すっかり暗くなった夜道を、照子司祭とシスターミシアと手を繋ぎながら三人で歩く。自治会の集会での帰り道だ。ここで俺のお披露目があった。
女所帯の孤児院は自警団に護られている面がある。若い男が出入りすれば何かと誤解を招く。そこで俺の身分を明確にして、有事の際の連携も確認する必要があった。初対面の人ばかりで緊張したが、意外にも俺を知っている人が多かった。と言うより爺さんを知っている人が多かったのだ。
「ああ、御上さんのところのお孫さんね」
「強いらしいな。いい人に来てもらったね。これで孤児院は安泰だ」
「君、道の駅でお爺ちゃんのお手伝いしていただろ。何回か見かけたよ」
爺さんも隣の地区の自治会で役員をしていた。また農業関係で横の繋がりも多い。不安だったがすんなり受け入れられた。
わざわざ人気のない脇道へと来たのは理由がある。蛍を見たいという二人の願いを叶えてあげたかったからだ。女子供だけで寂しい場所へ行くのは抵抗がある。でも護衛代わりの俺がいる。そしてもう蛍の季節も終わろうとしている。俺が孤児院にいるのも期間限定だ。今日を逃せば、二人は永遠に観賞できないかもしれない。強引に司祭とシスターを引っ張っていった。
「想夜さん、どうしましょう。娘達が待っているのに」
「きゃっ。転んでしまいそう。危ないから手を離さないでよ」
二人とも他惑いながらも嬉しそう。聖職者でもやはり女性は無理押しに弱い。反面、彼女達からすれば、俺は危なっかしい子供かもしれない。母と姉がどこかへ行ってしまいそうな男の子を、保護している心境だろう。
この辺りは所々で水が湧いている。そこではまだ蛍が儚げな命の光を燈していた。親父ほどではないが、俺も夜目が利く。里山を縫う小径は未舗装で歩きにくい。所々に泥濘も残る。俺は二人の手を取り、エスコートする。剥き出しの土の匂いと清々しい女体の香り。肌を撫でる心地よい夜風。神秘的な光の点滅と、それよりも神々しい尼僧二人が両手に花、幻想世界がここにある。
「弟君と一緒なら、暗い夜道も怖くない。お願い、しっかり握って離さないで」
「想夜さん、今日のあなたを私は一生忘れない。その健全なる肉体と精神を、この身と心に刻みつけるわ」
月影のミシアは格段と綺麗だ。プラチナの髪が朧に光り、明星の瞳が燦々と煌めく。いつもと違い情熱的な印象だ。それに引き換え、太陽の様な照子司祭には翳りがあった。眩しい程の輝きが薄れ、か弱い女性の貌が覗く。
「月下の二人はこの世のどんな女性より綺麗だよ。今晩は忘れられない夜になる」
見廻しても人影もなく、蟲の声しか聞こえない。俺達は自然と肩を寄せ合って、三人だけの世界に浸った。神聖にして侵すべからず、母と姉と男の子の三位一体、司祭とシスターは俺をかけがえのない半身と思っている。組んだ腕から想いが伝わる。俺も一体となる事を心から望んだ。世界は俺の為にある。
二人は帰り道でも恍惚として、心ここにあらず、蛍の光に惑わされたか。やがて夜の散歩もお終いとなる。残念だけど孤児院へ着いてしまった。今日はここでお別れだ。だけどシスターが俺の手を取り、離してくれない。掌はしっとり汗で濡れている。照子司祭が潤んだ瞳で懇願する。二人とも俺に拒絶される事を何より恐れていた。俺はその意を汲まなければならない。
「想夜さん、お願い、寄って行って。お見せしたいものがあります」
静寂に眠る夜の教会、尼僧二人と立ち入っていく。常闇への畏怖か、互いの躰がもつれ合う。心地よく柔らかなものがあたってくる。その度に吹きかかるは安らかな吐息。俺達は三位一体、二人の腰をかきいだいた。そう言えば、女子棟の明かりは消えていた。童女も泉澄も夢うつつだ。俺達はこれからどんな夢を見るのであろうか。
礼拝堂へと案内される。夜間には、教会で最も寂しい場所となる。最奥のひな壇、聖なる言葉が唱えられ、二人は聖櫃を解いていく。女神像は満月の夜にだけ、拝謁を許されるのだという。俺はご尊顔に息を呑んだ。以前疑似ダンジョンでゴブリン首領が崇めていた、光の陰影にそっくりだったのだ。万物の母にして永遠の処女たる、ダンジョンの女神さまの御姿があった。
