「わーい、サヨ、祟られた。流石はボクの弟子。いったい何をしたのさ」
祟りや呪いが大好きな蛇妖精のシーナが狂喜している。普通は俺を心配する所だろう。妖精族の常識によれば、大好きな女神さまから大切な弟子が祟られるのは、最高の栄誉であるらしい。でも身に覚えはない。それどころか権能までもらったのだ。ちょっと扱いに困るものだけど。
「ほら、ボランティア先の教会のシスターと司祭様、急に僕のものにしたくなった。女神さまの前で辱めて散々に啼かせたよ。そうしたら二人とも、女神さまより僕の事を好きになった。師匠の言う通り、男としての階層が上がった気がする」
俺は祭壇の元で、聖母と聖女の純潔を奪った。それはダンジョンの女神さまから娘を奪ったのと同義だ。この涜神行為は俺の心を奮い立たせた。いつか女神さまに手にかけたいとまで願ったものだ。
今日だってここに来る前、俺は二人と契っていた。早い時間、泉澄や童女達は学校だ。これをいい事に白昼堂々、礼拝堂で聖母と聖女を組み敷いた。女神さまに聴こえるよう、『結界』などは張っていない。照子とミシアが御名を唱えて許しを請う。そして最後は俺を讃えて昇天させた。自分が神様に近づいたみたいで実に気分がいい、それはスッキリと精を施した。
「でも僕がもらったのは、呪いじゃなくて祝福だよ。女神さまが微笑んでキスしてくれた。そうしたら体に神気が宿った。多分、セックスした女性を選抜者に変える権能を授かったと思う」
スマホの傍受が解除されてから、恋人や愛人たちからからダンジョンに選ばれた旨の連絡が殺到した。その順番は愛望と浄見の楠田姉妹、そしてのどかと続いた。姉の愛望は朝練を理由にうちに偶に泊まりに来ている。その数日後、俺は伊那ダンジョンに赴いて、妹の浄見ちゃんを爺さんの目を盗んで組み伏せていた。愛望が選ばれた数日後に、浄見ちゃんも選抜者となっている。
寄宿舎住まいとなったのどかとは逢瀬の機会が減ってしまった。そんな彼女は職業体験の受け入れ先として農業を営む祖父の家を希望する。農家の家は無駄に広い。祖父母への挨拶の後、幼少の頃住んでていた部屋へと案内した。
ここは僕の子供部屋。小さい頃の思い出の場所。招いた女性はのどかが始めて
真実を伝える。感激した彼女とこっそりと布団を被って楽しんだ。声を堪えるのどかが意地らしい。抱き潰したのどかに変わって、今度はアルドネが表に出る。金髪碧眼の異界の少女はお布団で寝るのは初めてだという。こちらは興奮してやまないので、『結界』を使って慰めてやる。この二人のスキルは共に『身体強化』がダブル、のどかが『解呪』、アルドネは『祝福』だった。言うまでもなくその生い立ちを象徴している。
この後は篠塚母娘、奏子さんと続くはず。えりかと瀬里奈ちゃんは同じ日に選ばれるだろう。キリ香はちょっと怪しむか知れない。でも教会の事を知られなければ大丈夫だ。今のところ全員とインモラルな関係なのが幸いしている。女教師と生徒の不適切な関係とか、委員長が教室でレイプされたとか、本人も周りのメイドさんも言える訳がない。母子丼とか異世界少女の事もそうだ。当人たちが真実に気づいても、きっと秘密にしてくれるはず。公になるまで、もう少し時間を貰えるかもしれない。この間に何とかしよう。
「呪いと祝福は表裏一体だよ。きっとサヨが乱暴した女性たちの事、女神さまは本当に大切に思っていたんだ。だから顕現して直接力を振るわれた。これは本来有り得ない事。サヨは贔屓にされたのさ。凄い! 凄い!」
