※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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運命操作

『運命操作』……選択した魔石、アイテム類の拾得確率1%アップ、最大12時間、パーティーメンバーにも適応。クールタイムあり

 

 今日の実習で見つけた宝箱から出て来たスキル、『運命操作』はレア中のレア、有名な、また恐ろしく有用でまた危険なスキルだ。公開している人はいない。持っていると噂されている人は何人かいる。それでも国内で5人未満だろう。一見して、指定した魔石やアイテムの出現確率を1%プラスするだけの、運命をほんの少し操作する、しょぼいスキルにも思える。

 雑魚ゴブリンが魔石を落とす確率は20%とされる。これを『運命操作』で21%にしても知れている。一方、ここ徳島ダンジョンの中層奥でカエル系モンスターから出る傷薬のドロップ確率は1%だ。通常探索者は、二泊三日から三泊四日でこれを狩る。これを『運命操作』で確率を上げると2%になる。俺と朱美と詩央が他人と同じことをするだけで2倍稼げる。と言うか、遠征コストが変わらないなら利益率はもっと上だ。

更に深層になると、ドロップ確率0,1%の激レアアイテムも存在する。熟練者が10日程度の遠征を数回繰り返してやっと獲得できるものだ。後方支援や交代要員でそれなりの人員も必要となる。これが1,1%になる。俺達なら全員のスキルを合わせれば、一週間もかからずほぼ一つ入手できる。もちろん、今は深層で活動する実力も経験も足りないのだが。

 

 そして、『運命操作』はスキルオーブの拾得率も、僅かに上げるのではと推測されている。人によって拾得率に差があり、検証データが余りにも少ないので、協会では公認されていない。過去には『運命操作』を公開していた人もいたが、パーティーへの勧誘や加入希望に煩わされ、結果として恨みを買ったり、本人や家族への脅迫、誘拐と不幸な結末を迎えた。その為、スキルの効果と有用性は知られていても、公にする選抜者はいなくなってしまった。

 秘密にしても『運命操作』を使いすぎれば、不自然な確率変動から露顕してしまう。ダンジョン産の魔石やアイテムは、アイテムボックスで持ち出せないのだ。こうやって破滅した人も多い。『運命操作』はまさに人の運命を狂わすスキルなのだ。

 非公開スキルや保留スキルとして、協会に届けるのも危ないスキルである。ただ、俺が不自然な場所でスキルを習得した目撃者は大勢いる。しかも戦斧を使うのは、学生では俺だけだ。いずれ協会からも問い合わせが来るだろう。俺は慣れないリモートでの家族会議を義母と妹に申請した。

 

 

 

 西日本最大の神戸ダンジョンを有する、日本ダンジョン協会関西支部は、西日本地区のダンジョン支部のお目付け役も兼ねている。例えば徳島ダンジョンは四国支部の旗下となり、それを統括するのが西日本支部になる。そのため、職員の人数や施設、予算は他の支部とはけた違いだ。建設されたばかりの社宅も、盗撮、盗聴等セキュリティも万全である、部屋数も多いが、これは緊急時の職員や選抜者の宿泊に当てるためだ。

 

「徳島ダンジョンの出口付近で宝箱? 珍しいわね」

「どうせまたエッチなスキルを貰って、隠して欲しいってママに頼るんでしょ」

 

 キリ香は兄の想夜と話せて大喜びだ。しかし薫子は違う。四国支部の勤務が長かった薫子は、宝箱の発見の状況が如何に異常かよく分かっていた。何より愛する彼は、家族に迷惑をかけるのを嫌う。それをわざわざ相談してくるのだ。厄介なスキルを得たに違いない。彼女はモニター越しに問いかける。彼から返ってきた返事はまさかのスキルで、動揺が隠せない。

 

「運命操作? どうしましょう、大変なことになったわ」

 

 このスキルのをよく理解していない傍らの娘に説明してやる。

 

「お兄ちゃん、凄い。今度みんなでダンジョンに行こうよ、わたし三人でダンジョンに行くのが夢なんだ。スキルや珍しいアイテムを一緒に探したい」

 

 困惑する兄をしり目に、キリ香は狂喜乱舞だ。薫子は醜い現実を教えてやる。

 

「捨ててきて、お兄ちゃんが変なスキルを貰って来た。女の人がいっぱい寄って来て誘惑してくるなんて、やっぱりエッチなスキルだった。そんな不潔なスキルはいらないんだから」

 

 一転して、萎れてしまったキリ香を慰めながら、薫子は尋ねた。

 

「想夜さんはどうしたいのかしら。協会職員の私が言う事じゃないけど、非公開や保留扱いしても、あなたが『運命操作』を会得した事は、協会のトップまで報告が上がるわよ」

 

