※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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神戸ダンジョン2 鳴動

 混み合っている狩場を避けて、人の少ない区画へと進む。これから妹のレベル上げを行う。企画立案はキリ香自身、監修は薫子だ。妹はゴブリンやオークといったヒト型モンスターが嫌いだ。このエリアにはは角ウサギのアルミラージやダイアウルフ、蝙蝠の類が生息している。

 この蝙蝠が曲者で、弱いくせに超音波攻撃をしてる。これが四つ足の獣と戦っている探索者の集中を乱す。高い天井にへばりついているので武器が届きにくい。ウザがっていると刺されたり咬まれたりで怪我してしまう。魔石の購入価格も安く、実入りの少ない事もあってここは敬遠されていた。だけど俺には『風衣』と『鎌鼬』がある。赤子の手を捻るようなものだ。

 

「エイっ! エイっ! お兄ちゃん、もっと頂戴」

 

 キリ香は絶賛姫プレイ中だ。気合の抜ける可愛い掛け声で、落ちてきた蝙蝠をプチプチ潰している。妹はひたすら弱い。以前出会った最弱の「ヘーゼルちゃん」より格下だ。こんなので大丈夫かと思われるが、回復魔法トリプルの彼女には戦闘力は期待されていない。ひたすら経験値を得て、ヒールの効果と回数を上げる事のみ求められてる。現場ではそれは大事にされているそうだ。いくら母親同伴とはいえ、今日だって上級探索者の俺がいなければ許可が下りなかっただろう。

 アルミラージの角を落とし無力化すればただの兎だ。群れの中で妹は無邪気に跳ねる。桜色のポニーテールがピョンピョン踊った。癒される、不謹慎だが天使が戯れているようである。こんな妹をもって俺は幸せだ、心がホカホカして庇護欲を誘う。護衛の義母も微笑んでいる。

 

「わたし、こんなに沢山モンスターを倒したのは初めてだよ。スキルも二つ取れちゃった。それもお兄ちゃんとお揃い、ありがとう」

 

 蝙蝠ではスキルは取れなかったが、アルミラージとウルフからは一つずつスキルが落ちた。『給水』と『洗浄』、俺も持って重宝しているスキルだ。ただ、治療現場ではあると便利ではなく必須に近いものになる。喜びようも尋常ではない。戦闘中でも抱きついてくる。

 

「私も久々にスキルを貰ったわ。想夜さん、あなた使ったわね」

 

 母が習得したのは『アンチエイジング』、延命効果はないが、老化を遅らせ若さを保つ全女性垂涎のスキルだった。義母が若さを保ってくれるのは俺も嬉しい。こっそり囁く。

 

「僕も身長が伸びたら、母さんと腕を組んで歩きたい。親子じゃなくて夫婦に見られたいからね」

 

 確かに『運命操作』を発動させていた。分不相応にアイテムやスキルを得るのは好ましくないが、二人への今回だけの贈り物だ。かく言う俺も『結界』がダブルになった。これまでは俺が内側に引き籠って隠れるだけだったのが、モンスターに『結界』を被せて、外から閉じ込める事も出来るようになったのだ。

 検証してみる。角ウサギやウルフを閉じ込めるも、一度に捕まえられるのは、二匹が限界。攻撃してみた。俺の『石槍』や『鎌鼬』、母の『炎弾』でもビクともしない。さすがは俺の『結界』だ。閉じ込められたモンスターは俺たちに向かって突進してくる。こちらの事は見えるようだし、音にも反応するようだ。だけど『結界』は揺らがない。不思議な事に、どんなに激しく壁にぶち当たっても、モンスターは傷つかなかった。まるで『結界』がやつらを保護してるよう。

『咆哮』や『スピアランス』であろうか、上位個体が魔法攻撃の構えを見せる。だけど途中で魔力が消えた。『結界』内では魔法は不発に終わるようだった。

 

 閉じ込めたダイアウルフに、恐る恐るキリ香が近づく。『結界』を解除するや、喉元に短槍を突き立てた。危なっかしいが相手は絶命してくれた。万が一に備えて義母はフォローに回っている。

 

「わたし、こんなおっきいの、お相手したのは初めてだよ」

 

 妹は感慨深げだ。彼女は稀少なスキルを持つ故に、ほぼ養殖されている。それでは本当の危機には対応できない。俺と母は敢えて危険を侵させた。担当にはこんな権限はないからだ。薫子が新しい『結界』について寸評を述べる。

 

「想夜さん、これは使い方を選ぶスキルね。ボスモンスターを拘束して、パーティーで一斉攻撃をすれば安全確実に倒せるわ」

「これなら僕が先行して速攻でボスを拘束、駆け付けた朱美と詩央でタコ殴りにできる」

 