身内にアルドネのような例があるのを忘れていた。確かに呪いと祝福は紙一重だ。体が腐る呪いでも、試練としてありがたく受け入れた人もいる。その反面、身に余る祝福、例えば類まれな容姿を与えられても、疎ましく思った人も多い。
「でも僕、まだ手を出さないうちから祟られたよ。ひどくない」
確かに司祭とシスターを襲おうと思った。でも思うだけで手を出すどころか口にしてもいなかった。その状況で女神さまに接吻されたら勘違いしてしまうだろう。上げ膳据え膳ではないか。男なら完食すべきである。
「それは因果が定まったから。女神の娘がサヨに犯されるのは、決定事項になったからさ。だから女神さまが先手を打って呪いをかけた。サヨの毒牙にかかる女性にせめて救いがありますようにって」
ダンジョンの女神さまは万物を慈しむ女神さまだ。だから奪うのではなく与える。この俺に神の権能を分け与える事で御子とした。俺は女神さまの眷属として、果てしない性行為を強要される。数万の選抜者を生み出していくだろう。未来永劫俺は人々に讃えられ、女神の御名は永遠に語り継がれる。こうやって女神の娘を穢した大罪を償わせる気か。
「サヨからは香ばしい味がする。すごくいい。女神さまの呪いがいいスパイスになっているよ。ああ、美味しい。極上の呪い、もっと頂戴。苦しいのがいい、いぃ~、ボク死にそう~~~」
師匠は呪いを浴びて苦しむのが大好きな変態さんだった。今日のシーナは殊更激しく悶絶する。胸の中でピクピクするのがくすぐったい。そう言えば、もうすぐ人化魔法が使えると言っていた。早く師匠と本気のエッチをしたい。
ダンジョンの女神さまからもらった祟り、男子の夢と紙一重なのが嫌らしい。ひれ伏した女たちが股を開き、半神として俺を崇める。男なら誰ででも憧れるのでは? でも祝福とどう違うのだろうか。
神話の時代、神に愛され過ぎた王様の話を思い出した。彼の名をミダス王と言う。フリュギアの王であり、薔薇の育種家でもあった彼は、歴史上実在した人物とされる。ある日、ミダス王は酔っぱらいのボケ老人を保護して宮殿で歓待する。この老人こそ、酒神ディオニュソスの養父で教師のシレノスであった。この善行のおかげで、徘徊癖の養父を探していたディオニュソスから、ミダス王は深く感謝される。願いを一つ叶えてもらった。ミダスタッチ、触れたものを全て黄金に変える、人には過ぎた神の御業。ミダス王は世界一のお金持ちになる事が確定したかに思えた。
我が世の春を迎えたミダス王だけど、衣服もパンも純金となり、たちまちに衣食住にも難儀してしまう。最大の悲劇は、咲き誇る庭園の薔薇が黄金と変わった事だ。ミダス王自慢の薔薇とは、もちろん美しく着飾った乙女たちの暗喩である。書物によっては娘を黄金像に変えてしまったと、はっきり記されている。
ミダス王は泣きを入れて、酒神から能力を解除してもらうのだが、彼が本当にこの祝福に固執していたかは疑わしい。身の回りの世話、 例えば食事や着替えを召使に命ずるとか、能力解除の前に、可能なだけの黄金を生み出すとか、富に執着するなら他にやりようはあったはず。まあ、そんな人物なら神様も反省を聞き入れなかったであろうが。
虚飾の生活に愛想を尽かしたのか、この後ミダス王は田舎へと隠棲する。ここで牧神パーンと友誼を結び、スローライフを楽しんでいた。素朴な村娘にフルートを教えていたらしい。だけどここでもまたやらかしてしまう。パーンと音楽神アポロンが、葦笛と竪琴で演奏を競い合った時の事だ。周囲は皆アポロンの勝利と判定する。ところがミダス王だけは依怙贔屓から異議を唱えた。しかも神様の面前でだ。怒ったアポロンは彼をロバの獣人へとメタモルフォーゼさせてしまう。これが幼稚園や小学校で最初に習う「王様の耳はロバの耳」の童話である。
