※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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疑似ダンジョン7 エクストラボス

 疲労のせいか、幻覚を見た気がする。人間極限状況では精神に異常をきたすと言われるが、自分がそうなると笑えない。赤いスキルオーブとかありえない。オーブは無垢を意味する白色なのだ。オーブはスキルそのものでなく、選抜者に眠るスキルの芽を成長させる養分の様なものという説も一般には有力だ。

 それに女の子の妖精と会話している夢も見た。馬鹿にされていた気もしたが、最後の夢にしては悪くない等考えていると、自分は『結界』で覆われているのに気付く。白蛇から会得した『結界』は外部からの攻撃を防壁などで防ぐものではなく、幽世のように外部に情報を与えないタイプである。結界内にいると、俺は外部から認識されない。五感だけでなく魔力も感知されないらしい。睡眠中でも展開可能。反対に俺は外の様子を伺う事が出来る。もちろん俺はその場から動く事は出来ないし、攻撃も出来ないが。

 現状ではほぼ俺一人用だが、それでも破格のスキルだろう。休養に、危険回避にと、探索に圧倒的なアドバンテージを確保できる。極めれば、『魔力視』と共に俺の切り札になるだろう。ただ相手に認識されていると、『結界』を展開できないので次の戦闘では使えない。いいスキルをくれた白蛇に感謝しながら、次へと進む。

 そこはダンジョンでは珍しい自然を模した亜空間、幼い頃の田舎の記憶が展開していた。納屋のある広い庭、土の匂い香る耕された畑、湿った農道と水が引いたばかりの側溝。よくかくれんぼで隠れていたなあ。

 夕闇迫る雨上がりの農耕地には、5m越えの巨大な蝦蟇がえるが鎮座していた。目を細め気持ち良さそうにしているのも思い出通りだ。

 

「勝った!」

 

 戦う前から俺は勝利を確信した。小さい頃は蝦蟇がえると散々遊んでやったのだ。こいつらと遊べるのは、日が落ちて爺さんに連れ戻される僅かな時間だけ。棒で突いたり、バケツで運んだり、蹴とばしたりと夢中になっていた。俺は蝦蟇がえるには詳しいのだ。

 巨大蝦蟇に真横から近づく、後ろから近づかないのは、後足のキックを警戒したから。蝦蟇がえるの攻撃で一番素早いのは舌を伸ばす虫取りだ、次が後ろ脚を使っての蹴り。後ろ蹴りだけでなく、横蹴りも得意だ。二つを注意すれば、恐れるに足りない。方向転換でも愚図つくし、デブいからジャンプも苦手である。俺は真横に張り付いて戦斧をふるう。油が滲み出て刃先をそらすが、すぐ修正していく。これを繰り返すだけで、安全確実に巨大蝦蟇が倒せるのだ。

 蝦蟇がえるの皮膚が破れて筋肉が露出する。時間をかけてもこれで楽勝と思っていたら、一切の予備動作もなく大ジャンプをかましてきた。早すぎて目に止める事が出来なかった。蝦蟇の油が体を覆い、みるみる傷が塞がっていく。『自己回復』を習得しているのか。蝦蟇がえるが喉を鳴らしてあざ笑う、怒る間もなく『炎弾』が3連で発射される。魔力の起こりが見えるので、何とか躱すことが出来た。

 反則だろう、舶来レスラーには巨体なくせに早くてテクニシャン、当然パワーファイターというのが偶にいるが、そいつらは反則もうまい。普通に戦うと強すぎて相手にならないので、あえて反則で戦うという縛りを課している。こいつにはそいつらと同じ強者の風格がある。

 再びの『炎弾』を躱したと思う間もなく、10m級のボディプレスが襲ってくる。辛うじて躱すも、今度は後足キックが炸裂する。躱しきれずに太ももに直撃して、俺はサッカーボールのように転がっていった。左足は最低でもひびが入っているだろう。もう一度ボディプレスが襲ってくると、俺はすぐ横の側溝に転がり落ちた。

 子供の頃は横になれば、充分に隠れられる深さだったが、今はどうだろう。背中に蝦蟇がえるの腹がのしかかるも一瞬だけだった。圧死は避けられたが、真っ暗で何も見えない。俺は蝦蟇がえるの腹の下だ。側溝の前後は獣除けの柵があったはず。記憶通りなら前進も後退も無理か。それに左足もやられているし、これは詰みかな、最後は「新人ちゃん」のボディプレスを受けたかった。そう言えば先の夢の中で、蛇妖精のボクッ娘がいたな。この娘とももう会えないのか? 

