例によって一カ月以内の投稿を目指します。
岩魂寺菫が駆け込んだのは言うまでもなく、風紀委員長で剣風姫の神瞑弥生の処であった。笑い上戸の菫が泣きじゃくっているのはただ事ではない。胸騒ぎがする。問い詰めるより先に菫の方が抱き縋ってきた。
「菫、どうした。御上からセクハラでもされたのか」
「ふぇーん、想夜ちゃんが浮気した。捨てられちゃうよ。摘花ちゃんが盗った──ー」
菫と摘花が御上想夜を巡って三角関係とかそれはないでしょう。想夜も反省して孤児院でのボランティアに精を出している。あそこまで孤児たちの心を掴むとか、彼は本気だ。摘花はあれで隙を見せない。まして校内の風紀の乱れを糺す立場にある。彼女の指導であの軽薄男は、模範的な男子高生と高評価を受けるまでになったのだ。
「確かに摘花は御上に目を掛けている。それは生徒会長としての立場故だ。奴のような危なっかしい子供は目を離すと何をするか分からない。大方指導に熱がいって親密に見えただけだろう。もっとも奴の方は勘違いするかもしれんがな。いずれにせよ摘花は相手にしないし、彼女にはディスペルもある。間違いなど起こるはずもない」
悪意のない菫はよく斜め上の発想をする。そんな彼女の暴走を止めるのも親友の務めだ。胸騒ぎは消え、弥生の心は温かくなった。だけど次の台詞で冷や水どころか、灼熱の溶鋼を浴びせられた気分になった。怒りのあまり血が沸騰する。もう気が遠くなりそうだった。
「違うもん。生徒会室に跳んだら、摘花ちゃんが触手で縛られ、ダーリンに虐められていたの。想夜ちゃん、摘花ちゃんに亀のように乗っかってはしゃいでいた。初めてをあげたばかりなのにひどいよね。摘花ちゃん、凄く嫌がっていたから、わたしも想夜ちゃんに乗っかってやめさせようとしたの。それなのに摘花ちゃんやめないでって抗議するの。おかしいよ。結局、最後までされちゃった。
昼メロも真っ青なおどろおどろしさだ。ダンジョンの発生する前は、こうした不道徳な本が隆盛を極めたという。けしからん本はクリエーションの直後、真っ先に再生紙に廻され駆逐されてしまったが。
菫の話を要約するとこうなる。御上想夜に絆されて菫は処女を捧げてしまった。そして『テレポテーション』で跳んだ彼女は摘花の暴行現場を目撃していしう。身体を張って止めようとしたが、想夜は菫の目の前で摘花に中出ししてしまう。摘花があらぬ事を口走ったのも、触手責めとレイプのショックで錯乱したからだ。
泣いたのは何年ぶりだろう。親友達の純潔がクズ男によって汚された。警戒していただけに余計悔しい。厚生の兆しがあると思って甘い顔をしたのがいけなかった。後悔先に立たず、自分の裸身を見られたときに迷わず叩き切ればよかった。でも今は菫と摘花のケアが先だ。
「それはいつ、どこでの話だ。それで摘花はどうしている。誇り高い彼女の事だ。早まって自裁などしなければいいが」
「ついさっき、生徒会室での話だよ。お休みだからいつものように想夜ちゃんを呼び出そうとしたら、摘花ちゃん襲われていた。あんなに激しくされたら、もう好きになるしかないじゃない。それからわたしが処女を上げたのも生徒会室だよ」
何と生徒会室は御上想夜のヤリ部屋と化していた。これでは忌まわしい父親と同じではないか。故無三総帥も、神聖な道場で女剣士を手籠めにするのが趣味だったのだ。やはり男は最低だ。
菫には二度と想夜に近づかないよう言い含めた。摘花からはメールが帰ってこない。打ちひしがれているのだろう、掛ける言葉もなかった。心技一如、墨をすり決闘状をしたためる。書面にて彼の卑劣を糾弾し、二人の無念を綿々と綴る。一字一句に恨みを込めた。親友を憎い男に奪われた、嫉妬に近い感情も自覚していた。
その一方、武道家として自問する。怒りに任せて自分は想夜に勝てるのか。確かに自分の方が格上だ。決闘を道場での試合形式にしたのも慈悲である。魔法もありの死合いでは手加減できずに殺してしまう。命までは取らぬ、わが一閃で睾丸と陰茎を切断する。去勢して二度と悪さが出来ないよう懲らしめよう。菫や摘花の屈辱を万分の一でも思い知らせてやる。
だが武道家の感が警鐘を鳴らす、御上想夜を侮るなと。彼は女神に愛されている。それに潜った死線は彼が上だ。民間軍事会社の非合法集団や軍の特務部隊を相手に生還している。ダンジョンで何があったか聞いてはいない。ただ相手は誰一人帰還していないのだ。恐らくは窮地に陥る程、力を発揮するタイプだ。こんな人間はもっとも危険である。