 彼女の言う通りだ。だけど俺にとってはそこまで欲しい能力ではなかった。手数が増えるのは嬉しい。拘束して魔法も封じる、これは秘密のスキル『触腕』と被る。むしろ一度解除しないと攻撃できないのは、使い勝手が悪かった。でも話は合わせておこう。『触腕』でも公開する事になったら、キリ香は失神してしまう。

 

 

 

 不人気エリアのせいかモンスターの数が一段と多い気がする。キリ香を消耗させないためにも、早めの休憩を取る。俺は『結界』を張って母と妹を包んだ。三人で肩を寄せ合い、仲良く寛ぐ。

 

「このスキルは最高の贈り物ね。歩哨を立てずに全員でゆっくり休めるなんて、普通なら考えられない事よ。常に全力が出せるし、継戦能力も上がる。これなら人の何倍の速さで強くなれるわ」

 

 体調をベストに保つのに一日8時間の休息が必要とされる。2交代なら移動、休息、見張り、各8時間の配分となる。だけど俺たちのパーティーでは休息8時間、移動16時間で、他のパーティーの倍活動できる。これはソロでも同じで、加えて窮地の際に『結界』に逃げ込んで躱すこともできる。俺が単身でダンジョン深く浸透するのを危惧する人もいるけど、ギルドが何も言わないのはこのスキルのおかげだ。

 

「わたし、ママとお兄ちゃんに挟まれたい」

 

『結界』の幅は2m位だ。今までは俺が義母と義妹にサンドイッチされていた。体を入れ替えようと妹が俺に乗っかってモゾモゾし始めた。

 

「それは無理。結界は僕を基点に構築される。キリ香が真ん中だと母さんがはみ出てしまう。どうしてもと言うなら僕と母さんが固く抱き合ってお前を挟み込むしかないけど」

「ダメだよ! お兄ちゃんはもう大人なんだから、いつまでもママに甘えないで……。そう言えば朱美姉と詩央姉とダンジョンに潜る時はどうしてるの。まさか両側に侍らして寝てないわよね」

 

 それに気づいてしまったか。下手に隠し立てすると余計に疑われる。

 

「就寝時には省エネモードにするからね。範囲は今より縮小する。三人で抱き合うように添い寝している。でもやましい事なんてしてないよ。子供の頃から固まってみんなでお昼寝していたじゃないか。キリ香も一緒に寝てたでしょ」

「不潔すぎる。今度はわたしも付いて行く。お兄ちゃんが朱美姉と詩央姉に嫌らしいことしてないか、しっかり監視するんだから」

 

 男女が一緒に添い寝すれば、男と女の営みに発展するのは自然の摂理だ。やましい事は一つもない。

 

「ちょっと無理かな。三人を収容するのは厳しいから。でも今みたいにキリ香が僕のお腹に乗ってくれるならいけるかも」

「それでいい、それがいい。お兄ちゃんにはずっと綺麗でいてもらう」

 

 キリ香は不安がってしきりにおでこを擦りつける。髪を梳いて可愛がれば、とろりと女の顔になってしまった。狭い『結界』の中、キリ香から甘く切ないバニラアイスの匂い、薫子からはむせ返る精の香り、そして俺は花の精の蜜の香りを発散していた。混じり合って欲情を煽る。アイスにお酒をかけたカクテルを「罰」と言うらしい。

 薫子が俺の手を取り、股間へと手繰り寄せる。準備が出来たと言っている。娘の喪失の瞬間を見届ける気だ。その後娘の前で、俺に抱かれるつもりなのだ。最愛の兄から、母親の前で処女を奪われるキリ香はどんな気持ちだろう。その後俺と母親の情事を見せつけられる。夢が叶うと同時に絶望のどん底に叩き落とされる。発狂に至るかもしれない。だけどこれは妹の試練だ。耐えてこそ俺たちの側へ来ることができる。

 義理とはいえ、母と兄妹の近親相姦と母娘丼、恐らくは強姦付き、俺はこれからどんな「罪」を犯すのだろうか。良心の呵責が大きい程、悦びも大きい。心も踊り、いきり立つ。

 

 

 

 キリ香に手をかけようとした時だ。突然ダンジョンが揺れた。『結界』の中では外因は影響されないはずなのに。とっさに妹を庇いながら、全方位を警戒する。モンスターや人狩りから攻撃を受けた様子はない。

 

「キャっ、恐いよ。お兄ちゃん助けて。これって地震?」

「結構大きいよね。でもダンジョンでは地震は起こらないはず」

「違うわ、ダンジョンが成長している。ここはずっと静かだったのに、その反動が来たのかしら。気をつけなさい。大きいわよ」

 

