※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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平安ダンジョン2 古戦場

 次に向かったのが、古戦場と言われるエリアだ。ここでは名も知れぬ強者から剣豪の亡霊までが出没する。強さで言うとどれもがダークナイト級らしい。上級の聖水を掛けると倒せる。しかし相手は一体で戦闘特化の上級探索者と互角なのだ。大人しくしているはずもない。ただぶちまければいいという温い考えでは、たちまちに刀の錆びとなってしまう。ギルドからはここで聖水の運用を試行錯誤するよう言われている。

 ここは平安ダンジョンどころか、国内のダンジョンでも屈指の危険地帯だった。エリアボスが武蔵や小次郎なのではなのではなく、一体一体が十兵衛や半蔵なのだ。

 そしてここでの遭難が多いのはもう一つ理由があった。亡霊が招くのだ。武道家なら、一度は宮本武蔵との対決を夢見るであろう。ここはそれを叶えてくれる聖地でもある。ダンジョンに誘われた強者が、毎年虫のように死んでいた。

 俺もその一人だった。古戦場の探索は俺の方から強く希望した。そもそも剣の試合で剣風姫に勝てるなど これっぽちも思っていない。彼女は幼少より英才教育を施され、唯一選ばれた存在だ。技の冴えは、にわかな俺ではお呼びもつかない。だからこそ、自分から死地に飛び込む必要があった。幾多の死線を潜り抜けるのではなく、打ち倒してこそ剣風姫の横に立つ資格があろうというもの。

 神瞑流次期総帥の鍛えた躰をねじ伏せたい、その積み上げられてきた修練を踏み躙るのは、どんなに気持ちいい事か。血が滾る。心がざわつく。体のギアがトップに入った。曇った頭が冴え渡る。

 

 

 

 古戦場に踏み入れていきなりの洗礼を受ける。裂空一閃、槍が来たる。青天霹靂、地が爆ぜた。よくよく見れば短槍ほどの箭(せん)だった。こちらの魔法が遥に届かぬロングレンジからの弓射、しかも岩の裂け目を縫うような僅かな射線を通してくる。こんな弓取りは歴史の中に唯一人。

 鎮西八郎、源為朝。源氏の棟梁の息子にして二メートルをゆうに超える大男。五人張りの強弓を独りで引いた古今無双の弓の名手だ。暴虐無人な性格が災いして13歳で九州に追放されるが、徒党を組んで瞬く間に九州を征服した。今風ならば、中学生の不良グループが九州全土を締めてしまった。鎮西総追捕使(ちんぜいそうついぶし)を自称し、朝廷から兵を差し向けられるも悉く撃破、遂には黙認されるという破天荒な武士であった。

 

 当たりを引いた、思わず頬がつり上がる。為朝は日本最強の一角に必ず名を挙げられるが、少なくても弓兵としては日本一であろう。百発百中は当然として、盾を貫き、鎧武者を貫通して後ろの武者まで射止める強弓、それをどんな射手も及ばぬ距離から一方的に撃ってくるのだ。

 チリチリと死の臭いがする。本能に従って隠れていた岩陰を飛び出した。その瞬間、巨岩が爆散する。『風衣』でガードするも、俺の体は風船のようによく弾んだ。思い出した、為朝の剛弓は時に一射で大木をなぎ倒し、船をも沈める。遮蔽物でやり過ごそうなど、状況が悪化するだけだった。

 弓兵との決闘では、俺自身が嚆矢となろう。馬鹿正直に真正面から最短距離で突撃した。亡霊との距離は約百間、世界記録を上回る俺の健脚で10秒、『肉体強化』を最大にして、『俊足』を飛ばす。

 一射目、頸をかしげて矢をかわす。頬から血煙が上がった。当たった訳ではない、風圧だけで切れたのだ。大きく避けると足が止まって、次の一射が躱せない。二射目、俺は更に踏み込んだ。心が怯めば死に呑み込まれる。俺の体が左右にぶれた。箭(せん)が抜ける。矢羽根だけが俺にふれた。

 三射目が来る。二本同時に番えてきた。現実には不可能とされる射法だ。一矢を戦斧で弾き飛ばせば、もう一矢が脇を掠めた。だけどこの程度ではまだ為朝には及ばない。彼は四本の矢を射かけられた際、一本ずつ両手で掴んだ。そして大袖で一本払い、最後の一矢を口で咥えて受け止めたという。

 

 矢の間合いを駆け抜けた。通常ならここで弓使いの敗北となる。しかしながら為朝は尋常ではない。三尺五寸の大野太刀を大上段に振り上げた。彼の時代では通常の1,5倍の長刀だった。増して弓を引く腕は異常に長い。2メートルのハルバードを手にする俺の間合いとほとんど変わらない。

 為朝の野太刀も俺の戦斧も一振りで、人を数人斬り飛ばす威力がある。剣戟は爆風を呼び、石礫が飛翔した。刃筋の軌跡は糸となりて縺れ合う。互いに互いの命を奪う、そこだけ息がぴったり合う。もはや余人を寄せ付けない。

 

 源為朝、生まれながらに天に最強を約束された漢。だからこそ挑む価値があるのだ。彼を倒して武の片鱗に触れたい。かの時代、斧はあってもハルバードのような武器はなかったはず、モンスター戦ではあまり使わない鍵爪で、大野太刀を巻きにかかった。しかし為朝も四歳の時に牛車をひっくり返したという膂力の持ち主だ。その怪力で俺の戦斧を逆に弾き飛ばそうとする。

 技と力は全くの互角、双方の獲物が宙高く頭上に舞った。落ちてくるのはほぼ同時、先に己の武器を手にしたものが勝敗を決める。ならば大男で腕が異常に発達している為朝が圧倒的に有利。俺は本能のままに『風衣』で跳んで戦斧を取った。重力も載せて袈裟に斬る。亡霊が呵々と笑って消え去った

