※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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高評価を頂きました。
またR-18ページが未明にリニューアルされるらしいので、それと合わせて記念更新。

リアルに忙殺され進捗がはかばかしくありませんが、エピソードの続き(残り3話を予定)は仕上がり次第載せていきます。


母子蹂躙1 奇門遁甲

 女神との逢瀬は夢か現か、瀬炉利津姫(せろりつひめ)と契りを交わした寝屋はいつの間にか消滅していた。寂寞たる洞窟迷路が幾つも張り巡らされているのみ。穢れどころか他のモンスターの影一つない。

 ギルドには瀬炉利津姫に睡眠姦を仕掛けたなどは報告できない。京都の人は信心深い人が多いから、出入り禁止にされてしまう。聖水で禍津日神(まがつひのかみ)が消滅したと結果だけを伝えよう。

 途中まで引き返してから、俺は別ルートで帰路に就いた。迂遠となるが、古戦場を回り込むのが正規ルートとなる。もっとも天狗や妖狐、化け狸といった妖術を操る化生が出没するので、こちらも高難易度であるが。

 

 地図を片手に妖怪変化を蹴散らすのだ。深層なのでモンスターはさすがに強いが、それでも上級探索者なら何とかなる。早く帰って女神様に情けをかけた悦びを、愛する女性と分かち合いたい。手始めは着物美人の綾女さんだ。身持ちの固い彼女だけれど、操を奪った悪い俺に惚れてしまった。ならば今度は裸にひん剥く。欲望の捌け口にして、俺の心と躰を満たしてもらう。大人の淑女を娼婦のように仕込むのも、年下の醍醐味だと思う。

 

 何故に迷った? 

 

 ダンジョンでは無事に帰還するまでが冒険である。さっそく他の女を想う俺に、瀬炉利津姫がヤキモチを焼いたのかもしれない。

 浮かれていたのがいけなかったのか、さっきから同じ場所を堂々巡りしている。俺の『記憶』は岩肌の微妙な違いまで把握している。地図の通りに進んでいるはずなのに、明かにおかしい。渡された地図は偽物か? でもそれはこちらも用心していた。この案件が持ち上がる以前に、徳島ギルトに提供された平安ダンジョンの地図でも、俺は確認しているのだ。

 

 そう言えば綾女さんは「かな手本忠臣蔵」に誘ってくれた。これは俺を仇と狙う人達がいるとの警告だろう。そんな人たちにとって、俺は吉良上野介なのだ。彼女の立場で面と向かって伝える事は恩ある主家への裏切りとなる。それで観劇に寄せて警告してくれたのだと思っていた。だけど何故に九段目? 

 大石親子が吉良邸の見取り図を入手して、討ち入りを決行するが、屋敷は改修されていて思わぬ苦戦をしてしまう。今の俺も、道に迷って苦境に立たされている。地図の偽造は重罪だ。それなら間違っているのは俺だろう。そもそも周回するだけで、瀬炉利津姫の処へ引き返せないのもおかしい。綾女さんはこの状況を想定していたのか。

 

 実は一か所だけ進む道がある。と言うか、どこをどう巡っても、結局はここに辿り着いてしまう。ここから先も禁足地、祟り神の七人ミサキが出没する。七人ミサキは固有種ともされるが、自分はレイスの最上位種、ファントムの一種だと思っている。何しろ強烈なデバフをまき散らしてくるのだ。体力、生命力をガリガリ削られ、やがて死に至る。逃れる術はない。禍津日神(まがつひのかみ)と並ぶ平安ダンジョンの最狂とされる。

 純粋な強さだけなら、穢れの無限湧きする禍津日神の方が上だろう。ただし、こちらは討滅に失敗しても、上級探索者が死ぬだけで事足りる。これに反して七人ミサキの方は強力な探索者が返討ちに会うと、亡霊と入れ替わってしまう。魑魅魍魎が戦闘で経験値を得るようなものだ。今の七人ミサキも何体か代替わりして一層凶悪になっている。

 ここには絶対行くなと言われていた。身を案じられての事ではない。俺が討たれると七人ミサキは更に強力になって手が付けられなくなる。このエリアは他のモンスターは確認されておらず、魍魎が溢れるも気配もない。放置していても当面は大丈夫、要はリターンよりリスクの方が圧倒的に高いのだ。

 

 半日を過ぎても、相変わらず迷子のままである。事態は好転しそうにない。聖水があれば突破できたかもしれないが、全て使い切ってしまった。事態は最悪に向かっている。だからこそ俺は嗤った。