今日ではアポロンは太陽神であり、理想の美青年として爽やかな印象が強いが、かつては恐ろしい祟り神の一柱であった。彼の眷属は鼠、蛇、烏、狼といった不吉な動物で占められている。ひとたび怒りを買えば、疫病が蔓延し、財産である家畜が襲われ、最初に奴隷、次に家族が死んでいく。本人には直接手をかけず、生殺しにして嘆き苦しむさまを見るのが大好きな神様だった。主神ゼウスが不届き者を雷撃で、一瞬にして葬り去るのとは大違いである。
アポロンはかくも陰険な神様だったが、更に始末が悪い事に、貴賎や善悪に関わらず、本人に何の非がなくても、ある日突然祟るのだ。昔の人はアポロン神を非常に恐れ奉ったという。ちなみに人間に友好的でご利益をもたらす神様は、人畜無害として放置される傾向があった。
こんな祟り神に喧嘩を売ったミダス王には破滅どころか、族滅、国家滅亡の運命が必至と思われた。だけどちょっと反省しただけであっさり許されてしまう。ここまでアポロン神に無礼を働いて無事だった人間を他に知らない。
このようにミダス王は祝福を受けたり祟られたりとせわしない人物であった。恐らく天上の神々は、ミダス王が有頂天になったり、悲しんだり、しょぼくれたりするのを、生温かい目で見守っていたのだ。我々が仔犬や仔猫を揶揄って遊ぶのと同じである。
彼はこの他にも、様々な伝承に関わってくる。シレノスから授かった有名な格言、これは今日の反出生主義の元祖とされている。
人間の最善は、初めから生まれないこと、次に善いのは早く死ぬこと
また、農夫であった彼の父親は、牛車を神殿の柱に括りつけてこう予言した。
この結び目が解ける者はアジアの王とならん
「ゴルディアスの結び目」は数百年後、征服王が出現するまで解かれる事はなかった。
ミダス王は英雄でも、賢王でもない。普通に間違って普通に後悔する、等身大の人間だった。そんな彼が神々の試練を何故かパスしてしまう。直ぐに死んでしまう英雄達とは大違いだ。そんな彼が痛快で子供の頃から憧れていた。
もし自分の権能が、セックスした女性がダンジョンに選ばれる程度の能力であるなら、祟りであっても人類には貢献する。我が儘を言う位はいいだろう。運動不足は精力減退にも繋がる。ダンジョンで遊べば、経験値やスキルが増え、欲望も高まる。夜の生活では、万国の美女を揃えてもらおう。酒池肉林で王様気分を味わってやる。世界の中で俺だけがダンジョンの代理人なのだから。
その一方、心の中の『唯我独尊』が騒ぎたてる。天魔のスキルはこう吠えた。
お前は女神の軍門に屈するのかと。牙を抜かれ爪を研がない狼は、檻の中の豚と同じだ。
獣の血が疼く。これまでの俺の所業を思い返した。道ならぬ恋で大人の女性を我がものとした。少女たちの純潔を狩った。俺の肉体でもって、彼女達を意に添わぬ悦びに染める、これこそ我が無上の歓びであった。そしてスキルではなく、俺の心が渇望する。まだ足りない、難攻不落の淑女を堕とし、神聖処女を穢したら、心の飢えが満たされるのでは。
ダンジョンの女神さまはお気に入りが俺に犯されたのに腹を立て、二度とレイプが出来ないよう、この呪いをかけられたのだ。恐ろしい未来が視えた。美女や美少女が寝ても覚めても誘惑してくる。俺はただ求められるだけ、永遠に女性を分からせる事が出来なくなった。胸が張り裂けそうに痛い。俺の権能は、ミダスタッチと同じだった。アイデンティティが否定されようとしている。
このままではスキル『わからせ』が封じられてしまう。アポロンより陰険な女神さまに、何とか一矢報いたい。