、実力も知れている。

 幸か不幸か、モンスターは狩りつくされて数が少ない。俺は連中を引き連れてひたすら走る。マラソンのペースメーカーになった気分だった。ただ俺の場合は、彼らを棄権させるのが目的だ。速すぎるペースで、基礎体力のない連中から置いていった。深層の目的地に最短距離で向かっている。危険区域を突っ切る事になる。ここは死角が多い。モンスターが、そして彼らが俺を奇襲するには最適の場所だ。戦闘があるとすればここだろう。

 傍目には俺は無警戒に走っている。実際は『透視』と『魔力視』で索敵し、『気配察知』で周囲を探っていた。連中には俺が素人に見える。だがそんな人間が予知でもするよう、死角からのライダーを蹴散らし、岩棚の弓兵を『石槍』で撃つ。あるいは亀裂を跳び越え、大岩へと駆け登る。中級の実力でもこれは難しい。残った連中も流石に気づく。俺との実力差に彼我の差がある事を。どうやら全員引き返してくれるようだ。

 彼らが実力行使にでなかった事にほっとした。それにこの先もついてくるなら、モンスターとの戦闘で死人が出たかもしれない。

 

 

 

 中層へ抜けて一安心と思っていたが、後方でまた『気配察知』に引っかかるものがった。軽装の俺について来れるのだから、中級以上のグループだろう。俺はモンスターとの戦闘を最小限にしながら先を急ぐ。だけど彼らも着かず離れず、同じコースを進んでくる。これについては判断に迷った。深層へ最短で向かおうとすれば、おのずと俺と同じ様なコースになる。それに戦闘の邪魔にならないよう、俺だって先行する集団とは適度な距離をとる。

 だけどやがて気配が消える。俺と狩場が被らないよう、予定を変更してくれたのかもしれない。申し分けない事をした。もう少しで深層という処で装備の点検を行った。靴ひもを締め直す。ハルバードをアイテムボックスから取り出した時、それは起こった。

 当然周囲は警戒していた。『気配察知』は反応していない。『魔力視』でも写らなかった。唯、妖精からもらった【魔導】が耳の後ろでチクリとする。振り返れば『炎弾』が迫っていた。大きさ威力とも申し分なしだ。爆風が踊り狂い、俺はテニスボールのように弾んで転がる。直撃を避けるのがやっとだった。朦朧とした頭で精一杯考える。『隠匿』スキルの強力なヤツが使われたのか。こいつらは追いかけ集団に紛れ込み、途中からは実力派パーティの行動を模した。そして俺の気が逸れたところで『隠匿』での奇襲、プロの人狩りだ。

 霞む眼で確認できたのは、フルフェイスの人影が三人、よろよろと立ち上がったが、瞬時に一人が懐に入ってくる。近距離からのラッシュ、魔法とハルバードの間合いの内側に入られた。『体術』スキルで強化された近接格闘術の前に、俺はタコ殴りにされてしまう。敵の一撃は早い上に重い。手と足に魔力を集中している。掌底の一撃が内臓に響く。トリッキーなステップで、戦斧の軌道を巧みにかわす。俺に出来る事は、意識を飛ばされぬよう、倒れて組み伏されないようするだけだ。『身体強化』ダブルと『自己回復』で耐え、『強靭』と『柔軟』スキルで衝撃を逃がす事でかろうじて踏みとどまった。

 俺の『体術』はスキル依存だった。技はプロレス由来のものが多く、実戦もベッドの寝技が殆どだった。スキルを疎かにしたツケが回ってきた。朱美から忠告されていたのに情けない。段々削られてくる。ハルバードを捨てて防御すれば、もう少し持ちこたえるかもしれない。だがそうすれば俺の勝ち筋はなくなる。敵も戦斧を警戒して、大技を繰り出せないでいる。覚悟を決めた。

 

 敵は強いが星堂さんには劣る。この程度ではまだ死なない。不動の態勢を取った。精神と魔力を集中する。急所だけを避け、攻撃は全て受けた。アドレナリンが分泌されて手刀、足刀が軽くなる。こいつは俺だけでなく、朱美や詩央にも付き纏うかもしれない。存在を許してはならない。

 俺の雰囲気が急変したのを警戒して、奴の動きが一瞬止まる。即座に『風衣』を展開した。同時に『俊足』で、後方へ瞬時に距離を取る。秘かに練習していたのだ。そして再び『俊足』で前に迫撃する。敵意も恨みも迷いもない。渾身の力を込めて戦斧を振り切る。

 

 塵へ還れ

 

『衝撃波』が発生した。会心の一撃が直撃するも、相手も『障壁』を展開させてこれに抗う。人が一人隠れるだけの最小限の、その代わり最大強度の『障壁』だった。爆風が全て呑み込み、吹き飛ばす。地を抉り、岩を砕く。陰で窺っていた仲間二人をも巻き添えにした。だが土煙が晴れる中、逃げ去る三人を僅かに捉える。怪我はしているようだが。『隠匿』でも使われたのか、その気配もやがて消えた。驚きだ、必殺技をもってしても仕留めきれなかった。

 追撃も考えた。だけどこちらも消耗して回復を待つ必要もある。奴らがダンジョンから出るまでには追いつけないだろう。それに不用意な追撃は再度の奇襲を許すかもしれない。尚、探索の最中、大きなトラブルがあれば、中断してギルドに報告する事が推奨されている。

 

「小さなトラブルだから報告は後でいいよね」

 

 日常が帰って来た。我ながらダンジョンに馴染んで来たと思いながら深層へと降りる。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。