※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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神戸ダンジョン4 死の王

 キリ香によると遭難したクラスメイトに戦闘職は少ないという。もちろん先生たちも訓練を受けているが本職ではない。頼りはギルドのつけた護衛官だけだ。おまけにダンジョン拡張の直後では、モンスターが異常行動に出る。常識が通用しない。長く持ち応えるのは不可能と思う。俺達は拙速を選んだ。進路を塞ぐ魔物どもを薙ぎ払って一瞥もしない。

 途中まで進めば、天井が落盤していて行く手を塞いでいる。これは事前の情報にはなかった。迂回すれば相当なロスとなる。それに避難経路も確保しておきたい。詩央が『空間把握』で探った。

 

「10mほど岩盤が崩落している。でもその先は空間が開けている」

「僕の衝撃波はクールタイム中。気配察知にも人は感知されていない。朱美、頼める?」

「任せて!」

 

 大上段の大剣を振り下ろせば、『斬撃波』が走る。面の制圧は『衝撃波』が勝るが、射程はこちらの方が長い。轟音と共に道が開いた。更に進むと、今度は床抜け落ちている。この下が拡張された深層であろう、キリ香のクラスメイト達はここから落下したと思われる。

 

 風魔法……『風衣』

 

 俺は朱美と詩央を搔き抱くや、20mを飛び降りた。おっぱいは対称的でも、腰が細いのは共通だ。朱美は巨乳を、詩央は貧乳を俺の胸に押し当てる。随分と懐かしい感触、着地の瞬間、ふわりと浮いた大小の乳房が、重力に捕らわれ、俺の胸で擦られた。二人ともため息を漏らす。

 

「ああっ~」 「ヤンっ」

 

 彼女達が合宿に入ってから、俺たちはご無沙汰している。代表生は生活指導も厳しいのだ。

 

「帰還したら手合わせをしよう。二人がどれだけ強くなったか、その躰に聞いてあげる」

 

 ベッドの中で一戦するのだ。幼馴染達は耳まで赤い。救援中に不謹慎と思われるかもしれないが、それは違う。このエリアはジメジメとしてかび臭い。墓地の臭いだ。伊那ダンジョンでも経験したが、アンデッドの巣窟だろう。明るい気持ちを保たないと死霊どもにつけ込まれる。

 

「レイスの氾濫も、モンスターのトレインもここが発生源、恐らくは強力なボスが誕生している。気をつけて」

「想夜はアンデッドと戦闘経験豊富なのよね。わたしたちにも手ほどきしてよ」

 

 もちろんだとも、詩央の言葉に身が引き締まる。そして大いに闘志が涌いた。死者の匡を侵略してやる。

 

 

 

 遭難者は程なく見つかった。なにしろ巨大ながしゃどくろに襲撃されていた。遠くからでもすぐ分かる。彼女達は洞穴にでも立て籠っているのだろう、入り口を塞ぐ岩を、がしゃどくろがどけようとしていた。そしてスケルトンが侵入を試みている。

「聖水」いりの『水弾』が、スケルトンを牽制する。その間隙をぬって、俺と朱美はがしゃどくろの脛を砕いた。奴は倒れながらも俺達を叩き潰そうとする。だが、朱美の大剣が手首から先を切り落とした。即座にハルバードが撃ち降ろされる。一抱えもある頭蓋骨が砕け散り、握りこぶしほどの魔石が転がった。この間に詩央が先行して突入する。中には十数人の少女と大人四人が潜んでいた。

 

「助けに来ました。回復魔法が使えます。怪我人はこちらへ」

「やあ、みんなさっき振り。助けに来たよ。一緒に帰ろう。でもみんな偉いね。よく持ち応えた」

 

 俺達も残党のスケルトンを掃討してから合流した。不安がらせないよう遠足から帰るように気軽に声を掛ける。でもそれは逆効果だった。緊張が緩んで泣き出してしまった。何人かは俺に縋ってくる。

 

「あっ、キリ香ちゃんのお兄さんだ。わぁ~んっ、恐かったよう~」

「想夜さんですね、ぐすん、恐かったです」

「みんな、無事でよかったよ。上ではキリ香が待っているよ」

 

 詩央によると生徒たちは無事だが、先生や護衛官には回復魔法を使ったという。身を挺して子供達を護ったのだろう。だけど責任感の強そうな子が泣き出してしまった。

 

「キリ香さんのお兄さん、リリエちゃんを助けて下さい。先生たちも助けて下さい。わたし、一生恩に来ます。何でも言うこと聞きますから」

 