 通常ダンジョンが成長する時は地鳴りがしたり、階層が崩落して不可抗力の遭難者が出たりする。異空間エリアはまた別だ。ここ神戸ダンジョンはルネッサンスの最中、周囲のダンジョンが成長著しいのに反比例して大人しかった。その反動が来たのか。

 いずれにせよギルド職員の母はすぐ戻らなくてはならない。そして何より優先するのはキリ香の命だ。妹だからではない。回復魔法のトリプルは全国で50人弱、失えば国益を損なう。速やかに帰還しようとしたが遅かった。幾人もの探索者が命からがら逃げてくる。装備からして中級以上、ガチ勢だろう。

 

「おい、早く逃げろ。深層のモンスターが上がって来る」

 

 モンスタートレインでもやらかしたかと思ったが違うらしい。ダンジョンが成長して新空間が出現、既存のモンスターが押し出されたとの事。もしそうなら階層を超えて登ってくる。

 

「最悪ね、揺れの規模からして他でも新エリアが誕生している可能性が高い。もう緩衝地帯も安全ではないわ。今頃は多くの選抜者が集っているはず。今日はアマチュアが多いのよ。下手をすると壊滅するかも」

 

 土日は学生やサラリーマンが潜るので、プロ探索者は遠慮するという不文律がある。今日の神戸ダンジョンもアマチュアが多く、相対的に探索者のレベルが下がっている。平日なら持ち応えたかもしれないが、モンスターの暴走を押さえ切れず大参事になるかもしれない。

 

「僕が殿を務めます。スタンピードもトレインも経験していますからね。あなた方は先に行ってください」

「協会職員からの御願いです。緩衝地帯も安全ではないわ。避難ししている人達を地表へと導いて。そして協会に情報を伝えて」

「それなら俺達も残ろう。怪我人や後衛を連れての退却は正直厳しい。時間稼ぎをさせてもらう。それに坊主一人死なせるのは寝覚めが悪い。トレインには深層のミノタウロスも混じっている。強敵だぞ」

「僕の大技は敵も味方も巻き込んでしまいます。それにミノタウロスなら大丈夫ですよ」

 

 俺はアイテムボックスからハルバードを取り出した。擬似ダンジョンでの戦利品だ。

 

「それはミノタウロスをソロで倒すと出現する戦斧か。坊主を見くびっていたようだな。おい、行くぞ。俺達の命の使い所はここじゃない」

 

 さすが、ガチ勢、武器には詳しい。俺を信用してくれた。地響きが大きくなる。モンスターはすぐそこだ。キリ香から応急処置を終えた怪我人も地表を目指して体を鞭打つ。妹には同行するよう頼んだが聞き分けがない。説得する時間は残されていなかった。

 

「絶対にイヤ! 怪我したお兄ちゃんを誰が治すのよ。わたしの回復魔法は家族を護るために神様にお願いしたの」

 

 

 

 

『結界!』

「ちょっと想夜さん、止めて」 「お兄ちゃん何するの」

 

 二人をレベルアップした『結界』に閉じ込めた。思えばこのスキルは師匠の宿った白蛇がくれたものだ。せっかくダブルになったのにさっきまで蛇足と思って御免なさい。正しいスキルの使い方が示された。俺もキリ香と同じだ、進化した『結界』は俺ではなく、大切な人を護るためにある。母も妹もこれで死ぬ事も怪我をする事もない。心置きなく戦える。

 

 ダンジョンがざわつく。これから沢山の命を刈り取られる。それに反して俺の心は氷湖のように静かになった。魔物の先駆けはゴブリンライダー。地面から『石槍』を生やした。一瞬にしてウルフを、そのままゴブリンをも刺し貫く。高々と幾つもの贄柱が聳え立った。食い足りない、『風衣』で宙に舞い上がる。戦斧を一閃、美しきハーピーの命が散って、乙女の首が転がった。ここまでは前菜である。もっと命が欲しい。

 跫音が響き渡る。広い通路を埋め尽くす程のモンスターの群れ。これが本隊だろう。天井にはガーゴイル、コボルトやオークといった二足歩行のモンスター、ボアやベアの四つ足まで、モンスターの命がひしめいている。ここから奥まで一本道だ。俺がここで迎え撃ったのには訳がある。隧道では『衝撃波』の威力が増幅される。

 

 屍の山を築いてやる

 

 再びダンジョンが鳴動した。爆音が轟き、瓦礫と血煙が舞う。空飛ぶ魔物も、地に伏せる四つ足の獣も、人に似た二足歩行のモンスターも全て等しく滅ぶ。ソニックブームの去った後は物言わぬモンスターの死体のみ。『衝撃波』の威力も過剰になったものだ。だけどこれで終わる程ダンジョンは優しくない。

