※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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一人暮らし

 キリ香ちゃんをあまり責めないでね。この家を離れたくないのよ」

「母さんこそキリ香を頼むよ。監視ごっこなら一か月位我慢してみる、菱村さんにお願いするのは本人が落ち着いてからでいい」

 

 妹がナーバスになっているのは明らかだ。モデル校への進学の話が来た時も最初はけんもほろろだった。殉職した親父を入れて家族で過ごした時間が一番幸せだったと卒業の文集に書いたそうで、地元へのこだわりは強いものがあった。

 ところが半年ほど前、災害現場で本人の治療風景がネットにさらされるという事件が起きた。えづきながら魔法を使う女の子とその効果の程が尊いと話題になったのだが、もちろんこれは違法だ。配信者だけでなく拡散した者も含めて処罰されたが、これで終わりにはならなかった。人身売買や海外の誘拐組織が動きだしたのを公安が掴んだ。俺に交際の仲介を頼んだ連中も、一部は知らないうちに利用されていたと聞く。

 幼い内から選抜者になると、活動期間の長さから大成しやすい。11歳でトリプルなら将来的に国家を代表する回復魔法の使い手になるのも充分可能だ。諸外国には選抜者の出現率が日本の半分程度の国も見受けられる。逆に日本のように当初の世界共通の8パーセントから増えて最高水準に達している国もある。出現率が下がるのは、不正な行いを繰り返してダンジョンに嫌われたからだと言われるが、定かではない。そんな国の権力者は自らの非を認めることなく、他国から強制的に招待するのを国是と定めているらしい。子供の選抜者は将来性と洗脳のしやすさから特に狙われる。

 キリ香の事は未遂で終わったが、クラスメイトを巻き込む可能性は流石に堪えたようだ。現に俺の知人も似たような事件に遭遇している。そんなわけで、セキュリティのしっかりしたモデル校に進路を急遽変更することになり、母も研究施設の主任として赴任して妹と同居する事になっている。そして本来は今の住居を引き払って、俺は郊外の祖父母の家から通学するはずだった。ところがここを引き払う事をキリ香は頑なに抵抗した。モデル校に行かないと珍しくごねまくった。日程が迫っていたこともあり、母が折れる形で、結果的に俺の一人暮らしが決定したわけだ。やはり妹には感謝すべきであろう。

 

 少し間を置いて俺は母に向けて姿勢を正す。一礼してから丁寧な言葉を選んで語りだした。

 

「母さん、今まで育ててくれてありがとう。おかげさまで不自由もせず進学校に入学できたよ。母さんと妹は僕の誇りです。祖父母とも話し合ったけど、母さんには新しい幸せを掴んでほしい。母さんの器量ならそういう人は沢山いると思うよ」

 

 母は30台半ばだが、美容系スキルの関係で見た目は20歳中盤のグラマラスな美人さんだ。健康や耐病のスキルも持っているようで、まだまだ人生を楽しめるだろう。それに戦闘スキルや支援スキルも各種優秀なものを揃えていて、ダンジョン内では指揮官として名を馳せたと聞く。母の選んだ良い人なら、キリ香も大事にされるはず。俺の事だっておろそかにはしないだろうが、それに甘えるのは違うと思うのだ。

 因みに母の最初の旦那さんは、キリ香が母のお腹の中にいるときにダンジョン災害に巻き込まれて亡くなった。しばらくは意識があり、生まれてくる子の事を気にしていたと聞く。母は俺の親父とキリ香が四歳の時に再婚した。父の連れ子だった俺は六歳だった。だけど三年前にまた死別している。母は男運がないと思う。

 

「気を使わせてごめんなさいね。でも、いつまでもあなたのお母さんでいたいわ。もう結婚するのは充分。それにこんな話をキリ香の前でしたら駄目、あの子は耀蔵さんが大好きだったから荒れるわよ」

 

 俺たち兄妹は血の繋がりがなくともそれぞれの新しい親に懐いた。分け隔てなく育てられ、両親とも高収入だった事もあり、まあ恵まれた方だと思う。俺だって母に幸せになってほしいと思うが、再再婚が嬉しいわけでもない。ちなみに俺は簡易検査では男性には珍しい高魔力持ちだった。鍛錬も怠らず学業も優秀だったので、選抜者になれば大成しそうだと冷やかされるが、現実は家族三人が優秀な選抜者で俺だけが一般人。俺が女顔なのも合わせて仲間内のジョークのネタに使われている。

 

「これは私からの入学祝いよ。開けてみなさい」

 

 今度は母が厳かな顔をして、バットケースを渡してくる、500㏄の水ペットボトル、救急セット、携行食と金属バット等が入っていた。金属バットは小柄な俺から見ても少々短い。これは防災用キットか? 携帯用で1本用のバットケース型を取ってある。

 

「薬品は傷薬と痛み止めと、化膿止め、携行食も含めて最小限。それは特殊警棒で一番金属バットに近いものです。ダンジョン性の素材が使ってあり、本来は選抜者の使うもので、金属バットより威力も耐久性も格段に上よ。持ち運びと使いやすさで選んであります」

 

 ダンジョン災害にはいくつかのタイプがあり、一番多いのがダンジョンから滲み出た魔素が地上で魔物に変化するやつ。ワイルドハントと呼ばれる。ゴブリンでも群れられると一般人なら袋叩きにされて死ぬ。その際は技術の必要な刀や特殊警棒より金属バットを振り回した方が、素人なら生存率が高いとされる。俺のバッティングセンター通いも護身対策を兼ねての事だ。

