※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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女神教孤児院5 初めてのお使い

「デート! デート! デート!」

 

 童女達が囃し立てる。悪乗りした俺は、シスター見習いの泉澄の肩に手を回す。だけど思い切り払われた。

 

「やーい、お兄ちゃん、ふられた」

「ならわたしがお相手してあげる」

 

 みんな大喜びだ。ませたメスガキも混じっている。

 

「弟君は本当に子供ね。泉澄ちゃん、彼の手を離さないで。本当に迷子の子羊になってしまうわ」

「油断も隙も無いわ。鎖に繋いで引っ張って行こうかしら」

 

 案内人は俺だというのに、ミシアも泉澄もあんまりな言い方だった。もっとも俺は、小さい頃から知らないお姉さんについて行って良く叱られていた。二人を強く非難できない。

 これから俺と泉澄は司祭様のお使いだ。チャリティーコンサートへ参加するに当たって、事前説明を受けに行く。シスターとなる泉澄にはこうした交渉事も不可欠だろう。今回は俺という関係者がいる。早く慣れるようにと、司祭様の配慮だった。また呼び出しての説明は、不慣れなこちらを心配した菫先輩の気配りだと思う。

 

 土曜の午後、市街地へと向かう電車は比較的空いている。普通に席が確保できた。これから伺うショールームは、会社のプロ用向商品から般向けのお洒落グッツが各種販売されている。当然ダンジョンが産みだす各種アイテム、分かり易く言えばゴブリンやコボルトの剣や槍などが豊富に展示コーナーもある。また、旧式の探索服や、かつての有名探索者の装備品など陳列されていて勉強になる。更にヴァーチャル映像、現役を引退した探索者の講演やパフォーマンスと各種イベントも充実していた。チャリティーコンサートは併設されている多目的ホールで行われる。

 今日の泉澄は私服だった。ノースリーブのワンピースに薄いカーディガンを羽織っている。彼女はいつもセーラー服を着ていたりして、私服姿を見るのは何気に新鮮だ。薄々感づいていたが、小柄だけど胸が大きい。そして彼女は何故か緊張している。お洒落したのを照れているのだろうか。俺は胸元を覗き込みながら褒めちぎった。

 

「そのワンピース、夏の泉澄によく似合う。いつも凛としている君だけど、何故だか可愛く見えてしまう。本当にデートしようか?」

「ありがとう、これお姉ちゃんの形見なの。妹のわたしが言うのも何だけど、とっても綺麗な人だったのよ」

 

 いきなり地雷を踏んだ。こんな時は道化をやって和ませるに限る。

 

「えー、泉澄たちは美人姉妹だったんだ。お姉さんとお付き合いしたかったな」

「そう言ってもらえるとお姉ちゃん喜ぶわ。でも軽すぎる君には紹介できません」

 

 肘鉄を喰らった。でもツンツンする程に二人の距離は近くなっていく。電車を降りる頃には、お互いに家族の想い出を語り終わっていた。

 

 

 

 岩魂寺コーポレーションは、ダンジョン関連の企業としては国内有数であった。本社は徳島ダンジョンの横で燦然と輝いている。菫先輩の祖父、現会長は黎明期、いち早くダンジョンの将来性に目をつけてベンチャー企業を立ち上げた。もちろんそういうそういう企業は他にもあった。だけど彼は競争の激しかった東京や関西でなく、過疎っていたここ徳島市に目をつける。おかげで都庁壊滅の悪夢に巻きこまれずに、また彼の技術者としての才能と息子の経営センスもあって、親子二代で世界的な企業へと発展させた。

 

 土曜の午後は、親子連れやアベックの姿も多い。ここはデートスポットとしても有名だった。またナンパの名所でもある。みんな結構お洒落をしている。泉澄は当初学校のセーラー服で来ると言い張ったが、悪目立ちすると言って止めさせた。お洒落してくださいと拝み倒したのだ。それでセーラーカラーのノースリーブとか、どれだけセーラー服が好きなんだろう。

 早目に着いたので、二人でショールームを見て回る。先方から話題を振られた時、何も見てないでは印象が悪い。中でも人気があったのは、フリル服のコーナーだった。菫先輩の着用していたゴスロリ探索服も展示されている。最新のファッションを前に人だかりができている。見学の女子からは、可愛いかも、なんて声が上がっている。

 

「ねえ、想夜君。最近の女性探索者はあんなのを着てダンジョンに潜るの。ひらひらして動きにくくない? 直ぐに破れそうで恥ずかしいんですけど」

 

 泉澄は容赦がなかった。俺がフリル服を初めて目にした時と同じ感想を言ってくる。

 

「恥ずかしいのを我慢すれば、着心地は悪くないし意外に丈夫だよ。それにあのひらひらはラジエーターの役目をしていてね。衝撃や魔力爆発を逃がしてくれるんだ、自分も命を繋げられた。だからみんなにも会えている。今着ているのは二代目だよ」

 

