※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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正しきスキル1 盗撮

 イエーイ! 

 

 久々に教室に舞い戻った俺は、佐藤や田中らクラスメイトとハイタッチを重ねていた。女子にもハイタッチを強要し、仲良くなっておく。病院側からの要請で、大勢の見舞いは憚られたので、こいつらとは一週間以上ぶりだ。むろん、慣れないスマホで返信はしておいたが。入力を妹に手伝ってもらったのは内緒だ。家族以外でプライベートな面会は、父方の祖父母と朱美と詩央先輩だけになる。

 

「相変わらず、お気楽ね。でも生還しておめでとう」

 

 隣席の理生院も今日は少し優しい。それに周りのクラスメイトも、俺に聞きたい事があるらしい。担任の小梨利先生もそれを察して早めのホームルームで時間を取ってくれた。招待者の体験は貴重だ。俺達選抜者以外の、ここにいる全員が巻き込まれる可能性がある。低確率とはいえ、宝くじの高額賞金が当たる確率よりは高い。そして招待者の半分以上は生還できずに死ぬ。

 先生は少しでも皆の生存確率を上げようと、教育的な立場から俺の体験談を求めている。お世話になった先生だし、その辺りは押さえておこう。鍛錬と、防災グッツの携帯、実習を真剣に受ける事は、必須だ。だけどそれだけでは訓示みたいで面白くない。

 俺はまず、クラス全員に謝意を伝える。質問を受けるけど、現時点で公開を保留するよう要請されている内容も多く、答えられなかったらゴメンね、と釘を指しておく。公開予定のスキルについては、隠しても詮無き事だし、皆は俺が複数のスキルを習得した事も察している。無難なやつを選んで話す。

 

「一番活躍したスキルは魔力視の魔眼かな」

 

 俺は魔眼の部分を強調して、クラスメイトの目を見ながら話す。男子どもの目が特に輝いている。

 

「この魔眼で宝箱を調べると、中身がミミックかどうか分かるんだ。隠し部屋にモンスターが潜んでどうかも分かるよ。戦闘になると、魔力の大小で相手の強さを推し量れるし、攻撃魔法の発動も読み取れる。強そうなやつからは俊足で逃げ回っていたよ」

 

 逃げていただけかよ、とか若干の嫉妬と反感の籠ったヤジが寄せられるが、気にしてはいけない。それはちょっと前までの、俺の中の本心だから。家族や友人達が選抜者になった時、俺は心の底から祝福した。それは俺に潜む妬みや羨みを殺すためでもあった。求めるものが手に入ったのだ、相手の不快を和らげるようにしよう。

 

「それから給水と洗浄があってね、臭いを消してモンスターから隠れていた。知ってるか、ゴブリンは鼻が利いて、こんな顔をして僕の臭いを嗅いで来るんだ」

 

 俺から見てもキモかったゴブリンの仕草や表情を誇大して話す。女子どもが嫌だぁと言いながら喜んでいる。結局俺は、強敵からは逃げ隠れしながら、モンスターをやり過した事にする、半分は本当だが。それと、人は水なして三日生きられると言うが、激しい戦闘を続けるなら、一日も体調を保てないはずで、給水の存在は地味に役に立つ。おれはモンスターのいない場所で、合計で10時間は寝ていたと伝える。

 。

「俺達は夜も寝ないで心配してたのに、お前は寝てたのか」

「最低、御上君。反省しなさいよ」

 

 クラスメイトの暖かい揶揄を受けながら、次は戦闘について答える。スライムとゴブリンは、特殊個体を除いて、特殊警棒で楽勝だったが、オーク戦からは難しいであろう。

 

「スライムとかゴブリンは特別なのを除いて、金属バットでも何とかなった。オークから上位は、僕みたいな体格だと無理かな。自分は拾った大斧や戦斧で戦ったよ、ほら、ハルバードとかいう先の尖ったやつ」

 

 俺が使った戦斧はハルバードと言うらしい。先の尖ったやつがハルバードで、尖ってないのがバルディッシュと勝手に覚えた。2m越えのハルバードの長さを説明しようと、つま先立ちで腕を伸ばして、電子黒板の上を指さすと笑われた。小柄な俺がハルバードを振り回すとか滑稽に見えるらしい。

 

「御上よ、ハルバードは全身甲冑の騎士とかが使う槍に斧が付いたやつだろ、あんなでっかいやつ使えるのかよ」

 

 佐藤が冷やかしてくる。

 

「想夜、出来るでしょ、演武。ハルバードとかマイナーな武器、知らない人が多いんだからやって見せなさいよ」

 

 朱美が助け舟を出してきた。こいつはいつも俺を馬鹿にするくせに、他人が俺を馬鹿にするのを嫌うのだ。俺は制服のブレザーを脱いで、ネクタイを緩める。教室の後ろに移動し、戦斧を高々と掲げる仕草を見せた。理生院が値踏みするような目で俺を見ている。

 

 

 

 舞踏家や武の達人の演舞は、俺達の舞踊とは違い、洗練された足捌きや躍動する振り下ろし、躊躇なき目力をもって、一つの世界を創り出す。例えばそれは欲望まみれの酒池肉林あったり、悪鬼を調伏する阿修羅であったりする。だが彼らの終着点はここではない。更にその先、天であったり、神とも呼ばれる上位存在と己の指先を繋げようとして、生涯を捧げる。

 それに引き換え、今の俺は地べたをのたうつ小さなミミズだ。学校の教室という閉ざされた世界、窓からは空が見える。速さだけを考えたミノタウロス戦、策略と一撃に賭けた大蛇戦、慢心から危機を招いた蝦蟇がえる戦、万感を胸に戦斧術の型を演じる。貧弱な二の腕、踏み込みは力なく、眼差しはためらう。それでも俺は斧を振る、想像の斧がせめて空気を裂きますよう。

 届け、俺の演武! 

