※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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京都行

 ボクは妹と絶賛デート中だ。ゴスロリ衣装を着せられている。キリ香もボクに合わせている。甘ロリというのだろうか、白いタイツを見せるやつ、細長い脚にどうしても目が行く。以前女子更衣室に女装して侵入したのがバレて、母に強制送還されそうになった。それを妹が取りなしてくれた。その時の約束を果たしている。

 あれから神戸ダンジョンは規制されて、今もエリアによっては立ち入れない。ボクも職員の人達と何回かリッチの出現した現場へと潜った。協会管理職の母はもちろん、貴重な回復要員の妹もギルドへ詰めて中々時間が合わなかったのだ。デートの後は新幹線で、ボクはそのまま京都へ直行する。

 今は生田神社を参拝中だ。都会の喧騒を離れて、静寂な神域を散策するのは心洗われるものがある。ダンジョンに近いここは、安全祈願やお礼参りの探索者の姿もちらほらあった。義妹と連れ立ってゴスロリ衣装でお参りとか、顰蹙を買いそうだし、事実相当目立っている。だけど日本の神様は大らかだ。仲良きことは美しき哉で、気にしないだろう。それに生田神社は機織りの女神さまを奉っている。気合を入れた衣装を見せに来ましたと、言い訳も立つ。

 

「お兄ちゃんじゃなくて、お姉ちゃん、どうしてここにお参りしたいと言い出したの。いつもはお寺やお宮は退屈だって言っているのに」

「この前は本当に危なかった。無事に帰還できたことへのお礼だよ。それに嫌で堪らなかった初代のフリル服がボロボロになりながら、ボクの命を救ってくれた。その供養もしたい。稚日女尊様に感謝と謝罪を」

 

 殊勝なボクに感激したのか、キリ香が組んだ腕に躰を寄せる。小さな膨らみが押し当たった。境内で男女が腕を組んで歩くのはマナー違反だ。だけど女性同士なら女神様も許してくれる。それに先日、服破れのリリエで愉しんだ。キリ香の担任の先生たちの服をビリビリ破って遊んでやった。その御礼も兼ねている。

 

 社務所へ奉納の手続きを済ます。外観と年齢にそぐわぬ金額に不審がられるも、上級の免許と報賽と供養の旨を伝えれば、奇特ですねと感心された。この神社は神戸でも最大規模で、ダンジョンにも近い。探索者には寄進する人も多いらしい。

 生田神社と言えば、恋愛の神様としても有名だ。ボクと小梨利先生が縁を深めるに至った、林鷗内の戯曲「生田川」ゆかりの地でもある。ボクの独自解釈で、先生を手籠めにしたら通い妻になった。媛神様には感謝してもし切れない。キリ香は懸命にお祈りしている。ボクも鈴を鳴らした。

 

 これからも大勢の女性と縁を結べますように

 

 ボクの願いよ、天に届け。誰よりも真摯に祈りを捧げた。

 

 

 

 高天原の稚日女尊様は唖然とした。無礼千万、傍若無人、傲岸不遜の穢れた祈りが我が身に届いたのだ。

 

 祟りたい

 

 稚日女尊(わかひるめのみこと)、その愛らしい名が示す通り、彼女は爽やかで初々しい萌え神様である。また日の神ともされて、朗らかで心優しく、分け隔てなく笑みを絶やさぬ女神様だ。天照大御神の溺愛する妹でもあった。彼女には下記の逸話が残っている。

 神代の昔、聖衣を織っていた稚日女尊に、異母兄の不良男神が襲いかかる。馬並みの穢れたものが逆剝けている、驚いた彼女は梭(ひ)に女陰を貫かれて逝ってしまった。これが天岩戸隠れの原因となる。ちなみに梭(ひ)とは機織り道具の一つで紡錘形をしている。片手で握りしめるにちょうどよく、先端が尖り、中央は太く逞しい。英語名のシャトルは往復運動を意味する。

 

 この故事により彼女は世の強姦魔を蛇蝎の如く嫌うようになった。子猿に天罰を与えたいが、既に他の女神に祟られている。新たに呪いをかける事は、かの女神さまに干渉する事になり、神々のマナーに反する。

 

 早く刺されればいいのに

 

 

 

 この後は神戸異人館街を散策するのだ。男性としては何度か訪れた事があるが女の子としては初めてになる。ここはキリ香の希望による。今日のゴスロリ衣装もレトロな洋館に合わせてコーデした。

 北野坂を手繋ぎして歩く。行き交う人の注目の的だ。せっかくお洒落をしている。それに観光地では見物客側も演出が大事だ。空間を差配する。妹の腕を取って引き寄せた。いい雰囲気で静々進めば、ヴィクトリア朝の世界に迷い込むよう。映画の一幕、絵画の一景、妹はどこまでも可愛く、そしてボクは凛として、無垢な姉妹は肩を寄せた。

