俺はマンションの6階で一人暮らしだが、今は同棟の10階のリビングでお呼ばれされて食事中だ。同じマンションで同じ景色を見ても、高い所からだと、食事が美味しい。俺が馬鹿だからだろうか。ここは勝手知った篠塚家の部屋でもある。篠塚家とは母親同士の仲が良く、相互に子供を預け合っていた。俺も散々お世話になった。
母親の方は外科の女医さんで、篠塚えりか、子供の頃はえりか母さんとか、えりか先生と呼んでいた。娘の方は篠塚瀬理菜、妹の大親友で子供の頃は俺をお兄ちゃんと呼んでいたが、妹が拗ねて今は想夜さんと呼ばれている。俺の方はずっと瀬理菜ちゃんだ。一時期家庭教師の真似事で、勉強を教えていたこともある。この母娘、ダークブラウンの長髪で顔つきもスリムな体型も似ている。母親は若作りというか、実際に若く見え無邪気な一面がある。娘はやや大人びて上品で淑やかだ。はた目には年の離れた美人姉妹に見える。時々お揃いの装いで外出しているので尚更だ。
妹のお願いというのが、瀬理菜ちゃんの事だ。なんでも不可解なストーカー被害に遇っているという。篠塚家の為なら、妹や義母に言われるまでもなく協力したのだが。二人から俺が選抜者となった祝辞が述べられる。
「想夜さん、おめでとう。ずっと応援してました。夢が叶ってわたしも嬉しいです」
「想夜君、水臭いわよ。キリ香ちゃんの時みたいにお祝いしたかったのに」
「まだ公表はしてませんから、気にしないでください。それより瀬理菜ちゃんの方が大事だよ。言いにくいかもしれないけど、詳しく聞かせてくれないかな」
キリ香から概要は送ってきたが改めて尋ねてみる。と言っても本人は恥ずかしがっているので、母親のえりか先生が主に教えてくれた。要約するとこうである。
ストーカーは複数、しかも最初は瀬理菜ちゃんの名前さえ知らないでつきまとってくる。
全員が瀬理菜ちゃんから援助交際の了解を貰ったと言っている。金銭も渡したと主張している。
瀬理菜ちゃんに危害を加える様子はないが、教員や警察の指導には、聞く耳持たない。
行き過ぎたストーカーは警察に聴収されているが、逢瀬の日時も場所も明らかに出鱈目。連絡が取れずにいたら、瀬理菜ちゃんと再会したと主張。
当然本人は全く身に覚えもない。瀬理菜ちゃんは男性が怖いとか、学校に行きたくないと言っている。勉強にも身が入らないらしい、無理もないと思うが。たしかにストーカーが意味不明すぎる。一目惚れならまだ分かる。会った事がないのに、瀬理菜ちゃんと会ったと主張、その記憶はあやふやで整合性がない。しかも全員瀬理菜ちゃんの名前すら知らなかった。
「えりか先生、同僚のお医者さんから何か聞いています? それと警察から洗脳系の選抜者の話とか」
「神経症や集団ヒステリーは否定されたわ。洗脳系の人達は大丈夫だって」
洗脳系のスキルは非常に厳しく管理される。警察や公安に大半が就職する。関係者はその力の使い方について軽々しく語る事はない。今回も該当者はいないと言う事だろう。
「瀬理菜ちゃん、僕に出来るのは二つだけ、ストーカーをぶっとばす事、魔法が使われるのを見破る事だ。明日一緒に中学へ行こうか」
彼女の通う中学校は俺の出身校でもある。俺も一月前までは通っていた。勝手知った何とかだ。俺が中学校経由で高校に行っても、そこまで時間は取られない。少し早目に出れば大丈夫だろう。すでに学校公認の護衛用の腕章も手配してもらっている。選抜者の身分を示す腕章でもあるので、ストーカーの牽制にはなるかもしれない。
「本当、一緒に行ってくれるの? ならわたしも登校する」
瀬理菜ちゃんが急に華やぐ。今までは沈んだ雰囲気で、会話も母親が主体だった。よほど追い詰められていたのか。俺は場を取り持つ。
「明日は夕方も空いてるから、時間が合えば迎えに行くよ。それと、キリ香もそっちの中学へ行く予定だったから、教科書類が届いてね、一学期分の要約をまとめておいた分がある。良かったら教えてあげるよ」
えりか先生も頷いているので、OKだ。瀬理菜ちゃんも元気が戻ってくる。
「想夜さんの家庭教師は分かりやすいの、また習いたい」
俺は二人に試練を受けた経緯や、簡単なスキルについて話した。自慢話ではなく安心させるためだ。すでに中級上位の能力があることを打ち明ける。中級上位からは探索者の上澄みに入る。キリ香によると、俺が「招待者」になった事は中学でも噂になっているが、本人はまだ知らなかったらしい。よほど余裕がないのだろう。学校でも腫れ物扱いされているようだ。
「想夜君、あなたまさか死にかけたんじゃ、大変なことになっていたのね」
「ごめんなさい、わたし自分の事しか考えられなかった。想夜さんが生きてて良かった」
「そう思うだけでも瀬理菜ちゃんは立派だ。確かに僕は死にそうになった。だけどそれで得たスキルと力が大切な人の役に立てば満足だよ」
どうしてもお祝したいという二人に対して、俺は問題が片付いてからと返した。そちらの方がお互いに楽しめると思うのだ。
