※この作品はR-18です。

ダンジョン姫はじめ   作:エターナル好希也

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街角ダンジョン2 異変

 土曜日の朝の遅い時間、市街地から郊外行の電車は比較的空いている。過去国内で唯一電車の走っていない県と馬鹿にされたらしいが、A級の徳島ダンジョンのおかげで、今ではジョークのネタとなった。俺と愛望は車両の一番隅に座り、眉山の裏側へ向かっている。

 今日の愛望は短めのスカートで、座席では俺にピッタリくっついている。少し可愛いらしい服装は俺に合わせてくれたのだろう。大学の用事を済ませて俺と合流した。あの日からお姉さんは俺の女になり、愛望となった。これから愛望のお爺さんに挨拶に行く。お爺さんはなんと最初期の選抜者で、クリエーション後の激動の時代を生き抜いた人だった。相談というのは彼女の家の近所にあるE級ダンジョン、通称街角ダンジョンについてだ。  

 そして彼女の祖父が選抜者になった経緯が特殊で、彼はダンジョンを発見して選抜者になった。ダンジョンに選ばれるか、試練を超えるかで選抜者になるのが通例であるが、例外的にダンジョンを発見して、そこに踏み入れても選抜者になれる。この場合、初期スキルは4~6,選抜者が発見した場合はその半分だ。発見者がダンジョンに入って、初めてダンジョンは解放される。その権利は発見者が死なない限り移動しないので、過去には不幸な事件も起こっている。

 近所の氏神神社にE級ダンジョンが出来たのが、50数年前、お爺さんが参拝中に発見した。ここは氏子が100戸に満たない小さな神社で、その経緯から、彼がダンジョンを管理しているという。それまでの地域貢献もあって、お爺さんが氏子の総代を務めている。E級でも最底辺とされるここのダンジョンは、「ダンジョン様」として奉られている。過去には魔素が漏れて、地表にスライムが発生する事もあったが、「ヒルコ様」として送る事が祭事として定着した。クリエーション以後、この地域で大きな魔物災害が起こった事がなく 自然発生的にそうなったという。俺はこのダンジョンの調査を依頼された。

 

 日本には大小700以上のダンジョンがあり、毎年数個ずつ増え続けている。これらはダンジョン協会の統括下にある。ただし全てのダンジョンが経済的に見合うわけではない。ダンジョン協会が直営で管理して元が取れるのは、A級とB級まで、C級で損益分岐点とされる。ちなみに協会の直営はA級の全てとB級の大部分、C級の過半数数となり、残りは大企業に委託されている。C級までの総数は約200だ。

 残りの500以上はD級とE級とされる。この不採算の小規模ダンジョンは、その土地の所有者、お店だったり、個人だったり、神社仏閣だったり、町内会で管理されている。獲れる魔石も非課税にしても月に数万、探索者は寄り付かないし、職員を置く経費も出ない。発見者がその土地の関係者であれば彼らが直接、そうでなければ協会の助成を受けて、引退した探索者が半分ボランティアで間引いているのが現状だ。俺たちが協会に収める運営費の一部も、こうした経費に使われている。これら個人や町内会で管理されている小ダンジョンは、街角ダンジョンと呼ばれている。

 

 個人所有のダンジョンなんて憧れていた。『みよう本』にある、自宅の車庫や冷蔵庫にダンジョンが出来て、特殊なスキルやアイテムを獲る話が俺は大好きだった。場合によって主人公はダンジョンマスターとなり、異世界の叡智を手にするのだ。ところが現実は厳しい。最初のスキル以外に特典は一切ない。自宅にダンジョンが出来ると、月に一度はスタンピード防止の為、ダンジョンで魔物を狩らないといけない。怠った場合は管理責任を負わされる。その収支は援助を受けても良くてトントン、面倒な職員の視察もあるので、これら街角ダンジョンは通常はやっかいものとされている。要は自宅の不採算ダンジョンに潜るより、直営の大規模ダンジョンに潜る方が、金銭的にもスキルや経験値的にも、圧倒的に費用対効果は高い。

 

 ではスキルや魔石、アイテムだけを得て国に届けないとどうなるか。それらは未登録ダンジョンと呼ばれ、犯罪の温床となったり、スタンピードを誘引したりする。損益分岐点とされるC級でも、税金や手数料を払わなければ相当な利益が見込まれる。もちろん公式ルートでは売買できないので、裏社会による密輸となる。そして管理しきれなくなって逃亡、スタンピードまでがワンセットだ。俺の親父もこれで殉職した。

 

 

 

 電車とバスを乗り継いで、小一時間ほど過ぎた。民家が点在する低い丘陵地帯を、俺は愛望と手を繋いで歩いていた。木々の間から古びた鳥居が見える。

 

「愛望とここで暮らすって、神様に報告しに来たみたいだ」

「もう想夜君、揶揄わないでよ。お爺ちゃんが氏神様の所で待ってるわよ」

 