 警告されていたモンスター三体が姿を現す。深層の難敵、ミノタウロス、こいつらは死体を盾にして『衝撃波』を凌いだのだ。資料より一回り大きい。三体とも上位個体か特殊個体であろう。奴らは俺のハルバードを見て雄叫びを上げる。憎しみの籠った赤い眼で呪わんばかりに俺を見た。分かるのだろう、俺の戦斧がかつてお前らの仲間のものであった事を。こいつらには知性がある。

 鋼の肉体に超常のパワーとスピード、そして漲る気迫。朋の仇を討とうとすれば、モンスターでもこんなに強くなれる。戦斧を構えるこいつらからは、達人の臭いがした。『戦斧術』も俺と同じダブルぐらいはあるだろう。これは分が悪いか。

 三匹が同時に『咆哮』を放ち。三たびダンジョンが鳴動する。相手を硬直させ動きを止めるモンスター専用のスキルだ。それも上位個体が連携しながら放ってきた。だけどこんな事でどうとなる俺ではない。それは奴らも分かっているはず。敵討ちの名乗りを上げたつもりなのだ。開戦の合図となった。

 左右からのミノタウロスの横薙ぎ、面打ちと足払いだ、一度に両方は受け切れない。低い攻撃を跳び上がって交わし、横一文字をこちらの戦斧で受けきった。当然力負けして後方へと飛ばされる。そこを図ったように、三体目が両断してきた。柄で受けるも不覚にも折られる。俺は武器を失ってしまった。

 ミノタウロスどもが大きく吠えた。恨みを晴らすと哄笑している。ふと横目でキリ香と薫子を盗み見た。二人とも慟哭している。こいつらが俺の女を泣かせているのか。違う、そうさせているのは俺の方だ。師匠が言っていたように、女を泣かすと俺は強くなれる。義母と義妹の泣顔がそそる。身体に力が漲ってきた。泣き声を想像するだけで昂ってくる。死ぬなんてこれっぽっちも思わない。

 俺はもう凶状持ちだ。ミノタウロスよ、些細な恨みは届かない。刹那の時間でアイテムボックスから大斧を居合の如く抜き放つ。頸を刎ねる。これはゴブリン首領からの戦利品、『唯我独尊』と訳の分からないスキルを持っていた奴だ。補助武器で近接戦闘用となる。

 二体目は『体術』の応用、身体を密着させるよう、間合いの内で切り刻んでいく。目測を誤った最後の一体は、俺の大斧をわざと肩で受けた。拳を大きく振り上げて俺を殴り殺す気だ。でもその体勢で全身から血を噴き出してこと切れる。紙一重ので「叢雲」が間に合った。

 

 

 

 肩で息する俺に義母と義妹が駆け寄ってくる。縋る二人は俺の事しか考えられない。俺と躰を重ねる事で魂の平穏を得ようとした。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」 「ああ、想夜さん」

 

 もう牝の臭いしかしない。難敵を退けて今日も生き延びた。魔物の命を屠る程に心は昂り、躰はたぎる。そしてダンジョンは誘惑する。

 

 女神の力を持つ殺戮者よ、孕ませなさい。新しい命に火をつけるのです。それがダンジョンを殺した貴方への罰

 

 義母と義妹にダンジョンの理を示せという。他の聲も聴こえる。

 

 小さきものの愛は深い。慈しみなさい。愛する程に裏切られた憎しみも深い。そのものがお前の不実を知れば災いとなります。手遅れにならないうちにこちらの世界に引き込みなさい。

 

 俺はキリ香の実母、俺の義母の薫子と関係を結んでいる。妹の大親友をキリ香のベッドで犯してやった。それにその他諸々だ。真実を妹が知ったなら、俺を殺す選択肢以外ありえない。永遠に憎み合い、和解は不可能となる。そうならないよう先手を取って、妹をわからせろと言っている。ダンジョンの声は正しい様に思われる。

 キリ香をここで手籠めにして、その後目の前で母親を抱くのだ。禁断の世界でこそ、この世では存在しない幸福をつかめる。そうすれば、親友の瀬里奈ちゃんを凌辱して依存させている事も、その母親を転がしている事も、朱美や詩央の事だって全て許してもらえる。

 

 でも今は、妹を安全な場所に届けるのが先だ。母には協会職員としての立場がある。俺にも上級探索者としての矜持がある。俺は直感には従わず、僅かに残るヒトの理を重んじた。

 これが俺とキリ香の運命を分けた。

 

 

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