石像は最初、岩の塊である。芸術家が渾身の力を込めて鑿を振るう。万人が感動する事で、やがて魂が宿る。無数の想いが集結して、とうとう異世界を超えるまでになった。今や、三千世界の美の象徴に仕上がっていた。
「弟君、綺麗な方でしょ、私達の女神様よ。君だけに見せてあげる」
「教祖様は遺されました、秘された本尊、信徒でなくとも、心を許せる人が顕れたなら、お見せしても構わないと。信者以外でお姿を見たのは、想夜さん、あなたが初めてよ」
二人にとって女神像を見せるのは、俺に対する最大の好意と敬意だったのだ。シスターも司祭様も夢心地で上気している。彼女達の想いが熱い。俺の心も熱くなる。下半身も熱を持ってきた。二人への俺の思いが息子へと集結する。
心を奪われて見惚れた。女神像をではない。豊穣と清楚、対極の美貌を備えた司祭とシスターをだ。皮肉にも人外の美を目の当たりにする事で、彼女達は只人に過ぎない、俺様が好きにすべき肉欲の捌け口と認識できたのだ。
俺の心の霧は晴れた。
見つけた。女神さまが隠された路傍の聖母と聖女。この世界の輝く宝石。世界で一番価値のある女性。俺は反省した。かくも麗しき女性に手を出さないのは罪であったと。出会ったその日に寝屋へ忍び込んでこそ、礼を尽くすと言えるだろう。
俺は聖母と聖女の卵を味わった事がある。確かに瀬里奈は聖母っぽかった。沙織も聖女っぽい。だけどやっぱりお子様っぽい。目の前には完成された聖母と聖女が揃っている。女神に似せられた容姿。その美と神性に圧倒され、並の男は萎えてしまう。しかしながら俺は違う。食欲ならぬ性欲が抑えられない。こんないい女を喰わずして、美食家は騙れまい。
強き漢になるのだと、俺は師匠に約束した。神聖な女性に臆していたとか情けない。これこそ神の思し召し、二人への蹂躙を、ダンジョンの女神さまの試練と解釈した。眷属の女性を女神さまの前で辱めてこそ、神へ挑む一歩となろう。
情欲が天元突破で解放された。礼拝堂の空気が震撼する。欲望の魔力が旋風となって渦を巻く。司祭とシスター、二人を覆う尊き神気を吹き飛した。剥き出しの獣欲が無防備の女をねぶる。照子とミシアは俺を畏れた。もはや風前の灯火、だが、神の奇跡は訪れる。
望月が登り切り、明り取りの窓から月光が本尊を照らす。ステンドグラスの向こうにはカラフルに滲んだ満月、夜の虹に彩られる女神像から、神々しい魔力が噴き出した。やがて魔力は黄金の光となり、女性の、いや、女神の姿へ変わっていく。背丈は照子司祭と同じ位、振るいつきたい豊穣の肉体。儚き白金の髪と情熱的な金色の眼、仰いだ顔はシスターミシアをどことなく想起させた。
宗派によっては魔力の事を、霊力とか法力とか神通力とか呼んだりする。噴き出す魔力はその表現が適切だった。浴びるだけでひれ伏す程の神威、事実照子司祭とシスターミシアは跪いて聖句を唱えている。ここにダンジョンの女神さまが光臨された。
俺はと言えば気分がハイになり、立ち尽くすだけだった。女神さまの美貌については異界の住人から聞いていた。だけど想像より百万倍も美しい。尊顔を、女性美を、不躾にジロジロ眺めた。そんな不遜な俺に、女神様自ら足を運ばれる。尊き御手が頬を撫でた。芳しい薔薇の唇が額へと触れる。
やった! 女神さまからキスされた。
その瞬間、体内に稲妻が奔る。心の臓と魂が外へ飛び出しそうになった。ダンジョンの女神さまの霊力が体中を駆け巡ったのだ。下半身に力が溜まる。丹田が活性化している。俺はこの身に神の権能を宿したのを悟った。やがて女神さまは俺だけに微笑みながら、月光へと還っていく。
どれだけ時間が経ったか忘れてしまった。先に我に返ったのは司祭とシスターだった。教祖様に次いで女神さまと邂逅した。彼女達の信仰は真実であった。奇跡を目にして万感極まっている。跪いて俺に祈る。