今回のトラブルでは何らかのスキルがかかわって、ストーカーに不可解な行動を取らせていると考えるのが自然だろう。ただ、僅かながら瀬理菜ちゃんやえりか先生が原因になっている可能性もある。二人の内どちらかが、恨みや呪いを受けているケースだ。瀬理菜ちゃんはその容姿で男性を惹きつけるが、多分相手にしない、えりか先生は外科医という立場上矢面に立たされる事もあるはずだ。その恨みや呪いが瀬理菜ちゃんに向いている。
稀ではあるが呪術系のスキルやアイテムも存在する。俺は二人に事情を話し、『魔力視』の魔眼で確認したいと申し出た。スキルを使えない普通の人でも魔力は内在している。最近、俺には個々にその色とパターンは違って見えるようになった。俺は二人に上着を脱いでもらってから、全力の『魔力視』で時間をかけて食い入るように見つめた。
さあ、診察の時間だ。『魔力視』で視た結果は白、二人とも、魂から滲み出るような綺麗な魔力だけだった。だが俺はもう一つの魔眼でも診断していた。秘密のスキル『透視』の魔眼で、二人の秘部を暴いてやる。
「想夜君に見られてゾクゾクする。躰の奥まで覗かれたよう」
「恥ずかしいです……」
えりか先生は呼吸が荒く自分の躰を抱きしめた。瀬理菜ちゃんはジト目で俺を睨んでいる。なんか、泣きそうだ。この瀬理菜ちゃんのジト目は迫力がある。人を吸い込む、深淵を覗く底なしの瞳だ。
「ごめん、力が入り過ぎたかも。二人とも綺麗な魔力で見惚れてしまった。問題は何もなかったよ。二人の魔力は覚えたから、呪いとか付けられても、今後はすぐに分かると思う。瀬理菜ちゃんは特に不思議な魔力の色調だから、選抜者になったらいいスキルを貰えるかもしれない」
「そしたら、想夜さんがダンジョンに連れて行って下さいね」
俺は、内心ヒヤリとしていた。同じ魔眼でも活躍の機会の多い『魔力視』に対して、『透視』は不遇だ。国民の10%が選抜者だ。学内は無論、野外でも迂闊に使う事が出来ない。練習すら気を遣うのだ。そのため『透視』はダンジョン外では、洋服1枚分しか見透かす事が出来ない。二人に上着を脱いでもらったのはそのためだ。一方で丸裸を見るよりこちらの方が奥ゆかしく、楽しめそうな気もする。透視の醍醐味は単に裸を見るのではなく、肌を隠す服装から躰の秘密を見破ったり、下着の色やデザインから肉体と精神の渇望を暴く事にあるかもしれない。
篠塚えりか、えりか先生だが、セーターを脱いでもらって、ルームパンツと長めのTシャツ姿になってもらう。女医さんをこっそり診察している、それだけで興奮する。『透視』スキルを使うと、ほっそりした二の腕と、内股が確認できる。そして腰も感単に手を回せそうに細い。とても瀬理菜ちゃんを生んだとは思えない。バストもヒップも平均的と思っていたが、よく見るとやや小さめだ。年齢の割に垂れていないから大きく見える。ヨガを嗜むとかでその効果であろう。ゆったり目の服装だからこそ、透かしてみると細身の躰が美しく見える。白衣姿のえりか先生からは、患者さんはこの姿をとても想像出来ない。下着は淡い水色のブラとショーツで、少しレースも入っているみたいだ。爽やかな大人の色気が感じられ、しっかり目に焼き付けておく。
診察の結果はアウト。メスで下着を切り裂かねばならない。裸にひん剥いて、しかるべき処置が必要と判断した。
篠塚瀬理菜ちゃんだが、中学校の制服を着ている。セーラー服とブレザーを組み合わせた女子の制服は可愛らしいと評判だ。俺はこの中学に3年通ったのだ、目新しさは感じない。それ故に通の目利きが出来る。瀬理菜ちゃんは手足が長い。将来は八頭身美人になるであろう。躰のラインを隠す制服でも、『透視』では母親譲りの細い腰が描く、成長しかけの曲線を堪能する事が出来た。隠すが故に、それを暴く喜びは格別だ。下着は白のハーフトップとショーツのお子様スタイルだが、こちらは似合っていない。しかも胸元のリボンが邪魔だ。これは彼女の責任ではなく、それを推奨というか、強制している学校の責任であろう。大人っぽい彼女は女子高生のつける下着が似合う。診察の結果はグレー。極上の素材が校則のせいで台無しだ。今後に期待、これからも診察を続ける必要がある。
「みよう本」には医療分野を舞台とした意欲作もある。回復魔法かポーションで、主人公が問題を解決していく。えりか先生のように外科手術を行う写実的な内容は人気が出なかったらしい。共通しているのは、主人公が特技以外は駄目人間で、ナメクジのように弱い。だがそこは助けられたヒロイン達がフォローしていく。最終的には王様も頭を下げに来るのである。主人公が女性の場合すぐに聖女様扱いされて、ヒロインの技術力が評価されているのか、神の代理人として評価か、視点がぼやけるお話が多く、俺はあまり好きではない。
つまり、一芸突破すれば、他が駄目でもなんでも許されると教えている。