 

 万雷の拍手の中、俺は服装を整え席に戻った。女子の一部が息を呑んだり、頬を染めていたが理由は知らない。

 

 

 

 今日は体力測定がメインだ。俺は病院で散々やったので飽き飽きだが、わがままを言う分けにもいかない。待機時間というか、休憩時間、俺達は女子の不在をいい事に、例によって女子プロレスの鑑賞中だ。俺は1週間家族が付き切りだったので、入院中に見るのははばかられた。なお、女子は一つ間を開けた教室で着替え中と思う。

 チャンネルでは例によって、「新人ちゃん」がやられていた。悪の女幹部レスラーがオクトパスホールドを仕掛ける。腕を決められ胸を反らされると、破れたコスチュームから何かが露出してしまいそうだ。露出してしまうと、「新人ちゃん」の反則負けになってしまう。羞恥に悶えながら必死に耐える「新人ちゃん」。彼女は反則なんか絶対にしない、優しいお姉さんレスラーが救援に向かうも、悪役小物レスラーが立ちふさがる。観客も今日ばかりは小物レスラーに大声援だ。見かねたお姉さんレスラーが、タオルを投げてギブアップとなる。ベビーフェイス側に大ブーイングが浴びせられる。泣きじゃくる「新人ちゃん」をいたわるお姉さんレスラーが尊いと話題になっていた試合だ。

「新人ちゃんは清く正しい慎ましいから、あのまま決められても大丈夫だったと思う」

「お姉さんレスラーだったら、絶対に零れていたよな」

 俺達は冷静な意見を交わし合った。

 

「ところで、御上は朱美さんの胸とか見た事あるのかよ」

 

 悪友がふざけながら尋ねてくる。

 

「ない、ない。それ、やったら目潰し食らうぞ。僕はやられたことがある。僕の場合は、妹が治すから本気でやってもいいらしい」

 幼い時は一緒にお風呂に入った事はあるが、これはノーカンだ。

 

「恐ろしいな、噂は本当かよ。あんまり見ないようにしよう」

「ところでさ、胸と言えば委員長の方が大きくないか」

「委員長とかいたか、誰だっけ」

 

 委員長やクラスの役員は、俺が安否不明の間に早々と決められたらしい。当然俺は無役だ。委員長の垂水沢雫子さん、朱美を抑えてクラスで一番大きいとの噂のある、いい処のお嬢さんだそうだ。

 

「クラスで一番の巨乳の子が委員長、覚えやすくていいよね」

「冴えてるな、御上。これからクラスの委員長選びの参考にしようぜ」

 

 こういう時だけ仲良くなれる男子で盛り上がっていると、突然複数の女性の悲鳴が上がる。多分、着替え中の女子のクラスだ。覗きかな? とか思っていると、クラスの女子が数人まとめて駆け込んできた。

 

「御上君、来て、朱美さんが呼んでるわ。姿を隠せる不審者がいて、盗撮しているみたいなの」

 

 俺は同行しようとする友人達を制した。選抜者同士の争いに巻き込むわけにはいかない。

 

「戦闘になるかも。自衛を最優先で」

 

 

 

 女子更衣室に当てられた教室の廊下では、複数の女子が遠巻きにしていた。同行している女生徒を見て、他クラスの子も俺の目的を悟ったようだ。何人かが教室のドアを指差す。ドアを叩いて警告を発した。自衛官だった親父の職場見学で、こうしたシチュエーションは何度も見たことがある。

 

「三つ数えて入り口を開ける、1.2.3」

 

 室内の女子が動揺しないよう、予め伝えてからスキルを発動させて突入した。教壇の奥側に10人ほどの女子、半裸の女子が数人、シャツだけ脱いでいる子も数人居てうずくまっている。それを体育会系らしい女生徒が、取り囲むように護っていた。先頭には理生院がいる。反対側でも女生徒が何人かで出口を封鎖している。室内の机と椅子が一部吹き飛んで、戦闘の後を示していた。

 

「何があった?」

 

 隣に立つ朱美に手短に尋ねた。怪我はしていないようだ。

 

「気配を感じたから、一撃いれた。うちの男子の制服を着て、覆面をしているわ。撮影カメラみたいなものを持っていたけど、また見えなくなった」

 

 本当に学校の生徒だったら最悪だな。俺は初めから『魔力視』で不審者を視ていた。

 

「教室の一番後ろ、窓際に一人隠れている。他にはいない」

 

 女生徒達にも聞こえるよう、大声で伝える。朱美が向かおうとしたが、俺は止めた。『身体回復』ダブルの朱美なら、怪我をしても問題なく捕獲出来る。だけど俺は目の前で朱美が怪我する所を見たくなかったのだ。

 

「僕が行く。短剣か警棒を持っているみたいだ」

 

 朱美は俺の意図を察してくれたのか、はにかむ様にうなずいた。

 

 

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