最期に遺書をしたためた。己も死地に身を置く事で精神を統一する。明鏡止水、残りの時間で武の極致へと己を磨いた。
俺の手元に果たし状が届いた。差出人は剣風姫からだ。来るべきものが来た。今回の事がなくてもいずれ衝突しただろう。俺が彼女と戦いたかったからだ。スタンピードの際、ゴブリンやオークの屍の山に立つ彼女に惹かれた。一緒に戦斧を振るったが、魔物を屠るのではなく、ライバルの雄を蹴散らす気持ちの方が強かった。あの日から俺はどれだけ強くなったか。もうこの手は届くだろうか。
それに女神さまに祟られている今、安全にヤレるのは12歳未満の小学生と選抜者の女性しかいない。その中でも剣風姫は最上の相手だった。喜んで遺書を書く。
菫先輩と魔女姫様の連名で生徒会室に呼び出された。部屋にいるなり『結界』を張る。騒いだりはしてこない。これはもう話し合いはついているな。大柄な生徒会長とちっちゃい菫ちゃんを二人同時に引き寄せた。両手に花でフワフワとした抱き着心地が心地よい。
「僕は罪を犯した。でも絶対に謝罪しない。漢としては偉業をなしたと思っている。この罪を、いや、菫と摘花の二人を生涯背負って歩んでいく」
少女は我儘な男の子を許すのが大好きだ。ただの優等生に魅力など感じない。俺は悔い改めぬ、ならば彼女達が変わるしかない。
「仕方のない想夜ちゃん。摘花ちゃんとも話し合ったの。あなたの望みをすべて受け入れてあげる。それが激しすぎるあなたへの愛。惚れた女の弱みだね」
「想夜さんを独占しようとして、私は罰を受けました。もうプライドはズタズタよ。あなたなしでは起ち上れないわ。お願い私を許して下さい」
ロリの菫ちゃんが器の大きな所を見せる。大人顔負けの魔女姫様は、犯されたのに許しを請うた。法と秩序の守護者を目指したはずなのに、わからされて犬猫のように服従してくる。収まる処に収まった。下手に弁解したりすると拗れたりするのは、妹たちで身に染みていた。
「弥生ちゃん何を言っても聞かないの。でも目の前でラブラブしたら、果たし状取り下げてくれないのかな」
二人が説得しても、弥生先輩は決闘を止める気はないらしい。菫先輩と生徒会長が早急に和解したのはこのためか。でも剣風姫の前でイチャコラしたら火に油だ。
「想夜さん、決闘を受けるそうね。弥生は本気よ。遺書も書いたんですって。お姉さん心配なの。それに魔法禁止で武術のみの試合だなんて、あの子の方が有利すぎるわ。お願い、決闘なんてやめましょう。話し合いで解決すべきよ。私のせいであなたに何かあったら、もう生きていけない」
「それでも僕は決闘を受ける。剣は彼女の全てだ。そんな先輩が僕に剣を向けてくれる。認められたようで僕は嬉しい。ならば神瞑弥生の剣をへし折ってこそ、菫と摘花が僕のものだと堂々と宣言できる。僕の勝利を二人のために捧げたい」
もちろん魔法なしの条件では俺が圧倒的に不利だ。剣風姫が一方的に都合のいい条件を突きつけたようにも思える。だからこそいいのだ。彼女は神瞑流の次期総帥であり、何より剣に一途だった。そして対人戦では俺より上だ。そんな女剣士を組み敷いてやる。彼女が強い程喜びは大きい。魔法での勝利は価値が下がる。
「それから弥生先輩には怪我させないから心配しないで。僕の配慮が足りなかったから、先輩は復讐鬼になってしまった。修羅の道から救済したい。彼女もここに連れて来るから」
「想夜ちゃん好き好き、もっとあなたの好きにして」
「あなた、ご武運を。弥生の事をお願いします」
俺は三人の仲を取り持つと誓った。神瞑流次期総帥に勝つというのは無謀だろうか。まずは俺たち三人で和解する。感激した二人を後ろ向きにして机に手をつかせた。背の高さは親子ほどの違いはあっても、お尻の太さは仲良く同じだ。交互に突くと声を揃えて泣き出した。この次はお尻を三つ並べてやる。
果し合いは半月後、神瞑流の道場で余人を交えず行われる事になった。
「みよう本」の昔から強敵との戦いの前に、主人公が特訓するのはお約束である。俺はギルドの受付にいる。もっとも潜るのはここ徳島ダンジョンではない。かねてから神戸の義母と義妹を訪ねる約束をしていた。ここには朱美と詩央もいる。これから西日本最大の神戸ダンジョンへ向かう。