 スキルと武器に救われた。次に戦えば、組打ちに持ち込まれ俺の勝ちはなかっただろう。

 

 この後オーブを得た。

 

『見切り』……特に武術において、剣や拳を紙一重で躱しやすくなる。レアスキル。

 

 俺のように速度重視の探索者にとっては有難いスキルとなる。女神様も応援してくれている。生田神社にお参りした甲斐があった。空前絶後の為朝の矢をかわした事で、高き御蔵へとほんの少し近づいたのだろうか。

 武者修行に出てから習得したスキルは『結界』 『体術』 と合わせて、これで三つ目となる。前二つはダブルとなった。『結界』はほぼユニークスキルのようなもの、『体術』は平凡なスキルだが、ダブルになるのは珍しい。凶状持ちの俺が彼女達と和解するには力を示す必要がある。ダンジョンが後押ししてくれると信じよう。

 

 

 

 一息つく暇もなく、苦無による奇襲を受けた。忍の者が俺達の戦いを督戦していたのだ。こちらも『石槍』で対抗する。岩から岩へと跳び移る猿飛の術。俺も『登攀』と『風衣』を駆使してこれを追った。問題なくついて行ける。「みよう本」ように、もしステータスオープンができるなら、俺の職業は忍者と表示されたに違いない。

 迫り来る火遁の術を『鎌鼬』で払う。炎が爆ぜて相手の姿を見失った。俺の『気配察知』より、忍者の隠形の方が上手だった。こちらは『結界』で対抗する。術比べは伯仲した。影分身か、おぼろ影か、分身して仕掛けてくる。どちらかが幻影だろう。

 俺は右側の分身を聖水入りの「ミスト」で包んだ。分身ならすり抜ける、本物ならばダメージがいるはず。 果して右側は霧をすり抜けた。ならば左が本物だ。俺は戦斧を合わせた。だけど空振りに終わる。こちらの方が幻だったのだ。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、名もなき忍者は俺を討つために、自ら聖水の霧に突っ込んでいた。

 

 闇魔法……『触腕』

 

 忍び縄の代りだ。苦無の届く寸前で拘束した。でも止めを差す必要はなかった。聖水の効果で焼け爛れ、煙となって消えていく。恐るべき勝利への執念、己の命を燃やし尽くして、相手の命を焼き尽くすのを無上の喜びとする修羅達の楽園だ。もちろん俺も楽しかったとも。

 

 丸二日かけて幾人もの武芸者と立ち会った。聖水を持っているからといって、油断すると死ぬ。動きの遅い鎧武者でも試してみた。しかし楯鎧に弾かれてしまう。風穴を開けて中に聖水を注がない仕留める事が出来なかった。どんなに効能があっても、聖水は補助にしかならない。これまで通り戦闘狂の探索者に頼るしかないと思う。

 

 

 

 古戦場の最奥間にまで辿り着いた俺は、老齢の裃姿の侍と相対している。相手はだらりと刀を降ろして構えていない。だけど全く隙が無い。俺はこの構えを知っていた。無形の位、爺さんが観ていた時代劇で善玉側がやっていた。だけど俺は眼帯の人しか区別できなかったのだ。

 こちらは戦斧を大上段に構える。時代劇の見様見真似だ。亡霊の口元が緩む。猿真似を笑われた。そして満足そうでもあった。己の流派が時を経て現在まで伝承されていたのだ。剣士としてこれ程誇らしい事はないだろう。雷刀の構え、侍も最上段に構える。一手御指南頂けるみたいだ。

 神速の打ち合いは爆音を呼ぶ。火花散り、辺りは昼間のように明るくなった。俺の戦斧の破壊力が圧倒的に上のはず。いなすのでもなく、逸らすのでもなく、老いた亡霊は瀟洒な日本刀で打ち負けていない。力任せに見えて、合わせる刃の位置や角度を絶妙に調整しているのであろう。俺も楽しくなって無心となって斧を振る。極限の集中は遂に音を消し去った。

 どれ程の時間が経っただろうか。永劫に続くと思われた勝負も終わりを迎える事となる。侍の日本刀が打ち合いに耐えきらず、遂に折れた。流れのままに袈裟に斬る。しかしながら相手はどこ吹く風、半身になって歩を進めた。ハルバードが虚空を斬った。避けられた、違う、俺の戦斧が避けたのだ。そんな錯覚に戸惑う中、老剣士に振り下ろした腕を取られた。

 

 柳生新陰流奥義 無刀取り

 

 これこそ柳生流の神髄だった。無意味に殺さず、相手を生かす活人剣は将軍家の御流儀となる。

 当然ながら柳生流には格闘術もある。侍は両手を腰に溜めて構えた。でも殺気がない。目の前の老人の輪郭がぼやける。本人が満足したのか、顕現する時間に制限があったのかは分からない。亡霊は泡沫の夢のように消えていった。だけど俺の心にはスキルより貴重な経験が、『記憶』としてしっかりと刻まれた。

 

 もっと戦いたかった、俺は後ろ髪を引かれながら次へ向かった。ここからは先は禁測地と呼ばれる立ち入り規制地域になる。平安ダンジョンのラスボスの棲みかだ。京都のギルドが調査を希望している場所でもあり、尋さんと梢ちゃんが俺に確認するまでもなくお断りした、また綾女さんが立場を悪くしてまで行くなと止めたいわくつきの地でもあった。

 でも禁忌を破ってワクワクするのは人の性、何事もなく戻って来れたら、それはさぞかし痛快だ。人の歴史もこの試行錯誤で蝸牛のように歩んできたのだ。

 

 

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