 俺の探索服がフリル服なのはもう広まってしまったので、今更だ。泉澄や童女達だって、ダンジョンの抽選に一人ぐらいは選ばれるかもしれない。隠していても一緒に潜ると知られてしまう。ダンジョンでは死は間近だと思い当たった泉澄は、俺の手を握ってきた。気の強い女の子がしおらしくなるのはいい事だ。見せびらかすように広いショールームを一周してから、インフォメーションで話を通す。特別室へと案内された。

 場内の女子の視線が、一斉に泉澄に集中する。それは羨望であり、嫉妬の眼差しだった。

 

「想夜君、みんながわたしをジロジロ見てるんですけど」

「それは泉澄が綺麗すぎるからだよ」

 

 この先の最新の武具を扱う特別室は初心者お断りだった。その威力や海外への技術流出の懸念から、展示品の販売は一般の人には規制されている。ここから先へ進めるのは、中級以上の探索者とその同伴者となる。その為、一流の探索者を彼氏にもって、そこへ連れて行ってもらうのは、女子のステータスであった。着飾った女の子たちが逆ナンしようと、大勢で待ち構えているのだ。ここがナンパの名所たる所以であった。

 以前ここから出てきた後、お姉さんや女の子たちにわらわら囲まれて閉口した。内気で女々しい俺なら簡単に落せると思われたのか。今日は泉澄がいるから大丈夫だ。

 

 豪華な応接室へと通されたのは、俺への接待だろう。泉澄は緊張でガチガチになったが、ちゃんと挨拶できたのは偉かった。担当の人が言う。

 

「小学生の皆様なら、こうした舞台にはまだ慣れていないと存じます。前日のリハーサルの時間が取れます。練習されてみませんか」

 

 プロの出演者たちの調整が終わって、空き時間が出来たという。いちもにもなく賛成した。通り一遍の確認作業が終わった後、泉澄が謝意を述べる。

 

「聖歌隊への衣装の寄贈ありがとうございます。でもよろしかったのですか、値の張るものではと、うちの司祭は心配していました」

 

 担当の人が一瞬俺を見た。何も知らないという顔をする。

 

「気にしないでください。販売前には誰かに試着してもらう必要があります。それにめったにない衣装を裁断できるので、被服部のスタッフは喜んでいましたよ」

 

 コーポレーション側からコンサートで歌うための舞台衣装、クワイアードレスとビレッタ帽の寄贈が打診されていた。菫ちゃんが手を加えたのだろう、可愛らしいひらひらのついたローブだった。布地には最新のダンジョン素材が転用されている。

 かつては軍民転換と言い、軍需産業が民間に転用されて、人々の暮らしがよくなるのが常であった。インターネット等がその例だ。最近ではダンジョン攻略用に開発された技術がそれに代わりつつある。

 俺達斥侯は衣擦れの音にまで神経質だ。命懸けの偵察中に、モンスターに感ずかれたら目も当てられない。当然音のしない素材が求められた。それを民需に転用するための試作品という。音楽関係者は自分の声や楽器以外の、余分な音が拾われるのを嫌う。今回のローブはその実験も兼ねていた。お値段は言わない方がよいだろう。

 

 この後俺達は案内嬢に連れられて、ステージやバックヤードを見学した。別れ際にお姉さんは俺に微笑みかけた。

 

「御上さま、今日の御越しありがとうございます。わたくしどもも、社長もお嬢様も、今度こそお力添えをと願っております。会社としては最大限の便宜を図りますわ。もちろん私も協力しますよ」

 

 俺の気を引くためだろうが、これは失言だった。彼女は詳しい背景を聞かされていなかったのかも知れない。その一方、泉澄は澄ましている。でも俺には分かる、こうした社会の無関心に、彼女達はずっと晒されているのだ。二人きりになると、堰を切ったように、感情が溢れ出した。

 

「あなたここへの社会奉仕を望まれていたのね。なんで受けなかったのよ。前途洋々じゃない。それなのにわたしたちのために……」

「もちろんここでの奉仕活動もやりがいがあると思う。でもここは代わりがいるよ。ダンジョンから授かったこの力、本当に必要としている孤児院のために役立てたい」

「ばか、想夜の大馬鹿!」

 

 シスター見習いらしからぬいけない言葉を吐いて、泉澄は涙ぐんだ。

 

 

 

 次はダンジョン協会に向った。こちらはどちらかというと俺の用事だ。今回のチャリティーコンサート、後援のギルド側でもボランティアを募集している。警備やパフォーマンス要員だ。俺はそれに申し込んだ。招待されているのは孤児院の関係者であって俺ではない。それに、部外者の俺が童女達に混じってしゃしゃり出るのは避けたかった。

 

「自分も裏から応援するよ。手続きを済ませて来るから、泉澄はエントランスを見学してて。あそこのおっきな棍棒は、僕が持ち帰ったヤツ」

 