 大変だ、お気に入りのリリエがいない。それに挨拶をくれた担任の先生ともう一人も見当たらない。二人の女教師を記憶から引きずり出す。妹が自慢するだけあって、良き先生であると共に極上の女だった。ぺちゃんこ揃いの女子中学生にあって、二人の教師の母性溢れる凹凸は、それは人目を惹いていた。余計な事だが二人とも独身らしい。

 義母によれば担任は吾妻先生という。藤色のロングヘアと、知性溢れる灰色の瞳、二十台後半の落ち着いた女性だ。もう一人補助の教員は緋胡桃先生、今年から教鞭を取る新米先生、つつじ色の紫の髪にグラスアイの群青の瞳、人形のように愛らしい。小柄でまだ大人になり切れていない。男子生徒なら泣かせたくなるタイプだった。

 

 

 

「無理を言わないで。相手はダークナイトを従えているリッチよ。授業で教えたでしょう。こうした魔物は上級探索者が万全の準備をしていても、死んでしまう程の強敵よ。救助に行っても二次遭難になってしまうわ。それにリリカさんはもう生きているかどうか」

 

 深層に落ちて直ぐ、ビバークする場所を探していたところ、リッチの強襲を受けたという。黒い炎がリリカを直撃、救助に向かった我妻先生と緋胡桃先生共々ダークナイトに連れ去られてしまったらしい。

 事情を説明する先生たちも断腸の思いだ。感情で動けば生徒達を危険に晒す。何しろダークナイトとリッチと言えば海外のダンジョンでは、上級探索者の死因の上位を占めるのだから。

 

「ダンジョン嫌い、そして怖い。わたしもう二度とダンジョンに潜りたくない」

 

 一人の生徒がパニックを起こしかけている。このままでは皆に伝染してしまう。そして心的外傷後ストレス症(PTSD)を発症してしまうかもしれない。俺は妹にいつもするよう、恋人かけるより優しい言葉と声で慰めてあげる。

 

「僕の力はダンジョンで泣く人を助けるためにある。この手を握って。そして一緒に歩こうよ。君たちは彼女たちが護る。リリカちゃんや先生は僕が助けに行く。だからダンジョンを嫌いにならないで」

 

 俺に囁かれて落ち着いてきた。穏やかな気持ちが周囲の女の子に伝わっていく。

 

「お兄ちゃん、大丈夫なの。呪われたりしない?」

「平気、平気。それに僕は徳島では聖水作りを手伝っていたし。聖女謹製の最高級品も持ってるよ。アンデットなんかナメクジみたいに溶かしてやる」

「でもあなたは単身で向かわれるのでしょう。余りにも危険では?」

「パーティ込みで三人までなら、逃げ帰る自信がある。ちょっと時間はかかるけどね」

 

 俺がソロで救助に向かうのを先生方は懸念しているが、ちょっと違う。この状況ではソロでしか動けないのだ。『結界』の定員は二人、でもキリ香がいい事を言った、小柄なリリカを抱っこすれば三人まで収容できる。朱美と詩央も救助優先と分かるや、単独行を認めてくれた。先生たちに促してくれる。

 

「すぐに出発します。退路は確保しています。途中の魔物も間引いています。時間が経つほど避難は難しくなりますよ」

「緩衝地帯でキリ香ちゃんが回復魔法で頑張りながらみんなの帰りを待っているよ。さあ、頑張って」

 

 

 

 危ない事は絶対にしないように、くれぐれも念を押されて、単騎で捜索へと向かう。連れ去られた方角は聞いている。二人には悪いがお気に入りの女の子を傷つけられてそのままにする程、俺は人間が出来ていない。

 それにリリエ達を攫ったというのは、その時はまだ生きていたのだろう。気になるのはリッチの目的だ。ティーメから座学を受けている。異界のダンジョンでは時に高位のアンデッドが、災害級の怪物やネームドの悪魔を召喚したりするらしい。その際には清き乙女が触媒として利用される。ようは生贄だ。

 儀式が成功すればダンジョンは溢れる。多くの人が死に、その魂が人食いとなったダンジョンの糧となる。その前にリリエちゃんは死ぬより辛い辱めを受けてしまう。

 

『魔力視』の魔眼を使わなくても判る。岩陰から澱んだ魔力が流れ出しているのを発見した。時が惜しい、俺は迷わず飛び込んだ。そしてお決まりの奇襲を受ける、ダークナイト二体、雄型と雌型だ。漆黒の鎧に覆われて無念の死を遂げた騎士、一体で上級探索者と同程度の強さと言われる。戦いが長引けば押し切られるだろう。

