※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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ダンジョンデート1 エスコート

 晴れやかな気分で目覚めた。昨日は俺も頑張ったと思う。護衛任務を完璧にこなし、ストーカー被害をなくした。もちろん警察にも協力した。篠塚母娘と交流を深めた。特に母親とは互いの悩みを打ち明けて、信頼の証とした。このハードスケジュールも『身体強化』ダブルの俺には問題がない。えりかのおかげで心をリフレッシュして探索に望める。いいスキルが拾えそうだ。

 一般的に平日はプロの探索者、土日は学生や経験値稼ぎの勤労者と、ダンジョンは棲み分けされている。プロはサポート企業や研究機関が公休では、充分な活動が出来ないし、家庭サービスの問題もある。学生も居住地の側にダンジョンがなければ、必然的に入るのは休日になる。鑑定や知力が売りの内勤者も、経験値稼ぎに土日に入る人が多い。

 俺のギルドカード、中級者用免許はまだ仮免で、中級以上の探索者の指導の元、中層で活動する事、往復も合わせて延べ12時間以上が本免許の条件だ。朱美と詩央、すでに中級免許を会得している二人に前から同行をお願いしていた。三人一緒でダンジョンに潜る、子供の頃の誓いが実現する。

『運命操作』というイレギュラーがあっても、俺は、いや三人は今日を待ち望んでいた。俺の行動予定は二人に丸投げしている。朱美と詩央は俺をどうエスコートしてくれるのだろうか。

 

 早朝の待合室は人気もまばらだ。俺は余裕をもって15分前に到着したと思ったが、もう朱美と詩央が待っていた。今回は俺の為に時間を割いてくれるのだ。なんかばつが悪い。二人はオーダーメイドの正装をしている。女性探索者の制服みたいなものがレギンスだ。ダンジョン内では機動性を最優先するため、運動に支障の出ないレギンスが好まれる。上を各人の嗜好や職種でアレンジする。

 朱美は超ミニのワンピース、腰をベルトで絞っている。近接戦専門のアタッカーなので、ポケット等ないシンプルなものだ。小物はポーチに入れ、ベルトに留めるらしい。以前長めのTシャツでスカートを履いていないと言ったら叩かれた。

 詩央の方はレギンスの上からキュロットを履いている。後方支援らしく、上着にもポケットが沢山ついている。麦わら帽子と捕虫網を持たせたら、虫取り少女の出来上がりだ。俺はこの服装が気に入って、初めて見た時は大いに褒めた。

 

「おはよう、想夜さん。手続きは済ませたから早くいこう」

「想夜、昨日は何やってたの、連絡もよこさないで。綺麗な女の子の護衛をしてたんですって」

 

 俺が謝る間もなく、詩央がせかしてくる。朱美は朝から不機嫌だ。

 

「二人とも待たしてごめん、ストーカーの問題はとりあえず解決した。女の子は妹の知り合いだったし、黒田先生とも会った。それに事件の担当があの刑事さん達だったんだ。さすがに断りにくい」

 

 今回の事件は俺達の母校を舞台にしている。それに新口刑事と殻花刑事は俺達の恩人でもある。朱美は不承不承納得した。詩央のアイテムボックスに戦斧を預けつつ、簡単な概要を説明した。

 

 

 

 上層から、中層への最短距離、上層では最も危険なコースを、俺達は抜けている。本来は斥侯役の俺が先頭だろうが、今回は朱美が先頭だ。朱美が詩央のペースに合わせているのが分かる。詩央も決して無理せず、周囲を警戒している。彼女は『空間把握』という珍しいスキルを持っている。索敵や探査はもちろん、視認できないモンスターに炎弾を曲げて当てるという曲芸が出来る。知力がトリプルの計算能力と合わせてのものだろう。俺は上位個体のゴブリンが点在する中、休憩を申し出た。本来は上層と中層の境目の階段付近で取るのが一般的だ。そこは緩衝地帯になっている。

 

「想夜、もうへばったの、昨日無理をしたんじゃない? 緩衝地帯までもう少しだから頑張ろうよ」

「ひょっとしてスキルを試すつもり」

 

