※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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サヨ

 俺が彼女から聞き出した情報は以下の通り。

 

 ヴァナルガンド及び某国の特務部隊は、あるギルド職員から長年情報提供を受けている。なお両者は協力関係にある。

 今回漏れたのは、港湾ダンジョン消滅の顛末、お抱えパーティの経路、また俺のスキル及び、アルラウネの蜜の情報。

 俺が捜索を依頼された同盟国の探索者達は、特務部隊と交戦した模様。

 

 ヴァナルガンドが俺を待ち伏せして、ヒス女の魔眼でシーナの事を自白させてから殺害。特務部隊は先行するお抱えパーティを全滅させて「蜜」を得るという役割分担だった。

 内通者のギルド職員の名前も、捜索を依頼させたお抱えパーティの消息も彼女は知らなかった。押収した資料を持って引き返そうとも思った。だけどパーティは国家を代表するだけあって精鋭だろう。生き残りもいるかも知れない。引き返したら、間に合わなくなってしまう。せめて安否は確認しよう、俺は最果ての緩衝地帯へと急いだ。もし生きているなら、ここへ逃げ込むのが一番生存率の可能性が高い。

 

 

 

 灼熱の大地を駆ける事二時間、花の魔境への緩衝地帯へ着いた。ガーディアンのエリアボスはいない。倒されてから間もないのだろう。ならば救護者が生存している可能性もある。もちろん特務部隊と遭遇する方がはるかに高いのだが。だがそいつらも俺の情報を握っている。最低でも内通者が誰かを聞き出す必要があった。それにここはダンジョン、やられたら三倍返しだ。

 奥へと進むと、耳にかすかな戦闘音を拾った。見つけた、要救護者はまだ生きている。だけど、多勢に無勢だった。洞窟部屋に籠城しているようだが、今にも突破されそう。攻め手は10人程、俺が以前襲われて殺されかけた連中と同じ装備だ。守備側は僅かに3人、『障壁』で防御し、『炎弾』と『石弾』で牽制、それでも抜けて来る相手には、盾役がカウンターで弾いている。全員、疲労の色が濃い。体力も魔力も、そして気力も今にも尽きそうだった。

 このままでは終わってしまう。切り札の『衝撃波』を敵味方纏めてぶちかます。ここは洞窟だ。圧縮された爆風が奔流となって隧道を嘗める。特務部隊はスキルや身体強化で抗おうとするも、為す術もなく飛ばされていった。その一方、籠城側は部屋に避難し、ダメージを最上限に留めたようだ。

 

 

 

「アナタも敵ね。もうちょっとで死ぬところだったわ」

「待て、彼には見覚えがある。提供された資料にあった。キミ、ミカミソウヤ君か?」

 

 盾役の少女が殺気立っている、これは攻撃されたので無理もない。アフリカ系の魔法使いの男性が諫めてくれるが、俺に対する警戒は解かない。華奢な少女は、『シールドバッシュ』の使い手だ。物理も魔法もはじき返す。えげつない威力に反して、可憐な美少女振りがマスメディアでは人気を博していた。魔法使いの男性は四属性全てに精通しているはずだ。 見せられた資料にあったし、何より高ランク探索者として彼も世界的に有名だった。

 

「母国から捜索願が出ていますよ。自分はギルドの意を汲み、ここに来ました。それにさっきはああするしか、合流する方法はなかったので。それより救援物資を出します」

 

 3人以外にも奥には怪我や疲労で動けない人達が多数いる。資料では後方支援組も含めて20名近いレイドだったはずだ。半分近く消えている。ポーションなど、預かってきた救援物資を全て渡す。手当の間、俺とリーダーで再襲撃を警戒しながら情報交換をした。

 

「救援感謝する。キミも待ち伏せされたのか。こちらもだ。半分しか護れなかった。向こうは20人以上いる。君の衝撃波でも生き残っている者は多いだろう。うちからも個人的に謝礼を出す。護衛依頼だ、動けるものを連れ帰ってくれないか。落とし前をつけてやる」

 

 先程の少女を初め、メンバーの何人かが頷く。負傷者を連れての退却戦では追いつかれてしまう。

 

「馬鹿が、お前達こそ先へ行け。ここから奥まで一本道だ。奴らは必ず戻ってくる。待ち伏せして刺し違えてやる」

 

 なんとか動けるようになった怪我人達が反論する。足手纏いを嫌って、自分たちが盾になるつもりだ。いい事を聞いた。この先が一本道なら、こちらのほうから襲撃してやる。

 

「それでも全員での撤退を提言します。ベースキャンプのヴァナルガンドはほぼ壊滅しました。生き残りを尋問、いいえ拷問しましたが、徳島支部に内通者がいます。ここは僕が残ります。地元でここまで好き勝手されては示しがつきません。落とし前をつけるのはこちらが先です」