「ああ、御子さま。あなたは女神さまの御子だったのですね。それとも使徒様? 今のあなたは怖いくらいに美しいわ」
「嬉しい! 弟君が選ばれるなんて。でも納得よ、あなたみたいに素敵な男性なんて、他にこの世にいないから。ああ、女神さまに感謝を」
そして二人は口を揃えた。
「想夜さん、私どもと一緒に居て。娘達をお救い下さい。遍くこの世に女神さまの慈悲を」
「僕は秘蹟を授かった。よく分からないけど不思議な力、女神さまの権能と思う。世の女性のために使えと言われた」
俺は手を取り二人を立たせた。御子となって信者の女性に、夜な夜な伽をさせるのも一興だ。でも良い子でいるのは窮屈だ。二人にはこれまでと変わらず接して欲しい。それに俺にはスキル『わからせ』がある。
「お願い、今まで通りの二人でいて。力はあっても僕は唯の子供だよ。まだ二人には甘えたい。母のように、姉のように、迷う僕を導いてほしい」
「想夜さん!」「弟君!」
何故だか言葉には神気が籠った。加えて俺には『美声』と『話術』まである。声を聴いただけで彼女らは感涙に咽んだ。俺の名を呼びながら飛び込んでくる。三人で熱い抱擁を交わした。もう司祭もシスターも俺のものだ。感激した照子司祭が頬ずりしようと身をかがめる。唇は肉感的に変わっていた。ディープキスで強引に奪う。聖句を唱える舌を、俺の舌で黙らせた。注ぎ込むのは沸き滾る情熱だ。
「あぁ、あぁ、あぁ」
三十路近くなってもキスさえ知らなかった女だ。動揺が激しい。膝がガクガクしている。股間が疼くのだろう。堅牢な堰ほど決壊すれば、その被害は甚大だ。
ミシアは照子司祭が唇を奪われるのを、頬のふれあう距離で見てしまった。化粧っけのない桜色の唇が小刻みに震える。性に怯えるシスター程美しいものはない。嫌がる彼女にも唇を重ねた。歯茎は固く閉じられている。肉食獣の牙のごとき俺の歯と、純白の歯が嚙み合えば、その口は簡単にこじ開けられた。生臭い欲情の唾液で清らかな舌が汚される。男に喰われる女の恥辱を、彼女は初めて味合った。
「んん~、う~、ん──ーん」
天性の美声でハミングする。悲哀の旋律はどんな聖歌より切なかった。
月が翳り、礼拝堂は真っ暗になった。女神さまが目を背けたのだ。修道服に隠された尊き肢体を如何に喰らおう、闇夜に光る俺の眼が欲望にぎらつく。心の獣が叫ぶのだ、屈するな、神の力を掠め取れ。その一方、菩薩のように慈悲の心が溢れ出した。ダンジョンの女神さまの力は、ダンジョンで泣く女性の為にあるべきと。
いずれにせよやる事は決まっている。神聖にして犯すべし、天が定めし男女の営み、そこから最も遠くにいる女神の娘を正さねばならない。
「これから二人に女神さまの秘蹟を施す。この世の女の誰より先に、神の愛を味わってほしい。女神さまに宣誓するよ。この身に宿る力の全てを使う。照子もミシアも天上の楽園に連れて行く」
ダンジョンの女神さまは俺に加護をくれた。司祭とシスターはその立会人だ。ならば証として初めてを誰にするかは決まっている。この身から神気が溢れる。その一方、魂の奥底からは別の何か、猛々しく、そして妖艶な命が魔力へと変換されて、辺りかまわず侵食を始めた。女神さまと敵対するかの如くに。
侵せ、堕とせ、悦ばせよ
とうとう出たか、『唯我独尊』。全てを喰らう冒涜の力、四苦八苦を平らげて覇道と救世をもたらす天魔のスキルだった。清く正しい人がいる。神薙の尊厳を破戒して、彼女達を救済せねばならない。それこそ吾が歓びである。
超常に畏怖する二人をこの手に抱く。修道服の上から司祭とシスターをまさぐった。禁忌の行為に指も弾む。この歓びを伝えよう、腰と背中のラインを、何度も撫でて堪能する。身を捩らせて形ばかりの抵抗があるが、構わず二人の乳房を揉みしだいた。今俺は、片手には豊穣の乳房、もう片手には純潔の乳房を握っている。俺の『性技』が全開だ。女性の躰を啼かすための俺の魔技、弱い処を指で暴いて敏感にさせる。そして暴力的な淫蕩の魔力を注ぐ。これで女ならいいなりになる。果して修道女はどうか?