 詩央が察してくれたので俺は『結界』を張った。二人は『結界』の効果に驚いている。メイジやホブが前を通っても全く気付かない。こちらから大声や身振りで注意を引いても反応しない。俺は二人に条件などを説明した。夢に出た蛇妖精が教えてくれたので、何故か詳しく判る。

 

 結界内に入れるのは俺を含めて極僅か。視覚、聴覚、臭覚、魔力、熱源などでは探知されない。

 結界内から相手を観察できるが攻撃は出来ない。

 敵に視認されていると展開出来ない。

 範囲は最大で3m四方。就寝時等エコモードにすれば、魔力の消費は最小で済む。最大12時間持続可能。

 

「何これ、反則でしょう。ダンジョンでゆっくり眠れるなんて。危険が迫ればやり過ごせるし」

 

 朱美と詩央が二人で遠征する際、睡眠は別に取る。見張りが必要だからだ。一人6時間で2人合わせて12時間。一日の活動限界は12時間だ。俺が加わるだけで、これが18時間になる。更にピンチには隠れるだけでいいから、安全性も格段に上がる。

 

「想夜さん、これを他の人で使う事を許さない。攫われてしまう。薫子さんが伏せた理由が分かった」

 

 詩央が厳しくて怖い。

 実をいうと、俺はダンジョンに入った直後に何人かの女性に声を掛けられていた。徳島ダンジョンでハルバードを持ち歩く学生は俺だけだ。先の宝箱の件やパーティーの勧誘が目的だった。朱美と詩央は四国地区のティーンの強化メンバーに選ばれている。夏休みに首都で開催される全国大会に向けて、これから合宿等で不在がちになる。俺と一緒にダンジョンへ潜る時間は多く取れないのだ。勧誘はその当りを見越して、期間を限定してのものだった。せっかくの美女のお誘いだから、丁重に応対していたら二人に引っ張られた。

 

 二人が『結界』の雰囲気にも慣れたので、今後の確認をする。中層奥のオークの巣を目指すのが基本、特殊個体も多くここが一番効率よく狩れる。ただし、他の探索者のグループと競合するなら、2番目、3番目の案に変更。その中にはカエルの池も含まれる。詩央からいったん『結界』を解いてほしいと申し出がある。アイテムボックスから各自のメイン武装を取り出し、整えるつもりだ。その中には小さな金属製のポットがあった。

 

「想夜さん、給水をお願い」

 

 詩央の申し出を怪訝に思いながら、ポットを『給水』で満たす。詩央が器用に炎弾で熱する。俺はその意を理解して、再び『結界』を展開した。

 安物のインスタントコーヒーとスティックシュガーとフレッシュミルク、紙コップにお湯を注ぎ、一本の匙でかき回す。椅子もテーブルもない殺風景なダンジョンの岩室。

 

「美味しい!」

 

 朱美が感嘆の声を上げる。命の心配がない、ダンジョンでは最大の贅沢。今、これを味わっているのは俺達だけだろう。

 

 さあ、ダンジョンデートの始まりだ。

 

 

 

 緩衝地帯には何組かのパーティーが野営していた。全員中級者以上と思われ、隙が無い。俺の初心者装備を見て怪訝に思うも、戦斧を見て納得している。ハルバードは俺のトレードマークになってしまったらしい。その中の一人、リーダー格の女性が近づいてきた。朱美と同じくごつい大剣を持っている。朱美が会釈するのを見るに知り合いらしい。

 

「朱美ちゃん、今日は彼の研修かな。オークの巣なら止めといた方がいいよ。合同パーティーが、泊まり込みで経験値稼ぎとスキル漁りをやってるよ。スキルはどうせアレ狙いだろうけど」

 

 他のグループの狩場に割り込むのはマナー違反だが、長期間占領するのもマナー違反だ。今回の合同パーティーは他県からの遠征組も多く、三泊はしているらしい。俺達が行って、邪魔にならないよう狩る分には文句は言われないだろうが、『運命操作』を人前で使う分けにはいかない。

 教えてくれた彼女は大海さんといい、同じ大剣使いの先輩として、朱美は何度か指導を受けた事があると言う。彼女のアドバイスがなければ、俺達はオークの巣まで行ってすごすご引き返す所だったのだ。代案としていたカエル池へ向かう事を伝えると、昨晩、薬壺を入手して帰還中のパーティーとすれ違った時に得た情報をくれた。パーティーは半日で二つ手に入れたので無理をせず引き上げたとの事、その時点で他パーティーはいなかったらしい。俺達は謝意を伝えてカエル池へ向かった。

