※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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学級委員

 今日から副委員長としての活動が学校生活に加わる。と言っても中学の時にも経験があるので、活動自体はさほど戸惑う事はない。小梨利先生と委員長の垂水沢雫子と話し合い、午前中は俺が、午後からは委員長が中心に仕切る事にした。俺が実習や専門授業で午後から別行動になる日が多いからだ。学級委員の仕事で本当に大変なのは午後の方なので、俺は可能な限りの手助けを約束している。俺の仕事は朝のホームルームの進行ぐらいだからだ。

 

「学級委員の仕事の願いしたんだけど、大丈夫だったの」

 

 側の女子が申し訳なさそうに聞いてくる。

 

「平気、平気。受けたからには全力で頑張る。協力のほう宜しくね」

「それより御上、聞いたぞ。お前ストーカー捕まえたんだってな」

「警察に連行されたそうじゃあないか。牢屋とか入ってないよな?」

 

 佐藤と田中が冷やかしてくる。

 

「瀬理菜ちゃん、護衛対象の女の子なんだけど、ストーカーの前で腕を組んだり、肩を引き寄せたりして、見せつけてやったんだ。そしたらストーカーのおじさん達が切れてしまった。僕を彼氏と勘違いしたみたいで。こらえ性がないよね。僕はずっと護衛したかったのに」

 

 男子からは羨ましいとか、俺が護衛したかったとの声が上がって来る。女子からはセクハラとか護衛してとかの声が上がった。

 

「牢屋には入らなかったけど、牢屋の前まで行ったよ、捜査協力というヤツ。それからちゃんとかつ丼も食べてきた」

 

 隣の理生院は無視を決め込んでいる。

 

「警察の人が言うには、洗脳系のスキル保持者の人が関わっているらしいよ、理生院の言った通りだった。他にもストーカー被害に会った子がいたんだけど、みんな凄い美少女なんだ。スキル保持者と間違われたらしい。僕の推理では真犯人は四国一の美少女だ。絶対に会って顔が見たい」

 

 捕まえないで会うのかよとか、御上君が洗脳されちゃう、とか仮想犯人の話題で盛り上がる。自分好みの美少女が犯人像と重なるみたいだ。男子たちは己の性癖の晒し合いを始める。

 

「胸が大きくて可愛い美少女が犯人だ」

「馬鹿、胸の大きな美少女はいない」

 

 君たちはえり好みする立場にあるのかな。委員長と理生院の蔑む視線が痛い。

 

「御上探偵はどんなタイプの美少女が犯人だと思う」

「金髪翠眼でメイド服の似合う清楚な娘だと嬉しい」

 

 俺の推す美少女は、初めて読んだ「みよう本」の登場人物だ。俺が「みよう本」にはまる切っ掛けになった初恋の少女でもある。残念ながらこのような理想の女の子は、現実世界にはいないのだ。

 

「御上君が洗脳されたら、最低最悪のストーカーの出来上がりね」

 

 理性院がポツリと言う。俺は笑顔で返した。

 

「みんなそろそろ席に戻ろうよ、午後の授業が始まるよ」

 

 

 

 俺と委員長の垂水沢雫子は自治会の総会に呼び出された。正副委員長は自治会に加入が義務づけられている。自治会は生徒会の管轄下にある。生徒会が学校行事の運営に携わるのに対し、自治会は校内の治安維持とダンジョン災害の対処に関わる。なお、選抜者の大半は自治会に加入させられる。

 先日の騒ぎのように選抜者が問題を起こした時、鎮圧するには荒事に向いた、他の選抜者複数が必要になるからだ。教員の選抜者にはそういった人間は少なく、該当する数少ない教員もダンジョン実習などでは不在の事が多い。

 ダンジョン災害の時は、選抜者のアタッカーが攻撃役で、他のメンバーが避難誘導、救護に当たる。爺さんが言うには、50数年前のダンジョンクリエーションまでは洪水や地震、噴火など、天災で死ぬ人が多かった。今では天災は殆ど発生しない。その代わりダンジョン災害で多くの死傷者が毎年出ている。不謹慎だが、クリエーション前と後では毎年の死者の比率は変わらないらしい。ダンジョン産のアイテムのおかげで、病気や怪我で死ぬ人が減り災害での死者の増加と、天秤が釣り合っている。これに関しては、俺は50年前の方が嫌だ。人知を超えた天災で理不尽に死ぬ、峻厳な自然の摂理を思わせる。ダンジョン災害の方が人の抗う余地あるように思う。