 愛望が照れているが満更でもなさそうだ。ここの神社はまろうど神を縁起とするもので、この神様が民を苦しめた悪霊を払い、いずこへもなく去っていったとの言い伝えが残っている。夜伽をした村長の娘の子孫が氏子となって代々祭ってきたという。権力者の娘を差し出されるとか、この神様はいい思いをしたのだろう。俺もうら若い乙女に夜伽をしてもらいたい。

 場末の神社の割には、参道はよく維持されていた。雑草も少なく、道路脇の樹木も良く刈り込まれている。氏子の規模からいえば、ここまでの管理は大変だろう。愛望の話からはこの神社の維持管理が、住人の生活の一部になっていることが窺えた。何も荘厳な祭礼を行ったり、教義に従って禁欲的な生活を送るだけが信仰ではない。愛望もふくめてここの人達は、神と共にある、それを自覚も無く実践している。神に寄り添う、これも一つの信仰の有り様と思う。神様はどれを喜ぶのか。

 

「よく来られた」

 

 参拝を済ませた後、俺は愛望の祖父、楠田幹之輔さんと挨拶を交わした。御年82歳、まだ壮健に見えるが片腕を吊っていた。横に女の子が介添えしている。俺より年下に見えるが、雰囲気からして愛望の妹だろう。そうすると、俺と同じ年になる。俺も小柄で童顔だが、彼女は更に輪をかけている。すごく親しみ安い。膝の上に乗せて頭を撫でてあげたいなど考えていると、お爺さんの後ろに隠れてしまった。

 

「無様を晒して情けないわい。ゴブリンごときに遅れを取った、衰えたものよ」

 

 こう言うお爺さんだが、この人は強い。スキルで強いのではなく、個体として強い。自身を凡庸な探索者と謙遜していたが、それだけで50年生き残れるはずもない。特にダンジョンが出現した最初の数年間は、手探りの状態から始めた為、死傷者が続出した。俺たちが比較的安全に探索できるのも、彼らが命懸けで集めたデータの蓄積のお蔭だ。

 

「先月、間引きをやっておったんじゃが、数年ぶりにゴブリンが出おった。こいつがやたら強くてのう、その上石弾まで撃ってきよった」

 

 腕の負傷はこの時の被弾によるものだという。お爺さんは迷わず撤退を選んだ。お爺さんは『身体強化』と『剣術』が共にダブルだそうだ。このお爺さんと互角に渡り合い、魔法まで使う。言葉通りなら希少種のゴブリンブレイブになる。しかしこれが出現するのは最低でもC級からだ。当然報告も取り合ってもらえない。お爺さんが耄碌したせいでゴブリンと互角になった、石弾は別のゴブリンの投石とされ、完全引退を勧められたという。

 俺でもそう思う。

 

「御上君だったか、君も信じてくれんか」

 お爺さんは歴戦の探索者だ。虚飾の言葉は失礼にあたる。

 

「信じていませんでした。僕がここに来たのは愛望さんの願いからです。だけど今は違いますよ。お爺さん強いですね。そんなお爺さんが不覚を取ったんです。ダンジョンに異常があると考えて調査します」

 

 遠慮しない俺に驚く楠田姉妹だったが、お爺さんは機嫌が良くなった。

 

「久しぶりに現役の頃に戻れた気分じゃ。武運を祈るぞ」

 

 

 

 街角ダンジョンというものに初めて潜ってみる。実はD級、E級ダンジョンは数だけは多くても、一般には公開されていない。探索者の応対に割く人員がいないからだ。そんな訳で俺は少し興味があった。お爺さんによると、このE級ダンジョンは上層のみで、通路は一本だけ、左右に二つずつ20mほどの空間があり、入り口と行き止まりには40m程の大広間になっている。モンスターはほぼスライムで、雑魚ゴブリンは年に数匹、ここ数年はそれさえ見なかったという。俺は階段を下りた先で顔をしかめた。

 玄関口にあたる大空間にスライムが散見される。通常入り口のエントランスは一種の緩衝地帯になっていて、モンスターは出現しない。ここに魔物が現れるのはスタンピードの前兆と言われる。報告は必要だろうが、その前に数を減らそう、予備の短槍でひたすら狩っていく。天井に張りついている奴は、俺が真下に立つと落ちて来てくれる。エントランスのスライムを狩りつくすと、『魔力視』と『透視』で罠や隠し部屋をくまなく探していく。こうして俺はエントランスと左右計4つの空間を処理していった。拾ったスライムの魔石は12個、スライムのドロップ率は10%だから100匹以上狩った計算になる。どの空間でも、罠や隠し部屋、それから宝箱も見つからなかった。なお宝箱とアイテムは50年間、一度も出た事がないという。スキルは50年でただ一つ、『剣術』だけだそうだ。さすがE級ダンジョン、どれだけ渋いんだ。

 

 

 

 行き止まりの大広間には魔力が充満していた。とてもE級ダンジョンとは思えない。最奥の岩陰からゴブリンが悠然と現れる。手には刀タイプの剣を持っている。魔力もメイジより多い。これがお爺さんの言っていたゴブリンブレイブだろう。小柄でスピードタイプの魔物は、俺の『戦斧術』では戦いにくい。しかしそれは向こうも同じだ。重量武器は細身の刃では受けるのが難しい。俺は迷うことなく、アイテムボックスよりハルバードを取り出した。