 英国館は何といってもイングリッシュガーデンだろう。スロープを活かした庭園なので、姉として妹が転ばないようリードしてあげる。真夏でも、ささやかだけど薔薇が咲いている。これが古風な洋館にはよく似合った。ボクたちは頬を寄せ合って自撮りする。背景にはセージやアザミ、普段は足元の花が彩を添える不思議な庭だ。

 次はベンの家、ここは英国貴族で冒険家だった人の日本での邸宅だった。部屋いっぱいの蝶の標本は美女、美少女のコレクションのよう。そして特筆すべきは世界を股にハントした、絶滅危惧種や猛獣のはく製。今日では絶対に許されない趣味である。それ故に心が躍った。もし彼の時代にダンジョンがあったなら、この人は高名な探索者になったかもしれない。

 退廃的で命をあそぶこの館はボクの趣味に合っていた。遠い時代の家主を忍ぶ。

 

「今のお姉ちゃんが一番好き。誰よりも綺麗で妖しくて、そして大切なものを奪ってくれる」

 

 キリ香は想い出をスマホに収めた。

 

 後一、二軒廻ろうとしたのだがギャラリーが後ろについて回るようになった。ボクたちの事をモデルか女優と勘違いしている節もある。撮影の許可を求められも、天使の美声でお断りする。そして優雅にお辞儀をすれば、男女構わず頬を染めた。これ以上は管理人に迷惑になる、異人館街を後にして、新神戸へと向かう。ちょっと遅いけれど、贅沢な昼食を楽しむ事にする。

 

 

 

「わっ、キリ香ちゃん発見!」

 

 女学生がわらわらと集まってきた。遭難したクラスメイト達だ。当然リリエも混じっている。そう言えば今日退院だと言っていた。妹の付属中学はセーラー服だけど、スカートではなくハーフパンツを採用している。もちろん、万一のスタンピードやワイルドバンドでも即座に戦闘に移れるようにだ。

 

「リリエちゃんの退院祝いにご飯食べに行くところなの。キリ香さんも一緒にどう?」

「キリ香ちゃんの待受け画面のお姉さん、初めまして。素敵すぎてドキドキしちゃいます。ご一緒にお食事いかがですか」

「お兄さん、京都に行ってしまったの。もう一度会いたかったな」

 

 キリ香は明らかに挙動不審になった。ボクの女装姿を待ち受けにして見せびらかしていたらしい。チラチラとこちらを見ている。そこにリリエが進み出る。白とネイビーを基調にした制服が凛として似合った。特に細長い美脚に履いたハーフパンツは、クォーターサイズの短さで、清楚な中に色気があった。

 

「想夜さんですよね、どうしてそんな恰好しているんです? その、とてもお似合いですけど」

 

 バレた。キリ香が真っ青になる。さらに追い打ちをかける子がいる。俺の臭いを嗅ぎ出した。胸に耳を近づけてくる。心音を聴いているのか。口元の八重歯が光った。

 

「本当だ、ダンジョンで嗅いだキリ香ちゃんのお兄ちゃんの匂いがする。胸の音も同じリズム。嘗めたらもっと分かるかも」

「この変態!」

 

 俺を舐めようとしたのを同級生に止められてしまう。ちょっと残念。さすがは全国から集められた特待生、俺の変装はあっさり見破られてしまった。この場で騒がれるのは困る。それにこの子達とちょっと話をして見たくなった。

 

「ボク達もこれから食事するとこ。リリエちゃんの退院祝いとみんなの生還祝に一緒にどう。でもこの人数で入れるお店はあるかな?」

 

 今時の女子中学生は電話もかけずにスマホで空席状況を確認するのだ。たちまちに全員が入れるお店が見つかった。ボクにはとても真似できない。

 

 

 

 食事中もボクの女装に質問が殺到した。

 

「ボクは護衛任務やおとり捜査も請け負っている。状況によっては男の娘になるよ。先日も女装して反社組織を壊滅させた。今日は妹に至らない処を見てもらっていたんだ」

「写真撮っていいですか? ツーショットお願いできますか?」

「お兄さんのテーブルマナー、凄く綺麗。女の子より女らしい」

「ごめんね、写真はNG。任務に差し触るから。さすがに恥ずかしいから今日の事は内緒にしてくれると嬉しいかな」

「もちろんですとも」

 

 みんな素直でいい子達だ。俺の女装に腹を立てて、拗らせて決闘に至るまでになった剣風姫とは大違いだった。

 

 

「こちらからも聞きたいんだけれど、リリエちゃんはどうしてボクだと気づいたの」

「想夜さんの魔力、身に染みています。絶望の最中、あなたの魔力に包まれて、わたしは勇気をもらえました。忘れるはずはありませんよ」

 

 リリエは頬を染めながら、しかし毅然として応えた。この回答は予想出来た。彼女は『錬金術』のスキルを持つため、魔力には過敏になっている。その上極限状況で、ボクと躰と魔力を繋げたのだ。