 

 総会は体育館で行われた。参加者は各クラスの正副委員と部活の責任者、生徒会役員と若干の有志、それに選抜者の大半だ。体育座りで集まっているのは、総勢で180名程、俺と委員長は一番後ろで、肩身が狭そうに身を寄せ合っている。入学早々級友が問題を起こしたからだ。因みに理生院や朱美や詩央は自治会メンバーに選ばれていない。理生院たち奨学生組は緊急時には行政や警察、自衛隊に嘱託として駆り出される。学校の枠に収めるわけにはいかない。朱美や詩央たちのように、地区の強化メンバーに選ばれた選抜者は、合宿や遠征などで登校の機会がこれから格段に減る。国の代表候補まで行くと、月に数日らしい。寂しいが二人の為にそれを願うしかない。

 自治会長のありがたい挨拶が始まる。責任者は剣風姫の神瞑弥生だ。風紀委員長が代表を兼ねるのが伝統らしい。さっそく柳内と涸川の件がやり玉に挙げられて、新一年の風紀の乱れが指摘される。風紀委員長がこちらを睨んでいる。垂水沢が怯えて俺に体を寄せてくる。俺が庇うように身を少し乗り出して肘を曲げると、巨乳をつつく格好になるのだ。うちの委員長はクラスの不祥事で睨まれていると思っているが、イチャイチャしているのが不快なのだろう。そこは教えないでいい思いをするのだ。後で剣風姫からお説教をされても構わない。

 

「今日はこれだけの人数が集まったが、いざ有事の際、動ける人間はこの半分もいない、心するように」

 

 確かに実習や研修などで、選抜者は学校を出る事が多い。うちの委員長も俺がダンジョンで実習している間に何かあれば、一人で事に当たらないといけない。委員長が緊張している。

 

 総会が終り前列から退出していくので、俺たちは当然最後になった。ここで執行部に呼び止められる。さあお説教と思ったが違っていた。

 

「垂水沢、御上がいなければ有事の際は選抜者不在となりかねない、その時は遠慮せずに執行部に連絡しろ。こちらから人を回す。御上がいるなら、全部こいつに押し付けろ。こいつは何でもできる」

 

 風紀委員長に元気づけられるうちの委員長だが、こちらには恐ろしい事を言われた。俺に何でも丸投げする気か。さっきのイチャイチヤの罰だろうか。俺は風紀委員長の思惑通り、自治会に入る事になった。

 

「御上君、昨日はお疲れさま。救難活動三人で頑張ったんですって。御上君達が居なかったらもっと被害が増えたそうね。生徒会長として鼻が高いわ。でもお姉さんとしては、あまり危ない事して欲しくないかな」

 

 自治会顧問で生徒会長の夕垣摘華がほわほわと言う。彼女も校内三強の一角とされる。色気漂う魔女のお姉さんだ。

 

「救難活動って、昨日のダンジョンの事故の事? 朱美さん達と研修に行くって言っていた」

 

 昨日の死者11名を出した遭難事故はそこそこのニュースになった。俺が見なかった3名はオークに連れ去られたのだろう。

 委員長は優しくてクラスでは明るく振舞っている想夜が、死と隣り合わせにいる事に思わずたじろぐ。

 

「そうだ、こいつは中級免許保持者が3人掛かりで手も足も出なかった特殊個体を一撃だそうだ」

 

 門下生の一人が救難活動に加わっていたという。風剣姫は俺たちの活動を正確に把握している。

 

「実は二人を呼び止めた理由は別にあったの。涸川君の事は覚えているかしら」

 

 生徒会長が真顔になる。彼の名前を聞いて、うちの委員長に緊張が走った。

 

「彼はあれから更生施設に預けられたわ。そこには事故で視力を失った選抜者の職員がいてね。その人は、御上君と同じように魔力で人を見分ける事ができる、スキルではなく修練でね。涸川君を見て、おかしな魔力がついていると言って、気合で吹き飛ばしたらしいの。君がストーカーにやったように」

 

 その後涸川は施設を逐電してしまったが、女性に貢いでいたと話していたという。

 