 土日には追っかけが多いため、小梢ちゃんと尋さんはシフトから外れるようになった。書類を提出する際、職員の人が注意を促してきた。泉澄が三人組に絡まれている。奴らには見覚えがあった。以前小梢ちゃんと尋さんに付き纏っていた探索者の面子だ。特に悪質と聞いている。周りの探索者の目もある。俺が割っていると何も言わずに出て行った。

 

「あの人たち、あなたと私の関係をしつこく聞いてくるの。恋人同士じゃないかって。感じ悪いわね」

「彼らはここの受付嬢の付き纏いだよ。一度間に入った事がある。その時に恨みを買ったみたいだ。また絡んでくるかもしれない。ここを出よう」

 

 奴らの出方を伺うべく、憤懣やる方のない泉澄を眉山公園へと手を繋いでいった。残念ながら三人とも後をつけてくる。建物の死角に入った所で、俺は羽織っていたジャケットを脱いだ。Tシャツ一枚となる

 

「さあ、泉澄も脱いで」

 

 状況を把握していない彼女のカーディガンを引っ張って脱がせた。セーラーカラーのノースリーブになると、印象が大きく会わる。真面目な女学生が、健康的な美少女へと早変わりした。幸いに周囲には人影がない。静かにしろと命令する。彼女を抱え上げるや、『風衣』を使って石垣を飛び降りた。樹々が点在する芝生広場は、黄昏時には男女の語らいの場となる。ベンチで抱擁しているカップル、芝生で抱き合って横たわったり、膝枕されたりしているアベックと、免疫のない泉澄には刺激が強い場所だった。案の定、真っ赤になっている。俺はベンチに座らせた。

 

「恋人同士の振りをしよう。僕に抱かれるマネをして」

 

 連中はもう傍まで来ている。俺達は羽織ものを取っている。抱擁して顔を隠せばやり過ごせるはずだ。有無を言わせず抱き締めた。

 男女の二の腕が絡みつく。柔らかな感触が優しい。きっと泉澄もそう思っているだろう。恐る恐る俺の背中に手を回してきた。だけど彼女は不慣れだった。剥き出しの腕の、肌がふれ合う心地良さに思わず力が入ってしまった。豊かな双丘が俺の胸に押し当たる。お互いに薄着だ。乳首が勃っているのが分かってしまった。当然泉澄は感じている。跳ねるようにビクッと顔を上げてしまうのだ。そこには俺の唇があった。

 彼女の唇を奪ったのは本能なのか、出かかった悲鳴を止めるためかは定かではない。舌を差し込んで黙らせた。そのままディープキスを続ければ、泉澄の力が抜けていく。奴らが真横に来た。俺は激しく泉澄を求めて、彼女の口吻を蹂躙する。連中からは接吻に夢中になって、周りの見えないバカップルと思われてたようだ。そしてヒソヒソ声も聴こえてくる。

 

「アイツら覗きじゃない?」 「通報してやる」 「昔の言葉で、出歯亀と言うそうよ」

 

 そうだろう、アベックだらけの夕暮れ時、野郎三人でうろうろすれば、盗撮や盗聴を疑われる。現に奴らはギルドの受付嬢に似たような事もしているのだ。叩けば埃も出るかもしれない。慌てて退散していった。

 

 

 

 こうやってやり過ごす事が出来た。だけど俺は泉澄の逆鱗に触れている。

 

「馬鹿! エロガキ! もう最低。キスなんかした事もなかったのに。この卑劣漢、これ、わざとね。あなた、こうやってみんなの唇を奪っているんでしょ」

 

 的確に俺の真実をついてきた。彼女はおぼこい癖に、何故か俺の性癖には敏感だ。それに女神さまにその身を捧げようする間近に、唇を奪われたのだ。激昂している。もう言い訳も謝罪も通用しない。

 

「そう、彼らを追い払うだけなら、暴力に訴えれば簡単だった。でもダンジョンの力をそんな事に使うのが嫌だったんだ。泉澄にだけは、暴力を振るう醜い僕を見られたくなかった」

 

 平和主義者な俺の態度に、怒りはやや収まったかに見えた。でもキスをしていい理由にはならない。

 

「僕がいつも読んでる本は、デートの最後でいつも必ずキスをする。謝罪とか仲直り、誓いのキスとその理由は色々だけど、キスしたおかげで物語はパッピーエンドで終わるんだ。そんなお話が大好きで、僕は何冊も読みふけった。いつかデートに憧れて、恋人と接吻したいと思っていた。泉澄と歩いているとデートの気分になっていた。気がつけば、目の前にかけがえのない親友の唇がある。もう無意識に重ねてしまった」

「男の子ってほんと身勝手よね。いいわ、一回だけデートしてあげる。でもこれ真似事よ。感謝しなさい」

 

「みよう本」のせいにした。ラブコメものでは、デートはキスで締めるのが様式美。果して泉澄は俺を純情な文学少年と思ってくれた。こうして俺は救われた。

 

 

 

 奪われた唇が僅かに開く。ありがとう、口の動きはそう言っていた。泉澄は幸せそうに腕を絡める。

 

 

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