 バスタードを搔い潜ると、『登攀』で天井まで駆け上がる。雄型に狙いを定めた。床からは『石槍』、天井からは『石槍』ならぬ「石筍」の剣山を生やして動きを封じる。紫電一閃、払われてしまった。だけど一瞬の隙ができる。俺はハルバードを振り下ろして兜を割った。ダークナイトは死霊系だ。頭が取れても戦闘には支障がない。そこで俺はワンランク上の「聖水」を鎧の中に放り込んだ。その効果はてき面だ。怨嗟の声を上げながら昇天してしまう。

 俺の卑怯な戦いぶりに雌型の方が激怒した。恨みの炎が剣に宿る。『鎌鼬』と『炎剣』が飛び交い、互いを打ち消す。ハルバードとバスタードが鎬を削り、火花を散らした。早さに特化した『戦斧術』のダブルであっても、彼女の剣技に追い付けない。

 徐々に態勢を崩されていく。武技だけでは勝てないか。後一歩踏み出されれば押し切られる、頭上の大剣を受ける術がなくなった。

 

 闇魔法……『触腕』

 

 四本の触手がダークナイトの四肢を拘束する。これで動きと魔法を封じた。渾身の力を込めて、俺は戦斧を横薙ぎにする。だけど僅かに疵が入っただけ、破壊するには程遠い。でも俺には『魔力視』と『透視』の魔眼がある。移動する魔核の位置を正確に把握できた。

 そこを狙って何度も甲冑を打ち据える。さすがにこれは応えるようだ。中世のフルアーマーの騎士たちはこうやって嬲り殺しにされた。女騎士も黒い涙を流して事切れた。もし彼女が口をきけるなら、クッコロと言っただろう。

 

 

 

『気配察知』に反応があった。おそらくは三人、よかった、まだ生きている、でも弱々しい。それにおどろしい魔力も漂ってきた。俺は奥へと乱入した。魔法陣が脈打つように点滅している。その中央にはボロボロにドレスの破れたリリエの寝姿、傍らに二人の女教師、案の定儀式が行われていた。

 虚ろな眼窩でリッチが睨む。

 

「ガーディアンを突破したのか。特別に悪神様の御姿を拝謁する栄誉をやろう。その後で直々にお前の命を喰らってやる」

 

 怪物や悪魔ではなく悪神を召喚しようとしている。この規模のダンジョンでそれをされたら日本は終わりかねない。

 

「リリカちゃんや先生たちは連れて帰る。召喚なんかは実現しない。大人しくあの世に還って」

「そこな娘は未通にして善意の塊。穢してこそ悪神の贄に相応しい。清らからな胎に神の魂を定着させる。我の生きていた時代では処女受胎と呼ばれた奇跡ぞ。そこな大人は幼きものの未来のために、永遠の処女を望んでいる。我が聖娼にしてやろう」

 

 リリエ達も俺に気づく。最後の力を振り絞って遺言を託した。

 

「想夜さん、助けに来てくれたのですね。ああ、嬉しい。でも気持ちだけで充分です。適うならわたしを殺して。化物なんかに穢されたくない。身も心も清いままでいたいから」

「キリ香ちゃんのお兄ちゃんね。私達は呪われている。思い残すのはクラスの子だけ。でもあなたがここへ来たと言う事は他の皆は無事なのね。守ってくれてありがとう。だから早く逃げて!」

「救援感謝します。でも私達は助かりません。あなただけでも生きて伝えて。このモンスターはレイド組んで滅ぼして下さい。仇を討てと言っているのではありません。こんな魔物が存在すれば全ての子供の災いとなります」

 

 ここに至って彼女達は、己の尊厳を、愛すべき教え子を心配している。あまりにも健気で美しい。そんな女性はリッチも俺も大好物だ。

 

「リリカも先生たちも、あなたから奪ってやる。僕たちはこれから笑い合って、美味しいものを食べて、生を満喫していくよ。ひょっとしたら初恋だって芽生えるかも。そうしたら沢山子供を産ませるよ。アンデッドには不可能な命の営み、羨ましいだろう」

 

 朝が来るような爽やかな言葉で、生きる歓びを謳いあげた。リリカや先生たちの顔にほんのり赤く生気が灯る。彼女たちにも言霊が届いた。だけどこんな詞はリッチにとっては猛毒だ。

 

「聞くに耐えぬ。子供とは罪深きもの。ダンジョンから溢れた死者は、いの一番に子供を殺す。気高きものは全て汚す。この世を死者の世界に染め上げてやる」

「この世は生者のもの、死者のものではない。あなたがこちらの領分を侵すなら、僕は根の国を犯してやる」

 

 ダンジョンは死者と生者のせめぎ合う場所、お互いに名乗りを上げた。

 