「御上くんが関わったストーカー事件と似ていると思うのだけど」

 

 もし涸川の異変がストーカー事件の黒幕によるものなら、今後も学園の生徒が被害者にも加害者にもなるかもしれない。同様のケースが発生すれば、俺の『魔力視』に頼りたいと言われた。協力は構わない。しかし俺は驚いた。何で高校生が先日の刑事さんとのやり取りを知っているのだろう。疑問を口にすると、

 

「その辺りは垂水沢さんが詳しいわよ」

 

 

 

 教室まで戻ってくると、先程の疑問を委員長にぶつけてみた。

 

「生徒会長は市長の娘さんなのよ」

 

 俺の疑問に委員長はあっさり答えた。俺が世間知らずだっただけだ。選抜者が事件に関わっている可能性が高い以上、自治会の協力が不可欠になる。身内とはいえ非公式に打診するのは筋が通っている。そう言えば、委員長も地元の名士の家系だった。ご令嬢なのだ。

「みよう本」ではご令嬢と言えば、悪役令嬢か追放令嬢の二択である。委員長には悪役令嬢のバイタリティはない。委員長には追放令嬢が似合う。善良で温和な人柄に付け込まれて陥れられても、相手を恨まず健気に生きる少女なのだ。その尊い姿を見初めた複数の男性に助けられて、前以上の幸福を手にする。追放令嬢は自分からは行動を起こさない。周りの男性に一方的に助けられる。追放令嬢は押しなべて性格美人である。

 昨今の追放令嬢は、いけない事をして親に勘当されるお嬢様を指す。委員長に秘め事を教えたい誘惑にかられる。悲嘆する委員長の姿を見たいし、喪失したハートを救ってみたい。そして感謝されて、彼女から献身的な奉仕を受けるのだ。

 

「御上君はいつも危ない事しているの、お昼休みも警察に協力したお話をしていたし。わたしなんか、怖くて無理。勇気のある人が羨ましいわ」

「僕は垂水沢こそ勇気のある人だと思っている。この前だって立派だったよ。本当の勇気がないといざという時には立ち向かえない。その人の価値は命を賭した時にこそあると思う」

 

 俺は殉職した親父の事や、昨日の救難者を想い、しみじみと語った。その言葉は自分に言い聞かせるものでもあった。

 

「お爺様と同じような事言うのね」

 

 柳内に立ち向かった件は家族から軽率だと責められたらしい。もちろん本人を心配しての事だが。その中で家長の祖父は委員長の取った行動は過ちであるとした上で、人の心の有り様は、焦眉の際に現れる。お前の心根を見てくれる者がいたら、大切するよう言われたという。

 

「ありがとう、垂水沢の大切な人であるよう努力するよ」

「雫子でいいわよ。典子さんじゃないけど、垂水沢は呼びにくいでしょ」

 

 はにかみながら雫子が言う。顔が赤い。ちなみに理生院を典子と呼んでいいのは女子だけだ。俺たち男子が典子と呼んでも返事が返ってこない。

 

「雫子さん……他人行儀だから雫子でいいかな。僕の事も想夜と呼んでよ」

「そうや、想夜君、想夜さん……弟が出来たみたいで嬉しいかな。知ってる? わたしの誕生日4月2日なんだ」

 

 これは驚いた。俺の誕生日は4月1日だ。雫子は364日歳が離れていた。俺が一日遅く生まれるか、彼女が一日早く生まれたら、俺たちは上級生と下級生だったのだ。

 

「僕たちが出会って、同じクラスにいるのは運命の奇跡だね、神様に感謝だ。宜しく、お姉さん委員長、それとも雫子お姉さま?」

「もう、想夜君は世話の焼ける弟君かな」

 

 放課後の教室、俺たち以外は誰もいない。二人は机と椅子を寄せ合って、委員長のモニターを見ている。雫子は手際よく俺の予定を打ち込んで、行事予定と調整してくれる。雫子は俺のスケジュールが管理出来てご満悦だ。二人でモニターを覗き込むと、身を寄せ合っている姉弟のようだ。ありがとうお姉さんとからかうと、雫子は片肘で俺の腕をツンツンする。彼女からリアクションを起こすのは珍しい。こうして俺たちは親密になっていった。

 

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