 また国内ダンジョンは年間数個ずつ増えているとされるが、過疎地の未登録ダンジョンから稀に魔物が溢れて都市部に向かい、大被害を与えることがある。ただ大きなスタンピードは稀で、管理を放置されたミニダンジョンが溢れる小スタンピードの方が件数は多い。

 後はダンジョンの試練。一二歳から四〇歳までの1パーセントがこの被害に会い、生還率は半分を切る。突然疑似ダンジョンに引き込まれて出口を目指すわけだが、深い階層に落ちた場合は助かる確率は五パーセント未満と推測されている。ただし脱出できた者は強力なスキルを与えられていて、「招待者」とも呼ばれ別格扱いされる事もある。母の贈り物は試練までを念頭に置いての事だろう。

 

「少しぐらい羽目を外しても構いません。他の物は忘れても、これは絶対に持ち歩いて。逃げる事を優先に、必要なら躊躇しない。最後は守る力をふるいなさい」

 

 一般人が多対一で魔物に遭遇したらまず逃げろと言われている。護身武器の携行者も多い、国民はそういう訓練も義務づけられているので、数を揃え圧倒するのが基本だ。夫二人を魔物がらみで失った母の言葉は重い。俺は無言でバットもどきを数回素振りしてから、丁寧にケースに仕舞った。持ち運んでみると意外に軽量だった。これが俺の命の重さか。

 

 友人達とお別れをしてきたキリ香は涙目で口数も少なかった。程なくして送迎の車が到着する旨、菱村さんから連絡がある。母と妹の荷物持ちを希望してエントランスまで降りた。

 

「朱美姉や詩央先輩を連れ込んだら絶対だめだよ」

「朱美さんや詩央さんなら大丈夫よ。想夜さんは敵いっこないし。それより男の子がたくさん遊びに来る方が嫌かな、リビングが汚れる。キリ香ちゃんのお部屋の引き出しなんかすぐに開けられるわよ」

 

 激しく警戒するキリ香の頭を撫でながら、男子を家に入れないと誓ってやった。確かに知り合いは片付けもしない野郎ばかりだ。呼ばなくても困ることはないだろう。それから朱美と一つ上の先輩は小学時代からの腐れ縁で、三人で選抜者になる事を語り合ったが、二人は早々に選ばれ、ここでも俺だけが置いて行かれた。先輩は知力に優れた後方支援タイプ、朱美はガチのパワーファイターで暴力女だ。二人のコンビはこの地域のダンジョン関係者の間では有名になってきている。また選抜者が地表に出ると魔力や身体能力はダウンするが、それでも一般人とは隔絶している。襲おうとしても、あしらわれて相手にもされないだろう。

 菱村さんの運転する車に同乗して母達は神戸へ向かうので、家族とはここでお別れになる。最後に母から祖父母の家には極力顔を出すよう念を押された。

 自宅から三〇分程の距離にある祖父母の家は、実母を病で亡くした俺がしばらく厄介になっていた父の実家だ。農業を営んでいる。父も家業を継ぐ予定だったそうだが、高校卒業を前に選抜者となった。

しかしながら、父はダンジョン探索者としては不遇だった。会得したスキルは夜目、遠目、射撃、弓術、対人戦闘等。常に明るく入り組んだ洞窟迷路型がダンジョンの基本設計なので、夜目、遠目はほぼ不要。重火器が使えないどころか、持ち込めないダンジョン内では射撃は炎弾、石弾が撃てるのなら有用だったが、父はそちら方面の才能はなかった。弓術、対人戦闘が有効なのはゴブリンまで。だけど選抜者ならただ殴るだけで事足りる。弓術、対人戦闘がダンジョン内で最も活躍するのは、人狩りにおいてだ。その為弓矢の持ち込みは厳しい審査と登録が義務づけられている。父はパーティーに入れてもらえないどころか、近づくだけで警戒されたという。

 結局自衛官に転職したのだが、こちらでは父のスキルは大活躍した。重火器が使い放題の野外では夜目、遠目、射撃のコンボは強烈で、現場指揮官として多くのダンジョン災害を鎮圧し、また国防でも大いに役に立った。弓術は隠密任務にも重宝された。父は国内を転戦したため、普通の家庭より一緒に過ごす時間は短かったが、俺も妹も父が大好きで尊敬していた。学校の行事で父が参加しなくても寂しいとは思わなかった。むしろ自分を後回しにしても、人の為に尽くす父が誇りだった。

 三年前、僻地の未登録ダンジョンから大規模なスタンピードが発生し、都市部へ向かうという事件が発生した。父の所属する部隊は時間を稼ぐため、覚悟の殉職となった。遺体からは俺宛のメモが見つかった。

 

「想夜へ 父母を頼む 好きに生きよ」

 

 親孝行を出来なかった父の心残りか、家族を犠牲にして世に尽くした悔いか、俺に伸び伸びと育ってほしかったのか、父は本心では人の為より自分の為に生きたかったのでは、とか時々思うのだ。

 エントランスの郵便受けはここに越してきた時のままである。

 

 御上 耀蔵

    薫子

    想夜

    キリ香

 

 今日から俺は一人で暮らす。

 

 




作者は掲示板回や配信回が上手く書けません。
よって作中では、ダンジョン内では電波が通じず、電子機器も作動しない設定となっております。
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