 

 

 

 カエル池はいくつもの地下空間が複数の通路で連なった、中層最奥に近い一区画の通称である。正式名称は徳島ダンジョン中層Q-11からQ-68地区とされる。ここはカエル系モンスターが棲みついているが、通称の通り、地下空間には大小様々の池や沼が点在している。ここのカエル系モンスターは、強さはそれほどでもないが、外傷や火傷に特効のある薬壺を落とす、その確率1%。

 

「廻れ、運命操作!」

 

 ここで俺は『運命操作』を発動させた。もちろん狙いは、アイテムではなくスキルの方だ。

 俺は二人の指導の下、岩陰に潜むカエル達を狩って肩慣らしとする。エクストラボスだった蝦蟇がえるとは違い、戦斧の一閃で腹が裂ける。大きさも、一回り小さく3~4mだ。モンスターの強さの割にここが難所とされているのは、こいつらが水中からの不意打ちをしてくることにある。いくら選抜者でも水中の戦闘は分が悪い。現にここでは年に1、2名死者や行方不明者が出ている。初心者は水辺に近づくな、が鉄則とされる。

 

「想夜、本当に大丈夫なの」

 

 朱美が心配そうにしている。

 

「予定通り頼むよ。詩央は後方で警戒、朱美は遊撃、楽勝だよ」

 

 カエル相手だと何故か強気になる。俺はあえて初心者が水辺に近づくという、なめくさった態度を取った。そんな俺に天誅を下すべく、水中よりモンスターの舌が伸びて鞭のように襲ってくる。戦斧で叩き切るや、殿様ガエルが俺めがけて飛び出してきた。蝦蟇がえるとの死闘を繰り広げた俺にはその巨体も軽く見える。フライングボディプレスならぬフライングボディアタックだ。俺はこの技をよく知ってる。戦斧の一振りで喉元を掻き切る。残心を残すと殿様ガエルは消えた。こいつは蹴り技も得意なので、警戒していたのだ。

 ここまでは予定調和だ。水辺に潜むモンスターも、俺にはその存在が丸わかりだ。『魔力視』の前では不意打ちは通用しない。それにフライングボディアタックは「新人ちゃん」の得意技だ。俺は何百回も見ている。殿様ガエルのそれは全然なっていなかった。見切る事は造作もない。

 次の獲物を探す。まだ水辺まで距離があるのに水面が揺れた。人の気配に敏感でこの距離から攻撃が届く、もうアイツしかいない、俺は踏み込んで巨大な影の腹を裂いた。牛ガエルは近づくとすぐ用水路に飛び込む上に、大ジャンプが得意だった。捕まえるのに難儀した覚えがある。朱美と詩央は先程からの俺の手際の良さに驚いている。こうして俺達は2時間足らずで20匹以上仕留めた。もちろん陸地にいた奴や二人が掩護で倒した分も含む。二人によると、かなりの効率らしい。

 

『結界』を張った小休憩で雑談を交わす。その前に『洗浄』で三人の汚れや臭いを落としている。

 

「想夜は便利よね。結界に洗浄に給水、遠征の悩みを解決しちゃう。これに詩央姉のアイテムボックスがあれば、深層までは行けると思うんだけど。私もアイテムボックス欲しいな。想夜はどんなスキルが欲しいの」

 

「僕もやっぱりアイテムボックスかな。ハルバードを持ってるだけで身バレするみたし。攻撃魔法も捨てがたいんだけど」

「アイテムボックスは取りやすいスキルだから、心配しなくていい。それより想夜さんはとても楽しそう。何かあったの」

 

 俺は気分が高揚していた。二人と出会う前の父の実家、ここで俺はカエル獲りに夢中になった時期があった。今日は出会ってないが、アカガエルの造形が好きだった。カエルを相手にしていると、無心だった子供の頃が父の顔と共に思い出される。俺は如何にしてカエルを獲ったか、子供の頃の武勇伝を語って聞かせた。二人は、特に詩央は嫌な顔をしたが、諦めて言った。

 

「想夜さんが楽しいならそれでいい」

 

 

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