 

 奴らには俺の情報が抜かれている。このまま放置すれば、連中は地上でも俺や家族に手を出すだろう。全員ダンジョンに籠っている今が絶好のチャンスだった。異世界の常識を教えてやる。

 

「連中はアルラウネの蜜に固執している。手に入れる為なら手段を択ばんぞ」

「だからこその僕です。蜜を持ち帰った僕をいきなりは殺さないでしょう。時間を稼いで逃げますから」

 

 かの国の指導者は加齢による健康問題が指摘されている。独裁国家なら、蜜の入手は国家プロジェクトとなろう。引けないのは彼らも同じだ。

 

「アリガトウ、死なないで、生きて帰って。必ずお礼はするわ」

 

 檸檬の髪の少女が息のかかる距離で耳に囁く。甘酸っぱい匂いに微笑で返すと、彼女の頬がほのかに色づく。俺は押収したヴァナルガンドの資料を半分渡した。最低でも、どちらかは生還できるはずだ。

 

「僕たちの情報を売った奴は、支部の中枢にいます。これをこっそり月代主任と言う人に渡して状況を伝えて。他の人は信用しないで」

 

 女性同士なら、異性には聞かせたくない話も出来るだろう。小梢ちゃんと尋さんも信用できるが権限がない。

 

「命に代えても届けて見せるわ」

 

 心強い言葉に送られて、緩衝地帯の奥へと進んだ。

 

 

 

 直ぐに集結地点を発見する。だけど相手はプロの軍人だ、当然警戒している。気づかれてしまった。仕方がない、堂々と正面から乗り込んでいく。

 

「上級探索者、御上想夜です。話し合いをしませんか。協会の内通者が誰か教えて下さい」

 

 爆笑された。

 

「お前、頭湧いているのか。どうやってここに来たか知らんが、無事で済むと思うなよ」

「ヴァナルガンドのリーダーは死んでしまいました。あなた方まで死んでしまうと、聞き出す人がいなくなってしまいます」

 

 ここでスキルが使われた。ハンドサインで隊長に伝えられる。それを合図に雰囲気が変わった。俺の言葉が真実だと受け取られたのだ。恐らくは『看破』、嘘を見破るスキルだ。隊員の中に保有者がいたのは都合がいい。取引を持ち掛ける。人の理の及ばないダンジョンでこそ誠実であれと、シーナから教わっている。そこには悪人と善人の区別はない。

 

「あなた方の質問に応えますから、僕の質問に答えてください。あなた方を生きて地上には返しません。秘密を知られてもノープロブレムです」

「ほう、言うな。それなら徳島ダンジョンの神について教えてもらおうか。こちらもお前を確実に殺す」

 

 オーロラの降る中、晴天にシーナは顕現した。ダンジョンと人との融和を願う善神として、人間は勝手に崇め始めている。

 

「ああ、あれは偽女神で、僕の師匠になります。突入を手助けしてもらいました。彼女は異界を渡ってきた魔法生物で、妖精とか、精霊と呼ばれる上位存在ですね。徳島ダンジョンや港湾ダンジョンとは何の関係もありません」

 

 俺の言葉が真実である事は、『看破』によって証明される。特務部隊は色めき立った。異世界の情報を握っている人間がいる。ダンジョンとは関係なくても、妖精があらゆる電子機器を無効化し、情報を遮断できるのなら、限定的であっても、その軍事的価値は計り知れない。

 

「いいだろう、我々の協力者は川間部義男警務官だ。精々恨んで死んでくれ」

 

 お互いに相手を殺す気満々だから、情報は渡しても構わない。不正を取り締まるべき、現在の憲兵たる警務官が内通者だった事に驚きはなかった。小梢ちゃんと尋さんは、俺のサポートはしてくれても、友邦のパーティには関わっていない。そうすると容疑者は主任や次長といった限られた管理職になる。

 かつて俺達が誘拐された時、朱美と詩央と秘密の隠れ家でイチャイチャしていた。親にも内緒の秘密の場所、なんで誘拐犯がその場所を知っていたのかずっと疑問だった。だけど、川間部警務官が身辺警護の名目で、朱美や詩央から聞き出していたのなら説明がつく。

 

「それで妖精とやらはどこへ行けば会える?」

「残念、彼女はここには棲んでいませんよ」

「だがお前は居場所を知っているのだろう。全部話せ。本当に神はいるのか。そもそもダンジョンとは何だ。拷問で殺されるより楽に死ぬ方がいいだろう。職業柄、我々はそういった技術に長けている」

「手向けの言葉を送ります。この世界のダンジョンは、ある女神さまによって造られたもの。正確にはダンジョンコアが創造され、コアの夢がダンジョンを形作っていくのです。今女神さまはこちらの世界に顕現しています。孤高にして唯一無二の彼女は万物を慈しみ、その成長を促す存在。そして我々探索者は、神々の無聊を慰める道化でもあります。今もどこかの神様が、僕達の愚かな振る舞いを笑っているかも」