 何者かが恣意的に誘導している。よほど恨みがあるのだろう。ならばこそ正面から正々堂打ち破る。さぞかし食いでがあるはずだ。気分スッキリ、最高の意趣返しになる。俺は二番目の禁足地へ突入した。

 

 

 

 奇門遁甲

 

 かつて戦場においてその勝敗を決したとされる秘術であった。敵を欺き、味方に有意な方位を定める事で、諸葛亮孔明は名軍師の名を欲しいままにしたのだ。正史においてはフィクションとされる。だがこれは怪力乱神を語らず、後世に悪用されるのを恐れた作者陳寿の深謀遠慮であった。それでも東洋の術師の間では秘伝として伝承されてきた。迷い家や蜃といった、方位を乱したり幻を吐き出す妖怪対策には有効だったのだ。

 魑魅魍魎がこの世から消え去るにつれ、奇門遁甲は忘れられようとしていた。だけど、ダンジョンが出現して再び脚光を浴びる事になる。迷宮タイプの洞窟とは相性が抜群だったのだ。モンスターから隠れたり、結界を張ったり、あるいは人を誘い込んだりと、奇門遁甲はダンジョンで新たな活躍の場を得た。

 想夜を迷わせているのは、この奇門遁甲によるものである。何者かが彼を嵌めようとしていた。

 

 

「御上想夜が死門を開きました。七人ミサキと接触するわよ。御札を何枚も経由しての反応だから、四半刻程ずれがあるけど。陽葵さん、準備して」

「でも本当にここに辿り着けるのかしら。禍津日神を突破して七人ミサキを討伐するなんて普通の人では無理なんだけど。どうして神様はあんな男の存在をお許しになるのかしら」

 

 ここは深層の一角、想夜が首尾よく七人ミサキを討滅できれば、やがてここに辿り着く。そこには彼好みの美女、美少女が待ち構えていた。顔見知りであるが、彼を歓迎しての事ではない。御上想夜にダンジョンで討たれた上級探索者星堂敦彦の妻子である。

 

「御上想夜を侮っては駄目。卑怯とはいえ、敦彦さんを倒したのよ。素の実力は私たちより上です。精進を重ねていればいずれ夫と並び立ったでしょうに。厄神の寵児をダンジョンでのさばらせる訳にはいきません。何より許せないのが夫を裏切り、名を辱めた事です」

 

 女盛りの人妻が符を読みながら言い聞かせる。娘を二人産んだとはとても思えぬ、振るいつきたい女性美の極致。それでいて優雅で清楚、物腰に育ちの良さが伺えた。星堂葵、旧姓連極葵は在りし日の夫との会話を思い出していた。

 

「徳島で良き縁があったよ。気持ちのいい程真っすぐな少年と出会った」

「まあ、あなたがそこまで言うなんて。私や娘達にも紹介してくれるのでしょ」

 

 夫は嬉しそうだった。娘達には過保護な彼が、家に招待しようと惚れこむ程の男の子。品定めをしよう、伝手を頼って調べてみれば、とんでもない優良物件。それがあんな事になるなんて。

 港湾ダンジョン籠城事件、首謀者の春凪沙織は15歳、私の長女と同級だ。そんな彼女に『魅了』ではなく本気で一目惚れして、敦彦さんは人類を裏切った。御上想夜は卑劣にも夫を逆族に貶めて、自らを正当化した。馬鹿な事があるものか。あんなに私を愛してくれた人は他にいないし、もう現れない。

 何よりも悔しいのが、良人が娘と同じ年の女の子に欲情するロリコンと嘲笑られている事だ。敦彦さんの命を奪い、名を穢した御上想夜を許すまじ。

 

「分っているわ、お母さん。油断なんてしないよ。お父さんの無念を晴らす。それにお姉さんのためにも本懐を遂げてみせる」

 

 母親譲りの長い髪の美少女が憤る。星堂陽葵(ひなた)、大人びているけど、まだ幼さの残る愛らしい13歳だ。想夜の妹と同級になる。朝焼けのような髪は魔力が付与され、ダンジョンでは眩しかった。サイドのリボンを紐解くなら一時的にブーストがかかるだろう。彼女はかつて俺と殺し合ったランカーの星堂篤彦氏の愛娘となる。

 妹の陽葵は自分が姉より先に選ばれたのを引き目にしていた。姉は敬愛する父のようになりたくて、誰よりも日々の努力を欠かさなかったのに。もちろん彼女も選抜者になりたくなかった訳ではない。陽葵の希望はまず姉が、最後に自分が選ばれて、家族から祝福される事だった。