 薫子はキリ香の手前こう言ったが、二人きりなら立場も捨てて絶対に報告しないでと懇願した事だろう。状況がまだ飲みこめていないキリ香にも詳しく説明する。

 

「協会は国の出先機関よ、国家の運営にかかわる有益な、また危険なスキルは本人の意向に関わらず省のトップまで報告されるわ、最高機密としてね。そうなったら想夜さんは隔離されるかも、国家の個人戦力として。自由はなくなるけど、地位も金銭も欲望も全部満たされる。代償として弱みになる家族や友人とは会えなくなるわ」

「またお兄ちゃんがいなくなる、今度はずっといなくなる。嫌だよぅ、お兄ちゃん、いかないで」

 

 パニックに成りかけたキリ香を、想夜が秘密にするから大丈夫と慰めている。家族と一緒という強い言葉を聞いて、キリ香は落ち着いてきた。薫子も安心するが、懸念を伝える。

 

「でも状況からあなたがスキルを会得した事は協会も把握しているはずよ。こちらはどうするの」

 

 想夜が示した対案は、確実性もなく二人には不満の残る回答だった。しかし、これ以上の策も出てこなかった。

 

「私の方も、時間稼ぎはしてみるわ。上手くいくといいわね」

 

 

 

 会議が終わった後、キリ香が兄を呼び止める。その顔は、普段兄に見せる事のない、回復魔法で命を預かる時の真摯な顔だ。

 

「さっきは勝手言ってごめんなさい。お兄ちゃんが大変なのに、こんなお願いをするのは間違ってる。だけどどうしても助けて欲しいお友達がいるの」

 

 薫子も内容は把握しているのだろう、遮る事はない。想夜は頷きながら、顛末が記されたメールを受け取った。

 

 

 

 俺が薫子とキリ香に示した解決策は、よりスキルの出やすい中層まで行き、『運命操作』で新たにスキルを会得して、それを代替えとして届けるというものだ。協会にはギリギリまで届け出を引き延ばす。二人には言わなかったが、不首尾の場合は、『話術』スキルを生贄として差し出すつもりでいた。

 俺には中層までの免許が出ているが、条件がついている。中層に入る最初の12時間は、中級以上の冒険者の指導を受けなければならない。すでに今度の土日で二人の中級冒険者、朱美と詩央と向かう旨の計画書を協会にも学校にも提出してある。これに薫子が割り込むのはあまりにも不自然だ。本来は今回の泊りがけの遠征は、俺の肩慣らしやスキル確認が目的だった。

 予定を変更して、俺は二人に『運命操作』を打ち明けて、新たなスキル会得に全力を尽くす。彼女達にも相談したいことがあると、リモート会議をお願いしている。

 

 

「想夜、聞いたわよ、凄い場所で宝箱を見つけたのね、もう噂になってるわよ。さすがわたしの想夜ね」

「想夜さんがリモート会議を言ってくるなんて怪しい。やっかいなスキルを拾ったんじゃと心配している。それとわたしたちの想夜さん」

 

 いつもの二人である。俺は『運命操作』と俺の置かれている状況を説明して、助力を請う。

 

「とにかく新しいスキルが欲しい。それを代替えとして協会に届ける。詩央、計画の見直しをしてくれ。朱美は極力僕に魔物を回してくれないか。スキルを得る機会を少しでも増やしたい」

 

 俺は『運命操作』の発動の条件を説明した。

 

 継続して発動出来るのは最大12時間、

 適応されるパーティーメンバーは俺を入れて最大3人、

 一度ストップすると、クールタイムに入る。その時間は発動時間の合計の2倍。今回は三人で最大限使用するつもりなので、クールタイムは72時間。

 

 早朝6時に出発時間を変更する。極力中層で狩る時間を取るためであり、俺に声をかけてきそうな事務方の職員と会わないためでもある。リスクを取ってもモンスターの出現率が高いコースをとる、荷物は最小限とし疲労を押さえる、等打ち合わせた。

 

「想夜さんはわたしが守る、何も心配しなくていい」

「泥棒猫には渡さない、必ずスキルを取らせてあげるわ」

 

 手は尽くした。後は運を天に任せるだけだ。二人に礼を言うと、安らかに眠れた。

 

 

 

 部活動の時間だが、俺だけが教室に居残り、補習の課題をこなしている。もう飽きたと思っていると担任の小梨利先生が入ってきた。これは分かる。課題の進捗状況を見に来てくれたのだろう。委員長の垂水沢雫子も一緒だ。これも分かる。あの事件以来、俺に色々良くしてくれる。俺の欠席中の授業内容を要約したノートを貸してくれたりする。内緒と言われたので、補講を手伝うのは宜しくないのだろう。委員長は何かと大変だ。清楚な先生と、健康的なお色気の委員長、やる気が湧いてきた。ところが何故か慎ましい理生院もいる。こいつは課題の助力を請うても、自分でやりなさいと言って、隣席なのに協力してくれない。おまけの理生院がどや顔で言う。