 ブレイブが『石弾』を打ち出すと同時に突進してくる。思い切りのいい奴だ。今の俺には『石弾』は容易に躱せる。奴は躱す瞬間を狙って、刀で足を払ってくる。俺は石突を突き立てて防ぐと、横に一閃して返した。だが奴は刹那の内に駆け抜けていた。今ので刃こぼれしないのか、俺はブレイブの刀の強度を上方修正した。戦斧で叩き折るのは難しいかもしれない。

 ブレイブの周りに魔力が再度集まる。『石弾』の前兆だ。今度はこちらから突進した。全力の『俊足』で迫る。それでも奴はハルバードの一撃を受けきった。だがそれだけだ。体勢を崩し、二撃、三撃と大きく後退していく。四撃目、頭上よりの振り下ろしを受けきれず、刀と一緒に戦斧が顔面にめり込んだ。歴史上の某反政府勢力が振るう必殺技は、敵の顔に十字の傷を残したという。ブレイブの額に残った十文字の傷を見ながら、俺は感慨にふけった。これが必殺技になったらいいな。

 ブレイブは刀とスキルを残して消えた。刀は戦斧と撃ち合っても刃こぼれ一つしていない。逸品であろう。そして俺の『戦斧術』がダブルになった。

 

 ブレイブが現れた奥の大岩の後ろには階段があった。降りると大空間が広がっており、三方へ通路が走っている。中央の通路だけやけに広い。右の通路は土人形、ゴーレムがいた。人間サイズの土ゴーレムと、それに交じって三メートル台の石ゴーレムだ。俺は戦斧で膝を砕き、『魔力視』で魔核を確認して倒したが、土ゴーレムはまだしも、剣士タイプには石ゴーレムは厳しいと思う。魔石確保のため、何体か倒す。『鑑定』で魔石を確認すると、落としたモンスターが分かる。調査では必須の作業だ。左の通路にはゾンビとスケルトン、とにかく臭い。魔石を確保して早々に退却した。後は協会に任せよう。

 

 中央の大通路を抜けて、俺は息を呑んだ。そこにはダンジョンの神秘が広がっていた。洞穴ではなく、草原と小高い丘と鬱蒼とした森林が目に入る。遠目には飛行タイプの魔物が浮かんでいる。本来は深層で稀に見られる異空間が、入り口から1キロ程の距離で存在している。向かってきたゴブリンライダーを狼もろとも刎ね飛ばし、魔石を確保する。これ以上の調査は個人の域を超えている。

 気配にふり返ると、幹之輔爺さんが呆けていた。帰還が遅れた俺を探しに来てくれたのだろう。俺は黙ってゴブリンブレイブの刀を渡した。爺さんは三角巾を外すと、ダイヤウルフを一刀の元に切り捨てた。さすがに『身体強化』と『剣術』が共にダブルなだけはある。爺さんもスキルを得た。スキルは『自己回復』だった。感慨深げに爺さんは言う。

 

「これが儂の50年の結果か」

 

 彼はこのダンジョンによって探索者になり、50年間ほぼ一人で管理してきた。誰も見向きもしない最底辺のダンジョンをだ。その成果が栄誉という形で報われた。

 本来はこの後、幹之輔爺さん達と食事してダンジョンを発見した時の話を聞く予定だった。だが今回は緊急事態だ。急遽報告書を作成する事になったが、爺さんもスマホが全く使えないという。俺たちは意気投合した。報告書は愛望の妹が代理でやっているらしい。で、この妹の楠田浄見、きよみちゃんだが、あがり症なのか、俺の説明にも頷くばかりで返事がない。姉の愛望が見かねて、

 

「きよみは子供に見えるのからかわれて、男の子が苦手なのよ。ごめんね、想夜君」

「僕もまだ中学生だって言われている。きよみちゃんとは会った時から親近感が湧いていたよ。子供同士仲良くしよう」

 

 冗談のつもりだったが、きよみちゃんは挙動不審になった。顔も赤い。スマホの入力もミスが目立ってきた。

 

「頑張ろう、きよみちゃんだけが頼りだ。僕のお爺ちゃんはスマホが人を堕落させると教えてくれた。僕は今も信じているんだ」

 

 自分よりお子様な俺の発言に安心したのか、うんと小さな声で返事してから、慣れた手つきで報告書を送信する。口元にも小さな笑みがあった。

 彼女は目隠れ女子だ。ボブカットの髪を払い、彼女の眼を、その心の秘密を、生まれたままの姿を覗きたい衝動にかられる。垢抜けない田舎娘をひん剥いて畳の部屋で手籠めにする。それともその眼に、姉の乱れた姿を焼きつけようか。障子の穴から覗き見る、俺に責められてあられもない姉の情事、初心な妹は衝撃に耐えられるのか。対象的な二人の姉妹をたなごころでいいように転がしたい、俺も贅沢になったかな。

 

 

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