「我はマゴス、死を超越した魔術師、その魂の欠片を宿す者なり。儚き子供よ、我が威にひれ伏せ」

「我が号はサヨ、異界の魔王の名を受け継ぐ者、師にして妻から教えられている。ここにダンジョンの理を糺さん。死の王よ、降参して向こうの世界へ還れ」

「何故その名を名乗っている。それなら貴様もこちら側の人間ではないか」

 

 サヨという真名には、強い男になるようにとの師匠の願いが込められている。それにマゴスと言う魔術師を意味する名には心当たりがあった。魔術の祖にして、天使のように空を飛び、神の御子と同じように死から復活を遂げた男がいた。男尊女卑の当時において、彼は男女平等を唱えた。それ故の異端とされる。この話を知った時、大いに彼に同情したが、会ってみると女好きなだけだった。

 

 

 

 さあ、開戦だ。相手は元祖魔術師の魂を宿している。受けて立つなど、安易な考えはとうに捨てた。

『俊足』からの居合にも似たハルバードの薙ぎ払い。加速の魔法か、マゴスは素早く距離を取る。そして宙へと浮き上がる。これが有名な飛行魔法だろう。武術家からは距離を取るのが魔法使いの基本である。

 だが、しかし、俺は「ミスト」を球状にして奴を包む。もちろん超極上の聖水から出来ている。

 

 使っている聖水は特別製だ。満月の夜、礼拝堂でシスターを犯しながら、女神像に祈らせる。聖女の魂は恥辱と冒涜に引き裂かれる。それでも俺への純愛を貫こうと、懸命に祈りを捧げる。そんな彼女に獣じみた欲望の精子と魔力をたっぷり注いでやれば、はしたなくも女神の前で絶頂する。聖女の大罪、この瞬間の神聖魔法が女神の秘蹟を生み出した。この聖水には人の聖と性が凝縮されている。本来はこの世に存在してはいけないものだ。

 シスターミシアの聖水は邪悪な魔法も浄化する。前後左右、全ての空間を密閉した。煙になって逃げる事も叶うまい。表情を持たぬはずのアンデッドの顔が苦痛に歪む。詰みだ、このまま球を絞り込んですり潰してやる。俺は拳を握りしめた。

 

「転移、そしてディスペル、今のは少し焦ったぞ、まさかこんな切り札を持っているとはな」

 

 マゴスを名乗るアンデッドはあっさり脱出してしまう。ミストが破られ小雨となって床に降った。今度は俺が驚いた。『ディスペル』は攻撃魔法のみ有効じゃなかったのか。

 

「ディスペルは我の創造せし魔法ぞ。弟子達には全てを伝えたわけではないわ。魔法の使用を禁止する」

 

 一転して大ピンチになった。こうなったら武技で押し切ってやる。だけど奴の方が上手だった。

 

「バインド!」

 

 流れるように魔法を使う。『魔力視』の魔眼をもってしても躱しきれない。たちまちに金縛りにあってしまった。手も足もでない。

 

「お前は危険だ。今すぐ殺す。精気を吸われて干乾びるがいい」

 

 ドレイン、「死の接吻」だ。魔力も生命力も全て吸い尽くされ干物になって死んでしまう。アンデッドとのキスは嫌だ。それよりも男同士の口づけはもっと嫌だ。おぞましい死臭がする。褒めと皮だけの顔が目の前に迫りくる。

 俺は聖水を含んだ霧を吹きかけた。勝ち誇ったリッチの顔がのっぺらぼうに変わっていく。

 

「ミスト!」

「馬鹿な!」

 

 プロレス技に毒霧を吐き出す「ミスト」と言うものがある。セコンドから渡された給水ボトルの毒液を口に含んで、カラフルな霧を相手の顔に吹きかけるのだ。この技は練習も一人で出来るし怪我もしない。チビな俺は試行錯誤でマスターし、見事な霧を吐けるようになった。男の子の賞賛を浴びるも、女子からは呆れられる。懐かしい記憶だ。

 子供の頃の思い出が俺を救った。スペシャルな「聖水」を口に含んで吹きかけたのが見事に決まった。俺にとっては無害でもアンデットにとっては、浄化の「毒霧」となる。

 

「何だ、これは。魔法でもない、武技でもない。こんな下等な子供の稚戯に、我の研鑽は破れたのか。おのれ、ならば我のマナを捧げん」

 

 マゴスを名乗るリッチは消えた眼窩を搔きむしる。だけどその指先も霧消していく。敗北を悟った彼は、悪神を召喚する魔法陣に飛び込んで消滅した。

 

 毒を吐くのは動物ならば普通にする事。死に過ぎて、自然の摂理は忘れてしまったのか。

 

 

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