 蛇には熱を感知するピット器官を持つ種族がいる。俺は前層での戦いで、大蛇が蝮系の可能性に備えて、着火剤をポケットに移しておいたのを思い出した。牽制に使えるかと思っていたのだ。全身の痛みを我慢しながら、点火して前に投げる。燃焼時間は約8分、まさに俺の命の灯だ。蝦蟇よ、動くなと祈りながら、『アースファング』を念じる。数分が経過したであろうか、再び俺の背中に蝦蟇の腹がのしかかってくる。ああ、こいつは息を吸って腹を膨らませている。側溝の空間まで己の腹で埋め尽くして、俺を圧死させるつもりだ。

 祖父の家の前の道路では、時節になると蝦蟇がえるがよく轢死していた。観察していると、こいつらは道路にうずくまって動かない。そして思い出したように前進して、また止まってしまうので、結構なカエルが轢かれてしまう。俺は事あるごとに、棒で突いたり足で蹴ったりして、道の両端に追いやった。当時は蝦蟇かえるを助けて良いことをした気分だったが、長じては自然の摂理を乱しただけではと思うようになった。蝦蟇を助けてもそのせいで死ぬ生き物が増えるだけだ。

 息を吐いたら、更に蝦蟇の体重がのしかかる。もう息を吸う事も出来ない。胸に痛みが走る、ひびがいったか。思えば「道路渡り」は蝦蟇がえるの試練だったのかもしれない。俺は蝦蟇がえるの祈願成就の邪魔したのか。それとも彼らは単に命を捧げて、神様と遊んでもらえるのが楽しかっただけなのか。薄目を開けて気持ち良さそうな蝦蟇がえるの顔が浮かぶ。

 

「人にはカエルの心は分からないな」

 

『アースファング』が発動した。

 

 百舌鳥の速贄のようになった蝦蟇がえるは、『アースファング』に命と魔力を啜られて、1分程で消えていった。無念の顔だった。痛む体を無理して起こす。左足は折れているかもしれない。深呼吸をするたび、胸が痛む。蝦蟇が消えた後には怪しい壺が置いてある。カエル系のモンスターからは稀に外傷に特効のある薬品の原液を落とすことがある。そのまま使っても効果は高いが、他の材料と合わせて加工され、通常は製薬会社から医薬品として販売されている。怪我は誰にでもあるので、原液も人気が高い。今回は伝え聞いた数倍は入っていそうだ。痛みが引かなかったら後で使おう。

 オーブは二つ。一つ目を手に取り胸に当てる。

 

『自己回復』……他者の怪我は直せないが、自分の怪我はすぐ治す事が出来る。

 

 これは良いスキルだ。単独行の斥侯で恐ろしいのは怪我である。助けてくれる人や、助けを呼んでくれる人はいないのだから。何より朱美に殴られても怪我がすぐ治る。ありがとう蝦蟇がえる、お前は俺の竹馬の友であった。二つ目、

 

『避妊』……望めば相手を妊娠させない。女性の場合は自分が妊娠しない。

 

 やりやがったな、クソがえるの嗤う声が聞こえた。

 

 

 ここからは唯の記録である。

 試練の穴より脱出した俺は、待機していた妹に、過剰なまでの回復魔法を叩き込まれて入院となった。ダンジョン協会の職員から様々な聴収や検査を受けたが、最近まで母の同僚だった人が多くて、配慮の届いたものだった。問題は高校の方で、一日登校しただけでカリキュラムの提出も終わらないまま、一週間以上欠席する事態になった事だ。しかも本人は選抜者コースへの変更を希望している。出欠は公休扱いだが、俺はスタートから全ての授業で立ち遅れた。後、家族や友人からは大いに泣かれた。