それにもう一つ、京都の平安ダンジョンから招待が来ていた。ここは陰陽道の皇家の管理下にあるダンジョンだ。モンスターも独自で妖怪変化や魑魅魍魎の類が多い。シスターの「聖水」がこいつらに有効か試して欲しいと言われている。もちろん餓鬼と呼ばれるゴブリンの亜種とかにはすでに試しているだろう。ただ深層に往くほど癖のある妖怪や、祟り神みたいなものも棲息している。「聖水」が効かない場合に備えて、突破力のある上級探索者が必須であった。
京都と言えば星堂さんの本拠地だった。彼亡き今、平安ダンジョンは最大戦力を失っている。俺が殺したのだ。法的責任はなくても道義的責任はあるから、手伝えというのか。それに俺は「聖水」の精製に深く関わって、その効能や有効範囲についても知り尽くしている。戦える斥侯である自分なら深層深くまで浸透できるし、窮地になっても脱出は容易だ。適任だろう。先方は案内人をつけると言ったが俺はソロを希望した。『結界』など伏せているスキルをアウェイでは見せたくなかった。
待つ事数分、面会を希望した月代主任に代わって小梢ちゃんと尋さんが応対してくれた。
「御上君、御免なさいね。主任は最近オーバーワーク気味なのよ。これ以上仕事をさせたくないから、わたし達でお相手するわ。もちろん主任には内緒だけど」
上司の仕事を内緒で肩代わりしようだなんて、なんて優しい尋さんなんだろう。確かにここ数カ月、徳島ダンジョンでは日本、いや世界中の耳目を集めた。現場責任者の苦労は如何ばかりか。常人なら過労死している。
「旦那さんとも上手くいっていないみたいなの。新婚なのに夫婦生活を顧みないって。主任の苦労も知らないで。想夜君は小さい男じゃないわよね」
「僕は大きな男です。忙しくても奥さん達を寂しがらせはしませんよ」
小梢ちゃんが上目遣いで俺を見ている。誘われた。据え膳は男の恥なのだが。それにしても月代主任が心配だ。
「こら小梢、余計なこと言わないの。御上君も悪乗りしない。それで今日はどんな要件なの」
上司のプライバシーを垂れ流しの小梢ちゃんを尋さんが窘めた。
「二週間位、徳島を離れます。遠征先は神戸と平安ダンジョン。神戸は母と妹がいますからね。家族でダンジョンに潜って親孝行しますよ。京都の方は聖水の効能試験です。ほら俺が学生だから、夏休みまで指名依頼を待ってもらっていた案件」
上級探索者になれば、旅行や遠征で地元を離れる場合はギルドに届け出義務がある。
「いやだあ、寂しくて涙が出ちゃう。ところで想夜君のお義母さんって、月代主任の上司だった人よね。わたしの事、できる受付嬢だって伝えてね」
小梢ちゃんは母さんにまで取り入ろうとしているのか。最近特にあざとらしさが増した。俺の事も苗字でなく名前で呼ぶようになった。受付嬢と探索者が仲良くなるのは鉄板だ。パーティーメンバーが不在のうちに筆おろしをしろと、野郎どもが悪い笑顔で唆す。そんな彼らは女性探索者の顰蹙を買っていた。
「京都のギルドはちょっと心配だわ。風当たりが強いのよ。ほら星堂さんがうちの管轄で討たれたでしょ。もうすこしやり様があったんじゃないかって。御上君も気をつけて。あなたが一番適任なのは分かるけれど、嫌がらせ位はあるかもね。あそこは官営じゃないから気難しい所があるのよ」
「僕は星堂さんを今でも尊敬しています。この依頼を誠心誠意やり遂げる事で、僕と星堂さんの価値を改めて証明したい。いずれ恩讐を超えて家族の方とも和解したいと思っています」
「御上君、立派よ。いい男になったわ。罪を憎んで人を憎まず」 「うん、うん。清く正しく美しくだね」
尋さんが頼もしい弟を見るよう。そこには御上想夜を上級探索者に育てたのは自分だという自負があった。小梢ちゃんも頷いている。俺の探索で二人を何度も泣かせた。その度に距離が詰まった。俺の方も御手つきにしなかったのが悔やまれる。受付嬢二人からのサンドイッチを所望したかった。でもそれは小梢ちゃんと尋さんを同時に選抜者にしてしまう。
俺のボランティア先の司祭とシスターが同じ日にダンジョンに選ばれたのはここでは広く知られている。続いて受付嬢二人は、流石に不味かろう。こうやって女神さまは意地悪をするのだ。
地元では友の無念を晴らすべく、神瞑流次期総帥から果たし状を突きつけられた。京都ではかつて日本を代表した上級探索者の遺族とそのシンパから恨まれている。凶状持ちになった気分だ。でも女神さまの祟りに比べたら些細な事。敵討ちは返り討ちにしてこそダンジョンの華。腕が鳴る。