 

 ここで隊長は迷いを見せた。俺を捕獲して本国に連れ帰れないかと思案したのだろう。だがアイテムボックスには生きた人間は入らない。当然荷物検査もある。俺がその気にならない限り不可能な事だ。

 

「では女神とやらを我が国に誘致すれば、ダンジョンを造ってもらえるのか?」

「どうでしょう、不正な手段でダンジョンを攻略したり、選抜者の子供を拉致したりしているあなた方の国に、女神さまが微笑むとでも」

 

 こうして対話を重ねている間にも、隊長のハンドサインでフォーメーションが変わっていく。俺を包囲し、且つ万一に備えて、伝令を走らせる気だろう。人数は全体で15名程、『衝撃波』の巻き添えか、攻略中の事故か知らないが、かなり減っている。

 

「お前のスキルと能力はすべて把握している。我々の優位は揺るがない」

「そう言ったヴァナルガンドがどうなったか、もうお判りでしょう」

 

 俺達は互いに間合いを測りながら牽制し合った。

 

「冥途の土産に教えてあげる。このダンジョンの規模からアルラウネの生息数は2体。そして蜜のリポップ期間は10年。これから花のエリアへと突入して硝子の小瓶を破戒するよ。奪うより簡単だと思う」

 

 これは本当だ。シーナから確認している。俺が先日一つ獲って来たから、残りは後一つだ。もっともある事を実行すれば期間は縮まるのだが。

 

「貴様ぁ、もういい。全員で確実に殺す」

 

 彼らが仰ぐかの国の指導者は、高齢による健康不安が囁かれている。アルラウネの蜜の入手は悲願だろう。俺を取り逃がして蜜を駄目にされれば、一族郎党皆殺しだ。それでなくても、指導者に絶対の忠誠を植え付けられている。彼等にとって俺は不倶戴天の敵となった。

 

『炎弾』と『石弾』が降り注ぐ。躱せばつけ込まれる、俺は戦斧で打ち払った。『縮地』からの剣士の居合には、ハルバードに風を乗せて合わせた。剣と戦斧がぶつかれば斧が勝つ。相手は吹き飛ばされて壁にめり込む。

 対人戦が苦手なのを知ってか、隙を突いて三人が間合いの内にいってくる。肉弾戦に持ち込まれた。戦斧を持つ左腕を押さえられるも、俺の指先が手首の動脈を切っていた。タックルには俵返しで片手で投げる。こちらも頸動脈から鮮血が噴き出す。怯んだ相手には手刀一閃、『柔軟』故に見切りを誤る。眼球が横一文字に切り裂かれた。指先数ミリに宿った『鎌鼬』の応用、威力は低いが対人戦用の技だ。傍目には俺の指が刃となったと思えるだろう。

 

「なんだ、そのスキルは?」

「切り裂きジル、妖精の師匠から授かった」

「馬鹿な、妖精からもスキルを貰っているのか。それが貴様の強さの秘密か」

 

 嘘は言っていない。この技の命名者はシーナだ。ちなみに彼女は切り裂きジャック女性説にはまっている。それにこれは、彼女から授かった【魔導】なしでは実現できなかった。

 

 

 

「我が号はサヨ。古の異界の覇者の名を受け継ぐものなり。師にして妻の教えに従い、ダンジョンを乱す輩はここに葬る」

 

 血飛沫が舞う中、改めて名乗りを上げた。ここからは人の規範を外れて、異界の掟に従う。言霊が別の自分を解き放つ。もう躊躇も良心の呵責もなくなった。雄の闘争本能が爆発する。塵に等しきこの体に力が溢れる。魔力と神気が混じり合い、霊気となって立ち登った。

 

「異界の化物と契りを交しただと。力の代償に人を止めたのか。この外道を殺せ!」

 

 覚悟が決まっているのは彼らも同様だ。一斉に襲い掛かってきた。相打ちも同士討ちも辞さない必殺のフォーメーション。ここままでは数人を道連れにするだけで、俺は終わってしまう。こちらからも仕掛ける。『石槍』で牽制しながら、『身体強化』ダブルの『俊足』を跳ばす。更に『風衣』でこれを補助、戦斧の刃先に『鎌鼬』を乗せた。

 彼等は俺のスキルを把握しているだろう。でもそれをどう組み合わせるかはセンスの問題だ。特に身体強化と魔法系のスキルを複数同時に使用して、しかも十二分に効果を発揮させるのは難易度が高い。この一点で俺は彼らの想定を上回った。正面に一瞬の空白が生まれる。その間隙を突破して、花の魔境へ駆けこんだ。

 

 

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