 

「ボクだってあの日の事は忘れない。命を賭けて闘った。何よりも大切なものを護り通せた。誇りに思う。あそこでの経験は生涯の宝物だよ」

 

 二人だけに分かる符牒を紛れ込ませて会話を楽しむ。潤んだ眼で俺を見ても、クラスメイトには恩人への感謝故と捉えてしまう。あんまりいい雰囲気になってしまうと妹に怪しまれるので、ボクは露骨に話題を変えた。

 

「そこの君、どうしてボクが男だと分かったの。なんだかすごいスキルを持っていそうなんだけど」

「キリ香ちゃんのお兄ちゃん、当ててみて。正解だったら、あたしのボスにしてあげる」

「もう、ロウちゃんたら! あなたのようなガサツな人は誰も飼ってくれません」

 

 この子はスキルに引きずられて、臭覚、聴覚、味覚がバッシブでも強化されている。それに肉体は戦闘的、鍛え上げたというより天性のものだ。たった一つの強力なスキルの賜物だろう。

 

「ひょっとして獣化スキルを持っているの。すごいね、ボクこのスキルの持ち主、初めて見たよ。犬か狼系でしょ。機会があったら今度耳を触らせて」

「お兄ちゃん、セクハラ発言禁止だから」

「へへへ、キリ香ちゃんのお兄ちゃんがボス……」

 

 どうやら正解だったようだ。ロウと呼ばれた少女も嬉しそうにしている。ちなみに彼女は真尋ちゃんというらしい。

 

『獣化』は半獣に変身する激レアスキルだ。変身する獣を基に身体能力が大幅に底上げされる。猫ならば無音で歩き、狭い場所にも侵入できる。虎ならば近接戦最強。眼の前の少女は狼系だ、狩りに特化しているのであろう。『獣化』一つのスキルで他のスキル5,6個分の仕事をする。このスキルは肉体強化系の最高峰と言われる。これに『金剛』とか『剛腕』とか『俊敏』とか加われば、手が付けられなくなる。

 更に日常生活でもバッシブで補正がかかるという優れものだ。ただ副作用として、『獣化』スキルの持ち主は元の動物の性質に引きずられ、どうしても直情的になってしまう。喧嘩っ早かったり、社会性に欠けるのだ。故にかつてライカンスロープと呼ばれ差別されていた。

 今日ではそれを補うために指導員、通称「飼い主」が補佐に着く。クラスメイトが諫めていたけど、あれはボクにヒントをくれていたのか。

 

 精悍な彼女を見ていると、どうしても異人館街で観た白オオカミの剝製を思い出してしまう。輝ける純白のショートヘア、捕食者の琥珀の瞳のウルフアイ、ハンターなら一度は狩りたい美しき獲物。それに狼の雌は生涯たった一匹の雄を愛するという。ボクはベンの家の貴族がどうして狩猟にのめり込んだか分かった気がした。強ければ強い程、美しければ美しい程、獲物を征服したくなる。

 

 

 

 俺がこれから京都に行くという頃で、話題はどうしても平安ダンジョンに移った。ロウちゃんこと、真尋ちゃんが宣う。

 

「あたしあそこで狩られそうになった。妖怪と間違われたんだ。ひどいよね」

 

 クラスメイトと遊びに行って『獣化』した時、通りがかった探索者が化け犬と見間違えて攻撃してきたという。もちろん相手は人命救助の善意からだが。通常は横入りの有無を確認するの常識だが、あまりにも接近しすぎてその暇がなかったらしい。

 

「相手の人は善意からだし、きちんとした謝罪もあったので恨んでないよ。嫌な思いをしたのは職員の人達、責任の所在をうやむやにしようとするの」

「そうよ、そうよ。閉鎖的と聞いていたけど、身贔屓が過ぎる」

「入場料もよそ者だからって、地元の人の十倍取られた。ひどくない」

 

 

 

 同行したクラスメイトからの評価も芳しくない。俺がギルドで聞いた評判とおおむね一致する。他にも、きもいとか臭いとか、メスガキの言いそうなセリフが次々と飛び出した。ここのモンスターは癖が強すぎて、同じ成果を上げるなら癖のない神戸の方がはるかに楽だ。リリエが心配してくれる。

 

 

「想夜さん、平安ダンジョンに行かれるんですね。意地悪とかされませんよね」

「大丈夫だよ。招待されているこの身だし。ソロで浸透するから、してくる相手もいないと思う。それにボクはアウエーでやじられるほうがやる気が出る」

 

 意地悪されたらやり返す。それがダンジョンでなら三倍返しだ。

 

 

 

 全員で御上想夜を見送った後、灰楕理々恵は涙ぐんでいるクラスメイトに目をやった。そして南西の方角を見やって祈る。

 

 稚日女尊(わかひるめのみこと)様、わたしをキリ香ちゃんのお姉さんにしてください

 

 

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