 持ち帰った大斧と戦斧だが、逸品だが高値では引き取れないと説明された。理由は使用者がほとんどいないからと。それで自分の武装にあてる事にした。薬の方は引き取りを望まれたのでその通りにした。ダンジョン探索の初期費用に充てるつもりである。

 スキルの扱いについては以下の通りとした。全て隠すのは母の立場上憚られたし、そういう人間は仕事も回ってこなければ、パーティーも組めない。

 

 公開スキル

『身体強化』ダブル 『魔力視』 『洗浄』 『給水』 『俊足』 『魔力強化』 『戦斧術』 『自己回復』

 履歴書の資格欄。自己アピールである。ダンジョン攻略に必要なスキルで、仕事の依頼やパーティー加入の参考にされる。上級者は最低でも10個は持っている。ここのスキルも直ちに公開されるものではなく、俺が免許を取ってプロになってからだ。

 

 非公開スキル

『美声』 『容姿』 『性技』 『性豪』 『避妊』

 協会には届け出るが、一般には開示されないもの。生活関連や司法、警察関係のスキルに多い。この手のスキルはむしろ公開する人は少ない。

 俺の場合、男女の営みに関するスキルが多く、男性職員が羨んでいた。

 

 保留スキル

『アースファング』 『結界』

 公開予定はあるが、使い方に難ありとか強力すぎて様子見されているスキル。妹のように身バレで不利益が予想される時もここ。

 使えない『アースファング』と便利すぎる『結界』。特に極少数しか入れない『結界』は、緊急時に誰を見捨てるのか、自分が命の選別する事になるので、母さんが強く保留を主張した。

 

 秘密にするスキル

『透視』 『話術』 『唯我独尊』 『わからせ』

 届け出どころか家族にも言っていない。この中で『話術』は公開すると相手から信用されなくなるので、一般に秘密にされる事が多いスキルだ。スキルを隠していると疑われた時の保険にも出来る。

 今の俺はダンジョン内では戦闘も出来る斥侯タイプで前途洋々。外では甘い声と甘いマスクで、言葉巧みに女をだます。泣かせても子供が出来ないから責任を取らない。更に覗きもやっているヤリチンなのだ。

 

 

 

「ボクは世界一のダンジョンを造るんだ」

 

 意気揚々と試練の穴から飛び出した蛇妖精だったが、やっぱり結末が気になって中を覗いていた。予想に反して男の子が勝ったのは驚きだ。弱い命が頑張った。

 

「蝦蟇がえる ザマァ!」

 

 陰険で卑怯な蝦蟇がえるが負けた事に凱歌を叫ぶ。白蛇の夢として微睡みながら見ていたが、こいつはヘコヘコしながら陰口を叩くので大嫌いだった。今回も些細な事を根に持って、人間の子供に嫌がらせをしていた。それが見事にザマァされたのだ。この子、育ててみようかな。自分を目覚めさせるだけあって、あの子供の魔力には香ばしい匂いがした。男の子にかけた言葉をもう一度繰り返す。

 

「ボクの作ったダンジョンに来てくれれば、君はボクのものになってもいいよ。ボクは女に刺されそうな子が好きなんだ」

 

 蛇妖精は祟りや呪いが大好きだった。

 

 




今話にて本章は終了となります。
引き続き次章、「ダンジョンと踊ろう!」を掲載予定です。
ダンジョンンを巡る様々な騒動に踊らされながら、円舞曲を踊るように、女性をとっかえひっかえする主人公を描きたいと思います。

尚、次章より作品タイトルを「ダンジョン姫はじめ」に変更させていただきます。
これは元々新章の章題として用意していたものですが、一応エロ小説ですので、少しでも艶っぽいものをと思った次第です。

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