 

「おめでとう、御上君。あなた副委員長に選ばれたから」

 

 おかしな事を言い出した。そんな事は聞いてない、経緯を尋ねてみると、

 

「それはわたしが推薦したからよ」

 

 理生院のせいだったのか、俺は恨めし気に彼女を見つめた。

 

「昨日の放課後のホームルームで新しい副委員長を決めたの。典子さんの推薦なんだけど、わたしも推薦するつもりだった。満場一致で決まったの。御上君は実習でいなかったから、押し付ける形になるんだけれど」

 

 委員長が申し訳なさそうだ。困った顔が庇護欲をそそるので受けてやりたいのだが。自分を副委員長に推すのは分かる。正副どちらかの委員長を選抜者からという慣習に従えば、消去法で俺になる。ただ、俺は公私で問題を抱えている。これからもダンジョンに潜る機会が増えれば、授業に出ずに補習で補うケースが増えるであろう。クラスの世話に時間を割かれたくない。

 小梨利先生も頼んでくる。年上美人のお願いを断るのはつらい。

 

「私からもお願い出来ないかしら。この前は御上君がいなかったら大事になっていたかも。どちらかの委員長が選抜者というのは、非常時に備えてなのね。他の女生徒達からも、御上君の副委員長を推す声が上がっていたの。男子生徒も一緒よ。皆は御上君に押しつけようとはしてないわ。必ず協力するはずよ。週末の遠征届は受け取っているから、来週からでいいの」

「お受けなさいな。皆が言わないから、わたしが言ってあげる。あなたが試練を受けた時、クラスのみんなは心配して授業も疎かだった、あの二人を除いてね。先生はほんとに大変だったのよ、補講やカリキュラムの調整が上手くいかずに、他の先生に頭を下げ続けだったわ。あなたの為にプライベートの時間まで犠牲にして頑張られた。だけど先生はあなたに文句を言ったのかしら。委員長もあなたの復帰に備えて、連絡事項や一連の流れをずっと記録していたわ、普通に考えると無駄なのにね。もちろん、御上君が悪いんじゃないのは分かっている。でもね、あなたは疎かにする人じゃないでしょう」

 

 理生院の言っている事は、正しい。正しいからこそすごく悔しい。

 

「先生、僕は自分が恥ずかしい。夢をかなえる為に努力するのと、自分勝手を取り違えていました。先生は学校が終わってからも、休日も病院に来てたけど、嫌な顔一つしなかった。僕は先生の期待に応える人間であり続けたい。償う機会を下さい。委員長もありがとう。僕がここで笑っていられるのも委員長の援助のおかげだ、僕の知らない所で皆の努力があったのを思い知ったよ」

 

 俺を心配したのは家族や幼馴染だけでない。学校や協会や警察関係者の努力もあって、今ここにいられる。感謝を忘れてはいけない。小梨利先生も、委員長も職務や立場だけで、自分に良くしたわけではない。見返りを求めぬ無償の厚意、思いやり慈しむ気高き心のミストレスだからだ。俺はそんな人達を足蹴にする所だった。蛍雪の努力を理解されたのが嬉しいのか、二人はもらい泣きを始めた。

 

「御上君、駄目な先生でごめんなさい、生徒の前で泣くなんて教師失格だわ」

「全部、全部報われたよ。御上君がいてくれて本当に良かった。授業の遅れはフォローするから」

 

 流れる涙に俺は見惚れた。魅入られたように、二人の顔を凝視する。

 

「先生、委員長、生意気かもしれないけど、僕の為に泣いてくれる人がいて嬉しいかな。二人の尊い涙に相応しい人間になると約束する」

 

 二人は堰を切ったように感涙に咽ぶ。清らかな涙をこの指で拭ってやりたい衝動に駆られた。

 

「理生院にも感謝だ、今度一緒にダンジョンに行こうか」

「嫌よ、前に遇った戦斧術のスキル保持者は、辺りかまわず斧を振り回して迷惑な人だったわ」

 

 やはり『戦斧術』は人に迷惑をかけるスキルなのか。

 

「わたしをダンジョンデートに誘わなければ、満点だったのにね」

 

 理生院が涼やかに笑う。小梨利先生と委員長も泣き笑いだ。夕方間近の午後の教室、カーテンの影から西日が漏れて、感傷的な青春を照らす。

 こうして4人の運命が交差した。

 

 

 




女教師を泣かせます。
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