二人とも俺に乳首を勃たされた。照子司祭が羞恥のあまり、我を忘れる。
「想夜さん~、甘えて、おっぱい吸って。ギュッと握ってほしいのよ……。ああ、私なんてことを。忘れて、忘れてちょうだい」
腿をなどった。外側から鼠径部、そして恥丘へと、彼女達の想像通りの動きをする。当然その先も予想出来る。二人ともはしたない声で怯えだした。遂に封印された秘所を女の様な細指が這う。質素な修道衣越しに、指の腹が柔らかいものへ沈んでいった。
「きゃぁ~、赤ちゃん欲しいの。弟君の子供を産みたい。頂戴、頂戴よ~。いやだ、恥ずかしい」
シスターミシアもあられもない言葉を口走しった。
堕天使は修道女で愉しむ。彼女らの夢を覗いて、息子に、弟に、望む姿に身を写す。二人とも、最愛の人から誘惑を、女神さまの御名を唱えながら辛うじて耐える。神への愛を試されているのだ。だが時に、甘き悶絶の声も漏れてしまう。正しき人は禁断の言葉を聞いてはならない。
「いけないわ、息子に迫られるなんて。ああ、こんな事、女神さまはお許しになりません。ああぁ~、あなた、やめてぇ~~~」
「ん~~~、弟君にいけない事される。駄目ぇ、私、清らかなのに。女神さまが見ています。んんっ、う~~~、んんん」
流石は、信仰篤い修道女、簡単に堕ちてはしない。懸命に振りほどこうと藻搔くのだ。でも俺には抵抗は身悶えに、愁嘆はよがり声に聴こえてしまう。実際もうその通りなのだろう。観念した照子司祭は御子の慈悲に縋る。
「ああ、お許しを、私は女としての幸せを捨て、この世の母として生きると女神さまに誓いました。清いままに生涯を終えたいと思いいます。それにあなたの事は本当の息子のように思っておりましてよ。獣のような行いは女神さまが悲しまれます」
俺は照子司祭にダンジョンの理を説いた。
「ダンジョンの女神さまは人が10歳から40歳の間に、性別も才能も職業も本人の意向も、人格さえ一切の配慮なく平等に選抜を行われる。その愛は年齢も、社会的地位も、倫理さえも問題としない。年の差も、たとえ貴女が司祭であっても、お互いが母子のように思い合っても、女神さまの前では些事に過ぎない。その過ち、女神の秘蹟でここに糺す」
「知りませんでした、知りませんでした、知りませんでした」
三度慟哭する照子に優しく諭した。これからあなたは、息子から女として扱われる。
「愛の救いを施してあげる」
シスターを抱く腕にも力が籠る。
「ミシア、僕の大好きな心の姉さん。この世界で一番綺麗で清らかな人。姉として慕っていた、シスターとして尊敬していた、それを全部恋人への激情に置き変える。その無垢な心と躰で、僕の想いに応えてよ。僕は姉さんの処女が欲しい」
ミシアの頬に紅が差した。だけどとても哀しい顔をする。恋に破れた女性の様であった。気づいてしまったのだ。この年下の男の子を異性として意識していた事を。純真で危なっかしく、時に残酷な少年を、我が身でもって繋ぎ止めたいと思ってしまった事を。その慕情を弟と思い込む事で胡麻化していた。だがそれは尼僧にとって背徳の願いであった。
「嬉しいわ。女神さまに誓いを立てる前なら、身も心も迷わずあなたに捧げたの。心だけなら今も全部あなたのもの。でももう証を立てています。私の愛する弟君。私の躰はあげられないのよ」
「ならば僕は力で奪おう。姉さんの純潔こそが世界で一番清らかなのだと、破瓜の血で証明する。ここにダンジョンの威を示す」
シスターミシアは膝が震えて崩おれ落ちた。愛する人から犯される、抵抗かなわぬ運命が清き乙女を押し潰す。
俺は右手を上にかざした。ダンジョンの魔力に反応して、天井板が開帳される。さながら天国の扉が開いていくようであった。これから司祭を連れていく。左手は下を示す。神前を指差し、震えるミシアに待てと命じた。敬虔な彼女には、母なる司祭の赤裸な声が、頭上から降りそそぐ事になるであろう。その身に浴びて悶えて祈れ。
ダンジョンの女神さまは悲しんだ。
こちらの世界では彼女の信徒はごく僅かだ。その中の一番のお気に入り、路傍の花の物語を読むのが密やかな愉しみであったのに、すがしき花達の命運が尽きた。嵐が湧いて、愛しの娘が蹂躙される。純潔が穢されて尊き血が流される。気高き心が手折られて、お話が永遠に未完となってしまった。その嵐の正体は、ちょっと贔屓にしていた子供だった。
弱き命はいつもこうだ。憐憫をかけて僅かな力を恵んでも、増長して災厄となる。神々の約定により命数は変えられない。ならば愛しき我が子に救済を。反省しても直ぐに忘れる、お猿のような男の子には天罰を。女神の怒りが炸裂した。もう憎さ余って可愛さ百倍だった。
「いいスキルを引いて調子にのっているのね。女神の威光、わからせてあげましょう」