 父の遺体の一部と対面した日、想夜は姉にだけは優しくしていた。仇から憐れまれるなんて、これ程の屈辱はない。姉は誰よりも彼を憎むが、その手は決して届かない。寝食を忘れて鍛錬に励んでいる。ダンジョンの力を切望し祈り続ける。その心は崩壊寸前だった。

 御上想夜がお姉さんに呪いをかけたんだ。父を殺しただけでは飽き足らず、わたしから姉まで奪おうとしている。

 

 怨敵許すまじ

 

 星堂陽葵は姉思いの良い子なのだ。

 

 

 

 前を向いて逝く、こちらから七人ミサキとの邂逅を求めた。彼らはダンジョンやスタンピードで未練を残して亡くなった英霊たちの亡霊だ。生者を羨み、憑り殺そうとする。果して俺は7体のファントムに取り囲まれた。全員が生前の探索服姿だ。亡霊の中に親父と星堂さんが居なかった事に安堵した。二人とも成仏していたのだ。だけどほんの少し残念に思う。亡霊でもいいから、もう一度話してみたかった。

 

 初手、『石槍』と『鎌鼬』をかます。何体かにダメージを与えたが、倒すまでには至らない。物理攻撃は無効なのか。七人ミサキは集団で魔法戦を仕掛けてきた。念仏のような呪文を各々が唱える。四方八方、紅蓮の業火が俺を包んで、その輪を縮める。逃げ場はない。『衝撃波』で恨みの炎を吹き飛ばした。

 土魔法の一種なのか、地面が泥沼に変わって足を取られた。俺の持ち味のスピードを殺す気だ。それに体が重くなってきた。ファントムと対峙するだけで、生命力と魔力を吸われる。俺が全力を出し切れるのも後数分だろう。勝利を確信したのか、亡霊なのに愉悦が見えられる。命を弄んで喜ぶとか、彼らはそこまで堕ちてしまったのか。

 

 正者の命は死の淵でこそ真価を問われる。俺は瀬炉利津姫(せろりつひめ)の神の愛を知った。禍津日神(まがつひのかみ)に堕ちてまで人の救済を願ったのだ。その清き心に我が身を捨てても報いたいと願ったもの。

 生と死の狭間においてこそ、俺の命は輝くのだろう。『給水』と『洗浄』を発動させる。姫神の御心を慮れば、気負うことなく戦斧の刃先に「浄化」が乗った。万物を滅却する奥義「村雨」、今ここに成る。狂人神瞑無三氏が開眼した水の太刀奥義とは結果は同じでも、その過程は別物。しかし全ての道は頂上へと集結する。強い想い、一途な願いを押し通した者だけが真理に辿り着く事ができる。

 

 亡霊よ、その未練を断ち切ってやる

 

 俺は慈悲の心で戦斧を振るう。刃の軌跡が光り輝く。「浄化」の刃が穢れた魂を清めていった。亡霊たちが生前の矜持を取り戻す。誇り高く天に昇った。

 無明の闇が晴れるように、地図の通りの道が示さる。ひょっとしたら俺が迷子になったのも、7人ミサキの幻術のせいかもしれない。正直助かった。体力も魔力も限界だったのだ。この先は平易な道が続くはず。もう迷う事もないだろう。心ウキウキ帰路に就いた。

 

 

 

 でもこれこそが奇門遁甲の罠、真の死地は窮地を脱したその先にある。

 

「御上想夜が死門を突破したわ。やはり化け物ね。でも禍津日神と七人ミサキとの連戦で、気力体力も消耗しているはず。それに何より油断しているわ。今を逃せば、私達に彼を討つ機会はありません。陽葵さん、母の命よりあの男を殺す事を優先して」

「お母さん、命に代えてもお父さんの仇を討つわ。だからお願い、援護して」

 

 母娘の絆は断ち切れぬほど強いのだ。だから互いに命を預ける。そして何より夫への、父への想いが深かった。

 星堂葵が一帯に起爆符を仕掛ける。巧妙に隠されたそれはダンジョンの魔力と同化して、想夜の『魔力視』の魔眼でも見つける事は困難だろう。そして娘の陽葵に結界を張ってその姿を隠した。これが彼女の切り札だ。結界を張れるのが自分だけとは思わない事ね、たとえ自分が討ち果たされても、良人の無念は娘が晴らす。

 

 飛んで火にいる夏の虫の、御上想夜がやってくる。

 

 

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